映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

凪の島

2024年07月31日 | 映画(な行)

島の人々に見守られながら成長する凪

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小学4年の凪(新津ちせ)は、両親の離婚に伴い、
母の故郷、山口県の小さな島に越してきて、母と祖母と共に暮らしています。
普段はとても明るい凪ですが、アルコール依存症の父が母に暴力を振るう姿がトラウマとなり、
時々過呼吸を起こします。
そんな凪の状況を知った上で、温かく接してくれる島の人々。

凪と凪を取り巻く人々の物語です。

凪のおばあちゃんはこの島で医院を開いていて島の人々に頼りにされています。
その娘、すなわち凪の母は看護師で、毎日船で本土の病院に通って勤務しています。

島の小規模な小学校は複式のクラスですが、同じ学年の男子2人と凪はとびきり仲が良い。
若い担任教師も熱意に満ちています。

用務員さんはいつもむっつりした顔をしていて、
決して笑わないので「わらじい」などと呼ばれていますが、
笑わないことには理由があって・・・。

凪とその友達2人の様子が、元気で大好きでした。
いつも元気な凪なのですが、ときおりラインで連絡を取り合う父のことはちょっと複雑。
普段はやさしくていいお父さんなのですが、
お酒を飲むと母に乱暴をするので、離婚ということになってしまったのです。
でも今はお酒を断って、断酒会にも参加。
お母さんと復縁をしたそうなのですが、母には全くその気はなさそう。

終盤の凪の言葉が良かった。

「私はイヤでもお父さんの子供だけれど、お父さんとお母さんは今はただの他人。
だから2人のことは2人でちゃんと話し合って。」

離婚した両親の子供としては実にまっとうな言葉。
将来楽しみなお子さんですね!!

<Amazonプライムビデオにて>

「凪の島」

2022年/日本/107分

監督・脚本:長澤雅彦

出演:新津ちせ、島崎遥香、加藤ローサ、徳井義実、嶋田久作、木野花

島の人々の温かさ★★★★☆

満足度★★★★☆

 


お隣さんはヒトラー?

2024年07月30日 | 映画(あ行)

真実か、妄想か・・・?

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1960年、南米コロンビア。
故国ポーランドにてホロコーストで家族を失い、1人生き延びたユダヤ人のポルスキー。
今は、町外れの一軒家で穏やかな日々を過ごしています。

そんなところへ、隣家に15年前56歳で死んだといわれる
ヒトラーに酷似したドイツ人、ヘルツォークが引っ越してきます。
ポルスキーは、ユダヤ人団体に隣家がヒトラーだと訴えるのですが、信じてもらえません。

それなら自らの手でその証拠をつかんでみせる!と、ヘルツォークを監視しはじめます。

ところがそんなことをする内に、いつしか互いに行き来するようになり、
2人でチェスを指したり、ヘルツォークに肖像画を描いてもらったりするようになるのです・・・。

ちょうど1960年は、ドイツ親衛隊のアイヒマンが
南米コロンビアに潜伏していたのが発見されて、拘束されたという年。
だからもしかしたらヒトラーは生きていて
南米に潜伏しているということも有りうるかも・・・?
という想像を生んで、実際にそんなうわさが流れたことがあったようです。

冒頭、ユダヤ人の家族が集まって賑やかに写真を撮るシーンが映し出されます。
それこそがかつての若きポルスキー。
しかし今はその家族をすべて失い、年老いて一人暮らし・・・。
その心中はいかばかりかと、かなり感情移入してしまいます。

そんな彼はチェスが得意で、かつてチェスの国際大会でヒトラーを見たことがあるという・・・。
忘れもしない、その時の残酷な青灰色の目の色が、越してきた隣人と同じ・・・!

果たして、隣人は本当にヒトラーなのか、それともポルスキーのただの思い込みなのか・・・?
そんな疑惑渦巻く中で、ラストが気になりますが、真実は思いも寄らないところにありました!

混乱の時を過ぎて、なおつらい日々を過ごしてきたのはポルスキーだけではないのです。

切り口はユーモラスですが、心に響く物語。

 

<シアターキノにて>

「お隣さんはヒトラー?」

2022年/イスラエル、ポーランド/95分

監督:レオン・プルドフスキー

脚本:レオン・プルドフスキー、ドミトリー・マリンスキー

出演:デビッド・ヘイマン、ウド・キア、オリビア・シルハビ、キネレト・ペレド

歴史発掘度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


「南鳥島特別航路」 池澤夏樹 

2024年07月29日 | 本(エッセイ)

観光地ではない場所への旅

 

 

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池澤夏樹さんの、「旅」の本です。
ただし行く先は、観光地を観光するというのではなくて、
「自然よりでしかも体力だけで踏破するのではない旅行」。
火山、鍾乳洞、大潮、豪雪・・・など、
自然地理にかかわるテーマを選び、まるで地学の授業でもあるかのような・・・、
そんな旅。
「ブラタモリ」のような感じ、といえばイメージしやすいかも知れません。

そんなことで、本巻での旅先は・・・

★五島列島のミニ火山群

★内間木洞の暗黒体験

★白峰、炉端で聞く豪雪の話

★八重干瀬、気宇壮大な潮干狩り

★立山砂防百年の計

★サハリン、北緯47度白樺林

★乗鞍岳に降る宇宙線

★白神のブナと秋田の杉

★南鳥島特別航路

★雨竜沼、湿原の五千年

★対馬、大陸へつながる海の道

★八重山諸島、マングローブの豊穣

 

実は本巻、1991年に出たもの。
(私が読んだのは、文庫ではなくて単行本の方。)
これが「観光地」の本であればその内容はもうほとんど役に立たないと思われるのですが、
上記で見て分るように、そう簡単には状況は変わらないものが多い。
おそらく、今行ってもあまり変わらないままなのではないかと・・・。

そういう意味では、地球の変遷というごく長いスパンの視点を持って描かれていると言ってもいい。

 

中でも、表題にもなっている南鳥島は、
日本最東端、東京から南東に1900キロの彼方にある無人島。
無人島とはいえ、気象庁と自衛隊、アメリカの沿岸警備隊の人々が
50人ほど駐屯しているという島。
住民がいないので民間の飛行機も船の便もなく、
著者はなんとか貨物船に乗せてもらって行ったとのこと。
その成り立ちも興味深い・・・。

こんな旅にもちょっと憧れます。

 

図書館蔵書にて

「南鳥島特別航路」 池澤夏樹 新潮文庫

満足度★★★★☆


デスパレート・ラン

2024年07月27日 | 映画(た行)

走れ、エイミー

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夫に先立たれたエイミー(ナオミ・ワッツ)は、
なんとか平穏な生活を取り戻そうとしていました。
その日、小学生の娘を学校に送り出しましたが、
しかし高校生の息子は、登校を渋り部屋を出てきません。
仕方がないとして、とりあえずランニングに出たエイミー。
森林の中を抜ける心地の良いコースです。
しかし、あちこちからスマホに電話がかかってきたり、かけたり、
走りながらも忙しい。

そんな中、エイミーはかなりの距離を進んだあたりで、
息子が通う高校で銃撃犯が立てこもりをしていることを知ります。

彼女はスマホからの情報や、知人友人、警察、あらゆる情報を駆使。
どうやら息子はエイミーが出かけた後に、登校したらしいのです。
息子は父を亡くした後落ち込んでいて、
いじめを受けていたらしいことも分ってきます。

 

一刻も早く高校へ向かいたいのですが、ここは街から離れた森の中。
街は混乱に陥り、助けも移動手段もない中、
エイミーは一台のスマホを頼りに、犯人の人質になっているらしき息子の元へ走り出します。

そんな中、警察からの電話で、家に銃があるか、息子は薬を服用していないかなどと問われます。
まさか、それはつまり息子が犯人ということなのか・・・?
崖から突き落とされたような気になってしまうエイミーですが、
それでも痛めた足をひきずりながら、走り続けるエイミー・・・。

まさに母は強し。
高校では大変なことが起こっているのですが、
本作の画面はほとんど森の中を駆け抜けるエイミーの姿があるのみ。
力になってくれる警官や車の修理業者、友人知人、皆、声だけの出演。

エイミーはあちこちから情報を得て、なんと犯人を突き止め、
犯人に電話までしてしまう。
これ、リーアム・ニーソンがやりそうな役でもありますね。

高校生で、とてもわかりやすく母に反抗し、そして後には依存している息子に、
あまりにも幼さを感じてしまいましたが、ま、いいか。

<Amazon prime videoにて>

「デスパレート・ラン」

2021年/アメリカ/84分

監督:フィリップ・ノイス

出演:ナオミ・ワッツ、コルトン・ゴボ、シエラ・マルトビー、クリストファー・マラン

危機感度★★★☆☆

満足度★★★☆☆


星の消えた空に

2024年07月26日 | 映画(は行)

誰もが飲み込まれる可能性のある闇

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精神的に不安定な状況を描き出す作品。
見るのがちょっとつらいです。

 

作家ジュリー・デイヴィス(アマンダ・セイフライド)は、
子供向けの絵本を専門にしていて、ベストセラーの常連となっています。
夫イーサンと1歳の娘との生活も順調。
公私ともに順風満帆。
端からはとても幸福そうに見えます。

しかし、彼女の中には自分でも抑えられない不安が渦巻いています。
夫もそのことは気にしていて、いつも彼女の顔色をうかがっているようでもあります。
ジュリーは薬を用いながらなんとか過ごしていたのですが、
第二子の妊娠、出産からまた心は落ち込んでいきます・・・。

 

いわゆる産後鬱の状態を描いていると思われます。
そして作中では根源にジュリーの子どもの頃の忌むべき出来事の記憶がある・・・
というように描かれています。
けれど多分、ジュリーはそのことが自分を苦しめているとは自覚していない。
それは無意識の底から、じわじわとジュリーを犯していく・・・。

 

こんなに可愛い子供がいて、優しい夫もいて、
時には母が育児を手伝いに来てくれて、好きな仕事もあって。
人がうらやむような好条件の元にいながら、
それでもジュリーは孤独で不安に押しつぶされそうになり、
元気なフリをして、やがて自滅していく・・・。

ジュリーは妊娠期、そして授乳期、子供に薬の影響を与えたくなくて、
自らの抗うつ剤を飲むことをやめてしまっていたのでした・・・。

 

 

本作を見る限り、それはもうどうしようもないのだ、
彼女を救う手立てなどないといってるようでもあり、
こちらもまで苦しくなってしまいます。

 

まずは、人はこのような状況に置かれることがある、ということだけでも知ろう。
そういう狙いなのかも知れません。
どう見ても幸せそうに見える人の中にもある闇。
そういうときに、どうすればその人によりそうことができるのか、
それはケースバイケースで、多分その都度、
死ぬほど考えなければならないことでもあるのでしょう。

 

ジュリーの描く夢いっぱいの絵本に対しての彼女の胸の内。
・・・つまりは純粋すぎたのかもしれませんが、切ないです。

 

<Amazon prime videoにて>

「星の消えた空に」

2021年/アメリカ/105分

監督・脚本:エイミー・コッペルマン

出演:アマンダ・セイフライド、フィン・ウィットロック、ジェニファー・カーペンター、
   マイケル・ガストン、エイミー・アービング、ポール・ジアマッティ

心の変調度★★★★★

満足度★★★☆☆


アメリカン・フィクション

2024年07月24日 | 映画(あ行)

黒人らしさが足りない、黒人小説家

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黒人の小説家モンク(ジェフリー・ライト)は、
作品に「黒人らしさが足りない」と評され、
半ばヤケになって冗談のようなステレオタイプな黒人小説を書きます。
ところがなんとその小説がベストセラーに。
その本は本名を伏せ、「脱獄囚の黒人」というウソのプロフィールで出版したのでしたが、
思いもかけない形で名声を得てしまうのです。

一言一句選びながら構成を練って仕上げた小説がほとんど売れず、
適当に書いた、いかにもウケそうな小説が売れてしまう。
モンクはこんなことで心穏やかなはずはないのですが、
認知症の母を施設に入れるためにもお金が必要で、
本が売れるのは正直ありがたい。
そんな複雑な状況。

しかも、自身が忌み嫌う「黒人=下品、粗野」という思い込みを
そのまま利用してしまった安っぽい本。

まあこれは、実際に出版業界や黒人作家の作品の扱われ方がこんな風である、
ということを暗に示しているわけなのですね。
いっそ始めから黒人であることを伏せた方が良かったのかも・・・などと思ってしまいました。
それじゃダメなんですけれど・・・。

おまけに、モンクはとある文学賞の審査員に抜擢されたのですが、
その授賞候補に彼のインチキ本「ファック」があがってしまった。
もちろん、モンクはその授賞には反対したのですが、
他の審査員がなぜかそれを推す。

「ファック」なんて言うのは映画などではよく聞きますが、
アメリカの実社会ではほとんど禁止用語。
特に白人の有識者層ではほとんど放送禁止用語なんですね。
だからこの本の題名を付けるときに、
モンクは編集者への嫌がらせのつもりで「ファック」といったのですが、
始め難色を示していた女編集者も最後には承諾。
いかにも黒人作家の小説的題名ということでそれがまた大ヒット。

モンクにとっては何もかもがバカバカしい・・・。

そんな狂騒的な状況を綴ったユニークな作品。

 

<Amazon prime videoにて>

「アメリカン・フィクション」

2023年/アメリカ/118分

監督・脚本:コード・ジェファーソン

原作:パール・エベレット

出演:ジェフリー・ライト、トレイシー・エリス・ロス、エリカ・アレクサンダー、
   イッサ・レイ、スターリング・K・ブラウン

皮肉度★★★★★

満足度★★★★☆


キングダム 大将軍の帰還

2024年07月23日 | 映画(か行)

これぞ大将軍の風格

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キングダムシリーズ第4弾。
割と最近、前3作を復讐しておいたので、スンナリ入り込めました。

春秋戦国時代の中国。
馬陽の戦いで、秦国の信(シン)(山崎賢人)たち飛信隊が、
隣国趙の敵将を討つというところまでが前作でした。

しかし、そこまではほんの前哨戦に過ぎなかった・・・ということ。
本作ではいきなり趙軍の真の総大将・ホウケン(吉川晃司)が現れます。
その急襲で壊滅的な痛手を受けた飛信隊の仲間たちは、
致命傷を負った信を背負い、決死の脱出を図ります。

さて、そんな所へいよいよ秦軍の総大将・王騎(大沢たかお)登場。
どうやらホウケンと王騎は過去に因縁があるようなのです。
この2人の一騎打ちがなんとも言えぬ迫力!!

良いですよね、総大将同志の一騎打ち。
すべての戦争はこうして決着を付けてほしい・・・。

しかしこの決着もつかぬうちに、趙のもう1人の軍師・リボク(小栗旬)が
大軍を率いて迫って来ます。

 

兵の数の上では圧倒的に不利な秦軍。
しかし、王騎の指揮により彼らは奮い立つ・・・!!

実に壮大な戦闘シーンが繰り広げられます。

 

見終わった後、本作の題名の意味をかみしめることになります。
「大将軍の帰還」。
そうか、そういうことだったのか・・・。

 

早い話が、ほとんどが戦闘シーンの本作。
私の好みではありませんが、まあ見応えはあったかな・・・?

結局私は、奴隷の少年・信が、仲間を得つつ秦の皇帝を助けて、城を取り戻すまでを描く
第一作が、一番ストーリー性があって好きです。

 

<シネマフロンティアにて>

「キングダム 大将軍の帰還」

2024年/日本/145分

監督:佐藤信介

原作:原泰久

出演:山崎賢人、吉沢亮、橋本環奈、清野菜名、岡山天音、三浦貴大、
   新木優子、吉川晃司、大沢たかお、小栗旬

迫力度★★★★☆

満足度★★★.5


「水車小屋のネネ」津村記久子

2024年07月22日 | 本(その他)

助け合いながら生きていく

 

 

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“誰かに親切にしなきゃ、人生は長く退屈なものですよ”  
18歳と8歳の姉妹がたどり着いた町で出会った、しゃべる鳥〈ネネ〉 
ネネに見守られ、変転してゆくいくつもの人生―― 

助け合い支え合う人々の40年を描く長編小説 
毎日新聞夕刊で話題となった連載小説、待望の書籍化! 

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本屋大賞ノミネート作品ですが、なるほど、ステキな感動作です。

 

とある片田舎のそば屋に、18歳の少女・理佐が店員兼「鳥の相手」のためにやって来ました。
8歳の妹・律を連れて。

・・・と、すでに疑問が湧く導入。
興味を引かれますね。

理佐と律はそれまで母親と暮らしていたのですが、
その母の男が3人の生活に乗り込んで来たのです。
律は虐待に近い扱いを受け、理佐は専門学校に入学予定だったのに
そのお金を男のために使われてしまい、ダメになってしまいました。
母は、自分で考えることをやめてしまったようで、
そのことに全く悪びれる様子もありません。

理佐はこんなところにはいられないと、自立を決心して家出。
そして妹の律にも意思を確認の上、連れてきたのでした。

さて、理佐が就職のためにやって来たそば屋は、
そばの実を水車の石臼で挽いてそば粉にしたものからそばを打つ
という念の入ったもので、そのため店の近くに水車小屋があるのです。
そこにいるのがヨウムという鳥。
知能が高く、石臼のそばの減り具合を見張って、教えてくれます。
よく人の言葉も話します。
それで理佐の役割はお店の店員と
このネネという鳥の世話というかお相手をすることなのでした。

 

そんな風に始まるこの物語。
はじめは18歳少女が8歳の妹の保護者代わりということで周囲の人々も心配したのですが、
この2人の真摯で一生懸命な様子をみて力を貸してくれるようになり、
どんどん地域に馴染んでたくましく生活していくようになります。

 

そして話は10年ごとに進んでいって、この2人のその後の生き方が描かれていきます。

いつでも人の輪があって、助け合いがあって。
亡くなっていく人もいる。
新しく登場する人もいる。

まあ、いい人ばかりが居すぎる気もするけれど、
でもだからこそ読んでいて心地よく、なんだか幸せな気持ちになってしまいます。
人生捨てたもんじゃないですね。

「水車小屋のネネ」津村記久子 毎日新聞出版

満足度★★★★.5


偶然と想像

2024年07月20日 | 映画(か行)

偶然なんだけれど・・・

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濱口竜介監督による、3編からなる短編オムニバス。

 

★「魔法(よりもっと不確か)」

親友が「いま気になっている人がいる」と話題にした男が、
2年前に別れた元カレだったと気づく・・・

★「扉は開けたままで」

50代にして芥川賞を受賞した大学教授。
落第させられた男子学生が逆恨みから彼をハニー・トラップに陥れようと、
女子学生を研究室に送り込む。

★「もう一度」

仙台で20年ぶりに再会した2人の女性。
しかし実は双方思い違いだったのだが・・・

それぞれに偶然の出会いがあったり、できごとがあったり・・・。
そんな中から、彼女たちの過去の後悔が浮かび上がってくるのです。
彼女たちは、想像する。
もしこんな風だったら・・・。

 

中でも二作目「扉は開けたままで」は、かなりのインパクトがあります。

大学教授を誘惑しようと研究室を訪れる女。
けれど教授は常からいつも扉を開けたままにしているのです。
アカハラやらセクハラ疑惑を持たれないように。
そんな中で、次第に2人の関係が変わっていく・・・。

しかし、その結末がまた、意外でショッキング。

短編で描かれるからこその作品であると思います。

 

<WOWOW視聴にて>

「偶然と想像」

2021年/日本/121分

監督・脚本:濱口竜介

出演:古川琴音、中島歩、渋川清彦、森郁月、占部房子、河井青葉

 

偶然度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


セイント・フランシス

2024年07月19日 | 映画(さ行)

女だからこそ、立ち向かう問題

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大学は中退で、正規の職には就けず、レストランの給仕として働きながら、
夏の子守りの短期仕事を探す34歳、独身のブリジット(ケリー・オサリバン)。

ようやく、6歳の少女フランシスの子守りの仕事にありつきます。
男児を出産したばかりの白人女性マヤと会社勤めの黒人女性アニー、
この2人のレズビアンペアの娘がフランシスです。

始めから、おっと思ってしまう設定。
多様性の時代。
今さら目くじらを立てることもありません。
さて、マヤは産後ウツなのかも知れないけれど、精神的にやや不安定。
また、仕事に出ているアニーは、日中マヤが浮気をしているのでは?
などと疑惑を持っています。
そうした家族の状況も波乱含み。
そして、ブリジットは妊娠していることに気づき、ほとんど悩むこともなしに中絶を決意。
そもそも、その相手のことを「付き合っている彼氏」とも認識していないようです。
単なるセフレ・・・? 
でもその彼は意外とイイ奴で、ブリジットを気遣ってくれたりしているのですけれど・・・。

ブリジットは、子供好きというわけではありません。
そしてフランシスは無愛想で気難しげ。
実は母親が赤ん坊にかかりっきりでしかも精神不安定ということで、
フランシスをかまってもらえず、淋しくて不機嫌になっていたようです。
そんなわけで、なんとも良好とは言いがたい、ブリジットとフランシス。

生理のこと、妊娠のこと、避妊のこと、妊娠中絶のこと・・・。
人類の半数は女性であるのに、
ドラマや映画でこのようなことが取り扱われることはとても少ないですね。
本作では目をそらさず、真っ正面からこのような問題に取り組んでいます。

ブリジットとフランシスは次第に友人同志のような良い関係に向かっていきます。
女性にしかできない、妊娠、出産。
リスクも大きいけれど、でもやはり子供は宝であるという示唆は悪くはありません。

子供がいなければ未来もないですもんねー。

 

<Amazon prime videoにて>

「セイント・フランシス」

2019年/アメリカ/101分

監督:アレックス・トンプソン

脚本:ケリー・オサリバン

出演:ケリー・オサリバン、ラモナ・エディス=ウィリアムズ、チャーリン・アルバレス、リリー・モジェク

 

多様性度★★★★★

女性の生理度★★★★☆

満足度★★★★☆


「婿どの相逢席」西條奈加

2024年07月17日 | 本(その他)

逆玉の輿のはずが・・・

 

 

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小さな楊枝屋の四男坊・鈴之助は、
大店の仕出屋『逢見屋』の跡取り娘・お千瀬と恋仲になり、晴れて婿入り。
だが祝言の翌日、大女将から思いもよらない話を聞かされる……。
与えられた境遇を受け入れ、陰に陽に家業を支える鈴之助。
〝婿どの〟の秘めた矜持とひたむきな家族愛は、
やがて逢見屋に奇跡を呼び起こす。
直木賞作家、渾身の傑作人情譚!

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時々読む時代物、なんだか心がほっこりします。

小さな楊枝屋の四男坊・鈴之助が、
大店の仕出屋「逢見屋」の跡取り娘・お千瀬と恋仲になり、
婿入りするというところから始まる本作。
通常、そこまでが物語になるのですが、
本作はそこからがスタートです。

実家の楊枝屋では跡取りなどとてもなれないのですが、
大店の跡取り娘の婿となればもう、言ってみれば逆玉の輿。
大好きなお千瀬と夫婦になれて、その上、大店の婿となったら幸せすぎるくらい。
・・・と、思っていたのです。
祝言のその日までは。

けれど、その翌日、鈴之助は厳しい現実を突きつけられる。
この家は代々女が家督を継ぐしきたりとなっていて、
男は商売に口出しはできない。
何もするな、というのが婿に与えられた役割・・・。

鈴之助はいくら何でもそれを「楽ちん」と言って喜ぶほど
お気楽な性格ではありません。

店の大女将(祖母)と女将(母)、そしてお千瀬が店を切り盛りする中、
女将の夫(義父)と鈴之助は、
なんとも所在なく肩身の狭い思いで日々を過ごすことになるのです。

 

けれども、鈴之助は持ち前の人好きのする性格で、
人と人を結びつけ、逢見屋の家族関係や周囲の人々を変えていく・・・。

なぜか逢見屋に徹底して悪意を向ける人物の存在があったりして、
スリリングな部分もありながら、ほっこりする江戸の人情譚。
心地よい読書を楽しみました。

 

「婿どの相逢席」西條奈加 幻冬舎文庫

満足度★★★★☆

 


大いなる不在

2024年07月16日 | 映画(あ行)

別世界の住人

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役者をしている卓(森山未來)の元に、
警察から父・陽二(藤竜也)を保護しているとの連絡が入ります。

卓がまだ子どもの頃に両親が離婚して以来、父とは長らく疎遠になっていました。
父は認知症のため施設へ入ることになりましたが、
久しぶりに会った父は卓のことを認識はしたものの、
まるで別世界の住人のようになっています。

また、卓にとって義母になる父の再婚相手・直美(原日出子)は行方不明。
片付けのため父の家を訪れた卓は、
そこら中に日常生活に必要なことの父のメモが残っているのを見ます。
そんな中に義母の日記があり、そこには父が直美に宛てた
おびただしい数のラブレターが貼って残されていたのでした・・・。

一体彼らには何があったのか。
卓は父と義母の生活を調べ始めます。

父と卓の母が離婚して間もなく、父と義母は結婚したようです(義母にとっても再婚)。
多くのラブレターを見て分るように、陽二は始めから直美を愛していた。
だからなのか、陽二は卓にとって親しみを感じるような父親ではなかった。

しかし、陽二の2度目の結婚はさすがにうまくいって、
以来30年以上長らく連れ添っていた・・・。
けれど、陽二が壊れていくのですね。

元々独善的で、一方的に妻を従えようとするタイプ。
だから愛しているとは思いつつ、直美にとっては「耐える」部分も多かったはず。

が、しだいに陽二は「別人」になっていく。

ついには妻のことを妻と認識することもできなくなって、
直美はこれまでの人生の意味を見失ってしまったのではないでしょうか・・・。

ラストは極めて曖昧な描き方がされているのですが、
冒頭近くの陽二の言葉が思い出されるのです。

「お義母さんは、どこにいるの?」との卓の問いに、
何も知るはずのない陽二が言います。
「あれは、自殺した。」と。

 

誰が悪いわけでもない、単に脳が正常な機能を失うという老いによる病。
その残酷さがひしひしと身に迫ります。

でも、もともと父には近寄り難い印象を抱いていた卓が、
父のこれまでの心の変化を知るにつけ、
逆に少し自分と近づいたような気がしたように思えました。

じっくり考えさせられてしまう作品です。

<シアターキノにて>

「大いなる不在」

2023年/日本/133分

監督:近浦啓

脚本:近浦啓、熊野桂太

出演:森山未來、藤竜也、真木よう子、原日出子

 

人格崩壊度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


「天はあおあお野はひろびろ 池澤夏樹の北海道」池澤夏樹

2024年07月15日 | 本(エッセイ)

池澤夏樹さん、北海道の集大成

 

 

* * * * * * * * * * * *

「北海道新聞」で連載した同名コラムを中心に、
2000年以降に発表された北海道にかかわる文章47編を掲載。
幼少期の思い出をつづった「おびひろ1950」
(「北海道新聞」帯広・十勝版に27回連載)も全編収録した。
自然写真の巨匠・水越武の写真27点を添え、故郷への追憶と希望をうたう。

* * * * * * * * * * * *


池澤夏樹さんは先頃13年暮らした札幌の地を離れ、信州・安曇野へ越されました。
本巻は、その札幌生活の集大成ともいうべきもの。
2000年以降に発表された北海道にかかわる多くの文章が掲載されています。

 

そもそも著者は、様々な地に数年間住んではまた移住ということを繰り返されていまして、
ギリシア、沖縄 、フランス、そして北海道。
北海道帯広市は著者が幼少期を過ごした土地で、氏にとってはまさに故郷。
だからきっと氏には北海道は特別の地で、
このままずっといていただけると思っていたのですが、
安曇野へ越されたと聞いたときはちょっとショックでした・・・。
でも本巻の中に書かれていますが、氏は言います。
「これはもう性癖なのだ」と。

住み着いて言葉を覚え、食べ物を知り、歩き回り、人の気性を学ぶ。
そういうことがおもしろくてしかたがない。
だから転居が一生を棒に振っても良いほどの道楽になる。

旅行ではなく住み着くことが大事なんですね。
しかも次の居住地は安曇野となれば、そりゃ私だって行ってみたいです・・・。

 

表題「天はあおあお野はひろびろ」とは、無論北海道を表わしています。
でも札幌に住む私にとっての北海道は、
それをさほど自慢できる立場ではないのかな・・・などと思ったのですが、
著者に寄れば、札幌は道路が広いので空が広いと書かれていまして、
なるほど、そうなのかと思いました。
他の所に住んだことのない私には気づかない所です。

その他、北海道の良いところも悪いところもいろいろな視点で述べられています。
そして、自身の幼少期、帯広でのことも多く描かれているのは嬉しいところ。

また、自然写真の巨匠・水越武さんの写真もたっぷりありまして、
まさに満足のいく一冊になっています。

 

<図書館蔵書にて>

「天はあおあお野はひろびろ 池澤夏樹の北海道」池澤夏樹 北海道新聞社

満足度★★★☆☆

 


PLAY! 勝つとか負けるとかは、どーでもよくて

2024年07月13日 | 映画(は行)

eスポーツ全国大会を目指せ!

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eスポーツの全国大会を目指す実在の男子学生をモデルにしています。

徳島県の高等専門学校に通う、翔太(奥平大兼)。
学内に貼られていたとあるポスターに目をとめます。
「全国eスポーツ大会メンバー大募集」というもの。
翔太はさっそくそのポスターを作った一学年先輩の達郎(鈴鹿央士)に連絡を取ります。

1チーム3人編成のeスポーツ大会「ロケットリーグ」に出場するためにはもうひとり必要。
そこで達郎は同じクラスのV Tubarオタクの亘(小倉史也)に声をかけます。

最初は全く息の合わない3人。
しかし次第にeスポーツの魅力にハマっていき、
東京で開催される決勝戦を目指すことに。

3人は同じ学校の生徒ながら、ゲームをするときにはそれぞれ自宅にいて、
オンラインで練習ということになります。
もう私の年齢ではそういう所から想像がつかなかったので、
なかなか勉強になります・・・。
地区予選自体もオンラインなので、それぞれ自宅。
亘などはお気に入りのYouTubeを見ながら競技に臨んでいたりして、
そのやる気のなさと来たらハンパじゃありません。

作中のゲームは、車でサッカーをするというナゾ(?)のものなのですが、
見ていたらなんだか面白そうに思えてきました。
亘はゴールキーパー的なポジションなのにやる気がないので、点をとられまくり。
でも他の2人でカバーして守ることもできるので、なんとか勝ち上がっていくのです。

そんなやる気のない亘が、やる気を見せるのは、
これまで友達などできたことがないのに、
いつのまにか達郎と翔太に本音で話すことができるようになっていると気づいてから。

自宅が舞台となるわけなので、翔太と達郎の家族模様も出てくるのですが、
これがなかなか問題ありの家族。
未成年の彼らはそれでもこの家族と付き合っていくほかなく、
そうと思えば気持ちも重いのだけれど、
でもその一方で友人たちとココロ一つに夢を追うことができる
というのが救いにもなっているわけです。

そして、全国大会決勝戦となると今度はオンラインではなくて、東京開催。
付き添い者が必要ということで、学校の先生を拝み倒してついてきてしまう。
それも、いつも授業中に彼らにイヤミばかり言っていた先生。
しかしいざフタを開けると先生は「東京だから」と言って
奥さんまで連れてきて、物見遊山気分全開という展開も傑作!

 

正直、奥平大兼さんと鈴鹿央士さんにつられて見たのですが、
意外と楽しめました。

 

「PLAY! 勝つとか負けるとかは、どーでもよくて」

2024年/日本/122分

監督:古厩智之

脚本:櫻井剛

出演:奥平大兼、鈴鹿央士、小倉史也、山下リオ、花瀬琴音

eスポーツを知る度★★★★☆

今時の青春度★★★★☆

満足度★★★★☆


マルセル 靴を履いた小さな貝

2024年07月12日 | 映画(ま行)

おしゃべりな貝

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本作は、2010年~2014年にかけてYouTubeで順次公開し、
累計5000万回再生を記録した短編作品を長編映画化したもの。
ドキュメンタリー仕様で、ストップモーションアニメと実写を組み合わせています。

 

アマチュア映像作家のディーン(ディーン・フライシャー・キャンプ監督本人)は、
靴を履いた体調2.5センチのおしゃべりな貝、マルセルと出会います。

ディーンは、マルセルが語る人生に感銘を受け、
マルセルを追ったドキュメンタリーをYouTubeにアップします。

マルセルは以前は大勢の家族と暮らしていたのですが、
前の住人が引っ越してから、皆の姿が見えなくなってしまい、
取り残されたマルセルとおばあちゃん二人きりで暮らしているのです。
どうも他の家族は引っ越しの荷物に紛れていたのを、持って行かれたらしいのです。

YouTubeで評判となったマルセルは、なんとか家族の行方を探したいと思い、
テレビのインタビューを受けることにします。

・・・といったいきさつを描く、ドキュメンタリータッチの作品。

これはファンタジーというよりもほとんどポエム。

マルセルの日々を生きるための考え方やライフスタイルは、
時間をなくした都会人の胸を揺さぶります。

<Amazon prime videoにて>

「マルセル 靴を履いた小さな貝」

2021年/アメリカ/90分

監督・原案:ディーン・フライシャー・キャンプ

出演(声):ジェニー・スレイト、イザベラ・ロッセリーニ

出演:ディーン・フライシャー・キャンプ、レスリー・スタール

 

ポエム度★★★★☆

満足度★★★☆☆