映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

春に散る

2023年08月30日 | 映画(は行)

それでも前進する

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不公平な判定で負けたことをきっかけに渡米し、
40年ぶりに帰国した元ボクサー、広岡(佐藤浩市)。
同じく不公平な判定負けで心が折れていた黒木(横浜流星)。
この2人がふとしたことで出会い、
黒木は広岡にボクシングを教えてほしいと懇願します。

広岡は始め拒んでいましたが、かつてのボクシング仲間に背中を押され、引き受けることに。
厳しいトレーニングの後、世界チャンピオン中西(窪田正孝)との試合が迫ります。

正直、横浜流星さん見たさで見ましたが、
すごく力のこもった作品で、すっかり魅入られてしまいました。

広岡は心臓に病を抱えています。
そして黒木は一つ前の試合で目を痛め、
医者からは次にまたダメージを受けると失明しかねないと宣言されています。
けれどまあ、こうした場合のお決まりで、
彼らに前進をあきらめるという道はありません。

双方崖っぷちの状況にありながら、だからこそ今のこの気持ちを大事にしたい。
やめるとか引き返すというのはなし。
とにかく全力を尽くすと決めます。

何しろ題名が「春に散る」というわけなので、
めでたしめでたしとはならないことが予感されるわけですが・・・。

ディフェンディングチャンピオンが窪田正孝さんというのもナイスです。
窪田正孝さんのボクサー姿は確か前にも見たことがある・・・。
「初恋」という作品でした。
サマになっているのも当然です。
だからもう、試合のシーンは迫力満点。
実際つい息を潜めて見てしまい、息苦しくなってきました・・・。

ものすごく見応えのある作品。

<シネマフロンティアにて>

「春に散る」

2023年/日本/133分

監督:瀬々敬久、星航

出演:佐藤浩市、横浜流星、橋本環奈、板東龍太、
   片岡鶴太郎、哀川翔、窪田正孝、山口智子

 

ボクシングシーンの迫力度★★★★

満足度★★★★☆.5


野球部に花束を

2023年08月29日 | 映画(や行)

高校野球にエールを送る作品!

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中学での野球部生活を終え、高校は自由に楽しくすごそうと茶髪で入学した黒田。
ところがうっかり野球部の見学に参加して、なぜか入部することになってしまいます。
新入生歓迎の儀式で無理矢理バリカンを当てられて、坊主頭に逆戻り・・・。

鬼監督の原田(高嶋政宏)や、後輩を奴隷のように扱う先輩部員の元、
過酷な日々が始まります。
強豪ではないが、弱小でもない、ごく普通の高校野球部の真実を描きます・・・。

 

まさに、体育会系の見本。
ヤクザの組長のような、妙に威張って言いたい放題、やりたい放題の監督。
3年はそんなヤクザの幹部。
2年は、普通に組員ですがいわば中間管理職。
上からも下からも突き上げを喰らう。
そし11年は、いわれたことは絶対服従の奴隷というわけ。

一年から見ると3年は皆ヤクザのおっさんにしか見えない、ということで
3年が皆、小沢仁志さんの顔になっているのには笑えました。

こういうとこ。
野球部のこういうイメージがどうもねえ・・・と、私は常に思っているのですが、
だがしかし、本作を見ていくと、
こんな中でも育まれていくチームワークやら、心の成長やらも
ちゃんとあることに心地よさを感じ始めます。

まあ少なくとも、理不尽なしごきやらいじめっぽい所はないストーリーなので。
そしてあの傲慢な監督も、実はよく生徒たちを見ていて、
面倒見も良かったりするわけで・・・。

時々「高校野球部あるある」の話が紹介されるのも楽しい。

こんな中でもまれながらも、一年生たちは少しずつたくましく成長し、
チームワークを結び、時には恋さえしてしまう。
そんな彼らをとても楽しく見させてもらいました。

ちょうど甲子園の大会が行われていたところ。
坊主頭の規定はなくて、ヘルメットをとるとさらさらヘアが風になびくなどと、
新たな高校球児のスタイルも出てきましたねえ。
良いのではないでしょうか。
なんなら茶髪でも。

<WOWOW視聴にて>

「野球部に花束を」

2022年/日本/99分

監督・脚本:飯塚健

原作:クロマツテツロウ(コミック)

出演:醍醐虎汰朗、黒羽麻璃央、駒木根隆介、市川知宏、高嶋政宏

 

高校野球の真実度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


Gメン

2023年08月28日 | 映画(さ行)

吹きだまりのG組で

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小沢としおさんの同名コミックの実写映画化。
ちょっとお気楽な気分に浸りたかったので・・・。

私立武華男子校に転校してきた高1男子・門松勝太(岸優太)。
彼が入ったクラスは、校舎も他と隔離され、教師たちも怯える問題児ばかりを集めた1年G組。

そこで壮絶ないじめが始まるのかと思いきや、そうではなくて、
門松は「こんな所に差別されて集められて、悔しくないのか!」と演説を始め、
一気に距離が縮まって、
思いのほか友情やら恋やらも芽生えて快適な高校生活が始まります。

ところがそこに、凶悪組織「天王会」の魔の手が迫る。
天王会というのは、かつて都市伝説的な不良グループ「Gメン」が死闘の末に倒して、
しばらくなりを潜めていたのですが・・・。

さて、ここに登場する高校生たちを演じるのが、
岸優太さんをはじめ、(以下敬称略)
竜星涼、矢本悠馬、森本慎太郎、
高校3年では高良健吾、田中圭・・・と、どう考えても無理スジ。
でもそこが面白いわけです。
これを本来の高校生くらいの年齢の子たちが演じても逆につまらないですね。
とにかく笑ってこの状況を楽しむほかない。

門松のまっすぐでチャラくて正義感の童貞ぶり、そして強くてカッコイイ!!
まさに岸くんにはピッタリでした。
まだジャニーズ所属のはずですが、写真がたっぷり公開されているのも嬉しい。

このG組の担任となる雨宮を演じるのが吉岡里帆さんで、
かわいらしさとその威勢の良い語り口のギャップがまた楽しい!

あっけらかんと笑える作品。
こういうのもいいですね。

<シネマフロンティアにて>

「Gメン」

2023年/日本/120分

監督:瑠東東一郎

原作:小沢としお

出演:岸優太、竜星涼、恒松祐里、矢本悠馬、森本慎太郎、
   高良健吾、田中圭、吉岡里帆、尾上松也

 

うさんくさい高校生度★★★★★

コミカル度★★★★★

満足度★★★★.5


最果てリストランテ

2023年08月27日 | 映画(さ行)

最後に会いたい人。思い出の味。

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2018年4月初演、写真と朗読を組み合わせた同名朗読劇を映画化したもの。

三途の川を渡る前に最後の晩餐をとるための店、小さなレストランがあります。
人生一度きりしか訪れることはできず、料理のリクエストはできないが、
誰か1人だけ、すでになくなっている人を呼ぶことができるという・・・。
そこでは、ギャルソン・岬が客を迎え、韓国人ハンが料理を作ります。
岬とハンは気づけばここにいて、現世の記憶はありません。

ここを訪れるのは・・・
妻を先に亡くした男性、ヤクザ、幼い女の子、売れない漫才師等々・・・。
それぞれがそれぞれの事情で死に至り、会いたい人も様々。
そんな中で、幼い女の子がここに来るのはいかにも痛ましい・・・。
彼女はお母さんに会いたいと言うのですが、
お母さんはご存命なのでここに呼ぶことはできません。
そこで岬とハンが彼女と食事を共にする、というのは泣きたくなってしまうようなシーン。
けれどこのエピソードには続きがあって・・・。
でも私、この続きには納得できません。
これはダメでしょう、という気がするのですが・・・・。

それはともかく、最後にはハンがここにいる理由も分かってきて、
なかなかほろりとさせられるのでした。

ちょっと考えてしまいますね。
自分がこのレストランを訪ねることになったら、誰を呼ぶことになるかな。
そして、料理は何が出てくるのだろう・・・。

夫は私より先に逝くかどうか分からないし、
まあ、今さらわざわざ呼び出してまで会わなくても(?)などと思ってしまい、
でもやはり母には会ってみたい。
いつも母が作ってくれていたような、ごく普通の食事かなあ・・・。

なんだかしんみりしますね。

 

「最果てリストランテ」

2018年/日本/91分

監督・脚本:松田圭太

出演:ジュンQ、村井亮太、真宮葉月、鈴木貴之、今野杏南

 

人生色々度★★★★☆

満足度★★★☆☆

 


「死神の棋譜」奥泉光

2023年08月26日 | 本(ミステリ)

狂おしいほどの勝負への傾倒

 

 

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第69期名人戦の最中、詰将棋の矢文が見つかった。
その「不詰めの図式」を将棋会館に持ち込んだ元奨励会員の夏尾は消息を絶つ。
同業者の天谷から22年前の失踪事件との奇妙な符合を告げられた
将棋ライターの〈私〉は、かつての天谷のように謎を追い始めるが――。
幻の「棋道会」、北海道の廃坑、地下神殿での因縁の対局。
将棋に魅入られた者の渇望と、息もつかせぬ展開が交錯する傑作ミステリ!

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奥泉光さんの将棋をテーマとしたミステリ。
いえ、ただのミステリではなく、幻想ミステリとでも言うべきでしょうか。

 

語り手となる北沢は、かつて将棋界のトップを夢見ていたものの、あえなく挫折。
今は将棋関係のライターをしています。

とある名人戦の最中、かつての北沢のライバル夏尾が
謎の詰将棋の図面を将棋会館に持ち込むが、その後失踪。
北沢は同業者の天谷から、22年前にも同様の失踪事件があったと聞き、
かつての天谷のように、その謎を追い始める・・・。

ということで北沢が向かったのは、北海道のとある廃坑。
そこで北沢は戦慄の体験をして・・・。

 

将棋盤の奥中に、魔の基盤が潜んでいて、
そこではまさに命がけの勝負が繰り広げられる・・・と言った、
不気味でおぞましく、そして力強くもあるというこの雰囲気こそが本作の真骨頂。
結局この魔界は、北沢の脳内で繰り広げられるだけではありますが、
あながち狂いかけた個人の妄想と一蹴しきれないような、
妙なほの暗いリアリティがあります。
真の将棋の勝負の世界は、こうしたものなのかも知れないと思わせるような。
世に名を残す名棋士は皆この魔の将棋を知っている、
というようなことにも不思議に納得が行くような。

正直、私は将棋音痴ではありますが、
本作の面白みは十分に伝わりました。

このイマジネーションを創り上げた著者には感服します。
よほど将棋がお好きなのでしょうね。

 

「死神の棋譜」奥泉光 新潮文庫

満足度★★★★☆


赤と白とロイヤルブルー

2023年08月24日 | 映画(あ行)

友情が愛情に・・・

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アマゾンオリジナル作品。

アメリカ初の女性大統領の息子アレックス(テイラー・ザハール・ペレス)と
イギリス王室のヘンリー王子(ニコラス・ガリツィン)の、
ロイヤルな(?)物語。

アレックスとヘンリーは、米英の行事などでときおり顔を合わせることはあったのですが、
互いに、嫌なヤツと思っていました。
そのせいである時、二人で小競り合いをするうちに、
パーティの大きなケーキを倒してしまい、クリームまみれの大混乱。

国交問題に発展しかねないので、事態の改善を図ろうとする人々に、
二人は無理矢理仲直りさせられてしまいます。
けれど、素直に互いの気持ちを話し合ううちに、友情が芽生え、
そしてやがて友情はそれ以上のものに・・・。

なんの前知識もなく見始めたので、この展開にはちょっと驚きましたが、
今時アリの話でした。
つまりLGBTQがらみの展開に・・・。
しかしこれがごく普通の青年同士ではなく、
米大統領の息子と英国王子という特異な青年同士というところがミソ。

アレックスの両親つまり大統領とその夫は、かなり進歩的な考えの持ち主で、
2人の関係に異論を挟みません。
でも、さすがに英国王室では、考え方は保守的の極み。
はてさて・・・。

そしてこのことが公になったら、世間の反応は・・・?

まあ、いささか周囲の人々が物わかり良すぎのようにも思いますが、
物語としてはこれも良いのでは・・・?

思わぬところで出会ってしまったBL。
良き良き。

 

<Amazon prime videoにて>

「赤と白とロイヤルブルー」

2023年/アメリカ/121分

監督:マシュー・ロペス

原作:ケイシー・マクイストン

出演:ニコラス・ガリツィン、テイラー・ザハール・ペレス、クリフトン。コリンズ・Jr,

   サラ・シャヒ、スティーブン・フライ、ユマ・サーマン

BL度★★★★☆

ロイヤル度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


83歳のやさしいスパイ

2023年08月23日 | 映画(は行)

老人施設に潜入せよ

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妻を亡くし、新たな生きがいを探す83歳セルヒオが、
探偵事務所の求人に応募します。

ホームに入居している母が虐待を受けているのではないかという依頼者の希望により、
セルヒオがスパイとして潜入することに。
彼自身も入居者としてホームで生活し、対象者の身の回りを探ろうというのです。
隠し撮り用のカメラなど最新機器の使い方を練習するなど準備を経て、
ホームに入居したセルヒオはホームの様子を密かに報告。
ところが、心優しい彼は、いつしか悩み多き入居者たちの
良き相談相手になっていきます・・・。

本作は、ホームの協力を得て、実際のホームでスパイとは明かさずに
3ヶ月間撮影したものだそうです。
なので、作中の老人たちの話の内容や表情などはすべて実際そのもの。
中には、問題児ならぬ問題老女がいたりもします。
いつも、ママに会いたい、帰りたい、と外に出たがる彼女。
どう見ても「ママ」がご存命とは思えないのですが・・・。
彼女にはホームのスタッフが彼女の「ママ」のフリをして
時々電話をかけたりするのです・・・。

でもじっくり見ていくと、彼女だけにかかわらず、みなどこか淋しげ。
孤独の影があります。

やさしいスパイ、セルヒオの最後の結論。
この施設に虐待などない。
皆適切にケアされている。
大切なのは「虐待があるかどうか確かめてほしい」と探偵に依頼することではなく、
もっと頻繁に本人に会いに行くことだ・・・と。

納得、納得。

ユニークでステキな作品です。

 

<Amazon prime videoにて>

「83歳のやさしいスパイ」

2020年/チリ、アメリカ、ドイツ、オランダ、スペイン/89分

監督:マイテ・アルベルディ

出演:セルヒオ・チャミー、ロムロ・エイトケン

 

お年寄りのチャーミング度★★★★☆

満足度★★★★☆


アウシュヴィッツの生還者

2023年08月22日 | 映画(あ行)

自らの罪の意識に苦しめられながら

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1949年。
ナチスドイツの強制収容所アウシュヴィッツから生還したハリー。
アメリカでボクサーとして活躍しながら、生き別れた恋人レアを探していました。

ある時、レアに自分の生存を知らせるために受けた取材で、
ハリーは自分が生き残ることができた理由を語り始めます。
それは、ナチスの兵たちの娯楽としての賭けボクシングで、
ハリーが同胞のユダヤ人たちに勝ち続けたから。
でもこの試合は実に過酷で、どちらかが倒れるまで続けられ、
敗者はその場で射殺されるという運命を担っていたのです。
まさにハリーは自らが生き残るために勝ち続けた・・・。

このセンセーショナルな取材記事は世間の注目を集めましたが、
レアはそれでも見つからず・・・。

こんな話は、人には絶対に話したくはなかったでしょうね。
けれど、ハリーはレアに再び会うことだけを夢見て、
試合に「勝つ」ことを選択し続けたわけで・・・。
だからこそ是が非でもレアと再び巡り会って、自分の選択の正しさをかみしめたかった。
このことが世間に知れて、冷たい視線をなげつけられても、
やむを得ないと思ったのでしょう。

けれど、人に話す話さないに関わらず、
ハリーは常に自分のなかの罪の意識に苦しめられていたはず。

戦争の過酷な状況を生き抜いた人はよく言います。
周囲の多くの人が命を落としたのに、
なぜ自分は生き残ったのか。生き残ってしまったのか。
まるで今自分が生きていることが罪のような、後ろめたいような・・・。
そんなことは決してないのに、そうした意識に囚われて苦しむ方が多いようです。
そしてこのハリーは、周囲の人の「死」に対して、自分にも責任があるということで、
その苦しみは幾ばくかと、胸が締め付けられるような気がしてしまいます。

この物語は、ハリー・ハフトの半生をその息子がつづった実話を映画化したものなんですね。
あ、だから終盤にハリーが息子に体験談を語るシーンがあったワケです。

本作の撮影に当たり、ハリー役のベン・フォスターは28キロの減量を行い、
そしてまた28キロを増量したとのこと。
まさにアウシュヴィッツのハリーは骨と皮のようになっていましたものね。
役者さんも大変だ・・・・。
けれど本作はあの体なくしてはなりたたないですね。

<サツゲキにて>

「アウシュヴィッツの生還者」

2021年/カナダ・ハンガリー・アメリカ/129分

監督:ハリー・レビンソン

原作:アラン・スコット・ハット

出演:ベン・フォスター、ビッキー・クリープス、ビリー・マグヌッセン、ピーター・サースガード

歴史発掘度★★★★☆

過酷な体験度★★★★★

満足度★★★★.5


嘘八百 なにわ夢の陣

2023年08月21日 | 映画(あ行)

秀吉が残した茶碗「鳳凰」とは?

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空振りばかりの古美術商・小池則夫(中井貴一)と、
うだつの上がらない陶芸家・野田佐輔(佐々木蔵之介)のコンビが送る
「嘘八百」シリーズの第3弾。

今回は、豊臣秀吉の出世を後押ししたという七つの縁起物「秀吉七品」のうち
特に、唯一所在不明の茶碗「鳳凰」についてのストーリー。

開催間近の「大阪秀吉博」と、TAIKOH(安田章大)と名乗るカリスマ波動アーティスト、
そして謎の美女(中村ゆり)が、
小池、野田と関わり、ややこしい問題が巻き起こります。

本作で楽しいのは、小池と野田は、
実際にあるのもを模倣して、贋作を作るわけではないということ。
当時の社会情勢や作者の人となりを想像し、
いかにも「あるかもしれない」ものを創作して信憑性を持たせるというところ。

これがいいのですよねえ。
そして今回は、いかにもインチキめいた霊感商法のようでいて、
実は純粋な「芸術」をめざす青年と
それを支える女性という人物造形がナイス。

結局彼らの目論見は成功するのだけれど、
彼らの元にはちっともお金が入らないというお約束も良し。
中井貴一さんと佐々木蔵之介さんの鉄板の安定度と面白さに
文句のつけようがない感じ。

楽しめる作品です。

<Amazon prime videoにて>

「嘘八百 なにわ夢の陣」

2023年/日本/112分

監督:武正晴

脚本:今井雅子、足立紳

出演:中井貴一、佐々木蔵之介、安田章大、中村ゆり、友近、森川葵、前野朋哉

骨董品への夢度★★★★☆

満足度★★★★☆


左様なら今晩は

2023年08月20日 | 映画(さ行)

幽霊と同居

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山本中学さんの同名コミックの実写映画化。

同棲していた恋人に去られた陽平(萩原利久)の元に、
アイスケという名の女性の幽霊が現れます。
彼女はずっと、部屋に住んでいた陽平と彼女の様子を観察していたと言い、
「やさしいフリをして面倒なことから逃げているから、恋人に逃げられた」
と言います。

こんなふうに、男女の付き合いに興味津々のアイスケ。

陽平はなんとかこの幽霊に出ていってもらいたくて、除霊したいと思っていたのですが、
人間の女の子と変わらぬ二人の時間に、居心地の良さを感じ始めて・・・。

幽霊が登場するのですが、全然恐くありません。
というか、むしろ恐くなさ過ぎるのが問題。

どうしてアイスケが幽霊となってこの部屋に執着しているのか、
それを解き明かしていく物語にはなっているのですが、
あまりにも脳天気すぎて・・・。

一応幽霊と名が付く存在なので、コメディながらも、
どこかひんやりとゾッとするような場面もほしかったなと思う・・・。

全体的にもちょっとピンときませんでした。

 

<Amazon prime videoにて>

「左様なら今晩は」

2022年/日本/98分

監督:高橋名月

原作:山本中学

出演:久保史緒里、萩原利久、小野莉奈、永瀬莉子、宇野祥平

 

怖さ★☆☆☆☆

満足度★★☆☆☆


ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ

2023年08月18日 | 映画(ら行)

妻とネコさえいれば

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ネコをモチーフにしたイラストで人気を集めたイギリスの画家、
ルイス・ウェインの生涯を描きます。

イギリス上流階級に生まれたルイス(ベネディクト・カンバーバッチ)。
早くに父を亡くし、一家を支えるため、イラストレーターとして働いています。
やがて妹の家庭教師、エミリー(クレア・フォイ)と恋に落ち、
身分違いと猛反対されながら結婚します。
しかし、やがてエミリーは末期がんの宣告を受けてしまいます。
ルイスは家に迷い込んだ子猫にピーターと名をつけ、
エミリーのためにネコの絵を描き始めます。

上流階級とは言え、何もせずにお金が入ってくるわけではありません。
自らの才覚で、母親と多くの妹たちを養わなければならないというのは、重圧です。
このルイス・ウェインというのは、経済的な知識も才覚もなく、まさに絵の才能があるばかり。
なんとも風変わりな、芸術家タイプというべきでしょうか。

そしてなぜか、当時まだよく理解されていなかった「電気」について、
妙な独自解釈を持っていて、そのことで特許を取ろうなどと考えていた。
世の森羅万象は「電気」に操られているとでもいうような・・・。
だから本作、原題は「The Electrical Life of Louis Wain」となっています。
邦題とは全く別物なので、戸惑いますが。

彼の妻が生涯彼のそばにいれば、彼の人生は幸福といってもよかったのでしょうけれど、
妻を病で亡くし、その喪失感が後にもずっと彼を苦しめます。
それまでは「変人」というくらいのところだったのが、
明らかに精神の変調を来していく・・・。

まさに生涯妻とネコを愛した、というところでしょうか。
人の心というのは不可思議で、そして真実を映し出すものでもあるのですね。

ところでこのおかしな人物を演じきったベネディクト・カンバーバッチは
さすがというか恐るべしというか・・・。

<Amazon prime videoにて>

「ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ」

2021年/イギリス/111分

監督:ウィル・シャープ

出演:ベネディクト・カンバーバッチ、クレア・フォイ、
   インドレア・ライズボロー、トビー・ジョーンズ

 

ネコ愛度★★★★★

数奇な生涯度★★★★☆

満足度★★★☆☆

 


恋恋豆花

2023年08月17日 | 映画(ら行)

台湾の魅力満載

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大学生の奈央(モトーラ世理奈)が、父(利重剛)の三度目の結婚相手となる
綾(大島葉子)と台湾旅行をする、と、
言ってみればタダそれだけの物語なのですが・・・。

奈央は実の母を幼い頃になくし、その後父の2度目の妻に育てられ、
そして今、父が3度目の妻を迎えようとしているところ。

別に夫婦で仲良くしてくれればいい。
今さら義理の母と親しくならなくてもいい、と、
奈央は冷めた気持ちでいたのですが、
綾のたっての希望で、二人で旅に出た次第。

でも、台湾について早々、地元のおいしい食べ物やスイーツに出会い、
せっかくのチャンスだから思い切り楽しもうという気持ちになっていきます。

本作の主役は、とにかく台湾。
台湾の風土と食べ物、まさに、行ってみたくなります。

そこで出会う様々な人々。
その生き方に触れて心が広がっていくよう。
そして義理の母とも、ギクシャク感が薄れて
寄り添えば安心感を得るようになっていきますね。

癒されます。

表題の、“豆花”(トウファ)は、台湾のスイーツの一つ。
作中では「トウファ」ではなく「ドウファ」と発音すべきとしていました。
豆乳を何らかの凝固剤で柔らかめに固めたものに、蜜をかけ、
様々なものをトッピングするようです。
これが実においしそうで、ぜひ食べてみたいです。

モトーラ世理奈さんの、さりげなく等身大の演技が光ります。

<Amazon prime videoにて>

「恋恋豆花」

2019年/日本・台湾/101分

監督:今関あきよし

出演:モトーラ世理奈、大島葉子、利重剛、椎名鯛造、シー・チーティエン

台湾の魅力度★★★★★

食べたい度★★★★☆

満足度★★★.5


「捜査線上の夕映え」有栖川有栖

2023年08月16日 | 本(ミステリ)

コロナ禍中の火村とアリス

 

 

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「臨床犯罪学者 火村英生シリーズ」誕生から30年!
最新長編は、圧倒的にエモーショナルな本格ミステリ。

大阪の場末のマンションの一室で、男が鈍器で殴り殺された。
金銭の貸し借りや異性関係のトラブルで、容疑者が浮上するも……。

「俺が名探偵の役目を果たせるかどうか、今回は怪しい」

火村を追い詰めた、不気味なジョーカーの存在とは――。
コロナ禍を生きる火村と推理作家アリスが、
ある場所で直面した夕景は、佳き日の終わりか、明日への希望か――。

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有栖川有栖さんの火村英生シリーズ最新作。
といってもこれは刊行してからもう1年半も経っているのを
今回やっと読むことができました・・・。

それにしても、このシリーズが始まってからもう30年も経っているというのには驚きです。
普通に読み続けて、30年・・・。
私も歳をとるはずですねえ・・・。
アリスも火村氏も同じままで若くてうらやましい・・・。

 

さて本作。

コロナ禍の時代が背景。
人々の会話時にソーシャルディスタンスを意識したり、マスクを意識したり。
最もディープなコロナ禍時のことをちょっとばかり懐かしく思い出します。
とりあえずそんな日々が過去の物になったことに安堵・・・。
まだまだマスクを無しにはできませんが。

まあ、そんなことの影響もあるのかどうか。
今回の事件は割に地味。

とあるマンションの一室で、スーツケースに詰められ、クローゼットに押し込められた
男の死体が発見されます。
なんとも決め手に欠く事件。
事態はなかなか進展しないのですが・・・。

途中からガラリと様相が変わって、火村とアリスがとある旅に出ます。
瀬戸内海に浮かぶ離島を訪れる旅。
果たして二人はそこで何をつかむのか・・・?

 

これまで普通にレギュラー出演者として出てきた、とある人物の過去が
ちょっとばかりあかされ、それがこの事件に影を落としているのです。

 

火村とアリスの長い歴史の中、コロナ禍中の数年を記念する作品となるでしょう。
それにしても、ススキノのホテルで首ナシ死体が発見されるとか、
現実の方が小説を超越している昨今ですねえ・・・。

 

<図書館蔵書にて>

「捜査線上の夕映え」有栖川有栖 文藝春秋

満足度★★★.5

 

 


僕たちは戦争を知らない(戦禍を生きた女性たち)

2023年08月15日 | ドキュメンタリー

女性たちにとっての戦争

ジャニーズの青年4人が、自らの戦争体験を語る人物に会いに行くというドキュメンタリー。
つい先頃テレビ放映されたのを録画し損ねて、しまった!と思っていたところ、
早くもアマゾンプライムの配信となりました。
ありがたいです。

この企画は実は昨年から始まっていて、今回は2年目だそうで、
私は昨年分をまだ観ていないのですが・・・。

本日終戦の日ということもあり、取り急ぎ、投稿。

 

「聞き手」となるのは次の4名。

菊池風磨(Sexy Zone)、
中間淳太(ジャニーズWEST)、
松村北斗(SixTONES)、
阿部亮平(Snow Man)。

今回はテーマを「女性たちにとっての戦争」とし、
いわゆる銃後の女性たちの体験談を語ります。

広島での原爆被爆体験(多くの友人たちを目の前で看取ったこと)。

富山の大空襲のこと(消火活動に当たらず逃げようとすると非国民と言われたこと)。

満州の開拓団のこと(命の選択をせまられたこと)。

進駐軍の米兵と日本人女性の間に生まれたこと(施設に預けられて育ったこと)。

などなど・・・。

みな戦争がもたらした悲劇を忘れてはならないと思い、語り出した女性たちです。
それぞれ90歳前後。
けれど皆さんかつての苦しみを乗り越え、
現在は充実し、実年齢よりもお若く元気そうに見えたことが、幸いでした。
戦争で亡くなった多くの方を悼むことで
逆に生かされているのかなあ・・・と感じました。

 

広島の原爆体験を語った方は、
私が先日読んだ「旅のネコと神社のクスノキ」の中で語られていた
「陸軍被服支廠」で働いていたそうです。
ちょっとした縁を感じました。

 

お一人の方が言っていた言葉が胸に残ります。

「私にとって、今も戦後が続いている。でも、今が新しい戦前にならないことを祈ります」
と。

 

自身の戦争体験を直接聞くことができるのも
せいぜい残り10年位なのではないでしょうか。

子どもたちや若い方に、ぜひ本作を観てもらいたいです。

 

 

「僕たちは戦争を知らない(戦禍を生きた女性たち)」

2023年/日本/67分

 

満足度★★★★.5

 


インスペクション ここで生きる

2023年08月14日 | 映画(あ行)

自分らしさのままで

* * * * * * * * * * * *

イラク戦争が長期化している2005年、アメリカ。

ゲイであることから母に見捨てられ、
16歳から10年間ホームレスとして生きてきたエリス・フレンチ。
彼が、自身の存在意義を求め、海兵隊に志願入隊します。

当初、自身がゲイであることは隠していましたが、そのことが周囲に知られるようになってから、
激しい差別や暴力を受けるようになり、
そして教官からの過酷な訓練も、なお一層厳しいものになっていきます。

それでもエリスは、心が折れそうになりながら、暴力と憎悪に立ち向かいます。

本作は、監督が自らの半生を元に描いているとのこと。

監督は海兵隊に入隊し、映像記録係に。
そして除隊後、テレビ番組や短編映画でキャリアを築き、
本作を作るにいたるというわけなんですね。

ホームレスの生活から脱却するための一大決心。
それは、ホームレスとして死んでも誰からも顧みられないけれど、
海兵隊員として死ねばヒーローになれる、
と、監督は作中のエリスに語らせています。

軍隊の中でのゲイに対しての差別や嫌がらせ、暴力は凄まじいものがありますね。
通常でさえつらい訓練期間だと思うのですが、さらなる加重。
しかも教官ぐるみ。
こんな理不尽なことがあっていいのかと思いますが、それが現実か・・・。

エリスがこの困難に耐え抜いて、ようやく人生のスタート台に立てる
というのも、実は理不尽な前段階。
そうでなければならない理由なんか本当はないはずなのに。

でも本作、エリスにとってもっとつらいのは、彼の母がゲイを全く受け入れようとしないこと。
宗教上の問題であるようなのだけれど、
ゲイは人間ではないとでもいうような拒絶の仕方。
人生は厳しいなあ・・・。

けれどそこをのりこえたからこそ、今の自分がある、
そこは監督自身の誇りなのでしょうね。

 

<シアターキノにて>

「インスペクション ここで生きる」

2022年/アメリカ/95分

監督:エレガンス・プラットン

出演:ジェレミー・ポープ、ラウル・カスティーロ、マコール・ロンバルディ、
   アーロン・ドミンゲス、ポキーム・ウッドバイン、ガブリエル・ユニオン

 

差別度★★★★★

生きる力度★★★★★

満足度★★★.5