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「死ぬまでにしたい10のこと」に出ていた女優サラ・ポーリー。
若干29歳にして、これが彼女の長編監督デビュー作。
才能というのはあるところにはあるものです・・・。
40年以上も連れ添った夫婦の妻の方がアルツハイマーとなり、
老人介護施設に入所。
この作品は、次第に夫婦の絆の記憶も崩壊していく妻を、
哀しく見守る夫の視点から描かれています。
昨今、アルツハイマーに係る映画作品は多いのですが、
この作品は、その病に犯されていくつらさや哀しみというよりは、
妻に置き去りにされたように思う夫の悲哀を描いています。
こういう場合、記憶は新しいものから失われていくもののようです。
夫婦というのも、常にずっと穏やかだったわけではなくて、
これまでにはいろいろな波風もあったわけです。
若い頃の彼はずいぶん浮気をして、妻を苦しめた。
しかし、妻は、やっと落ち着いて夫婦の絆を取り戻していた近年のことを忘れていくんですね。
面会に行っても夫と解らず、施設の他の男性と心を通わせている妻・・・・。
彼は看護師にふとこんなことを言います。
「妻は私を罰しているのではないか・・・・」
彼自身の心の底にあった罪悪感が、そのような想像を呼び起すのです。
でも、彼がこのセリフをつぶやく以前に、
すでに私にもそのような想像が沸いてしまいまして・・・。
なんだかちょっと怖い気がするんですね。
無論本当に妻は脳の病で、記憶が失われているのです。
比較的新しいものから失われやすいとはいえ、失われる順に脈絡もありません。
しかし、そうではなくて、
何らかの深層心理の働きで恨みやつらみだけが残っていくとしたら・・・。
そんなわけはないと思いながらも、
この作品のラストでは、ますますそういう怖さを私は感じてしまったのです・・・。
・・・これは多分私の考えすぎなんでしょうね。
作品解説を読んでも、夫婦愛の絆の物語・・・という風になっていますし。
しかし、看護師は彼にこんなことも言います。
「最後に”悪い人生じゃなかった”と思うのはいつも男。」
長年連れ添った妻の内面を、夫は果たしてどれだけ解っているのでしょう・・・。
そう思うと、やはりちょっと怖くありませんか・・・?
ジュリー・クリスティーは、
いかにも若い頃は美しかっただろうなあ・・・という感じがしますね。
徐々に壊れていくところが哀しく現実味を帯びていました。
2006年/カナダ/110分
監督:サラ・ポーリー
出演:ジュリー・クリスティ、ゴードン・ピンセント、オリンピア・デュカキス、マイケル・マーフィー
『アウェイ・フロム・ハー君を想う』