人の一生を見るのに3時間は短すぎるくらい
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今作品は、初公開版に51分・約60カットが加えられたものです。
私が以前見たのは短い方だったようです。
中年サルバトーレが島に戻って出会う人々とのエピソード等が加えられています。
シチリア島の田舎町。
そこに唯一あった娯楽施設が「パラダイス座」で、
映画が大好きな少年トトは、よく映写室に潜り込みます。
映写技師のアルフレードはそんなトトがかわいくてなりません。
昔のフィルムは燃えやすかったのですね。
熱でいつ火を吹くかわからないので、片時も目が離せない。
この村では司祭が映画の検閲をし、キスシーンなどはカットされてしまいます。
そのカットしたフィルムはトトのコレクションとなる、などのエピソードが楽しい。
ドラマ、記録映画、コメディ・・・
村の人がみなパラダイス座で一喜一憂。
1930~50年代の数々の名画の断片が映っており、往年の映画ファンにはたまらないでしょう。
う~ん、でも私の年でもわからないものばかりなんで・・・、
雰囲気だけ味わいました。
さて時は過ぎて、次にはトトが青年に成長しています。
ここからは幼名ではなく、サルバトーレと呼ぶことにしましょう。
サルバトーレは、アルフレードの後を次いで映写技師としてパラダイス座で働いています。
ある日彼の前に現れた美しい女性。
まさに青春ですねえ・・・。
初めは拒んでいたエレナでしたが・・・。
情熱の国イタリアの激しい恋。
ここで取り上げられる「王女と兵士の話」が、強く印象に残ります。
ある兵士が王女に恋をして、求愛したところ、王女は言います。
「100日間、私の窓の下に通い詰めることができたら結婚します。」
兵士はいつもいつも窓の下にいました。
雨の日も、寒さに凍える日も。
ところが99日目。
あと一日というところで、兵士は椅子をたたんでいなくなってしまいましたとさ。
どうして兵士は求愛をやめてしまったのかと、首をひねるアルフレードとサルバトーレでしたが・・・。
切なく恋は破れ、サルバトーレは島を後にします。
アルフレードは、「島はおまえをダメにする。
もう二度とこの島には帰ってくるな」と言うのです。
それから30年。
アルフレードに言われたとおりサルバドーレは、一度も島に帰っていなかったのですが
アルフレードの訃報をうけ、30年ぶりの帰郷を果たします。
自身はもちろんですが、すっかり年をとった島のなじみの人々。
すっかり変わった村の様子。
そして、あの新築ピカピカだったパラダイス座が廃館となり、近く取り壊しになるという。
時の流れに呆然とするのですが、
しかしかつての苦い恋の思い出は消え去ることなく、あのときのまま・・・。
途中で終わってしまった恋は、わずかな希望と共にそのまま胸に残るモノなのですね。
兵士が99日で求愛をやめてしまったのも、そんな理由がありそうです。
さて、トトには父親がおらず、またアルフレードには子供がいません。
そんなところで、父と子のように二人は情を通わせていくのですが、
次第にそれは父子というよりももっと純粋な“友情”のように感じられていきます。
少なくとも父親なら、家業を継いだ息子に満足して、島から出て二度と帰るなとは言いませんよね。
アルフレードはサルバトーレに映写技師では収まらない、何かもっと大きな器を感じたのでしょう。
情熱に任せて結婚し島で一生を送るよりも、もっと大きな何かができるはず・・・と。
長い年月の中で失ったものと得たもの、
その軽重は計ることができないし、やり直すこともできないけれど・・・。
サルバトーレは、アルフレードが残したフィルムを見ながら、
己の原点を見つめ直したのでしょう。
人の一生を見るのに3時間は短すぎるくらい。
エンニオ・モリコーネの名曲に懐かしさと切なさをかき立てられて、終幕です。
ニュー・シネマ・パラダイス/3時間完全オリジナル版
1989年/イタリア・フランス/175分
監督:ジュゼッペ・トルナトーレ
出演:ジャック・ペラン、サルバトーレ・カシオ、マリオ・レオナルディ、フィリップ・ノワレ