映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

宮本から君へ

2024年11月01日 | 映画(ま行)

熱血バカ

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新井英樹さんの人気コミックの実写映画化。

 

正義感が強く熱血まっしぐらなれど、生きることに超不器用な宮本浩(池松壮亮)。
そんな彼が、会社の先輩の仕事仲間である中野靖子(蒼井優)と恋仲になります。
ある日、靖子の部屋に招かれますが、
そこへやって来たのが靖子のモトカレ・裕二(井浦新)。
裕二は靖子が宮本と仲良くなっているのに怒り、靖子に手を上げてしまいます。
しかし、宮本は「この女は俺が守る!」と宣言。
そのことで靖子と宮本は心から結ばれたのでした。

そんなある時、宮本は仕事の取引先との飲み会に靖子を伴います。
その取引相手は完璧に体育会系的な面々。
言うことがすべてセクハラ、パワハラっぽいのですが、
靖子は軽くいなして見せます。
そしてその中の1人の息子タクマと親しくなり、
その後、靖子の部屋に宮本とタクマがやって来ます。
そして宮本は酔い潰れてグッスリ寝入ってしまい・・・。

なんともイヤな事件が起きます。

「俺が守る!」と宣言しておきながら、何もできなかった宮本。
傷つき打ちひしがれてしまう靖子。

タクマは恐ろしくガタイがよくて、
まともに向き合ってもとても宮本に分がありそうに思えません。
けれど宮本には火がついてしまう。
思い込んだら命がけ。
熱血バカ。

池松壮亮さんのこういう役って、めずらしいのではないでしょうか。
でも、こんなバカみたいにまっすぐなヤツ、嫌いじゃないですね。
ホントに、バカな人・・・と思いつつ、振り切れない女心も分るなあ・・・。

WOWOW視聴にて

「宮本から君へ」

2019年/日本/129分

監督:真利子哲也

原作:新井英樹

出演:池松壮亮、蒼井優、井浦新、一ノ瀬ワタル、柄本時生、ピエール瀧

 

暴力度★★★★★

単純バカ度★★★★☆

満足度★★★.5

 


まる

2024年10月22日 | 映画(ま行)

誰が描いても同じ?

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荻上直子さん監督作品は多分ほとんど見ているので、本作もその流れで見ました。
もちろん、主演が堂本剛さんというのも大きなポイント。

美大を卒業したもののアートで成功できず、
人気現代芸術家のアシスタントとして働く沢田(堂本剛)。
とうに夢も希望も忘れはて、言われたことを淡々とこなすだけの日々を送っています。
ある日、自転車の事故で腕に怪我をした沢田は、あっさりと職を失うことに。

やむなくコンビニでバイトを始めた沢田。
ある日、部屋に帰ると床に一匹の蟻がいて、その蟻に導かれるようにして思わず描いた○。
とにかくお金になれば良いと、骨董品屋で適当に「○」にサインを入れた絵(?)を売ったのですが、
それが知らぬ間にSNSで拡散。
沢田は本人の預かり知らぬ間に、正体不明の「さわだ」として、
一躍有名人になっていたのでした。

そんなところに、沢田のことを探し当てた者が訪ねて来て、
一枚100万円で買うので、もっと○を描いてほしいと言います。
さてところが、そう言われて意識すると、あの時のような○が描けない・・・。

どんどんユニークな展開になっていきます。

沢田の○は一人歩きして、平和の象徴だとか、無我の境地だとか、
有識者が適当なことを言うのでさらに箔がついていく。

芸術の評価なんてそんなものかも知れません。
でも確かに、蟻の歩みにつられてまったく無心に描いた○は、
何やら美しいのですよね。

芸術の本質に迫りながらも、そう重くはない。
さらりと軽く見られるところが魅力です。

さて、そこに沢田の隣室の住人登場。
こちらは漫画家を目指す横山(綾野剛)ですが、完全にいかれたヤツ。
それを綾野剛さんがやるからもう、これは無敵です。
この2人のやりとりを永遠に見ていたくなります。

あと、沢田の元同僚、格差社会にもの申そうという矢島(吉岡里帆)、
正体不明の謎のおじさん(柄本明)、
コンビニの先輩バイトくん(森崎ウィン)等々、
ユニークな人物が登場。

沢田と特別親しくなるというほどでもないのだけれど、
いろいろな考え方を示唆する大事な人々。
人と仲良くしようと努めているわけでもないのに、
決して孤独ではない沢田の生活環境がなんか良いなあと思います。
そして、そんな中で生きる方向性を見出していく、というのもまた、よきかな。

私は好きです。こういうの。

<TOHOシネマズ札幌にて>

「まる」

2024年/日本/117分

監督・脚本:荻上直子

出演:堂本剛、綾野剛、吉岡里帆、森崎ウィン、戸塚純貴、吉田鋼太郎、柄本明

不可思議度★★★☆☆

芸術を考える度★★★★☆

満足度★★★★★


窓ぎわのトットちゃん

2024年10月11日 | 映画(ま行)

こんな時代にもあった、個性を尊重する教育

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黒柳徹子さんが自身の子供時代を綴った往年のベストセラー
「窓ぎわのトットちゃん」のアニメーション映画化です。

好奇心旺盛でお話好きな小学生1年のトットちゃん。
あまりにも落ち着きがなくて教師の手に負えないということで、
学校を退学させられてしまいます。
そこで、東京、自由が丘にあるトモエ学園に通うことに。

トモエ学園は、小林校長先生の元、子どもの自主性を大切にする教育を展開しています。
何より、教室が廃車となった電車というのがトットちゃんは大いに気に入って、
毎日元気に通い始め、そこでのびのびと成長していきます。

今なら、トットちゃんは発達障害のナントカという症状名を付けられていたかも知れません。
けれどここでは「ちょっと変わった子ども」。

トモエ学園は、他にも事情のある子どもたちも多く、
それぞれの個性を尊重して1人1人の興味ややりたいことに意義を認めてくれるのです。
こういう校風が、子どもたちの間でも互いの個性を認め、
尊重し合い助け合うことにつながっていくのでしょう。

トットちゃんのお父さんは、オーケストラのコンサートマスター。
一般的な親ならば、トットちゃんのような子どもに対して、
叱ったり諫めたりするかも知れません。

けれどもここの両親もまた、子どもの個性を大切に思い尊重するという人たち。
学校がトットちゃんを受け入れられないのなら、
受け入れてくれる学校を探しましょう、ということですね。

そしてトットちゃんもいつまでもただの落ち着きのない子どもではなくて、
命のこととか大人の世界の事情とか、少しずつ学んで成長していきます。

しかし、時代は次第に軍国主義の波に飲み込まれていきます・・・。
トットちゃんのお父さんにとっても理不尽につらいことが・・・。

今、改めてアニメ化というのにも意義のある作品だと思います。

<WOWOW視聴にて>

「窓ぎわのトットちゃん」

2023年/日本/114分

監督:八鍬新之介

原作:黒柳徹子

出演(声):大野りりあな、小栗旬、杏、滝沢カレン、役所広司

教育のあり方を考える度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


森の中のレストラン

2024年10月09日 | 映画(ま行)

食べることは生きることとつながってほしい

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森の中で自殺を図ろうとしていて、しかし失敗した、恭一。
そんなところを、猟師の欣二に助けられます。

数年後、恭一は欣二が所有する森の奥のレストランを、任されていました。
元々恭一はフレンチの名店で腕を磨いたシェフだったのです。
この森の奥のレストランの料理は評判を呼び、遠方からの客も多い。
でもその一方、このレストランは森で命を絶とうとするものが
「最後の晩餐」をする場所・・・というウワサも広まっていたのでした。

その通り、実は恭一は自殺志願者に、
その人が最後に食べたいと思う「最後の晩餐」を差し出し、
森に送り出していたのです。
特にその人を引き留めようともせずに。

それはつらさのあまり生きる意欲を失った人の気持ちが分りすぎるくらいに分るから・・・。
でももちろん、自分で思いとどまってやはり生きようと思うことを止める訳ではありません。

そんなある日、絶望を抱えた少女・沙耶が店にやって来ます。
恭一は何も聞かず、沙耶を店の手伝いに置くことにして、
そうするうちに双方生きる喜びを取り戻していく・・・。

 

 

実は恭一は娘を亡くしていて、
そのため生きる意欲をなくしてしまっていたのでした。

本来食べることは生きることと直結するもの。
だから、自殺志願者に一番食べたいものを提供することは、
死を助長することにはつながらないのではないかな・・・と、ちょっと思ってしまいました。
ということで、生きる意欲を取り戻すような、
そんなレストランになってくれればいいなと思う次第。

 

それにしても、沙耶が抱えた「絶望」が酷すぎました。
家庭の問題というのは、つまり密室状態で、外からはわかりにくいのですよね。

こんな状況を耐えるしかないという人々を救う場があってほしい・・・。
仮に逃げ出しても、生活が成り立たないから耐えるしかない、ということが多いのではないかな。
だから、とりあえず駆け込み寺みたいな、しばらく暮らすことのできる場があるといいな・・・。

と、本題ではなのかも知れませんが、考えてしまいました。

<Amazon prime videoにて>

「森の中のレストラン」

2022年/日本/92分

監督:泉原航一

脚本:幸田照吉

出演:船ヶ山哲、畑芽育、森永悠希、奥菜恵、小宮孝泰

家庭内暴力度★★★★★

満足度★★★☆☆


3つの鍵

2024年09月27日 | 映画(ま行)

扉の向こうには

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ローマの高級住宅地。
同じアパートに住む3つの家族の素顔を描きます。

これらの家族は、それぞれが顔見知り程度で、
各家庭の扉の向こうにある本当の顔は知りません。

こういう関係は、日本でもほとんど当たり前なのではないでしょうか。
顔を合わせば挨拶くらいはするけれど、
その人たちのこれまでのこと、家族のことなどにあまり関心を向けたことはありません。
でもそれぞれの扉の向こうには、確かにそれぞれの幸福や不幸の物語がある・・・。

3階に住むのはジョバンニとドーラ。
ジョバンニは裁判官で、妻ドーラは何をするにも夫の意見を仰ぎ、
自分1人では生きていけないと感じています。
ある時、息子アンドレアの運転する車が飲酒運転で建物に衝突し、
巻き込んだ一人の女性が亡くなってしまいます。
あきれ果てたジョバンニは息子を勘当。
妻には、自分と生活するか、息子と出ていくかどちらかを選べと迫ります。

2階に住むのは、妊婦モニカ。
その夜陣痛が始まり、夫は出張中のため、一人で病院へ向かいます。
夫は出張が多くて、ほとんど家にいることがないのです。
モニカは病院で無事女児を出産します。

1階に住むのは、ルーチョとサラ。
二人にはまだ幼い娘がいて、何かの時には向かいに住む老夫婦に娘を預けていました。
しかしどうもその夫の方は認知症になってきているらしいのです。
そしてある時、その老人とルーチョの娘が散歩に出たきり行方不明に・・・。
後に二人は無事発見されますが、
ルーチョは老人と娘の間に何かがあったのでは・・・?
と言う疑惑に駆られてしまいます。

本作は、その後この3家族の5年後と10年後が描かれていきます。

心の中の苦しい思いを誰にも言えず持ち続けたまま、流れていく年月。
端から見ればごく平穏な生活に見えていたかも知れません。
でも実のところは決してそうではない・・・。

現実の身の回りも、実はこんなものなのかも知れませんね・・・。

 

<Amazon prime videoにて>

「3つの鍵」

2021年/イタリア・フランス/119分

監督:ナンニ・モレッティ

原作:エシュコル・ネボ

出演:マルゲリータ・ブイ、リッカルド・スカマルチョ、アルバ・ロルバケル、
   アドリアーノ・ジャンニーニ、エレナ・リエッティ、アレッサンドロ・スペルドゥーティ、アンナ・ボナイウート

 

家族を考える度★★★★☆

満足度★★★★☆


ムーンロック・フォー・マンデー

2024年08月10日 | 映画(ま行)

逃亡のロードムービー

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少女マンデーは父と二人でシドニーに住んでいます。
マンデーは免疫にかかわる持病を持っていて、そのため学校には行かず、
元大学教授の父からホームスクーリングを受けています。
外に出るのは週に一度、病院に行く時だけ。

そんなマンデーは、ムーンロック(ウルル)が自分の病気を治してくれると信じていて、
いつかそこまで行ってみたいと願っています。

ある時病院帰りの電車で、タイラーという少年と出会ったマンデー。
実は、タイラーは宝石店強盗を犯して逃走中。
ちっとも乱暴そうには見えないタイラーに、マンデーは同行することにして、
二人でムーンロックへ向かう旅をすることに。
マンデーの父は、マンデーが少年に拉致されたと思い、
警察に連絡した上、すぐに追跡を始めますが・・・。

 

ということで、本作はこの少年少女のロードムービー。
お金も、食料もほとんどなし。
ほとんどが無人の広大な大地。
目指すのはあの、エアーズロック。
さすがオーストラリアならではの題材です。

 

さて、マンデーはとっさに旅に出てしまったわけで、
毎日欠かさずに飲まなければならない薬を持っていません。
その事情を知ったタイラーはなんとか薬局でその薬を得ようとしたりします。
でもその薬は副作用が強くて、マンデーはいつも具合が悪くなってしまうのです。
だから本当は薬を飲みたくはない。
たとえ命が長らえることができなくても、
自分で好きなところへ行く自由の方が大切だと思うようになっていくマンデー。

そういう考え方も確かにありますよね。
一度だけの人生は自分のもの・・・。
ただそれが50歳とか60歳くらいならともかく、
まだほんの少女であるというところが切ないです。

<Amazon prime videoにて>

「ムーンロック・フォー・マンデー」

2020年/オーストラリア/100分

監督・脚本:カート・マーティン

出演:アーロン・ジェフリー、カイ・リューインズ、クラレンス・ライアン、デヴィッド・フィールド、ジェシカ・ネイピア

ロードムービー度★★★★☆

満足度★★★☆☆


身代わり忠臣蔵

2024年08月03日 | 映画(ま行)

吉良上野介は死んでいた?

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私、本作の原作を読んでおりまして、
とても面白かったので、映画もぜひ見たいと思っていました。
脚本も、原作者である土橋章宏さんが書いていますので、原作のイメージを損なわず、
そしてムロツヨシさんという名優によってより一層楽しい作品になっています。

いつも自分より立場の弱いものに対して強権的で意地悪な旗本・吉良上野介(ムロツヨシ)。
その陰湿ないじめに耐えかねて、赤穂藩主が江戸城内で吉良に斬りかかります。
赤穂藩主・浅野内匠頭は、即、切腹。

 

斬られた吉良も、逃げ傷を負い瀕死の状態。
しかし、逃げて死んだとなれば、武士の恥。
お家取り潰しも免れ得ません。
そこで、上野介にそっくりな弟・孝証(ムロツヨシ)を身代わりに立て、
幕府を欺こうという前代未聞の作戦が立てられます。

孝証は、家督を継ぐでもないごく潰しとして家を追い出され、
住むところもない破戒僧となっていたのでしたが・・・。
そして、身代わりは一時のことだけと思っていたのに、
ついに兄・上野介が亡くなってしまったため、
そのままずっと身代わりを務めなければならなくなってしまいます。

そしてまた一方、お家取り潰しとなった赤穂藩の家老・大石内蔵助(永山瑛太)は、
配下たちが仇討ちをしようとはやるのを、なんとかなだめていたのですが・・・。

 

個性豊かな登場人物たちが、このへんてこな忠臣蔵を一層もり立てます。

本作の良いところは、孝証と内蔵助がとあるところで出会い、
密かに相談を巡らすようになるところ。
まあそのことで、いっそう私たちは結末が予測できなくなるわけですが・・・。

とにもかくにも「お家」のため、しきたりとかメンツとかにがんじがらめの、
武士とはなんともつらいものであります・・・。

打ち首ならとんでもない恥で、切腹なら名誉。
うーむ。
本人が納得するならそれでもいいか・・・?

 

原作「身代わり忠臣蔵」はこちら。

(もう少し詳しくあらすじに触れています。)

 

<Amazon prime videoにて>

「身代わり忠臣蔵」

2024年/日本/119分

監督:河合勇人

原作・脚本:土橋章宏

出演:ムロツヨシ、永山瑛太、川口春奈、林遣都、寛一郎、森崎ウィン、柄本明

 

ユーモア度★★★★☆

満足度★★★★☆


マルセル 靴を履いた小さな貝

2024年07月12日 | 映画(ま行)

おしゃべりな貝

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本作は、2010年~2014年にかけてYouTubeで順次公開し、
累計5000万回再生を記録した短編作品を長編映画化したもの。
ドキュメンタリー仕様で、ストップモーションアニメと実写を組み合わせています。

 

アマチュア映像作家のディーン(ディーン・フライシャー・キャンプ監督本人)は、
靴を履いた体調2.5センチのおしゃべりな貝、マルセルと出会います。

ディーンは、マルセルが語る人生に感銘を受け、
マルセルを追ったドキュメンタリーをYouTubeにアップします。

マルセルは以前は大勢の家族と暮らしていたのですが、
前の住人が引っ越してから、皆の姿が見えなくなってしまい、
取り残されたマルセルとおばあちゃん二人きりで暮らしているのです。
どうも他の家族は引っ越しの荷物に紛れていたのを、持って行かれたらしいのです。

YouTubeで評判となったマルセルは、なんとか家族の行方を探したいと思い、
テレビのインタビューを受けることにします。

・・・といったいきさつを描く、ドキュメンタリータッチの作品。

これはファンタジーというよりもほとんどポエム。

マルセルの日々を生きるための考え方やライフスタイルは、
時間をなくした都会人の胸を揺さぶります。

<Amazon prime videoにて>

「マルセル 靴を履いた小さな貝」

2021年/アメリカ/90分

監督・原案:ディーン・フライシャー・キャンプ

出演(声):ジェニー・スレイト、イザベラ・ロッセリーニ

出演:ディーン・フライシャー・キャンプ、レスリー・スタール

 

ポエム度★★★★☆

満足度★★★☆☆


湖の女たち

2024年05月28日 | 映画(ま行)

世界は美しいのだろうか

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滋賀県、琵琶湖にほど近い介護施設で、100歳の老人が何者かに殺害されます。

捜査に当たった西湖署の若手刑事・濱中(福士蒼汰)とベテラン刑事伊佐(浅野忠信)は、
施設関係者の中から容疑者・松本(財前直見)に狙いを付けて、
執拗に取り調べを行います。

そんな中、濱中は捜査で出会った介護士・豊田佳代(松本まりか)に対して、
ゆがんだ支配欲を抱くように・・・。

また一方、事件を追う週刊誌記者・池田(福地桃子)は、
署が隠蔽してきた薬害事件を追い始めます。

本作、旧満州での731部隊のこと、薬害エイズ事件、人工呼吸器事件、障害者施設殺傷事件など
過去実際にあった事件のこと、そしてほとんど警察の故意と思える冤罪のことを絡めつつ
描かれていますが、なんといってもショッキングなのは濱中と佳代の関係。

 

それはまず冒頭で指し示されるのですが、夜明け前の早朝、
濱中は湖に釣りに出かけ、
佳代は勤務の合間に湖畔へ出て車の中で自慰を始めるのです。
それを濱中が見てしまう。

次に会うのは、施設の殺人事件の関係者への聞き取りの時。
濱中は豊田をあの時の女だとすぐに気づき、
その後、密かに彼女を呼び出してはやたら高圧的な態度に出るのです。

警察官としては普通に正義感も持つ濱中。
どうも松本は犯人とは思えないのですが、
先輩の伊佐は、ただ誰でも良いから犯人を上げたいと思っており(つまりそれが警察の総意)、
それに躊躇する濱中を罵倒する有様・・・。
濱中のどうにもならない上下関係のストレスの矛先は、佳代に向けられます。

不毛でアブノーマルな2人の行為。
しかし佳代はそれで燃えている・・・。

いやあ・・・息をのんでしまいます。
こんなダークな福士蒼汰さんを見たことがないし、
松本まりかさんは「向こうの果て」というドラマですごいとは思っていましたが、
こんな役までもこなしてしまうなんて・・・!

そしてまた、この本筋の殺人事件とは少し離れた場にいるように思われた
週刊誌記者の所から真相が浮かび上がってくるのも、見事でした。

作中で「世界は美しいのだろうか」という問いが何度か投げかけられます。

どこもかしこもイヤな事件だらけ。
美しいものなんかどこにもないと思いたくなるけれど・・・
でも不思議と視聴後感はそんなに悪くない。
したたかに生きようとする湖の女たちは、
琵琶湖の夜明けに馴染んで十分に美しいかも・・・。

 

<TOHOシネマズ札幌にて>

「湖の女たち」

2024年/日本/141分

監督・脚本:大森立嗣

原作:吉田修一

出演:福士蒼汰、松本まりか、福地桃子、浅野忠信、財前直見

 

アブノーマル度★★★★☆

満足度★★★★☆


マッチング

2024年02月26日 | 映画(ま行)

二転三転する人物像

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本作、Snow Manのさっくんが狂気のストーカー役という
情報が出てから、公開の日までがすごーく長くて、
まさしく待ちわびていました。

 

ウェディングプランナーの輪子(土屋太鳳)は、恋愛に奥手で、
友人に勧められてマッチングアプリに登録します。
そしてマッチングした相手・叶夢(佐久間大介)と実際に会ってみると、
意外に暗くてちょっと不気味ですらあります。
それで、この人とはムリと思うのですが、
しかしその後叶夢はストーカーと化してまとわりつき始めます。
恐怖を感じた輪子は、取引先のマッチングアプリ運営会社のプログラマー、
影山(金子ノブアキ)に助けを求めます。

またその頃、世間ではアプリ婚した夫婦が惨殺されるという連続事件が起こっていて・・・。

さてさて叶夢は、初デートの水族館に、黒いコートになぜかゴム長靴、
そして死んだ魚のような目をして現れます。
実は彼の職業が、特種清掃・・・ということで、
つまり孤独死などで汚れた部屋の清掃をする仕事・・・で、
ゴム長は彼の仕事着であり普段着でもあるという・・・。

まあいきなり初デートでそんな仕事のことは言わないでしょうけれど、
この暗さはさすがに輪子でなくても引きますわねえ・・・。

 

しかし、この絶対に怪しい叶夢の印象が、
ストーリーの進行と共に少しずつ変わっていくのです。

まさに、本作の面白さはそこにあって、
人物像が二転三転、え?なに??なに???と思っているうちに
結末にたどり着くという、ナイスな物語なのでした。

実は輪子の父親(杉本哲太)が抱えている秘密というのが
大きな根っこになっているのです。

人の心の残酷さに震えます・・・。

 

結局、さっくんはこんな役でありつつ、そして死んだ目をしていつつも、
やっぱりカッコ良かったのです。
ラスト、お見逃しなく。

でも本作は別にSnow Manや佐久間くんのファンでなくても
十分楽しめると思いますので、オススメです。
残虐シーンも思ったほどどぎつくはないので・・・。

 

 

<シネマフロンティアにて>

「マッチング」

2024年/日本/110分

監督:内田英治

原作:内田英治

脚本:内田英治、宍戸英紀

出演:土屋太鳳、佐久間大介、金子ノブアキ、杉本哲太、片岡礼子、斉藤由貴

 

不気味度★★★★☆

人物関係入れ替わり度★★★★★

満足度★★★★☆


ムービング・オン 2人の殺人計画!?

2024年02月05日 | 映画(ま行)

過去のトラウマに立ち向かうために

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クレア(ジェーン・フォンダ)は、学生時代からの親友の葬儀に出向きました。
彼女はそこで、亡き親友の夫・ハワード(マルコム・マクダウェル)に対して、
いきなり殺人予告をします。
それほどにクレアは彼を憎んでいたのです。

そしてまたクレアは、その葬儀の場でもうひとりの親友、エヴリン(リリー・トムリン)と再会します。
エヴリンもまた別の理由でハワードを憎んでいて、
クレアの殺人計画に協力することに。

ふたりは、再び自分の人生を取り戻すため、
トラウマや過去の秘密に向き合っていきます・・・。

愛と性。
同性愛や、性加害、性の多様性。
クレアたちが若かった約50年ほど前と現在の考え方の違いが
テーマとなっていると言っていいと思います。

クレアはハワードのある行為によって、深く傷つき、
当時の結婚生活も捨てなければならなかった。
その後、それは大きなトラウマとなって、心からの幸福を感じたことがない。
しかし、その妻である親友を傷つけたくなかったので、
ひたすら沈黙を守り続けていたのです。

そんなクレアの気も知らずに、ハワードは過去のことを「互いに同意の上の過ち」などという。
これですよこれ。
性加害の認識の違いというもの。

確かに今はそういうことについて、マスコミなどいろいろな場面で言われていて、
被害者側も声を上げることが増えている。
でも実態としては、個々のその捉え方は旧態依然として昔と変わらないですね。

そうした事情は、日本もアメリカも同じのようです。

加害者側では過去の取るに足りない出来事、
場合によっては武勇伝とさえ思うような出来事が、
被害者側にとっては一生の心の傷となってその後の人生にも影を落とす。

だから、軽く扱ってはなりません。

 

<Amazon prime videoにて>

「ムービング・オン 2人の殺人計画!?」

2022年/アメリカ/85分

監督・脚本:ポール・ワイツ

出演:ジェーン・フォンダ、リリー・トムリン、マルコム・マクダウェル、
   サラ・バーンズ、リチャード・ラウンドトゥリー、キャサリン・デント

 

性の問題度★★★★★

満足度★★★★☆

 


百瀬、こっちを向いて。

2024年01月22日 | 映画(ま行)

恋愛か、打算か

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新人文学賞を受賞し、母校から講演を依頼された30歳の小説家、相原ノボル(向井理)。
15年ぶりに帰郷し、高校生当時のことを回想します。

さえない高校生だったノボル(竹内太郞)。
尊敬する先輩、宮崎(工藤阿須加)から、
ショートヘアの美少女・百瀬(早見あかり)を紹介されます。

宮崎には学校のマドンナ的存在の神林(石橋杏奈)という交際相手がいるのですが、
百瀬と付き合っているといううわさが流れて困っていました。
そこでそのうわさを打ち消すために、
ノボルと百瀬に期間限定で付き合っているフリをしてほしいというのです。
ノボルは気が進まないながらも、嘘の恋愛関係を始めますが・・・。

実は百瀬は本当に宮崎のことが好きで、
でも宮崎の幸福を願う彼女は宮崎と神林のことも応援してしまうという、
なかなか複雑で切ない事情を抱えているのでした・・・。

 

さて、本作の原作者・中田永一さんというのは、乙一さんの別名なんですね!!
私はミステリ好きなので乙一さんならばわかるのですが、
別名で恋愛小説を書いていたなんて、この度まで知りませんでした。
お恥ずかしい。

でもなるほど、始め単にアイドル作品と思ってみていたのですが、
微妙に複雑でこじれた百瀬の感情が、単なるアイドル作品を越えていると思いました。
そこで原作が乙一さんと来ればなるほど~と、納得です。

宮崎は結局のところ本当は百瀬の方を好きのように思えます。
けれど、まだ高校生でありながら、彼は打算の方を優先するのです。

でも、対する神林も、学校のマドンナ的存在というだけあって美人で頭もよく、
思いやりがあって家も資産家。
否定すべき理由など一つもない。
打算なのか、選べないのか、これもまた微妙なところです。

しかし、本作の15年ぶりに帰郷しノボルが神林と再会するというところの意味が、
最後にわかるというのが心憎い。

ひたすら心優しく無垢であったような神林が実は・・・というところもまた
本作のキモでありましょう。
げに、人の心というのは計り知れず、少し恐い。

ノボルの高校の友人くんはイイ奴だったなあ・・・。

 

 

「百瀬、こっちを向いて。」

2014年/日本/109分

監督:耶雲哉治

原作:中田永一

出演:早見あかり、竹内太郞、石橋杏奈、工藤阿須加、ひろみ、向井理

恋愛と本心の微妙度★★★★★

満足度★★★★☆


見えざる手のある風景

2024年01月20日 | 映画(ま行)

エイリアンをある「人種」に置き換えれば、ありそうな未来

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一風変わった近未来SF。

 

近未来の地球。
あるエイリアンの種族に占領されています。
武力ではなく、官僚主義的支配と高度なテクノロジーによって、
彼らは圧倒的な経済力を持ってこの世を支配。
地球の人々の大半が貧困と失業にあえいでいます。

そんな中、二人のティーンエイジャーがあることを思いつきます。
単性生殖のエイリアンに、人間のロマンチックな愛の姿を提供しようというのです。
二人が恋に落ちてゆく様子をリアルタイムで中継を始めます。
そうすると見た人の人数によりお金が入る仕組みなのです。
二人の狙いどおり、エイリアンの間でバズって
二人は多少のお金を得ることができます。

ところが、そもそもリアルタイムの中継というのには抵抗があります。
元々二人には良い雰囲気が流れていたのですが、次第に初々しい気持ちも冷めていって、
その様子を見たあるエイリアンが、
これは契約違反だと言って多大な賠償金を請求しようとするのです・・・。

 

 

このエイリアンというのがいかにもユニークな姿をしていまして・・・。
彼らはヘラのような手をこすり合わせることによって音を出し、
それが言語なのです。

知性も感情も地球人とよく似ているけれど、何しろビジネスライクで、
瞬く間に地球上の富を支配するようになって、
彼らにうまく取り入って彼らの元で働くようになった人々が成功者。
空中に浮くリッチな街に住むステータスを得ます。

大半の落ちこぼれた人々は、
地上にへばりついて惨めな生活を続けるしかない・・・。

と、つまりこれはSFチックに描かれているけれど、
すでにこの地球上にある「経済格差」のことを例えて描いているに過ぎない
ということに、どなたも気づくことでしょう。

 

結局主人公らは、このエイリアンを追い払うことも世界をひっくり返すこともできないけれど、
でも心の自由は誰にも奪うことはできない、と。

まあ、せめてそう思うほかないですかね・・・。

 

<Amazonプライムビデオにて>

「見えざる手のある風景」

2023年/アメリカ/105分

監督・脚本、コリー・フィンリー

原作:M・T・アンダーソン

出演:アサンテ・ブラック、ティファニー・ハディッシュ、カイリー・ロジャーズ、ブルックリン・マッケンジー

 

格差度★★★★★

ユニークなエイリアン像度★★★★★

満足度★★★☆☆


名探偵ポアロ ベネチアの亡霊

2023年09月22日 | 映画(ま行)

嵐のベネチアの夜

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ケネス・ブラナーが監督・制作・主演を務める名探偵ポアロシリーズ。
「オリエント急行殺人事件」、「ナイル殺人事件」に継ぐ第3作で、
今回はイタリアのベネチアが舞台です。

もう探偵は引退しようと思っていたポアロは、ベネチアに滞在しています。
ある日、死者の声を話すことができるという霊媒師のトリックを見破るため、
子供の亡霊が出るという謎めいた屋敷で行われる降霊会に参加することに。

嵐のその夜、集まった者の1人が非常に不可解な状況で殺害されるという事件が起こり、
ポアロがその謎の事件の真相究明に挑みます。

もとより古い陰気な屋敷。
その屋敷ではかつて陰惨なできごとがあったといううわさ。
嵐の夜。
ということで、前2作とは雰囲気が異なり、終始陰鬱。
ときおり鳴り響く大きな音にドキッとさせられます。

幽霊などという非論理的なものを信じないポアロではありますが、
どうもここでは勝手が違って、
不可思議なモノが見えてしまったり聞こえてしまったりする・・・。
実はそのことには理由があったワケなのですが。

ベネチアといえば穏やかな水辺を連想してしまうのですが、
確かに、こんな嵐の日だってあるわけですね。
しかも歴史ある町、建物。
その暗がりに何が潜んでいてもおかしくないような・・・。

時期は第二次世界大戦が終わった数年後というところ。
その影も、この物語には落ちていて、
この雰囲気だけで、私は十分楽しめた気がします。

まあやっぱり、恐いのは幽霊よりも人ですね。

 

<シネマフロンティアにて>

「名探偵ポアロ ベネチアの亡霊」

2023年/アメリカ/103分

監督:ケネス・ブラナー

原作:アガサ・クリスティ

出演:ケネス・ブラナー、カイル・アレン、カミーユ・コッタン、ジェイミー・ドーナン、ティナ・フェイ

 

陰鬱度★★★★★

満足度★★★.5


ミステリと言う勿れ

2023年09月19日 | 映画(ま行)

血塗られた狩集家の秘密とは?

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人気漫画を実写化したテレビドラマの劇場版。
人気のエピソード「広島編」です。
私は原作漫画もテレビドラマも大好きで、
かねてから「広島編」は映画向きと思っていたので、
公開を首を長くして待っていました!

広島の名家、狩集(かりあつまり)家を巡る遺産相続事件の顛末です。

広島の美術館を訪れるため広島へやって来た整(ととのう)くん(菅田将暉)が、
ガロくんの知人であると言う女子高生・狩集汐路(しおじ)と出会い、
あるバイトを持ちかけられます。

それというのは、狩集家の莫大な財産を、当主の孫に当たる4人の誰かが相続するために、
遺言書に従って謎を解いていく、その手助けをしてほしいというのです。
時には死者さえ出るというこの家の遺産相続に隠された衝撃の真実とは・・・!?

ということで、広島、旧家、遺産相続。
整くんも思わずつぶやいてしまうのですが「犬神家の一族」めいた、
おどろおどろしさを予感します。

けれど、時代は現在。
若い人が多く登場する本作、物語は軽快に進んでいくのですが、
この狩集家自体に隠された秘密が解き明かされるにつれて、
実際、おどろおどろしい状況が見えてくるのでした。

本作の秘密の一つが、狩集家の人々の髪の毛。
直毛のさらさらヘアの人と天然パーマでくるくる髪の人がいます。
天パがコンプレックスの整くんだからこそ気がついた視点。
そんなところがまた面白い。
ストレートパーマをかけているが実は天パという役柄の
町田啓太さんのくるくる巻き毛も見たかったな・・・。

他人の家に泊まるのもお風呂に入るのも嫌いという整くんに
「めんどくさいな」とはっきり言う汐路ちゃんの
サバサバした性格(でも実はナイーブ)も可愛くて大好き。

 

また、遺産相続候補の4人の配役というのが豪華でステキです。
町田啓太さん、萩原利久さん、柴咲コウさん、そして汐路役の原菜乃華さん。
そしてこの家の顧問弁護士に松下洸平さん。
この役は特に重要なので、この配役には納得。

ときおり挟まる整くんの蘊蓄も健在。
ここはなくてもいいと思う人がいるかも知れませんが、
これこそが整くんなので、これがなければタダの推理ドラマ。
推理ドラマの枠を越えた本作を、じっくり向き合って楽しんでもらいたいです。

整くんが広島を去るときに、いつものマフラーではない!
衣装あわせのミスか?などと思ってしまったのですが
その理由は、エンドロール後に分かるという仕組みになっていますので、
どうぞ最後の最後までご覧ください。

 

次作は、「富山編」で。
よろしくお願いします!!

 

<シネマフロンティアにて>

「ミステリと言う勿れ」

2023年/日本/128分

監督:松山博昭

原作:田村由美

脚本:相沢友子

出演:菅田将暉、原菜乃華、町田啓太、萩原利久、鈴木保奈美、松下洸平、柴咲コウ、滝藤賢一

ミステリ度★★★★★

蘊蓄度★★★★★

満足度★★★★★