映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

生きてるだけで、愛。

2019年09月30日 | 映画(あ行)

互いのぬくもりを寄せ合うだけで

* * * * * * * * * * * *

過眠症で、引きこもり気味、自称“鬱”の寧子(趣里)。
ひょんなことから知り合ったゴシップ雑誌編集者、津奈木(菅田将暉)の部屋に転がり込んで生活しています。
寧子は働きにも行かず家事もせず、ほとんどを寝て過ごし、
何かといえばうまくいかないことを津奈木に当たり散らします。

ある日、津奈木の元恋人・安堂(仲里依紗)が現れ、
寧子を部屋から追い出し自立させるために、無理矢理カフェバーのバイトを決めるのですが・・・。

 

正直、寧子の生活ぶりにはあきれるわけですが、
このメンドクサイ女を住まわせておく津奈木の心の広さにほとんど感動を覚えました・・・。
でも実は、心が広いとか優しいと言うのではなく、
単に、言い争いになって「疲れる」のがイヤなだけだったようなのです。
自分の意見はほとんど言わないし、すぐ「ごめん」と口にする。
彼が正面から向き合っていないことのいらだちを、寧子は感じていたわけですね。

 

津奈木自身、仕事の意義を感じられず、それなのに忙しくなるばかりという
ブラックな仕事に、疲れ果ててきているのです。

 

また、無理矢理押しつけられたバイトを、なんとかこなそうと寧子は奮闘してみようとします。
バイト先の人は皆理解のある優しい人たち・・・。
ではあるのですが、あるとき寧子は悟ってしまうのです。
彼らと自分との間にある大きな壁、違和感。

 

また、寧子には姉がいて、時々電話をかけてきては
きちんとした生活をしろ、仕事をしろ、と説教をします。
もちろんそうしなければならないことは本人が一番よくわかっている。
けれど、どっちへ向かっても進めない、踏み出せない自分。
世界に受け入れられない自分・・・。

 

けれど、確かに「生きてるだけで、愛」なんですね。
視聴し終わった後に、しみじみそんな風に思いました。
こんな不器用で生きにくい二人だけれど、
互いのぬくもりを寄せ合うだけで、なんだか生きていてもいいんだと言う気がしてくる。

 

良作だと思います。

 

生きてるだけで、愛。 通常版 [DVD]
趣里,菅田将暉,田中哲司,西田尚美,松重豊
Happinet

<WOWOW視聴にて>

「生きてるだけで、愛。」

2018年/日本/109分

監督・脚本:関根光才

原作・本谷有希子

出演:趣里、菅田将暉、田中哲司、西田尚美、仲里依紗

生きにくさ★★★★★

満足度★★★★☆


「物語は人生を救うのか」千野帽子

2019年09月29日 | 本(解説)

人は世界のなりゆきを、ストーリーでとらえようとする

物語は人生を救うのか (ちくまプリマー新書)
千野 帽子
筑摩書房

* * * * * * * * * * * *

世界を解釈し理解するためにストーリーがあった方が、
人は幸福だったり、生きやすかったりします。
実話とは?
そして虚構とは?
偶然と必然って?
私たちの周りにあふれているストーリーとは何でしょう?

* * * * * * * * * * * *

 

先に「人はなぜ物語を求めるのか」という同著者の本を読んでいたので、
続編のこの本も手に取りました。

表題の「物語は人生を救うのか」と言うより、
実話とは? 虚構とは? 偶然と必然とは?と言うところに重きがあるように思いました。

人は実話よりもフィクションの方に「ほんとうらしさ」を求める。

人がフィクションに求める「ほんとうらしさ」とは、じつのところ「必然性」と呼ばれるものにすぎない。
フィクション内の偶然は時にご都合主義として批判される。

「事実は小説よりも奇なり」と言うが、人が小説に「奇」ではないことを要求しているだけの話。

・・・なるほど、その通り。

そしてさらには、

歴史の中で生き残ってきたものがあると、
人は運や偶然よりもそこに必然性(淘汰されなかった理由)を後づけしたがる。

人はうっかりすると、現実世界のなりゆきにも必然性を求めてしまう。

そんなわけで、人は世界のなりゆきを「原因→結果」とか、「動機→行動」と行った因果関係のストーリーでとらえようとするのです。

そのストーリーをどう作るかが問題なんですね。
単一のストーリーに縛られると自責的あるいは他責的に思考してしまう・・・ということで、
「物語は人生を救うのか」の答えは、物語の作り方による、と言うことになりそうです。

どのようなストーリーを作っても起こってしまったことを変えることができないならば、
自分や誰かを責めるようなストーリーでないほうが良さそうです。

図書館蔵書にて

「物語は人生を救うのか」千野帽子 ちくまプリマー新書

満足度★★★☆☆

 


アド・アストラ

2019年09月27日 | 映画(あ行)

ヒーロー色を廃して

 

* * * * * * * * * * * *

ロイ(ブラッド・ピット)は、父の意志を継ぎ、エリート宇宙飛行士として活躍しています。

その父・クリフォード(トミー・リー・ジョーンズ)は
地球外生命体の探索に旅立ってから16年後、
地球から43億キロ離れた太陽系の彼方で行方不明となったままなのです。
そのときからまた長い年月が過ぎた今、軍上層部がロイを呼び出します。

ロイの父が実は生きていて、太陽系を滅ぼしかねない「リマ計画」に関わっていると言うのです。
その父を探し出し真相を突き止めるため、ロイも宇宙へ旅立つことに・・・。

 

ロイは常に沈着冷静で、自らを厳しく律しています。
ほとんど感情がないかのよう。
本作中で、宇宙船の運行中には、しつこいくらいに精神分析チェックが行われます。
つまりそれだけメンタルに影響が出やすいのでしょうね、宇宙という特異な空間では・・・。

ある事件があって、その後ロイは自己を分析します。
父が宇宙へ旅立ち行方不明になったときに、母と自分が取り残されたことに「怒り」を感じた、と。
けれどその怒りを表現することができず、自分の中に抱え込んだままになってしまった。
自分が、人とうまく付き合えないのは、このときのことが元になっているのではないか・・・。

なるほど、しかしこの旅でロイがその父親と対峙することで、
彼の中の何かが変わっていくということなのです。

ストーリーだけを追えば、ロイはタフでラッキーで、ヒーローそのものなのです。
ところが本作中の彼の描き方は、ひたすらそうしたヒーロー色を廃し、
内面描写に徹しています。
そしてまたブラッド・ピットがしっかりとその意図に沿っている。
そうでした、昨今、豪放磊落なオヤジ的役柄の多いブラピですが、
もともと繊細な内面を持つ青年役が似合う方なのでした。

なんだかドキドキするほどの宇宙の深淵と孤独がしっかり描かれていたように思います。
宇宙の深淵への旅とは、すなわち、自己の深奥への旅なのです。
これもまた一つの「行きて帰りし物語」。
帰ってきたときのロイの変容をしっかり見届けましょう。

 

<シネマフロンティアにて>

「アド・アストラ」

2019年/アメリカ/123分

監督:ジェームズ・グレイ

出演:ブラッド・ピット、トミー・リー・ジョーンズ、ルーマ・ネッガ、リブ・タイラー

宇宙の深淵度★★★★☆

満足度★★★★★

 


そらのレストラン

2019年09月26日 | 映画(さ行)

支え合う仲間たちがいてこそ

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「しあわせのパン」、「ぶどうのなみだ」に続く、
大泉洋さん主演、北海道が舞台のヒューマンドラマシリーズ第3弾。
前2作は見ているので是非見たかった作品なのですが、見そびれてしまっていました。
このたびやっと視聴。

せたな町の海が見える牧場で、牛を飼いながらチーズ工房を営む亘理(わたる)(大泉洋)。
妻(本上まなみ)と娘、そして近所の気の合う友人たちに囲まれ、
充実した毎日を送っています。

あるとき、札幌から有名レストランのシェフが訪れ、
彼の調理によって自分たちの食材がさらにおいしく食べられることに感動した仲間たち。
地域の皆にもこのおいしさを知ってほしいと思い、
一日だけのレストランをオープンすることを思いつきます。

そんな矢先、亘理のチーズ作りの師である大谷(小日向文世)が倒れ・・・。

 

本作の主人公は何もないところから牧場を作り上げたというわけではないのです。
父親の後を継いだ、ということで。
だから何も苦労はないのかと言えばさにあらず。
作中の最後の方で、ようやく彼の本心が語られるわけですが、
頼りの父が亡くなりその後をたった一人で継がなければならない恐怖を、
冬の牧場のすさまじい吹雪の中、彼は感じていた。
そんな彼に進むべき方向を示し、勇気を与えてくれたのが大谷なのです。

しかしその大谷の死により、亘理の心に以前の恐怖がよみがえってしまったのでしょう。
牧場を続ける意味も意欲も失ってしまう・・・。
そうした中、なんとか彼の気持ちを引き立てようとする仲間たちの言動がいじましい。

新しい農業や食のあり方を描く、素敵な作品。
3作中では一番好きかもしれません。
一見気楽に行っているように見える農業。
でも実はそうではないと言うところを、
「いかにも」ではなくて、ほんの少しの語りの中からのぞかせるというのが、
私には心に迫りました。

都会から脱サラでやってきた、新米酪農家役の岡田将生さんもよかった~♡
やはり作品には花がなくては!

 

そらのレストラン DVD
大泉 洋,本上まなみ,岡田将生,風吹ジュン,小日向文世
アミューズ

<J:COMオンデマンドにて>

「そらのレストラン」

2018年/日本/126分

監督:深川栄洋

出演:大泉洋、本上まなみ、岡田将生、マキタスポーツ、風吹ジュン、小日向文世

北海道度★★★★☆

満足度★★★★☆


輝ける人生

2019年09月25日 | 映画(か行)

シニアだって跳べる!

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35年寄り添った夫にナイトの称号が授与され、
自身も“レディ”となったサンドラ(イメルダ・スウィントン)。
その祝賀パーティの日に、夫と親友の浮気現場をします。
傷心のサンドラは、長く疎遠だった、姉ビフ(セリア・イムリー)のところへ転がり込みます。

お金や名誉とは無縁のビフは、
ダンス教室に通いながら親しい友人たちと人生を謳歌していました。
妹を心配したビフはサンドラをダンス教室に連れ出しますが・・・。

 

最初に登場するサンドラはちょっとイヤな人物なのです。
これまでは夫の人生にぴったり寄り添い、夫=自分になっていたのでしょう。
夫の功績を自分のものと勘違い。
レディである自分は人から賞賛されて当然と思っています。
でも夫から離れた彼女には何も残っていません。
自分は単に夫の付属物だったのだ・・・しかも、あんないい加減な男の
・・・と思えば腹も立ち、落ち込みもしますよね。
でも無理矢理姉にダンス教室に連れて行かれて、サンドラは少しずつ思い出すのです。
結婚前、自分はダンスがすごく好きで、オーディションにも行ったこと・・・。

結婚ですっかり忘れていた自分らしさを取り戻していくシニア女性の物語。
ダンス教室のシニアチームは、ローマの大会に招かれたりもして、
いいですよねえ、人生はどこからでもやり直せる。
シニアだって跳べる!!
・・・それにしても体力の限界はありますが・・・。

新しい恋もありますよ。
同じダンス教室に通うチャーリー(ティモシー・スポール)。
ボートハウスで暮らしています。


えーとアメリカのトレーラーハウスみたいなのがこのボートハウスなのでしょうかね。
きちんとした家を持てない人の住まい、といった意味合いになります。
しかし、彼は実は結婚している。
そのいきさつもなかなか悲壮なのですが・・・。
最後にまさに“ジャンプ”するイメルダ・スウィントンをお楽しみあれ。

輝ける人生 [DVD]
メグ・レオナルド,ニック・モークラフト,ジョニー・ドークス
アルバトロス

「輝ける人生」

2017年/イギリス/114分

監督:リチャード・ロンクレイン

出演:イメルダ・スウィントン、ティモシー・スポール、セリア・イムリー、デビッド・ヘイマン

人生再出発度★★★★★

満足度★★★★☆


「お友だちからお願いします」三浦しをん

2019年09月24日 | 本(エッセイ)

いい感じに気の抜ける本 

お友だちからお願いします (だいわ文庫)
三浦しをん
大和書房

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本書はふだんよりも、よそゆき仕様の一冊である(自社比・本人談)!
―そうは言ってもボウリング、国際交流、とっさの一言といった
さまざまな分野において最弱王の素質は十分、
おやじギャグの才能はますます磨かれ、
肉体はのろのろなのに妄想だけはのりのりの日常のなかからは、
情熱と愛情と笑いと涙がほとばしる!
アップデートされた「文庫追記」多数もぬかりなく収録。
「『お友だちからお願いします』と言ったことも言われたこともない」
と語る当代随一の人気作家が満を持して贈る、爆笑&胸熱の極上エッセイ集!

* * * * * * * * * * * *

 

三浦しをんさんのエッセイ集。
一時期はまってずいぶん読んだのですが、久しぶりに読みました。
本人談で「本書はふだんよりも、よそゆき仕様」とあるのですが、確かにその通りだと思いました。
私、北海道の誇る北大路公子さんのエッセイを読みすぎたためか、
多少の自虐ネタでは動じないようになっているようです。
本作では三浦しをんさんの持ち味はそのままに、
そこはかとなく上品でさえあるような気がします。
さすが、キャリアのなせる技か。

内容は多岐にわたりますが、例えばかつて林業の取材で訪れた地を再び訪れたことなどは、
小説のファンとしてはうれしいエピソード。

「旅の効用」というところでは、
「異世界を体験するだけが旅の効用ではない。
旅をすることによってのみ、日常に帰れる場合もある。」とあります。
う~む、ファンタジー、「行きて帰りし物語」だなあ・・・。
深淵です。

相変わらず、ヴィゴ・モーテンセンの大ファンであること(2012年の本だった!)などもうれしい再確認。

 

いい感じに気の抜ける、楽しい本でした。

 

「お友だちからお願いします」三浦しをん だいわ文庫

満足度★★★★☆


ハナレイ・ベイ

2019年09月23日 | 映画(は行)

悲しみを悲しめない

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村上春樹さんの同名小説が原作です。
確かに、そういう雰囲気がしっかり出ていました。

シングルマザーのサチ(吉田羊)は、ある日突然、
一人息子タカシ(佐野玲於)の死亡の連絡を受けます。
ハワイのカウアイ島、ハナレイ・ベイでサーフィン中、サメに襲われて亡くなったのです。
早速現地へ赴いたサチ。
タカシの火葬を終えたサチは、その地にしばらく滞在し、
海岸にチェアを置き、読書をして過ごすのでした。

そしてそれから10年。
サチは毎年同じ時期にハナレイ・ベイへ行って過ごすことを繰り返していました。
このときも同様にハナレイ・ベイを訪れたサチは、
二人の若い日本人サーファーと親しくなります。
その二人が、赤いサーフボードを持った右足のない日本人サーファーを何度か見た、
と言うのです・・・。

 

サチとタカシは母と息子でありながら、どうにもそりが合わないようで、
同居していてもほとんど会話もなく、
サチにはタカシが何を考えているのかもわからないようでした。


タカシの父親は生活能力のないダメ男(栗原類!)で、
子どもができてしまったために結婚し、
サチは自分の夢を捨てなければならなかった
・・・と言う彼女の悔いが、息子に対する愛情をゆがめてしまっていたようなのです。

そんな息子の突然の死に、サチは思考停止してしまったように見えます。
悲しみを悲しめない・・・。
息子を愛していなかったことの罪悪感なのか。
そんな自分への嫌悪感なのか。
どう受け止めてよいのかわからない。
だからこそ、彼女は息子の死を受け入れることができず、
いつまでも引きずっていたのかもしれません。

そんな彼女が、本当に息子の死を受け入れ、悲しみを表出させるまでの物語。

村上春樹ワールドを楽しみました。

ハナレイ・ベイ [DVD]
吉田羊,佐野玲於
バップ

<WOWOW視聴にて>

「ハナレイ・ベイ」

2018年/日本/97分

監督・脚本:松永大司

原作:村上春樹

出演:吉田羊、佐野玲於、村上虹郎、佐藤魁、栗原類

 

喪失感度★★★★☆

満足度★★★★☆


SP革命篇

2019年09月21日 | 映画(あ行)

革命の黒幕とは

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「SP」劇場版第2作、シリーズ完結編です。

前作、官房長官を狙ったテロ事件から2ヶ月後。
本作はほとんど麻田内閣不信任案の採決が行われる国会議事堂が舞台です。
国家転覆の野望を持つ組織中にある尾形(堤真一)が、
人生をかけた計画を実行に移します。
なんと国会開催中にテロリストが乱入。
国会議事堂は封鎖され、議員全員が人質。
それがそのままテレビで生中継されるのです。

彼らは議員に銃を突きつけ、汚職など数々の欺瞞行為を暴露させます。
そして、尾形の真の狙いは、麻田総理にあった・・・。

この間、井上(岡田准一)らは、議事堂内を占拠する一団を切り崩していき、
なんとか議場内への突入を図ろうとします。

信頼を置いていた尾形係長の行動に唖然とする4係チームではありますが、
しかし、尾形もまた利用されていたに過ぎなかった
・・・というのは、まあ、お約束みたいなものですね。
この、尾形と伊達議員(香川照之)が対峙するシーンがもう、すごい迫力。
いや、さすがでした。
この二人の関係が、最後の最後でわかるところがまたよかったです。
切ない因縁です。

それにしても、確かに、様々な議員の不祥事や汚職については、
あんなふうに銃を突きつけてでも真実を話させたい・・・とは思うところです。
SPは確かに人命を守る貴重な仕事ではありますが、
その護る対象が命をかけて護るに値する人間であるのかどうか・・・
と突き詰めて考え始めると、どうにも理不尽な仕事でもありますね。

 

SP 革命篇 DVD通常版
金城一紀
ポニーキャニオン

<WOWOW視聴にて>

「SP革命篇」

2011年/日本/128分

監督:波多野貴文

出演:岡田准一、香川照之、真木よう子、堤真一、松尾諭

アクション度★★★☆☆

満足度★★★.5


SP野望篇

2019年09月20日 | 映画(あ行)

特殊能力を持つSP

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TVドラマ「SP」劇場版2部作の前編。
といってもそもそも私、そのTVドラマもみていなかったのですが。
今よりちょっとだけ若い岡田准一さんを見たいというミーハー的根性で見ました。

警視庁警護課第4係に属する井上(岡田准一)。
彼は危険を察知する能力“シンクロ”や
一瞬で物事を映像として記憶する“フォトグラフィック・メモリー”などの特殊能力を持っています。
本作はTVドラマの大きな流れの続きとなっていて、
井上は国家を揺るがす大規模テロの脅威に追い込まれていきます・・・。

 

SPというか、ボディガードがテーマのドラマは最近もありましたが、
本作の井上は特殊能力を持っていて、それが「警護」の仕事に役立つという設定。
劇場版だからといって特にそういう説明はなかったのですが、
それらしいシーンが冒頭にあって、なんとなく理解して見ることができました。

特に本作の冒頭、テロ実行犯を執拗に追い続ける井上の根性&アクションシーンは、
なかなかに迫力がありまして、いきなり見とれてしまいました。

井上が、本来尊敬すべき上司を敵に回さなければならなくなってくるという苦い展開。
本作はまだ前哨戦で、後編を待て!!ということなのでした。
はいはい。
早速次にいきましょう。

余談ですが、冒頭にいかにも怪しいテロ犯と思える男の役で綾野剛さんがちょい出演。
でも、ぜんぜん普通の人だったというオチ。
しゃれています。

 

SP 野望篇 DVD通常版
岡田准一,堤真一,真木よう子,香川照之
ポニーキャニオン

<WOWOW視聴にて>

「SP野望篇」

監督:波多野貴文

出演:岡田准一、真木よう子、香川照之、堤真一、松尾諭

アクション度★★★★☆

満足度★★.5


僕のワンダフル・ジャーニー

2019年09月19日 | 映画(は行)

犬好きにはたまらない

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犬好きのヒトにはたまりません。
「僕のワンダフル・ライフ」の続編です。
愛する人に再び会うため、何度も転生を繰り返す犬の物語。

 

前作の続きで、イーサン(デニス・クエイド)と妻ハンナ(マージ・ヘルゲンバーガー)のいる農場で
平和に暮らすベイリー。
イーサンの息子が事故死したため、その妻グロリアと娘CJがやってきて同居していました。
しかしやがて、グロリアはCJをつれて出て行ってしまいます。
孫娘と会えなくなって悲しむイーサンの姿を見たベイリーは、
次の生まれ変わりでCJを見つけ出し、きっと彼女を守ると、誓います。

そして、その誓いの通り、幾度かベイリーは生まれ変わりながら、
CJとめぐり会うことになるのですが・・・。

 

本作はもちろんベイリーの物語ではありますが、
CJの成長の物語でもあります。

彼女は母親にまともに愛されたことがなく、自信がないのです。
ギターを弾き曲を作って歌うことが好き。
そういうことで生きることを夢見ているのですが、人前で歌うことにどうにも自信がない。
そんな彼女を見守るのはベイリー。
そしてトレントという青年です。
アメリカ作品としては珍しく彼は東洋系。
幼なじみの二人ですが、これもまた時間をかけて互いの思いを育てていくという、
なかなか素敵なラブストーリーなのでした。

 

とにかくやっぱり犬がいいなあ・・・。
私は最後のちび犬より、どっしりした大型の犬の方が好きです。
ぎゅっと抱きしめ甲斐がありそうな・・・。

大変面白い。
だけれども、もう続編はいりません!

 

<ユナイテッドシネマ札幌にて>

「僕のワンダフル・ジャーニー」

2019年/アメリカ/109分

監督:ゲイル・マンキューソ

出演:デニス・クエイド、キャスリン・プレスコット、マージ・ヘルゲンバーガー、ヘンリー・ラウ

犬の愛らしさ★★★★★

満足度★★★★☆


「オブジェクタム」高山羽根子

2019年09月18日 | 本(その他)

いつの間にか異次元へ踏み込んでいく 

オブジェクタム
高山羽根子
朝日新聞出版

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小学生の頃、祖父はいつも秘密基地で壁新聞を作っていた。

手品、図書館、ホレスリコード、移動遊園地
――大人になった今、記憶の断片をたどると、ある事件といくつもの謎が浮かんでは消える。

読み終えた後、もう一度読み返したくなる不思議な感覚の小説集。

第2回林芙美子文学賞受賞作「太陽の側の島」も同時収録。

* * * * * * * * * * * *

 

高山羽根子さんは、私には初めての作家です。
SF作家、ということで本作もSFと捉えるべきなのかもしれませんが、
SFの枠を超えて、「ちょっと不思議な手触りの小説」という方が似合うかもしれません。
本巻には表題作「オブジェクタム」と他2篇の短編が収められています。

「オブジェクタム」

語り手が、小学生の頃の祖父との関わりを思い出しています。
祖父は秘密基地で町内の何カ所かに張り出す壁新聞を作っていて、
偶然そのことを知った語り手が、祖父を手伝うようになる。
町内の情報収集などをして・・・。
町の人々は結構楽しみにその新聞を読んでいるのですが、
誰もどこの誰がそれを作っているのかは知りません。
・・・ところが、どうも祖父の秘密はそれだけではなかったようなのです。
記憶の断片をつなぐと、なにかもっと壮大な秘密が浮かんで来るようでもある。
しかし、果たしてそれは本当のことなのだろうか・・・?

例えば昔行ったことがある(と、思っている)移動遊園地は、本当にあったことなのだろうか。
自分がそう思い込んでいるだけなのでは・・・?
と、ほとんど幻想めいた記憶が信じられなくなってくるのです。

何かつかみ所のない、夢のような物語。
でもこういう記憶の一つや二つ、誰にでもありそうです。
私は小さい頃住んでいた近所の山道をずっと登っていくと開けたところがあって、
そこに大きな池があった、などという記憶があるのですが、
どう考えて昔住んでいたあたりにそんな場所があったはずがない・・・という不思議な記憶。
一体記憶とは何なのか・・・?
そんな不安をも呼び起こすのでした。

「太陽の側の島」も面白いですよ。

戦地へ行った夫と、残された妻との手紙のやりとりです。
それはごく普通の戦時中のやりとりなのですが・・・。
しかし読み進むうちに膨らんでいく違和感。
どうにも実際にあった戦争の話ではないと思えてくる。
いつのまにか異次元へ踏み込んでいくような・・・。
これもまた不思議なストーリー。

「オブジェクタム」高山羽根子 朝日新聞出版

満足度★★★★☆


英国総督最後の家

2019年09月17日 | 映画(あ行)

英国とインドの事情

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1947年独立前夜のインド。

 

最後のイギリス統治者として、デリーの総督の家に
ルイス・マウントバッテン卿(ヒュー・ホビネル)が就任します。
当時のインドは、ヒンズー教、シク教、イスラム教と宗派の対立が大きく、
また、カースト制度による対立も加わり、分断され、混乱状態。
これらの各指導者層と話し合い、極力穏便に主権を譲渡する、
そういう役割が期待されているのです。
統一インドとするか、もしくは分離してパキスタンを建国するのか。
重大な決断をルイスは下さなければなりません。

 

マウント・バッテン卿はいかにも人柄がよく、インドの人々のために尽くそうとするのですが、
そんな彼も「国家」という巨大な歯車の一つでしかなく、
「国益」のために動かされているに過ぎない、というところが次第に見えてきます。
単なる英雄譚にならないのがよいと思いました。
できることならば、統一インドとすべきだったのかもしれない。
ガンジーがそう主張していたように。
けれど各地で起きている暴動や虐殺の実情を見れば、分断するしかないとも思えます。
しかし、結果論ではありますが、国を分離してしまったことで、
もう二度と融合できなくなってしまっているわけです。

 

このインド・パキスタン分離独立運動を現地で体験した祖父母を持つ
チャーダ監督の思いが伝わる作品です。

 

そしてまた、使用人のインド青年ジートと令嬢秘書アーリアの
宗派の違いを超えて、惹かれ合う二人の姿を交えたところで、
一段と私たちの思い入れも深まります。

 

マウント・バッテン卿のヒュー・ボネビルは、あのTVドラマ「ダウントン・アビー」のグランサム伯爵。
こうした時代のこういう役がいかにも身についていますね。

 

英国総督 最後の家 [DVD]
ヒュー・ボネヴィル,ジリアン・アンダーソン,マニーシュ・ダヤール,フマー・クレイジー,マイケル・ガンボン
Happinet

 

「英国総督 最後の家」

2017年/イギリス/106分

監督:グリンダ・チャーダ

出演:ヒュー・ボネビル、ジリアン・アンダーソン、マニシュ・ダヤル、フマー・クレイシー、マイケル・ガンボン

 

歴史発掘度★★★★★

国家の理論度★★★★☆

満足度★★★★☆


記憶にございません!

2019年09月15日 | 映画(か行)

元々覚えていなかった・・・

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お楽しみ、三谷幸喜監督作品。

 

史上最低の支持率となってしまった、総理大臣の黒田啓介(中井貴一)。
無能で態度も悪いセクハラ男・・・。
ある日、演説中に市民の投げた石が頭に当たり、記憶をなくしてしまいます。
自分のことも、家族のことも、そして当然政界のことも・・・。

しかし、国政の混乱を避けるため、記憶を失ったことは国民には隠され、
秘書官たちのサポートで日々の任務をこなしていきます。
しかし、あらゆるしがらみから解放された黒田は、真摯に政治に向き合うようになっていくのです。
ところが、実は政治の実権は官房長官・鶴丸(草刈正雄)が握っており・・・。

 

記憶喪失で、あんなに性格までもが変わるものだろうか・・・と思わないでもないのですが、
まあ、面白いからよしとします。
真摯に政治に取り組もうとした黒田は、政治の仕組みについて一から学び始めます。
「そんなことも忘れてしまったのか」と問われれば、
「いや、元々覚えていなかったようで・・・」と答える。
それまでは、いかにもボンクラな黒田だからこそ、表に立たされて
いいように操られていたのかもしれません。
なんとも痛切な皮肉ではありますが、実際、どこかの総理大臣も
一度記憶を失って、いろいろなことを、一から考え直しては・・・?
などと思ってしまいますね。

昨今、素敵なおじいさん役がすっかり身についた草刈正雄さんの、
こういうちょっとワルい感じもいいなあ。
佐藤浩市さんは、やさぐれてゆすりまがいのことをするフリーライター。
ディーン・フジオカさんは、やはりボンクラ総理を手玉に取る悪徳秘書なのか?と思わせつつ、
実は理想をもってこの世界に入ったヒトなのだった、というのも素敵。
各俳優さんが適材適所に配置されていて、楽しいんだなあ・・・。
田中圭さんなんかも、初めのほうだけ出てきてこれで終わり?などと思っていると
ラスト付近でまた登場! 
これがまたいい。

わーい、面白かったと思える、さすがのオススメ作品。

<ユナイテッドシネマ札幌にて>

「記憶にございません!」

2019年/日本/127分

監督・脚本:三谷幸喜

出演:中井貴一、ディーン・フジオカ、石田ゆり子、草刈正雄、佐藤浩市、小池栄子、田中圭

政治家への当てつけ度★★★★☆

満足度★★★★☆


「河童のユウタの冒険 上・下」斉藤敦夫 

2019年09月14日 | 本(その他)

冒険を阻むもの

河童のユウタの冒険(上) (福音館創作童話シリーズ)
金井田 英津子
福音館書店

 

 
 
 
 
 
 
河童のユウタの冒険(下) (福音館創作童話シリーズ)
金井田 英津子
福音館書店

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水源をめざし、今、旅が始まる
―北国の「恵みの湖」に棲むひとりの河童、ユウタ。
早春のある夕暮れ時、ユウタは不思議なキツネに呼びとめられます。
「そなたは旅立たねばならぬのです」。
その言葉に戸惑いながらも、やがてキツネの言う“龍川”の水源をめざし、
目的もわからぬまま、ユウタは故郷をあとにします。
「ガンバの冒険」シリーズの著者がおくる長編ファンタジー。(上)

旅立のはてに待っていたのは
―河童のユウタは、旅の仲間となった九尾の狐の孫娘アカネと天狗のハヤテとともに、
旅を続けます。
しかし、ある事件をきっかけにヒトから追われる身となってしまった3にん…。
はたして、彼らは無事、めざす水源にたどりつけるのでしょうか。
そして、道中問いつづけた、旅の目的とは?
「ガンバの冒険」シリーズの著者がおくる長編ファンタジー。(下)

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児童文学です。
斉藤敦夫さんの講演を聴く機会があり、
にもかかわらず私は「ガンバの冒険」も読んだことがなかったので・・・。

ある平和な湖に住む河童のユウタが、あるとき突然現れた不思議な狐に
「龍川の水源へ、二人の仲間とともに旅立たなければならない」と告げられのです。
その仲間とは九尾の狐(の孫娘)アカネ、そして天狗のハヤテ。
互いに見知らぬ仲間で、いったい龍川の水源へ行って何をすべきかもわからぬまま、旅たつ彼ら。

彼らの旅を阻むのは得体の知れない怪物などではなくなんと「ヒト」なのでした。

これは昔話ではなく、しっかりと現代の話なのです。
ヒトによってどんどん荒らされ、狭まっていく自然。
そして住むところと生命を脅かされている自然界の動物たち。
ヒトと自然界の動物たちはいったいどのように折り合いをつけていけばよいのか。
昨今特に住宅街にも熊が出没したりする札幌の住人としては、とても身近なテーマです。
結局その答えは出ていないのですけれど、
この本を読んだ子どもたちにじっくり考えてほしいと思います。
(責任放棄!!)

動物たちにとってヒトはやっかいな存在。
しかし本作中、さらに不可解でやっかいなヒトタチが登場します。
それは存在しているようでしていない、
ゆらゆらとただユウタたちの様子を見張り伺っている多くのヒトたち。
・・・それはスマホやタブレットで、見るともなく裕太たちを見ているデジタルのひとびと。
主体性があるのやらないのやら、意思が伝わらない。
しかし、無言の圧力があるようでもある、不気味な存在。

こんなヒトたちなんかいらない!と著者は言いたいようなのですが、
だがしかし、これが当たり前となってきている今、
逆にこのヒトたちをユウタの味方につけることはできないのかなどと私は思います。
これも次世代を生きる子どもたちへの課題。
(またまた無責任!!)

「河童のユウタの冒険 上・下」斉藤敦夫 福音館書店

満足度★★★☆☆


ブラインド 朗読する女

2019年09月13日 | 映画(は行)

ベタにロマンチック

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日本未公開作品。

ニューヨークに住むやり手資本家のマークは、脱税のため、妻名義の口座を利用します。
しかしそのことが表沙汰になり、マークは逮捕され、裁判を待つ身となってしまいます。


さて、その妻スザンヌ(デミ・ムーア)は、
夫に協力したと疑われ、100時間の社会奉仕を命じられます。
そして視聴覚障害者センターで、盲目の元作家ビル・オークランド(アレック・ボールドウィン)に
朗読をする仕事を与えられるのです。
気難しいビルとスザンヌは初めのうち気が合わず、反発し合いますが・・・。

 

まずまず有名どころの俳優が出ているということで、見てみました。
社会奉仕のための朗読と元作家との出会い。
大きなダイヤの指輪をつけ、セレブな生活をしている人妻が社会奉仕・・・という展開が興味深く、
引きつけられました。
しかしその先はありきたりで、ラストに至ってはあまりにもベタなロマンチック、
なんだかなあ~という感じでした。

 

いっそ、スザンヌの夫の異常性を前面に出して、サスペンス仕立てにすればよかったかも。

日本未公開は正解かもしれない。 

<WOWOW視聴にて>

「ブラインド 朗読する女」

2017年/アメリカ/106分

監督:マイケル・メラー

出演:アレック・ボールドウィン、デミ・ムーア、ディラン・マクダーモット、ジェームズ・マキャフリー、ヴィヴァ・ビアンカ

出会いの奇跡度★★★★☆

満足度★★☆☆☆