映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「なぎなた」倉知淳

2014年06月30日 | 本(ミステリ)
バラエティに富み、楽しめる!

なぎなた (創元推理文庫)
倉知 淳
東京創元社
 

* * * * * * * * * *

死神を思わせる風貌の警部が、
完璧だったはずの殺人計画を徐々に崩壊へと導いてゆく
―倒叙ミステリ「運命の銀輪」をはじめ、
残虐な場面が上映されているにもかかわらず観客席の闇の中で
微笑を浮かべる女性の謎を追いかける傑作「闇ニ笑フ」、
米大統領選挙の熱狂の最中に発見されたひとつの死体の謎を
ファンタスティックな筆致で描く力作本格推理「幻の銃弾」など七編を収録。


* * * * * * * * * *


先に読んだ同著者による「こめぐら」と同時発売の本作。
読みたいと思いつつ・・・やっとこの度読みました。
これが面白かったですねえ・・・。
私としては「こめぐら」よりこちらのほうが好きかもしれません。
この本の紹介と同じく、私もこの3作がお気に入り。


冒頭「運命の銀輪」には、刑事コロンボのドラマ並に、
そ知らぬ顔をして犯罪を包み隠そうとする犯人を
意地悪く追い詰めていく警部が登場しますが、
その風貌がなんとも陰気でまるで死神・・・。
非常にユニークなキャラです。


「闇に笑う」では、映画館でバイトする主人公が、
戦争のなんとも悲惨な実録シーンを
「笑み」を浮かべながら見ている美しい女性の存在に気づきます。
彼女はなぜ笑うのか???
興味はつきませんが、真相になお一つの驚きがプラス。
何やら怪しげな題名ではありますが、実は感動のストーリーです。


ラスト「幻の銃弾」。
著者には珍しくアメリカはニューヨークが舞台で、
登場人物もすべてあちらの方。
・・・つまりは翻訳物を読んでいるような雰囲気たっぷりの異色作。
米大統領選挙でひしめく群衆の中で起きた一つの事件。
・・・なるほどこれは確かに、日本が舞台では成り立ちにくいストーリーなのです。
こんな風に粋なミステリを描くこともできるんだなあ・・・と、
ちょっと著者の力量に感動しました。


ノンシリーズ作品集。
バラエティに富んでいて、いろいろな可能性もあり、
ユニークな企画で成功していると思いました。

「なぎなた」倉知淳 創元推理文庫
満足度★★★★☆

アップサイドダウン 重力の恋人

2014年06月29日 | 映画(あ行)
ユニークな設定に想像力が掻き立てられる



* * * * * * * * * *

太陽を周回し、真反対に引力が作用する双子惑星。
このように初めから全くの異世界を舞台としながら語られるのは、
古典的な純愛の世界です。



この世界観を理解するためのお約束。
ふたつの世界にあるもの・生を受けたものは、
逆の世界に行っても元の世界の重力の影響をそのまま受ける。
双方の物質が数時間接触を続けると燃え出す。

こういう制約の中で、主人公たちがどのように逢って愛を育むのか。
まずはそういうとことから興味津々。

 



貧困層が多く住む「下」の世界に住むアダム(ジム・スタージェス)。
対して富裕層の「上」の世界に住むエデン(キルステン・ダンスト)。
双子の星なれど、多くのSFに見られるように、
ここにも歴然としてある格差社会。
そもそも、双方互いに「見上げた」ところにあるはずなのに、
一方を「上」と呼び、もう一方を「下」と呼ぶところからして、
その状況は定められているようなもの・・・。



二人は子供の頃、双方にある山頂で向かい合い、ひかれあうのですが、
その交流が人に知られて絶縁状態となってしまいます。
10年後。
二つの世界をつなぐ「トランスワールド社」に入社したアダムは、
エデンとの再会を試みるのですが・・・。

トランスワールド社のオフィスの光景が実にユニークです。
互いの天上に双方の世界のオフィスが広がっている。
そこでは会話も自由だけれど、
どこか「上」の世界の人々は「下」の世界の人々によそよそしい。
ところで、アダムが仕事としているのは、
アンチエイジングの美容クリームの研究で、
それというのは、クリームに逆の重力を持つ物質を混ぜ込み、垂れ下がった皮膚を持ち上げるというものなのです。
・・・おお!なんと画期的。顔のしわ伸ばしにはなりますが、
バストやヒップの垂れ下がりにも使えたら、それはいいかも!
(だがしかし、この地球上ではどう考えても実現不可能・・・)



愛しあう二人が抱き合えば、双方の重力が作用して、宙を舞う。
・・・ロマンチックですねえ。
思い切り、いろいろな想像力を掻き立てられて、楽しめる一作でした。
二人の子どもが生まれたら、どちらの重力を受けることになるのでしょう?
やはり、新しい世界の始まりに繋がるのかもしれません。



アップサイドダウン 重力の恋人 [DVD]
ジム・スタージェス,キルスティン・ダンスト,ティモシー・スポール
角川書店


「アップサイドダウン 重力の恋人」
2012年/カナダ・フランス/108分
監督:フアン・ソラナス
出演:ジム・スタージェス、キルステン・ダンスト、ティモシー・スポール

斬新な世界観★★★★★
ロマンス度★★★☆☆
満足度★★★★☆

「絵のある自伝」安野光雅

2014年06月27日 | 本(エッセイ)
カラーカットも交えてお得!!

絵のある自伝 (文春文庫)
安野 光雅
文藝春秋


* * * * * * * * * *

『旅の絵本』『ふしぎなえ』『ABCの本』などが世界中で愛されている画家の、初の自伝。
津和野での少年時代から『街道をゆく』の司馬遼太郎氏のことまで、
昭和を生きた著者の人生が、ユーモア溢れる文章で綴られる。
炭鉱務め、兵役、教員時代など知られざる一面も。
50点以上描き下ろした絵が心温まる追憶に味わいを添える。


* * * * * * * * * *

敬愛する安野光雅氏の自伝。
もちろん自身のカラーカットも入っていて、お得な本です。
安野光雅氏、1926年、島根県津和野町生まれ。
1926年というと・・・大正15年。
あ、うちの親と同じです。
戦争のまっただ中に青春時代を送った世代ですね。
氏の少年時代から近年まで、興味の尽きないお話が満載です。
特に、炭鉱務めの経験があるなどとは、
全く知らなかったので、驚きました。
そして兵役についたこと・・・。
でも直接戦地に行ったのではなく、香川県で、
「本土上陸を目指す敵を迎撃するための、上陸用舟艇の秘匿場を作るのが任務」
だったとか。
・・・て、言われてもよくわからない(?)。
ですが、よく話に聞くように
上官から"教育"という名目でぶたれたり叩かれたりした傷が
今も残っているという・・・。
でもこのへんの記述は実に淡々としていて、
特別そのことを恨みに思っているようでも、大げさに訴えようとしているのでもないあたり、
人物ができていますね。


近年の話では、来日したダイアナ妃と握手したことがあるとか、
司馬遼太郎氏との交流とか、これもまた興味がつきません。


私が安野光雅さんを知ったのはやはり「ABCの本」なのですが、
この本のことにも触れられています。
「旅の絵本」をまた引っ張りだして見たくなってしまいました。

「絵のある自伝」安野光雅 文春文庫
満足度★★★★☆

2014年06月26日 | 西島秀俊
お、重いっ・・・



* * * * * * * * * *

本作も西島秀俊カテゴリではありますが、ようやく氏が登場するのが半ばを過ぎてから。
 まあ、重要人物ではあるのですが、
実のところちょっと見た目が良ければ誰でもいいという程度の扱いでした・・・。


宮尾登美子原作、越後の作り酒屋を舞台とした女性の「情念」を描く物語。
 ほぼ20年前の作品で、はじめに「文部省推薦」と出たのがちょっと笑える。
「文科省」でなく「文部省」というところがまたね・・・。
 物々しいなあ・・・。


時代は大正~昭和初期。
 越後の銘酒「冬麗」蔵元の田之内家。
 女児誕生から物語は始まります。
 当主・意造(松方弘樹)の妻(黒木瞳)は、これまで何度も妊娠したけれどもすべてを失っています。
 意造は今度こそ強く育つようにと、女の子にも関わらず“烈”と命名。
 烈は願い叶って、すくすくと丈夫に育ちますが、
 病で視力が弱く、18の時についに失明してしまいます。
 それでも気性は名前の通り激しい烈(一色紗英)は、
 父の跡を継ぎ蔵を守り酒造りを続けることを決意。
 そんな時、若き酒つくりの職人・涼太(西島秀俊)に心奪われてしまうのです。
子役の時と人相ちがいすぎだろー!とは思う・・・。


物語は烈と、烈の亡き母に代わり彼女を育てた叔母(浅野ゆう子)、
 そして、一家の安定を図るためだけに後妻として意造に嫁いだセキ、
 3人の心情を綿密に描いていきます。
いづれも“家”に縛られる女達。
 ふうむ、今となっては過去の物語だなあ・・・。
でも、自分の心情を押し包み、結婚もしないでこの家と烈を見守り通していく
 叔母・佐穂にはちょっと心動かされました・・・。
うん、本作中では最もカッコ良かった。
それでまた、若い衆・涼太の心ばえがまた振るってるよ。
セキが、意造の子でない子どもを妊娠。
 烈は単なる嫉妬からそれが涼太の子どもではないかと勘ぐるのだけれど、
 それを知った涼太は
「お嬢さんが俺をそんな男だと思っていたなんて」
 と憤慨して、国に帰ってしまう。
・・・何にしても全く純潔なこの二人。
 じれったいことで・・・。


しかし、その後の烈の行動がまさに“烈”なんだな。
いや、無理。絶対無理だから、それ・・・。
まあ、そこが亡き母のお導きってことで・・・。


まあね、感動の物語ではあるよ。
 でもね、結局私は最後の最後に
 「この女、重いっ!!」
 と思ってしまった。
 こりゃだめだよ、これでは男は引くよ~。
皆さんは納得できるかな?
もしかして、20年前ならまだ「感動」できたのかもしれない。
最近の恋愛ドラマのスタイルというより現代の風潮なのかな。
 女はこんなに思いつめないと思う・・・。
時の移り変わりを強く感じる作品ではありました。
 それと私は日本酒ファンとして、酒造りのシーンが見られたのは嬉しかった。
そういうと思ったよ。しぼりたてのお酒、飲んでみたいよね-。
あの雪深い新潟で造るお酒は、格別のように思われるな。・・・。


さて、一色紗英さんは懐かしい。
 本作で何箇所からか新人女優賞を獲得したそうですが。
 実はこの役、はじめは宮沢りえさんを予定していたそうです。
なるほど、そのほうがイメージは合うような気がする。
 まあ、一色紗英さんも悪くはなかったけど。

藏 [DVD]
宮尾登美子,高田宏治
東映ビデオ


1995年/日本/130分
監督:降旗康男
原作:宮尾登美子
出演:松方弘樹、一色紗英、浅野ゆう子、黒木瞳、西島秀俊

時代性★★★★☆
西島秀俊の魅力度★★★☆☆
満足度★★★☆☆

ビザンチウム

2014年06月25日 | 映画(は行)
ヴァンパイアも楽じゃない



* * * * * * * * * *

ヴァンパイアもの・・・。
皆さんお好きですね-。
かつてホラーだったこのジャンルは、今や仄暗いロマンものとして定着。
私は萩尾元望都「ポーの一族」からのヴァンパイアファンではありますが
近頃はさすがに食傷気味で、映画も劇場公開では見なくなってきました。
本作は、「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」のニール・ジョーダン監督が
20年ぶりに再び手がけたヴァンパイアもの。



16歳で時が止まっている少女エレノア(シアーシャ・ローナン)が
たった一人の肉親クララ(ジェマ・アータートン)とともに
見知らぬ街から街へ移り住みながら200年の時を生きています。


海辺のさびれた保養地のゲストハウス「ビザンチウム」を訪れた二人。
エレノアは難病の青年フランク(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)と出会い、心ひかれていきます。



この二人の女性の性格が対照的。

クララは娼婦として身を立てており、
男を操る手練手管に長けています。
口から出る言葉は嘘ばかり。

一方エレノアは孤児院で無菌培養で育ち、
清廉な心を持ち続けている。
老人や余命幾ばくもない病人の許しを得た上、その血を得て生きる・・・
という慎み深いヴァンパイア。

ところがこの二人を追う何者かの影が・・・。
それはヴァンパイアの“血の掟”に背くこの二人を抹殺しようとする者達だった・・・。



永遠の生を得ているはずのヴァンパイアも実は大変生きにくいのです。
新鮮な血を得なければ生きられないというのは、
実は永遠に食べ続けなければ生きられない私達とさして変わりません。
その上掟に縛られ、人間界にあっては一つ処にとどまって暮らすこともできない。
そうまでして、生き続けていかなければならないのは、
もはや苦痛でしかないでしょうに・・・。
とまあ、そういう苦悩を抱えつつ、
孤独に生きるからこそのロマンなのでありましょう。



「ビザンチウム」は東ローマ帝国首都コンスタンティノポリスの古名、
現在のトルコ、イスタンブールであります。
詩人ウィリアム・バトラー・イエイツ「ビザンティウムへの船出」から
インスピレーションを得た題名とのこと。
作中に、十字軍遠征の時にビザンチウムで得た“剣”が登場しますが、
それこそがヴァンパイアの息の根を止める剣だったりします。
この海辺の町の沈んだ情景が素敵でした。

ビザンチウム [DVD]
シアーシャ・ローナン,ジェマ・アータートン,サム・ライリー,ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ
ポニーキャニオン


2012年/イギリス・アイルランド/118分
監督:ニール・ジョーダン
原作:モイラ・バフィーニ
出演:ジェマ・アータートン、シアーシャ・ローナン、サム・ライリー、ジョニー・リー・ミラー、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ

「ビザンチウム」
シックな風合い★★★★☆
ロマン・哀愁★★★☆☆
満足度★★★☆☆

ノア 約束の舟

2014年06月23日 | 映画(な行)
感動の持って行き所がない・・・



* * * * * * * * * *


「ノアの箱舟」については、キリスト教をよく知らない方でもおよそのところはご存知でしょう。
本作は旧約聖書に語られる、その、ノアの物語。
神の宣託で世界が大洪水に呑まれ、滅びることを知ったノア。
彼は強い使命感に突き動かされ、
家族とともに動物たちを載せるための巨大な箱舟を作り始めます。



神によって作られたヒトですが、この頃には“悪”がはびこり、
世の中が乱れに乱れていた。
・・・なにしろ、人類史始まってまもなく兄弟を殺してしまったあの「カイン」の末裔ですからね・・・。
それを忌々しく思った神は、ヒトをリセットしてしまおうと考えた。
なんとも身勝手ですが、そんなことを言うと信仰深い方々にお咎めを受けそう。
そもそも「神」は理不尽で気まぐれで、残酷なものです。
つまりはキリスト教であれなんであれ「神」の原点は、
人の手の及ばない「自然」の営みであるからなのかもしれません。
「ノアの箱舟」神話も、遠い昔の大洪水の記憶なのだと思います。
さて本作、そんな分析をするための作品ではありません!

 

本作の最も重要なシーンは、ラスト近く、
ノアが赤ん坊を殺そうとするシーン。
ノアは頑なに「人類を滅ぼす」ことが神の意志だと信じています。
だから自分たちの家族もこれ以上増えるべきでないと思っている。
自分たちが老いて死に絶え、やがてこの世から人の存在が消え去ることが神の望み。
それなのに、あろうことか子供が生まれてしまった。
このままこの子を生かすべきではない・・・と。


しかし、それは確かに自分の孫。
信仰と自身の感情の間で、彼は大いに逡巡する・・・。


いや、言いたいことはわかるのですが、残念ながらこのシーン、
私にとっては全く胸に迫りませんでした。
やはり、無宗教のなせる技なのでしょうか。
このノアを“狂信者”としか思えず、しらけるばかり・・・。
いや、私だけではありませんよ。
赤ん坊を殺そうとするノアに家族みなは反発。
特に、次男のハムは長男セムに嫉妬し、父への裏切り行為すらしてしまう。
妻と娘は赤ん坊を連れて、箱舟を脱出しようとさえする。
そんなわけで、ノアとその家族は
強い愛と信頼で結ばれているというわけではないのです・・・。
いじけたノアはぶどう酒で呑んだくれる始末・・・。



また、予告編では全く触れられていなかった「トランスフォーマー」?みたいな岩石巨人たちが登場。
はじめ、あれ?これはファンタジーだったのかと思ったのですが・・・。
家族から疎まれるダメ父親像とか、変なファンタジー色とか・・・
極めて現代的ではありますが、
だからなのか焦点ボケ。
どうにも「感動」の持っていきようがない残念な作品でした。


ただ、セムとハムの関係性にカインとアベルが重ね合うところはよかった。
そこに登場する、兄の婚約者イラ。
これはむしろ「エデンの東」の構図に似ていますね。
そのためか、兄のほうがただの凡庸な男に思え、
弟のほうが魅力的です。

「ノア 約束の舟」
2014年/アメリカ/138分
監督:ダーレン・アロノフスキー
出演:ラッセル・クロウ、ジェニファー・コネリー、レイ・ウィンストン、エマ・ワトソン、アンソニー・ホプキンス ローガン・ラーマン

スペクタクル度★★★☆☆
満足度★★☆☆☆

「55歳からのハローライフ」村上龍

2014年06月22日 | 本(その他)
55歳からでも新たな“ライフ”を!

55歳からのハローライフ (幻冬舎文庫)
村上 龍
幻冬舎


* * * * * * * * * *


希望は、国ではなく、あなた自身の中で、芽吹きを待っている。

多くの人々が、将来への不安を抱えている。
だが、不安から目をそむけず新たな道を探る人々がいる。
婚活、再就職、家族の信頼の回復、
友情と出会い、ペットへの愛、老いらくの恋…。
さまざまな彩りに充ちた「再出発」の物語。
最新長編小説。


* * * * * * * * * *


この本、解説で北野一さんも述べていますが、
パッと見で「55歳からのハローワーク」だと思っていました。
だって「13歳のハローワーク」という本を著している方でもありますし、
てっきり今度はシニア向けの職業案内もしくは、転職をテーマにした本なのかと・・・。
しかし、よく見れば「ハローライフ」なのですね。
「ワーク・ライフ・バランス」という言葉もあるくらいで、
「ライフ」をどのように充実させるか、
それは「ワーク」をどれだけ充実させるのかと同じく、
非常に重要な事であるわけです。
本作では、55歳で人生の転機を迎えた5人の男女のが、
これまでの人生を見つめなおし、
新たな道を歩み始める様子が描かれています。


これが60歳であればまあ一般的「定年」の年齢で、
「勇退後の生活」というイメージが大きくなりますが、でも55歳。
まだこれまでの仕事や生活が続くことが予想される年代なのかもしれません。
だけれども、あえて、まだ終わっていない人生をやり直すという意味で、
55歳、というのには意義があると思います。


私は冒頭の女性の話が気に入っています。
夫が退職して、一日中テレビを見ながらブツブツ文句と愚痴を言っているのが
耐えがたく嫌になってしまった。
そこであっさりと離婚し自活を始めますが・・・。
生活は楽ではないし、やはりひとりでは寂しい。
そこで結婚相談所に登録し、お見合いを重ねます。
結局は、元の夫か、新たな夫の元へ戻っていく物語なのかとおもいきや・・・、
そうではないところが気に入りました。
お一人様、いいじゃないですか。
いくつになったって、女は自立して生きていけばいい。
初めからそういう道を選択する人だっているのですし。


これらのストーリーのなかにはもうひとつ、共通項がありまして、
それは「飲み物」です。
それぞれの主人公たちが、自らの気持ちを慰めるために飲む「飲み物」が登場します。
それは紅茶であったり、コーヒーであったり、
水であったりしますが、そんなところの描写も楽しめます。
私ならさしずめ・・・やっぱり紅茶かな?
特にダージリンのファーストフラッシュは、私にほんのり幸福感を呼び起こす。
贅沢感、なのかもしれません・・・?


私、55歳はちょっと過ぎているけど・・・、
家出して、全く違う人生に飛び込んでみたいなんて気持ちはあるなあ。
実行に移す勇気はありませんが。


NHKでドラマ化。
さっそく見ています。

「55歳からのハローライフ」村上龍 幻冬舎文庫
満足度★★★★☆


2 / デュオ

2014年06月21日 | 西島秀俊
女の行動が理解不能

* * * * * * * * * *

えーと、1997年の作品。
と~っても若い西島秀俊さんに、思わず見とれる冒頭シーン。
だけれども、次第になんだかなあ・・・と思えてきてしまいます。
 あ、西島さんが悪いのではなくて、このお相手役の女性の心理が、
 ちーっとも迫ってこないというかピンぼけに思えてねえ・・・。


ブティックで働く優(柳愛里)は、売れない俳優の圭(西島秀俊)と同棲しています。
まあ、ほとんど圭はヒモ状態だね。
 なにげに優にお金をせびっていたりして。
しかしそれはそれで、穏やかで平和だったわけです。二人にとって。
でもある日、圭がプロポーズの言葉を口にした時から、二人の平穏な時が崩れていく。


圭はほとんど仕事がなくなってしまい、自分の将来が見えなくて不安だったんだろうね。
それで、結婚することによって何かを変えたかった・・・。
 というか、優との結びつき(=金ヅル)をもっと強固なものにしたかっただけという気もする。
でも、優はウンとはいわなかった。
 なぜ急に圭がそんなことを言い出したかわからなかったから。
うん、このへんまではよく分かるよ。
 そりゃそうだよね、虫のいい圭の気持ちも透けて見える感じだし。
 でも問題はそこから先なんだな。
圭は気分を害して、急に怒ったり、部屋をめちゃくちゃにしたりするんだよね。
そのとき、優は「もうアンタなんか出て行って!!」とはっきり言えばよかったんだよ。
でもなんだかヘラヘラしてて、圭が出ていこうとするとすがりつく。
うわー!嫌だ。
 私はこういう未練がましい女が一番嫌いなのさ!
そしてすっかり危うい精神状態になってしまった彼女は、仕事も手につかず、
 ついには仕事もやめて姿をくらますのであった・・・
あ、そこまで言っちゃったら、ネタバレじゃん。
いや、だってさ、この女のわけわかんなさ説明しようと思ったら、
 ここまで言わないとね・・・。
いやー、だから初めから男の方を追い出すべきでしょ、といってるのに。
 自分から逃げてどうするのさ。
 うーん、理解不能。
 当時、こういう女のわけわかんなさが、魅力だったりしたわけ?
いやあ、そんなはずはないけど・・・。


それから、作中、この二人に対して、インタビューみたいなシーンがあるよね。
 二人の行動の理由を語らせようとする。
 それもなんだかピント外れ。
 そんなところで説明をいれようとしちゃだめだよ。
 ・・・というかそもそもちっとも説明になってないし。
男の側の心理はまあ、わかります。
 わからないのは、こんな女のどこが好き?ってことだけど・・・。
 でも自分が女であるがゆえに、
 女側の心理は理解不能で、感情移入もし難く、不満しか残らない作品となってしまった・・・。
そしてまた、ラストがまた、信じられないんだよー!
 アンタには信念ってものがないのかい!ってね。
残念~。

2/デュオ [DVD]
柳愛里,西島秀俊,渡辺真紀子,中村久美
ハピネット・ピクチャーズ


「2 / デュオ」
1997年/日本/90分
監督:諏訪敦彦
出演:柳愛里、西島秀俊、渡辺真紀子、中村久美
こんな女はイヤ度★★★★★
満足度★☆☆☆☆

春を背負って

2014年06月19日 | 映画(は行)
「逃げ」でもアリだ!



* * * * * * * * * *

木村大作監督による、「剣岳点の記」に次ぐ山岳映画。
立山連峰にある山小屋を営む家族と、
そこに集う人々の人生や交流を描きます。



亨(松山ケンイチ)は、外資系投資銀行のトレーダーとして勤務をしていますが、
父の訃報を受け、郷里に帰省します。
彼の実家は母が民宿を営み、父は山小屋を運営。
しかしその父が亡くなり、山小屋は手放さなければならないだろうということになるのですが、
そこで亨は大きな決断をします。
会社をやめて、自分が山小屋を継ぐというのです。


ストーリーの流れを見る限り、
どうもこれは彼の「逃げ」であるようにも見受けられるのです。
大金を動かす仕事に虚しさを覚えていたのは事実。
そのような「逃げ」の姿勢で大丈夫なのかな? 
見る側にも一抹の不安がよぎりますが・・・。



子供の頃から父に鍛えられて、もちろん山登りの経験はあるのですが、
何しろ長い都会暮らしで、始めのうちは荷物の運搬も危なっかしい。
彼一人だったら、すぐに挫けていたかもしれません。
けれどもそこには彼を支えてくれる人がいました。
亡き父の友人、悟郎(豊川悦司)と、
山中遭難しかけたところを父に救われたという天真爛漫な女性・愛(蒼井優)。
山の広大で美しい自然を背景に、
彼らの手を借りて少しづつ山の生活に馴染み、
新しい人生に立ち向かって行く亨が描かれていきます。

 

「人はみな何かを背負って生きていかなくてはならない。」

「一歩、一歩、確実に。」

山の上ではこういう言葉の数々も、実感を持って迫ってきますねえ。
結局は、「逃げ」でもいいじゃないか。
「逃げ」た先で、新たな自分が発見できて、新しい道がひらけるなら、
大いに「逃げ」もありだな・・・と思う次第。
そういえば、こんなセリフ「銀の匙」の中でも
エゾノーの校長先生が言っていましたねえ。



立山の室堂までは観光で行ったことがあります。
あのあたりだけでも十分素晴らしかったですが、
その先にまた、あのような絶景が広がっているのでしょうね・・・。
山の鮮烈な空気感が感じられる、素敵な作品でした。


イヤそれにしても、トヨエツさんを背負って山を歩くなんて、
すご~く大変そう・・・。
ご苦労様でした!! 松山ケンイチさん!
池松壮亮くんも出演しているのですが、これが関西弁のオニーサン。
しかし、亨に自分の仕事の「責任」自覚させる、大事な役どころでもありました。



「春を背負って」
2014年/日本/116分
監督:木村大作
原作:笹本稜平
出演:松山ケンイチ、豊川悦司、蒼井優、檀ふみ、小林薫、池松壮亮
山の空気感★★★★★
満足度★★★★☆

ヒミズ

2014年06月18日 | 映画(は行)
危うい淵に立つ少年。手を差し伸べる少女。



* * * * * * * * * *

「地獄でなぜ悪い」が気に入った私は、
これまでまだ触れていなかった園子温作品に挑戦。
この「ヒミズ」は、主演二人が第68回ヴェネチア国際映画祭で
最優秀新人俳優賞(マルチェロ・マストロヤンニ賞)を受賞したことで話題になりました。
気になってはいたのですが、見逃していた作品。



原作は古谷実の同名コミック。
15歳住田祐一(染谷将太)は、
自分が「たった一つの花」などではない、花でなくていい、
ひっそりと普通に一人の“立派な大人”として生きていきたいと思っています。
ヒミズというのは「日見不」。
つまり日を見ないもぐらのこと。
そのもぐらのように日が当たらなくてもいいから地味に普通に生きたい、
というのが彼の望み。
中学生のくせに夢も希望もない? 
いえ、次第に彼の家庭事情がわかってくるのですが、
父親はたまに戻ってきては暴力をふるいお金をむしりとって、また出ていくというロクデナシ。
母は男を作って祐一を捨てて逃げてしまう・・・。
親子の愛情など何処にもなく、
15歳にして一人きりで生きていかなければならないという悲惨な状況になってしまいます。
そんな彼にとっては、自分の夢をかなえるとかお金を儲けるなどということは論外で、
普通に平穏に生きること自体が叶わぬ夢のように思えるのかもしれない・・・。

  

そんな祐一のファン(?)なのが、同級生の茶沢景子(二階堂ふみ)。
はじめの内、ただ元気が良くてエキセントリックな女の子、と見えていたのですが、
実は彼女も普通ではない家庭の事情で、
行き場のない悲しみと孤独に喘いでいたのです。
強引に擦り寄ってくる景子に、祐一は冷たい視線を投げかけます。
「住田君」、「茶沢さん」とよそよそしく呼び合う二人が、
つかみかかり、殴りあったりもします。
自分と同じ孤独の匂いがする祐一に、景子が惹かれるのはよくわかります。
自分の事情など一言も口にせず、
元気を絞り出して祐一の貸しボート屋を盛り立てようとする景子。
次第に祐一の心もほぐれていくように見えました。



しかし、そんな時に、“事件”は起こるのです。


親に見捨てられる位ならまだいい。
でも親に「おまえなんか死ねばいい」といわれた子どもはどうすればいいのでしょう。
自分が生まれた意味、生きている意味を根底から覆すこの言葉は、
残酷に祐一の胸に突き刺さります。
祐一は絶望と狂気の淵に立つ。



ここでの茶沢は、ガールフレンドというよりもむしろ“母”なのだと思います。
祐一のすべてを理解し、受け入れようとする。
何よりも現実的で、正しくまっすぐだ。
祐一の危うい淵にそっと手を差し伸べる景子には、
何もかも委ねてしまえばいいのだ・・・という安心感がありますねえ・・・。



震災地の崩壊した街近くを舞台としているのが、
祐一の崩壊した魂と呼応して、いっそうの寂寥感を生み出していました。
しかし実のところ、祐一の周りには彼を気遣う人たちも多くいたのですけれどね。
そういうところに寄りかかろうとしない祐一の硬質な心も、
まあ、若さゆえでありましょう。
若さと、若さゆえの彷徨、
そしてしなやかな強さがあふれる一作、見応えがありました。
窪塚洋介はいかにもそれらしいイカス役。
チョイ出に吉高由里子も。

ヒミズ コレクターズ・エディション [DVD]
染谷将太,二階堂ふみ
ポニーキャニオン


「ヒミズ」
2001年/日本/129分
監督:園子温
原作:古谷実
出演:染谷将太、二階堂ふみ、渡辺哲、吹越満

最悪の状況度★★★★★
主役二人のフレッシュ度★★★★★
満足度★★★★☆

グランド・ブダペスト・ホテル

2014年06月17日 | 映画(か行)
郷愁を呼ぶ砂糖菓子、しかしその甘さに騙されるなかれ



* * * * * * * * * *

1960年代。
古くてさびれたブダペストホテルで、
ある作家(ジュード・ロウ)が、ホテルのオーナーからこのホテルを手に入れた約30年前の経緯を聞くのですが、
本作はその時の話を描いています。


時はさかのぼり1930年代、
東ヨーロッパが誇る豪華で格式の高いグランド・ブダペスト・ホテル。
そこのコンシェルジュであるムッシュ・グスタヴ・H(レイフ・ファインズ)は、
従業員からも宿泊客からも厚く信頼を得ている有能な男。
ある時、長年懇意にしてきたマダム・Dが、何者かに殺害されてしまいます。
その遺産相続騒動に巻き込まれたグスタヴが、
ベルボーイのゼロ・ムスタファ(トニー・レヴォロリ)を引き連れ、
ドタバタの冒険劇を繰り広げます。



独特のユーモアを根底に、
ミステリアスでちょっと甘く懐かしい感じがする。
なんともいえないこの雰囲気は、
なるほど、ウェス・アンダーソン監督独自のものですね。
家柄とか格式とか・・・そういうものが頑固としてあった時代。
まあ、実際はいいことばかりではなかったでしょうけれど、
欧米の方々はこういうことに郷愁を感じるのでしょうね。
カラートーンも全体に甘く、まるで砂糖菓子のようです。
残酷シーンまで砂糖にくるまれてる感じ。
コンシェルジュは自身のホテルと仕事に最大の誇りを持ち、
従業員もまたチームワークよく、自身の役割に誇りを持って、くるくるとよく働く。
豪華で清潔で、いかにも泊まってみたい感じのするホテル。



しかしその30年後のホテルの様子が、対比するとまた面白いのです。
いかにも古ぼけて寂れている。
時の流れのウツロイが実によく現れています。


そして、出演陣のなんとまた豪華なこと!
普通これだけ登場人物が多いと、私など途中でだれが誰やらわからなくなって、
興味が半減してしまう事が多いのですが、
これだけ見知っている俳優さん(しかも個性派揃い)が起用されていれば、
さすがに人の区別はつくので、わかりやすい!!



でも、油断はなりません。
様々なところに面白みの仕掛が散りばめられているので、
私などどれだけ見届けられたのか、怪しいところです。
最高のコンシェルジュ?
いやいや、意外と食わせ物だったりしますね・・・。
中心となる、ムッシュ・グスタヴと、ベルボーイのゼロのコンビが最高です。
これって、どちらかが「ボケ」の役に徹すれば、完全にドタバタコメディになるのですが、
本作はそうではなく、あくまでも上司と下っ端。
しかもそれぞれに優秀。
互いに助け合い、補いあっていくこのコンビには、なかなか胸がすきます。
こういう作品は出演している皆さんも何だか楽しそうだなあ・・・。



本作はドイツのゲルリッツという街でロケが行われたそうで、
ヨーロッパの古い町並みがそのまま残ってるわけです。
ちょっと行ってみたくなりますね。


劇場にまた行くゆとりはないかと思いますが、
DVDでもぜひまた見たい作品です。

「グランド・ブダベスト・ホテル」
2014年/アメリカ/100分
監督:ウェス・アンダーソン
出演:レイフ・ファインズ、F・マーレイ・エイブラハム、マチュー・アマルリック、エイドリアン・ブロディ、ウィレム・デフォー、ジュード・ロウ、トニー・レヴォロリ、シアーシャ・ローナン
郷愁度★★★★☆
ユーモア度★★★★★
満足度★★★★★

インサイド・マン

2014年06月15日 | 映画(あ行)
胸のすくクライムストーリー



* * * * * * * * * *

マンハッタンの銀行に押し入った強盗団と警察の攻防を描きます。
ある白昼、銀行に4名の強盗が侵入。
彼ら(女性1人)は、塗装屋のツナギの服を着ています。
銀行の従業員と。居合わせた客約50名を人質に、
そのまま立てこもってしまいます。
犯人リーダー(クライブ・オーウェン)は、バスとジャンボ機を要求。
刑事(デンゼル・ワシントン)が、犯人との交渉に当たりますが・・・。
犯人たちはどうも現金を奪うことが目的ではないのです。
そこの貸し金庫に入れられた何かが目的らしい。
刑事たちの動きとは別に、
銀行の会長と彼から依頼を受けた弁護士(ジョディ・フォスター)が動き始めます。



このような事件の場合、犯人がどのようにこの場を逃げるのかが一番の問題になりますね。
銀行の周りは無数の警官と野次馬が取り巻いています。
どう考えても袋のネズミで、
彼らは追い詰められ、時間の問題で捕まるか射殺されるのがオチのように思えるのですが・・・。
しかし、そうならないところが本作のミソなのです。
犯人たちは人質全員に彼らと同じツナギの作業服を着せて覆面をさせます。
人質同士でも、誰が誰やらわからないし、
いざ、人質開放となっても犯人は人質に紛れてしまう。
うーむ、こういう手があったのか。
でも、これでは現金はおろか何か価値のあるものを銀行から持ちだそうとすれば、
バレてしまいますよね。
元に、警察は人質一人ひとりを入念に調べ上げます。


しかし、奇想天外の方法で、犯人リーダーは脱出を図るのです。
なかなかに胸のすくクライムストーリーでした。
死傷者ゼロ。
銀行内の現金は手付かず。
これもいいですね!

インサイド・マン [DVD]
テレンス・ブランチャード,ブライアン・グレイザー
ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン


「インサイド・マン」
2006年/アメリカ/128分
監督:スパイク・リー
出演:デンゼル・ワシントン、クライブ・オーウェン、ジョディ・フォスター、クリストファー・プラマー、ウィレム・デフォー

頭脳プレイ度★★★★★
満足度★★★★☆

「屍の園 桜井京介 episode 0」 篠田真由美

2014年06月14日 | 本(ミステリ)
少年の日の桜井京介

屍の園 桜井京介episode0 (講談社ノベルス)
篠田 真由美
講談社


* * * * * * * * * *

世俗から隔絶された全寮制の男子校・聖マカーリィ学院。
高等部2年生の饗庭怜は、鐘楼と呼ばれる塔から落下し、
その前後の記憶を失ってしまった。
学校では、自殺未遂と噂されたが、怜には自殺する理由など思い当たらない。
友人・白石智生から殺人未遂の可能性を示唆され、真実を探ろうとする怜。
失われた記憶のピースを集める中、怜は死体を発見してしまう。
何者かに追い詰められていく怜に手を差し伸べたのは、
中等部1年生の工藤アキラだった。


* * * * * * * * * *

待ってました、桜井京介。
とはいえ本作は「エピソード・ゼロ」というだけあって、
彼がまだ"桜井京介"と名乗る前の出来事。
あの、シリーズ最終話の場所、
エサン岳の麓にある聖マカーリィ学院が舞台です。


主人公は工藤アキラ(=後の桜井京介)ではなく、
饗庭(あいば)怜で、
彼が学院の中で謎の事件に遭遇し、次第に追い詰められていくところを、
工藤アキラの知能と推理力に救われるというストーリー。
そもそも登場人物がさほど多くないので、
犯人とかは見当がつきやすかったりするのですが、
本作はそのミステリ性よりも、
ひたすら工藤アキラくんの行動に興味を惹かれるわけなので、
これでいいんです!!(キッパリ!)


誰もがはっとするほどの美少年で、
積極的に人と関わろうとするタイプではないのだけれど、
困った人を見ると放っては置けないという基本的に優しい彼は、
やはり私達のよく知っている桜井京介なのです。


約20年を経て邂逅する彼らのシーンがよろしい。
それぞれに落ち着いた大人になっているのはうれしいですね!
次にはまた違う時代の桜井京介に出会えるでしょうか。
楽しみです。

「屍の園 桜井京介 episode 0」 篠田真由美 講談社ノベルス
満足度★★★★☆

ディス/コネクト

2014年06月13日 | 映画(た行)
現実の人間関係の希薄さ故に



* * * * * * * * * *

私、この題名とチラシの印象で、なんだかホラー作品のように思ってしまっていたのですが
決して、そうではありません。
きわめて今日的テーマではありますが、つまりは人と人とのつながりの大切さを描く
見応えのあるドラマです。

★イタズラでSNS上女性になりすまし、同級の少年をいじめる少年たち。
しかしやりすぎて、その少年が自殺を図ってしまう。



★ネットで個人情報を盗まれ、貯金をすべて奪われてしまった夫婦。



★ポルノサイトに出演する未成年者にインタビューを試みる女性TVレポーター。




SNSがらみの事件に巻き込まれる、3組の人々の群像ドラマです。
・・・だからネットのつながりは怖い、と、そういうこともあるのですが、
そもそも彼らがSNSにハマる原因は、
いずれも、現実の身の回りの人とのつながりの希薄さ。

自殺を図った少年は友人もなく、
父親にも無視されていると感じていた。

チャットにハマった妻は、夫に省みられなく、
チャットのやり取りで心を慰めていた。

ポルノサイトの少年は、
「みんなを興奮させているだけ。悪いことはしていない」という。


友人や家族。
本当は手を伸ばせばもっとわかりあえて、気持ちが通じ合える存在がそこにあるのに、
何故か見知らぬ相手とのつながりを本物と感じてしまう。


自殺した少年の父は、イタズラの犯人を突き止めようとパソコンにかじりつき、
昏睡状態の息子を省みようともしない。
それを見た少年の姉は

「そうやって、あの子がこうなってしまった現実から目を背けているだけ」

と父をなじる。
確かに。
いつからこんなふうになってしまったのか。
なんだかちょっと身につまされるところもあるのでした。
もっと現実の人とのつながりを大事にしよう・・・。
でも、作中にもありますが、
SNSでは見知らぬ相手だからこそ、素直に本音を話せる場合もあるのですよね。
でも、それがどんな相手なのか何もわからないというところが
実はやっぱり怖い。



何も知らないうちに、個人情報を盗まれカードで預金がみな使われてしまっていた、
などというのは、その現実もさることながら、
その「見えない悪意が」実に不気味で怖い。
昔ながらに、パソコンなんて使わない生活のほうが幸せのように思えてくる。
でも、私達はもう決して元には戻れないでしょうね・・・。



3つの事件は、それぞれが同時に危ういクライマックスを迎えます。
その盛り上がりはなかなかです。
(先日「マグノリア」を見た私は、
この辺りでカエルが降ってくれば一丁上がりなのだけど・・・と、思ってしまいましたが。)
でもイタズラに悲惨な最後とはならないところが救いでした。
というよりむしろ、それぞれにこの苦難を乗り越えた結果が出るところが
やはりいい。
まさに今どき、見るべきドラマです。



「ディス/コネクト」
2012年/アメリカ/115分
監督:ヘンリー・アレックス・ルビン
出演:ジェイソン・ベイトマン、ホープ・デイビス、フランク・グリロ、ミカエル・ニクビスト、ポーラ・パットン

現代的テーマ度★★★★★
満足度★★★★☆

笑の大学

2014年06月11日 | 映画(わ行)
チャーチルの握った鮨なんか食えるか

* * * * * * * * * *

三谷幸喜作舞台脚本を自身で脚色、映画作品としたものですが、
監督は務めていません。


舞台は昭和15年。
世情不安定、今しも日米開戦の幕が開けようとする寸前。
警視庁保安課検閲係向坂(役所広司)と
検閲を受ける脚本家たちの面談室が主な舞台。
ある日、劇団“笑の大学”の座付作家・椿(稲垣吾郎)が
次回上演予定の自らの脚本を持ってやってきます。
向坂は“笑い”を一切解さない男で、
椿の台本をビシビシ叩いていきます。
台本がここの検閲を通らないと、上演することができないのです。
しかし椿は向坂の無理難題を引き受け、翌日には直した原稿を持ってくる。
そんなことが1日、2日、3日・・・と続いていくのですが、
通い詰めるうちに不思議な連帯感を抱いていく二人。
お笑いには一切興味がなかった向坂が、密かに椿の劇場に足を運んだりもするのです。


「思想統制」という重い時代を描きつつ、
人情とお笑いでホロリとさせるシャレた一作。
役所広司さんの笑いながら怒るという演技が見もの。
そして稲垣吾郎さんの一途で生真面目な好青年ぶりがなかなかいいんだなあ。
彼の“闘い”ぶりをご覧あれ。


劇中劇といいますか、椿の書いている台本が面白そうなんですよ。
始めはなんと「ジュリオとロミエット」。
そう、「ロミオとジュリエット」のパロディなんですね。
ところが向坂が、「敵国毛唐が主役の劇などまかりならん」というものだから、
金色夜叉の「貫一とお宮」に置き換えることになってしまいます。
この劇も是非通しで見てみたかったですね・・・!

笑の大学 スペシャル・エディション [DVD]
三谷幸喜,三谷幸喜
東宝


「笑の大学」
2004年/日本/121分
監督:星護
原作・脚本:三谷幸喜
出演:役所広司、稲垣吾郎、高橋昌也、小松政夫

反骨度★★★★☆
ユーモア度★★★★☆
満足度★★★☆☆