映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「最後の一球」 島田荘司

2009年05月31日 | 本(ミステリ)
最後の一球 (講談社ノベルス)
島田 荘司
講談社

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あるビルの屋上で火災が発生します。
普段全く火の気のないところ。
屋上には小さな小屋があるだけで、事故当時、人もいなかった。
なので、もちろんそこに焼死体があったりもしません。
一体なぜ、こんなところで火災が発生したのか。
これがこの本で語られる表面上の唯一つの事件であり、謎です。


この本では、この事件が冒頭の方で語られた後、
1人の男性の半生が語られます。

竹谷は、貧しい家に育ちました。
唯一得意なのは野球で、プロ野球選手になるのが少年時代からの夢。
父は借金の連帯保証人として多大な債務を負い自殺。
苦しい生活をしながら、自分を育ててくれた母に何とか楽をさせてあげたい。
その一心で、人の何倍も練習を重ねてきた。
しかし、いくら努力しても報われないことというものは
往々にしてあるものです。
紆余曲折のすえ、
契約金もなしという待遇で何とかプロ野球に入団することはできたものの、
やはり、さしたる成績も上げられない。
ピッチャーです。
一軍にいられたのはほんの数日間。

一方彼と同じ年で、やはり野球人生を歩んでいる武智。
彼は高校野球ですでに花形選手。
ドラフト会議もマスコミの注目を浴び、
プロ入団後も、期待にそぐわず大活躍。

竹谷は、ノンプロの野球試合で一度彼と対戦しているのですが、
そのときの興奮が忘れられない。
彼から見ても武智はオーラをまとった天才打者で、憧れの的。
いつか、もういちど、対戦してみたいと思ったものの、
二人は同じ球団に入団するのです。

竹谷の二軍生活2年目。
彼は武智のバッティング投手となります。
これは投手としては屈辱的地位なのかも知れませんが、
竹谷はけっして腐らず、
武智のためになるのならと、いっそう努力を惜しまず、自分の役割を務める。
また、ここで二人は深い友情の絆を築いていくことになります。

なんとも、地道で実直。
今時こんな話があるのかと思うくらいの、
単に一介の野球投手の話なのですが、胸にズシンと応えます。
確かに、世のほとんどの人がこんなふうに、
頂上に立たないままに、人生を過ごしているのですよね。
でも、それは決して価値がないという意味ではない。

竹谷が野球に見切りをつけ、別の人生に踏み出そうとするとき、
最後の1球を投げる必要が生じます。
これまでの野球人生はこの一球のためにあったのだ、
そう思える、渾身の1球。
なるほど、ここまで長々と彼の半生を語ってきたのは、
この一瞬のためだったのかと、わかります。


島田作品としてはかなり地味な部類なのですが、感動作です。
島田氏も、「代表作の一つといいたいくらい、好きな作品」と語っています。
新本格ミステリの、血みどろ・バラバラ死体が苦手な方には、これはおススメ。
何しろ、殺人事件は起きませんので、ご安心を! 
野球好きの方も、ぜひ。

満足度★★★★☆

マンデラの名もなき看守

2009年05月30日 | 映画(ま行)
マンデラの強く正しい意志に惹かれて・・・

           * * * * * * * *

ネルソン・マンデラ。
南アフリカで、アパルト・ヘイト政策に抵抗し、
27年もの投獄生活の後、南アフリカ初の黒人大統領となった人物です。

この作品は、このネルソン・マンデラの獄中生活の多くの時期を
看守として務めたグレゴリーの物語。
実話を元にしています。
彼は少年時代、仲の良い黒人の子がいました。
肌の色など関係なく、友情や信頼が築けることを身を持って知っていた。
そういうところが、彼の根底にあるのです。

世間の白人たちは、武力闘争に走る黒人たちを「テロリスト」と呼びます。
そして憎しみ、蔑もうとする。
同じ人間とは決して認めようとしない。
グレゴリーも、始めのうちはそんな風だったのですが、
マンデラの崇高な思想に触れるうちに次第に、感化されていくのです。
マンデラに対して次第に敬意を抱いてゆく。

そんな態度が次第に周りの人たちに伝わり、
彼とその家族は「黒人びいき」として、仲間はずれにされたりします。
アパルト・ヘイト。
悪名高いこの政策を,私は外から見ていたときに、
一体そこの国の白人たちってどんな人たちなのかと思っていました。
あんなに世界中からの非難を浴びながらも、
どうして彼らはそれをやめないのだろう、と。
この映画を見て、少し見えてきたのは、
彼が抱いていたのは「恐怖心」なのだろうということです。
何しろ、白人はずっと、黒人を食い物にしてきた。
いまさら、彼らに自由や権利をあたえたら、
今度は自分たちの身が危ない。
自由を与えられたその日に、彼らは襲い掛かってくる。
・・・そんな白人の恐怖心が、
黒人をさまざまな規制でがんじがらめにしていたのかもしれません。

それにしても、マンデラの27年間もの獄中生活。
世界中からの批判をおそれ、そうひどい待遇ではなかったようですが、
自由を奪われることは、何にも増してつらく、屈辱的です。
そんな中でも、周りの人々に影響を与えるこの方は、
本当に、根底に何かの強いオーラをもっていたのでしょうね。
グレゴリーを支える家族のありようもまた、心に残ります。

時にはじっくりと、こういう作品に触れるのも良いものです。

2007年/フランス・ドイツ・ベルギー・イタリア・南アフリカ/117分

監督:ビレ・アウグスト
出演:ジョセフ・ファインズ、デニス・ヘイスバード、ダイアン・クルーガー

マンデラの名もなき看守



「桜ハウス」 藤堂志津子

2009年05月29日 | 本(その他)
桜ハウス (集英社文庫)
藤堂 志津子
集英社

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年齢も趣味も育ちも違う女4人が一つ屋根の下に暮らす。
他人ゆえの居心地のよさ、わだかまりのなさ。
一緒に住むなら、夫よりも女友達!?

この文庫の帯のキャッチコピーに、思わずうなづき、
すぐに買ってしまいました。
私、本気で、こういうのいいなあ・・・と、以前から思っていたのです。
ただし、それはもう少し年をとってから。
始めから独身良し。
夫と別れた人良し。
夫に先立たれた人良し。
もう仕事もリタイアして、日々、のんびり過ごせるようになった時、
こんな風に、気の置けない仲間の共同生活は、いいのではないかと・・・。
ただし、個室が必ずあることは最低必要条件です。


このストーリーは、私の理想とは少し違って、
みなさん、仕事も現役。
年齢も、結構まちまちです。
もともとは蝶子が叔母から譲り受けた家なのですが、
2階の部屋をシェアして、多少の家賃収入を得ようと・・・。
そこで、同居人を募集して始めに住んだ3人が、
遠望子31歳。綾音26歳。真咲21歳。蝶子は36歳。
・・・と程よくいろいろな世代が。

この話は、その10年後からスタートします。
しばらく一緒に住んでいたけれども、
今はそこを出ている遠望子・真咲が久し振りにやってきて旧交を暖める。
この4人は性格が本当にそれぞれ違うのです。

蝶子46歳は公務員。
しっかりものタイプ。
もう恋愛にはあまり興味が持てず、ひたすら、食べることに興味がある!

遠望子41歳は、4人の中では一番地味で、
まじめというよりは融通が利かないタイプ。
しかし、最も浮ついた話がなさそうな彼女が、
なんと、未婚で子どもを産んでいた!!

問題児、綾音36歳。
彼女はとにかく美人。
黙っていても周りの男性が放っておかない。
そして、彼女はすぐメロメロになり恋愛にのめりこんでいき、
あっという間に婚約。
しかし、そのさなかに、また別の男性に心引かれ・・・。
どろどろの三角関係にもつれ込んでいく。
そのパターンの繰り返し・・・。
こんな女性は同姓から見ると敵のようにも思えるのですが、
彼女の性格がまた、あっけらかんとこれらの悩みを口にするなど
憎めないところが多々。
全く別のタイプの蝶子とはなぜか気があって、
ずっと同居が続いています。

真咲31歳。
初めて桜ハウスにきたときはまだ学生でした。
前向きですっきりさわやかタイプ。
その後一度結婚したものうまくいかず、バツイチに。
そんな彼女が、母親の介護をすることになり・・・。

様々な年齢の女性を配置したことにより、
女性の持ついろいろな局面が描かれていて、
なかなか身につまされるストーリーとなっています。

家族でない間柄の同居というのは、
時には本音を語り、時にはいたわりあう、
そこそこお互いに遠慮もあり、
つかず離れずの距離感が良いのではないかと思います。
特に、女性なら、家事をすることをいとわず、
それぞれの生活が自立していて依存にもならないというところが
また、いいと思うのです。
ハウスシェアはこれからの社会、お勧めです! 
あとは、ネコでもいれば言うことなし!

この話にはすでに続編が出ているそうで、
ぜひ続きも読みたいと思います。
ところで、これって、
あと20年もしたら立派に『桜館の4人の魔女』
なーんて、呼ばれるのではないでしょうか・・・?

満足度★★★★☆

荒野の用心棒

2009年05月28日 | クリント・イーストウッド
荒野の用心棒 完全版 スペシャル・エディション [DVD]

ジェネオン エンタテインメント

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1人で敵陣へ乗り込むとき

         * * * * * * * *

さて、これからぼちぼちクリント・イーストウッドを見ていこうと思うのです。
オードリー・ヘップバーンは作品の年代など気にせず、
順番が支離滅裂でしたが、今度は地道に公開順で行きたいと思います。
まあ、すべてを見ようとは思いませんが・・・。
(見たくてもそろわないでしょうけれど)

それで、今回は栄えある、彼の映画初主演作品。
彼の大スターへのきっかけとなったエポックメイキング的作品。
黒沢明監督の「用心棒」のパクリの作品としても有名です。

クリント・イーストウッドは、それ以前にはTVドラマのローハイドに出演していたんですね。
私、ごく幼い頃にテレビで見た記憶はあって、
そのテーマソングだけはとても良く覚えています。
しかし、そこにクリント・イーストウッドが出ていたなんてことは、
当時知るはずもありません・・・。
映像、ありましたねえ・・・。
クリント・イーストウッド、わかりますね。

RAWHIDE OP



さて、「荒野の用心棒」です。
この作品は多分、私が中学生くらいの時に、
日曜洋画劇場で見たのだと思います。
あの淀川長治氏解説の。
それで、今回見て、思い出したことがあります。

拍車のついたウエスタンブーツを履いた男。
その足元を後ろ側からクローズアップして、
またの間から、向こう側の風景が見える。
そんな一シーンがあるのです。
そのシーンを、教科書の隅っこに漫画で落書きして、友達に見せて大うけ。
授業中なのに・・・。
笑いをこらえるのに必死。
(こんなことをしていたのでは、成績も押して知るべしですな。)

始めから、話が逸れすぎです。
まず、オープニングタイトルで、あの名曲が流れます。
もう、そこですっかりマカロニウエスタン気分。
1872年。ニューメキシコ。
風来坊のガンマン、ジョーが寂れた田舎町にやってくる。
その町は、ロホ一家とモラレス一家という
二つのならず者一族の抗争が続いており、
巻き込まれた村人の男たちはほとんど死に絶え、
生気のない、恐怖の町と化している。
ジョーはこの両派を更に反目させ、自滅させようと画策するのですが・・・。
ジョーが単に早撃ちが得意なだけでなく、
頭脳の冴を見せるところがなかなかよいのです。
こういう世界で生き残るには、頭が良くなければ・・・。
ヒゲ面、葉巻、ポンチョ。
っか~~~~。カッコイイ
男ですよねえ。

この町の棺桶屋のおじいさんもいい味なんです。
この町にいれば食いっぱぐれは絶対にない、というのもいいですね。
ちゃっかりしていて、でも、ジョーの味方。
ジョーが窮地を脱するのにひと肌脱ぎます。

酒場のマスターもまた忘れられない。
実直で、勇気ある人です。
どこにでも悪党はいるけれど、人情に厚い真っ当な人もいるもんですよね。

ラストでは、ジョーが単身、大勢の敵と対峙します。
このシーン。
先日見た「グラン・トリノ」の最後のシーンを思い起こします。
数十年を経て、クリント・イーストウッドが同様のシーンでたどり着いた結末。
ちょっと、感慨深いものがありますね。

だから映画はおもしろい!

1964年/イタリア/97分
監督:セルジオ・レオーネ
出演:クリント・イーストウッド、マリアンネ・コッホ、ジョン・ウェルズ、ヨゼフ・エッガー

名曲のオープニングをどうぞ
A Fistful of Dollars - Intro (Opening Theme)






栗本薫さん追悼

2009年05月27日 | インターバル

ノスフェラスの砂漠に置き去りにされたような・・・            

              * * * * * * * *

本日、日中に、栗本薫さんの訃報を聞き、
しばし、呆然としてしまいました。

ガンで闘病中、
ということは彼女自身が「グイン・サーガ」のあとがきなどでも明かし、
「ガン病棟のピーターラビット」という著書もあったくらいなので、
いつかこのような日が来るかもしれないとは思っていましたが・・・。

でも、ここのところは小康状態のようにも書かれていたので、
まだしばらく頑張っていただけそうだと思っていた矢先でしたのに・・・・。

私にとっては、中島梓さん、ではなく栗本薫さんでした。
今のこの心境をなんと言えばいいのでしょう。
たとえてみれば、まるでノスフェラスの砂漠の中に取り残されたような。

栗本さんの導きがなければ、
地下の迷宮から抜け出すことも、
魔道士の幻術からさめることもできない、
そんな心許なさを感じます。

栗本さんは、グインも、イシュトも、リンダもみんな引き連れて
天へ登っていってしまった。

ただ、天国の門で、ナリスさまが麗しい立ち姿で、
皮肉な笑顔を浮かべて皆を出迎えているかもしれない・・・。
そんな想像をすると、少しは心も休まる気がします。

それにしても、グイン・サーガ正編126巻。外伝21巻。
思いもつかないストーリーの展開に、どれだけ驚かされたことでしょう。

ノスフェラス、パロ、ケイロニア・・・、
我が家にいながら、どれだけ心がこれらの空の下に遊んだことか。

おそらくあと数巻は、原稿のストックがあるものと思われますが、
それにしても、未完には違いありません。
それを嘆くのはエゴというもの・・・。
ここまで、楽しませてくれた彼女に感謝しなければなりませんね。

最後の原稿を読むまでは、さよならはしたくありませんが・・・。
そのときが来るのが怖いです。

安らかにお眠りください・・・。合掌。


おしゃれ泥棒

2009年05月26日 | オードリー・ヘップバーン
おしゃれ泥棒 [DVD]

20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン

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トム・クルーズも真っ青

          * * * * * * * *

この作品は、オードリーらしい、おしゃれなコメディです。

シャルル・ボネは裕福な名家の当主で、美術愛好家。
・・・しかし、実は贋作の天才。
隠し部屋でひそかに贋作を描き上げては悦に入っている。
時々はその贋作を競売にかけたりもして・・・。
一人娘のニコル(オードリー・ヘップバーン)は、
こんな父が心配で仕方がない。
ある日、美術館に贋作のビーナス像を貸し出したのですが、
保険にかけるために鑑定を行うことになり、進退窮まってしまう。
そこで、ニコルが目をつけたのは、
以前ボネ家に泥棒に忍び込んだシモン・デルモット。
彼の手を借りて、美術館からビーナス像を盗み出すことにします。
つまり、自分の家の持ち物をわざわざ盗み出すという、
いかにも皮肉な顛末が楽しいですね

ビーナス像の周囲には赤外線が張り巡らされており、
そこをよぎるとたちまち大音響の警報が鳴り響き、警察が飛んでくる、
という仕組み。
され、これをどうやって盗み出すのか。
意外にもこれは人の心理をついた、心憎い方法でした。
MIシリーズのトム・クルーズも真っ青。
そういうシステムのスキをつく力業ではないところがまた、
時代色もあるかも知れませんが、
なんだかほんのりしていていいなあ・・・と感じました。
しかし、これだけ贋作がうまければ、
始めから贋作とうたっておいても、結構売れそうですが・・・。
まあ、この場合、お金儲けではなく、単に趣味ですけれど。

この原題はHow to Steal a Milion。
邦題の「おしゃれ泥棒」はちょっと違うのですが、
でも、オードリーの持ち味を生かしたしゃれた題名ですね。
近頃こういう工夫のある邦題は、とても少なくなりました。

オードリーは、マイフェアレディのイモ娘を演じても面白いですが、
やはりこのように
どこか気品に満ちてリッチ、
はかなげだけれど、元気。
こういう形が最も映えます。
まさに、永遠の妖精です。


1966年/アメリカ/125分
監督:ウィリアム・ワイラー
出演:オードリー・ヘップバーン、ピーター・オトゥール、イーライ・ウォラック、ヒュー・グリフィス


「思考の整理学」 外山滋比古

2009年05月25日 | 本(解説)
思考の整理学 (ちくま文庫)
外山 滋比古
筑摩書房

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「東大と京大で一番読まれた本。」
(※2008年大学生協調べ)
このキャッチコピーについ興味を引かれ手に取ったこの本。

まず冒頭で、著者はこんなことを言っています。
少し長いですが引用します。


学校というのは、先生と教科書に引っ張られて学習をする。
独力で知識を得るのではない。
いわばグライダーのようなもので、自力では飛び上がることができない。
学校は、グライダー人間の訓練所である。
グライダーの練習にエンジンのついた飛行機が混じっていては迷惑で、危険。
だから、学校では引っ張られるまま、
どこへでもついてゆく従順さが尊重される。
優等生はグライダーとして優等なのだ。
このような学生が、卒業論文に取り掛かる頃になると途方にくれる。
言われたとおりのことをするのは得意でも、
自分で考えてテーマを決めることができない。
新しい文化の創造には飛行機能力が不可欠。
今まではあまりにもグライダー能力ばかり重視してきた。
現代は情報の社会なので、
グライダー人間をすっかりやめてしまうことはできないが、
グライダーにエンジンを搭載するにはどうしたらいいのか。
学校も社会もそれを考える必要がある。


・・・・というわけで、
この本では、グライダー兼飛行機のような人間となるための
心得が書かれています。
この前段はすごく納得できるのです。
まさに、手取り足取り、かゆいところに手の届くご指導で、
学校は児童生徒学生を導いてくれるのですが、
自力で飛ぶ方法は教えてくれない。
・・・まあ、それであわてて、
「生きる力」を主題とした学習指導要領が出たりするわけですが、
効果のほどは・・・? 
学力は全国一斉の学力テストで検証することができますが、
「生きる力」が身についたかどうかなんて、
なんで計ればいいのでしょうね・・・。


さて、それはともかく、
著者はあるヒントやアイデアをしっかりした形のあるものにするためには、
最初のアイデアを醗酵させること。といいます。
これは、うれしくなって人に言いふらしたり、
いきなり人前で発表したりせず、まずしばらく寝かせておく。
そうするとある日、自然に頭の中で動き出す。
おりにふれて思い出される。
それを考えると胸がわくわくして心楽しくなる。
これが醗酵作用。

また、セレンデュピティという言葉にも触れています。
これは偶然の発見・発明の意味ですが、
つまり、私たちは中心的関心よりも
むしろ周辺的関心の方が活発に動くのではないかというのです。
例えば、乱雑な机の上から、返事を書かなければならない手紙を探す。
あちこちひっくり返しても出てこない。
しかし、なぜかこの間からいくらさがしても出てこなかった万年筆が
ひょっこり出てきた。
・・・こんな様なこと。

だから、考え事をする時も一途にそればかりを考え続けてはいけない。
しばらく寝かせる必要がある。
これも、対象を正視し続けることが思考の自由な働きを妨げるためなのです。
対象を周辺部へ持っていき、セレンデュピティを起しやすくする。
なるほど、仕事などにも応用できそうなことですね。

考えることは、つい面倒で、億劫。
そう思ってしまうのですが、
この本を読むと考えることがとても楽しみに感じます。
<・・・自然に頭の中で動き出す。おりにふれて思い出される。
それを考えると胸がわくわくして心楽しくなる>
こんな風に、物事を考えることができれば幸せです。

自分で空を飛んで、アクロバット飛行もできちゃったらいいですね!

満足度★★★★☆



天使と悪魔

2009年05月24日 | 映画(た行)
謎を解き、火の中、水の中・・・

           * * * * * * * *

ダヴィンチ・コードに継ぐ、ラングドン教授のシリーズ第2弾。
本は、こちらの方が先に出版されているのですが、
この映画では、ダヴィンチ・コードのあとの話ということになっています。

前回映画を見たときに感じたのは、
本で相当のボリュームであったものを、
映画で2時間と少しの映画に凝縮すると、ストーリーを追うことで精一杯。
まるでダイジェスト版を見るような物足りなさ・・・、そんなことでした。
今回も、やはりその感はあります。
しかし、幸い(?)私はすっかり本の内容を忘れ去っていたので、
これは結構新鮮な気持ちで楽しめました。


舞台はヴァチカン。
イルミナティという秘密結社が復活。
科学を弾圧しつくしたカトリック教会を最大の敵とし、復讐しようとする。
彼らは、ヴァチカンの枢機卿4名を拉致し、
一時間毎に1人の殺害を予告。
そしてまた最後には、科学の最先端の粋、“反物質”を爆発させるという。
これが爆発すれば核にも勝る破壊力を持ち、
ヴァチカンはおろかローマの街も一瞬にして消え去るであろうという・・・。

さて、このイルミナティの示した暗号に挑戦するのがラングドン教授。
まさに時間との戦い
・・・というわけで、
まあ、本質的にスピーディというか忙しい映画なんですよ。
じっくり謎を解説しているヒマがない。
宗教と科学の相克・・・というテーマは、
まあこの際置き去りにしても、まず行動あるのみ!

ローマの、どこも観光名所のような教会や広場の美しい街並みを、
縦横無尽に教授が走り回ります。
今回、教授は知力も尽くしますが体力も相当使うのです。
まさに火の中水の中・・・。
また、この期間、
一方ではローマ教皇が逝去し、
次の教皇を決めるためのコンクラーベという会議が行われている。
この成り行きも同時進行で結構スリリングです。
以前ちょうど私がこの原作本を読んでいる頃に、
実際にヴァチカンでこのコンクラーベが行われていたんです。
それで本の内容にもずいぶん納得したものでした。


さて、この作品の主役は実は教授ではなく、
別のもう1人の人物なのではないかしらん・・・、
と、最後の方で思いました・・・・
なんと感動的な結末・・・!!

しか~し! 
そこにあった、大どんでん返し!!
私、まともに騙されまして、でも、それが結構小気味よかった。
私としては、前作、ダヴィンチ・コードよりも面白く感じられましたが、
皆様はいかがでしょうか・・・?

2009年/アメリカ/138分
監督:ロン・ハワード
出演:トム・ハンクス、アィエレット・ゾラー、ユアン・マクレガー、ステラン・スカルスガルド


映画「天使と悪魔」予告編 2



クライマーズ・ハイ

2009年05月23日 | 映画(か行)
無我夢中興奮状態、人生最大の山場

* * * * * * * *

1985年8月12日。
群馬県御巣鷹山にJAL123便が墜落。
死者520人。
今も記憶に残る大変大きな航空機事故でした。
これは、その当時新聞記者をしていた横山秀夫の実体験をも生かした
同名小説の映画化です。
実のところ、本は読んでいたので、
公開時に映画は見ていなかったのですが、このたび、DVDで拝見。


北関東新聞社を舞台に、この大事故の報道の顛末を描いています。
この事故の全権デスクに任命された悠木。
しかし、ことは簡単には運ばない。
混乱する現場、
苛立ちから感情を高ぶらせる記者、上司。
編集部内の確執。
販売局との対立。
事件の悲劇そのものには深くは立ち入らず、
ひたすら、新聞社の内情に焦点をあてています。

事故の現場は、険しい山奥。
そもそも、登山道などあるはずもない。
そこを、記者たちはワイシャツにネクタイのいでたちで登っていくんです。
根性です! 
しかも、今では考えられないですが、
現場から本社への通信手段がない。
トランシーバーはもちろん当時もありましたが、
この新聞社では、頭の古い上司が導入を拒んでいた。
記者二人は、命がけで山を登り、山を降り、
電話機を貸してもらうために、夜遅く民家を訪ね歩く。
涙ぐましいですね。
新聞には残酷な「締め切り」がある。
締め切り破りは、販売店に新聞が届くのも遅れるし、
もちろん家庭に届く時間も遅くなります。
あちらこちらに多大な迷惑をかけることになってしまうのです。
どこで、見切りをつけるか。
事実確認の取れていない記事をどうするか。
気持ちはあせるけれども、冷静な判断が必要。
この辺のクライマックスはなかなか圧巻です。

一つの新聞社内でも、社会の縮図のようでしたね。
いやったらしく、過去の栄光にしがみつき、
若い世代の発想を認めない頑固な上司たち。
ワンマンの社長もいけ好かないし・・・。
しかし、販売局側の主張も、もっともなところもあり・・・。
こんなところにいたらストレスで気が変になりそう。
まさに企業戦士たちなんだなあ・・・。

この映画は、もう老年に差し掛かった悠木が
事故当時を回想するという体裁で語られています。
自分の息子もほとんどかまってやれなかった、記者人生を思う・・・。
かつての日本の男の生き方でしたねえ・・・。

2008年/日本/145分
監督:原田眞人
出演:堤真一、堺雅人、山崎努、尾野真千子


映画「クライマーズ・ハイ」予告編



チルドレン・オブ・ホァンシー /遥かなる希望の道

2009年05月22日 | 映画(た行)
チルドレン・オブ・ホァンシー 遥かなる希望の道 [DVD]

マクザム

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中国人孤児を守り通した英国人

            * * * * * * * *

1930年代。中国。
実話を基にしたストーリーです。
英国人ジャーナリスト、ジョージ・ホッグは、
ひょんなことから、黄石(ホァンシー)というところの
中国人孤児の養護施設で、子どもたちの面倒を見ることになります。
ちょうど、日本軍の中国進出の真っ最中。
南京まで来ていた戦火がこの地まで迫ろうとしている。

食べ物もほとんどなく、
ノミやシラミがたかった栄養状態の悪い子どもたち。
言葉もほとんど通じず、始めは全く馴染めず、敵視される状態。
そんな中で、彼は孤軍奮闘。
発電機を修理し、畑を作り、言葉を教え・・・。
次第に彼は子どもたちの信頼を集めてゆくのです。
約60人の子どもたちと、家族のような絆を紡いでゆく。

しかし、日本軍が迫ってきている。
彼は、皆で山丹の寺院へ移る決意をしました。
ところがそれは、700マイル、約1000キロもの彼方。
シルクロードを西へ西へ。
荒涼の大地、極寒の雪山、広大な砂漠地帯を
子どもたちを引き連れ、徒歩での移動。
何ヶ月もかかりますね・・・。
しかし、もともと子どもたちは
こういう過酷な状況には慣れていたのかもしれない。
今時の日本の子どもたちなら、ダメですね。
いや、そういう私も無理です。
何ヶ月も歩き続け、野宿・・・。

これを中国人ではなく、イギリス人がやり遂げた、
というところがすごいですね。
彼は別にキリスト教の伝道師でもありませんし。
感動作です


さて、こんなにいいお話なのに、日本公開はありませんでした。
出演陣も、豪華なのですが。
まあ、ちょっと何がしかの意図は感じます。

ここに出てくる日本軍は極悪非道。
あの南京大虐殺を彷彿とさせるシーンもあったりして。
孤児の子どもたちも、ほとんどは戦火で親を亡くした子どもたち。
それぞれがひどいトラウマを抱えています。

若干、日本人には刺激的過ぎる感もありますが、
それはさておいても、いいストーリーなので、
多くの人に見てもらいたいと思いました。

2008年/オーストラリア・中国・ドイツ/125分
監督:ロジャー・スポティスウッド
出演:ジョナサン・リス=マイヤーズ、ラダ・ミッチェル、チョウ・ユンファ、ミシェル・ヨー



『チルドレン・オブ・ホァンシー 遥かなる希望の道』予告編



「桜の園/神代教授の日常と謎」 篠田真由美

2009年05月21日 | 本(ミステリ)
桜の園 神代教授の日常と謎
篠田 真由美
東京創元社

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建築探偵の番外編、神代教授シリーズの第2弾です。

神代教授は友人の辰野と共に、大島の親類の家を訪ねることになる。
そこは、今まさに桜の花が異様なほどに咲き乱れ、
その中に埋まっているかのような古い屋敷。
そこに住むのは3人の魔女・・・。
いえ失礼。
魔女のような老女たち・・・。
大島は、ここを訪れることに異様な胸騒ぎを覚え、
この二人の友人に付き添ってもらったのです。
そうして、昔、この家で起きたある事件が浮かび上がってくるのですが・・・。
桜の木の下に埋まっているのは・・・。
そう、あれですよね。

だからこそなのか、ぞっとするほどに静かに美しく咲き乱れる桜・・・。
曰くありげな3人の老女たち。
古びた屋敷。
ロマンチックなミステリの要素が3拍子そろっております。


ここで推理の冴を見せるのは、京介ではなく、辰野。
彼もまた、なかなかの美形なのですよ。
こういう描写があります。

「辰野はもともと、姿も顔立ちも切れのある凛とした男で・・・
私立高校の紺の制服はまるで
彼のためにデザインされたように見えたものだった。
・・・茶系統の千鳥格子のハンティング・ジャケットに
こげ茶のスラックス、
シャツの襟元からは
あざやかなエメラルドグリーンのアスコット・タイを除かせて、
駅中の雑踏でも
女のふたりに1人は必ず目を見張り足を止めて振り返る男振りだ。」

神代教授は気障が服着てやがるとは思うものの、
様になっていることは否定しようがない・・・と。
これで、小児科医だというのですから。
・・・病気の子供を借りてきてでも、この病院にかかってみたいですね。
気障が服着てるような美形のオジサマ・・・。
うわ~。


さて、この本には2作の中篇が収められていまして、
もう一編は神代教授が幼い頃に亡くした、お母様のお話です。
人の良い教授のところに、3つの相談事が一度に持ちかけられてきました。
全く別のところからのそれぞれの相談だったのですが、
ここが小説の醍醐味。
シンクロニシティというヤツですね。
なんと何の関係もないはずのこの3つの事柄に関連が見えてくる。
ちょっとひなびた感じのする、この話もなかなか興味深く読めました。
こちらにはおなじみ、京介も蒼も美春も登場します。
桜井京介ファンには応えられない一作となっております。


満足度★★★★☆

セブンティーン・アゲイン

2009年05月19日 | 映画(さ行)
見えなくなっているものをもう一度見つめなおすこと・・・

           * * * * * * * *

高校バスケットボールの花形選手、マイク・オドネル。
大学のスカウトが試合を見に来るという大切な日、
恋人のスカーレットに赤ちゃんができたと聞き、試合放棄。

さて、それから20年。
お腹も出て、すっかりただの中年オヤジになってしまったマイク。
スカーレットと結婚はしたけれど、
あの高校の華やかな時代に夢みた将来は跡形もない。
結婚は破綻寸前。
高校生の子どもたちからは疎まれ、
仕事では昇進の道も絶たれた・・・。
もう一度17歳のあの頃に戻ってやり直せたら・・・。
そんなある日、なぜか突然に彼の肉体が17歳に逆戻り。
周りの状況も、彼の精神もそのまま。
肉体だけが若返ったのです。


さあ、これは彼が人生をもう一度やり直すストーリーなのでしょうか。
いいえ、意外にもこれは、
彼自身ほとんど忘れかけていた、
夫や父親としてのハートを取り戻すストーリーなのです。

若返り、息子や娘と同じ高校に入ったマイク。
しかし、彼は今までいかに自分が
彼らのことを何も知らなかったかに気づくのです。
そして、妻のこともまた・・・。

今まで、かなわなかった夢ばかり追い求めていた、
そしてそれを妻や子どものせいにしていた。
いつも近くにいすぎて見えなくなっているものって、あるんですね。
このように、少し離れてみると見えてくるものがある。
すごくおかしくて、じんわり暖かい、素敵な作品でした。

マイクの親友ネッドというのが傑作なんですよ。
高校時代からSFとかファンタジー映画、TVゲームのオタクなんですが、
ソフト開発で大金持ちになっている!
この彼がマイクたちの高校の美人校長に一目ぼれ。
この恋の顛末も、お楽しみの一つです。


彼の若返りの秘密は、謎のままです。
夏に暇なサンタがちょっぴりイタズラした、という感じなのですが?
・・・まあ、この映画ではそこのところはさして重要ではないのです。
自分の不平不満を裏返してもう一度見つめなおしてみれば・・・、
やはり本当の幸せはそこにある。そんなもんです。
今時誰でもあまりにも簡単に離婚してしまうけれど、
かつて、抱いていた深い愛情、家族の絆
・・・そういうことも思い出さなければね。

さてさて、ザック・エフロン、キュートですねえ・・・
彼の妻が若返った自分の夫を見ておもわず、
『あら、ヤダ、マイクの若い頃にそっくり』
といって、彼のほっぺたをつまんでぐにゅぐにゅするんですね。
きゃ~、うらやましい。
私もやってみたい!!

次の彼の出演作も見てしまいそう・・・。

2009年/アメリカ/102分
監督:バー・スティアーズ
出演:ザック・エフロン、レスリー・マン、トーマス・レノン、ミシェル・トラクテンバーグ、マシュー・ペリー


セブンティーン・アゲイン



マイ・フェア・レディ

2009年05月18日 | オードリー・ヘップバーン
マイ・フェア・レディ 特別版 [DVD]

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「花売り娘」と「レディ」の違いは、どう扱うかではなく、どう扱われるか。
 
            * * * * * * * *

これは、かなり有名なミュージカル作品ですね。
私もこれは何度も見ていて、おなじみの曲もたくさんあります。
もともとは、「ピグマリオン」というジョージ・バーナード・ショウの戯曲作品。
それが、舞台ミュージカル「マイ・フェア・レディ」として、大当たり。
この時のイライザ役は、ジュリー・アンドリュースだそうです。
そして更に映画化され、できたのがこの作品。
主役はオードリー・ヘップバーンが抜擢されました。
しかし、この映画では、歌の部分はオードリーでなく、
マーニ・ニクソンという方の吹き替え。
とはいえ、この映画の成功は、やはりオードリー出演の賜物、
といっていいでしょうね。
もちろん、曲もいいのですが。


ストーリーはいまさら説明することもなさそうです。
ロンドン下町の下品な花売り娘、イライザが、
言語学者ヒギンズ教授にレディとしての言葉、振る舞いをしつけられ、
次第に真にレディに変貌してゆく。
その間、二人は知らず心を寄せていくのですが、
しかし同時に、いつまでも花売り娘としか自分を見ないヒギンズに
イライザは反発してゆく・・・。

訛り丸出しの下品な娘、英語でもそれははっきり伝わりますね。
発音を矯正するための練習の言葉に、
“The rain in Spain stays mainly in the plain.”
なんていうのがあります。
イライザはこれを
「ザ、ライン、イン、スパイン、スタイズ、マインリイ、イン、ザ、プライン」 なんていう風に発音するんですね。
これぞ、下賎育ちの発音。
eiと発音すべきところがaiになってしまっている。
それから、“H”の音の発音ができない。
これなど、江戸っ子が「ヒ」と「シ」の区別ができないのと似ていますね。
なるほど、訛りとはこういうことなのか、と、興味深く思いました。

途中経過の競馬場のシーンも印象深いですね。
白いドレスに大きな白黒ストライプのリボン、
この姿の写真は今でもずいぶん使われています。
ここは発音だけは何とか矯正できたのですが、
言葉遣いや立ち居振る舞いがもとのまま、
というギャップが楽しめるところです。

それにしても、この芋娘から、最後のレディへの変身ぶり、
あの、優雅な身のこなし。
ほう・・・とため息が出てしまうくらい素敵でした。

でも、今回ずいぶん久し振りに見て、このラストはなんだか納得できない。
結局私は自立する女性が好きみたいです。
だから、結婚してめでたし、めでたし・・・というのはダメですね。
もちろん、今時は結婚しても職業を続けるのは普通ですから、
そこは問題ないのですが。
結婚がゴールになってしまうのはダメです。
映画も、世に連れるのでしょうね。
今なら、このラストはないと思う・・・。

1964年/アメリカ/172分
監督:ジョージ・キューカー
出演:オードリー・ヘップバーン、レックス・ハリソン、スタンリー・ホロウェイ、ウィルフリッド・ハイド・ホワイト






「配達あかずきん/成風堂書店事件メモ」 大崎 梢

2009年05月17日 | 本(ミステリ)
配達あかずきん―成風堂書店事件メモ (創元推理文庫)
大崎 梢
東京創元社

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駅ビル6階にある書店成風堂で働く、
しっかりものの書店員、杏子と、
勘の鋭いアルバイト、多絵が、
様々な日常の謎を解いてゆきます。
曰く、本格書店ミステリ。
本屋さん好き、読書好きには応えられない本ですね。


冒頭の一作目が、まず、ぎゅっと本好きの心を掴みます。
書店にやってきたお客が、店員に尋ねるのです。

「欲しい本が見つからないのだけれど・・・。
それがタイトルも書いた人もわからないの・・・。
どういう内容かもわからないのよね・・・。」

こういわれたら、普通はキレますね。
バカにしてるんですか?とか、
話にならない、出直してきて、とか・・・。
しかし、一応礼儀をわきまえている杏子は、
辛抱強く、何か、ヒントはないですか?とたずねる。

「かわいそうな話なのよ・・・。
女の子がたくさん出てきて、みんなとっても貧しいの。
なかなか家には帰れないし、
病気になったり、時には友達が死んでしまったり・・・」

などと、かすかに思い出した話を聞いているうちに、ひらめきが。
ひょっとして、「ああ、野麦峠」では?

ピン・ポン!

私は、この店員さんよりも、お客を身近に感じてしまいます。
私も、時々こういう状況に陥ることがあるんです。
新聞などの書評で、読みたいなと思った本。
きちんとメモすればいいものを、全くのうる覚えで書店に来てしまった。

え・・・? 題名は?著者は?

万事休す。
これでは検索のしようもないではありませんか。
でも、この本のお客のようには、とても恥ずかしくて、
店員さんになど聞けません・・・。
けれど、勉強熱心な店員さんなら、
最近新聞に載った本をチェックしてあるかもしれませんね。


本屋さんには子どものころからあこがれていたのですが、
なるほど、書店にはこんな業務もあるのか・・・と、
いろいろ書店の内情が書かれているのも、興味深く読みました。

今時の書店は、大型化する一方で、
昔のように、個人の「本屋さん」はとても少なくなりました。
本屋さんのお嫁さんになる、なんて夢は、
実際かなり叶いにくい夢になってしまっていますねえ。
この成風堂書店事件メモは、シリーズになっていて、
他にもすでに何冊か出ています。
すぐにでも、続きを読みたいのですが、
まあ、あわてず、次の文庫化を待つことにします。

そういえば、ここに登場する杏子さんや多絵さんなら、
「50円玉20枚の謎」をどう解くのでしょうね?
ぜひ一度はテーマに取り入れて欲しいものです。

満足度★★★★☆

リリィ、はちみつ色の秘密

2009年05月16日 | 映画(ら行)
ママは私を捨てたんじゃない。リリィの愛をさがす旅

            * * * * * * * *

1964年。夏。
14歳のリリィ。
彼女は幼い頃、自分のせいで母親を亡くしています。
家出していた母が家に一時戻ったときに、父ともみ合いになり、
そのとき、幼い彼女が母に渡そうとした銃が暴発してしまったのです。
母親を亡くしただけでも痛手なのに、
過失とはいえ自分の手で母を殺めてしまった・・・、
このことは、彼女の大きな心の傷となって残っているのです。
そんなことがあったためか、彼女は父親ともうまく行っていない。
娘に対してすっかり心が冷えた父親は、
「お前の母親は、お前を捨てて出て行った。
あの日は、荷物を取りに来ただけ」、と告げるのです。
ほとんど母親の記憶がないリリィは、
しかし、「母親は自分を愛していた、父の言うことはでたらめ」
・・・そう信じたい。

ある日、彼女はわずかに残された母の手がかりを頼りに、
ティブロンという町へ向けて家出をします。


さて、このストーリーの舞台がこの年代というのにはわけがあります。
このストーリーは、黒人への人種差別をもう一つのテーマとしているのです。
この頃、公民権法が制定され、ようやく黒人にも選挙権が与えられた。
様々な差別も法により禁止され始めたのです。
ところが、法律ができたというだけで、
特にこのアメリカ南部では相変わらず、黒人への偏見や差別が根強くある。
それにはまた、公民権法によって更に黒人が白人の憎しみを買ってしまった、
という側面もあるようです。

リリィの家の黒人家政婦ロザリンは、
選挙人名簿の登録に行こうとして、暴漢に襲われてしまいました。
リリィは、このロザリンと家出を決行します。


さて、たどりついた場所はボートライト家。
黒人の三姉妹が住んでいました。
長女のオーガストは養蜂家。
ミツバチを飼い、はちみつを売って生活しています。
オーガストは素性のはっきりしないこの二人を快く受け入れ、
リリィに養蜂を手伝うように言います。

このオーガストが、クイーン・ラティファ。
なんと、先日「ラスト・ホリデイ」で、見たばかりなんですよ。
まったく意図したわけではないのに、同じ俳優を連続してみてしまう・・・、
こういうこと、時々あるんですよね。
不思議です。
この映画では、このクイーン・ラティファが、
素晴らしく存在感がありまして、
どっしりと包容力があり、そばにいるだけで安心できる。
なるほど、結局「ラスト・ホリデイ」も、最後はそういう役どころでした。
彼女自身に、そういう雰囲気があるんですね。

ある日、リリィは黒人の男の子と映画を見に行きます。
映画館の入り口が、白人用と黒人用に分かれていて、もちろん席も別々。
でも、リリィは一緒に黒人席へ行って映画を見ていました。
ところがそれを見た白人たちは、彼を攻め立て、乱暴しようとする。
全く、理不尽な差別です。

64年といえば、すでに私も生まれていて、そう昔ではない。
(え?相当昔ですって?)
こんな時でも、まだこんな風だったんですね・・・。
だから、このたびのオバマ大統領の就任に、
黒人の、特に年配の方が、感きわまった様子をしていたのが、
実感として、分かる気がしますね。
リリィはこの黒人家族の中で、自分の居場所を見つけ、
自分も家族の一員となっていくのです。
少女の成長と人種差別問題を軸にした、情感たっぷりの秀作です。


ところで、ダコタ・ファニングは久し振りでした。
このごろあまり見ていないので、もう、子役生命も終わりなのか
・・・などと心配しておりました。
10歳くらいのいかにも「子ども」時代もいいのですが、
14歳。
これくらいの、子どもから大人への微妙な変化の年代。
こういう一瞬が、映画として残るなんて、
なんてラッキーなんでしょう。
あと2年もすれば、
また別のダコタ・ファニングに変身するのだろうと思います。
そのとき、ぜひ、また会いたいと思います。

2008年/アメリカ・カナダ/110分
監督:ジーナ・プリンス=バイスウッド
出演:ダコタ・ファニング、ジェニファー・ハドソン、アリシア・キーズ、クイーンラティファ