二人の青年の目を通して語られる、ナチス政権下ドイツ
神の棘Ⅰ (新潮文庫) | |
須賀 しのぶ | |
新潮社 |
神の棘II (新潮文庫) | |
須賀 しのぶ | |
新潮社 |
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家族を悲劇的に失い、神に身を捧げる修道士となった、マティアス。
怜悧な頭脳を活かすため、親衛隊に入隊したアルベルト。
寄宿舎で同じ時を過ごした旧友が再会したその日、二つの真の運命が目を覚ます。
独裁者が招いた戦乱。
ユダヤ人に襲いかかる魔手。
信仰、懐疑、友愛、裏切り。
ナチス政権下ドイツを舞台に、様々な男女によって織りなされる、歴史オデッセイ。
全面改訂決定版。(Ⅰ)
ユダヤ人大量殺害という任務を与えられ、
北の大地で生涯消せぬ汚名を背負ったアルベルト。
救済を求めながら死にゆく兵の前で、ただ立ち尽くしていた、マティアス。
激戦が続くイタリアで、彼らは道行きを共にすることに。
聖都ヴァチカンにて二人を待ち受ける"奇跡"とは。
廃墟と化した祖国に響きわたるのは、死者たちの昏き詠唱か、
明日への希望を込めた聖歌か―。
慟哭の完結編。(Ⅱ)
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これもまた、須賀しのぶさんの真骨頂とも言うべき一作。
ナチス政権下ドイツ。
幼馴染の二人が大きく道を違えて、後に再開します。
一人は修道士の道を選んだマティアス。
もう一人は、ナチス親衛隊に入隊したアルベルト。
さて、私、これまで二次大戦下の出来事は連合国側から見たものがほとんどでした。
本作はまさに内部、ドイツの状況をつぶさに描いており、
恥ずかしながら私が認識していなかったことも多く描かれています。
アルベルトがついた任務は教会の監視。
ナチスが攻撃対象としたのは共産党、教会、そしてユダヤ人。
教会のナチス政権への反発力をなんとか排除しようとしていたのでしょう。
しかし、人々の中に信仰は根強くあり、他国の反応もあることなので、
真正面から潰すことはできず、しかし様々な難癖をつけては
弾圧を続けていた、ということのようです。
そのため、マティアスとアルベルトは敵対関係となり、
マティアスはアルベルトに煮え湯を飲ませられ、憤りと憎しみを抱くようになります。
その非情さと冷酷さ、確実さを買われ、
SS将校として出世していくアルベルト。
SS将校といえばもう、通常はとんでもない憎まれ役なので、
この人物を主人公に据えて、一体どうするつもりなのかと、
私は心配になってきたのでしたが・・・。
しかし本作、アルベルトの心情も交えながら進められるのですが、
実は肝心なところが読者には伏せられていたのでした。
アルベルトの真実が語られるのは最後の最後。
・・・やられます。
私が驚かされたのは、終戦後、ドイツ人捕虜がアメリカ軍によってひどい環境にさらされ、
多くの人命が失われたということ。
ろくに食料も与えられず、水さえもあえて与えられなかったこともあったといいます。
ナチスがユダヤ人に対して行ったことを非難しながら
同じことをアメリカがしていた・・・。
このことを知る人はあまりいないのではないでしょうか。
いずれにしても戦争には「正義」などどこにもないということですね。
それにしても、誰に責任をなすりつけるのでもなく、
神にもすがらず、淡々と己の罪を受け入れていたアルベルト・・・。
カッコイイです・・・。
物語としては、出来過ぎですけれど、若干乙女心をくすぐられます・・・。
(いい年して乙女心?!)
私、単行本の初版で読みましたが、
文庫版で「全面改訂決定版」となっているので、
若干中身が変わっているのかも。
私が読んだものでは二人は幼馴染だけれど、親しくはなかった
という事になっているのですが、
文庫の紹介文では「寄宿舎で同じ時を過ごした旧友」ということになっています。
確かに、若い二人が会話したエピソードなどが描かれていれば、
二人の関係性にもっと深みが出ますよね。
なんだか気になります。
図書館蔵書にて (単行本)
「神の棘 Ⅰ・Ⅱ」須賀しのぶ 早川書房
満足度★★★★.5