ちっぽけで、無力な“生”だとしても・・・
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休暇・・・、つまりバカンスということで、のんびりした内容を想像していたけれど・・・
結構重い作品でしたね。
西島秀俊さんは、なんと死刑囚です!
はい、死刑囚を収容している拘置所が舞台でね、
そこに平井(小林薫)という刑務官がいる。
彼は美香(大塚寧々)というシングルマザーと結婚するところ。
ある日とうとう死刑囚金田(西島秀俊)の死刑執行命令が出て、
その「支え役」を勤めれば一週間の休暇がもらえるというので、
平井は、彼女のためにも休暇をもらって旅行に行こうと思って役を引き受けたんだね。
そこで金田の処刑前から処刑までのシーンと、
平井の旅行のシーンが交互に映し出されていきます。
一応新婚旅行というのに、どこか上の空で楽しめていない平井の、
その訳がだんだんわかってくるわけだ。
もちろんこの処刑は平井の責任でも何でもない。
元はといえば金田の罪のせいだし、
彼をさばいた裁判官の、そして執行命令を出した大臣の責任でもある。
それはわかっているけれども、
今生きている者の最後の生の証に直に触れてしまうというこの役割は、
さすがに平井にダメージを与えるわけだ。
自分が殺人に加担したような気になってしまうよね。
というか、確かにそこだけ切り取れば殺人そのままだし・・・。
そして、そんなことで、自らの幸せのために休暇をもらってしまったということに、
ひどく罪悪感を覚えるということなんだね。
特にどうというストーリーがあるわけではなく、
そして死刑制度について声高に反対を唱えているわけでもないけれど・・・、考えてしまいます。
結局は「目には目、歯には歯」の野蛮なやり方だ。
神ではない私達に、人の生死の決定権があっていいのかな・・・と。
西島秀俊さんの演技、凄くリアルでしたね。
うん、まあリアルと言っても、ホンモノの死刑囚を見たことなんかあるわけないけど、
本当にこんなふうかもしれない、って思う。
どんな罪を犯してこんなことになってしまったのかには、全く触れられていません。
難を言えば全然、凶悪犯っぽくはないところ・・・。
死刑というからには、たぶん殺人犯なんだろうなあ。
情状酌量の余地もなしってこと?
まあ、それはここでは問題にしないということだよ。
金田は、いつか来る死に対しては、もうすっかり諦観していて、
ひたすら静かに絵を書いている。
時には運動と称して金網で仕切られた狭い敷地に連れて行かれて、そこで縄跳びしたり。
そこだけ見ればユーモラスでさえあるけれど、
常に底の方に横たわっている「死」の気配から逃れられない。
後悔とあきらめと怯え・・・。
刑務官たちのやりきれないような倦怠感もわかります・・・。
「死」にあまりにも近いので、「老人」のようだ。
新入りの若者だけが、まだ何も知らずにちゃんと若い。
最後の方に、すでにもういない金田の独房が映し出されるでしょ。
あれも、どんな犯罪者であれ、どんなに静かにいつも同じような生活をしていたとしても、
その「生」は確かなものだったのに、失われてしまった、という無念さがにじみます。
独房に迷い込んで這っていたアリは、金田自身の象徴かな?
そうだね、ちっぽけで無力で、
ごく簡単に捻り潰されてしまう存在、を表しているのかもしれないね。
だから彼はそれをとらえて捻り潰したりはしなかった、ということかあ。
「休暇」
2008年/日本/115分
監督:門井肇
原作:吉村昭
出演:小林薫、西島秀俊、大塚寧々、大杉漣、柏原収史
死刑制度学習度★★★★☆
西島秀俊の魅力度★★★★★
満足度★★★☆☆