映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

共喰い

2014年04月30日 | 映画(た行)
自分の中に流れる“血”を忌み嫌うとき



* * * * * * * * * *


第146回芥川賞を受賞した同名田中慎弥作品の映画化です。


昭和63年夏、山口県下関市。
高校生遠馬は暴力的性癖を持つ父親(光石研)と
その愛人(篠原友希子)と暮らしています。
母(田中裕子)は近所に住んでいますが、
女癖が悪く性行為で暴力をふるう夫に愛想を尽かし、家を出たのです。
遠馬は、粗野な父を忌み嫌っていましたが、
恋人千種(木下美咲)と交わるうちに、
自分の中に父と同じ血が流れていることを自覚させられます。



男の暴力に忍従する女。
遠馬はそういう父の愛人たちを不思議に思う。
なぜさっさと逃げ出さないのか。
男と女のどうにもならないしがらみが根底にあるのでしょう。
男の性衝動・・・う~ん、そこのところは私にもよくわからないのですが。
「愛」だの「ロマン」だのの言葉が滑稽に思えてしまう、
生と性の生々しいストーリーです。



田中裕子演じる“母”の凄みが効いていました。
彼女の中にあるのは諦めと怨嗟。
そういうものを胸奥に秘めながらも、人は日常を生きなければならない。
あの父にしても、夜あのように変貌するのだけれど、
何食わぬ顔で社会に溶け込んで
嬉々として祭りの準備に励んでいたりする。
世の中というのが、ちょっと恐ろしく感じられてきます。



さて、本作は原作とあえて改変しているところがあるそうです。
(原作、読んでいませんが・・・)
終盤の半年後のエピソードは原作にはないものだそうで。
それによって、多少は物語の上にも光が差し込む気がするわけですが、
確かにこれは無くても成り立つものですね。
その先は私達の心に任せてくれたほうが、余韻は残ったかと思います。



昭和最後の夏というところにも意味がありまして、
でも最後の母のセリフがちょっと唐突に感じました。
あ、そういうテーマも含んでいたわけね、と、
そんなところで初めて気付かされても戸惑ってしまう。
小説中には前振りがあったのでしょうか? 
少なくともこの作品中では余分に感じられます。

共喰い [DVD]
菅田将暉,木下美咲,篠原ゆき子,光石研,田中裕子
アミューズソフトエンタテインメント


「共喰い」
2013年/日本/102分
監督:青山真治
原作:田中慎弥
出演:菅田将暉、木下美咲、篠原友希子、光石研、田中裕子
生々しさ★★★★☆
満足度★★★☆☆

地獄でなぜ悪い

2014年04月28日 | 映画(さ行)
単なる血みどろの抗争劇じゃなかった・・・!!



* * * * * * * * * *

ヤクザの組長武藤(國村隼)は、獄中の妻しずえのために、
娘ミツコ(二階堂ふみ)を主演にした映画の製作を決意します。
10代の頃から映画作りの夢を抱き、
10年たった今も子供のように夢を持ち続ける平田(長谷川博己)と、
ただの通りすがりの平凡な青年橋本(星野源)を監督に、
手下のヤクザたちがキャストとスタッフを務め、
映画撮影が開始される。
撮影は敵対する組への殴り込みのナマ撮影。
しかもそちらの組長池上(堤真一)は、ミツコに恋心を抱いている・・・。
血みどろ、決死の立ち回りのなか、
撮影が行われるが・・・。



コメディではありますが、とんでもなく血まみれ。
残酷シーンもイッパイ。
けれどそんな表層のことに惑わされてはいけません。
何しろ非常によく練られたストーリーです。
10代のイカれた映画マニア平田たちとヤクザ池上との接触。
また、ミツコと池上とのつながり。
名子役の失墜。
強者のヤクザの妻。
ヤクザ同士の抗争。
こういう関係性が10年後にまた絶妙にからみ合っていきますね。
無駄に月日が流れるわけではない。



また一人ひとりの個性がユーモラスでありつつカッコイイ。
特に平田のキャラは最高ですね! 
女をくどくセリフはまるで舞台俳優のそれだ。
キザでカッコつけで・・・。
たった一つでいいから最高の映画を撮りたい。
少年の夢をそのまま持ち続け、ひたすらチャンスを待ち続ける彼に、
ついに運命の神が舞い降りる。
その時の高揚感、使命感・・・いいですねえ。



はすっぱなミツコもまた、キョーレツにカッコイイのです。
裏切った男への対処とか、
何事にも動じない強さ。(さすがにあの母の娘・・・)



ヤクザの池上は、黙っていれば威圧感たっぷりなのに、
ミツコを夢想する彼はトンマもいいところ。
堤真一さんの百面相が楽しめます。
そしてまた、凡庸でトホホな青年橋本の役回りもよし。

それでもラストは、あんまりな抗争の惨劇に不安になりかけるのですが・・・。


しかし、本当に最後まで見なければわからないものです。
ラストのほんのひとシーン。
このシーンがあるとなしでは全然意味が違ってくる。
私達は、驚かされ、安堵し、そして納得させられるのです。
これぞ映画・・・。
園子温監督の映画愛がじんわり伝わる作品なのでした。
俳優さんたちもすごく楽しんだのではないかと思います。

地獄でなぜ悪い スタンダードエディション [DVD]
國村隼,二階堂ふみ,友近,長谷川博己,星野源
キングレコード



「地獄でなぜ悪い」
2013年/日本/129分
監督・脚本:園子温
出演:國村隼、堤真一、二階堂ふみ、長谷川博己、友近、星野源
血まみれ度:★★★★★
ストーリー性★★★★☆
満足度★★★★★

「刀伊入寇 藤原隆家の闘い」葉室麟

2014年04月27日 | 本(その他)
知られざるヒーロー

刀伊入寇 藤原隆家の闘い (実業之日本社文庫)
葉室 麟
実業之日本社


* * * * * * * * * *

時は平安中期。
京で心に荒ぶるものを抱いていた貴公子・藤原隆家は、
陰陽師・安倍晴明から「あなた様が勝たねば、この国は亡びます」と告げられる。
叔父・藤原道長との熾烈な政争を経て、
九州大宰府へ赴いた隆家を待っていたのは、大陸の異民族「刀伊」の襲来だった
―直木賞作家が実在した貴族の知られざる戦いを描く、
絢爛たる戦記エンターテインメント巨編!


* * * * * * * * * *

葉室麟作品には珍しくズズ~っと時代がさかのぼりまして、
平安時代です。
なので主人公は武士ではなく、貴族・藤原隆家。
藤原道長の甥に当たります。
けれど、貴族ではありながら、自ら剣を持って戦う豪の者。
道長とは叔父・甥の間柄ではありますが敵対関係。
では、彼の戦う相手は道長なのかと思えばそうではなく、
大陸の異民族「刀伊」。
いやそもそも「元寇」なら知っているけれども、
平安時代にこんなことがあったなんて、ちっとも知りませんでしたが、
隆家がこの闘いで活躍したというのは史実であります。


隆家のヒーロー像がカッコイイですよ。
まだ「武士道」ではないけれど、凛とした一本の芯が通っていて、強く美しい心ばえ。
憧れます。
何しろ、自分の息子と刃を交わさなければならないというドラマチックな展開が、
読み物として素晴らしい。


前半は宮中での熾烈な権力争いが繰り広げられますが、
清少納言と紫式部も登場。
やはり仲はよろしくないですね。
権力をほしいままにした藤原道長は、私の中では強引で傲慢な腹黒いやつなのですが、
本作中ではやや気の小さいところも伺われます。
あくまでも光源氏のごとく光り輝くのは隆家。
安倍晴明も登場し、平安時代らしく「呪詛」や「物の怪」もあり。
けれどそんなものは意に介さず、あくまでも現実的な戦略で敵を迎え撃つ。
『武士』の魂の萌芽ですね。
知らない世界をまた一つ覗いてしまった。
そんなお得感を味わいました。

「刀伊入寇 藤原隆家の闘い」葉室麟 実業之日本社文庫
満足度★★★★☆

8月の家族たち

2014年04月26日 | 映画(は行)
豪華キャストはダテじゃない



* * * * * * * * * *

メリル・ストリープ、ジュリア・ロバーツ、
ユアン・マクレガー、クリス・クーパーに、アビゲイル・ブレスリン、
そしてベネディクト・カンバーバッチ・・・!
この盆と正月が一度に来たような豪華キャストに、
まず驚かされます。
しかし、見れば納得。
決して無駄に豪華なわけではありません。
父親が行方不明となり、
久々に母(メリル・ストリープ)の元に集まった三人の娘とその家族たち。
本作はトレイシー・レックの戯曲が元になっています。
従って舞台はほとんどこの家の中なのですが、そのセリフの応酬がすさまじい。
家族愛? 
そんな甘いモノではありません。
そんな感傷は吹き飛んでしまいます。



まずここの父親は穏やかな人物なのですが
アルコール依存症で、突如失踪。
そしてそのまま自殺をしてしまうのです。

母(メリル・ストリープ)は病で余命幾ばくもない事がわかっているのですが、
そのため薬漬け。
もともと毒舌家のようなのですが、薬のために歯止めがなくなることも。

長女バーバラ(ジュリア・ロバーツ)は、
この母の気性を最も強く受け継いだようで、これがまた強気で口が悪い。
双方真面目でまっすぐで直情的。
その言葉は時にぐっさりと人の心を突き刺します。



次女アイビーは生きることに不器用。
けれど秘密の恋を家族に打ち明けたいと思っています。

三女カレンは自由奔放。
この度はフィアンセと共に現れるのですが、その彼が何やら怪しい・・・。


父の葬儀の後の食事会は、凍りつきそうな毒舌の応酬。
なんともいたたまれなく、
心優しき男性たちはなんとか話題を変えて収拾をつけようと努力するのですが、
女達の迫力には全く太刀打ちできません。
いやー、ほんとにハラハラヒヤヒヤしてしまう、
こんな食事のシーンは全く前代未聞といえましょう。

そして全く思いがけない衝撃の事実が最後に明かされるにいたって、
なるほど、この家族のバラバラな元凶がこれなのか・・・と納得させられるわけです。
こんな家族が「いやあ、やっぱり家族の心は一つ」などと言って
大団円を迎えられるわけがありません。



けれども不思議に後味はそれほど悪くない。
というのも、ラストにジュリア・ロバーツが見せる表情なのです。
ふるさとの地、オクラホマ、オーセージの
なにもなく雄大な風景を目にした時の彼女の表情。


結局はこの故郷、この母のもとで自分は形作られてきた。
どんな結果が待つにしても、それは自分で引き受けるしかないのだという
諦めというか悟りのようなもの。
なんのセリフも解説もありませんが、
ラストのこのシーンが私達の心に訴えかけてくる何かは、
決して嫌なものではありません。


「8月の家族たち」
2013年/アメリカ/121分
監督:ジョン・ウェルズ
原作:トレイシー・レッツ
出演:メリル・ストリープ、ジュリア・ロバーツ、ユアン・マクレガー、クリス・クーパー、アビゲイル・ブレスリン、ベネディクト・カンバーバッチ

家族の不和度★★★★★
意外性★★★★☆
満足度★★★★★

そこのみにて光輝く

2014年04月24日 | 映画(さ行)
底辺で出会う二人



* * * * * * * * * *

「海炭市叙景」に続いて函館市をロケ地とした
佐藤泰志原作のストーリーです。
思い切り地味なストーリーですが、
綾野剛さんの起用で、ミーハー人口をも惹きつけつつ、
でも浮つかない見応えのある作品となっています。


仕事をやめてぶらぶらしていた達夫(綾野剛)は、
粗暴だけれど人懐こい青年拓児(菅田将暉)とパチンコ屋で知り合います。
彼に連れられて彼の家を訪れるのですが、そこはとり残されたような一軒のバラックで、
病で寝たきりの父、
父の世話に疲れ果てた母、
そして一家の生活を支えている姉・千夏(池脇千鶴)がいるのでした。
達夫は千夏に惹かれていくのですが、
千夏は複雑な事情を抱えています・・・。



達夫は山でハッパ作業を行っていたのですが、
ある事故から心に傷を負い、生きる目的を見失っていたのです。
一方千夏は、ろくな仕事もないこの街で、
手っ取り早くお金を得る仕事をしていたわけですが、
そんなことから、自分がまともに人を愛したり結婚したりなどできるわけがないと思い込んでいる。
泥沼に入り込んだような二人が、
反発を繰り返しながら、
しかし、互いに手探りで前に進み始める様がじっくりと描かれています。



舞台が函館というのがやはりいいですね。
ちょっぴり寂れた地方都市。
何よりも海がいい。
そして、綾野剛さんの函館弁がとても自然。
私は子供の頃函館に住んでいたことがあるので、
なんだか懐かしい気がしてしまいました。
綾野剛さんはNHK大河ドラマで会津の殿様を演じていた頃からなんだか気になっていたのですが、
本作で完全にファンになってしまいました。
いわゆるジャニーズ系のかっこよさとはちょっと違う。
でも本作のように陰りのある男がすごく似合う。

ラストの、この夕日を背中から受けて輝いている彼、
その彼の表情がなんとも言えず素敵で、
すべてこのシーンのための映画だったなあ・・・と思えるのです。



それから本作でもう一人光っていたのが拓児。
人懐っこくて、ひょうきんで、単純でまっすぐ。
いいキャラだなあ・・・・。
後先考えず突っ走ってしまうのが玉にキズ。
でもこんな彼だからこそ、
閉めきっていた達夫の心をほんの少しこじ開けることができたのでしょう。
彼は植木屋でバイトしていて、ガラにもなく家で野草を育てていたりします。
しかし「お祭りで売るんだ」というちゃっかり屋の彼。
一見ヤンキーの彼の意外なこういう一面でも楽しめます。
ともあれ、ずっと心に残る作品になると思います。



「そこのみにて光輝く」
2014年/日本/120分
監督:呉美保
原作:佐藤泰志
出演:綾野剛、池脇千鶴、菅田将暉、高橋和也、火野正平

函館活用度★★★★★
家族の悲惨度★★★★★
満足度★★★★★

「川あかり」 葉室麟

2014年04月23日 | 本(その他)
剣の腕はからきしだけど、武士としての魂は一流

川あかり (双葉文庫)
葉室 麟
双葉社


* * * * * * * * * *

川止めで途方に暮れている若侍、伊東七十郎。
藩で一番の臆病者と言われる彼が命じられたのは、
派閥争いの渦中にある家老の暗殺。
家老が江戸から国に入る前を討つ。
相手はすでに対岸まで来ているはずだ。
木賃宿に逗留し川明けを待つ間、相部屋となったのは
一癖も二癖もある連中ばかりで油断がならない。
さらには降って湧いたような災難までつづき、気弱な七十郎の心は千々に乱れる。
そして、その時がやってきた―。
武士として生きることの覚悟と矜持が胸を打つ、涙と笑いの傑作時代小説。


* * * * * * * * * *

葉室作品は割と硬質と思っていましたが、
本作、ほんのりユーモアも漂っていて、非常に読みやすい作品でした。
主人公・伊東七十郎は18歳。
藩で一番の臆病者といわれている彼が、
あろうことか家老の暗殺を命じられてしまった。
上からの命とあれば、決死の覚悟で従うのみ。
そこで相手を待受けるべく、巨勢河原へやって来たのですが、
降り続く雨で川が増水し、川止めとなってしまっています。
やむなく、この地に逗留し、川明けを待つことに。
しかし、同じ宿に泊まるのがどうにも胡散臭い者達ばかり。
ところが、彼らにもまた彼らの事情があった。
いつしか彼らが互いを理解し、協調関係となっていくのが、心地よい。


七十郎は確かに体力や剣の腕はからきしですが、
彼の武士としての魂が美しい。
女も知らず、ウブでまっすぐな若き七十郎君、
母性本能をくすぐりますねえ・・・。
葉室麟氏描くところの武士の心得は、
いつもながら凛として美しく、好きにならずにいられません。


降り続く雨。
舞台はずっと同じ川岸のおんぼろ木賃宿。
そこで繰り広げられる人間ドラマということで、ユニークさもひとしおです。
同宿の豪右衛門たちの過去の出来事というのも壮絶で、
よせばいいのに七十郎の困り事に首を突っ込んでしまう人のよいところもいい味ですしねえ・・・。
本作、映画になるといいなあ・・・と思ってしまいました。
七十郎くんには誰がいいかな・・・?

「川あかり」葉室麟 双葉文庫
満足度★★★★★


舟を編む

2014年04月22日 | 映画(は行)
いざ、言葉の大海原へ



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本作は、三浦しをんさんの原作を非常に面白く読んだので、
見るまでもないと思い、見ていなかったのですが、
日本アカデミー賞受賞作となればやはり見ないわけにも行きますまい・・・。



玄武書房の営業部に居た馬締(まじめ)(松田龍平)は、
新しい辞書「大渡海」を編纂する辞書編集部に引きぬかれます。
もともと言語学を学んでおり、真面目一筋の彼にはまさにピッタリの仕事だったのですが、
しかし、彼には人とのコミュニケーション能力が欠如していた!!
しかしそこは、この部署の先輩格、西岡(オダギリジョー)に呆れられ、導かれながら、
馬締は「言語の大海原」へ漕ぎだしたのでした・・・。
そして、香具矢という女性との出会い。
彼女に心惹かれながらも、伝える言葉が見つからない彼は・・・。


多くの言葉を扱う仕事をしていながら、実際にその言葉を使えないという馬締が、
周りの人々に支えられながら、次第に自己表現に心を配るようになっていく。
地道に物事を一つ一つ積み重ねていくことの大切さ。
そしてそれをやり遂げた時の充実感。
自己の成長。
お仕事小説の中でも、やはりピカイチのストーリーだと思います。
本作は原作よりもコミカル度を抑えてあるようです。
三浦しおんさんの原作にはもっと勢いがあるのですが・・。
でもまあ、題材が題材ですし、控えめなのが正解かも知れません。
いかにも辛気臭い職場の雰囲気が、映像だと非常によくわかります。
この作業、私なら30分続けたら眠くなるかも。



松田龍平さんの演技も相当抑え気味でした。
これはまあ、馬締がそういうキャラなのでね。
馬締の傑作なラブレターの内容とか、
西岡が辞書編集部の後輩たちに残したメッセージとか、
原作では目玉と思われるところがカットされていたのが残念。

私としては、やはり原作が良くて、
わざわざ映画をみるまでもなかったなあ・・・というのが結論です。
松田龍平さんの馬締は、ぴったりで、全く文句ありませんけれど。
本当に必要な映画化だったのか・・・?
そりゃ、人は集まりますから、必要なのでしょう。
でもみなさん、やっぱり本を読みましょうよ!!

舟を編む 通常版 [DVD]
松田龍平,宮崎あおい,オダギリジョー,黒木華,渡辺美佐子
松竹


「舟を編む」
2013年/日本/133分
監督:石井裕也
原作:三浦しをん
出演:松田龍平、宮崎あおい、オダギリジョー、黒木華、小林薫、加藤剛
キャスティング★★★★☆
満足度★★★☆☆

箱入り息子の恋

2014年04月20日 | 映画(は行)
題名に惑わされるなかれ



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本作は、この題名でなんとなく
「マザコンでぼんやりの息子が初めての恋に落ちた・・・」
みたいな内容を想像していたのですが、偏見は良くなかった。
想像とはかなり違いました。


彼女いない歴35年、35歳独身の天雫(あまのしずく)健太郎(星野源)。
市役所勤務。
内気で真面目。
人付き合いが苦手。
趣味は貯金。
友人は自宅で飼っているカエル一匹。
5時に帰宅して自室にひきこもりTVゲームをするだけの毎日。
このいかにも冴えない息子の有り様に、
さすがに両親が焦りだした。
そこでお見合いを仕掛けるのですが、
相手の女性菜穂子(夏帆)は、目が不自由だったのです・・・。
二人の出会いが単に「お見合い」の席なのではなくて、
その前にあるエピソードが効いていました。

 


健太郎は自分がサエないことを十分に自覚しており、
恋愛も出世も・・・つまり人生を投げていたのですね。
超内気なので、人にまっすぐ目を向けて話すことができない。
けれども恋をすることによって彼自身も少しずつ変わっていきます。
彼にとって彼女の目が不自由なことは「障害」ではなく、
ただひとつの個性にしか過ぎない、というような自然な振る舞いが心地よい。



周りの人々の描写もまたいいですねえ。
「オレがこのボスに勝つことができたら、見合いをしろ!」と息子に迫り、
初めての格闘ゲームに挑む父親。
不思議に人懐っこくはすっぱで、健太郎を応援する職場の同僚。
(ここでややこしい三角関係になるのかと思えば、そうならないところがまたいい)。
息子に呆れながらもやっぱり「母親」の顔を覗かせる、お母さん。(森山良子!)



15年間、一度も休みをとったことがない健太郎が、
上司に早退を申し出るシーンには思わず笑ってしまいましたが、
泣かされるシーンもありますよ~。
生きることに不器用な健太郎に、思わずエールを贈りたくなります。


箱入り息子の恋 DVDファーストラブ・エディション
市井昌秀
ポニーキャニオン


「箱入り息子の恋」
2013年/日本/117分
監督:市井昌秀
出演:星野源、夏帆、平泉成、森山良子、大杉漣、黒木瞳

初々しさ★★★★☆
オタク度★★★☆☆
満足度★★★★☆

「邪悪なものの鎮め方」 内田樹

2014年04月19日 | 本(解説)
邪悪なものを聖なるものに

邪悪なものの鎮め方 (文春文庫)
内田 樹
文藝春秋


* * * * * * * * * *

「邪悪なもの」と遭遇したとき、人間はどうふるまうべきか?
「どうしていいかわからないけれど、何かしないとたいへんなことになる」
極限的な状況で、適切に対処できる知見とはどのようなものか?
この喫緊の課題に、ウチダ先生がきっぱりお答えいたします。
村上春樹『1Q84』の物語構造、
コピーキャット型犯罪が内包する恐るべき罠、
ミラーニューロンと幽体離脱、
被害者の呪いがもたらす災厄、
霊的体験とのつきあい方から、草食系男子の問題にいたるまで、
「本当ですか!?」と叫びたくなる驚愕の読書体験の連続。
不透明な時代を生き延びるための「裏テキスト」。


* * * * * * * * * *

「邪悪なものの鎮め方」とはまた、オカルトめいた題名で、
内田樹氏が陰陽師のごとく現代にはびこる物の怪をバッサバッサと切り捨ててくれるのかと思いきや、
そうとも言えるし、またそうとも言えない。


氏は「神聖なもの」と「邪悪なもの」の根っこは同じとしています。
人間の理解を超え、人間の感覚では知覚できず、人間の尺度では図ることのできない何か。
それが、人間を成熟に導くものであれば「聖なるもの」と呼ばれるし、
逆に生命力を減殺したり生きる知恵を曇らせたりするものを「邪悪なもの」と呼ぶ。
どちらにしても、人間は制御することができない。
では私達はそれにどう対峙すればよいのか。
根っこが同一のものであるとすれば、
私達人間の側で「邪悪なもの」を「聖なるもの」にカテゴリー変換すればいい、というのですね。
まあ、ここでそれだけを聞いてもピンと来ないかもしれませんが、
本作を読んでいくと納得させられていきます。
内田氏の本の中では読みやすいと思います。
いくつか、納得させられたところを、チョッピリご紹介。


「子ども」の数が増えすぎた世界」
ここでいう「子ども」は実際の幼少の「子ども」にあらず。
「成熟」していない人のこと。
システムに対して「被害者・受諾者」のポジションを
無意識に先取するヒトのことを指しています。
システムの不都合に遭遇した時に「責任者出てこい!」という言葉が口に出るタイプ。
このあと、システムをコントロールするものを精神分析で「父」と呼ぶ・・・と
少し話が難しくなるのですが、
なるほど「モンスターペアレント」とか「モンスタークライアント」などという言葉が横行する今、
確かに「子ども」が増えているのでしょう。


「呪いのナラティブ」
近頃「批評的言説」があふれていることについて、
これは「呪い」の語法であるといいます。
彼らは「他者が何かを失うこと」を自らの喜びとしている。
それは「偏差値教育」の効果なのでは?と。
学習塾で学校より先に進んでしまった子どもたちは、
私語する、歩きまわる、騒ぎ立てるという風にエスカレートするが
彼らはそれを「勉強している」ことにカウントしている、と。
まことに手厳しい。
教育行政がこれをなぜ見落としているかといえば、
官僚たち自身が「他人のパフォーマンスをさげること」で今日の地位を得てきたから。
・・・ううむ、根深いですね。


「邪悪なものの鎮め方」内田樹 文春文庫
満足度★★★★☆

夏の終り

2014年04月18日 | 映画(な行)
なぜかイライラ・・・



* * * * * * * * * *

本作を見る気になったのは、綾野剛さんが見たかったからに他なりません。
はじめの登場シーンがよかった。
おずおずとある家を訪ねる青年。
しきりに髪を直したり、襟を正したり、緊張の面持ち。
しかしそれは後ろ姿だけ。



さて、ところがその後はちっとも気持ちが盛り上がらなかったのだなあ・・・。
妻子ある年上の作家・慎吾(小林薫)と共に暮らす知子(満島ひかり)。
男は律儀に妻と知子の間を行き来していたのですが、
知子はそんな生活にも満足していたのでした。
しかしそこへ、かつて夫と子供を捨てて駆け落ちした相手、涼太(綾野剛)が現れる。
年上と年下、二人の男性の間で、微妙に知子の心が揺らいでいく・・・。



時代は昭和。
レトロです。
・・・でもなんだかあまりにもレトロでカビ臭いんですわ・・・。
なんだか見ているあいだ中イライラしっぱなし。
男の不実に安住している女・・・というのが私には耐え難い。
その上若い男と逢瀬を重ねるなどというのが許せんっ!
別に貞操観念を持ち出すほど自分の頭が古いわけではなく、
いまどきのドラマにだってよくありそうな話なのに、
なんでこんなにイライラするのかよくわかりません。
とにかく知子には全く感情移入も同情もできない・・・。
この知子が確信犯的にみだらで、悪女ならいいのですが、
どうもそういう感じでもない。
違和感。
本作、このテーマでありながら濡れ場らしきシーンが殆ど無いのです。
だから「情念」という捉え方はできず、では何なのか・・・? 
納得できません。
生活のための打算というなら余計興ざめ。



照明を抑えた映像はなかなか美しく、
この写真のように1コマ1コマを見ると、結構いいんですよ。
知子が染織家というところで、
カビ臭さの中に一筋、鮮烈さを放っておりましたが・・・。



綾野剛くんは、女に泣いて縋り付き、しかしやがて呆れて離れていく
・・・そういう普通の反応が、本作の中では一番納得できるのでした。
私が今までに見た綾野剛くんの中では一番良かったかも。
「そこのみにて光輝く」も、期待しています。

夏の終り [DVD]
満島ひかり,綾野剛,小林薫
バップ


「夏の終り」
2013年/日本/114分
監督:熊切和嘉
原作:瀬戸内寂聴
出演:満島ひかり、綾野剛、小林薫
満足度★★☆☆☆

最愛の大地

2014年04月16日 | 映画(さ行)
男女の愛を中心に据えながら、骨太に“世界”を示す



* * * * * * * * * *

アンジェリーナ・ジョリー初監督長編作品。
ずっしりと重く私達に訴えます。
1992年。
ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争での出来事。
ある日、普通に生活していたムスリム人であるアイラたちの元へ
セルビア軍がやってきて、外へ連れだされます。
男たちはそのまま射殺され、働けそうな若い女性たちは基地に連行されてしまいます。
そこで彼女たちは兵士たちの思うがまま。
ところがアイラの前にかつての恋人ダニエルが現れます。
彼はセルビア将軍の息子であり将校でもある。
アイラのことを忘れがたく思っていたダニエルは、
彼女を優遇するけれども、じきに転属となってしまいます。
その後アイラは辛くも基地を逃げ出し、ムスリムの同胞に合流。
しかしまたセルビア軍に捕らえられ、ダニエルと再開しますが、
画家として彼の肖像を描くことになります。

ダニエルの将校としての立場だから可能なことでしたが、
彼女は囲われの身となり、部屋からは一歩も出られない状況でありながら一見穏やかな日々が過ぎていきます・・・。



つい最近の(すみません20年以上前ですが、私にとっては最近に思える・・・)出来事ですが、
私はテレビのニュースで見ていただけ。
そこに住んでいる人々の苦悩を想像したこともないように思います。
同じ地に住む民族間の紛争の根深さが、救いようなく胸にのしかかります。



はじめに感じたのは、このように、片方がもう片方の生死を握っている状況で、
これが愛と呼べるのだろうか・・・ということ。
生きていくためには男に隷従する他ない。
愛なのか。
愛のフリなのか。
私達は彼女の真意を息を潜めて見つめることになります。
しかしこれは状況さえ違えば、確かな愛になり得たのです。
1対1で向きあえば唯の男と女。
でもこの場合、互いの背に負っているものがあまりにも違いすぎる。
個人的に恨みもなにもないのに、憎しみの連鎖にがんじがらめになっている状況を
私達は愚かだということはできません。
身の回りでも中国や韓国と日本の関係はまさに未だにその連鎖に絡め取られていて、
自分の心のなかにもそれはあるように思います。



今作の原題が「In the Land of Blood and Honey」ということで、
この方が率直に本作の内容を表していますね。
男女の愛を中心に据えながら、
骨太に“世界”を示してくれる、力作です。

最愛の大地 [DVD]
ザーナ・マリアノヴィッチ:アイラ,ゴラン・コスティック:ダニエル,レイド・セルベッジア:ネボイシャ,ヴァネッサ・グロッジョ:レイラ
Happinet(SB)(D)



「最愛の大地」
2011年/アメリカ/127分
監督:アンジェリーナ・ジョリー
出演:ザーナ・マリアノビッチ、ゴラン・コスティック、ラデ・シェルベッジア、バネッサ・グロッジョ

歴史発掘度★★★★★
憎しみの連鎖度★★★★★
満足度★★★★☆

「つながる図書館―コミュニティの核をめざす試み」猪谷千春 

2014年04月15日 | 本(解説)
やっぱりカフェは欲しい

つながる図書館: コミュニティの核をめざす試み (ちくま新書)
猪谷 千香
筑摩書房


* * * * * * * * * *

最近、あなたの町の図書館に変化が起きてはいないだろうか。
二十四時間貸出しが可能だったり、
自動貸出機があったり、
ビジネスや法律の相談もできたり、
デジタルアーカイブが充実していたり。
公共図書館はいま、無料貸本屋から脱して、
地域を支える情報拠点としての施設にシフトし、
町づくりの中核に図書館を据える自治体も登場している。
年齢や、職業収入の差別なく、すべての人に開かれている無料の公共施設。
私たちの人生にチャンスを与え、
私たちの暮らす町をより豊かにする可能性を秘めている場所。
そして社会の記憶集積装置。
変わりつつある図書館の最前線へ出かけてみよう。
いざ、図書館へ!


* * * * * * * * * *


私、図書館は好きな場所ではありながら、
そういえばしばらく行っていないような気がします。
というのも、手近なところにはないし、開館時間が限られている・・・。
もっと便利な場所で、仕事帰りにも寄ることができる時間に開いている図書館があればいいのに
・・・とは、常々思うところです。
(札幌市の中央図書館はそういう点では及第ですが、何しろ遠い・・・!) 
しかし実は今どきの図書館は、そんな些細な要求に答えることはごく序の口で、
もっともっと進化しているのだ・・・ということがよくわかる本です。


かつて公立図書館は「無料貸本屋」などといわれていたそうですが、
最近は「課題解決型」を目指しているといいます。
地域のニーズに根ざした産業やビジネスの情報を得るところ。
そして時には発信する所。
そしてさらに大きな転換を招いているのが「指定管理者制度」。
公の予算で設置した図書館の運営をNPOや民間に任せるというものです。
この事については賛否両論。
民間にそんなことを任せたら、恣意的な統制や情報操作がなされるのではないか・・・
そんな危惧はたしかにあります。
また、予算の面だけを見て運営を民間に丸投げした挙句、
業界の人々の壮絶なワーキングプアを招いたという実例もあるそうで・・・
ちょっと怖いですね。


でももちろん成功例もあります。
最近話題となりTVなどでも紹介されていた佐賀県の武雄市図書館。
スターバックスと書店が併設されていて、カードを利用するとポイントが付くという。
私などからするとちょっと魅力的です。
その同じ佐賀県に、こちらは完璧に市として
「自由で公平な資料と情報を提供する」とうたっている伊万里市民図書館があります。
ここでは有川浩の「図書館戦争」のことにも少し触れられていたのが嬉しかった。
いずれにしても、設置者、運営者のしっかりしたミッションがなければダメだということなのでしょう。
ただ本を揃えて貸し出すのではまさに「無料貸本屋」。
そうではなくて、どういう人達のどんなニーズに答えようとするのか。
公共団体として、どういう人を育成したいのか。
図書館をどんな場所としたいのか。
これらによって、いろいろな特色のある図書館があっていいのではないかと思う次第。


私の望む図書館は・・・
歩いていけるところにあって(ということは区に一箇所くらいずつなければダメ?)、カフェ併設。
ついでにプールとかスポーツジムもあるといいな。
本を読んで目が疲れて肩が凝ってきたら、運動して汗を流す。
図書室を見下ろす回廊をウォーキングコースにしたりする。
ちょっとしたサークル室や音楽室、ホールもあって・・・。
あ、これでは「図書館」ではなくて、地域センターか。
まあ、どちらでもいいのですけどね。
つまりは地域コミュニティのための場でもある、
というのが、やはり今どきのテーマであります。
エントランスのホールでは時々地元野菜の販売をしたりもする。
イベントは、異年齢の人々の交流できる内容で・・・、
スタッフはボランティアを多く取り入れて・・・等など・・・
えーい、いっそこの巨大地域センターの中に、
学校や保育園も一緒に入れちゃってください!!
図書館は共有できるし、音楽なんか一般の方々と一緒に楽しむのはどうでしょう?
素敵な場所になると思いますけどねえ・・・

「つながる図書館―コミュニティの核をめざす試み」猪谷千春 ちくま新書
満足度★★★★☆

ダラス・バイヤーズクラブ

2014年04月14日 | 映画(た行)
病と米社会への反撃



* * * * * * * * * *

マシュー・マコノヒーがエイズ患者を演じるために
21キロの減量をして挑んだというこの作品。
彼は先の第86回アカデミー賞で主演男優賞を受賞しましたが、それも納得。
素晴らしい迫真の演技。
実話を元にしている作品なので、ここはやはり、リアリティで迫りたかったわけですね。
「マジック・マイク」でみせたマシュー・マコノヒーのあの肉体美が・・・
ああ・・・残念。



1985年、電気技師のロン・ウッドルーフ(マシュー・マコノヒー)は
HIV陽性と診断され余命30日と宣告されます。
その当時、米国には認可された有効な治療薬が少なかったのです。
ロンは、メキシコから無認可のクスリやサプリメントを密輸し、
それを売る「ダラス・バイヤーズクラブ」を設立。
会員は安い「会費」で、新しい薬を手にすることができるのです。
しかしまあ、これは不法行為、つまりは犯罪ということで、
裁判沙汰になっていきますが・・・。



本作でいいのは、ロンがもともと「人助け」などという大義名分で
クラブを設立したわけではない、というところ。
まずは自分のために良い薬が欲しかった。
そして、その後これは金儲けになる・・・と思う。
そもそもロンは、山師で酒とドラッグと女が大好き、
ゲイを毛嫌いするという、典型的なアメリカ的ゾクブツ。
だからこういう流れはとても自然です。
クラブの事務所の前には、薬が必要な人が列をなしている。
誰もが切実。
ロンは次第に使命感に駆られ、採算を度外視していきます。



問題なのが当時の米国の製薬会社と医師会の癒着。
米国で開発された新薬は副作用が大きく、逆にエイズ患者には命取りとなるのに、
利権に目が眩んだ製薬会社と医師は、その薬の使用をやめようとしない。
そういう巨悪に、ゲリラ的に挑んでいく男が、この、やせ衰えたロンなのです。
痛快で、そして壮絶です。



それから、エイズ患者への偏見と差別。
最近ではさすがにあまりそういうことはなくなりましたが、当初はありましたね。
同性愛だからそうなる、とか。
その人に触れたり、飲み物を共有するだけでも伝染る、とか。
・・・そんなことがまことしやかにささやかれたりしていた。
そんな時代が確かにありました。
本作でもロンははじめ、「俺はゲイではない。
だからエイズだなんて、絶対に間違いだ」と、
エイズを認められなかったのです。
彼自身が同性愛者を異常に毛嫌いもしていました。
でも結局、クラブの運営の協力者となるのがゲイのレイヨン(ジャレッド・レト)だった
というのもいいですよね。



「ダラス・バイヤーズクラブ」
2013年/アメリカ/117分
監督:ジャン=マルク・バレ
出演:マシュー・マコノヒー、ジャレッド・レト、ジェニファー・ガーナー、ダラス・ロバーツ、グリフィン・ダン

歴史発掘度★★★★☆
満足度★★★★☆

ホワイトハウス・ダウン

2014年04月12日 | 映画(は行)
孤軍奮闘、そして戦う大統領



* * * * * * * * * *

先に「エンド・オブ・ホワイトハウス」をみて、
似たような題材であるこちらも是非見なくてはと思っており、
やっと見ることができました。


落ちこぼれ議会警察官のジョン・ゲイル(チャニング・テイタム)。
アメリカ映画のご多分に漏れず、
妻とは別れ、一人娘とはたまに会うだけ。
そんなある日、彼は別れた妻の元から娘を預かってホワイトハウスに向かいます。
大統領のシークレットサービスになるための面接を受けるのです。
今ではすっかり父親に愛想を尽かしていた娘も、
大のホワイトハウスオタクなのでごきげん。

しかし、結果は不採用で、
娘をがっかりさせたくなくて急きょホワイトハウスの見学ツアーに参加することにします。
そしてちょうどその時、
謎の武装集団がホワイトハウスを襲撃、占拠。
ジョン・ゲイルは、大統領と娘を守るため、奮闘することになる・・・。





いやはや、なんとも惜しみなくホワイトハウスが蹂躙されますね。
爆破。銃撃戦。
リムジンの激走。
戦車が突っ込む。
ブラックホークは墜落する・・・。


そんな中、ダイ・ハードを思わせる白いランニング姿の一人の男が、孤軍奮闘。
平和主義のソイヤー大統領(ジェイミー・フォックス)も、
ジョンに守られながらマシンガンを撃ったり敵を殴ったりするはめに・・・。
娘エミリーは敵の様子をユーチューブに投稿するなど活躍を見せます。
実際、外から見たホワイトハウスの様子を
リアルタイムで中の人たちがTVで見て知ったりする、
今の“戦闘”の有り様がなかなかよくできています。
意外な黒幕は、
イデオロギーなどではなく欲得づくというところも納得できる。
武器ではなく食料や教育を中東に落とそうと説くソイヤー大統領。
本当にこんな人が大統領になるといいのですけどね・・・。



スリル・サスペンス。
勇気。愛情と裏切り。
すべてが満たされていてエンタテイメントとして文句なく楽しめる一作だと思います。
これがハリウッド映画の魅力なんだなあ・・・。
類型的ではありますが、“人を楽しませる”ことではやはりピカイチだ。
ラストで旗を振る少女の姿に、思わず泣けてしまいました。
そうそう、学校の発表会で、彼女は旗を振ったのでしたよね。
ジョンはその日をすっかり忘れていて、見に行けなかった。
そういうことを思い出すと、いっそう胸に迫るシーンなのであります。



ホワイトハウス・ダウン [DVD]
チャニング・テイタム,ジェイミー・フォックス,マギー・ギレンホール,ジェイソン・クラーク
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント

2013年/アメリカ/132分
監督:ローランド・エメリッヒ
出演:チャニング・テイタム、ジェイミー・フォックス、マギー・ギレンホール、ジェイソン・クラーク、リチャード・ジェンキンス、ジョーイ・キング

「カササギたちの四季」道尾秀介

2014年04月11日 | 本(ミステリ)
ミスリード + 真の解答

カササギたちの四季 (光文社文庫)
道尾 秀介
光文社


* * * * * * * * * *

開店して2年。店員は2人。
「リサイクルショップ・カササギ」は、
赤字経営を2年継続中の、ちいさな店だ。
店長の華沙々木は、謎めいた事件があると、
商売そっちのけで首を突っ込みたがるし、
副店長の日暮は、売り物にならないようなガラクタを高く買い取らされてばかり。
でも、しょっちゅう入り浸っている中学生の菜美は、
居心地がいいのか、なかなか帰ろうとしない―。


* * * * * * * * * *

道尾秀介氏による連作短編集。
4作が収められていてそれぞれ春夏秋冬に対応しているという
オシャレな構成です。
「リサイクルショップ・カササギ」店長の華沙々木と
修理担当の日暮が、ちょっとした日常の事件を解決していきます。
となれば、名探偵ホームズ役が華沙々木で、
とんまなワトソン役が日暮・・・と一瞬思ってしまう。
しかし本作、そう一筋縄には行きません。
華沙々木は自分自身がホームズ的天才的ひらめきの持ち主だと思い込んでいるのですが、
実は大マヌケのピント外れ。
しかし心優しき日暮は、華沙々木とある少女のために
密かに真相を導き出し、
なおかつ華沙々木の迷推理の裏付けまで創作してしまうという離れ業をやってのけます。
ミスリード+真の解答という二重の驚き。
これぞ本巻の醍醐味。
そしてまた道尾氏のこの手腕に感服してしまうわけです。
答え1個でも大変なのに2個も・・・。


これらの短編の冒頭は、季節感に満ちた描写が綴られた後、
「・・・風は穏やかで、財布には金がない。」のように
「財布には金がない」のフレーズがいつも出てきます。
いつも強欲な和尚にゴミ同様の品物を法外な値段で無理やり買い取りさせられた帰り道・・・。
でも最後の話で、この和尚の意外な側面を私達は知ることになるという構成がニクいのです。
しかもそこのところだけ「財布には金がある。」
店に入り浸っている何やらわけあり風の少女・菜美の事情に触れるのは3作目ですし。


道尾作品にしてはさほど暗くありませんし、
ユーモアと驚きに満ちた、楽しめる作品です。


「カササギたちの四季」道尾秀介 光文社文庫
満足度★★★★☆