単身旅先での孤軍奮闘
フォールアウト (ハヤカワ・ミステリ文庫) | |
山本 やよい | |
早川書房 |
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窃盗の疑いを掛けられている青年オーガストが、老女優フェリングとともに失踪した。
探偵ヴィクは彼らが向かったと思われるカンザス州の街へと赴く。
オーガストたちは廃棄されたミサイル基地で何かを撮影していたらしい。
調査を進めていたヴィクは殺人事件に巻き込まれ……。
アメリカ中西部に渦巻く陰謀の正体とは?
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昨年秋にこのV・I・ウォーショースキーシリーズを何作か読んでいたので、
新作が出ていたのは嬉しく思いました。
そういえば2017年の年末、恒例年末発売の
パトリシア・コーンウェル「検屍官シリーズ」の方は出なかったのですね。
それがちょっと寂しかったのですが、
その穴を埋めるのにも余るくらいの、いつもながらの力作でした。
本作は珍しくヴィクがホームグラウンドのシカゴを離れ、
単身(犬連れ)カンザス州へ赴いて仕事にかかります。
失踪した老黒人女優フェリングと映像作家の青年オーガストの行方を捜索するのが彼女のミッション。
ところがこの二人の行方は全くつかめず、
しかし、死にそうな人を3名助け、死体を2体発見してしまいます・・・。
おかげで地元の警察にもしっかり顔なじみになってしまう。
まるでヴィクが疫病神をこの田舎町に連れてきたように思われてしまいます。
そうなればもちろん彼女自身にも殺人の嫌疑がかかったりもして・・・、
いつもながら踏んだり蹴ったりの憂き目に合うヴィク。
彼女を慰めるのは犬のペピーのみ・・・。
いえ、彼女のフランクな性格のお陰で、
じきに気のいい協力者(時にはやりすぎてしまう鉄砲玉のような娘も)ができるのですけれど・・・。
この地には、以前核ミサイルの基地があったのです。
その昔、反核のデモがあったりもした。
だからもしや放射能漏れに関する問題が背後にあるのでは?
と、思えたのですが、いや実はそうではなく・・・。
災いの種は30年前に蒔かれていたのです。
その時に問題隠蔽を図った者たちが、今また問題発覚を恐れて動き出した
・・・と、そういう構図。
相変わらずカンの良さとタフさで、もつれた糸を解きほぐしていくヴィクですが、
今回のヴィクはややメランコリック。
シカゴの親しい友人たちと離れているからということもあるのですが、
何と言っても、恋人ジェイクとの危機が問題。
コントラバス奏者のジェイクはずいぶん長くヴィクとうまく行っていました。
結構恋人が入れ替わるヴィクなのですが、
ジェイクとは多分シリーズ中でも最長の仲の良さだったと思います。
ところが本作冒頭からジェイクはスイスに行ってしまっているのです。
「一緒に来ないか?」とヴィクは誘われたのですが、
彼女は仕事の方をとってしまった。
カンザスに来てもメールは通じるわけですが、
なかなか連絡もなくヤキモキする彼女に、ついには破局を意味するメールが・・・。
いつかこうなるとは思っていましたが、お気の毒・・・。
イヤほんと、いいヤツだったんですけどねえ・・・。
けれどもジェイク恋しさに涙を流しながらも、
結局恋人よりも仕事を選んでしまう、そんなヴィクが大好きです!!
「フォールアウト」サラ・パレツキー ハヤカワ文庫
満足度★★★★.5