映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

愛に乱暴

2025年01月31日 | 映画(あ行)

正気と狂気のはざま

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桃子(江口のりこ)は、夫・真守(小泉孝太郎)と共に、
真守の実家の敷地内に建つはなれで暮らしています。
子どもはいなくて、夫は妻に無関心。
義母・照子(風吹ジュン)とは表向きうまくいっているけれど、
桃子はストレスを抱えています。

桃子は手作り石けん教室の講師で、お小遣い程度の収入を得ているだけで、
ほとんど専業主婦。
手の込んだ献立を作り、人知れずゴミ置き場の掃除をしたり・・・、
丁寧な生活を心がけているのです。

しかし、薄々気づいていた夫の不倫がいよいよ表沙汰になり、
桃子の日常が徐々に平穏を失っていきます。

 

桃子の一番の心の重りになっていることは、子どもがいないということなのでしょう。
いつも庭に迷い込んでくる猫を気にしているようなのも、
子どもに向ける愛情を持って行く先がないから?などと思えたのですが。

次第に心の平衡を失っていく桃子を見ていると、
人の心の正常と異常、正気と狂気の区分が分からなくなってきます。
本来そんなことは線引きできるものではないのでしょう。

桃子がチェンソーを購入したときには実にゾッとしてしまったのですが、
まあ、スプラッタ作品にはなりませんので、ご安心を。

そして、いよいよもうダメか?というときに、
思いも寄らない人から言われたことが彼女をすくい上げます。

なるほど・・・。
さすが吉田修一作品。

実にうまく人の心をすくい取りますね。

<Amazonプライムビデオにて>

「愛に乱暴」

2024年/日本/105分

監督:森ガキ侑大

原作:吉田修一

出演:江口のりこ、小泉孝太郎、風吹ジュン、馬場ふみか、青木柚

 

心の不安定度★★★★☆

満足度★★★★☆


雪の花 ともに在りて

2025年01月29日 | 映画(や行)

医師としての使命に燃えて

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江戸時代末期。

疱瘡(天然痘)は、有効な治療法がなく多くの命を奪ってきました。
福井藩の町医者、笠原良策(松坂桃李)は、
疱瘡の流行の折、なすすべもなく何もできなかったことを悔しく思っていたのです。
ある時、疱瘡に有効な「種痘」という予防法が異国から伝わったことを知ります。

笠原は、京都の蘭方医・日野(役所広司)に教えを請い、
私財をなげうって必要な種痘の苗を福井に持ち込みます。
しかし、天然痘の膿をあえて体内に植え込むという種痘の普及には、様々な困難が・・・。

天然痘の予防法というのはまさに世界を変える画期的なものですね。
でも、それが人々の間で当たり前に受け入れられるまでには、
様々な困難があったことは想像に難くありません。

この時代、種痘はすでにヨーロッパや隣国・唐で普及していたのですが、
鎖国のため日本に入るのが遅れていたわけです。
外国との窓口は長崎のみ。
種痘の苗を入手するにも、まず幕府の許可が必要だし、
実際の輸入と、国内移動にも困難が山ほど・・・。
なにしろ“苗”は生ものなので、普通に物品を運搬するのとは別なのです。

それにしても、役人の事なかれ主義とやる気のなさが第一の障害とはなんともはや・・・。

それでもようやく、福井まで苗を持ち込むことに成功。
しかし今度は、誰も接種しようとしない。
無理解、というよりほとんど恐怖なのは分かる気もしますが。

これらの困難に立ち向かう笠原の物語。
その強い意志こそが美しい。

妻・千穂(芳根京子)は、ただ貞淑な妻ではなくて、
ちょっと強くてカワイイところも気に入りました。

全体を通すと、あまりにも正しくて良作なのが逆に物足りなかったりする・・・。

 

<シネマフロンティアにて>

「雪の花 ともに在りて」

2024年/日本/117分

監督:小泉尭史

原作:吉村昭

出演:松坂桃李、芳根京子、三浦貴大、宇野祥平、坂東龍汰、吉岡秀隆、役所広司

困難度★★★★☆

達成度★★★★☆

満足度★★★☆☆


「一遍踊って死んでみな」白蔵盈太

2025年01月27日 | 本(その他)

念仏はロックだ!

 

 

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娯楽がない鎌倉時代、人々に刺激を与えたのは踊り念仏だった。
家族も財産もすべてを捨てて阿弥陀仏の導きに従う一遍は、
念仏を唱えて日本全国を行脚する。
一遍とともに僧達が床板を叩く足音のリズム、
次第に加速する念仏、上昇する心拍数を表すかのような鉦の音。
時衆が繰り広げる激しいパフォーマンスは、見る者の心を鷲掴みにする。
念仏はロックだ! 
破天荒かつ繊細な捨聖、一遍の物語。

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白蔵盈太さんは、日本の歴史の常識を覆す、
ユニークな解釈で物語を展開する作家さん。
私は、赤穂浪士事件にかかわるものくらいしか拝読していなかったので、
このたび、本作を手に取りました。

 

まずは、いきなり現代の高校生ヒロがタイムスリップして、鎌倉時代に迷い込みます。
そんな彼が出会ったのが、一遍。
一遍と彼が引き連れる一行が繰り広げる「踊り念仏」に心を奪われ、
彼もこの地方行脚の旅に同行することになります。

 

現代から鎌倉時代にタイムスリップしたヒロが見た「踊り念仏」は、
ほとんどロックフェス。

鉦や太鼓が生み出すリズム。
それに合わせて床を踏みならす音。
リリックは「南無阿弥陀仏」ただそれのみ。
舞台の全員が、そしてその聴衆も、次第に無我となり踊り狂う。

ヒロが語るこの物語は、仰々しい時代劇調の言葉使いは出てこなくて、現代の口語。
一遍の語る言葉も、小難しい宗教用語は出てきません。
けれど結局、一遍という1人のたぐいまれな信念の人の生涯をたどり、
主な思想を理解できるように描かれています。

また、鎌倉時代の大まかな仏教の流れについても、わかりやすく描かれています。
著者によるこの時代の仏教は、NWOKB。
すなわち、ニュー・ウェーブ・オブ・カマクラ・ブッディズム。
それまでの仏教は朝廷や貴族たちのためのもの。
日頃よい行いをして功徳を積んで、お寺に寄進して、ようやく救済が得られる。
しかし、貴族たちの権威が失墜し、武士の世となり、
既存の仏教を破戒するエネルギーを持った新たなスタイルの仏教が
力を付けていったというわけ。
法然、親鸞、栄西、道元、日蓮・・・。

一遍は、このNWOKBでも最も後発組で、
すでに念仏のみで人は救済されるという思想はかなり広がっていたようなのですが、
家族も財産もすべてをかなぐり捨てて行脚の旅に出るという、
ひたすら実践に務めた一遍が繰り広げる踊り念仏は、
多くの人々の心をひきつけたのでした。

 

踊り念仏=ロックフェスというのはあくまでも著者の創造ではあるけれど、
聴衆を巻き込んで踊り狂うという事象は、
確かにロックフェスに似たようなものだったのかも知れません。
特に、その時代、一般庶民に娯楽など何もなかったわけですし。

本当の「踊り念仏」は、ともかくとして、
ヒロの描く踊り念仏のフェスを実際に見てみたいなあ・・・。

 

「一遍踊って死んでみな」白蔵盈太 文芸社文庫

満足度★★★.5


リトルハンプトンの怪文書

2025年01月25日 | 映画(ら行)

怪文書を書いたのは誰?

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1920年代。
イギリスの海辺の町。
地元で生まれ育ったイーディス・スワンは父母と同居、独身。
そのすぐ隣の家には、アイルランド出身のはすっぱな子持ち女性、
ローズ・グッティングが住んでいます。
しかしどうやらこの隣り合う二件の家は、うまくいっていないらしい。

ある時、イーディスや他の住民の元に、匿名の手紙が届くようになります。
そこには、なんとも卑猥なののしりの言葉が書かれているのです。
普段から口の悪いローズが書いたのだろうという疑いがかかり、
怪文書は国中の関心を集め、ローズはついに法廷で裁かれることに。

このことについて、女性警官クラディス・モスや
一部の町の女性たちが独自の調査を始めます。

ここに3人の女性が登場します。

イーディスは、父のためによき淑女であろうと努めている保守的な女性。
他にも姉妹は多くいたのですが、皆結婚して家を出ています。
結婚できそうな相手もいたのだけれど、話がダメになってしまった。
どうも父が、老いた自分と妻の面倒を見させるために
イーディスだけを手元に残したのでは・・・?と彼女は薄々気づいている。
そんな時、隣に越してきた元気なローズのことをイーディスは嫌いではなかった。
でもあることがあって、彼女を遠ざけるようになってしまいます。

ローズは夫が戦死した後、1人で女の子を育てています。
とはいえ、同居している男性はすでにいるのですが。
教養もなく酒場で働く彼女はなんとも言葉使いが悪く、
周囲の女性たちからは、まともな女性ではないと敬遠されているのですが、
イーディスは家事のことなどを教えてくれるよき隣人でした。
始めのうちは。

そしてもうひとりは、警官のクラディス。
女性警官などこれまで誰も見たことがない、というような時代。
誰よりも熱心によき警官でありたいと思う彼女ですが、
女は捜査などするなと上司からいわれてしまいます。
この度の怪文書も、筆跡から見てもローズは犯人ではないと思うのですが、
上司らはハナからローズが犯人と決めつけて、
ろくな捜査をしようともしないのです。

 

次第に浮かび上がってくるのは、3人それぞれ全く別の立場にありながらも、
男性優位社会の中で抑圧されているということ。

女性のあるべき姿。
それは男性優位社会の中で都合のいいように制度化されたり、世間的認識が決定されたり・・・。
当の女性でさえそのことを当然のことと思わされ、受け入れていたわけです。

 

このような抑圧を受け、心の安定を失ったり、抗ったり、突破しようとしたり・・・
そういう女性たちの姿が描かれています。
ステキな作品だと思います。

<Amazon prime videoにて>

「リトルハンプトンの怪文書」

2023年/イギリス/100分

監督:テア・シャーロック

出演:オリビア・コールマン、ジェシー・バックリー、アンジャナ・ワサン、
   ジョアンナ・マキャンラン、アイリーン・アトキンス、ティモシー・スポール

男子優位社会における女性の抑圧度★★★★★
満足度★★★★★


からかい上手の高木さん

2025年01月24日 | 映画(か行)

めんどくさい2人

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私は本作、劇場版のアニメ「からかい上手の高木さん」で知るのみだったのですが、
アニメ版は、それなりに楽しみました。
それでこの度の実写劇場版は特に見なくてもいいかと思っていましたが、
内容はそのままではなくて、それから10年後を描いているというところがミソだったのですね。
ということで、さっそく拝見。

 

とある島の中学校。
隣の席になった女の子、高木さんにいつもからかわれている男子、西片。
どうにかしてからかい返そうと様々な策を練るも、失敗ばかり。
・・・というのがアニメ版のストーリー。
その後、高木さんは引っ越してしまい、2人は離ればなれに。

そしてここからが実写版の本作。

それから10年。

母校で体育教師として勤務する西片(高橋文哉)の前に、
高木さん(永野芽郁)が、教育実習生として現れます。
2人の中学生時代を思わせるような少年少女の淡い思いや、
不登校の生徒の心などを絡めながら、
大人になった西片と高木さんが心を通わせていきます。
でも相変わらず、西片が高木さんにからかわれてしまうという関係性はそのままで・・・。

なんというか、中学生あたりだと女の子の方が先に精神的成長を遂げてしまうので、
西片がいつもからかわれてしまうというのは分かる。

でも、25歳くらいになっても同じなのはどうなのか?と思わなくもないけれど、
ずっと会っていなかった2人が、昔の関係性に引きずられてしまうのは
仕方がないのかとも思います。
・・・でも、中学生の高木さんはそれなりに子悪魔的な魅力があって可愛いけど、
大人の高木さんは、単にめんどくさい女に見えてしまった・・・。

終盤、教室で2人が話す長~いシーンがあるのです。
それはやっと2人が本音を話す大事なシーンではあるのですが、
このシーンもやたらと長いだけで、今度はめんどくさい人たちと思ってしまった・・・。

でも、西片が受け持つ少年少女たちの、青く硬質な思いがなんかステキでした。
ここのところはよいと思います。

高木さんの聖地、香川県小豆島で全編撮影ということで、
美しい風景やのどかな町の様子は堪能できますが・・・。
アニメで楽しむだけでよかったかな?

 

<Amazon prime videoにて>

「からかい上手の高木さん」

2024年/日本/119分

監督:今泉力哉

原作:山本崇一朗

出演:永野芽郁、高橋文哉、鈴木仁、平祐奈、白鳥玉季、江口洋介

 

からかわれ度★★★★☆

少年少女の思い度★★★★☆

満足度★★★☆☆


しあわせのマスカット

2025年01月22日 | 映画(さ行)

お菓子でも果物でも、おいしいものは人を幸せにする

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「消えた初恋」以来、福本莉子さんのファンなもので・・・。

北海道から修学旅行で岡山を訪れた相馬春奈(福本莉子)。
入院中の祖母へのお土産に、ぶどうの女王、マスカット・オブ・アレキサンドリアを
買おうとしていたのですが、財布を落としてしまい買うことができません。
しかたなく手元に残ったお金でアレキサンドリアを使った
和菓子「陸乃宝珠」を買い、祖母に持ち帰ります。
祖母はとても喜んでくれて、春奈自身もそのおいしさに感激。
やがて春奈は、その和菓子を製造している岡山の老舗和菓子メーカーに就職します。

しかし、何をやっても失敗ばかり。
いろいろな部署をたらい回しにされたあげく、
会社が提携しているぶどう農家の援農に派遣されます。
その農家の主、秋吉(竹中直人)は、とんでもなく偏屈で、
手伝いなどいらないと春奈を拒否。
それでもなんとか頑張ろうと春奈は思うのですが・・・。

マスカットと言うことで、農家で頑張る話かと思いきや、和菓子屋さんに就職。
これは「和菓子のアン」の流れかと思いきや、
結局やはりぶどう農家へと向かう話なのでした。

何をやっても失敗ばかりという春奈ですが、
その失敗の影には人の良さがあって、よきキャラクターですね。
北海道出身というのにもちゃんと彼女の背景があるのです。

心が温かくなるお仕事ストーリー。

この和菓子屋さんは、大手の「源吉兆庵」で、「陸乃宝珠」も実在します。
今度買ってみようかな・・・。

<Amazon prime videoにて>

「しあわせのマスカット」

2021年/日本/93分

監督:吉田秋生

脚本:清水有生

出演:福本莉子、中河内雅貴、本仮屋ユイカ、田中要次、長谷川初範、竹中直人

一生懸命度★★★★★

満足度★★★.5

 


「成瀬は信じた道をいく」宮島未奈

2025年01月20日 | 本(その他)

成瀬よ、信じた道をいけ

 

 

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成瀬の人生は、今日も誰かと交差する。
「ゼゼカラ」ファンの小学生、娘の受験を見守る父、
近所のクレーマー主婦、観光大使になるべく育った女子大生……。
個性豊かな面々が新たに成瀬あかり史に名を刻む中、
幼馴染の島崎が故郷へ帰ると、成瀬が書置きを残して失踪しており……!? 
読み応え、ますますパワーアップの全5篇!

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宮島未奈さん「成瀬」シリーズの2巻目。

前巻ですっかり成瀬のファンになってしまいましたが、
本巻も期待を裏切らない面白さ。

彼女を取り巻く様々な人物が語り手となって、成瀬の姿を浮かび上がらせていくわけですが、
相変わらず成瀬は、変人で、天才で、まっすぐで、正義の味方です!

 

まずは、小学生の北川みらい。
彼女は「ゼゼカラ」のファンで、このたび総合学習の
自分たちの住む地域で活動する人のことを調べるという課題で、
ゼゼカラを調べることにしたのです。
その時の成瀬は高校生。
無事に成瀬本人と対面することができたみらいは、成瀬にインタビューします。
地域を愛し、この地から世界を目指そうという成瀬にあこがれたみらいは、
成瀬のパトロールにも同行するように・・・。

 

お次は、なんと成瀬の父親、成瀬慶彦。
あの変人成瀬からは想像がつきにくい、普通に、いや普通以上に娘が大好きなパパ。
成瀬のパソコンで一人暮らし用の物件を検索した履歴を見てしまい、
娘が京都の大学に合格したら、家を出て
一人暮らしをはじめようと思っているらしいことを知って動揺します。
いやいや、もっと一緒に暮らしたい。
まだ早い。
そう思う父ですが・・・。

 

その次は、成瀬が無事京大生となり(実家から通っている)、
スーパーでバイトをはじめますが、そのスーパーの「お客様の声」に
こまごまとクレームを書き込むことを生きがいにしている主婦、呉間。
なんともユニークな登場人物設定。
しかしこれはこれでまた、実に面白く成瀬との交流が始まっていきます。

 

次には、成瀬と共にびわ湖大津観光大使となった篠原かれん。
彼女は祖母、母、自分と3代にわたってびわ湖の観光大使となることだけを目指して
これまで生きてきたという強者。
一緒に観光大使を務める成瀬はいかにも変わっていて、
付き合いにくいと感じてはいたのですが、
次第に彼女の生き方にひかれていきます。

 

そして最後は成瀬のゼゼカラの相棒にして、親友の島崎みゆき。
彼女は東京の大学に進学し、成瀬とは離ればなれになっていたのですが、
年末に成瀬に会おうと、成瀬の家を訪ねてきたのでした。
ところが、「探さないでください」とだけ書き置きを残して、成瀬は行方不明だという。
島崎は、ここまでの登場人物をすべて巻き込んで、成瀬の捜索をはじめます。

 

はあ~。
面白すぎて一気読み。
というか、読み終わるのがもったいない感じでした。

 

「成瀬は信じた道をいく」宮島未奈 新潮社

満足度★★★★★


お母さんが一緒

2025年01月18日 | 映画(あ行)

最後まで登場しない母

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本作、舞台がほとんど旅館の一室で、会話によってストーリーが進んでいくということで、
舞台臭がプンプンする・・・と思ったら、やはりでした。

ペヤンヌマキ主催の演劇ユニット「ブス会」が2015年に上演した同名舞台をもとに、
橋口監督が自ら脚色を手がけ、
CS放送「ホームドラマチャンネル」が制作したドラマシリーズを
再編集して映画化したもの、とのこと。

親孝行のつもりで、母親を温泉旅行に連れてきた三姉妹。

長女・弥生(江口のりこ) 
美人の妹たちにコンプレックスを持っている。独身。

次女・愛美(内田慈)
優等生の長女と比べられ、自分の能力を発揮できなかった。独身。

三女・清美(古川琴音)
姉たちを覚めた目で見ている。
今結婚しようと思っているカレシを皆に紹介したい。

ということで、母を伴い温泉旅館に到着したところから物語は始まります。
さてしかし、お母さんは最後の最後まで画面には出てきません。
旅館の別室で過ごしているというテイで、
主に三姉妹の会話でストーリーが進んでいきます。

しかしこの3人と母親は、常からあまりうまくいっていない。
そもそも結婚が失敗だったと、なにかといえば愚痴る母は、
そのほかについても思考がすべてネガティブ。
どんなことにも文句を付け、姉妹らにも優しい言葉をかけたことがほとんどない。

そんな母親の影響が彼女らにも多少あるようで・・・。


長女はなんとも母親そっくりでネガティブ思考。
旅館に着いたそうそう、露天風呂に虫が浮いているとか、
部屋がかび臭いとか、さっそく文句の言い放題。


次女は常にできの良い長女と比べられることに嫌気がさしていて、
長女に対しての反感いっぱい。


三女は少し気楽な存在ではあるものの、
母と姉2人の言動の荒さに、イヤになっている。
結局現在は姉2人が家を出て、自分に母が押しつけられているのも納得できない。
しかしとにかく、せっかく家族みんなが集まる機会なので、
この際結婚したいと思う相手をみんなに紹介しようと、
カレシをこの旅館に呼び寄せるのです。

ポンポンとああ言えばこう言うという姉妹たちのやりとりがとにかく面白い。
しかし、そこまで言っちゃあお終いでしょうというところまで軽く踏み込んでしまう。
普通の友人付き合いならこの時点でアウトかもしれません。
けれどそうならないのが家族なんだなあ・・・。
ついその後には、互いに共感して慰め合ったりもする。
おかしなものです。

 

清美のカレシ、タカヒロ(青山フォール勝ち)がまた
存外にイイ奴なんで、このムコ様は思いがけない拾いものだと思います。

 

<Amazon prime videoにて>
「お母さんが一緒」

2024年/日本/106分

監督:橋口亮輔

原作:ペカンヌマキ

脚本:ペカンヌマキ、橋口亮輔

出演:江口のりこ、内田慈、古川琴音、青山フォール勝ち

罵り合い度★★★★☆

家族度★★★★☆

満足度★★★★☆


駒田蒸留所へようこそ

2025年01月17日 | 映画(か行)

ウイスキーを知ろう

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世界から注目されるようになったジャパニーズウイスキーの
蒸留所を舞台とするアニメストーリー。

日本酒なら醸造所、ウイスキーだから蒸留所。
そんな違いもよく分っていなかった私ですが、
本作に登場するニュースサイト記者の高橋光太郎もしかり。
私たちをゆったりとウイスキー製造の世界へ誘ってくれます。

亡き父の後を継ぎ、家業「駒田蒸留所」の社長に就任した駒田琉生(るい)。
災害の影響で製造できなくなった幻のウイスキー「KOMA」の復活を実現したと思い、
日々奮闘しています。

そんなところへ、ニュースサイトの新米記者、高橋光太郎が取材にやって来ます。
光太郎は、自分が本当にやりたいことを見つけられず、転職を繰り返して来ました。
この度の仕事も、ウイスキーに興味はないし、まったくやる気がなくて、
事前の下調べもおざなり。

そんな彼には、父親の後を継いでやりたい仕事をしている琉生が
「良いご身分」に思えてしまったのですが、
実はそんな簡単なことではなかった・・・。

経営難の蒸留所をまったくド素人の自分が継ぐと言う重圧、兄との確執・・・。
様々な困難を乗り越えながらも
夢に向かって力を尽くしている琉生の姿を見るうちに、
光太郎も変わっていきますね。

なかなか心地よい成長の物語です。
ウイスキーは日頃あまり縁がなく、
どちらかというと日本酒の方に親しみを感じておりますが、
時にはウイスキーもよさそうです。

<Amazon prime videoにて>

「駒田蒸留所へようこそ」

2023年/日本/91分

監督:吉原正行

原作:KOMA復活を願う会

出演(声):早見沙織、小野賢章、内田真礼、細谷佳正、鈴村健一

ウイスキー蘊蓄度★★★☆☆

家族愛度★★★☆☆

満足度★★★.5


グランメゾン・パリ

2025年01月15日 | 映画(か行)

お腹いっぱい

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テレビドラマ「グランメゾン東京」の続編映画版。

正直これは後で配信になってからで良いなと思っていたのですが、
他にタイミングよく見られるものがなかったという成り行きで、拝見。
とはいえ、以前のテレビドラマもこのお正月版も
しっかり見ていたので準備はバッチリです。

「グランメゾン東京」が三つ星を獲得した後。

尾花(木村拓哉)と早見(鈴木京香)は、パリに新店舗「グランメゾン・パリ」を立ち上げ、
アジア人初となるミシェラン三つ星獲得を目指していました。
しかし、この地でアジア人が満足のいく食材を手に入れることは難しく、二つ星止まり。
尾花はかつての師と、次のミシェランで三つ星をとらなければ店をやめ、
フランスから出ていくと約束してしまいますが・・・。

フランス料理の本場で、アジア人が開く店に
最上級の品物をそう簡単は売ってもらえない・・・という困難が、
本作の最大の難関ですね。
それと尾花があまりにもオレサマ体質なので、ついて行けないスタッフもいる・・・と。
そして、尾花のよきパートナー、早見との決別。

これら問題を乗り越えつつ、最後にはスタッフ皆、一致団結して取り組んで・・・
というお定まりのエンディングへと突き進んでいくわけ。

あ、厨房スタッフの1人が韓国人(オフ・テギョン)で、借金を抱えていて、
そのスジの連中に付け狙われているというエピソードは斬新でした。

結果、やはりこれはテレビドラマでもよかったし、
後に配信で見るので十分だったのではという感じです。
普通に面白くはあるけど。

三つ星のフレンチなんて、一体どれだけの人が食べるのよ・・・って、
反感を持ってしまう年金生活者なのであります・・・。
三種の肉が入っているパイなんて、
見るだけでくどくて、お腹いっぱいでした。

<シネマフロンティアにて>

「グランメゾン・パリ」

2024年/日本/117分

監督:塚原あゆ子

脚本:黒岩勉

出演:木村拓哉、鈴木京香、オク・テギョン、正門良規、冨永愛、及川光博、沢村一樹

 

高級料理度★★★★★

チームワーク度★★★★☆

満足度★★★☆☆


「ペッパーズ・ゴースト」伊坂幸太郎

2025年01月13日 | 本(ミステリ)

未来を予見する教師は、世界を救えるか?

 

 

* * * * * * * * * * * *

中学教師の檀は、猫を愛する妙な二人組の小説原稿を生徒から渡される。
さらに他人の未来を観る力を持つことから謎の集団とも関わり始め……。
苦い過去を乗り越えて檀先生は、世界を、自分を救えるのか!? 
毎ページすべてが楽しく愛おしい、一大エンターテイメント!

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まずは本作の主人公、檀先生の秘密をお教えしましょう。
檀先生(高校教師)は、人の「翌日」を見ることができるのです。
それは直接会って話をするなど、その人の「飛沫」をあびなくてはならないなど
いろいろな制約があって、しかも自分自身の明日は見ることができません。

この力で、恐ろしい事故や災害を予見することはできるのですが、
だからといってそう簡単に人々は救えない。
あなたは明日事故に遭いますよ、と言って信じる人はどれだけいるでしょう。

檀先生は、せっかくの力もなんの役にも立たないことを悔しく思っているのです。
そんなある日、彼の教え子のお父さんが、
とある場所に監禁されることを知ってしまい・・・。

 

さてこれが本作のメインストーリーの始まりですが、
もう一つ、別のストーリーが挿入されていきます。
それは、檀先生の教え子の1人である布藤鞠子が描く小説。
鞠子は書き上がった原稿を檀先生に読ませるために持ってくるのですが、
その内容がそのままストーリーに少しずつ挿入されているのです。
それは猫を虐待する者に復讐することを仕事としている2人組、
ロシアンブルとアメショー。

この2人が
「自分たちは実は、誰かの小説の中の登場人物に過ぎないのではないか?」
などという会話を交わします。

そしてなんと、檀先生の現実の中に、この2人がそのまま登場。
なんともやられますね。
洒落た会話と伏線。
これぞ小説の妙。
だから伊坂幸太郎さんの本はやめられない。

 

「ペッパーズ・ゴースト」伊坂幸太郎 朝日文庫

満足度★★★★★


ツイスターズ

2025年01月11日 | 映画(た行)

科学で自然災害に立ち向かえるか

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確か以前、似たような作品を見た・・・と思ったのですが、
それは1996年「ツイスター」でした。
・・・というか、それからすでに30年近く経っているということに驚き・・・。

本作は、その続編といってもいいものなのですが、直接のつながりはありません。
「ツイスター」同様、竜巻のメカニズムを解析しようとする研究者と、
ただ竜巻を追いかけ間近に見ることを楽しもうとする人たちが登場し、
対立したり協力したりするという骨子が同じになっています。

ニューヨークで自然災害を予測し、被害を防ぐことを仕事としている
気象学の天才、ケイト(デイジー・エドガー=ジョーンズ)。
故郷オクラホマで史上最大規模の巨大竜巻が連続して発生していることを知ります。
そこへ、学生時代の友人、ハビ(アンソニー・ラモス)が訪ねて来て、
オクラホマの竜巻の調査に参加してほしいと頼まれます。

ケイトは学生時代竜巻に関してつらい過去があって、
現場からしばらく離れていたのでした。
けれど、ハビのたっての願いということで、彼に協力することに。

オクラホマで調査を始めたケイトの前に現れたのは、
ストームチェイサー兼映像クリエイターという、軽そうな男・タイラー(グレン・パウエル)。
ここがまさに現代を表わしているわけですが、
つまりタイラーは、竜巻を追いかけ、その姿を映像に捉えてSNSで発信、
ということで人気を得ているのです。

ケイトとタイラーははじめ反発し合いますが、次第に心を通わせていきます。
そして、かつてケイトが手がけていた重要な竜巻についての案件を再び試みようとします・・・。

 

恐いもの見たさで、竜巻の生の映像が配信されたとしたら、
やっぱり見たくなってしまうのは分ります。
でも、それで建物が破壊されたり、人命が失われたりすることもあるので、
お祭り騒ぎのようにしてもいられない・・・。

ケイトは、子どもの頃から、気象、特に竜巻のことを「読む」ことに長けているのです。
けれど、実際身をもってその恐ろしさを体験している。
だから、実際の調査に加わるようになるのは必然ですが、
本作はさらに踏み込んで竜巻を「手なづけ」ようとします。

科学は天災と戦う力になるのか・・・。
本作の科学は、実用に足るのかどうか分りませんが、そうであったらいいなあ・・・と。
でも、そうした場合の弊害がまたありそうで、恐いですけどね。

<Amazon prime videoにて>

「ツイスターズ」

2024年/アメリカ/122分

監督:リー・アイザック・チョン

出演:デイジー・エドガー=ジョーンズ、グレン・パウエル、アンソニー・ラモス、キーナン・シブカ

竜巻の迫力度★★★★☆

満足度★★★☆☆

 


Cloud クラウド

2025年01月10日 | 映画(か行)

ムクムクと増殖する憎悪

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菅田将暉さん主演ということで興味はあったのですが、見そびれていました。
早くもAmazon prime videoに登場。

町工場で働きながら転売屋として日銭を稼ぐ吉井良介(菅田将暉)。
転売について教わった先輩、村岡(窪田正孝)からの儲け話にも乗らず、
コツコツと転売を続けています。

ある時、勤務先の工場の社長・滝本(荒川良々)から管理職への昇進を打診されても、
断って、辞職してしまい、転売業に専念することに。

郊外の湖畔に事務所兼自宅を借りて、恋人・秋子(古川琴音)との生活をスタートさせます。
仕事のアシスタントとして、地元の若者・佐野(奥平大兼)を雇い、
転売業は軌道に乗り始めますが・・・。
身の回りで不審な出来事が起こり始めます。

 

前半、特に何も起こらないのに、恐いのです。
吉井の身の回りの人々が、何を考えているのかよく分らず、とにかく不気味。
いや、そもそも吉井自身が、周囲の人に関心がない。
いや、周囲の人の感情に関心がないと言うべきか。

 

吉井がやっている「転売」というのは、
何でもかまわないので、とにかく人が興味を抱くかも知れない、格安物品を見つける。
それを実際、格安で買い付けて、ネットで売るわけです。
それも、購入した金額から想像もつかないような高額の値を付けて。
それで買い手がつかない場合は、値を下げていく。

時には、倒産した工場の売れ残り品を買いたたいて、
高額で販売すると、瞬く間に完売。
工場主の無念の気持ちなど少しも気にかけません。

また、吉井にも本物か偽物かよく分らない(というか、興味がない)バッグも、
格安で買い付けて、高額で販売。
高額で購入した人が偽物と分った時の感情にも、まったく興味がない。
とにかく、儲かれば良い。
・・・と言うか、ほとんどそれはギャンブルで、
依存症になっているようにも見受けられます。

吉井にとっては周囲の人たちも、ネットの向こう側にいる人々と同じ。
直接に感情を交わすものではないと思っているかのようです。

しかし、実際はそうではないですよね。
周囲の人々にも、ネットの向こう側の人々にも感情はあって、
特に、吉井への「憎悪」の感情を膨らませていくのです。
そしてその膨らんだ憎悪は、爆発的に成長して
どす黒い狂気の集団へとエスカレートしていく・・・。

さて、でもこんな吉井にも、彼女の秋子には若干の感情があったようで・・・。
しかしこの秋子も、何を考えているのかよく分らなくて。
どんなことになるのか、要注目。

そして最も謎なのは、奥平大兼演ずるところの、佐野。
一体どんな利があって、佐野はあくまでも吉井のアシスタントであろうとするのか・・・?
謎は謎のままというのがまた、ミステリアスで面白い。

ダークサイドの窪田正孝さんというのも、めずらしいですね。

 

<Amazon prime videoにて>

「Cloud クラウド」

2024年/日本/123分

監督・脚本:黒沢清

出演:菅田将暉、古川琴音、奥平大兼、岡山天音、荒川良々、窪田正孝

 

ミステリアス度★★★★☆

狂気度★★★★☆

満足度★★★★☆


大綱引の恋

2025年01月08日 | 映画(あ行)

地域再生

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鹿児島で400年以上の伝統を誇る川内(せんだい)大綱引を題材にしています。

 

35歳独身の有馬武志(三浦貴大)は、東京に進学、大手企業に就職するも挫折し、
川内の実家に戻って来ています。
今は、父の建築会社を手伝っていますが、
大綱引の師匠でもある父から、早く嫁をもらってしっかりした後継ぎになれと言われています。
ある日武志は、韓国人研修医、ジヒョン(知英)と知り合い、心を通わせるように。

またそんな頃、母、文子が定年退職を宣言し、家事を放棄したため、
やむなく武志と父、妹(比嘉愛美)で家事を分担しますが、
母への不満、不信感を募らせていきます。

さて、いよいよ年に1度の一大行事である大綱引の日が迫ります。
この行事の大役の一つを武志は務めたいと思っているのですが、
そのためには役員から選ばれなければならないのです・・・。

 

こうした地方の伝統行事を描くときに、
1度東京へ出て、夢破れて戻って来た若者が登場する、
というのはお定まりみたいになっていますね。
まあ、都会に出たからこそ、地元の良さがよく分るということなのかもしれません。

 

武志は、東京での仕事に失敗したというわけではなくて、
リーマンショックで会社がダメになったためにやむを得ず帰ってきた、
ということではあるのです。
でも、父の仕事仲間や近隣の人々からの人望もあり、
彼なりに前向きに頑張っています。
しかし、父は彼を認めようとしない。
1度自分の会社を継がないで東京へ行ってしまったのに、
のこのこ帰ってきたということが気に入らないのです。

そんな、父と息子の確執を描きつつ、
次第に大綱引の行事へ向けて話は盛り上がっていく・・・。

ただ単に綱引をする、というわけではなく、いろいろな手順や決まり事があって、
まさに、続けていかないとそれっきり途絶えてしまいそう。
見ているだけでも血湧き肉躍る感じになりそうです。

それと、母親が60になったのでおかみさんも母親も止める!と宣言して、
仕事の事務方からも家事からも手を引いて、外出がちになってしまったというのには、
拍手してしまいたくなったのですが、実はそれにも事情があったのでした。

けれどこの家の家事を、しぶしぶながらも他の家族みんなで公平に分担して、
ナントカこなせるようになっていく様は、見事でした。
主婦も、たまにはストライキ、やってみるべきかも。

武志の幼馴染み、典子(松本若菜)は、バツイチの子持ちですが、
実は武志に思いを寄せているらしいのも、ちょっと切なくてステキでした。
自衛隊員、と言うのもナイス!!です。

 

・・・、と、色々見所があって、大綱引というすばらしい伝統行事も知ることができて、
一見の価値ありです。

 

<Amazon prime videoにて>

「大綱引の恋」

監督:佐々部清

出演:三浦貴大、知英、比嘉愛美、中村優一、松本若菜

 

伝統行事を知る度★★★★★

家族愛度★★★★☆

満足度★★★★☆


「料理をつくる人」西條奈加他

2025年01月06日 | 本(その他)

料理にまつわるあれこれ

 

 

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どんな料理であっても、そこにはつくり手の感情が込められていると思います。
プロの作る料理はお客さまを満足させるために、
家庭料理は食事を共にする家族の健康や団らんのために、
たとえ自分だけしか食べない簡単なものであっても、
思いは注ぎこまれているのです。
本書では、そんな「料理をつくる人」たちをテーマにした短編を
六名の作家にご執筆いただきました。
心とお腹を満たす極上の物語を、思う存分ご堪能くださいませ。

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■収録作品

西條奈加「向日葵の少女」

千早茜「白い食卓」

深緑野分「メインディッシュを悪魔に」

秋永真琴「冷蔵庫で待ってる」

織守きょうや「対岸の恋」

越谷オサム「夏のキッチン」

 

「料理をつくる人」をテーマにすえたアンソロジーです。
シェフあり、料理好きあり、まったくの初心者あり、とバラエティに富んでいます。
料理は日常でありつつも、生きることに直結すること。
そして至福の時間をもたらすものでもあり、ストーリーにはもってこいですもんね。

 

西條奈加「向日葵の少女」

私の愛読書である西條奈加さんの「神楽坂日記シリーズ」からの一篇。
そうでした、ノゾムくんは、ハンパではない料理男子でした。
冒頭を飾るにふさわしい。
こんなところでまた会えて、嬉しい限り。

 

深緑野分「メインディッシュを悪魔に」

ファンタジーテイスト。
深緑野分さんは、ファンタジーの方に舵をきったままなのでしょうか? 
私はやはり、歴史を絡めた長編ストーリーが読みたい・・・。

 

秋永真琴「冷蔵庫で待ってる」

正直、私は知らない作家さんでしたが、あ、北海道出身でしたか。
と、急に親近感が湧く。
本作、しっかりラブストーリーで、しかも失恋ものなんですが、
ラストがすごく気に入りました。
散々気を持たせたあげく帰ってこようとする男に向けた一言が
なんとも気持ちいい!!

 

越谷オサム「夏のキッチン」

小学生の、料理がまったく初めての男子が、
誰もいない家で、空腹でたまらず、
カレールーの箱の作り方を頼りに、1人でカレーを作ります。
なんともたどたどしくて、ハラハラしてしまいますが、
まったく初めてというならこんなものかも知れません・・・。
けど、小学6年で初めては遅すぎる。
少なくとも、子どもにも小さいうちから調理を見せて、
お手伝いさせてほしいと思うのでありました。

が、最後にほろりとさせられる事情が明かされまして、やられました。

 

「料理をつくる人」 創元文芸文庫

満足度★★★★☆