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映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ラ・ラ・ランド

2017年02月27日 | 映画(ら行)
切なさに浸る



* * * * * * * * * *

本作、「アカデミー賞、作品賞受賞おめでと~!」
というタイミングで、本日の投稿としたかったのですが、
残念でした・・・!!
なんですかねえ、アカデミー賞はやっぱり社会性がないとダメなのでしょうか。
エンタテイメントだっていいじゃないか!!と私は思うのですが。
なんだか賞の権威付けみたいな意図を感じていや~な感じ。
あ、もちろんムーンライトも素晴らしい作品なのだろうと思い、
期待もしていますが。


さてさて、この日、私は「ナイスガイズ!」と本作の2本立て。
ライアン・ゴズリングの2連発。
やはり勢いにノッている俳優というのはあるのかもしれません。
アクションでも、ピアノでもダンスでも、ぴたりと決まってしまう。
カッコイイですね。
ちなみに私は「ドライヴ」以来のライアン・ゴズリングファンであります。



ミュージカルにはアレルギー反応を起こす方もいるけれど、
私はキライではありません。
特に本作は、ストーリーから音楽への入り方がとても自然なので、
苦手な方でも馴染みやすいと思います。



まずは冒頭シーン。
渋滞しているロサンゼルスの高速道路。
車を降りた人々の歌とダンスが突然に始まるのですが、
なんとも意表をついてカッコイイ!! 
物語の始まりのワクワク感を煽ります。
さて、その渋滞した道路で、女優志望のミア(エマ・ストーン)と、
売れないジャズピアニスト・セバスチャン(ライアン・ゴズリング)が、最悪の出会いをします。
2度めの出会いは、素敵なピアノの音色に誘われてレストランに足を踏み入れたミアが、
あの感じ悪い男がそのピアノを弾いているのを目にした時。
でもタイミングが悪くて、ミアは言葉をかけそびれてしまいます。
そして3度めの出会い。
そもそもこの広いロスでこんなに何度も偶然に出会うのは、
それだけでもう奇跡ですけれど・・・。
あるパーティで、ミアは
不機嫌に80年代ポップスを演奏しているセブ(セバスチャンの愛称、この呼び方のほうがいい!!)と再会。
ようやくまともに話をした二人。
女優になりたいミアと、ジャズの店を持って自分の好きな演奏をしたいセブ。
それぞれの夢を持つ二人の心が接近していきます。
・・・が、幸福の絶頂の後には、お定まり、心のすれ違いが・・・
ということで、ストーリーはとてもオーソドックスなラブストーリー。



街を見下ろす夕景のダンス。
プラネタリウムの星々の合間に浮かんでのダンス。
ロマンチックで美しい映像が心に染み渡ります。
本作、スマホも出てくるれっきとした現代の物語なのですが、
何故か一時代前のもののようなノスタルジーを感じます。
なぜかと思うに、音楽がロックじゃない!!
基調はジャズなんですね。
作中ではもうジャズは廃れているなどと言われています。
そこを大事に思うセブだから・・・こういう感じ。


このようにあったのかもしれない人生・・・、
ラストシーンはひたすらに切なく、浸りきってしまうのでした。



ピアノを3ヶ月間一心不乱に練習したというライアン・ゴズリング。
ピアノを弾く手元のシーンまでも一切差し替えなしとのことですが、
本当に素晴らしかった。
今度はIMAXシアターの巨大スクリーンでもう一度見に行こうかなあ・・・
などと思っています。



「ラ・ラ・ランド」
2016年/アメリカ/128分
監督:デイミアン・チャゼル
出演:ライアン・ゴズリング、エマ・ストーン、キャリー・ヘルナンデス、ジェシカ・ローゼンバーグ、ソノヤ・マズノ
切ないラブストーリー度★★★★★
満足度★★★★★

王様のためのホログラム

2017年02月26日 | 映画(あ行)
異文化交流もまずは個人から



* * * * * * * * * *

大手自転車メーカーの取締役だったアラン・クレイ(トム・ハンクス)は、
業績悪化の責任を問われて会社を解任されます。
家も財産も全て無くして妻とは離婚。
しかしなんとか娘の学費くらいは稼がなければと、
IT業界に転職し、3Dホログラムを売るためにサウジアラビアへ出かけます。
しかし、現地のオフィスは砂漠のテント。
Wi-Fiも繋がらず、国王どころか、担当者にも会えない。
全くの異文化の中でアランの悪戦苦闘が始まります。



このようなところでセールスをしようとするのは実際大変そうですが、
何もアランに限ったことではない。
日本の商社だって、きっと同じような体験を経ながら頑張ったのだろうなあ・・・。
でもここがトム・ハンクスなので、
最大ピンチながら、どこかユーモアが漂うのにホッとします。
さてこの砂漠の地で、アランの背中には大きなコブができています。
腫瘍なのですが、やってもやってもうまくいかない「悪しきこと」の象徴のようなものですね。
あるいはストレスとか・・・。
が、そのため病院に行って、彼の地では珍しい女医さんに出会うことで
彼の下降一直線の運が変わっていきます。



また、アランをホテルから事務所まで送り届ける車の運転手であるユセフとの関係もいいですね。
本当はバスを使えばいいのだけれど、
いつも寝坊して、彼に送ってもらうことになるのです。
このユセフや女医のハンナはいわば異文化の架け橋です。
いきなり見知らぬ「文化」と親しもうとしても、できるものではない。
けれど、こうした一人ひとりの個人と会話をし、親しみを感じ理解をすることで、
そのバックボーンの文化もわかってくる、そういうことなのでしょう。



ところで、アランの前職での失敗の原因は、自転車の生産工場を中国に作ったこと。
アランの父親さえもが「中国なんかに工場を作るから悪いんだ」と言っていました。
この人は絶対にトランプ支持だな、と私は思ったのでした!



「王様のためのホログラム」
2016年/アメリカ/98分
監督:トム・ティクバ
出演:トム・ハンクス、アレクサンダー・ブラック、サリタ・チョウドリー、シセ・バベット・クヌッセン、ベン・ウィショー
異文化コミュニケーション度★★★★☆
満足度★★★☆☆

サヨナラの代わりに

2017年02月25日 | 映画(さ行)
最期の時の選択



* * * * * * * * * *

弁護士の夫と気の合う友人たちに囲まれ、
順風満帆の生活を送っていた35歳ケイト(ヒラリー・スワンク)。
しかし、そんなある日、筋萎縮性側索硬化症(ALS)を発症してしまいます。
その一年半後、ケイトは車椅子の生活となり、もうほとんど手も動きません。
介護人を幾人も替えた後、
ケイトは夫の反対を押し切り、ベックという女子大生を雇います。
彼女は介護にはド素人で、家事も料理もまるでダメ。
いかにもハスッパで言葉遣いもなっていません。
けれどケイトは自分を病人扱いし過ぎる介護人は嫌だったのです。



ここのところ、映画「最強のふたり」に通じるものがありますね。
ケイトがほしいのは同情ではなく、フランクに話し合える友人。
ある時、ケイトは夫の浮気を知ってしまいます。
耐えきれず、家出をベックに手伝ってもらう。
そんなときから、二人の間に友情が芽生え始めます。
夫は家を出て、ケイトを一人にしておくのが心配のあまり、ベックは住み込みになり、
学校すらもやめてしまうのですが・・・。



ALSはついには自力で呼吸する力すらも失ってしまう恐ろしい病です。
多くは人工呼吸器や経管栄養等多くの管につながれ、
寝たきりで最後を迎えることになりますが、
ケイトはそういう死に方を良しとは思っていない。



あ~、ありましたよね、同じくヒラリー・スワンク「ミリオン・ダラー・ベイビー」。
あの時の彼女の決断に近い。
それでなくとも近頃の人生の終焉の迎え方について、こういう作品は多いです。
自らの尊厳を保つため、ムリな延命はしない。
潔く最後を迎えたいと思い、それを実現する話。
私も常々そう思ってはいます。
でもだからといって、最後の最後まで、何にすがっても生きていたい、生き続けたいという思いを
否定してはいけないのだろうな、とも思います。
それは人それぞれだし、家族の思いもありますよね。



・・・というような堂々巡りの思いをいつも繰り返し、
結局思うのはやはり、ピンピンコロリで逝きたいなあ・・・と。
夫役のジョシュ・ディアメル、いいなあ~。
結構タイプです(^^)


本作の原題はYou’re Not You
うーん、あなたは、体も動かず自分では何もできないかもしれないけれど、
でも、本当のあなたはその存在のみで輝いている・・・そんな感じでしょうか。
それとも、あなたはあなた一人だけのものじゃなくて、みんなの支えである・・・とか?
多分作中にそんなセリフがあったのだろうと思うのですが、
どこで出た言葉なのやら、見逃しました。
でもまあ、このまま邦題にするのはちょっと難しいかな。
とは言え、「サヨナラの代わりに」も、ないでしょう。
全くインパクトがなくて、どんな内容の作品なのか、全くピンとこない。
…題名も難しいですね。

サヨナラの代わりに [DVD]
ヒラリー・スワンク,エミー・ロッサム,ジョシュ・デュアメル,ロレッタ・ディヴァイン
ポニーキャニオン


「サヨナラの代わりに」
2014年/アメリカ/102分
監督:ジョージ・C・ウルフ
出演:ヒラリー・スワンク、エミー・ロッサム、ジョシュ・ディアメル、ジェイソン・リッター、ロレッタ・デバイン、マーシャ・ゲイ・ハーデン

終末を考える度★★★★☆
満足度★★★.5

「拳の先」角田光代

2017年02月23日 | 本(その他)
何度でも逃げたっていい

拳の先
角田 光代
文藝春秋


* * * * * * * * * *

文芸編集者として忙しい日々を過ごす那波田空也は、
あるきっかけで再びボクシングとの距離を縮める。
初めての恋人・つた絵の存在、
ジムに通う小学生ノンちゃんの抱える闇、
トレーナー有田が振りまく無意識の悪意、
脅威の新人選手・岸本修斗。
リングという圧倒的空間に熱狂と感動を描ききる!
傑作長編小説。


* * * * * * * * * *

角田光代さんがボクシングをテーマに、ということで意外に思ったのですが、
著者自身もボクシングジムに通っているということなので、納得です。
私はいきなり本作から読んでしまったのですが、
これに先駆けて「空の拳」という作品があり、
同じシリーズモノなので、そちらから読むべきだったのかも、です。
でも、こちらだけ読んでも全く問題なく独立した作品になっています。


出版社に勤める空也は以前ボクシングの専門誌の担当となったため、
それまで全く馴染みのなかったボクシングの世界を知ることになったわけです
(おそらくここの下りが前作で描かれている)。
しかしその後文芸部に配置となり、しばらくボクシングから遠ざかっていた。
本作ではあるきっかけから、空也が再びボクシングと深く関わるようになります。
本巻では彼自身はボクシングはしないのですが、友人のボクサー、タイガー立花を見つめていきます。
立花は、新進気鋭の岸本修斗との試合に無様な負け方をし、負傷もしました。
立花はその後あえて階級を落とし再起を図りますが、
以前のような生彩を彼に感じられないことを空也は危ぶみます。
そしてまた、立花と同じジムに通うノンちゃんという少年が
学校でいじめを受けていることに気づき、心を痛めるのです。


口から出る言葉は、なんと虚しく宙にさまようのか。
立花に様子を問えば「全然問題ない、絶好調」と言うし、
ノンちゃんに聞けば「何も起こっていない、平気」という。
全て自分の杞憂で、本当になんでもないのだと空也は思おうとします。
というよりもそう信じたい。
けれど、不安は拭えない。
でも無理やり本人の口をこじ開けることなんかできませんね。
でも、学校時代は友人もいなくて、常に孤立、
本だけが友人だったという空也だからできる寄り添い方はあるのです。
時々会って、飲みながら、あるいは食べながら、話をする。
それだけです。
けれどいつしか、彼らは本音を語り始めます。


「対戦相手が怖いのではない。
馬鹿でかい恐怖、言葉にならない渦のようなもの、
人、技、力そんなものをはるかに超えた理解不能なものが拳の先にあるのだ」

と立花はいう。
そのようなものに取り込まれないように、「逃げる」のだと。
このことはイジメを受けるノンちゃんにも通じるのです。
確かに嫌がらせをする特定の子はいる。
でもノンちゃんが本当に怖いのはその子じゃなくて、
その奥にあるもっと理解不能の恐怖なのではないか。
だから、そこから逃げたっていいんだ。
逃げるのは卑怯じゃない。
新たな自分の納得できる居場所が見つかるまで、何度でも逃げたっていい。
ただし、大事なのはただ逃げるのではなく
逃げるために戦う、
自分は何から逃げるのかしっかり自覚して
新たな方向をしっかり見つめること・・・
そういうことなのだろうなあ・・・。


このことは、特に今の若い人たちに大切なメッセージのような気がします。
正直、ボクシングのことなどよく知らない私ですが、
十分に楽しんで読むことができました。

「拳の先」角田光代 文藝春秋
満足度★★★★☆
図書館蔵書にて

人生フルーツ

2017年02月22日 | 映画(さ行)
こつこつ、ゆっくり



* * * * * * * * * *

ニュータウンの一角で暮らす、建築家夫婦のドキュメンタリー。



名古屋市近郊のベッドタウンである高蔵寺ニュータウン。
そこに元建築家・津端修一さん90歳と
その妻・英子さん87歳が住んでいます。
そもそもこのニュータウンができるときに、
修一さんも建築家としてそのプロジェクトに加わり、
自然との共生を目指したプランを立てたのですが、
近代化・効率化の波には勝てず、
高層アパートの立ち並ぶ無個性な街になってしまったのです。
それでも、ご夫妻はこのニュータウンの一角に300坪ほどの土地を買い、
平屋の一軒家を建てました。
そして、庭に失われた木々の苗を植え、
また、数多くの野菜・果物を育てて暮らしてきたのです。
禿山になってしまった裏の山には、
町の人々も巻き込んで、ドングリの木を植えました。
そうして50年。
苗木は立派に育ち、四季折々の野菜や果物がみのり、
英子さんはそれを料理したりジャムを作ったりするのに忙しい日々を送っています。



まさにスローライフ。
でもこれが過疎の田舎ではなくて、賑々しいニュータウンの一角というのがステキです。
きっとご近所でも名物のお家なのでは、と思います。


作中、度々繰り返される樹木希林さんのナレーションの言葉。

風が吹けば、枯れ葉が落ちる。
   枯れ葉が落ちれば、土が肥える。
     土が肥えれば、果実が実る。
       こつこつ、ゆっくり。
         人生フルーツ。




それにしても90歳と87歳のご夫妻のお元気なこと。
畑仕事は、このお年ではなかなか大変そうなのですが・・・。
修一さんは、作物の名札を作ったり、高所の果物を収穫したり、
時には屋根にまで登ったり。
修一さんがお孫さんのために作ったというシルバニアファミリー用のドールハウスには驚かされました。
なんでも手作り。
しかもお年に似合わずセンスが若々しい!
英子さんのお料理がまたどれも美味しそう。
ご主人にはご飯を炊いて、自分ではトーストを食べたりもしていました。
何種類ものおかずを作ることが全然苦じゃないようです。
家にはなんと機織りの機械まであって・・・、
あ~、日本のターシャ・テューダー!



英子さんが「もし私が先に逝ったりしたら、この人はどうなってしまうだろう」
というシーンもありました。
ところが、まさか、まさかの意外な展開となりまして・・・。
修一さんは英子さんに心配をかけたくなかったのかなあ・・・。
本当に、残された者のほうがよほど辛いです。



本作ですごいと思ったのは、自然とともにあるライフスタイルもそうですが、
このお二人の年齢の重ね方と寄り添い方が、なんて美しいのか・・・ということ。
うーん、うちももう40年近くになりますが、全然こうなってない・・・(T_T)
ひたすら夫を立てて、夫のやりたいように・・・
それは確かに古い女性のあり方かもしれないけれど、
ここまで来ると、逆にどっちがやらせているのかわからない。
女の生き方って、強く自己主張するだけではないって気がします。
(今頃気づいても手遅れ?)
いずれにしても、心あらわれるような作品・・・。
こういうふうに年を取らなければ!!



さすが建築家さんのおうち。
30畳1LDKというのもステキでしたねえ・・・。
(驚いたことに玄関がなかったみたいなんですけど!?)



「人生フルーツ」
2016年/日本/91分
監督:伏原健之
出演:津端修一、津端英子
スローライフ度★★★★★
人生の指針度★★★★☆
満足度★★★★★

白い帽子の女

2017年02月21日 | 映画(さ行)
南仏のリゾート地、心がすれ違う夫婦



* * * * * * * * * *

アメリカ人小説家ローランド(ブラッド・ピット)と妻ヴァネッサ(アンジェリーナ・ジョリー・ピット)が
南フランス、海辺のリゾート地にやってきます。
村の小さなカフェに入り浸るローランド。
ほとんどホテルの部屋に閉じこもりっきりのヴァネッサ。
愛が冷めているとか、倦怠期とか、
そういうこと以上の何かの事情が二人の間にはあるようにも見えます。



そんな二人のホテルの隣室に、若い新婚のカップルが入ります。
愛に満ちて自分たちとは対局の二人。

さて、この二組のホテルの部屋を仕切る壁に
穴が開いていることにヴァネッサは気が付きます。
それはちょうど覗き見るのに良い大きさで・・・。
隣室の若い夫婦のみだらな営みを覗き見ることで、
奇妙な連帯感と高揚感に包まれていく夫婦・・・。
風変わりな夫婦のひと夏を描きます。



本作の時代設定が1970年代頃のようです。
現代でも通じるストーリーなのですが、多分、まだビデオもネットもケータイもない時代で、
することもなく時間を潰すといえば読書かカフェで呑んだくれるしかない
という状況を描きたかったのでしょうね。
もしくは、隣室を覗き見るとか・・・。
心がすれ違う夫婦。
書けない小説家。
そんなうだうだの夏でも、
あくまでも南仏の海は美しく、人々はゆったりと時を過ごすのでした・・・。
が、最後に彼らは何かをつかむのです。
新しい秋が始まるのかもしれない・・・。



さて、本作はそのストーリーを追う以上に、
ブラピとアンジーの関係をつい想像してしまうわけですね。
二人が離婚申請をするのは本作の後。
実の夫婦でこういう演技をするというのはどんな心境にあるものなのか・・・。
しかもアンジェリーナ・ジョリー監督作品じゃありませんか。
なんだか恐ろしい感じさえします・・・。
そしてこの時のアンジーは頬がげっそりとコケて痛々しいくらい。


また、私は劇場で「マリアンヌ」を見てすぐ後くらいに本作を見たのです。
本作のブラッド・ピットは髭を生やしていて、
まあ、これまでのブラピのイメージからそう離れてはいません。
ところが「マリアンヌ」のブラピの若返りようは・・・!
まあ、余計な勘ぐりをするのは止めておきましょう。


でも本作中、ローランドがヴァネッサを呼ぶ時が好きでした。
ヴァネッサを「ネッサ」と愛称で呼ぶ夫。
その呼び方に、ものすごく愛情がこもっている感じがするのです。
優しく、包み込むような呼び方・・・
ここのシーンだけ、何度も見たい。

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ブラッド・ピット,アンジェリーナ・ジョリー・ピット,メラニー・ロラン,メルヴィル・プポー,ニエル・アレストリュプ
NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン


「白い帽子の女」
2015年/アメリカ/122分
監督:アンジェリーナ・ジョリー・ピット
出演:アンジェリーナ・ジョリー・ピット、ブラッド・ピット、メラニー・ロラン、メルビル・プポー、ニエル・アレストリュプ

夫婦の愛憎度★★★★☆
満足度★★★☆☆

「きみのためのバラ」池澤夏樹

2017年02月19日 | 本(その他)
旅のすれ違いの中で

きみのためのバラ (新潮文庫)
池澤 夏樹
新潮社


* * * * * * * * * *

予約ミスで足止めされた空港の空白時間、
唱えると人間の攻撃欲がたちまち萎える不思議なことば、
中米をさすらう若者をとらえた少女のまなざしの温もり。
微かな不安と苛立ちがとめどなく広がるこの世界で、
未知への憧れと、確かな絆を信じる人人だけに、
奇跡の瞬間はひっそり訪れる。
沖縄、バリ、ヘルシンキ、そして。
深々とした読後の余韻に心を解き放ちたくなる8つの場所の物語。


* * * * * * * * * *

池澤夏樹さんの短編集です。
本巻は、旅の途上にある人が、
つかの間の人との出会いと別れのシーンを切り取ったものが多いのです。
互いに見知らぬ相手だからこそ、ふと漏らすことができる本音、
そして通じ合ったときのふと緩む緊張感・・・
なるほど、色々なドラマが潜んでいる場なのかもしれません。


巻頭の「都市生活」は、まさにそんな瞬間をとらえた作品。
旅客機に乗り遅れた彼は、やむなく一泊を延長しなければならず、
虚しく近所のビストロで遅い夕食を採る。
その店に一人の女性客がいて、
口元をほころばせ、陶然としてデザートを食べているのに彼は心動かされてしまう。
全く見知らぬ同士ながら、つい声をかけると、
彼女は「ひどい一日だったの」と話し始める。
一期一会。
二人は別にアドレス交換などもなしに別れます。
多分もう二度と会うことはない。
けれどもほんのしばし、心を交わしたことが暖かく心に残る。


「ヘルシンキ」でも、"私"がヘルシンキのホテルで、
全く見知らぬ男とその娘らしき少女の二人連れに、思わず声をかけます。
男は娘を遊ばせて過ごせる場所を探していたのですが、
"私"には心当たりがあったから。
近所で少女をソリ遊びさせながら、男は自分の事情を語ります。
男はロシア人の妻と離婚し、娘はふだん妻と暮らしているのだけれど、
時々、こうして娘と過ごすのだと。
でも娘は今は毎日をロシア語で生活している。
幼い時は日本で暮らしていたので日本語もわかるけれど、
幼いときの日本語なので難しい言葉はわからないし、
そもそもかなり忘れている。
それで今では次第に父娘でも言葉が通じなくなってきている・・・と。
なかなか切ない事情ですね。
こんなごく個人的な切ない事情を、
きっと男は誰かに聞いてほしかったのでしょう。


私が好きだったのは、「20マイル四方で唯一のコーヒー豆」
17歳の少年がカナダの太平洋岸に近い島を旅しています。
そこのロッジの女主人のジャム作りを手伝ううちに、
彼は彼自身のちょっと困った事情を打ち明ける。
これもまた、後には会うこともない相手だからこそ、話してみたくなったのでしょうね。
彼の父親は暴力を振るう人で、
ある時彼は日本語が口から出なくなり、
英語でしか話すことができない時があったのだという。
先の「ヘルシンキ」もそうですが、
言語というのは自己のアイデンティティと深くつながりを持つものなのかもしれません。
ところで本作の題名がすごくユニークなんですが、
作中のちょっとした事件からとった題名なのです。
すごくオシャレです。



表題作「きみのためのバラ」はメキシコの列車で旅をした時の記憶。
混雑した列車の人込みをかき分けて、
たった一度言葉をかわしただけの少女に一輪のバラを届けようとする"彼"。
ほんの少しの会話で、心が癒やされたり満たされたりすることがある。
それは言葉の内容がどうこうというよりも、
瞬時の心の同調とか、そういうことなのかもしれません。
生きていくときの共感。
互いの事情などあまり良く知らないほうが、そういうことが起こりやすいのかも。
印象に残る作品です。


「きみのためのバラ」池澤夏樹 新潮文庫
満足度★★★★☆

マリアンヌ

2017年02月18日 | 映画(ま行)
久々に端正なブラピ



* * * * * * * * * *

1942年、モロッコのカサブランカ。
そう、あの「カサブランカ」と同じ舞台、ほぼ同時代、
というところから本作は始まります。
当時のモロッコはフランスの領土ですが、
フランス自体がドイツに占領されているため、
この地もつまりはドイツ軍の支配下にあるのです。
そこで、イギリスから派遣された秘密諜報員のマックス(ブラッド・ピット)と、
フランス軍レジスタンスのマリアンヌ(マリオン・コティヤール)が、
ドイツ大使を暗殺するという任務に当たります。

二人は初対面なのですが、
ドイツ大使館のパーティーに出席するため、パリから来ている夫婦を装うことになるのです。
任務のために出会った二人。
しかし、毎日をともに過ごすうちに次第に心も接近してきます。

命がけのミッションは成功し、二人はロンドンで実際に結婚。
子どもも生まれ、この上ない幸せなひとときを過ごしますが・・・。
ある日、上層部に呼び出されたマックスは、
マリアンヌは二重スパイだと告げられるのです。



いやあ、久しぶりに端正なブラピを拝見しました。
最近は無精髭を生やし、やさぐれて、男っぽさを強調するような役柄が多かったですからねえ。
もう年も年だし、仕方ないのかなあなどと思っていましたが・・・。
かつての美貌のブラピ復活!! 
どんな魔法を使ったのやらそうでないのやら、よくはわかりませんが、
でも歓迎します!!



マックスは、なんとか妻の無実を晴らしたいと、
命がけで危険な地へ踏み込んで過去の事実を探ろうとします。
ルックスにこだわるばかりではなくて、こういう見せ所もある、
まさにブラピありきの作品なんですが、満足、満足。
そしてまた、マリオン・コティヤールも美しいですよね―。
最後の最後まで、彼女は秘密を抱える素振りは見せません。
そこが優秀なスパイであるゆえんですが、
それは実際にマックスを愛しているからでもあるわけです。
けれど、彼女の決断がまた切ない。
美しい悲恋です。
思いがけずいいものを見てしまった・・・、そんな感じ。



二人が初めて思いを遂げる、車の中のラブシーンが圧巻でした。
というか、狭いはずの車内で、どうしてあんなふうなカメラワークができるのか、
全く不思議。
そのように覚めた部分を持ちながら、同時にこの情熱的な抱擁に圧倒されていた私。
やはりこれがさすがのロバート・ゼメキス監督なのか。



「マリアンヌ」
2016年/アメリカ/124分
監督:ロバート・ゼメキス
出演:ブラッド・ピット、マリオン・コティヤール、ジャレッド・ハリス、サイモン・マクバーニー、リジー・キャプラン

悲恋度★★★★★
サスペンス度★★★★☆
満足度★★★★☆


アース・トゥ・エコー

2017年02月17日 | 映画(あ行)
「E.T.」プラス「スタンド・バイ・ミー」



* * * * * * * * * *

高速道路建設のために、街全体の強制退去が決まり、
間もなく離れ離れになってしまう親友3人の少年たちのストーリーです。
本作は彼らがビデオカメラやスマホ、メガネ型の隠しカメラを駆使して撮影した映像をつなぎ合わせた、
という体裁になっているのが、ご愛嬌。



別れの前夜、街全体のケータイに不可解な画像が映し出されます。
それが砂漠の地図と判読した少年たちは、
親にそれぞれのところへ泊まりに行くと嘘をついて、
夜間の自転車の冒険に出かけます。
夜の道路は車通りさえなくチョッピリ心細いのですが・・・。
地図で指し示された場所につくと、宇宙からやってきた未知の物体と遭遇。
しかし、それを探し出そうとしている怪しげな男たちが彼らに迫る・・・!



これは、「E.T.」プラス「スタンド・バイ・ミー」ですね。
少年たちのフレッシュな情感、ハラハラ・ワクワクの冒険、そして友情。
これはもう、映画では定番の輝かしいテーマです。
そしてまた、途中から少女が加わるのですが、これがまた、今風。
度胸があって頭もいい。
最近の少女像って、こうですよね。
そして何と言っても、エコーが可愛すぎです。
実は巨大なUFOが、町の下に潜んでいたのです。
これが飛び立てば、町の人々はどうなってしまうのか???
その結末は、小気味よく爽快。



街を出て離れ離れにならなければならいことに「子ども」の無力さを感じていた彼ら。
でもこの冒険を経て、うんと大人に近づくのです。
ストーリー的に意外性はないけれど、
でも一時、子どもに返ったように無心で楽しませてもらいました。



EARTH>
松竹


「アース・トゥ・エコー」
2014年/アメリカ/92分
監督:デイブ・グリーン
出演:テオ・ハーム、ブライアン・アストロ・ブラッドリー、リース・ハートウィグ、エラ・ワレステッド
少年の冒険度★★★★★
満足度★★★★☆

「静かな大地」 池澤夏樹 

2017年02月15日 | 本(その他)
知っておくべき北海道の歴史

静かな大地 (朝日文庫 い 38-5)
池澤 夏樹
朝日新聞社


* * * * * * * * * *

明治初年、淡路島から北海道の静内に入植した宗形三郎と四郎。
牧場を開いた宗形兄弟と、アイヌの人々の努力と敗退、繁栄と没落をえがく壮大な叙事詩。
著者自身の先祖の物語であり、同時に日本の近代が捨てた価値観を複眼でみつめる
構想10年の歴史小説。
第3回親鸞賞受賞作。


* * * * * * * * * *

かなりボリュームのあるこの本、
でも興味尽きることなくじっくり噛み締めながら読みました。
私は北海道に生まれながら、札幌にいると、あまりアイヌの人々については身近ではありません。
内地の人と知識においてはあまり変わらないかもしれません・・・こんな年でも。
でも、そんな私にとって本作は絶対に読むべき本でした。


本作は、由良という女性が、
伯父にあたる宗形三郎という人のことを聞いたり調べたりして文章にまとめた、
という体裁になっています。
だから、時には語り口調だったり、手紙文であったり、またある時は小説調。
したがって、色々な人から見た三郎像が描かれていて、
実像をしっかりと形作っていきます。


始まりは、淡路島のお侍たちが北海道の静内に入植する経緯。
なぜ淡路島からはるばる北海道までやってきたのか、
というのもなかなか切ない事情があるのです。
何れにせよ明治維新で、武士たちは新たな生き方を探さなければならなかったわけですね。
この時三郎はまだ少年です。
静内の港について、船上からはじめてアイヌの男性を見る。
威風堂々としたその姿に、彼と弟・志郎(由良の父)は感動してしまったのです。
カッコイイと思ったのです。
他の人達は「ドジン」だと、蔑んだ気持ちを抱いただけだったのだけれど。


第一印象が大事なんですね。
この後、この兄弟は頻繁にアイヌの家に出入りし、
オシアンクルという同年代の男の子と親友になり、言葉を覚えてゆくのです。
三郎は長じて、アイヌの人々と共同で牧場を開き、馬を育ててかなりの成功を得ます。
しかし、それまでの文中で、
三郎は何か悲しい事情で亡くなってしまうことが伺われるのです。
物語は、そのことに向かってどんどん収束していくのですが、
実際その最期の出来事には胸がふさがり、涙、涙・・・。


私は三郎が、札幌の官園農業現術学校で一年間学ぶところがとても好きでした。
当時「札幌農学校(今の北大)」があったことはよく知られていますが、
それよりももっと即戦的、実践的に新しい農業を学ぶ学校があったのですね。
北海道は寒くてお米が栽培できません。
(今は品種改良が進み、どんどん良い米が採れますが。)
だから今まで見たこともない馬鈴薯や唐黍の栽培の仕方を
アメリカから学ぶ必要があったのです。
また牧畜などのことも。
札幌農学校はすぐ近隣にあったので、
あのクラーク博士が退任のときに放ったあの言葉を、三郎が聞くシーンがあるのですよ。

「野心的であれ。
大いなる志を持て。
金銭や、利己的な勢力拡大、人が名声と呼ぶところの儚い栄誉に対してではなく、
知識と廉直とこの地の人々すべての向上という目的に対して、野心的であれ。」


正にこの言葉の通り、
三郎は新しい知識や技能を意欲的に余すところなく吸収し、
それを自分ばかりではなく、故郷静内の人々にも伝え、
地域のために尽くしたのです。
この学校で開拓の夢と希望にあふれた三郎のなんと晴れがましいく力強いこと。
読んでいてもワクワクします。
本当に、こういう人達によって北海道は発展したんだなあ・・・。
そうして、大きな牧場を開いた三郎は、人々の人望もあったのですが、
ただ、アイヌの人々とあまりにも親しく近いことが、
人々の眉をひそめさせることもあった・・・。
それが悲劇の芽です。


本作で描かれるアイヌの文化もまた、今だからかもしれませんが、
ある意味憧れさえ覚えてしまうのですね。
かつて山や川にあふれるほどいた、熊や鹿、狼、鮭。
それは神から授かったものなので、本当に必要なだけ採り、神に感謝した。
けれど、和人がやって来るようになって、
彼らは食べるためだけでなく、お金儲けのためにそれを採る。
あっという間に熊も鹿も狼もいなくなり、鮭も上がって来なくなる。
おまけにアイヌの人々は住むところを奪われ、片隅に追いやられ、蔑まれる。
なんという愚行・・・。
まあ、それをしたのは私のご先祖さま(しかも、そう遠くはない)
というのが、まったくもって複雑です。
もちろん直接的に悪意を持ってそれを行ったわけではないにせよ。


思うに、三郎は最後には守るものが多くなりすぎていたのではないでしょうか。
若いうちは身一つ、どう転んでも自分だけのこと。
体力はあるし、気力も充実。
怖いものなんか何もない。
だからどんどん思うように前進できた。
けれども次第に年令を重ね、家族ができます。
共に暮すアイヌの人々、そしてまたすべてのアイヌも守らねば・・・と、
背負うものがどんどん膨らんで、怖くなってしまったのでしょう。


由良の父、志郎と母の馴れ初めの話のところも傑作で、好きでした。
誰の人生も、皆ドラマだなあ・・・。


静内は日高地方にあって、今も馬の名産地です。
なので私、本作を読んで、
三郎が牧場を作るということでつい競馬用のサラブレッドを連想してしまっていたのですが、
それは大きな間違いであることにすぐ気づきました。
当時のことですから、荷車を曳いたり農耕に使う馬ですよね。
特にこの広い北海道の開拓に馬は必需品。
そしてまた、軍馬としての需要も高かったようです。
時は移り変わります。


一度劇的に減った鹿も、今はまた増えすぎて少し困ったことになっています。
対策に狼を話してみては?などという話があるくらい。
秋には川に棒が立つくらいに鮭が溢れかえった・・・
などという光景を、見てみたいものですねえ・・・。


「静かな大地」池澤夏樹 朝日新聞社
満足度★★★★★★(!)
図書館蔵書にて

天使にショパンの歌声を

2017年02月14日 | 映画(た行)
クラシックで新しい時代に立ち向かう



* * * * * * * * * *

1960年代、カナダ、ケベック。
オーギュスティーヌは修道女ですが、カトリック系の寄宿学校の校長を務めています。
彼女はかつてピアノコンクールで優勝したことがあり、
そのため、この学校も音楽教育に力を入れており、コンクールの入賞者も出ています。
しかし、修道院により経営が見直され、
採算の合わないこの学校は閉鎖の危機に。
オーギュスティーヌは音楽の力で世論を動かそうと、
音楽イベントを開催することにしますが・・・。
ちょうどそんな頃、彼女の姪・アリスがこの学校に転校してきます。

彼女もまた素晴らしいピアノの才能を持っているのですが、
破天荒な問題児。
果たして学校は存続できるのか・・・。



何でしょう、美しいピアノやコーラスの音色に癒されはしますが、
思ったほどの大きな感動というほどではない。
けれど多分、私はこの頃の「時代」感覚をよくわかっていないからなのだろうと思った次第。
日本でもそうですが、
世の中に近代化の波が押し寄せ、どんどん変わっていく時代なんですね。
ようやく男女平等の機運が芽生えた頃で、女性の権利や自由はまだお題目程度。
ましてやシスターが表に出て社会的活動をするなどというのは
前代未聞のできごとだったのでしょう。
それがわかっていないと、本作を理解しづいらいのかも。
本作での古い考えや権力に向かう姿勢は、
今からするとちょっと地味ではあるのですが、
大変な勇気を要することなのですね。



音楽においても、若者はクラシック音楽を古臭いと感じているのが見て取れます。
アリスも、古典を勝手にジャズ風にアレンジして弾いてしまったりする。
私はそれもいいなあ・・・とは思ったのですが。
でもそんな中で、私がはっとさせられたのは、
アリスの友人・スザンヌがショパンの「別れの曲」を、
母がいつも歌っていた、と言って歌い始めるシーン。
彼女は「母はいつも酒浸り」と言って、嫌っているようだったにも関わらず、
その歌声は皆の心に優しく染み渡るのです。
思わずつられてアリスがピアノで伴奏をつける。
クラシック音楽の叙情性の真髄をアリスが気づいた瞬間です。
そしてそれは私にも十分過ぎるくらいに伝わりました・・・。



本作すべて本人がピアノを弾いたり歌ったりしていて、
差し替えはなかったそうです。
だからこそ胸に響く音楽の心。
うん、まあ、それに触れられただけでも良しとしましょう。
こんな近代化の波を経ながらも、
立派にクラシック音楽は受け継がれ愛され続けているのが幸いです。



雪と氷に覆われたカナダの冬が、
春を迎え、夏に移り変わる・・・、
そんな美しい四季の様子もステキでした。

「天使にショパンの歌声を」
2015年/カナダ/103分
監督:レア・プール
出演:セリーヌ・ボニア―、ライサンダー・メナード、ディアーヌ・ラバリー、バレリー・ブレイズ、ピエレット・ロビタイユ、エリザベス・トレンブレイ=ギャニオン
音楽性★★★★★
満足度★★★.5

ジョン・ウィック

2017年02月13日 | 映画(さ行)
ガンフー?!



* * * * * * * * * *

愛する女性ヘレンと出会い、裏社会から足を洗った殺し屋、
ジョン・ウィック(キアヌ・リーブス)。
ヘレンはやがて病で亡くなってしまうのですが、
生前に彼へのプレゼントとして子犬を用意してあったのです。
子犬との生活に、安らぎを覚え始めたジョンでしたが、
ある日、ジョンの車を盗みに入ったロシアンマフィアのチンピラに
子犬を殺されてしまいます。
彼は復讐を胸に、マフィア組織に単独戦いを挑みます。
車を盗んだチンピラというのは実は、
かつてジョンのボスであった男の息子だったのです。
これも因縁ではあります。



ということで、ひたすら格闘やら銃撃戦やらがあるだけなので、
私には特別面白いとは思えませんでした。
しかしこのアクションが、
銃撃と格闘技を組み合わせた「ガンフー」とかいうのだそうで、
これが本作の売りだったようです。
あ、そうなんですか・・・。



ただ、私たちの知らない(?)裏社会のコミュニティーとして、
中立地帯のホテルがあったり、
密かに死体や殺戮現場の清掃屋がいたりするのは面白かったな。
そういうところにはあえて警察も踏み込まないようなのです。
ギャング同士が勝手に抗争して自滅してくれればそれはそれでOKてな感じ。
うーん、でも、全く無関係な一般市民が巻き込まれてしまう可能性だってあると思いますけどねえ・・・。



本作で最大の謎は、始めに車を盗みに来たチンピラに襲われた時、
なんであっさりとジョンがやられてしまったのか、ということですね。
いくら不意を突かれたといっても、後ほどあれだけの戦闘能力を見せる男ですよ。
犬が殺されるのを見ていてどうにもできなかったというのが、不自然ではありませんか???
それと、なんだって女だからとか、かつてのボスだからといって情け心を起こすのか。
結局はそれがまた後の災いにつながる。
駄目ですよ、中途半端に情けなんか持っては。



また一つ、見ることができなくなったジャンルが増えてしまったかもしれない・・・

ジョン・ウィック [DVD]
キアヌ・リーブス,ウィレム・デフォー,ジョン・レグイザモ,イアン・マクシェーン,ミカエル・ニクヴィスト
ポニーキャニオン


「ジョン・ウィック」
2014年/アメリカ/103分
監督:チャド・スタエルスキ
出演:キアヌ・リーブス、ミカエル・ニクビスト、アルフィー・アレン、ウィレム・デフォー、ディーン・ウィンタース

アクション度★★★★☆
満足度★★☆☆☆

「クラバート」 オトフリート・プロイスラー 

2017年02月11日 | 本(SF・ファンタジー)
愛する人に対する心配から生まれる魔法

クラバート
ヘルベルト=ホルツィング,中村 浩三
偕成社


* * * * * * * * * *

ヴェンド人の少年3人組で村から村への浮浪生活をしていたクラバートは、
ある時から奇妙な夢を見るようになる。
「シュヴァルツコルムの水車場に来い。お前の損にはならぬだろう!」
という声と止まり木に止まった11羽のカラスの夢。
その声に従って水車場の見習となったクラバートは、
昼は水車場の職人として働き、
金曜の夜には12羽目のカラスとなって、親方から魔法を習うことになる。


* * * * * * * * * *

本作は、ドイツのラウジッツ地方に伝わる伝説を題材として、
プロイスラーが創作したものです。
魔法が登場するファンタジーではありますが、
ここで主人公となるクラバートの生活、特に水車場の職人としての仕事の部分は、
とてもリアルで、かつてヨーロッパの子どもたちはこんな風にして
親方に鍛えられながら仕事を覚え、成長し一人前になっていったのだなあ・・・と、
実感させられるのです。
単なるおとぎ話ではない、ガッツリとした生活感に支えられる、素晴らしい物語でした。


それにしても本作、これまでに読んできた「冒険」の物語とは一風変わっています。
クラバートは夢の中の声に誘われるまま、水車場へ来て、
そのまま厳しい親方の元、まずは見習いとして働くことになる。
そこでは大きな水車が回っていて、それで粉を挽く仕事をしているわけですね。
朝から晩まで働いて、外出や好き勝手に遊び回ることなんかできないけれど、
それでもクラバートは幸せを感じるのです。
なぜって、それまでは親もなく浮浪生活。
その日の食べ物やねぐらの心配が常にありました。
今はきちんとした食事がとれて、みんなと一緒の部屋ですが温かいベッドもあります。
そんなところからも、ただ生きていくだけでも厳しい状況が見えてきますね。
そしてここからがいよいよファンタジー世界ですが、
親方は週に一度、12人の職人たちをカラスの姿に変えて、魔法の授業をするのです。
クラバートは魔法を覚えるのが嬉しくて、どんどん知識を吸収していきます。
そんな風に一年、二年と時が過ぎていくと、
毎年同じ時期に繰り返されることが見えてきます。
大晦日の晩には必ず誰かが死んで、新しい見習いが入ってくるとか・・・。
日頃それほど横暴とか意地悪のようではない親方なのですが、
実は大きな陰謀がそこにはあるのです・・・。
また、そうこうする毎日の中で、
彼は村のとある少女に心奪われてしまいますが・・・。


我が講師の受け売りですが、
この物語の舞台設計の背景は
「中世ヒエラルヒー社会、その封建的な階層社会の末端に位置するギルド制で、
結果としてクラバートはこの構造を破壊し、仲間とともに自由を獲得する」
とあります。
つまりは中世から、近代へのイニシエーション(通過儀礼)の象徴であると。
そしてまた、本作で重要なのは、クラバートの恋愛感情ですね。
クラバートの最も信頼できる友人ユーローは言います。
「苦労して習得しなければならない種類の魔法がある。
それからもう一つ、心の奥底からはぐくまれる魔法がある。
愛する人にたいする心配から生まれる魔法だ。」

・・・ということで、
通常西洋の民話に現れる女性、特に男性の心の理想像である「アニマ」は、動きがないのですが、
本作に登場する女性は自ら「動く」のです。
「愛する人に対する心配から生まれる魔法」が、そこで発揮されることになる。


職人たち一人ひとりの個性も発揮されており、
またクラバートが後に知る悲しい物語もあって、魅力の尽きない作品なのでした。


「クラバート」オトフリート・プロイスラー 偕成社
満足度★★★★★

マグニフィセント・セブン

2017年02月10日 | 映画(ま行)
結果がわかっていても楽しめる



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言うまでもないことですが、
黒澤明監督「七人の侍」がハリウッドで西部劇としてリメイクされたのが「荒野の七人」。
本作はその両方を踏まえたリメイクとなっています。


言ってみればこれもひたすらに、殺し合いがあるだけの物語で、
実は私は失望するのではないかと、恐る恐る見ました。
しかし、もともとの作品に私の愛着があるからか、
はたまたこれだけ多くの人に愛され、リメイクされながら受け継がれてきたことにには
それだけの理由があるということなのか、
意外と面白く見ることができました。



暴虐の限りを尽くす男、バーソロミュー・ボーグ(ピーター・サースガード)に牛耳られている町、
ローズ・クリーク。
ボーグは金鉱を掘るために町の人々がじゃまになり、
二束三文のお金で彼らを追い出そうとします。
人々にとっては苦しい開拓の末にようやく生活できるようになった土地。
しかしボーグに逆らえばあっさり殺され、集会の教会に火を放たれたりもする。
ボーグに夫を殺された妻エマは、
町を取り戻し、夫に復讐するため、
町の人々でお金を出し合い、7人のアウトローを雇うことにします。
敵対するボーグは、まるで軍隊並みの人数を揃えて街に乗り込んできます。
果たして彼らは、町と町の人々を守ることができるのか???



ここに集まる7人というのが個性豊かな面々。
リーダーは賞金稼ぎの黒人(デンゼル・ワシントン)、
ギャンブラー(クリス・プラット)、
PTSDに悩むスナイパー(イーサン・ホーク)、
東洋人のスタイリッシュな暗殺者(イ・ビョンホン)、
メキシコ人の流れ者(マヌエル・ガルシア・ルルフォ)、
老いぼれハンター(ビンセント・ドノフリオ)、
ネイティブアメリカンのはぐれ者戦士(マーティン・センズメア)、
そしてプラスワンとして依頼主のエマ(ヘイリー・ベネット)も
女ながら素晴らしいライフルの腕を見せます。



人種もそれぞれ、女性の活躍も加えるということで、
まことに現代を象徴しています。
絶望的な人数の少なさで、けれども村人の協力も得ながら死力を尽くす。
こうしたところがやはり私たちの胸を打ちますねえ・・・。
俳優陣はそれぞれ見せ所もあり、すごく楽しんでやっていたのではないでしょうか。
何しろ汗臭い髭面の男たちのやさぐれた感じが、妙にかっこよく見えてしまう。
こういう男臭さを前面に出す作品って、現在を舞台にするとあまりないですよね。
やはり、戦争モノか、西部劇だ。
多分、男性の俳優なら、一度はこういう役をやってみたいなどと思うのではないかな?



私が気にいったシーンは、いよいよ銃撃戦が始まりそうだというときに、
サムが愛馬に「お前、あっちへ行ってろ」というのです。
すると馬は一人(?)でとっととその場から立ち去る。
わー、賢いお馬さん。
そのシーンだけで、私はこの馬の大ファンになってしまったのでした(^o^)。
攻め込んできた一団の馬の数だけでも相当な数です。
多分、皆さん馬の重要さをわかっているはずだから、
できるだけ傷つけないようにするのではないでしょうか。
とすれば、こんな戦闘の後にはどっさり持ち主のいない馬が残る。
この町の人々はこの馬を売ればかなり復興の助けになるのでは・・・
などと、ほんと、どーでもいいことを妄想してしまいました・・・。



「マグニフィセント・セブン」
2016年/アメリカ/133分
監督:アントン・フークア
出演:デンゼル・ワシントン、クリス・プラット、イーサン・ホーク、イ・ビョンホン、マヌエル・ガルシア・ルルフォ、マーティン・センズメア、ピーター・サースガード、ヘイリー・ベネット

男臭さ★★★★★
満足度★★★★☆

森山中教習所

2017年02月09日 | 映画(ま行)
「友情」なんていう言葉を知らない



* * * * * * * * * *

真造圭伍さんの同名コミックの映画化です。
大学生キヨタカ(野村周平)は冒頭間もなく、
車にはねられて死んでしまいます・・・! 
と思ったら実は死んでおらず、怪我もなく、しばし気を失っていただけ。
彼をはねたのはヤクザの車で、
運転していたのは無免許のトドロキ(賀来賢人)。
なんとこの二人は高校の同級生だったのです。



一体どういうストーリーなのやら、予備知識も何もなしに見始めた私は、
しばしあっけにとられながら見てしまいました。
こんな非常識な(?)導入部なのですが、
つまり、この二人が自動車教習所に通うことになる、と。
その教習所というのがまたステキで、廃校になった中学校(森山中)の
校舎と校庭を利用しているのです。
田舎町の更に山の中の教習場。
なんとものどかです。



キヨタカとトドロキはかつての同級生とは言え、
当時一言二言しか話したことはなく、性格もまるで違う。
ノーテンキで人懐っこいのはキヨタカ。
現在大学生、夏休み中。


ネクラでクールなトドロキは高校を中退して、現在ヤクザの下っ端。
運転手役になるために免許が必要。


キヨタカは勝手にトドロキに親しみを感じて、話しかけますが、
トドロキは迷惑そうに最低限の返事をするだけ。
・・・でもこうやってキヨタカがトドロキの心にグイグイ迫っていくことで、
トドロキも少し変化していきます。
そもそもどうして彼がヤクザになったのか
(というより、ならざるを得なかったように見受けられるのですが・・・)
その理由は、ついに最後まで明かされません。
でも、本当の胸の内をキヨタカには語れるようになるんですね。
全くもってシャイで、
「友情」などという言葉を知らないかのような二人です。


そういえば、「セトウツミ」の二人もこんな感じでしたね。
今時のオトコノコって、こういう感じなのでしょうか。
まあ、それも悪くはないのですが。
しかし、ノーテンキなキヨタカにも実は父親のことで鬱屈がありまして・・・。
(始めのうちは単なる母親の男?と思えたのですが、そうではなさそうだった。)



そしてまた、冒頭でいきなり別れ話となった彼女とは、
結局ズルズルと牛丼屋で会って話をしていたりするのも面白い。
ゆるゆると進む時間の中で、ときに若者らしいばかげた爆発もあり、
ユニークな作品でした。
あ、最後に主題歌、星野源「Friend Ship」が流れたのは嬉しかった!!



森山中教習所 [DVD]
野村周平,賀来賢人,岸井ゆきの,寺十吾,佐藤真弓
ポニーキャニオン



「森山中教習所」
2016年/日本/103分
監督:豊島圭介
原作:真造圭伍
出演:野村周平、賀来賢人、岸井ゆきの、麻生久美子、光石研