映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

TITANE チタン

2023年04月30日 | 映画(た行)

怪作!

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幼少時、交通事故で頭蓋骨にチタンプレートを埋め込まれたアレクシア。
それ以来若干精神に変調を来しています。
車への執着が人一倍。
そして人への愛情は持てない。
そんな時に彼女の身の上にある「事件」が。

そしてアレクシアは警察に追われるようになり、
行き場をなくし、消防士ヴィンセントと出会います。
彼は10年以上前に息子が行方不明となり、
いまだに彼の帰りを待ちながら孤独に暮らしています。
そして次第に老いていく自分の身に恐怖を感じている。
そんなところへ息子になりすましたアレクシアが訪れ、
2人は妙な共同生活を送り始めます。

周囲の人は、どうも本当の息子ではないようだ・・・?
と疑いを持つのですが、ヴィンセントは願望が妄執となり、
ひたすらアレクシアを息子として守ろうとします。
しかしやがて、アレクシアにはどうしても「男」とは思えない変調が・・・。

さてさて、一体どういう物語なのか、と戸惑う所ではありますが・・・。

頭蓋骨にチタンプレートを埋め込まれたことで
「人間性」を失ってしまったかに思えるアレクシア。
もともと彼女は父に愛されていなかったようですが、
このことがあってからは、さらに疎まれるようになっていきます。

人に愛されないから愛し方も知らない。
人が命を失うことも、機械が壊れることと同じように捉えているのかも知れない。
ただし、それが犯罪であることは認識している。

そんな彼女がたどり着いたのは、いなくなってしまった息子に囚われてしまっている初老の男。
彼は始めアレクシアを本当に息子だと思ったのでしょうけれど、
次第に「違う」ことに気づいていったようではあるのです。
けれど、自分でも気づかないフリをして、ひたすら「息子」に愛を注ぐ。

こうなるともう、彼にとってはアレクシアは男でも女でもどうでもいい。
自分の性の対象ともならない。

なんと、こんな不可思議で奇怪な作品ながら「無償の愛」へとたどり着くわけで、
唖然とされてしまいます。

しかも、アレクシアはつまり人の「男」なしに妊娠したということで、
聖母マリアをも連想させるという・・・。

強烈な印象を残す作品。

<Amazon prime videoにて>

「TITANE チタン」

2021年/フランス・ベルギー/108分

監督:ジュリア・デュクルノー

出演:バンサン=ランドン、アガト・ルセル、ガランス・マルルエール、ライ・サラメ

奇々怪々度★★★★★

満足度★★★.5

 


ザ・メニュー

2023年04月28日 | 映画(さ行)

孤島のレストランで

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有名シェフ、ジュリアン・スローヴィク(レイフ・ファインズ)が極上の料理を振る舞い、
なかなか予約が取れないことで知られる、孤島のレストラン。
マーゴとタイラーが他の客と共に、ここを訪れます。
美しく美味な料理にタイラーは感動することしきり。
でも、マーゴはなにか違和感を覚えるのです・・・。

そしてレストランは不穏な空気に包まれていく・・・。

言ってみればここのシェフは独裁者。
カリスマシェフをあがめ奉る昨今の風潮を皮肉ったような物語。
しかし、食べることとは異質の残酷な雰囲気が立ちこめていきます。

いえ、食べるということは他の命を奪うこと・・・。
となれば「食」は実は本来残酷なことなのかも知れません。
それを元の形を分からなくしてしまい、
味や見た目で彩ることが「料理」なのかもしれませんね。

極めて異色の、グルメホラー。

高級レストランはやめておこう。
お茶漬かインスタントラーメンでいいわ・・・と思ってしまった。

 

<Amazon prime videoにて>

「ザ・メニュー」

2022年/アメリカ/107分

監督:マーク・マイロッド

出演:レイフ・ファインズ、アニヤ・テイラー=ジョイ、
   ニコラス・ホルト、ホン・チャウ、ジャネット・マクティア

狂信度★★★★☆

残酷度★★★★☆

満足度★★.5


「魂手形 三島屋変調百物語 七之続」宮部みゆき 

2023年04月27日 | 本(その他)

いなせな老人の昔語り

 

 

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嘘も真実も善きも悪しきも、すべてが詰まった江戸怪談の新骨頂!

江戸は神田の三島屋で行われている変わり百物語。
美丈夫の勤番武士は国元の不思議な〈火消し〉の話を、
団子屋の屋台を営む娘は母親の念を、
そして鯔背な老人は木賃宿に泊まったお化けについて、
富次郎に語り捨てる。

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三島屋百物語シリーズ第7巻。

「語って語り捨て、聞いて聞き捨て」
従妹・おちかから聞き手を引き継いだ、富次郎の話の続きとなります。
本巻に収められているのは、「火焔太鼓」、「一途の念」、「魂手形」の3篇。

 

表題作「魂手形」では、冒頭で、
お嫁に行ったおちかが赤子を身ごもったことが明かされます。
すっかりお祝いムードで浮かれる三島屋の人々。

そんな中、百物語の語り手として現れたのが、
なんとも粋で、鯔背(いなせ)なご老人。
話は、この老人がまだ少年の頃の不思議なというか少し恐い話なのですが、
この老人が話すとちょっとユーモラスですらある。
富次郎は、この老人がすっかり気に入って、こんな風に年をとりたいなどと思うのです。
分かります。
私も本やテレビドラマに出てくるご高齢の女性を見て、
こんな風に年をとりたいなあ・・・と思うことが多いので。
でも考えてみたらもう十分に年をとっているはないか! 
手遅れなんだわ・・・。

まあ、それはともかく、あまりにも恨みやつらみが残った死者は、
成仏できずに魂がこの世をさまようことになるというような、
暗く悲しい一連のストーリーも、
この老人の話す威勢のよい結末に、救われる思いがするのです。

が、しかし。

この世は何もかもいいことばかりではないのですね。
終盤少し不穏な人物(?)らしきものが登場。

幸福と不幸は裏表。
そんな中をなんとか折り合いをつけながら生きていくのが、
おちかであり、富次郎であり、わたしたちであるわけです。
おめでたいばかりでは終わらせない、これぞ、著者の心意気。

<図書館蔵書にて>

「魂手形 三島屋変調百物語 七之続」宮部みゆき 角川書店

満足度★★★★☆


ヴィレッジ

2023年04月26日 | 映画(あ行)

息苦しさの果てに

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山あいの集落、霞門村。

片山優(横浜流星)は、ここで生まれ育ち、少年時代には
村の伝統として受け継がれてきた薪能の教室に通っていました。
しかしそんな頃、村にゴミの最終処分場が建設されることになり、
その建設を巡るある事件により、優の暮らしは一変します。

父は犯罪者となり自殺。
周囲の人々からは冷たい視線を投げつけられます。
こんな村からは出て行きたくても、母もすっかり変わり果て、
パチンコ依存症で借金は膨らむばかり。
この借金をどうにかしなければ、出て行くに出て行けません。
そのため優はゴミ処理施設で働くことになり、
仲間からはいじめの標的になっています。

出口のないトンネルに迷い込んだように、
孤独と閉塞感に押しつぶされそうになる優。

しかし、幼馴染みの美咲(黒木華)が東京から戻ったことをきっかけに、
優の周囲は大きく動き出します。

 

優と美咲は心が通い合うようになり、処理場における優の立場も好転していく。
ことはよい方向へ向かっているはずなのに、不安ばかりがこみ上げてくるという、
不思議な感覚に包まれます。

と言うのもそもそも、この処理場では危険な産業廃棄物を闇取引し、地中に埋めていた・・・。
優は借金を返すために、それと知っていてもその作業についていたのです。
このようなことに加担していて、ハッピーエンドに向かうはずがない。

 

この村を見おろす山中にゴミ処理場がそびえ立っており、
まるでこの村を支配しているかのようです。
実際、この処理場でこの村は成り立っているようなもの。
そうした成り立ちも、いかにも不穏・・・。

どうしようもなく生きるのが苦しい優。
母の浪費のためにがんじがらめで逃げ出すこともできない。
こんな暗い青年をも横浜流星さんが
存在感をもちながらきっちりと演じていて、すごいです・・・。

八方塞がりのような周囲の状況の中でも、必死でもがいて、
なんとか少しでも幸せをつかみたいと思う。
けれども・・・。
一体どうすればよかったのだろう。
どの時点で道を間違えたのか・・・。
でもやはり、こうするほかなかったようにも思う。

つかの間、幸せな未来を期待したのは、やはり夢でしかなかったのか・・・。

 

さて、同じく借金のためにやむなくここで働く金髪の青年に奥平大兼さん。
そして、美咲の弟で、若干コミュニケーション障害的な青年に、作間龍斗さん。
これが結構重要な役柄なのですが、よかった。

作間龍斗さんは最近WOWOWのオリジナルドラマ「ながたんと青と」で知ったのですが、
ジャニーズJr、HiHi-jetsの一員であります。
おそらく今後テレビなどで見かけることが多くなるかも知れません。
また推しが一人増えてしまった・・・。

 

<シネマフロンティアにて>

「ヴィレッジ」

2023年/日本/120分

監督・脚本:藤井道人

出演:横浜流星、黒木華、一ノ瀬ワタル、奥平大兼、作間龍斗、中村獅童、古田新太

 

息苦しさ★★★★★

満足度★★★★★


線は、僕を描く

2023年04月25日 | 映画(さ行)

「自分」を筆で表現

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原作をとても楽しく読みましたので、劇場公開時はスルーしていましたが、
この豪華配役陣は、やはり見ておきたい。

大学生の青山霜介(横浜流星)は、アルバイト先の絵画展設営現場で水墨画に出会います。
白と黒のみで表現された水墨画は、霜介の前に色鮮やかに広がって見えたのです。

家族を不慮の事故で失い、深い喪失感の中にいた霜介だったのですが、
水墨画により、彼の世界は一変します。

巨匠・篠田湖山(三浦友和)に声をかけられ、水墨画を学ぶことになった霜介。
そんな彼が出会ったのは、湖山の孫娘、千瑛(清原果耶)。
彼女は水墨画界において若手ナンバーワンとささやかれていましたが、
今、迷いの中にいて・・・。

なんといっても、本であれば水墨画の美しさは想像するほかないのですが、
映画なら画面でしっかりとそれを見ることができるというのが一番の強み。
たっぷり堪能させていただきました。
水墨画は書道と同じく、その場その時のたった一筆が勝負。
やり直しがききません。
その集中力、表現力がすべて。
こういう緊張感がうまく表現されていたと思います。

千瑛役に清原果耶さんというのもよかった。
いかにも、似合う感じです。

なんにしても、自分のやりたいこと、すべき事を見出して
それに突き進む若者の姿は美しいです・・・。

私のような年になると、そういうことを強く思います。

<Amazon prime videoにて>

「線は、僕を描く」

2022年/日本/106分

監督:小泉徳宏

原作:砥上裕將

出演:横浜流星、清原果耶、細田佳央太、河合優実、江口洋介、三浦友和

水墨画の魅力度★★★★★

満足度★★★★☆

 


ブレット・トレイン

2023年04月24日 | 映画(は行)

血まみれの弾丸列車

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いつも事件に巻き込まれてしまう、世界一運の悪い殺し屋“レディバグ”(ブラッド・ピット)。

彼の今回のミッションは、東京発の超高速列車で、
ブリーフケースを盗んで、次の駅で降りるという簡単なもの
・・・の、はずでした。

ところがやはり運が悪い。
カバンは手に入れたけれども、身に覚えのない殺し屋達に次々と命を狙われ、
降りるタイミングを見失ってしまいます。
状況がくるくると変わる中、やがて列車は
世界最大の犯罪組織のボス、“ホワイト・デス”が待ち受ける京都へ・・・

私、全く予備知識なしに見てしまったのですが、
実は本作の原作は伊坂幸太郎さんの「マリアビートル」だったのですね。

伊坂幸太郎さんの物語は、実は血生臭いバイオレンスであっても、
どこかさらっとスタイリッシュで端正な感じがするのです。
なのでそれを映画化したものも、そんな雰囲気を漂わせます。
ところが、ハリウッドで製作した本作にはそういう雰囲気がほとんどありません。
だから気づきもしませんでした。

でも、主人公たるレディバグがとことん運が悪かったり、
殺し屋のくせに妙に心優しいところがあったりする2人組の存在などは
確かに、伊坂幸太郎ワールドのもの。
すごく納得がいきました。

さてさて、それにしてもこれは本当に日本が舞台とは思わない方がいいです。
日本にちょっと似た、別次元の世界と始めから思っておいた方がいい。

全体的には、いかにもアメリカ人のイメージする「日本」そのもの。
そこをムリに現実の日本に近づけようとしなかったところが
逆に成功していると思います。

少なくともまだ明るいうちに東京を発ったはずの列車が、
夕暮れとなり一晩が過ぎて、朝になってようやく京都に到着。
最新の超高速列車で・・・? 
どんだけ広いんだ、日本。

というような、突っ込みどころを探すのもまた一興。

他の乗客の「お静かに」の言葉に応えようとする、
殺人者とブラッド・ピットのバトルシーンも楽しいし、
それぞれ個性的な殺人者達もちょっと好きになってしまいます。

真田広之さんも、さすがカッコイイ!!
血まみれではありますが、楽しめました。

<Amazon prime videoにて>

「ブレット・トレイン」

2022年/日本/126分

監督:デビッド・リーチ

原作:伊坂幸太郎

出演:ブラッド・ピット、ジョーイ・キング、アーロン・テイラー=ジョンソン、
   ブライアン・タイリ-・ヘンリー、アンドリュー・小路、真田広之、マイケル・シャノン

血まみれ度★★★★☆

謎の日本度★★★★★

満足度★★★★☆


「お探し物は図書室まで」青山美智子

2023年04月22日 | 本(その他)

進むべき道に迷ったら・・・

 

 

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2021年本屋大賞第2位!!

「お探し物は、本ですか? 仕事ですか? 人生ですか?」

仕事や人生に行き詰まりを感じている5人が訪れた、町の小さな図書室。
彼らの背中を、不愛想だけど聞き上手な司書さんが、
思いもよらない本のセレクトと可愛い付録で、後押しします。
自分が本当に「探している物」に気がつき、
明日への活力が満ちていくハートウォーミング小説。

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仕事や人生に行き詰まりを感じている人たちが、
ふと訪れた町のコミュニティハウス内の図書室で、
風変わりな司書さんから思いがけない本のセレクトと、ちいさな「付録」をもらい、
自分の探しているものを見つけ出すというストーリー。
主人公を変えた短編連作形式となっています。

 

なんと言っても、ここに登場する司書さんがユニーク。
一目見てぎょっとするような大きな女性。

ある人は、ベイマックスのようだと思い、
またある人はマシュマロマンのようだと思う。
そしてまたある老人は、鏡餅のようだと思う。
どう連想するかで、その人の年齢や志向が想像されるのが楽しいですね。
私ならさしずめ、マツコ・デラックスみたいと思うかもしれないけれど、
まあそれだとリアルすぎるか・・・。
ともかくこの方が、依頼者と少しの会話を交わすやいなや、
タタタタとキーボードを打って、瞬く間にヒントとなる本を探し当て、
そしてなぜか一つの「付録」をつけてくれる。
それは羊毛フェルトで作ったマスコットのようなもの。
彼女はその大きな体に似合わず、ちまちまと小さなフェルト手芸を作っているのでした。
不思議とその小さなアイテムが、依頼者の心に寄り添っていくのです。

 

結局はこの司書さんが、カウンセリングをするというわけでもなく、
人々は自分で答えを導き出していくわけですが、
そんなところもまた、読み応えがあります。

確かに、いかにも「本屋大賞」っぽいお話。

っぽすぎるから、一位ではないのだろうな・・・。

 

「お探し物は図書室まで」青山美智子 ポプラ文庫

満足度★★★★☆

 


ノック 終末の訪問者

2023年04月21日 | 映画(な行)

究極の選択

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ゲイで友に暮らしているエリックとアンドリュー。
休暇で、養女ウェンとともに人里離れた山小屋で過ごしています。

ある日突然、武装した見知らぬ男女4人が小屋に押し入り、
わけも分からぬままエリックらはとらわれの身となってしまいます。
そして、彼らは言います。
家族のうち誰か一人が犠牲になることで、
世界の終末をくいとめることができる、と。
もし拒絶すれば、何十万もの命を奪うことになる、
と彼らはエリック達に選択を迫るのです。

エリックとアンドリューは、
何かの頭のおかしい狂信者の戯言と思ったのですが、
彼らを説得できなかったメンバーは一人、また一人と
目の前で死を遂げていきます。
そして、テレビでは世界各地の甚大な災害を伝え始める・・・。

エリックらは、誰か一人を犠牲者として差し出さなければなりません。
それは、誰かの自殺ではダメで、
この中の3人のうちの誰かが一人の命を奪わなければダメだというのです。

なんとも残酷なことですね。
エリックらは始めから子供のウェンを犠牲にするなどという発想もなく、
つまり、エリックかアンドリュー、
どちらかがどちらかを殺さなければならない、ということになるのです。

しかしそもそもこの話自体、信じるべき話なのか・・・?
もしかしたらテレビのニュース自体が仕組まれたインチキなのでは・・・?
と、シャマラン監督ならではの疑いを私は持ってしまったのですが、
でも、そうではない。

エリックらを説得するために、実際に彼らは仲間を一人一人惨殺していくわけで・・・。
インチキのためにそこまでするとも思いがたいのです。

作中、冒頭でウェンがガラス瓶の中でバッタを飼うというシーンがあります。
バッタたちの運命はウェンの気持ち一つにかかっているということ。

それと同じく、この地球上の人々の運命は、
わたし達の知らない何者か、創造主とか神とか言われるような者の
意のままに操作されているのでは・・・?という話なのですね。

 

私はもっとひねりのあるストーリーなのかと思ったのですが、
いえ、まさにそのものズバリ、エリックとアンドリューの選択の問題の話なのでした。
人類のために、一番大切な人の命を損ねることができるのかどうか。

 

言いたいことは分かるけれど、ちょっとピンとこない感じだなあ・・・と思ってしまった。

押し込んできた4人のうちの一人は、ルパート・グリント、
つまりハリー・ポッターの親友、ロン役でおなじみの方ですね。

 

<シネマフロンティアにて>

「ノック 終末の訪問者」

2023年/アメリカ/100分

監督:M・ナイト・シャマラン

原作:ポール・トレングレイ

出演:デイブ・バウティスタ、ジョナサン・グロフ、ベン・オルドリッジ、
   ニキ・アムカ=バード、ルパート・グリント

 

究極の選択度★★★★☆

満足度★★★☆☆


FLEE フリー

2023年04月20日 | 映画(は行)

祖国を逃れて自由はさらに遠く

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祖国アフガニスタンからの脱出後20年を経て体験を語る青年、
アミンを捉えたドキュメンタリーです。

しかし、ドキュメンタリーなのにアニメ。
というのも、主人公や周辺の人々の安全を守るため、
あえて実写ではなくアニメで製作されたのです。

アフガニスタンで生まれ育ったアミン。
ある時父が当局に連行されたまま、戻りません。
アミンは残された家族とともにアフガニスタンを脱出。

とりあえずは観光ビザでロシアに入ります。
しかしまもなくビザは切れ、家族はなんとか西側へ行こうとするのですが・・・。
そこに様々な苦難が待ち受けます。

難民となり行き場のないアミン。
そしてまたさらに彼はゲイなのでした。
なんとも生きにくい・・・。

わたし達が当たり前に思っている日常、普通の暮らし。
それは実はとても貴重なものであることがよく分かります。

祖国で安全が保証されず、やむなく国を捨てて、よその国へ。
けれどそこではあくまでも「よそ者」。
決して歓迎はされない。
こんな想像外のことが実は今、世界では何も珍しくないのだ、
ということを思い知ります。

 

こんなことがどうすればなくなるのか。
答えがないのがつらいですが、まずは知ること、でしょうか。
貴重な作品です。

<WOWOW視聴にて>

「FLEE フリ-」

2021年/デンマーク、スウェーデン、ノルウェー、フランス/89分

監督:ヨナス・ポヘール・ラスムセン

 

過酷な現実度★★★★★

満足度★★★★☆


パリタクシー

2023年04月19日 | 映画(は行)

人生をたどるパリ巡り

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ぶあいそうなタクシー運転手シャルルは、
お金もなく、休みもなく、免停寸前、人生最大の危機を迎えています。
そんなある日、92歳の女性マドレーヌをパリの反対側まで送ることに。
マドレーヌは、これまで住んでいたところを引き払い、
介護施設へ入るところだと言います。
そして、彼女が人生を過ごしたパリの街の
思い出の場所に寄ってほしいと言うのです。

寄り道の度、彼女はその思い出を語っていきますが、
次第に彼女の意外な過去が明らかになっていきます。
マドレーヌの思いがけない激動の人生とは・・・!?

92歳の繰り言など、目下の自身の困りごとに悩むシャルルにとっては
興味もないものでした。
始めのうちは。

けれど、若き日、アメリカ兵との初恋などというロマンスに興味を引かれ、
そしてその彼が帰国してしまった後に息子が生まれたという話に、
次第に引き込まれて行きます。

二次大戦という歴史の渦の中の出来事。
そしてそれは次第に女性の権利の話にもなっていきます。
苦難を乗り越えて92歳まで生き抜いた強い女性の生き様を、
シャルルはたった一日で知るのです。

車窓にはパリの街の名所もちらほらと。
先日「炎上」した映画を見た、
ノートルダム大聖堂の修復工事中のところも映っていたな。

マドレーヌの話につられたシャルルは、
自分と妻との出会いのことなどもつい打ち明けてしまう。
まるでずっと前からの友人のように打ち解け始める二人。

そしてまた、最後に待ち受ける思いがけない感動。
文句なしです。

幸せの90分をありがとう!!

<シネマフロンティアにて>

「パリタクシー」

2022年/フランス/91分

監督:クリスチャン・カリオン

出演:リーヌ・ルノー、ダニー・ブーン、アリス・イザーズ

 

パリのロードムービー度★★★★☆

ある女性の生き様度★★★★★

満足度★★★★★

 


「空芯手帳」八木詠美

2023年04月18日 | 本(その他)

空っぽのお腹を満たすものは?

 

 

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女性差別的な職場にキレて「妊娠してます」と口走った柴田が辿る奇妙な妊婦ライフ。
英語版も話題の第36回太宰治賞受賞作が文庫化! 
NYタイムズ、ニューヨーク公共図書館の2022年オススメ本にあげられ、
世界14カ国語で翻訳進行中。

世界的に話題のデビュー作、待望の文庫化!

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世界的にも話題となっているという本作、なるほどーと思いました。
現実にほぼ重なる「私小説」が「文学」と思われていたような日本よりも、
ちょっと現実離れしているけれど、
奥深いいろいろなことを示唆しているこのような小説は、
海外の方が受けがよい。
村上春樹さんなどもその一つの例かもしれません。

 

本作の主人公はとある会社に勤める女性・柴田。
ある日、「コーヒーカップを片付けておいて」と上司に言われたときに突然キレて、
「私は妊娠しています。」と言ってしまう。
全く事実無根であります。
今の柴田には、その可能性すらありません。

 

なにも、女性だから・・・と押しつけられる雑用は、その時に始まったわけではない。
けれど、積もり積もった理不尽さに対する鬱屈が、そこで爆発してしまったわけです。

ところが、世間一般がそうであるように、妙なところで「気遣い」のある職場。
誰も結婚してたっけ?とか、付き合っている人がいたんだ?などとは聞いてこない。
周囲は、いっとき妙な雰囲気にはなったものの、
皆さん無理矢理にも納得して、妊婦・柴田を気遣い始めます。

残業もなくなって、明るいうちに家に帰ることができるという、嬉しい初体験。
柴田はそのまま、お腹にタオルを巻いたり、
生理の時にはバレないようにオフィスとは別のフロアのトイレに行ったりと、
奮闘を続けるのですが・・・。

 

柴田の会社は、アルミホイルやラップなどに使う「紙の芯」を扱っています。
つまり中身が空っぽ。
柴田も、実は空っぽのおなかをかかえ、そこを何で満たそうとするのか・・・
と言うことがテーマではあるのでしょう。
実に秀逸な設定です。

しかも、読者は途中から混乱して来ることになります。
柴田のお腹は次第にタオルを巻く必要もなくせり出して、
病院のエコー検査で不鮮明ながら影が映ったりする・・・。
息を潜めて、そのなりゆきを見守るほかありません。

 

男女同権といいつつも、体のつくりははっきりと違う。
けれど女性だからといって必ず妊娠するものでもなく、
「女は子供を産むものだ」という固定観念的なものも薄れてきている今、
では「女性」性や母性はどこへ行こうとしているのか。

そんなことを思うのでした。

 

「空芯手帳」八木詠美 ちくま文庫

満足度★★★★★

 


蛇にピアス

2023年04月16日 | 映画(は行)

痛い!!!

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金原ひとみさんの芥川賞受賞作が原作。
さすが芥川賞、ちょっと一筋縄ではいきません。
作品がイタいワケではありません。

特になんの目標もなく、コンパニオンのバイトで暮らしていたルイ(吉高由里子)19歳。
ある時、蛇のように舌先が割れた“スプリット・タン”を持ち、
全身にピアス、タトゥーをした男・アマ(高良健吾)と知り合い、付き合い始めます。

そして彼から紹介を受けて、彫り師・シバ(ARATA、現・井浦新)の元に通い始め、
彼女もスプリット・タンとタトゥーに挑み始めます。
そんな中で、ルイはシバとも関係を持つように。

自らの舌に穴を開け、背中にタトゥーを入れ、それでも満たされないルイですが・・・。
そんな時に突然、アマが失踪してしまいます・・・。

 

とにかく“痛い”のです。

タトゥーについては、これまでもいろいろなところで出てくるので知ってはいましたが、
舌に穴を開けピアスをするというのには思わず目を背けたくなり、
しかもその穴を長い期間をかけて押し広げていき、
やがて二つに割るなどというのは、とても私には受け入れられない気がする。
誰に強要されたわけでもないのに、ルイがそれをしようとしたのは、
その「痛み」を感じることで、自分が生きていると感じられるから。

そしてまた、シバはサド男で、ルイとコトに及ぶときも
彼女を責め立て、首を絞めたりもします。
そもそも自ら舌に穴を開けようとするようなルイなので、元々被虐的なのでしょうか。
このときに責められることもまた、ルイにとっては
自らの生を実感できる時間なのかも知れません。
でもルイは、過激な見た目とは裏腹にノーマルなセックスをする
アマもまた嫌いではないのです。

さて、恐ろしいほどにパンクな外見のアマは、
しかし意外と感覚は普通並みで優しいのです。
ところが、何かのきっかけで怒り出すと、一気に暴力性が爆発。
それはもう、自分でもコントロールできなくなってしまうのです。
ルイに乱暴したりしないアマですが、もしシバとのことがバレたらどうなってしまうのかと、
ちょっとハラハラしてしまうのですが、
結局そういう事故は起こらなかったわけですね。

でも、本当はもっと恐ろしいことが起こっていた・・・?

生と愛欲は同じものなのか。
たとえそれが“苦痛”であっても、生きていることの証が必要なのか。

私の中では答えは出ず、ぐるぐると渦巻く感じです。

ところで、吉高由里子さん、
恐いくらいのピアスとタトゥーにまみれた井浦新さんと高良健吾さん、
こんな役をやったらもう恐い物なしなのでは?
その証として、お三方は今、演技派としてさらに活躍中。

 

ふう、マジでスゴイ作品でした。

 

「蛇にピアス」

2008年/日本/123分

監督:蜷川幸雄

原作:金原ひとみ

出演:吉高由里子、高良健吾、ARATA(井浦新)、あびる優、ソニン、小栗旬、唐沢寿明、藤竜也

 

過激度★★★★★

SM度★★★★☆

満足度★★★.5


355

2023年04月15日 | 映画(さ行)

手を組む女性達

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あるところで、世界を混乱に陥れるテクノロジーデバイスが開発されます。
これを手に入れようとする国際テロ組織。
それを阻止しようと、各国の機関が動き始めます。

格闘術を得意とするCIAのメイス(ジェシカ・チャステイン)。
あるトラウマを抱えているドイツ連邦情報局のマリー(ダイアン・クルーガー)。
コンピュータ・スペシャリスト、MI6のハディージャ(ルピタ・ニョンゴ)。
コロンビア諜報組織に所属する心理学者、グラシー(ペネロペ・クルス)。
中国政府に所属するリン・ミーシェン(ファン・ビンビン)。
彼女らが、はじめ敵対しながらも手を組み、デバイスの奪還を図ります。

そのテクノロジーデバイスとは、ネットを通じてあらゆるコンピュータに侵入し、
思いのままに操作することができるマシン。
大きさはスマホ程度なので、誰にでも持ち運べてしまうというやっかいな代物。
例えば一定の地域だけを停電させたり、特定の飛行機の機械を誤作動させて爆発させたり、
どのようにでも悪用できる恐ろしい悪魔の発明品なのであります。
ここは各国協力して、デバイスを取り戻さなくては・・・ということになりますね。

そこで協力し合うのはすべて女性の頼もしき皆様。
分かります、こういうときに男達はたとえ一時協力したフリをしながらも、
最後には自分のもの、あるいは母国のものにしようとして、裏切ることになるのです。

私は常々思うのだけれど、
女性は自分の出世のために権力におもねたりしないし、支配欲もない。
あ、イヤすべての女性がそうであるとはいわないけれど、
そういう傾向が強いと思う。
だから「平和」への道を選ぶのです。

ということで、ここで女性ばかりが手を結ぶというのは、
ある意味必然のように思う。

そして、実に男はインチキであてにならない!!

なかなか胸のすく作品であります。


<WOWOW視聴にて>

「355」

2022年/イギリス/122分

監督:サイモン・キンバーグ

出演:ジェシカ・チャステイン、ペネロペ・クルス、ファン・ビンビン、
   ダイアン・クルーガー、ルピタ・ニョンゴ、エドガー・ラミレス、セバスチャン・スタン

 

女性達の格好良さ★★★★★

ハラハラ度★★★★☆

満足度★★★.5


ガール・ピクチャー

2023年04月14日 | 映画(か行)

言動は過激だけれど

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ティーンエイジャー女子の恋と性の冒険。

さすがフィンランド、マジで?と思ってしまうくらいに
あからさまに進んでいる女の子たちに、
オバサンとしては若干ひるんでしまうのですが・・・。

クールでシニカルなミンミと素直でキュートなロンコは親友同士。
二人は共に放課後、スムージースタンドでバイトをしています。

 

ロンコはこれまで恋愛感情を抱いたことがない、と言い、
理想の相手との出会いを求めて、パーティに出ることに。

一方ミンミは、大事な試合を前にプレッシャーに押し潰れそうになっている
フィギュアスケーター、エマと急接近します。

ミンミとエマは急速に親しくなり、すぐに体の関係までいってしまいます。
同性だからというためらいも何もなし。
フィンランドの多様化はここまで来ているのでしょうか・・・。
まあ、私もここのところはさほど驚きませんけれど。

ところが、ロンコの言動が凄まじい。
彼女は男女の付き合いとはすなわちセックスであると固く信じている。
だからちょっと良さそうな相手に、過激な言葉で誘い、行動さえするのですが、
あまりにも過激なので男子は引いてしまう・・・。

この三人は、つまり早く大人になりたいだけなのかも知れません。
よく分からないから分かりたい。
セックスの充足を得れば大人に近づく気がする・・・。

でも実際の愛情はその先にあって、
大人のゆとりある関係性はセックスとは別物のような気がします。

3人は一悶着のあとにそういうことを理解していって、そして大人になる。
そういう話なのでしょう。

ロンコは結局、実際自分はそれほど人との体の関係を欲していない
ということを再認識します。
そういう自分らしさの気づきもまた重要なんですね。

十分大人びた少女達なのですが、最後まで見ればやはり、
たしかに「少女」に違いないと思ったわけでした。

<サツゲキにて>

「ガール・ピクチャー」

2022年/フィンランド/100分

監督:アッリ・ハーパサロ

出演:アーム・ミロノフ、エレオノーラ・カウハネン、リンネア・レイノ

 

過激度★★★★☆

満足度★★★.5


「魂手形 三島屋変調百物語 七之続」宮部みゆき

2023年04月13日 | 本(その他)

いなせなご老人の体験

 

 

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嘘も真実も善きも悪しきも、すべてが詰まった江戸怪談の新骨頂!

江戸は神田の三島屋で行われている変わり百物語。
美丈夫の勤番武士は国元の不思議な〈火消し〉の話を、
団子屋の屋台を営む娘は母親の念を、
そして鯔背な老人は木賃宿に泊まったお化けについて、
富次郎に語り捨てる。

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三島屋百物語シリーズ第7巻。

「語って語り捨て、聞いて聞き捨て」
従妹・おちかから聞き手を引き継いだ、富次郎の話の続きとなります。
本巻に収められているのは、「火焔太鼓」、「一途の念」、「魂手形」の3篇。

 

表題作「魂手形」では、冒頭で、お嫁に行ったおちかが
赤子を身ごもったことが明かされます。
すっかりお祝いムードで浮かれる三島屋の人々。

そんな中、百物語の語り手として現れたのが、
なんとも粋で、鯔背(いなせ)なご老人。
話は、この老人がまだ少年の頃の不思議なというか少し恐い話なのですが、
この老人が話すとちょっとユーモラスですらある。

富次郎は、この老人がすっかり気に入って、こんな風に年をとりたいなどと思うのです。
分かります。
私も本やテレビドラマに出てくるご高齢の女性を見て、
こんな風に年をとりたいなあ・・・と思うことが多いので。
でも考えてみたらもう十分に年をとっているはないか! 
手遅れなんだわ・・・。

まあ、それはともかく、あまりにも恨みやつらみが残った死者は、
成仏できずに魂がこの世をさまようことになるというような、
暗く悲しい一連のストーリーも、
この老人の話す威勢のよい結末に、救われる思いがするのです。

が、しかし。
この世は何もかもいいことばかりではないのですね。
終盤少し不穏な人物(?)らしきものが登場。
幸福と不幸は裏表。
そんな中をなんとか折り合いをつけながら生きていくのが、
おちかであり、富次郎であり、わたしたちであるわけです。

おめでたいばかりでは終わらせない、これぞ、著者の心意気。

図書館蔵書にて
「魂手形 三島屋変調百物語 七之続」宮部みゆき 角川書店

満足度★★★★☆