角 (光文社文庫 ひ 13-2) ヒキタ クニオ 光文社 このアイテムの詳細を見る |
ある朝目覚めると、麻起子の頭に角が生えていた。
そんなところからこの物語は始まります。
さて、大変。
しかし、それによって何か特別なことができるようになるわけでもなく、麻起子は、とりあえず髪の毛を角に巻きつけ、変わったヘアスタイルという風なだけにして、日常の生活を続けるのです。
さて、彼女の仕事は出版社の校閲。
校正というのは字句の間違いを正す仕事ですが、校閲というのは、本文中の解説を借りれば・・・
間違ってはいないけれど、単行本の中の感じを統一するようなものまで含まれている。
例えば、『怖い』という文字と『恐い』という文字は同じような使われ方をするが、
それをどちらかの文字に統一する、という提案を作家に対して行う。
と、いうようなことだそうで・・・。
なかなか神経を使う大変な仕事のようですね。
というか、私は本の編集にこのような仕事があるということを、あまりよく分かっていなかった。
この作品中では、この校閲者と作家のやり取りで、もめるようなこともある・・・。
麻起子は保田という小説家の担当でもあるのですが、この作家の作品は結構気に入っている。
しかし、本人は自尊心が強くいつも話がこじれるので苦手。
彼女の角のことは、はじめ恋人の山平にだけ打ち明けていたのですが、
ある事件のためやむなく、編集部の何人かと、この保田にだけ明かすことになった。
ところが、そんなとき、保田から愛の告白を受ける。
山平と保田の間で揺れる麻起子。このあたりの心情が結構リアルです。
つい、二人を比べてしまい、どちらかを優位に立たせようと思っている自分に気付く、というように自己分析するあたり・・・。
結局この物語で「角」は何であったのか。
彼女は、繰り返される日常に閉塞感を覚えていたのですね。
仕事にも、付き合って長い山平との関係にも。
角は、彼女の感情によって、ほんのり暖かくなったり、すっと冷えたり、
それ以上の働きは特に何もしないのです。
しかし、ほんの少しずつ日常が変化していく。
何かそのような変化を呼ぶきっかけ・・・、そのようなもの。
ラストに思いがけない出来事が一つあります。
まさかそういうストーリーだとは思わなかった・・・。
けれど、それは当然の結果なのかも知れない、
そこで、振り返ってみれば、やはり納得の結果だったりするわけです。
それは悲しい作家の性をあらわしているのですが、
もしかすると、著者ヒキタクニオの心境を語るものなのかも知れません。
ちょっと風変わりで、ひきつけられる作品でした。
満足度★★★★