映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

お母さんが一緒

2025年01月18日 | 映画(あ行)

最後まで登場しない母

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本作、舞台がほとんど旅館の一室で、会話によってストーリーが進んでいくということで、
舞台臭がプンプンする・・・と思ったら、やはりでした。

ペヤンヌマキ主催の演劇ユニット「ブス会」が2015年に上演した同名舞台をもとに、
橋口監督が自ら脚色を手がけ、
CS放送「ホームドラマチャンネル」が制作したドラマシリーズを
再編集して映画化したもの、とのこと。

親孝行のつもりで、母親を温泉旅行に連れてきた三姉妹。

長女・弥生(江口のりこ) 
美人の妹たちにコンプレックスを持っている。独身。

次女・愛美(内田慈)
優等生の長女と比べられ、自分の能力を発揮できなかった。独身。

三女・清美(古川琴音)
姉たちを覚めた目で見ている。
今結婚しようと思っているカレシを皆に紹介したい。

ということで、母を伴い温泉旅館に到着したところから物語は始まります。
さてしかし、お母さんは最後の最後まで画面には出てきません。
旅館の別室で過ごしているというテイで、
主に三姉妹の会話でストーリーが進んでいきます。

しかしこの3人と母親は、常からあまりうまくいっていない。
そもそも結婚が失敗だったと、なにかといえば愚痴る母は、
そのほかについても思考がすべてネガティブ。
どんなことにも文句を付け、姉妹らにも優しい言葉をかけたことがほとんどない。

そんな母親の影響が彼女らにも多少あるようで・・・。


長女はなんとも母親そっくりでネガティブ思考。
旅館に着いたそうそう、露天風呂に虫が浮いているとか、
部屋がかび臭いとか、さっそく文句の言い放題。


次女は常にできの良い長女と比べられることに嫌気がさしていて、
長女に対しての反感いっぱい。


三女は少し気楽な存在ではあるものの、
母と姉2人の言動の荒さに、イヤになっている。
結局現在は姉2人が家を出て、自分に母が押しつけられているのも納得できない。
しかしとにかく、せっかく家族みんなが集まる機会なので、
この際結婚したいと思う相手をみんなに紹介しようと、
カレシをこの旅館に呼び寄せるのです。

ポンポンとああ言えばこう言うという姉妹たちのやりとりがとにかく面白い。
しかし、そこまで言っちゃあお終いでしょうというところまで軽く踏み込んでしまう。
普通の友人付き合いならこの時点でアウトかもしれません。
けれどそうならないのが家族なんだなあ・・・。
ついその後には、互いに共感して慰め合ったりもする。
おかしなものです。

 

清美のカレシ、タカヒロ(青山フォール勝ち)がまた
存外にイイ奴なんで、このムコ様は思いがけない拾いものだと思います。

 

<Amazon prime videoにて>
「お母さんが一緒」

2024年/日本/106分

監督:橋口亮輔

原作:ペカンヌマキ

脚本:ペカンヌマキ、橋口亮輔

出演:江口のりこ、内田慈、古川琴音、青山フォール勝ち

罵り合い度★★★★☆

家族度★★★★☆

満足度★★★★☆


大綱引の恋

2025年01月08日 | 映画(あ行)

地域再生

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鹿児島で400年以上の伝統を誇る川内(せんだい)大綱引を題材にしています。

 

35歳独身の有馬武志(三浦貴大)は、東京に進学、大手企業に就職するも挫折し、
川内の実家に戻って来ています。
今は、父の建築会社を手伝っていますが、
大綱引の師匠でもある父から、早く嫁をもらってしっかりした後継ぎになれと言われています。
ある日武志は、韓国人研修医、ジヒョン(知英)と知り合い、心を通わせるように。

またそんな頃、母、文子が定年退職を宣言し、家事を放棄したため、
やむなく武志と父、妹(比嘉愛美)で家事を分担しますが、
母への不満、不信感を募らせていきます。

さて、いよいよ年に1度の一大行事である大綱引の日が迫ります。
この行事の大役の一つを武志は務めたいと思っているのですが、
そのためには役員から選ばれなければならないのです・・・。

 

こうした地方の伝統行事を描くときに、
1度東京へ出て、夢破れて戻って来た若者が登場する、
というのはお定まりみたいになっていますね。
まあ、都会に出たからこそ、地元の良さがよく分るということなのかもしれません。

 

武志は、東京での仕事に失敗したというわけではなくて、
リーマンショックで会社がダメになったためにやむを得ず帰ってきた、
ということではあるのです。
でも、父の仕事仲間や近隣の人々からの人望もあり、
彼なりに前向きに頑張っています。
しかし、父は彼を認めようとしない。
1度自分の会社を継がないで東京へ行ってしまったのに、
のこのこ帰ってきたということが気に入らないのです。

そんな、父と息子の確執を描きつつ、
次第に大綱引の行事へ向けて話は盛り上がっていく・・・。

ただ単に綱引をする、というわけではなく、いろいろな手順や決まり事があって、
まさに、続けていかないとそれっきり途絶えてしまいそう。
見ているだけでも血湧き肉躍る感じになりそうです。

それと、母親が60になったのでおかみさんも母親も止める!と宣言して、
仕事の事務方からも家事からも手を引いて、外出がちになってしまったというのには、
拍手してしまいたくなったのですが、実はそれにも事情があったのでした。

けれどこの家の家事を、しぶしぶながらも他の家族みんなで公平に分担して、
ナントカこなせるようになっていく様は、見事でした。
主婦も、たまにはストライキ、やってみるべきかも。

武志の幼馴染み、典子(松本若菜)は、バツイチの子持ちですが、
実は武志に思いを寄せているらしいのも、ちょっと切なくてステキでした。
自衛隊員、と言うのもナイス!!です。

 

・・・、と、色々見所があって、大綱引というすばらしい伝統行事も知ることができて、
一見の価値ありです。

 

<Amazon prime videoにて>

「大綱引の恋」

監督:佐々部清

出演:三浦貴大、知英、比嘉愛美、中村優一、松本若菜

 

伝統行事を知る度★★★★★

家族愛度★★★★☆

満足度★★★★☆


アンダー・ユア・ベッド

2024年12月21日 | 映画(あ行)

異常なストーカーではあるけれど

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家でも学校でも、誰からも必要とされず、
存在自体を無視されていた男・三井直人(高良健吾)。
学生時代には、誰からも名前すら覚えてもらえません。
しかし、たった1人、「三井くん」と名前を呼んでくれた女性・佐々木千尋(西川可奈子)のことを
忘れることができません。

11年後、三井は千尋との再会を夢見ていましたが、ついに彼女を見かけます。
しかし彼女にはかつての快活さはなく、
暗く沈んで、まるで別人のようになっていました。
そこで、三井の千尋への純粋な思いは暴走をはじめます。

三井は千尋の家のすぐそばで熱帯魚店を開き、
その階上の居所から、千尋の家を監視しはじめたのです。
千尋は結婚して、夫と赤子との3人暮らし。

三井は、千尋を盗撮、盗聴しはじめ、
やがてついには家に侵入してベッドの下に潜み、
夫婦の営みまでを監視しはじめたのです・・・。

三井はもう間違いなくストーカーと化しているのですが、
その異常性にかすかに共感できる気がしてくるのも、本作の不思議なところ。

三井が千尋の家を監視して分ったのは、彼女が夫から酷い暴力を受けているということ。
ひどく憤りを感じる三井ですが、そもそも自分がやっているのも違法行為だし、
暴力を止めに入りたくても、自分の腕力にまったく自信がない。
ベッドの下で、ひたすら耐えているだけの情けないやつなのです・・・。

三井の願いは、ただ千尋のそばにいたい、近くで彼女の存在を感じていたい、
ということのみ。

そもそも学生時代に会っていたはずの千尋は、
三井のことをまったく覚えていなかったのです。
そんな相手に過剰に思い入れて、でも何も言い出せず何もできず・・・。
異常で情けない男の物語。

 

なかなかに心揺さぶられます。


<Amazon prime videoにて>

「アンダー・ユア・ベッド」

2019年/日本/98分

監督・脚本:安里麻里

原作:大石圭

出演:高良健吾、西川可奈子、安部賢一、三河悠冴

ストーカー度★★★★☆

透明人間度★★★★☆

満足度★★★.5


アネット

2024年12月07日 | 映画(あ行)

愛か、狂気か

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ロック・オペラ・ミュージカル(?)
兄弟バンド、スパークスが執筆したオリジナルストーリーをベースにしているとのこと。

それがもう、斬新でユニークで衝撃的って、
うーん、うまい表現が見つかりませんが、とにかく、
映画表現の世界もここまで来たかという、一見の価値がある作品。

スタンダップコメディアンのヘンリー(アダム・ドライバー)と
一流オペラ歌手のアン(マリオン・コティヤール)が出会い、恋に落ちます。
そして間もなく2人の間に女の子・アネットが誕生。
幸せいっぱいのはずなのですが、ヘンリーは愛に閉じ込められているように感じ始める。

ヘンリーのトークショーはあまりにも話が過激で乱暴なために客が離れていき、
一方アンの人気はますます上昇。
次第にすれ違う心を埋めるかのように、船の旅に出た家族ですが、
ある嵐の夜に事件が・・・。

大波に翻弄される雨で濡れた船の甲板で、
狂ったように踊る男女のシーンはなんとも危うく恐ろしく、印象的でした。

まだ赤子のうちに母を亡くしてしまったアネット。
しかし、そのアネットに奇跡が。
なんと美しい声で歌い始めたのです・・・!

 

実は、生まれたときからアネットは「人形」のすがたで描かれているのです。
なんの予習もなしで見始めたので、ここのところでまず驚きました。
もちろん登場人物たちには、生身の赤ん坊に見えているのです。
でも最後まで見て行くとその意味が分ります。

赤ん坊であるのに、歌をうたう。
その並みではない奇跡の子どもを表わしているということもあるのでしょうけれど、
それよりもアネットは、ヘンリーの思いのままに使われる「操り人形」
という意味を含んでいると思われます。

ヘンリーはお金儲けのためにアネットを歌わせ、興行で大もうけをするのです・・・。

そんなアネットが、終盤に父ヘンリーを断罪するときにのみ、
生身の人間の姿となります。
この時に初めてアネットは己の意志を強く持つということ。
それまでは、父の操り人形であったというわけで・・・。

ファンタジーであるような、寓話であるような・・・、
そう、怪談でもあるかな。
けれどとても現実的でもあります。

恐るべし。
映画の新たな可能性を見たような気がしました。

ほんの少しですが、古舘寬治さんや水原希子さんが出てきたのも嬉しかった!

 

<Amazon prime videoにて>

「アネット」

2020年/フランス・ドイツ・ベルギー・日本・メキシコ/140分

監督:レオス・カラックス

脚本:ロン・マエル

出演:アダム・ドライバー、マリオン・コティヤール、サイモン・ヘルバーク、
   デビン・マクダウェル、古舘寬治、水原希子

音楽性★★★★☆

ミラクル度★★★★☆

満足度★★★★★


海の沈黙

2024年11月25日 | 映画(あ行)

本当の美とは

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倉本聰氏が長年にわたり構想したという物語の映画化です。

 

世界的に著名な画家、田村修三(石坂浩二)の展覧会で、
作品の一つが贋作と判明します。
関係者の誰もが本物と信じて疑いすら抱いていなかったものを、
作者である本人がこれは自分が描いたものではない、と表明したのです。

また、北海道小樽では全身に入墨を施した女性の死体が発見されます。

 

この二つの出来事に関係する人物、それが津山竜次(本木雅弘)。

彼は若い頃、新進気鋭の天才画家と称されながら、
ある事件をきっかけに人々の前から姿を消しました。

かつて津山の恋人で、現在は田村の妻である安奈(小泉今日子)は、小樽へ向かい、
2度と会うことはないと思っていた津山と再会を果たします。

画壇を追われるようにして、姿を消していた津山。
彼は画壇に向けた思いをたたきつけるように、これまで絵を描き続けていたのです

すなわち彼が描き続けていたのは、「名画」とされているものの贋作。
それが、贋作とバレないどころが本物を凌駕する「美」を放っている・・・。

絵画における「本物」とはいったい何なのか。
描いた人物なのか、それとも、作品それ自体なのか。
贋作という判定を受けた途端にその絵が放っていた「美」は損なわれてしまうのか・・・? 
そうであれば絵の価値とは一体・・・?

私たちがいかに「権威」とか「金銭的価値」を基準に物事の判断をしているのか、
考えさせられます。

しかしまた、津山はここに至ってようやく、
自分自身の「美」を追求しはじめる。

というのが、テーマの一つ。
そしてもう一つ、サブストーリー的にあるのが大人の愛ですな。

安奈は田村の妻ではありますが、とうに愛情は薄れ現在別居中。
ただ田村が安奈を「妻」の座に縛り付けておきたいが為だけに、
離婚もできないでいるのです。
そんな中、安奈は過去の男、津山が忘れられない・・・。
けれど長く案じていた津山の居所が知れたとしても、
その胸にまっすぐに飛び込んでいけるほどの若さはない。

分別がありすぎる大人というのも、やっかいなものです。

一方、津山の方も彼女への思いを胸底に秘めたまま・・・。
けれど、世捨て人のようなこれまでの彼の人生、
女体への入墨を施すことなども仕事のひとつで、
何やらなまめかしい事情(情事?)もないわけではない。
ふむ。
やはり大人の愛ですな。

倉本聰人気でしょうか、映画館はご年配の方でいっぱいでした。

 

<シネマフロンティアにて>

「海の沈黙」

2024年/日本/112分

監督:若松節朗

原作・脚本:倉本聰

出演:本木雅弘、小泉今日子、清水美砂、仲村トオル、菅野惠、石坂浩二、中井貴一

 

美を考える度★★★★☆

大人の愛度★★★★☆

満足度★★★.5


あまろっく

2024年10月04日 | 映画(あ行)

一家の「あまろっく」とは?

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通称「尼ロック」と呼ばれる尼崎閘門によって、水害から守られている兵庫県尼崎市。

39歳近松優子(江口のりこ)は、リストラでこの尼崎の実家に戻って来ました。
実家は父(笑福亭鶴瓶)が小さな鉄工場を営んでいて、母はすでに他界しています。
優子は仕事ができて、それについてもプライドがありすぎるほどあったのに、
次の仕事は見つからず、結局定職に就かないまま
ニート状態で数年が過ぎてしまいます。

そんなある日、「人生に起こることは、何でも楽しまな」が信条の脳天気な父が、
再婚相手として20歳の早希(中条あやみ)を連れてきます。

家族団らんにこだわり、楽しもうとする早希。

自分より年下の“母”に戸惑う優子。

やがて、ちぐはぐでかみ合わない共同生活が始まります。
しかし、ある悲劇が起こり、優子は家族の本当の姿に気づきます。

経営者に甘んじて、まともに仕事らしい仕事もしない父。
「俺はこの家の尼ロックだ」、「俺はこの会社の尼ロックだ」と公言して、
寝転んでいるか、誰かとおしゃべりをしているか。
けれど本当に人がいいので、周囲の人には好かれているのです。

それにしても、そんな人物が20歳の女性と結婚とは・・・!
しかも、笑福亭鶴甁さんと中条あやみさんって、
ムリムリムリ・・・と、思ってしまうわけですが。
早希さんはよほど家族の愛に飢えていたと思われますね・・・。

ところが、思いがけない展開にビックリ。
人と人とのドラマは本当に予測がつきません。
あれだけイヤミなほどにツンケンしていた優子も変わっていきます。

水害から町を守るために作られたという尼ロック。
その説明から入っていく本作。
ステキな町の物語でした。

<Amazon prime videoにて>

「あまろっく」

2024年/日本/119分

監督・原案:中村和宏

脚本:西井史子

出演:江口のりこ、中条あやみ、笑福亭鶴瓶、松尾諭、中村ゆり、駿河太郞

変な家族度★★★★☆

郷土愛度★★★★☆

満足度★★★★☆


あの人が消えた

2024年10月01日 | 映画(あ行)

一体何を見せられているのか

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宅配会社の配達員・丸子(高橋文哉)。

彼の配達受け持ち区域の中に、「次々と人が消える」とウワサされるマンションがあります。
丸子はほとんど毎日のようにそのマンションを訪れるうちに、
怪しげな住人の秘密を知っていきます。
ある日、そのうちの一軒に魅力的な女性・小宮(北香那)が越してきます。
どうやら、その人は丸子が好きなアプリ小説を書いている当人らしい。

しかし、その後、小宮の姿が消えてしまいます。
丸子は小説家を目指す職場の先輩・荒川(田中圭)に相談。
怪しい住人の正体や小宮の行方を探り始めます。

作中で荒川が、
「寿司屋にマグロ食いに行ったら、ガパオライスがでてきた」
というたとえを多用します。
それくらいに、話の展開が予想外というかちぐはぐということ。

まさしく本作自体もその通り。
いなくなった女性の行方と、怪しげな住人の正体をさぐるミステリ的作品
かと思って見始めたわけですが、ところが・・・?

いや、これは素っ頓狂な警察のストーリー・・・?
戸惑いつつそんな状況を受け入れて、それを楽しみ始めた矢先に・・・。

ストーリーは勝手に二転三転。

本作のすべてが伏線、と、予告映像にあった意味が、
最後まで見てやっと分ります。

たくらみに満ちたストーリー。
ヤラレタ~。
最後の最後もまた、意表を突かれること間違いなし。

水野監督は、あのTVドラマ「ブラッシュアップライフ」を演出した方か。
なるほど~。

 

<シネマフロンティアにて>

「あの人が消えた」

2024年/日本/104分

監督・脚本:水野格

出演:高橋文哉、北香那、坂井真紀、袴田吉彦、菊地凛子、中村倫也、染谷将太、田中圭

予測不能度★★★★★

満足度★★★★☆


あんのこと

2024年09月25日 | 映画(あ行)

衝撃の結末ですが・・・

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売春・麻薬の常習犯、21歳、香川杏(河合優実)。
ホステスの母と足の悪い祖母との3人暮らし。

子どもの頃から、母に殴られて育ち、小4で不登校。
12歳で母の紹介で初めて体を売る・・・。
今も、そうして稼いだお金を母にむしり取られてしまうような毎日。

そんな彼女が、人情味あふれる刑事・多々羅(佐藤二朗)と出会ったことで、
更生の道を歩み出します。
また、多々羅の友人、ジャーナリストの桐野(稲垣吾郎)も
なにかと力を貸してくれるようになります。

 

本作、実話に基づいているということで、また少し胸が締めつけられてしまうのですが・・・。

小学校4年までしか学校に行っていない。
ということで、ろくに漢字も読めないような杏。
これもひとえに育児放棄&虐待の母親の責任ではありますが・・・。
しかしこのままではまったく彼女の未来が見通せない。
杏の腕にはリストカットの傷跡がいくつもあります。

そこへ、ちょっと風変わりでお節介な刑事登場。
多々羅は本気で杏の未来を心配し、
母親の元から引き離したり、薬物を止めるための会に誘ってくれたり。
実はその会も、多々羅が主催していたりします。
そして、桐野の世話で杏は介護の仕事に就きます。
夜間の学校へ通い、漢字や算数を勉強したりもする。
何事にも真摯で意欲的です。
きちんとした仕事について、誰かの役に立っているという自信が
彼女に勇気を与えているようです。
そして、きちんと彼女を見守ってくれる人の存在も。

暗いどん底の世界に埋没していた彼女ですが、
実は若い彼女の中には、ちゃんと前進しようとする力が眠っていたのです。
その日のことをノートに書き留め、薬を使わなかった日の丸印の数を更新し続けていた杏。

 

そこまでは実に順調で、これは1人の少女の更生の物語なのね・・・と思ったところへ、
暗雲が立ちこめます。
いきなりコロナ禍に突入。
学校は休みになってしまうし、介護の仕事はバイトの者は待機になってしまいます。



そして何よりも、杏にダメージを与えたのは多々羅の真実。
いやあ・・・まさかまさかですね。

こういう話だとは思いもよらず・・・そしてそのままラストに突入。
言葉をなくします。

 

下手な小説以上に現実は不可解で厳しい・・・。
せめて何か少しでも希望の光を見たかったのですが・・・。

いや、でもやり方次第では、杏のように自力では這い上がることができない人も
闇の世界から救い出すことは可能だということですよね。
そこの所に、意義を見出したいと思います。

私、河合優実さん、気に入ってしまいまして。
今、NHKの連続ドラマにも出演していますね。
今後、大いに有望な方だと思います。

 

「あんのこと」

2024年/日本/113分

監督・脚本:入江悠

出演:河合優実、佐藤二朗、稲垣吾郎、河井青葉、早見あかり

悲惨な生い立ち度★★★★★

更生度★★★★☆

満足度★★★★☆


おいしい給食 Road to イカメシ

2024年09月24日 | 映画(あ行)

給食愛がダダモレ

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「おいしい給食」劇場版の第3弾。

1989年、北海道函館の忍川中学に転勤してきた教師・甘利田幸男(市原隼人)。
例によって、給食が何よりの楽しみで学校に通っています。
ここに転勤したことで、とあるメニューが給食になることを楽しみにしているのですが、
いまだに登場していません。


さて、甘利田の給食におけるライバルは、生徒の粒来ケン。
甘利田は給食時間中、一人心中で、粒来とバトルを繰り広げているのでした。

甘利田は自らの給食愛を周囲に気づかれないようにしているつもりなのですが、
しかしそれは誰から見てもダダモレ。
クラスの副担任である新米教師・比留川愛は、
そんなところも含めて、甘利田に好意を抱いているようなのですが・・・?

 

そんな時、町長選挙を前に、忍川中が給食完食のモデル校に選定され、
政治利用されようとしていました・・・。

町長(石黒賢)は、子どもたちに食べ残しのない「完食」を強要したり、
グループを作らず一列に並び、まっすぐ前を向いて黙って食べる
・・・などといつの時代の話?という提案をして無理強いするのです。
そしてある時は給食創始期のメニュー、
パサパサのコッペパン、カチカチの塩引き鮭、脱脂粉乳などを出したりする。

甘利田は反感を持ちながら、一応宮仕えなので、我慢していましたが、
こんなのおかしいと声を上げたのは、あの粒来くんなのでした。

町長の主張は、一体いつの話?と思えるのですが、そうか、1980年代の話。
ということなら、まだそんな主張をする人がいてもおかしくないのか、と思ったりします。

 

そしてあの、悲しき「脱脂粉乳」。
実は私、小学生時代に少しの間函館市に住んでいたことがあって、
そのときに給食で脱脂粉乳を体験しています。

私は特別好き嫌いはなかったのですが、あの脱脂粉乳だけは大嫌いでした。
とても人間が食べるものとは思えないイヤな匂いと味。
作中で子どもたちが鼻をつまんで飲んでいましたが、
まさに、そうでもしないと飲めたものではありません。
ちなみに、同時期札幌市では牛乳がでていました。
転校して脱脂粉乳に出会ってしまった衝撃は、いまだに忘れることができません・・・。

余談でした。

給食時になると妙に浮かれて、とてもまともには見えない甘利田ではありますが、
しかしその実、子ども思いの、並み以上に大人な人物なのであります。
でもお酒には極度に弱くて、少し飲んでしまった翌日は、
前の夜のことは何も覚えていない。
しかしどうも何か失敗をやらかしたらしい・・・と、自分で怯えてしまう。
そしてまたほんの少し芽生えかけたロマンスの行方も・・・。

と、これらのことは本作中のほとんどお約束なんですね。

こんな変な市原隼人を見ることができるのも本作ならでは。
いいんじゃないでしょうか。

 

 

「おいしい給食 Road to イカメシ」

2024年/日本/111分

監督:永森裕二

出演:市原隼人、田澤泰粋、六平直政、高畑淳子、小堺一機、石黒賢

給食愛度★★★★★

満足度★★★.5


エイリアン ロムルス

2024年09月10日 | 映画(あ行)

来るぞ、来るぞ・・・

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リドリー・スコット監督1979年「エイリアン」のその後を舞台として、
20年後の出来事を描きます。

 

親の代に移住した惑星で、過酷な採掘作業につく若者たち。
このままでは先の人生の希望も何もありません。
ある時、6人の若者たちが廃船となった宇宙ステーション「ロムルス」を発見。
その船と装置を入手して、憧れの惑星ユヴァーガを目指そうと相談がまとまります。

そして、いよいよロムルスに到着して船内の探索を始めますが、
しかしそこでは恐怖の生命体・エイリアンが待ち受けていたのでした・・・。

エイリアンの血液はすべての物質を溶かすほど強力な酸性で、
うかつに攻撃を仕掛けて血を流そうものなら、船体に穴があいて、
宇宙に放り出されることになる・・・。
ということでろくに闘う手段もなく、逃げ場のない宇宙空間で
次々に襲い来るエイリアンに1人また1人と犠牲になっていく・・・。

男女を含めた6名の若者たちなのですが、
やはりといいますが一作目「エイリアン」からのお約束のように、
結局は1人の女性・レインがエイリアンと闘うことになるのです。
いまだに忘れられない、あのリプリーのりりしさ・・・。

さて、「エイリアン」が象徴するものとして、次のような解釈があるのです。
(内田樹氏の受け売り)

 

エイリアン=女性を妊娠させ自己複製を作らせようとする男性の欲望の形象化したもの。
そしてつまり、女性から見れば、
男性のエゴイスティックな自己複製欲望に屈服することの嫌悪と恐怖を表している。

 

このような視点から見ると本作はどうなのか、といえば・・・。
うーん、まあやはり、「エイリアン」の成り立ちとして
フェミニズム的思想を含んではいるのでしょうけれど、それほど強くは感じません。

むしろ作中の、人生の行き場を失い閉塞感にあえぐ若者たち、というところが
現代の若者たちの状況を反映しているといえそうです。
男女がどうこうということではなくて、自由を求めてあえぐ若者たちを、
さらに阻む有象無象のものたち・・・。

そういえばこの中に妊娠している女性がいて、
そのなりゆきにとてもいや~な予感がしてしまうのですが・・・、
まあやはり、でした。

詳しくは言えませんが、これらのことはつまり、
人類の進歩につながるはずの科学技術が、結局は不幸へとつながっていくということなのかも。

そしてまた、「エイリアン」ではこれも定番となっている「アンドロイド」の存在。

本作にも当初からアンディという一体のアンドロイドが登場します。
それはレインの弟ということになっているのですが、
実際は拾われてきたアンドロイド。
どこかIC回路に破損があるらしく、本来はずば抜けた知能と力があるはずが、
まったくか弱い存在となってしまっています。
しかし、ロムルスに身体が破損しているアンドロイドが一体あり、
その回路をアンディにはめ込むことで、アンディは生まれ変わります。
・・・が、しかしそれは元のアンドロイドが持っていた
恐ろしい「使命」をアンディが受け継ぐことでもあった・・・。

 

感情がないアンドロイドは、当初設定された己の使命が第一。
彼らは人々が思っているように人の幸福のためにあるものではない。
AIというものの本質をそこに見るようで、ちょっと恐いですね。

 

結局人類が追い求めてきた科学技術の進歩が、今は逆に若者に閉塞感を生み、
人類に不幸をもたらし始めている・・・
そんなことを言っているのかも知れません。

 

 

・・・とまあ、色々書いてはみましたが、作品としてはお化け屋敷探検みたいなもので、
とても「エイリアン」作品当初と同じ衝撃を感じるものではありません。
いつまでもエイリアン作品を作り続ける必要があるのかな?と思ってしまいます。

 

<TOHOシネマズ札幌にて>

「エイリアン ロムルス」

2024年/アメリカ/119分

監督:フェデ・アルバレス

出演:ケイリー・スピーニー、デビッド・ジョンソン、アーチー・ルノー、イザベラ・メルヒド

 

お化け屋敷度★★★★★

満足度★★★☆☆


愛にイナズマ

2024年08月28日 | 映画(あ行)

疎遠だったダメ家族だけれど・・・

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26歳、折村花子(松岡茉優)は幼い頃からの夢、
映画監督デビューを目前に控え、気合いに満ちていました。
そんな時に、少し風変わりな、空気の読めない男・舘正夫(窪田正孝)と
運命的な出会いをして、親しくなります。

ところが、映画の企画がプロデューサーらに丸ごと奪われてしまい、
監督の夢は消えてしまいました。
失意の花子を励ます正夫に、花子は泣き寝入りせず闘うことを宣言。

 

花子が撮ろうとしていたのは、元々花子の家族の話、「消えた母」のことを題材にした映画だったので、
実際に自分の家族を使って映画を撮ろうと思いつきます。
そこで正夫を伴い、10年以上も音信不通だった実家へ向かいます。

そこに集まったのは、父(佐藤浩市)、長男(池松壮亮)、次男(若葉竜也)。
花子は、母は外国へ行ったと聞かされていたのですが、
本当はどこにいるのかと父を問い詰めます・・・。

どうしようもなく壊れた家族のように見えていた、この家族。
しかし、「映画」のためといいつつ、この家族の問題を語り合ううちに、
今まで見ようとしていなかった互いの真実が見えてきて、
やはり「家族」なんだな・・・という充足感に包まれていきますね。
ここのあたりが実にお見事でした。

第一この名優揃いの家族、贅沢過ぎませんか? 
私の好きな俳優さん勢揃いなんですもの。
おまけに、正夫の親友役が仲野太賀さんなんですが、
こちらは仲野太賀らしからぬ(?)役柄で、これもまた洒落ている。

すごく気に入ってしまいました。
なんで公開時に見なかったのだろ。

 

「愛にイナズマ」

2023年/日本/140分

監督・脚本:石井裕也

出演:松岡茉優、窪田正孝、池松壮亮、若葉龍也、仲野太賀、佐藤浩市

家族愛度★★★★☆

満足度★★★★☆


おもかげ

2024年08月21日 | 映画(あ行)

2人の間にあったものは何?

* * * * * * * * * * * *

スペインに住むエレナは、元夫と旅行中の6歳の息子から
「パパが戻ってこない」という電話を受けます。
しかし、人気のないフランスの海辺からかかってきたその電話が、
息子の声を聞いた最後になってしまいました・・・。

10年後。
エレナはそのフランスの海辺のレストランで働いています。
いきなりスペインからやって来て、住み着いてしまったエレナを
周囲は変人と見ているようなのですが・・・。

ある日海岸を散歩中に、エレナはどこか息子の面影を持つ少年ジャンと出会います。
エレナに興味を持ったジャンは、彼女の元を頻繁に訪れるように。
この2人の関係は、周囲の人々に混乱と戸惑いをもたらします。

 

冒頭、1人海岸に取り残された息子は映像には現れず、
電話を受ける母エレナがひたすらパニックに陥っていく様子が描かれるのみ。
その後どうなったのかには一切触れられず、いきなり10年後になります。

おそらくそのまま息子は見つかることがないか、あるいは遺体が見つかって、
エレナはせめて息子を偲ぶ場所にいたいと思い、この地に移住してきたのでしょう。
そんなエレナが、生きていれば調度このくらいか、心なしか顔も似ている
あどけない笑顔をした少年と出会うのです。
それはもちろん、母が子供を思う感情。

でもジャンからするとそれはどうなのか。
エレナが自分に興味を抱いていることは伝わる。
そうして次第に親しくなって・・・。
そばにいて安らぎを感じる相手というのは分るのですが・・・。

私は、実は息子は生きていて、それがジャンだったなどという
いかにもドラマチックなストーリーかと思ったのですが、そうではありませんでした。
そうした疑惑をエレナが持たなかったところを見ると、
やはり息子の死は実際に確認されていたのでしょうね。

ジャンは家族とともに夏のバカンスとしてこの地に来ていたのです。
だから特別愛情に飢えた子供というわけでもない。

 

結局この2人の間にあったものは何だったのか。

イマイチ私には分りませんでした・・・。
それとも、分らないのが正解なのか・・・?

 

<Amazon prime videoにて>

「おもかげ」

2019年/スペイン、フランス/129分

監督:ロドリゴ・ソロゴイェン

脚本:ロドリゴ・ソロゴイェン、イザベル・ペーニャ

出演:マルタ・ニエト、ジュール・ポリエ、アレックス・ブレンデミュール、アンヌ・コンシニ

 

緊張感度★★★★☆

満足度★★★☆☆

 


赤羽骨子のボディガード

2024年08月06日 | 映画(あ行)

守り抜く絶対に!

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Snow Manのラウールくん主演ということで、楽しみにしていました!

同名コミックが原作なので、まあその面白さは保証付き。
通常の私なら見ない類いの作品ではありますが、
この際、四の五の言わずに楽しむのみ。

高校生赤羽骨子(出口夏希)は、なぜか100億円の懸賞金をかけられ、
殺し屋から狙われる身となっています。
幼馴染みの不良、威吹荒邦(ラウール)はボディガードを引き受けるのですが、
その条件としては、骨子本人に命を狙われていること、
およびそのためにボディガードがついていることを気づかれてはならない、ということ。

そしては荒邦はその後に知るのですが、
なんと骨子のクラスメート全員が彼女のボディガードなのでした。
司令塔、空手家、罠師、スナイパー、ハッカー、詐欺師など、
1人1人がその道のエキスパート。
この中で新入りの荒邦など、ただの威勢の良いヤンキーにしか過ぎません。
けれど、骨子を守りたいという気持ちは人一倍! 
彼らは一致団結して押し寄せる殺し屋軍団に立ち向かいます。
ところが、どうやらこの中に1人裏切り者がいるらしい・・・?

原作も全く知らなかった私は「赤羽骨子」と聞いて、
お金持ちのわがまま娘をイメージしてしまっていたのですが、
そうではなくて、純粋でダンスに励む一生懸命な可愛い子。
これなら頼まれなくても守ってあげたくなってしまいますね。

そんな彼女が何で殺し屋の大群に狙われることになってしまったかというと、
骨子自身は知らないのですが、
実の父が国家安全保障庁長官・月宮正人(遠藤憲一)で、
その父に恨みを持つものが娘を狙っているということなのです。
(原作では「ヤクザの組長」ということらしい)

そしてまた、本作のもうひとりのキーパーソンが、月宮正親(土屋太鳳)。
正親は正人の子供で、父の愛情が骨子だけに向かっていることに嫉妬し、
骨子を付け狙うのですが・・・。

正親と荒邦の出会いのシーンが傑作で、つい笑ってしまいます。

言うまでもなく、ラウールくんは黙って立っているだけでもアクションシーンでも
カッコ良くて、見惚れてしまいます。
ファンの方なら絶対に楽しめます。

エンディングで流れるBREAKOUTも、家で見るMVとは違って大音響、迫力あります!

私は映画でも最後は拍手喝采したくなるのですが、誰もしていないなあ・・・。

<シネマフロンティアにて>

「赤羽骨子のボディガード」

2024年/日本/117分

監督:石川淳一

原作:丹月正光

脚本:八津弘幸

出演:ラウール、出口夏希、奥平大兼、高橋ひかる、
   津田健次郎、皆川猿時、遠藤憲一、土屋太鳳

 

アクション度★★★★☆

コメディ度★★★★☆

満足度★★★★★

(多分に、個人の好みです)


お隣さんはヒトラー?

2024年07月30日 | 映画(あ行)

真実か、妄想か・・・?

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1960年、南米コロンビア。
故国ポーランドにてホロコーストで家族を失い、1人生き延びたユダヤ人のポルスキー。
今は、町外れの一軒家で穏やかな日々を過ごしています。

そんなところへ、隣家に15年前56歳で死んだといわれる
ヒトラーに酷似したドイツ人、ヘルツォークが引っ越してきます。
ポルスキーは、ユダヤ人団体に隣家がヒトラーだと訴えるのですが、信じてもらえません。

それなら自らの手でその証拠をつかんでみせる!と、ヘルツォークを監視しはじめます。

ところがそんなことをする内に、いつしか互いに行き来するようになり、
2人でチェスを指したり、ヘルツォークに肖像画を描いてもらったりするようになるのです・・・。

ちょうど1960年は、ドイツ親衛隊のアイヒマンが
南米コロンビアに潜伏していたのが発見されて、拘束されたという年。
だからもしかしたらヒトラーは生きていて
南米に潜伏しているということも有りうるかも・・・?
という想像を生んで、実際にそんなうわさが流れたことがあったようです。

冒頭、ユダヤ人の家族が集まって賑やかに写真を撮るシーンが映し出されます。
それこそがかつての若きポルスキー。
しかし今はその家族をすべて失い、年老いて一人暮らし・・・。
その心中はいかばかりかと、かなり感情移入してしまいます。

そんな彼はチェスが得意で、かつてチェスの国際大会でヒトラーを見たことがあるという・・・。
忘れもしない、その時の残酷な青灰色の目の色が、越してきた隣人と同じ・・・!

果たして、隣人は本当にヒトラーなのか、それともポルスキーのただの思い込みなのか・・・?
そんな疑惑渦巻く中で、ラストが気になりますが、真実は思いも寄らないところにありました!

混乱の時を過ぎて、なおつらい日々を過ごしてきたのはポルスキーだけではないのです。

切り口はユーモラスですが、心に響く物語。

 

<シアターキノにて>

「お隣さんはヒトラー?」

2022年/イスラエル、ポーランド/95分

監督:レオン・プルドフスキー

脚本:レオン・プルドフスキー、ドミトリー・マリンスキー

出演:デビッド・ヘイマン、ウド・キア、オリビア・シルハビ、キネレト・ペレド

歴史発掘度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


アメリカン・フィクション

2024年07月24日 | 映画(あ行)

黒人らしさが足りない、黒人小説家

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黒人の小説家モンク(ジェフリー・ライト)は、
作品に「黒人らしさが足りない」と評され、
半ばヤケになって冗談のようなステレオタイプな黒人小説を書きます。
ところがなんとその小説がベストセラーに。
その本は本名を伏せ、「脱獄囚の黒人」というウソのプロフィールで出版したのでしたが、
思いもかけない形で名声を得てしまうのです。

一言一句選びながら構成を練って仕上げた小説がほとんど売れず、
適当に書いた、いかにもウケそうな小説が売れてしまう。
モンクはこんなことで心穏やかなはずはないのですが、
認知症の母を施設に入れるためにもお金が必要で、
本が売れるのは正直ありがたい。
そんな複雑な状況。

しかも、自身が忌み嫌う「黒人=下品、粗野」という思い込みを
そのまま利用してしまった安っぽい本。

まあこれは、実際に出版業界や黒人作家の作品の扱われ方がこんな風である、
ということを暗に示しているわけなのですね。
いっそ始めから黒人であることを伏せた方が良かったのかも・・・などと思ってしまいました。
それじゃダメなんですけれど・・・。

おまけに、モンクはとある文学賞の審査員に抜擢されたのですが、
その授賞候補に彼のインチキ本「ファック」があがってしまった。
もちろん、モンクはその授賞には反対したのですが、
他の審査員がなぜかそれを推す。

「ファック」なんて言うのは映画などではよく聞きますが、
アメリカの実社会ではほとんど禁止用語。
特に白人の有識者層ではほとんど放送禁止用語なんですね。
だからこの本の題名を付けるときに、
モンクは編集者への嫌がらせのつもりで「ファック」といったのですが、
始め難色を示していた女編集者も最後には承諾。
いかにも黒人作家の小説的題名ということでそれがまた大ヒット。

モンクにとっては何もかもがバカバカしい・・・。

そんな狂騒的な状況を綴ったユニークな作品。

 

<Amazon prime videoにて>

「アメリカン・フィクション」

2023年/アメリカ/118分

監督・脚本:コード・ジェファーソン

原作:パール・エベレット

出演:ジェフリー・ライト、トレイシー・エリス・ロス、エリカ・アレクサンダー、
   イッサ・レイ、スターリング・K・ブラウン

皮肉度★★★★★

満足度★★★★☆