映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

Mr.ホームズ 名探偵最後の事件

2016年03月31日 | 映画(ま行)
サンショウでぼけ知らず???



* * * * * * * * * *

本作のシャーロック・ホームズ役は、
ロード・オブ・ザ・リングのガンダルフでお馴染みのイアン・マッケラン。
私たちのよく知っているシャーロック・ホームズの老後を想定した物語となっています。
その年令というのがなんと、93歳。
その彼が日本への旅行から英国・サセックスの自宅に帰ってくるところから物語は始まります。
時代は日本の敗戦直後。
ホームズは日本に「山椒」を探しに行くのです。
そこでホームズを案内するのが真田広之演じる「ウメザキ」。
最近は真田広之さんも渡辺謙さんに並んで、
海外でも活躍する日本人の一人ですね。



さて、93歳のホームズは自らの記憶の退行に悩んでいるのです。
人の名前を覚えられないし、最近のこともうっかり忘れることが多い。
当然、以前のこともぼんやりと霞んできている。
そういう記憶力の衰えに「山椒」がいいという話を聞いたらしいのですね。

…そうなのか!? 
私もせっせと山椒を食べることにしよう、などと思ったりして。

ホームズは現在探偵業は引退し、田舎で養蜂を趣味として暮らしているのですが、
探偵を引退した原因となったのが30年前のある事件。
未解決のままのその事件の詳細を、すでに彼は忘れかけてしまっているのですが、
山椒の効果なのや否や、徐々に思い出してゆく。
記憶の断片をつなげた結果こそが本作のストーリーです。



30年前、ホームズはある男性から
不可解な行動を取る妻の素行調査を依頼されました。
いつものように、彼は結局正しい推理を導き出すのですが、
その結果彼は心に大きなダメージを追うことになってしまうのです。
明晰な論理は大事だけれども、人の心に寄り添わなければだめなのだ・・・と、
もしかしたら最近のミステリへの警鐘なのかもしれません。
本作、93歳のホームズと身の回りの世話をしている女中、
そしてその息子ロジャーのことが描かれているところが良いですね。
ロジャーのように利発な少年は大好きです。



しかし、実のところ記憶力の減退に悩むヨボヨボのシャーロック・ホームズなんて、
あまり見たくはなかった・・・。
これをホームズの晩年とすることにさして意味があるとも思えません。
終戦直後の日本の光景というのも、
いかにも外国人が描く日本で、違和感満載。
原爆で壊滅状態の広島でホームズは山椒を発見して持ち帰るのですが、
それってすごく危険ではあるまいか・・・。
まあ、放射能で汚染されたものを食べても93歳なら問題ないか・・・。
日本が登場するのは嬉しいのですが、
だからこそ、かえってヘンテコに感じてしまったのが残念でした。

「Mr.ホームズ 名探偵最後の事件」
2015年/イギリス・アメリカ/104分
監督:ビル・コンドン
出演:イアン・マッケラン、ローラ・リニー、マイロ・パーカー、真田広之、ハティ・モラハン
奇天烈な日本度★★★★☆
満足度★★★☆☆

「明日のことは知らず 髪結い伊三次捕物余話」 宇江佐真理

2016年03月30日 | 本(その他)
ヘイサラバサラって???

明日のことは知らず 髪結い伊三次捕物余話 (文春文庫)
宇江佐 真理
文藝春秋


* * * * * * * * * *

昔はよかったと言ったところで、時間は前に進んでいくばかり。
過去を振り返っても仕方がない。
本作のタイトル通り、明日のことはわからないのである…。
大人気シリーズが誕生して二十年。
髪結いの伊三次と、その恋女房で深川芸者のお文。
仲の良い夫婦をめぐる人びとの交情が、時空をこえて胸を震わせてくれます。


* * * * * * * * * *

表題、「明日のことは知らず」では伊与太と茜、それぞれのことが書かれています。
絵師の修行に出ている伊与太は、先に一度
他の弟子たちと上手く行かずに師匠のもとを飛び出したのですが、
無事戻って修行を続けています。
それにしても、まだまだ序の口。
思い通りにならない事ばかり。


一方茜は松前藩の屋敷で奥女中を始めました。
実際はそこの若殿である良昌のお相手役。
良昌は病弱のため、本来なら藩主の後を継ぐべきところが、
それが難しいとされています。
であれば誰を立てるのか。
松前藩では跡目相続に様々な人々の思惑がからみ、
なんとも嫌な雰囲気が立ち込めているのです。
茜は何故か良昌にすっかり気に入られてしまったことから、
周囲がまたいらぬ動きを見せ始める。
心休まらず、不安を抱えた毎日。


茜と伊与太は、それぞれが壁に突き当たった時、
それぞれお互いをを思い浮かべるのです。
なにも知らず無邪気に喧嘩したり笑ったりしていたあの日・・・。
その思い出で、ほんのいっときでも心に火を灯して、
また明日に立ち向かってほしい。
そう願わずにいられません。


「やぶ柑子」は、当時ならではの切ないストーリー。
藩が取り潰しとなったために路頭に迷った武士たちの話が描かれます。
なんとも理不尽な運命ながら、どうすることもできない。
新たな仕官の口もそうそうあるわけではありません。
明日のお米にも困るのに、武士としての対面は保たなければならない。
それでもなんとか細々と暮らしていたある浪人は、
しかし、妻がついに家を出て行ってしまったと思った時に・・・。
文庫のあとがきによると、
本章は昭和12年の映画「人情紙風船」という作品を踏襲しているそうです。
ただし、ラストは宇江佐真理さんらしく、
暖かな思いに包まれるように変わっています。


そしてラストの「ヘイサラバサラ」。
変な題名なんですが、伊三次が珍しく事件ではなくて
「ヘイサラバサラ」という名前の奇妙なモノの正体を突き止めてほしいと頼まれるのです。
どうやら何かの薬として使われるものらしいのですが・・・。
まあ正体は読んでのお楽しみ。
こういうストーリーもちょっと楽しい。

「明日のことは知らず 髪結い伊三次捕物余話」 宇江佐真理 文春文庫
満足度★★★★☆

パレードへようこそ

2016年03月29日 | 映画(は行)
差別や偏見を乗り越えて



* * * * * * * * * *

1984年、イギリスであった実話を元にしています。
実話であるからこそ納得。
もしこれがフィクションだったら、
そんなことがあるわけない、キレイごとすぎる・・・と思ってしまいそうです。



時はサッチャー政権下、
炭鉱閉鎖に反対する炭鉱労働者たちがストライキを始めました。
ロンドンに住む同性愛者の一人、マーク(ベン・シュネッツァー)が、
警官に目の敵にされている彼らにシンパシーを覚え、
炭鉱労働者を支援する募金活動を始めるのです。
しかし募金は集まったものの、炭鉱組合からは無視されてしまいます。
唯一ウェールズ奥地の炭鉱町が受け入れる。
とは言え、たまたま勘違いだったのですけれど・・・。
張り切ってその町へのりこんだマークたちですが、人々の目は冷たい・・・。
でも、偏見なく彼らを受け入れる人々もいたのです。
そして次第にその和は広まっていく・・・。



サラリと彼らを受け入れるヘフィーナ(イメルダ・スタウントン)や、
クリフ(ビル・ナイ)がよかったですねー。
声高に差別や偏見はよくないなどと言ったりしない。
ごく自然体というところがいい。
女性や年寄りのほうが弱者の気持ちをよく知っているからなのかもしれません。
また本作は、自分がゲイで、
このような支援活動を行っていることをずっと家族に言えなかったジョー(ジョージ・マッケイ)の、
成長物語でもありますね。
ゲイの友人達も、そのことを責めたりしません。
みな、同性愛ということで、家族と少なからず軋轢を引き起こしているからにほかなりません。
自分らしさのままで、生きていくこと。
清々しいです!



本作のラスト、同性愛者たちのパレードのエピソードには感動させられます。
手と手をつなぐ、「連帯」がそこにある。



しかし、この活動のリーダーであるマークは、
エイズで若くして亡くなっているのだとか。
現実はどこまでもシビアです・・・。

パレードへようこそ [DVD]
ビル・ナイ,イメルダ・スタウントン,アンドリュー・スコット,ジョージ・マッケイ,ベン・シュネッツァー
KADOKAWA / 角川書店


「パレードへようこそ」
2014年/イギリス/121分
監督:マシュー・ウォーカス
出演:ビル・ナイ、イメルダ・スタウントン、ドミニク・ウェスト、パディ・コンシダイン、ジョージ・マッケイ、ベン・シュネッツァー

「パレードへようこそ」
歴史発掘度★★★★☆
連帯度★★★★☆
満足度★★★★★

「月は誰のもの 髪結い伊三次捕物余話」 宇江佐真理

2016年03月27日 | 本(その他)
シリーズ初の描きおろし!!

月は誰のもの 髪結い伊三次捕物余話 (文春文庫 う 11-18)
宇江佐 真理
文藝春秋


* * * * * * * * * *

江戸の大火で別れて暮らすことになった髪結いの伊三次と芸者のお文。
仲の良い夫婦をめぐる騒動を夜空にかかる月が見守っている。
伊三次の色恋沙汰、お文の父親のこと
、八丁堀純情派に屈した本所無頼派のその後・・・。
長女・お吉が誕生する頃の、語られることのなかった10年を描く傑作長編。
大人気シリーズ、初の書き下ろし!


* * * * * * * * * *

さて、伊与太と茜の行末を案じて終わった前巻ですが、
本巻はちょっとインターバル的に時間を巻き戻し。
なんと初の書き下ろしだったのですね。
だから章立てがなくて、一冊まるごとの長編となっているのですが、
実際は幾つかのエピソードで構成されているので、
あまり違った感じはしません。
あの大火で家を失った直後の様子が描かれています。


伊三次は姉と義兄のところ、お文さんは伊与太と共に勤め先の「前田」のところに
身を寄せることにして、やむなく別居。
そんな時にお文が第2子を身ごもっていることが分かります。
そんなある時、お文は図らずも、実の父親と対面。
互いにはっきりとは名乗り合わないけれども、
しっとりした父娘の情愛が通い合います。
また、伊三次にはなんと珍しい、ちょっぴり浮ついた話が・・・!! 
無論実際は何事もないのですが、お文さんには知られては、ちょっとまずい。
しかし、女房の感を甘く見てはいけません。
お文さんはそんなことはお見通し。


「さて、つまらない話をしちまった。そろそろ蒲団に入ろう」
お文はそう言って腰を上げた。
伊三次は思わず、その手をとった。
あれ、とお文は驚いた声を上げた。
「子供達が目を覚ます」
お文は潜めた声で伊三次を制した。
「覚まさねェよ」
伊三次はそう言って行灯を吹き消し、お文を押し倒した。
「罪滅ぼしかえ」


本作、一番いいところのネタばらし。
しばらく龍之進中心の話が続いたので、
久しぶりの伊三次とお文さんのやり取り。
やっぱりいいもんですねえ・・・


「月は誰のもの 髪結い伊三次捕物余話」 宇江佐真理 文春文庫
満足度★★★★★


リリーのすべて

2016年03月26日 | 映画(ら行)
命がけの“自分”らしさ



* * * * * * * * * *

世界で初めて性別適合手術を受けたリリー・ヘルベの実話です。


1926年デンマーク。
風景画家のアイナー・ベルナー(エディ・レッドメイン)と、
その妻であり肖像画家のゲルダ(アリシア・ビカンダー)は
仲睦まじく暮らしていました。
ある時、ゲルダに頼まれアイナーが女性モデルの代役を務めるのですが、
そのことでアイナーの中に眠っていた女性の意識が目覚めてしまうのです。



次第に、“リリー”として女性の姿でいるほうが
自然でいられることに気づくアイナー。
はじめのうちは面白がって、
アイナーにドレスを着せ化粧を手伝い、パーティーにも連れ出していたゲルダ。
そしてまた、アイナーの女性姿、リリーをモデルにした絵が
評判を呼びどんどん売れ始めてしまうのです。
しかし次第にアイナーではなくリリーが本体となっていく夫に不安を感じ始める・・・。



性同一障害は、今でこそ世間に広く認められていることですが、
当時はただの変態か、もしくは精神病の範疇でした。
作中では治療と称して脳に放射線を浴びせるシーンまであり、
なんとも痛ましい限りです。
通常このような映画のストーリーであれば、まっさきに妻は夫を見限って出て行ってしまいそうですが、
このゲルダは違います。
夫が、何人の医者にかかっても、精神病と言われることに納得出来ない。
リリーこそが夫の本来の姿で、たまたま男性の姿をしていることが間違いなのだと確信します。
ついにはこのゲルダが外科医を探しだし、世界初の手術となるのですが・・・。



アカデミー助演女優賞も納得のアリシア・ビカンダーでした。
ゲルダは途中までは確かに『妻』だったのですが、
後半からはリリーと同性の『親友』、
あるいは『姉』のような立場になっていきますね。
そのことを彼女は実は淋しく思っているのですが、
たとえ『夫』を失ってもリリーの一人の人間としての生き方を尊重しようとします。
そういう、強くてしなやかな女性像を上手く浮き上がらせています。



一方、エディ・レッドメインですが、
見ているうちは、やや女性としてのしぐさがオーバーなような気がしていました。
でも考えてみると、リリーとして生きたいと願う彼女は、
あえて女性を演じるほかなかったのですね。
他の女性のしぐさを真似るシーンもありました。
ドレスや化粧、身のこなし。
体ではどうすることもできないからこそ、
見た目の「形」を完璧につくりあげようと務めていた。
そういう結果の、やや過剰な女性しぐさだったわけなのですね。



それにしても実話を元にした作品というのはそのストーリー運びにも圧倒されますが、
その結末にもまた驚かされるのです。
ひたすらに自分らしくありたいと願った結果というのが・・・。
圧倒されます。


「リリーのすべて」
2015年/イギリス/120分
監督:トム・フーパー
出演:エディ・レッドメイン、アリシア・ビカンダー、ベン・ウィショー、セバスチャン・コッホ、アンバー・ハード

医学の歴史発掘度★★★★★
満足度★★★★☆

彼は秘密の女ともだち

2016年03月25日 | 映画(か行)
傷つきながらも、自分らしくありたい



* * * * * * * * * *

親友のローラを亡くしたクレールは、
残された彼女の夫ダヴィッドと幼い娘リュシーを守ると誓います。
そこである日、ダヴィッドの家を訪ねてみると、
そこにいたのは亡き妻の服を着て娘をあやすダヴィッド。
始めは戸惑いを隠せなかったクレールですが、
ダヴィッドと秘密を共有するうちに、
いつしか彼を女性として受け入れるようになっていきます。



ダヴィッドには以前からそのような好みがあったらしいのです。
だけれどもローラと暮らしている間は特にそのような欲求は湧いてこなかった。
でもローラを亡くした途端に、
その心の隙間を埋めるように、女性の装いをするようになってしまった・・・。



人目を避け、時には奇異な目で見られ、傷つきながらも、
デヴィッドは自分らしくありたいと思い、ドレスを装う。
クレールは夫にダヴィッドとの仲を疑われたことで、しばらく彼と会わずにいるのですが、
久しぶりに男性の姿のダヴィッドにあった時に
「ヴィルジニア(=女性の姿の時のダヴィッドの名前)が恋しい」とつぶやくのです。
男とか女とかはもう問題ではなくて、
自分らしくあって輝いているヴィルジニアをクレールは愛したのですね。
この二人の思いは結局どんなものなのか。
よく考えたら男女なのだから、おかしくはない。
けれども微妙に世間の規範からは、ずれているのですが、
でもそれもまた美しいものだなあ・・・と、浸ってしまいました。



ワックスでムダ毛を脱毛し、胸にパッドを貼り付け・・・
そんなシーンは滑稽でつい笑いたくなってしまったりもしますが、
そんなところも含めて、愛すべき作品となっています。
装うという点では、ふだん無頓着なクレールが、
ヴィルジニアの女子力に感化されて、
ルージュを引いてみたり、ふだんあまり着ないワンピースを着てみたりするようになるのも面白いですね。



ダヴィッド役のロマン・デュリスといえば
あの「ニューヨークのパリ夫(パリジャン)」ですよね。
女っぽいなどと考えたこともなかったですが、
本作の彼は決してオーバーではないけれど、どこか女性的、
そしてドレスを纏えば魅力的。
ナイスでした。
これに気を良くして、エディ・レッドメインの「リリーのすべて」も、ぜひ見ることにしましょう。

彼は秘密の女ともだち [DVD]
ロマン・デュリス,アナイス・ドゥムースティエ,ラファエル・ペルソナ
ポニーキャニオン


「彼は秘密の女ともだち」
2014/フランス/107分
監督・脚本:フランソワ・オゾン
原作:ルース・レンデル
出演:エナイス・ドゥムースティエ、ロマン・デュリス、ラファエル・ペルソナス、イジルド・ル・ベスコ、オーロール・クレマン
倒錯度★★★☆☆
ロマンス度★★★★☆
満足度★★★★☆

不屈の男 アンブロークン

2016年03月23日 | 映画(は行)
ひたすら圧倒される



* * * * * * * * * *

アンジェリーナ・ジョリーの監督第2作目作品。
脚本がジョエル&イーサン・コーエンということもあって、
ただならぬ迫力のある作品となっています。



1936年のベルリン・オリンピック、陸上競技に出場し、
二次大戦中に日本軍の捕虜となった米軍パイロット、ルイ・ザンペリーニの実話です。
なにしろ彼の過酷な運命に圧倒されてしまうのです。
オリンピック出場後に、彼は兵役についたのですね。

しかしある時、飛行機の故障で海に墜落。
2人の仲間とともにゴムボートで海上を漂流することになってしまいます。
ほんの僅かな食料と水・・・。
時には荒れ狂う波。
結局47日間。
この内の一人は力尽きて途中で亡くなってしまいます。
こういう時はひたすら生きようとする気力がものを言うのだろうと思います。



さてところが、瀕死のところをようやく大きな船と遭遇し救い上げられたのですが、
なんとそれは日本軍の船。
どこか(?)南洋の島でしばし過ごした後、
東京の捕虜収容所に送られます。
それでも生死が紙一重の海上よりはまし・・・なはずでしたが、
ここにとんでもないサディスティックな日本人伍長が登場します。
彼はオリンピックに出場したというルイを目の敵にして、
ワケもなく彼を痛めつけます。
イジメです。



日本人兵士が意味もなく米軍捕虜を傷めつけるという話は
これまでにもありました。
まあ、日本人として見るのは辛いのですが・・・。
しかし本作はそういう日本そのものを敵視しているわけではありません。
ひたすらこのワタナベ伍長というクレイジーがかった「個」の問題にしているので、
意外とすんなり見ることができました。
このクレイジーな伍長のところが、いかにもイーサン兄弟だなあ・・・と思う次第。
一旦ワタナベは昇進したとしてこの収容所を離れるのですが、
その後捕虜が移送され、再びの対面!!となってしまうのです。
ここのところは絶対にワタナベの故意ですよね。
わ~、嫌なやつ!!
いやいや、ルイはよくぞこれで生きて帰ることができた・・・。
飛行場に出迎えた家族とルイの対面のシーンには本当に安堵してしまいました。
まさに、不屈の男!!



それにしてもワタナベがすごかった。
これがいかにもいかつい鬼瓦みたいな顔をした男かといえば、
全然そうじゃなんですよ。
ちょっと女性的なキレイな顔立ちというところが、
いかにもコワイじゃありませんか。
この人、何者??と思いましたが、
MIYAVIさんというミュージシャンだそうで、
私は全然知らなかったのですが、この配役は凄いと思う。



これもまた、フィクションであれば、そんなバカなと思うところかもしれません。
事実には力がある。
圧倒されました。


はじめの方で戦闘機の空中戦シーンがあったのですが、
ここでは米軍機の機内の様子も迫力を持って描かれています。
銃弾が機内まで突き抜けてくる。
こんなシーンを見たのは初めて。
そもそも日本の零戦などでは、パイロットは座席から身動きできないけれど、
米軍機はでかいのだなあ・・・。
とにかくこれもまた圧倒的なスリルに満ちています。
この時に機が墜落するのかとおもいきや、
その時は無事基地に帰り着き・・・というストーリーもなかなか虚をついていました!

「不屈の男 アンブロークン」
2014年/アメリカ/137分
監督:アンジェリーナ・ジョリー
脚本:ジョエル&イーサン・コーエン
出演:ジャック・オコンネル、MIYAVI、ドーナル・グリーソン、ギャレット・ヘドランド、フィン・ウィットロック
不屈度★★★★★★!
鬼気迫るイジメ度★★★★★
満足度★★★★★

「心に吹く風 髪結い伊三次捕物余話」 宇江佐真理

2016年03月22日 | 本(その他)
伊与太と茜の明日は?

心に吹く風 髪結い伊三次捕物余話 (文春文庫)
宇江佐 真理
文藝春秋


* * * * * * * * * *

一人息子の伊与太が、修業していた絵師の家から逃げ帰ってきた。
しかし顔には大きな青痣がある。
伊三次とお文が仔細を訊ねても、伊与太はだんまりを決め込むばかり。
やがて奉行所で人相書きの仕事を始めるが…。
親の心を知ってか知らずか、移ろう季節とともに揺り動く、若者の心。
人生の転機は、いつもふいに訪れるもの。


* * * * * * * * * *


龍之進の身が固まったところで、今度は伊三次の息子・伊与太です。
いえ、結婚話はまだ早い。
絵師の修行のため、家を出ていたのですが、
同じ弟子たちと上手く行かず、帰ってきてしまいました。
親としてどうすればいいのかと頭を悩ます伊三次。
そんな時、伊与太の人相書きの腕が認められ、
龍之進の手伝いをすることになりますが・・・。


本気でそれを仕事にするのなら、絵師の修行は諦めるのか。
若い心は揺れ動きます。
全く、舞台は江戸なのですが、宇江佐さんの物語はピッタリと今の世の中に重なりますよね。
実際、いつの世でも家族に関わる問題は変わらないのでしょう。


そしてまた、伊与太とは幼なじみの龍之進の妹・茜。
彼女は女だてらに袴姿で剣術の道場に通う相変わらずの跳ねっ返り娘。
そんな彼女にも縁談が舞い込むようになりますが・・・。
彼女はもちろん結婚などするつもりはなく、
意を決して松前藩屋敷の奥向きに努めることになります。
大奥の女中というよりも、奥方やお姫様の護身役。
そこのこの先の物語も楽しみですが、
"松前藩"というところがいかにも、北海道函館在中の著者の矜持が見えますね。


さて、伊与太と茜。
お互い想い合っていることは明らかなのですが、何分身分違い。
どうなりますことやら・・・。


そして、本巻「文庫のためのあとがき」が、平成25年のものなのですが、
著者に癌が見つかったことを書いています。
著者は仕事をセーブするようにしたけれども、
このシリーズだけは書けるところまで書きたいいとつづっています。
そうですね、栗本薫さんの「グイン・サーガ」のように、
本作が宇江佐真理さんのライフワーク。
残り少なくなってきましたが、私も大切に読み通したいと思います。

「心に吹く風 髪結い伊三次捕物余話」 宇江佐真理 文春文庫
満足度★★★★★


グローリー 明日への行進

2016年03月21日 | 映画(か行)
公民権運動をもっと知らなければ・・・!



* * * * * * * * * *

アメリカ、公民権運動の中で、特に語られることの多い
「血の日曜日事件」を中心に、
キング牧師のことが描かれています。
私は勉強不足で、あの有名な演説と公民権運動に力を尽くした方、
ということくらいしかキング牧師のことは知らなかったので、
本作で語られるキング牧師の具体像に、痛く感動してしまいました。



1965年3月7日。
アラバマ州セルマで黒人の有権者登録の妨害に抗議する
600人のデモが行われました。
憲法では、黒人の投票権は認められています。
けれども、州にもよるようですが、
黒人は「有権者登録」をしなければ、投票権は認められないのです。
しかしその「有権者登録」というのがものすごく制約が多くて、
それを獲得できる人はマレ。
奴隷解放から100年を経てもまだこんな状況だったのですね・・・。

だから権利を主張する黒人たちというのは
そりゃ、当然だ!!と今は思えるのですが、
でも当時のアメリカは全然違ったのです。
白人知事の率いる警官隊は武力でデモを鎮圧。
でもそれは「鎮圧」などという生易しいものではない。
警官が、逃げ惑う黒人たちをまるで「狩り」のように追い立てて、
暴行を加え、傷つける。
しかし、これはマスコミが世論を動かすようになった一つのターニングポイントなのかもしれません。
この残虐な「狩り」のシーンがTV中継で全米に流されたのです。
このことで、黒人ばかりでなく白人たちの意識も変わっていく。
こんなことは間違っている。
愚かしいことだ・・・と。
そしてその後また行われたデモ行進には、白人たちも混じっていました。



このように黒人たちを率い、新しい時代を作ったキング牧師の演説が、
実に力強くて胸に心地良く響きます。
「言葉の力」を感じます。
こういう多くの人々の苦難と努力の果てにオバマ大統領はいる。
キング牧師の「半生」ではなくて、
「血の日曜日」に焦点を絞ったところで成功していると思います。



オバマ大統領は奴隷の子孫? 
いや事実はそうではない、などという報道もあったようですが、
問題はそれが事実か否かということではないですよね。
米黒人の苦難の歴史を知っていれば、そんな発言が出るはずもない。
こんな事を言う人が政治家をしているのが間違いです。



グローリー/明日への行進 [DVD]
デヴィッド・オイェロウォ,トム・ウィルキンソン,キューバ・グッディング・Jr.,ティム・ロス
ギャガ


「グローリー 明日への行進」
2014年/イギリス・アメリカ/128分
監督:エバ・デュバーネイ
出演:デビッド・オイェロウォ、トム・ウィルキンソン、キューバ・グッディング・Jr、アレッサンドロ・ニボラ、カルメン・イジョゴ、ティム・ロス

歴史発掘度★★★★★
満足度★★★★☆

雪の轍

2016年03月19日 | 映画(や行)
平穏な生活に投じられた石



* * * * * * * * * *

本作、見始めるのにちょっと怯みました。
196分・・・。
映画館ならまだしも、自宅で3時間以上テレビに釘付けというのは
なかなか難しいですよ。
ま、途中中断できますけどね。
そしてまた退屈で途中で寝てしまうのでは・・という不安もあります。
本作もちょっと危なかったですが、
まあ、寝なかった自分を褒めたいくらいです。



舞台は現代のトルコ、カッパドキア。
見終わった印象は、もう少し古い時代のような感じなのですが、
主人公アイドゥンは、アップルのノートを使ってましたから・・・。
カッパドキアは私にも憧れの地で、
海外旅行を特にしたいとは思わない私も、ここには行ってみたいと思います。
世界中探してもこんな風景はここだけ。
まさしく世界遺産。
さて、そんな地で、アイドゥン(ハルク・ビルギナー)は、
洞窟を利用したホテルを経営しています。
親から受け継いだ資産で他にも多くの家を人に貸していて、かなり裕福。
以前は舞台俳優をしていた、知識人。
ホテルの客の日本人(!)と流暢な英語で会話を交わしていました。
(日本人の英語が流暢すぎたな。)
共に暮らしているのは、親子かと思うくらい年下の美しい妻と、出戻りの妹。
何一つ不自由のない平穏な生活・・・、のはずですよね。
ところが、ある日アイドゥンの乗っている車の窓に石がぶつけられる。
それはある少年の投げたものなのですが、
まさに、この一石が、彼らの生活にもともとくすぶっていたものが噴出するきっかけとなるのでした。



小難しいセリフの応酬する会話劇です。
が、そんな中でも次第にその人の人間性が現れて来ます。
アイドゥンは知的で穏やかで、公平。
善意の人のように思える。
誰も読んでいないような地方紙にコラムを掲載したりしています。
そして「トルコ演劇史」を描くのが自身のライフワークとは言うのですが、
まだ構想だけで着手していない。
いかにも「観念」の人で、自分の借家の住人が、家賃滞納のために
家具やテレビを取り上げられていることも知らなかった。
生まれた時から裕福なので、「貧困」の意味もわからないように思える。



一方妻は、何もすることがなく、慈善事業に生きがいを見出している。
始めのうち私は、この人はなかなかいいかも・・・と思いました。
ところが彼女も本当のところは何もわかっていなかった。
ラストのほうで彼女がとる行動には唖然とさせられます。
彼女も貧乏人の感情を想像することができないようで・・・。
結局、夫を尊敬もできずにいるのにこの家を出て行かないのは、
今の何不自由ない生活を捨てることができないからなのでしょうね。



離婚して実家に戻っているアイドゥンの妹もまた、
辛辣な言葉で兄やその妻を批判する。
結局この中の誰もステキでもなく高潔でもない。
でも、私たちの生活ってそんなものですよね。
この人達の中のどれか一部は自分の中にもある感情であると気づいて、
ひやりとしたりします。



いや、それにしても、この人達は多分退屈すぎるのです。
そして、一人の孤独には耐えられないし、他に行くところもない。
だから不承不承一つ屋根の下に同居している。
もっとちゃんと額に汗して働けよ・・・!! 
と呼びかけて終わることにします。

雪の轍 [DVD]
ハルク・ビルギネル,メリサ・ソゼン,デメット・アクバァ,ネジャット・イシレル
KADOKAWA / 角川書店


「雪の轍」
2014年/トルコ・フランス・ドイツ/196分
監督:ヌリ・ビルゲ・ジェイラン
出演:ハルク・ビルギナー、メリサ・ソゼン、デメット・アクバァ、アイベルク・ペクジャン、セルハット・クルッチ

異国の風景度★★★★★
人間観察度★★★★☆
満足度★★★☆☆

「今日を刻む時計 髪結い伊三次捕物余話」 宇江佐真理

2016年03月18日 | 本(その他)
10年後にワープ!!

今日を刻む時計―髪結い伊三次捕物余話 (文春文庫)
宇江佐 真理
文藝春秋


* * * * * * * * * *

江戸の大火で住み慣れた家を失ってから十年。
伊三次とお文は新たに女の子を授かっていた。
ささやかな幸せをかみしめながら暮らすふたりの気がかりは、
絵師の修業のために家を離れた息子の伊与太と、
二十七にもなって独り身のままでいる不破龍之進の行く末。
龍之進は勤めにも身が入らず、料理茶屋に入り浸っているという…。


* * * * * * * * * *

本作の冒頭は、一人の女の子の描写から始まります。
10歳位で健気な様子の、このお吉の母親は芸者で、父親が髪結い。
・・・あれっ、これって?
著者の思わせぶりな描写がまた心憎いのですが、
なんと今まで一冊一年経過というお決まりをあっさり突き破って、
前巻から10年もの月日が流れているのでした!!


伊三次とお文は住み慣れた家を焼け出されたものの、
新たな家でまた暮らしています。
なんと新たに女の子を授かって!!
兄、伊与太の方は、絵師の修行のため家を離れています。
龍之進は27歳。
今ではすっかり板についた同心ですが、
あの八丁堀純情派の仲間たちはみな結婚しているというのに
なぜか未だに独り者。
しかもなんと、すっかりやさぐれて料理茶屋に入り浸っているという・・・!!
実に意外な10年後。
そう、本巻のテーマは龍之進の結婚。
ズバリ、この事なのでした。


「文庫のためのあとがき」の中で、著者は
「マンネリを打開したかった、
そしてどうしても伊三次シリーズを描き上げてから死にたいと思った」
と言っています。
ドキリとしますが、この時まだ癌のことはわかっていなかったはず。
このペースでは、自分の思うところまで辿りつけない、と思ったのでしょうね。
ただ、その後、何が何でも最終回を書かなくても良いのではないか
という心境に変わったともあります。
行けるところまで行って、そこで私がお陀仏となっても、それはそれでいいではありませんか、
と。


確かに、その最終回はもしかしたら
伊三次やお文さんの晩年のことなのかもしれません。
そんなところは読みたいとは思いませんし、
途中なら、どこか知らない世界で伊三次とお文さんが相変わらず仲良く暮らしている
・・・と思えるじゃありませんか。
だからそんなにも書き急ぐことがなくなって、
かえって良かったなあ、とは思います。
でもこの10年のワープは、結構成功でしたね。
物語の世界がまたぐんと広がっています。


さてその龍之進。
純情でまっすぐで・・・
おばさん心がくすぐられるあのまだ少年と言ってもいい
龍之進くんのなれの果ては意外ではありましたが、
でもそれはいっときのこと。
やはり実はあまり変わらぬ龍之進なのであります。
「君をのせる船」の淡い初恋の時のような思いはその後なかったようで・・・、
母・いなみは、いつまでも身を固めようとしない息子にヤキモキしています。
そんなところへ本巻に登場する何人かの候補(?)らしき女性たち。
さて、本命は誰? 
下世話な話ではありますが、そんな興味に惹かれて読み進んでしまいます。
でもまあ、結果はたしかに、そうかもね、
この子が一番お似合いかも・・・と思いました。
宇江佐さんは多分、龍之進を自分の息子のように思って書いていると思うのですが、
それは私も同じ。
まるで自分の息子のように、龍之進や伊与太の幸せを祈らないでいられません。

「今日を刻む時計 髪結い伊三次捕物余話」 宇江佐真理 文春文庫
満足度★★★★☆

ナイトクローラー

2016年03月17日 | 映画(な行)
鬼気迫る



* * * * * * * * * *

フェンスの金網やマンホールの蓋を盗んで売りさばき、日銭を稼いでいる男・・・、
ルイス・ブルーム(ジェイク・ギレンホール)は、そんな男ですが、
自分にはもっと特別な仕事をやり遂げる力があると思っています。
ある時、偶然通りかかった事故現場で、報道スクープ専門のパパラッチの存在を知り、
妙に心惹かれてしまう。

さっそくその世界に踏み込み、悲惨でショッキングな映像を次々に撮影。
映像をTV局に売って高額の収入を得るようになっていきます。
そして、さらなるスクープ映像を求め、行動をエスカレートさせて行き・・・。



常に目をギラギラさせて獲物を探し求めるようなルイスにゾッとさせられます。
弟子との関係も最後までひりひりしたまま。
TV局の女プロデューサーも、視聴率をタテに屈服させてしまう。
私は彼女に反発して欲しかったのですが、
なんと、屈服するばかりか、信奉者になってしまう。



でも私は、このストーリーは、
最後にはルイス自身がが破滅して終わるのだろうと思っていました。
ところがそうではなかった・・・。



本作、冒頭とラストに美しい満月が映しだされるのですが・・・ラストで私は確信しました。
つまりこの視聴率を得るためならなんでもありというTV局のあり方、
そしてその象徴であるルイスは、
満月の夜に暗躍するヴァンパイアなのだろうと。
人の生き血を得て生きながらえるヴァンパイアのイメージそのもの。
だから彼らはそう簡単に滅んだりはしない。



どうにも好きにはなれないストーリーなのですが、
まことに鬼気迫る、心を騒がせる作品なのでした。

ナイトクローラー [DVD]
ジェイク・ギレンホール,レネ・ルッソ,リズ・アーメッド,ビル・パクストン
ギャガ


「ナイトクローラー」
2014年/アメリカ/118分
監督・脚本:ダン・ギルロイ
出演:ジェイク・ギレンホール、レネ・ルッソ、リズ・アーメッド、ビル・パクストン

鬼気迫る度★★★★★
満足度★★★.5

ピエロがお前を嘲笑う

2016年03月15日 | 映画(は行)
オレは人間をハッキングするんだ



* * * * * * * * * *

並外れたコンピュータ言語能力を持つベンヤミン(トム・シリング)が、
クレイジーなハッカー集団のチームに加わり「CLAY」と名乗るようになります。
だから、私には実のところはよくわからない
サイバー犯罪についてのあれこれのストーリーかと思っていました。
ハッキング技術を駆使して、何やら窮地に陥ったのち大逆転・・・?
イヤイヤ、もちろんそれもあるのですが、
実は生身の人間の「心」の隙間を付く、逆転劇なのでした。
CLAYは、ハッキングによりネット上を盛り上げるのですが
しかし彼らのそのような行為が利用されて、殺人事件が発生。
彼らが犯人にされてしまうのです。



冒頭はこんなシーンから。
ベンヤミンは自ら出頭し、連邦情報局捜査官(トリーネ・ディアホルム)に、
事の仔細を話し始める。



「自分は、子供の頃から人に注目されない透明人間のような存在だった。
父はおらず母は自殺。
こんな、さえない自分が、ある時おかしな3人組と出会って・・・」

つまり彼が語ることが本作のストーリーなのですが、
実はこういう作りこそが私たちを陥れる罠なのでした。



ラストに思わぬ真相(?)が現れ、ボー然とさせられてしまうのですが、
しかし・・・!!
「CLAY」のリーダー的存在、マックス(エリアス・ムバレク)が言っていましたねえ。
俺は人間をハッキングするんだ、と。
最後まで見て、なるほど・・・と思いました。
確かに、彼らに嘲笑われても仕方ない。
完敗です!!




「コーヒーをめぐる冒険」で現代青年の繊細な存在感を示したトム・シリングが、
ここでもいい味を出していました。
情報局の捜査官役の女性を、割と最近見たけど、誰だっけ??と、
ずっと思い出せずに見ていたのですが、
トリーネ・ディアホルム、「愛さえあれば」で、
ビビッドカラーのカーディガンとワンピースのよく似合う、あの彼女でした。
さすが女優さん。
役柄でイメージも変わるものですね。
でもあのチャーミングな目元が同じ!!


ところで、本作はすでにハリウッドでリメイクが決定しているのだそうです。
トム・シリングがこんなに好演の本作を、
な~んでわざわざ作りなおすのか、全然意味がわかりません。
アメリカ人はよほど字幕が嫌いのようですが、
ドイツ語を英語に吹替すればいいだけなのでは。
ハリウッド映画を日本語の吹き替えにするよりよほど自然で違和感もないと思うけど・・・。


「ピエロがお前を嘲笑う」
2014年/ドイツ/106分
監督:バラン・ボー・オダー
出演:トム・シリング、エリアス・ムバレク、ボータン・ビルケ・メーリング、ハンナ・ヘルツシュプルンク、トリーネ・ディアホルム

逆転度★★★★★
トム・シリングの魅力度★★★★☆
満足度★★★★★

「我、言挙げす 髪結い伊三次捕物余話」 宇江佐真理

2016年03月14日 | 本(その他)
自分の意志をはっきり口に出すこと

我、言挙げす―髪結い伊三次捕物余話 (文春文庫)
宇江佐 真理
文藝春秋


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晴れて番方若同心となった不破龍之進は、
伊三次や朋輩達とともに江戸の町を奔走する。
市中を騒がす奇矯な侍集団、不正を噂される隠密同心、失踪した大名家の姫君等々、
自らの正義に殉じた人々の残像が、ひとつまたひとつと、龍之進の胸に刻まれてゆく。
一方、お文はお座敷帰りに奇妙な辻占いと出会うが…。


* * * * * * * * * *

本作にはまたちょっと不思議なストーリーがあります。
『明烏(あけがらす)』では、SFめいていますが、
お文さんがここではないまた別の世界に迷い込んでしまうのです。
お文さんが芸者となったのは複雑な家庭の事情があったため。
実は大店の娘で、何一つ不自由しない生活を送る事もできたはず・・・
そんな、"もしも"の世界に迷い込んだのですね。
なんと、伊三次とは別れて、実家の母の元へ身を寄せていることになっている。
その母は、病で余命幾ばくもない・・・。
裕福だけれども、なかなかままならない境遇に、
お文は伊三次のもとに帰りたいと思う・・・。


これらのことは、まあ、転んで頭を打ったお文さんが見た夢なのかもしれません。
けれど、髪結いの亭主を持ってもまだ芸者を続けなければならない貧乏暮しに、
ほんのちょっぴりでも後悔があったのかもしれませんね。
そんな心の隙間を付く本作。
著者も、いろいろな趣向を凝らして楽しませてくれます。


『我、言挙げす』
本作には、かつて上司の不正を知り、そのことを表ざたしたために
閑職に回されてしまったという男性が登場します。
ここでは、その者の行為を「言挙げ」といっているのです。
「言挙げ」とは、自分の意志をはっきりと言うこと。
言霊という言葉にもある通り、
思っているだけではなくて、それをはっきりと口に出していうことで、
その言葉の持つ呪力を働かせる事になる・・・という日本の古代からの考え方。
まだ若い龍之進には、男が正しいことをして苦しい境遇に陥ってしまっている
ということに納得がいきません。
けれども、そういうことを押してでもやはり、
自分が信じることをはっきりと言うべきだと、彼は思うようになるのです。
また一つ、成長していく龍之進。


さて、ところが本巻のラストに衝撃的な出来事が!!
伊三次の家のある当たりで火事があり・・・。
江戸の町の大敵は火事なんですね。
一体どうなってしまうのだろう・・・、
次巻にすぐ手がのびてしまうのでした。

「我、言挙げす 髪結い伊三次捕物余話」 宇江佐真理 文春文庫
満足度★★★★☆

カポーティ

2016年03月13日 | 映画(か行)
すごく嫌なヤツなんだけど・・・



* * * * * * * * * *

故フィリップ・シーモア・ホフマンのアカデミー賞主演男優賞受賞作。
1959年11月15日、カンザス州ホルカムで農家の一家四人惨殺事件が起こります。
「ティファニーで朝食を」で名声を高めた
作家トルーマン・カポーティ(フィリップ・シーモア・ホフマン)は、
この事件に興味を覚え、現地へ飛び、取材を始めます。


この男、カポーティは、少し妙な話し方をし、
聞かれもしないのに「これは高級なマフラーだ」などと自慢をする。
自己顕示欲たっぷりで、第一印象としてはあまりよろしくない・・・。
けれど次第に、自分の不幸な生い立ちやこの話し声を
非常にコンプレックスに感じ、
「小説」という彼の唯一の武器で、社会に認められ、受け入れられようと
必死であるという姿が見えてきます。
そんな彼が、この事件の容疑者ペリー・スミス(クリフトン・コリンズ・Jr)と面会した時、
不思議に心惹かれてしまうのです。
彼もまた社会に受け入れられないがために、深い孤独に陥っている。



カポーティは、この事件を「冷血」という小説にまとめることを決意。
ペリーの信頼を得るためにせっせと面会に通い、
腕の良い弁護士を紹介したりもします。
でも、本当はあくまでも自分の小説のため。
小説の題名「冷血」は、ペリーに悪印象をあたえること恐れ、
ひたすら「まだ題名は決めていない」と押し通したりするのです。
しかも、ペリーが生きているうちはこの小説を発表できないので、
死刑執行の日を待っていたりする。
この時は、ペリーに「良い弁護士を」と頼まれても知らないふり・・・。
実にイヤなやつです。
だけれども、カポーティはペリーに不思議なシンパシィを感じ、
また自分の身勝手な行動を自分自身責めてもいる・・・
そういうところは映画上で表立って語られたりはしないのですが、
“伝わる”のです。
これぞ映画力ですね。
上質な作品。

カポーティ コレクターズ・エディション [DVD]
ジェラルド・クラーク
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント


「カポーティ」

2005/アメリカ/114分
監督:ベネット・ミラー
出演:フィリップ・シーモア・ホフマン、クリフトン・コリンズ・Jr、キャサリン・キーナー、ブルース・グリーンウッド、クリス・クーパー

心情への肉薄度:★★★★★
満足度★★★★☆