映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

AIR エア

2023年05月31日 | 映画(あ行)

人の心を動かすには

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ナイキの伝説的バスケットシューズ「エアジョーダン」の誕生秘話。
ベン・アフレックが盟友マット・デイモンを主演に迎えた、アマゾンオリジナル作品です。

1984年。
ナイキ本社勤めのソニー・ヴァッカロ(マット・デイモン)は、
CEOフィル・ナイト(ベン・アフレック)から
バスケットボール部門を立て直すよう命じられます。
当時、バスケットシューズ界の市場のほとんどを占めていたのは、コンバースとアディダス。

ナイキのバスケットシューズをアピールするために、
誰か広告塔となり得る選手を探す必要があります。
ソニーは、まだNBAデビューもしておらず未知数のマイケル・ジョーダンに目をとめ、
一発逆転の賭けのような取引に挑みます。

エアジョーダンの誕生秘話というので、
どのように工夫してそのシューズの機能を高めデザインを決めたか
・・・のような話かと思えば、そうではなくて、
どのようにしてマイケル・ジョーダンに目標を定めて契約にこぎ着けたか、
というストーリー。

ソニーはよくバスケットに精通しており、
様々なバスケットの試合のビデオを見るうちに
たぐいまれなマイケル・ジョーダンの資質に気づくのです。
そこで当初は3人の選手を選出する予定の所を、
予算を3人分つぎ込んでマイケル・ジョーダン1人に目標を絞る。
このようなことに、社内で反論がないはずがありません。
そしてまた、この契約はマイケル・ジョーダン本人よりも
その両親、特に母親をその気にさせなければならないのです。

ソニーがどのようにして社内の人々を納得させ、巻き込み、
ジョーダンの母親を説得するのか、そういう奮闘記と言ってもいいでしょう。
そのためにはソニー本人がどれだけジョーダンを信用し、
この企画の成功を夢見ているのか、
その熱意と本気度が一番大切ですね。

何かを成し遂げようとするとき、それが自分だけの頑張りではなくて
周囲の理解と協力が必要である時、
何が大切なのかを本作は如実に言っていると思います。

当時はシューズに用いる「赤」色の割合まで定められていて、
その規定に反する場合は罰金を払わなければならないとされていたそうで。
ソニーは、カッコ良く目立つ方がいいから、と
規定以上に赤を用いて、試合の度に罰金を会社が負担すると決めたといいます。

このシューズへの本気度がよく分かるエピソード。

 

80年代。
まだ携帯電話はなくて、ポケベルで、パソコンのモニターは大きなブラウン管仕様。
こうしたちょっと懐かしい時代感もいいなあ・・・。

 

<Amazon prime videoにて>

「AIR エア」

2023年/アメリカ/112分

監督:ベン・アフレック

出演:マット・デイモン、ベン・アフレック、ジェイソン・ベイトマン、マーロン・ウェイアンズ

歴史発掘度★★★★☆

熱意度★★★★★

満足度★★★★☆


岸辺露伴ルーヴルへ行く

2023年05月30日 | 映画(か行)

パリの露伴にわくわく

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NHKでテレビドラマ化された「岸辺露伴は動かない」の劇場版。
原作は荒木飛呂彦さんのコミックです。
私はコミックは読んだことはないものの、
ドラマを大変楽しく拝見していたので、映画化大歓迎。
待ってました、という感じで拝見。

 

相手を本にして、生い立ちや秘密を読み、
指示を書き込むこともできるという特殊能力「ヘブンズドア」を持つ、
漫画家・岸辺露伴(高橋一生)。

露伴は青年時代(長尾謙杜)、淡い思いを抱いていた女性(木村文乃)から、
この世で最も邪悪な「最も黒い絵」のうわさを聞いたことを思い出します。
それから時を経た今、その絵がフランスのルーヴル美術館に所蔵されていることを露伴は知り、
取材としてパリを訪れることに。
しかし、美術館職員にはその絵を知る者はなく、
データベースによって、その絵が今はもう使われていない
地下の「Z―13倉庫」にあることが分かり・・・。

例により、お気楽編集者・泉京香(飯豊まりえ)を伴う旅で、
ずいぶん重苦しさから救われています。

最も黒い色とは。
その色を用いた最も黒い絵とは。

その秘密を解き明かしていきます。

本作、その黒い色から、クモがにじみ出すように現れて
もぞもぞと動き回るので、うす気味悪さ倍増。
私、クモは大の苦手なのであります・・・。

ルーヴル美術館を舞台に用いるということでスケール感もあって、
劇場版にもしっかりとした意義を感じます。

露伴の、漫画家デビューしたばかりの若き時代をうかがえたのもよかった。
えーとこの長尾謙杜さんというのは「なにわ男子」ですか。
そちらの方はあまりよく分かっていない私。

まあとりあえず、テレビドラマファンだった方なら存分に楽しめます。

<サツゲキにて>

「岸辺露伴ルーヴルへ行く」

2023年/日本/118分

監督:渡辺一貴

原作:荒木飛呂彦

出演:高橋一生、飯豊まりえ、長尾謙杜、安藤政信、木村文乃、白石加代子

不気味さ★★★★★

満足度★★★★☆


金の糸

2023年05月28日 | 映画(か行)

過去は重荷か、財産か

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ジョージア、トリビシの旧市街の片隅。
作家のエレネ79歳は彼女が生まれ育ったこの家で、娘夫婦と暮らしています。
娘は、姑(夫の母)ミランダにアルツハイマーの症状が出始めたので、
この家に呼んで一緒に暮らすと言います。
ミランダはジョージアのソビエト時代に政府の高官として働いており、
エレネにとってはあまり歓迎したくない相手だったのですが・・・。

そんなエレネの79歳の誕生日、
かつての恋人アルチルから十数年ぶりに電話がかかってきます。
アルチルは車椅子生活。
エレネも足が悪く外出はできません。
電話だけで交流が復活した二人。

 

本作には、かつてソ連に飲み込まれ支配されていた
ジョージアの歴史が大きく関わっています。

エレネやアルチルは、まさにそのようなつらい時代のまっただ中を生きてきたのです。
そこへかつての支配国の役人だったミランダがやってくる。
彼女は彼女でそのころの自分が「正義」であるとことを今も信じていて、
周囲に悪びれることもない。
アルツハイマーの彼女は、むしろその頃の彼女の意識に退行しているようですらある。

そんなわけで、平和な日々の中でほとんど忘れていた過去を、
逆に思い起こしてしまうエレネ。
エレネは言います。

過去は重荷なのか、財産なのか。

さて、ここで題名の「金の糸」の意味なのですが、
これは日本の陶器の修復技法「金継ぎ」のこと。
そもそも本作は「金継ぎ」から着想を得た作品とのことです。
古く、割れてしまった陶器を金で継ぎ合わせる。
その継ぎ合わせた線がまた新たな美を生み出すということなんですね。

過去の重荷、傷跡もやがては修復し、
財産に変えていくことができるということなのかもしれません。

若かりしエレネとアルチルの路上でタンゴを踊るシーンが、
たまらなく郷愁を呼び起こします。

そしてまた、老人ばかりが登場する本作で、
未来を感じさせるのがエレネのひ孫に当たる少女の存在。
やはり子供はいいなあ・・・。

ジョージアというあまりなじみのない国の物語ですが、
そこに住む人々の感情がいたいくらいによく分かりました。
日本もかつてつらく悲しい時代があって・・・、
つまりはどこの国にもそういうことを乗り越えてきた人々がいるのでしょう。
だからわかり合える。
ステキな作品でした。

 

<WOWOW視聴にて>

「金の糸」

2019年/ジョージア・フランス/91分

監督・脚本:ラナ・ゴゴベリゼ

出演:ナナ・ジョルジヤゼ、グランダ・ガブニア、ズラ・キプシゼ、ダト・クビルツハリア

 

過去の重み度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


「Seven Stories 星が流れた夜の車窓から」文春文庫

2023年05月27日 | 本(その他)

非日常の中で思う人生

 

 

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九州を走る豪華寝台列車の「ななつ星」。
調度品や食事、クルーのもてなしとすべてが上質で
非日常を味わう憧れの旅として知られています。
この夢の列車を舞台に、
7人の人気作家が「大切な誰かとの時間」を描き出します。


すれ違う夫婦、かけがえのない旧友、母と娘……。
旅の途中だからこそ吐露される、
心に秘めた言葉たちが胸を打つアンソロジーです。
あなたなら、この旅に誰とでかけますか――?

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九州を走る豪華寝台列車「ななつ星」を舞台とする物語。
7人の作家によるアンソロジーです。
この作家の顔ぶれが以下の通り。
なんとも豪華です。

 

<小説>

『さよなら、波瑠』 井上荒野

『ムーン・リヴァー』 恩田 陸

『アクティビティー太極拳』 川上弘美

『ほら、みて』 桜木紫乃

『夢の旅路』 三浦しをん

<随想>

『帰るところがあるから、旅人になれる。』 糸井重里

『旅する日本語』小山薫堂

 

これはもう、読んでみたくなりますよね。

それぞれの旅・・・。
特別に豪華な非日常を、
人々はどうしてしてみようと思ったのか、そして、何を思うのか。
それはつまりその人の人生を語ることでもあるのです。

 

ううん、やはり一度でいいからこんな旅をしてみたいですね。
物語を読みつつ、そう思いました。
旅心を誘うオシャレな本であります。

 

「Seven Stories 星が流れた夜の車窓から」 文春文庫

満足度★★★.5


宇宙人のあいつ

2023年05月26日 | 映画(あ行)

家族の1人が宇宙人?!

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真田家4兄妹の次男、日出男(中村倫也)は、
実は人間の生態調査のため23年前に土星からやって来た宇宙人だった・・・!

しかし、土星に帰らなければならない日が迫って来ています。
日出男は真田家で、人間としてやり残したことをやり遂げようとします。
そして、日出男にはもう一つの試練が・・・。
土星には誰か一人を連れて帰らなければならないのです・・・!

この4人兄妹というのが、
長男・日村勇紀、
次男で宇宙人なのが中村倫也、
長女が伊藤沙莉、
そして三男が柄本時生。

このメンツを見て分かるとおり、
いかにも口が悪くて好き勝手なことを言いそうではあるけれど、
実は人がよくてまっとうで、ほのぼの・・・という感じがします。
この上ないキャスティング!
もう、これだけで成功、という感じです。

長男は親から継いだ焼き肉屋を営み、次男はその手伝い、
長女は産業廃棄物のリサイクル処理場につとめ、
三男はガソリンスタンド勤務。
それぞれに抱えた問題も、家族会議で報告、皆で解決法を探します。
親を早くに亡くした弟妹を支えようと、長男が考えたしきたりなのでしょう。
今時、これはなさそうと思いながら、
この家族の結束力は本当にうらやましい。

それだからこそ、日出男は人間の生態調査として
この上ない成果を上げたでしょうね。
でも、そんな家族の一人を連れ去らなければならないのがつらい・・・。
もし誰も連れ帰らなければ、バツとして監獄送りだ
ということを聞いて、兄弟は悩む・・・。

荒唐無稽ながらも、コミカルでそして家族愛あふれた本作、
たっぷり楽しめました。

 

<シネマフロンティアにて>

「宇宙人のあいつ」

2023年/日本/117分

監督・脚本:飯塚健

出演:中村倫也、伊藤沙莉、日村勇紀、柄本時生

 

兄弟愛度★★★★★

コミカル度★★★★☆

満足度★★★★☆


ベルイマン島にて

2023年05月25日 | 映画(は行)

静かで平和な島で、自分を見つめ直す

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本作の舞台となるベルイマン島は、
スウェーデンの巨匠、イングマール・ベルイマンがロケ地として愛用、
多くの傑作を生み、そして晩年を過ごしたという、
フォーレ島のことを指しています。
映画関係者にとっては、聖地と言ってもいいでしょう。

さてこの島へ、映画監督として認められ始めたばかりのクリス(ビッキー・クリープス)と、
彼女のパートナーである有名監督のトニー(ティム・ロス)がアメリカからやって来ます。
二人は一夏ここに滞在し、創作活動をしようというのです。

実のところ、創作にも互いの関係にも息詰まっている二人。
敬愛するベルイマンが愛したこの島で過ごし、
インスピレーションを得ようと考えたのですが・・・。

作中は、クリスが描く映画のシナリオが劇中劇として同時進行。
クリスはその劇中劇の主人公、エイミーに自己投影し、
自分を見つめ直していきます。

 

静かで美しい島。
あまりにも突き抜けて平和で美しく静かな環境で、
こんなところで私なら逆に仕事などできないような気もしますが・・・。
クリスもそんなところで、なかなか苦戦しているようです。
そして、母に預けておいてきた娘に会いたくて仕方がない・・・。
また、クリスは長くトニーとパートナーとして暮らしてはいるものの、
結婚はしていないのです。

普段の生活を離れて、今までの生活を振り返る。
このままでいたいような、そうでないような。
新たな自分として踏み出したいような、そうでないような・・・。

揺れ動く気持ちが表れる一作。

<WOWOW視聴にて>

2021年/フランス・ベルギー・ドイツ・スウェーデン/113分

監督・脚本:ミア・ハンセン=ラブ

出演:ビッキー・クリープス、ティム・ロス、ミア・ワシコウスカ、
   アンデルシュ・ダニエル・セン・リー

「ベルイマン島にて」

島の美しさ★★★★☆

ゆったりとした時間度★★★★☆

満足度★★★.5


もっと超越した所へ。

2023年05月24日 | 映画(ま行)

ふがいない男たちと、往生際の悪い女たち

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2020年。
4組の男女の話がそれぞれに展開していきます。

デザイナーの真知子(前田敦子)と、バンドマン志望の怜人(菊池風磨)。

もと子役で、今はバラエティタレントの鈴(趣里)と、アザとかわいいゲイ男子・富(千葉雄大)

金髪ギャルの美和(伊藤万理華)と、フリーター泰造(オカモトレイジ)

風俗嬢・七瀬(黒川芽以)と、もと子役で、今は売れない俳優・慎太郎(三浦貴大)

それぞれ、なかなかいい感じに進行中なのですが・・・。

 

途中から時は2年前に遡り・・・
なんとこの4組が実は別の組み合わせだったことが分かります。
しかしそれは、主に男達のダメさのために破局していたのでした。

 

そして、2年後の今、男達のダメさはそのまま変わらず、
やはりまた破局に向かうようで・・・。

本作はもともと、同名の舞台劇だったのですね。
それなので、本作も主に舞台はこの4組のペアの暮らす室内。
それが舞台劇ならではのラストの演出となっていまして、
この映画に於いても、その演出をうまく活用してあります。

素晴らしく面白くて見応えのある作品でした。
オススメです!

 

<WOWOW視聴にて>

「もっと超越した所へ。」

2022年/日本/119分

監督:山岸聖太

原作・脚本:根本宗子

出演:前田敦子、菊池風磨、三浦貴大、趣里、千葉雄大

 

構成度★★★★★

展開の意外性★★★★★

満足度★★★★★


最後まで行く

2023年05月22日 | 映画(さ行)

最後まで行け!

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2014年の同名韓国映画のリメイクです。
ずいぶん面白かったらしくて、中国やフランスでもリメイクされたそうで。

私はわざわざリメイクしなくても元版を見ればいいでしょ、というのが持論なのですが、
この度については、岡田准一さんと綾野剛さんが演じるというのなら
やっぱりリメイクは嬉しいかも・・・、と思ってしまいました。

最近ハリウッド映画よりも邦画の方が好きと思うのも、
おなじみのごひいき俳優さんを見ることができるからなのかもしれないと、
思い当たりました。

さて本作、ある年の年末。
刑事の工藤(岡田准一)が、危篤の母の元に向かうため、
雨の中車を飛ばしていました。
しかし、妻(広末涼子)からの連絡で、母の最後には間に合わなかったことを知ります。
が、そんな時、車の前に現れた一人の男(磯村勇斗)をはねてしまいます。
飲酒運転をしていた工藤は、とっさに遺体を車のトランクに入れて、
その場を立ち去ります。
そして、母の棺の中にその遺体を入れて、母と共に焼いてしまおうとするのです。

そんな工藤を怪しみ、彼を追うのが、県警本部監察官・矢崎(綾野剛)ですが・・・。
実は矢崎にも差し迫った事情があったのです。

一見クールで冷静沈着そうな矢崎が、次第にその本性を表わし、
狂気の淵に沈んでいくのがなんとも恐い。
そしてそれこそが綾野剛さんの真骨頂であります。
そしてまた、工藤はヤクザと癒着して裏金作りをしているし、
飲酒運転もなんのその、妻とは離婚寸前というやさぐれ刑事。
そこでひき逃げとなればもう、刑事人生どころか人生そのものも終わってしまいます。
そんなところをちょっぴりコミカルさも交えながら
ストーリーが進んでいくのがなんとも楽しい。
そしてまた次第に、矢崎に引きずられるように、彼もまた狂気の淵へ沈んでいくという・・・。

岡田准一×綾野剛をたっぷり楽しみました!!

磯村勇斗さんはずっと死体だけの役なのか?と思ったら、
ちゃんと時間を戻して、生きているシーンもありますのでご安心を。

 

<シネマフロンティアにて>

「最後まで行く」

2023年/日本/118分

監督:藤井道人

オリジナル脚本:キム・ソンクン

出演:岡田准一、綾野剛、広末涼子、磯村勇斗、駿河太郎、柄本明

 

アクション度★★★★☆

痛快度★★★★☆

血みどろ度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


林檎とポラロイド

2023年05月21日 | 映画(ら行)

記憶障害が蔓延する社会

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記憶障害を引き起こす奇病が蔓延する世界。
ある日突然記憶を失った男が、治療のための回復プログラム
「新しい自分」に参加することにします。

それは、以前の記憶はもう取り戻すことができないので、
新しい記憶を作り出していこうとするもの。
男は、毎日送られてくるカセットテープに吹き込まれた内容を実行します。

自転車に乗る

仮装パーティで友達を作る。

ホラー映画を見る。・・・

そんな中で、同じ回復プログラムに参加する女と出会い、親しくなっていきます。
が、しかし、徐々に明らかになっていく男の真実とは・・・?

近未来SFのようでいて、使用されているのはカセットテープやポラロイドカメラ。
このレトロ感がいいですね。

そしてまた、女は男よりもほんの少しプログラムの先を実行しているのです。
そのため、男は女の事情が読めてしまう、というところもちょっと切ない。
さらにまたそれ以上に切ないのは、
男が「忘れてしまった」という過去のことなのでした。

映画作品としては、あまりなじみのないところで制作されたものですが、
なんともステキな作品でした。
今や世界中あらゆるところで、スバラシイ作品が生まれているのですね。

一方、どうにもハリウッド作品にはのめり込めないと感じることの多い私です。

 

<WOWOW視聴にて>

「林檎とポラロイド」

2020年/ギリシャ・ポーランド・スロベニア/90分

監督:フリストス・ニク

出演:アリス・セルベタリス、ソフィア・ゲオルコバシリ、
   アナ・カレジドゥ、アルジョリス・バキルティス

 

満足度★★★★★

 


「よろずを引くもの お蔦さんの神楽坂日記」西條奈加

2023年05月20日 | 本(ミステリ)

小粋な祖母と孫の物語

 

 

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多発する万引きに町内会全体で警戒していた矢先、
犯人らしき人物をつかまえようとした菓子舗の主人が
逃げる犯人に突き飛ばされて怪我をしてしまった!
正義感に駆られる望と洋平は、犯人の似顔絵を描こうと思い立つが……
商店街を巻き込んだ出来事を描いた「よろずを引くもの」を始め、
秋の神楽坂を騒がす事件の数々を収録。
粋と人情、そして美味しい手料理が味わえる大好評シリーズ、
待望の最新作!

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西條奈加さんの神楽坂日記シリーズ4巻目。
本巻は連作短編となっています。

若かりし頃、芸者をしていたお蔦さんは、料理男子の孫・望と同居しています。
この家族とご近所商店街で起こる謎や事件をひも解いていく物語。

 

表題作「よろずを引くもの」は、その言葉通り、「万引き」の話。
ご近所でも、万引きの被害が大きいとウワサしていた矢先に、
とある菓子舗の主人が逃げる犯人に突き飛ばされて怪我をしてしまった!
望とその親友洋平は、その犯人の似顔絵を描いて、
犯人を突き止めようとします。

万引きをする側の心理・事情にも触れていく作品。
それにしても、あまりにも万引き被害が大きくて
閉店までせざるを得なくなるということもあるという・・・。
困った世の中です。

いつものごとく、少年達の純粋な正義感と行動力、
そして経験を積んで小粋な老婦人のコンビネーションが楽しい。

この先も楽しみですね。

 

「よろずを引くもの お蔦さんの神楽坂日記」西條奈加 東京創元社

満足度★★★★☆


MEMORY メモリー

2023年05月19日 | 映画(ま行)

記憶障害の殺し屋

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リーアム・ニーソン、まだまだ頑張ってますね!

完璧に仕事をする殺し屋として、裏社会で絶大な信頼を得ていた
殺し屋、アレックス(リーアム・ニーソン)。
しかし近頃アルツハイマーを発症。
任務の詳細を記憶することもおぼつかなくなり、引退を決意しました。

そして、最後と決めた仕事のターゲットが少女であることを知り、契約を破棄。
しかし依頼側がそれで納得するはずがありません。
すぐさま別の殺人者が動き出し、アレックスをも抹殺しようとします。
アレックスは独自で調査を進め、
財閥や大富豪を顧客とする人身売買組織の存在を突き止めていきます。

また一方、FBIの捜査官ヴィンセント(ガイ・ピアース)らも、
この人身売買組織の黒幕を探ろうとしていて・・・。

米国とメキシコ間で、麻薬の密売問題がよく映画になりますが、
この度は人身売買ということでした。
アレックスとFBIは同じ標的を追うことになり、最後には共闘的な動きをしますが、
所詮アレックスは殺し屋ですので、ことはそう簡単ではありません。

記憶障害のアレックスは、腕に大事なことを書き込んで、
なんとか記憶消滅に抗います。
確かに、こんな殺し屋は今までいなかったかも。
これまで老齢にもめげず最強の男を演じたリーアム・ニーソンも
ついに弱みをみせたか・・・。

それにしても、アレックスの信条として
「決して子供は殺さない」なんていうのはどうにもね・・・。
大人ならよくて子供だとダメなのかよ。
そのココロは・・・?

いや、分からなくはないけど、すっきりしません。
これまでどれだけ人を殺したか分からない。
それはどうせ悪人だから良いのか? 
その「悪人」という判断は誰がする?

こんな作品で、つべこべ言うのはルール違反ではあるけれど、
あまりにもノーテンキなのもどうかと思う。

やはり単純に、「家族を守るために闘う」とした方が無難です。
いまさらマンネリを恐れても・・・。

 

<サツゲキにて>

「MEMORY メモリー」

2022年/アメリカ/114分

監督:マーティン・キャンベル

出演:リーアム・ニーソン、ガイ・ピアース、モニカ・ベルッチ、タジ・アトウォル、レイ・フィアロン

動機づけ★★★☆☆

血まみれ度★★★★☆

満足度★★★☆☆

 


猫は逃げた

2023年05月18日 | 映画(な行)

猫も食わない夫婦喧嘩?

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漫画家の町田亜子(山本奈衣瑠)と週刊誌記者・広重(毎熊克哉)は同居する夫婦。
しかし、亜子は編集者・松山(井ノ脇海)と、
広重は同僚の真実子(手島実優)と浮気中。
夫婦間は冷え切り、離婚寸前のところで、
飼い猫・カンタをどちらが引き取るか、もめているのです。
そんな矢先、カンタが家からいなくなってしまい・・・。

カンタは町田夫妻の言い争いがイヤで、そんな時には外へ出かけてしまうのが常。
ではありますが、これまで夜に帰ってこなかったことはないのです。
夫婦は仲違いしてもカンタを大事に思う気持ちは同じで、
心配し、行方を探すときには気があってしまう。


真美子は猫がいなくなれば町田夫妻の離婚話が早く進むと、期待しているのですが・・・。
そして、ひょんなことから真美子と知り合って協力関係になってしまう松山。

ややこしい4人の関係性がユーモラスに描かれます。

そして終盤、この4人が一堂に会して言い合いをするシーン。
カメラを固定して長回しのシーンが実に圧巻でした。

とにかく、笑えます!!

<Amazon prime videoにて>

「猫は逃げた」

2021年/日本/109分

監督:今泉力哉

脚本:城定秀夫、今泉力哉

出演:山本奈衣瑠、毎熊克哉、手島実優、井ノ脇海

 

コミカル度★★★★☆

猫愛度★★★★★

満足度★★★★☆


ピンクとグレー

2023年05月16日 | 映画(は行)

反転する世界が見所

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人気俳優・白木蓮吾(中島裕翔)が自殺します。
その遺体を発見したのは、彼の少年時代からの親友で、
同じ時にデビューしたのにほとんど売れない俳優の河田大貴(菅田将暉)。
ところがそのことがあってから、河田に急に世間の注目が集まり始めます。

 

本作、後半からガラリと世界が反転するので、驚かされます。
けれどもやはり同じ一つのストーリーではあるのですが。

 

着実に力をつけ、のし上がっていく白木。
それがうらやましくてしょうがないのに、
平気なフリをして、ルームシェアも解消、離れてしまった河田。
けれど、河田はどれだけ無視しようとしても、白木の存在からは逃れられない。
そして、白木の亡き後ですらも・・・。

 

本作の原作は、加藤シゲアキさんで、2012年の処女小説ですね。
正直、私は侮ってしまっていましたが、素晴らしくよくできたストーリーでした。
ジャニーズの皆様の才能はそれぞれに計り知れませぬ・・・。

 

名優揃いで固めた本作、さすがに見応えがあります。

 

<Amazon prime videoにて>

「ピングとグレー」

2015年/日本/119分

原作:加藤シゲアキ

出演:中島裕翔、菅田将暉、夏帆、柳楽優弥、岸井ゆきの

 

意外な展開度★★★★★

満足度★★★★☆

 


TAR ター

2023年05月15日 | 映画(た行)

周囲の評価が彼女を追い詰める

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ドイツの有名オーケストラで、女性として初めて主席指揮者に任命された
リディア・ター(ケイト・ブランシェット)。
そのたぐいまれな能力と、プロデュース力を買われているのです。


しかし今彼女は、マーラーの交響曲5番の演奏、録音のプレッシャーと、
新曲の創作に苦しんでいます。
そんなところへ、かつて彼女が指導した若手女性指揮者の訃報が入り、
ある疑いをかけられたターは追い詰められていきます・・・。

数少ない女性指揮者というのも彼女のプレッシャーの一つ。
そんな彼女は、音楽に情熱を燃やしたり、
美しい音楽を作り出すことを楽しんだりすることよりも、
とにかく今の地位を保つこと、もっと上を目指すことが主目的になっているようです。
つまり、「回りの評価」が大事。

それだから、心のバランスを失っていく彼女には、
奇妙な音が聞こえ始めるのではないでしょうか。
周囲が自分をどう見ているか、何を言っているか・・・。
そしてそれは、SNSで悪意ある投稿があふれ始めたときに、
さらに増長していく・・・。

尊大で威圧感のある女性を演じるケイト・ブランシェット、さすがに圧巻です。
あんな指揮の仕方をしていたら一曲だけでもう、精魂つき果ててしまいそうです。

がしかし、実のところ特に前半、私は眠くてつらかった・・・。

 

<サツゲキにて>

「TAR ター」

2022年/アメリカ/158分

監督・脚本:トッド・フィールド

出演:ケイト・ブランシェット、ノエミ・メルラン、ニーナ・ホス、
   ソフィー・カウアー、アラン・コーデュナー

心の変調度★★★★☆

満足度★★★☆☆


「サル化する世界」内田樹

2023年05月14日 | 本(解説)

今さえよければいいのか?

 

 

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「今さえよければ、自分さえよければ、それでいい」――。
サル化が急速に進む現代社会でどう生きるべきか?

ポピュリズム、敗戦の否認、嫌韓ブーム、AI時代の教育、
高齢者問題、人口減少社会、貧困、日本を食いモノにするハゲタカ……
モラルの底が抜けた時代に贈る、ウチダ流・警世の書!

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久しぶりに、内田樹氏。

この「サル化」というのは古語「朝三暮四」の話からくるもの。
サルの思考回路のことを言っています。

今さえよければ、自分さえよければそれでよい。
長期的な先のことや全体的なことを見通していない。
・・・そういうサルのような思考回路に、
現代社会は陥っているのではないか・・・?
というのが主題です。

 

年金の話などを考えれば、まさにそうですね。
日本が超高齢化社会となることは何十年も前から分かっていたのに、
誰もが問題を先送りして、まともに抜本的な対策を立てようとしなかった・・・。
そんなだから今、老後にある程度の生活水準を保ちたければ
2000万円の貯金が必要だなどという話が出れば、
必死になってそれを潰そうとして、ひたすら真実を見ようとしない。
これもまた、不穏な未来を想像したくない、
今だけなんとか平穏を保つことができればいい・・・と、
まさにサル化の見本のような。

 

本巻には様々な問題があげられていますが、
内田氏の独自、独特の視点からの物言いは胸がすく感じがします。
ただし、独特すぎて、なかなかマトモに取り上げて
議論に乗せようとする人もあまりいなさそうなのが残念・・・。

 

「サル化する世界」内田樹 文春文庫

満足度★★★.5