映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

チア男子

2020年03月31日 | 映画(た行)

イケメンの若い衆を楽しむ

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横浜流星さん狙いのミーハー視聴。
まあでも、朝井リョウさん原作なので、それほど悪くはないのかな?
という期待もこめて。

柔道一家に生まれながら、気持ちが優しく、
人と闘うことに向いていないと自分で思う晴希(横浜流星)。
大学生となり、柔道を続けるべきか迷うときに、
親友の一馬(中尾暢樹)に男子チアリーディングをやろうと誘われます。
男子がチアリーディング?といぶかしがられながらも、
他に5人のメンバーを集めることができて、
総勢7名の男子チア部「BREAKERS」を結成。
しかしメンバーそれぞれにはそれぞれの葛藤があり・・・。

晴希を柔道に押しとどめようとするのは彼の姉です。
こうした場合大抵は父親が強権を振るうものなのですが、
ここの父親は意外と鷹揚で、しかし、姉が自身も柔道に命をかけていて、
晴希のチアリーディングを許せないのです。
それでも晴希は、「ねーちゃんの言うことなんか知るもんか」とはならず、
あくまでも理解してもらおうと努めるというのが、なんとも彼らしいところなんだなあ。
ふむふむ。



一方、一馬がなぜ突然男子チアリーディングをやろう、などと言いだしたか
と言うことにも理由があったのでした。
彼の孤独な身の上にも関わることで、これにはちょっと泣かされます。
でもこれは終盤までヒミツ。



そのほか、体型のことでいじめられキャラだった者、
勉強一本槍で人となじめなかった者、
チアリーディング経験者でありながら過去のトラウマから遠ざかっていた者(瀬戸利樹)・・・
一人一人の事情もしっかり描かれていて、どの人物も好きになってしまいます。



そもそもチアリーディングは応援団。
どんなに大変でもニコニコ笑ってパフォーマンスに努め、皆を元気づけなければなりません。
次第にチームワークができあがっていき、このような務めを果たすべく元気に育っていく彼ら。
誠に気持ちの良い作品でした。


新型コロナウイルスで毎日気持ちがくさくさしてしまうのに、ちょっぴり元気を分けてもらった感じです。
イケメンの若い衆はよいなあ・・・!  
あ、話題の唐田えりかさんも出てた・・・。


<WOWOW視聴にて>
「チア男子!!」
2019年/日本/118分
監督:風間太樹
原作:朝井リョウ
出演:横浜流星、中尾暢樹、瀬戸利樹、浅香航大、唐田えりか

応援団度★★★★★
実技度★★★★☆
満足度★★★★☆

 


サムライ先生

2020年03月30日 | 映画(さ行)

幕末の志士が現代の日本を見たら・・・

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先日見た「3人の信長」に引き続き、市原隼人さんのサムライ姿!! 
幕末期、失脚し投獄された土佐勤王党盟主・武市半平太(市原隼人)が、
突如平成の日本にタイムスリップしてきます。
彼は学習塾を経営する佐伯(橋爪功)に助けられ、
佐伯の家に居候しながら塾を手伝うことに。



自らが生きた時代から150年後の世界。
彼は様々なカルチャーギャップに驚かされながらも、
持ち前の堅実さや温厚な人柄に、子どもたちや町の人々からも信頼を得ていきます。
そしてそんなとき、楢崎梅太郎と名乗るジャーナリストが半平太の前に現れ・・・。

「新しい日本」を思い描きながら、命をかけて様々な思想・行動に走った幕末の志士たちが
今の日本を見たらどう思うか・・・、そんな発想が元になった作品だと思います。



武市半平太は、名前は聞いたことがあるけれど、実際は何をした人だったっけ?と、
私の認識はそんな程度だったのですが、
土佐藩で尊皇攘夷論を提唱した人たちの一人。
坂本龍馬とも交流があって、実際、投獄の後に切腹ということになったのですね。
平成の世にやってきて自分の運命を知った半平太ではありますが、
それでもやはり元の世界に戻りたいと思う。
かっこいい、これぞ、サムライ。



いや、ほんと、市原隼人さんは実にサムライの姿が似合いますよねえ♡。
又そのうち、NHKの大河ドラマに出てきてほしい・・・
(僧侶姿もステキでした♡)

<WOWOW視聴にて>
2017年/日本/93分
監督:渡辺一志
原作:黒江S介
出演:市原隼人、忍成修吾、押田岳、橋爪功

時の流れを思う度★★★★★
満足度★★★★☆

 


ドクター・スリープ

2020年03月29日 | 映画(た行)

人の生気を吸って生きながらえる闇の一族

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往年の名作ホラー「シャイニング」の続編ということで、見てみました。



雪山のホテルで惨劇を生き残り、大人に成長したダニー(ユアン・マクレガー)。
あのときのトラウマを抱え、人を避けるようにして孤独に生きてきました。
時に襲われる記憶のフラッシュバック。
それを忘れたくてアルコール依存症に陥ったりもしていたのですが、
今、新たな町にたどり着き、信頼できる友もできて、
ようやく少し落ち着いた生活を始めたところです。
そんな中で、特殊な力を持つダニーは、
同じ種類のもっと力の強い少女・アブラと特別な方法で連絡を取り合うようになります。
そしてあるとき、アブラは遠く離れた場所で行われた
一人の少年の惨殺シーンを「見て」しまうのです。
それを行ったのは、ローズ・ザ・ハット(レベッカ・ファーガソン)率いる
「ヒト」ではない邪悪な集団。
ダニーとアブラはこの邪悪集団と対峙することに・・・。

40年を経て、あのときには出てこなかった、“邪悪な存在”がこのたび登場しますが、
これがさほどに、恐ろしさを感じられない。
彼女らはヴァンパイアに近いのでしょうか。
ヒトの精気を吸って生きながらえる闇の存在。
私たちが本当に怖いと感じるのは、あるかなきかわからない存在のような気がします。
ヒトの理屈では理解できないもの。
それで行くと、彼女らはなんだかわかりやす過ぎるのです。
その、残虐な行為は確かに恐ろしくはありますが・・・。
ローズ・ザ・ハットは別にしても、その仲間たちは
あっけなくも銃弾に倒れて塵と化してしまい、なんとも軟弱。
けれどまあ、「毒は毒をもって制す」的な展開には興味を持ちました。



ヴァンパイアなどの物語を見ていつも思うのですが、
永遠の命、若さを持つとはいっても、結局彼らは「飢餓」から逃れることができない。
何らかの方法でエネルギーを取り込まなければ、
やはりその生命(と言っていいのかどうか?)を維持することができない。
結局ヒトの生き方と大差ないのです。
大きく異なるのは彼らはヒトからしかそのエネルギーを得ることができないということで。
ハナから脆弱な生き物(?)なのだなあ・・・。


それで言うと、やはりあの屋敷に住み着いた何者かたちは、
40年を経ても元気だったですね・・・!



<J:COMオンデマンドにて>
「ドクター・スリープ」
2019年/アメリカ/152分
監督:マイク・フラナガン
出演:ユアン・マクレガー、レベッカ・ファーガソン、
   カイリー・カラン、カール・ランブリー
恐怖度★★★☆☆
満足度★★★☆☆

 


「カササギ殺人事件 下」アンソニー・ホロヴィッツ 山田蘭訳

2020年03月28日 | 本(ミステリ)

驚愕の展開!!

 

 

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名探偵アティカス・ピュントのシリーズ最新作『カササギ殺人事件』の原稿を
結末部分まで読んだ編集者のわたしは、あまりのことに激怒する。
ミステリを読んでいて、こんなに腹立たしいことってある?
原因を突きとめられず、さらに憤りを募らせるわたしを待っていたのは、
予想もしない事態だった―。
ミステリ界のトップランナーが贈る、全ミステリファンへの最高のプレゼント!

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さて上巻の後、間髪を入れず、引き続き下巻を読み始めて絶句!


原稿を読んでいた編集者スーザンは激怒します。
「こんなに腹立たしいことってある?」。
つまり彼女が読んでいた原稿は、最後の謎解き部分がスッポリと抜けていたのです。
つまり私たちにも謎解きがないまま・・・。
そしてまた驚いたことに、作者アラン・コンウェイが自殺してしまった!
そこで今度は編集者スーザンが探偵役となり、
行方不明のミステリの最終章を探しつつ、
アラン・コンウェイの死の真相を探ることになるのです。


彼女が片田舎にあるアランの家を訪ねてみると、
そこは小説「カササギ殺人事件」の舞台とよく似ていることに気がつきます。
そして、そのストーリーの登場人物に重なり合うような印象を匂わせる住民たち・・・。
スーザンが何もよくわかっていなかったアランの人間性。
果たしてアランがある意図を持って描き続けていた
アティカス・ピュントシリーズのその意図とは???


スーザン自身の今後の身の振り方の悩みとか、
最後はとんでもない災難に遭うあたりも、私は好きでした! 
ちょっぴり古風な名探偵ものの作風を踏襲しつつも、
現代の読者の好みもよくご存じ、
さすがのベストセラー作家・アンソニー・ホロヴィッツだなあ・・・。

幾重にも張り巡らされた謎。秘密。
それが解き明かされるときの快感。
これぞミステリですよね。
「カササギ殺人事件」の最終章もちゃんと見つかって紹介されるのでご安心を!!

「カササギ殺人事件 下」アンソニー・ホロヴィッツ 山田蘭訳 創元推理文庫
満足度★★★★★

 


「カササギ殺人事件 上」アンソニー・ホロヴィッツ 山田蘭訳 

2020年03月27日 | 本(ミステリ)

定石を踏まえつつ、魅力に富んだ謎が提示されて・・・

 

 

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2019年本屋大賞翻訳部門第1位
『このミステリーがすごい! 2019年版』第1位
『週刊文春ミステリーベスト10 2018』第1位
『ミステリが読みたい! 2019年版』第1位
『2019本格ミステリ・ベスト10』第1位

1955年7月、パイ屋敷の家政婦の葬儀がしめやかにおこなわれた。
鍵のかかった屋敷の階段の下で倒れていた彼女は、
掃除機のコードに足を引っかけたのか、あるいは……。
その死は小さな村の人々へ徐々に波紋を広げていく。
消えた毒薬、謎の訪問者、そして第二の死。
病を抱えた名探偵アティカス・ピュントの推理は――。
現代ミステリのトップ・ランナーによる、
巨匠アガサ・クリスティへの愛に満ちた完璧なるオマージュ作品! 

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紹介文の通り、非情に高評価を受けた本作は、早く読みたかったのですが、
翻訳モノは文庫でも結構お高いですし・・・。
しかしまあ、この度の新型コロナウイルス関係で時間を持て余し、
おまけに図書館休館のみならず予約サービスまでストップしたとなれば、
たまには自己投資(?)もやむなしと言うことで手に取りました。
しかしまあ、これが評判に違わず面白くて・・・! 

上下巻まとめてご紹介でも良かったのですが、
本作においては、ただ長いから上下に分けたのではなく、
上下巻に別れている意味が、ちゃんとあるのです。
そんなところからして、凄いと思いました!

 

ある編集者が、ベストセラー作家であるアラン・コンウェイの
新作の原稿を読むところからストーリーは始まります。
それはアティカス・ピュントと言う名探偵が活躍するシリーズもののミステリ。
そして編集者とともに私たちも、そのミステリ小説
「カササギ殺人事件」を読み始めることになります。


舞台は1955年。
イギリスの田舎町のとある屋敷で家政婦が亡くなるという事故が起こります。
そしてその数日後に今度はその屋敷の主が亡くなる。
こちらは明らかに殺人事件。
名探偵アティカス・ピュントは助手のジェイムズ・フレイザーを伴い、調査に乗り出します。


まあ、普通に名探偵もののミステリではあります。
けれどこれがめっぽう面白い。
登場人物は皆個性的で、そして誰もが殺人の動機を持っている。
過去の事故のことや出生の秘密・・・、一見平和で美しい村ではありますが、
様々な愛憎や疑念が渦巻いています。
う~ん、実に興味深い。


名探偵がもったいぶって途中では決して自分の推理を語らないあたりも、
定石を踏まえています。
・・・そして疑念が出尽くしていよいよ謎解き?と思われるところで上巻はおしまい。
すぐに下巻に行こう!!

「カササギ殺人事件 上」アンソニー・ホロヴィッツ 山田蘭訳 創元推理文庫
満足度★★★★☆

 


3人の信長

2020年03月25日 | 映画(さ行)

本物は誰だ!?

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かつての主君である今川義元を討たれたことの復讐に燃える蒲原ら、
元今川軍の侍たちが、織田信長を捕らえます。
信長は金ケ崎の戦い(対朝倉・浅井)に敗れ、逃走中でした。
ところが問題は、なんとその信長とおぼしき人物が3人もいたこと!!
影武者を誤って討ち取っても笑いものになるだけ、と言うことで、
蒲原らはあの手この手で本物をあぶり出そうとしますが・・・。

本作は歴史物語と言うよりも、翻弄し、翻弄される策略合戦。
信長の捕えられた小さな村のみを舞台とするコメディとなっています。

三人の信長を演じるのは、TAKAHORO、市原隼人、岡田義徳。
確かに当時は、テレビや写真があるわけもなく、
信長本人の顔を知っている人などほとんどいないわけですよね。
それらしい服装や物腰をしてさえいれば、そう思うしかない。
影武者など作り放題。
その上、未来からそっくりさんがタイムワープしてくるかもしれないし・・・
(あ、すみません、本作ではそれはないです)

まあ、それにしても、命がけで相手を翻弄し、
あくまでも主君を守ろうとする彼らの心意気もまた、なかなか見応えがありました。
私はやっぱり市原隼人さんの武士姿が好きかな。

 

<J:COMオンデマンドにて>
2019年/日本/106分
監督・脚本:渡辺啓
出演:EXILE TAKAHIRO、 市原隼人、岡田義徳、相島一之、前田公輝

だまし合い度★★★★☆
満足度★★★☆☆

 


フライボーイズ

2020年03月24日 | 映画(は行)

クラシカル戦闘機対決

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第一次世界大戦で、当初中立の立場を取っていたアメリカから
志願兵としてフランス空軍に入隊した青年たちの実話を元にしています。



テキサスの青年ローリングス(ジェームズ・フランコ)は、
ニュース映画で戦闘機パイロットの活躍を見て、フランス行きを決意します。
フランスのラファイエット戦闘隊には同様にアメリカから来た仲間たちが集まり、
パイロットとしての訓練が始まります。


第一次世界大戦。
この時初めて飛行機が戦争に用いられたのです。
なんともクラシックな複葉機。
見ていても本当にこれで飛べるの?という感じの心許なさなのですが・・・。
先日読んだ池澤夏樹さんの本の中の言葉
「以前は科学は実感で納得できた」というのを思い出します。
実にシンプルな飛ぶための機械、実感として「納得」できる感じですよね。

ここに集まったアメリカの青年たちは、牧場の経営に失敗したローリングスを始め、
家族や恋人に「英雄になる」と宣言してきた者、
父親の期待に応えるために来た者、
元ボクシングチャンピオンなど、それぞれの状況が全く異なります。
しかし初めての飛行はなんといっても心が躍る。
けれど、実際の戦闘となれば、命をなくす者もいるし、
恐怖で心が萎えてしまい、飛行できなくなる者も・・・。
そんな中ローリングはちゃっかり地元のフランス娘と恋をしちゃったりしますが・・・。
一人また一人と戦闘で命を落とし人数が減ってしまいますが、
その分なお絆が深まっていく彼ら。
なんとも胸が熱くなるのでした。


こんなクラシックな飛行機の戦闘シーン、他ではほとんど見られないと思います。
さほど飛行機に興味があるわけではない私でも、これはすごいと思う。
風防ガラスもないし、パラシュートも身につけていないのね・・・。
機体が燃え上がった時のための自決用のピストルまで持たされます・・・。
なかなか見応えのある作品。

 

 

Amazonプライムビデオにて
「フライボーイズ」
2006年/アメリカ/138分
監督:トニー・ビル
出演:ジェームズ・フランコ、マーティン・ヘンダーソン、ジャン・レノ、
   ジェニファー・ヂッガー、タイラー・ラビン
戦闘のスリル度★★★★☆
青年たちの絆度★★★★☆
満足度★★★★☆

 


「リーチ先生」原田マハ

2020年03月23日 | 本(その他)

情熱は海を越え、時を超えて

 

 

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日本の美を愛し続けた英国人陶芸家、バーナード・リーチ。
明治42年、22歳で芸術の道を志して来日。
柳宗悦、濱田庄司ら若き日本人芸術家との邂逅と友情が
彼の人生を大きく突き動かしていく。
明治、大正、昭和にわたり東洋と西洋の架け橋となった
生涯を描く感動の“アートフィクション”

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バーナード・リーチは明治末期来日し、日本の美を愛し続けた英国人陶芸家。
と言っても私は存じなかったのですが、
原田マハさんが沖亀之助という架空の人物を通して彼を見ることで、
とても身近で魅力的に彼の波乱に満ちた人生を描き出しています。

バーナード・リーチは陶芸家とは言いましたが、
元々はとにかく「芸術家」として日英の架け橋になりたかったようなのですね。
初来日時は22歳。
いかにも希望に燃えた夢見る青年だったのでしょう。
当初はエッチングの技術を日本に紹介したりしたようです。
そしてあることがきっかけで、陶芸に目覚めてゆく。
陶芸については何しろここのところNHKの朝ドラでおよそのところを見てきているので、
その手順などはとても良くわかり、興味深いものでした。
窯焼きにはとてつもなく薪が多く必要なこととか、
下手をすると火事になるとか・・・、
納得。納得。


日本においては陶芸はつまり職人芸で、作者など名の残るものではなかったのですが、
このバーナード・リーチによって芸術としての価値をも求めるようになっていくわけですね。
そして日本の陶芸技術が彼によってイギリスで再生されるというのが又素晴らしい。
また、バーナード・リーチは白樺派のメンバーなどとも交流があり、
日本の新しい文化の中でとても大きな役割を果たしていたということも、
今さらですが覚えておかなくては、と思った次第。

亀之助は作中でバーナード・リーチの弟子なのですが、
数十年を経てリーチと亀之助の息子が邂逅するところは実に感動的です。
実在の人物とフィクションが不自然なく絡み合い、
とても読み応えのあるストーリーになっていました。

「リーチ先生」原田マハ 集英社文庫
満足度★★★★☆


ウトヤ島、7月22日

2020年03月22日 | 映画(あ行)

ワンカットのリアル

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2011年7月22日、ノルウェーのウトヤ島で起こった無差別銃乱射事件を、
生存者の証言に基づき映画化したものです。
97分の本編のうち、事件の発生から収束までの72分間がワンカットで描かれています。



その日、まずノルウェー首都オスロにて政府庁舎前で仕組まれた爆弾が爆発します。
その後、オスロから40㎞離れたウトヤ島で銃乱射事件が起こるのです。
そこでは、ノルウェー労働党青年部のサマーキャンプが行われており、
10~20代の若者が参加していました。
本作はそこに参加していた少女カヤにカメラが密着する形で
状況が映し出されていきます。



楽しげに会話していた友人たちとカヤ。
そんな中、パン・パンと爆竹の様な音がして、
そして悲鳴を上げながら何人もの参加者が走り込んでくる。
「誰かが銃を撃っている、逃げなければ!!」
居合わせた皆は建物の中に逃げ込みますが、犯人らしきものが近づいてきて、
皆はそこを出て、林の中に逃げ込まざるを得なくなります。
逃げ出す中でも、聞こえてくる銃声、悲鳴。
カヤは一緒にキャンプに来ていた妹と離ればなれになってしまったことが
気になって仕方ありません。
何でこんなことになったのか、誰が犯人なのか、全く状況はわからないのです。
逃げてきた人が言うには、犯人は複数だ。
警官が銃で撃っている。
・・・結局その話はデマだったわけです。
正しい情報がないというのはつらいものですね。



回りの状況がわからず、救助がいつ来るのかもわからず、
ひたすら逃げ惑い、少しのくぼみに身を潜め・・・恐怖の72分間。
生と死を分けるのは「運」のみ。
主人公でさえ「幸運」に恵まれるわけではないのだという、
つらい現実が私たちに突きつけられます。



結局この日、極右派の男によるテロで、
政府庁舎前では8名、ウトヤ島では69名が命を落としたという・・・。
戦慄の一作。

 

 

<WOWOW視聴にて>
「ウトヤ島、7月22日」
2018年/ノルウェー/97分
監督:エリック・ポッペ
出演:アンドレア・バーンツェン、エリ・リアノン・ミュラー・オズボーン、ジェニ・スベネビク、アレクサンデル・ホルメン

リアル度★★★★★
緊迫感★★★★☆
満足度★★★★.5

 

 


万能鑑定士Q モナ・リザの瞳

2020年03月21日 | 映画(は行)

天然系の天才

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松岡圭祐さんの原作は読んでいませんが、単に面白そうだから見てみようかな、と。

驚異的な鑑定眼と記憶力を持つ天才鑑定士・凜田莉子(綾瀬はるか)。
40年ぶりにルーブル美術館から来日することになった「モナ・リザ」の警備強化のため、
彼女が臨時学芸員に推薦されます。
渡仏し、ルーブル美術館で受けた採用テストにも受かり、
さらに日本で鑑定力を高めるための研修を受けます。
しかし研修が続くうちに謎の頭痛が起こるようになり、
鑑定能力までが失われてしまうのです。
莉子のことを取材していた雑誌記者・小笠原(松坂桃李)は、
姿を消した莉子を探し回り・・・。

「万能鑑定士Q」のシリーズは12巻も出ているのですね。
本作はその中の1話なのでしょう。
莉子はまさに知識豊富な天才鑑定士。
しかし沖縄出身の彼女、元々はとんでもなく成績不良の天然系だった
というのがなんともユニーク。
なるほど、だから綾瀬はるかさん、なんですね。
彼女は高校卒業後に特殊な「記憶術」を身につけてからこの仕事に入ったのです。
本作中では、フランス語を全く話せなかった彼女が、
瞬く間に仏語を習得する様を見ることができます。
(“のだめ”が、フランス語版の日本アニメを何度も見て
フランス語を覚えていたのを思い出してしまった!)

問題は、莉子が受けた“研修”の方法が、そもそも仕組まれた罠だったということ。
そしてモナ・リザの真贋の問題。
一度盗まれたことがあり、それが戻されたというのですが、
戻ったのは果たして本物だったのか否か・・・?
謎は深まります。

そして、莉子と親しくなる雑誌記者・小笠原は、いつも編集長に怒鳴られるダメ記者。
このなんだか頼りない感じがいいのですよね。
綾瀬はるかさんと松坂桃李さん、この二人を念頭に置けば、
「万能鑑定士Q」のシリーズもすごく楽しく読めそうな気がします。
読んでみようかなあ・・・。

 

<WOWOW視聴にて>
「万能鑑定士Q モナ・リザの瞳」
2014年/日本/119分
監督:佐藤信介
出演:綾瀬はるか、松坂桃李、初音映莉子、ピエール・ドゥラドンシャン

ミステリ性★★★★☆
キャラクターの好感度★★★★★
満足度★★★★☆


「津軽双花」葉室麟

2020年03月19日 | 本(その他)

共感までに至らなかった・・・

 

 

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関ヶ原の戦から十年後、三成の娘・辰姫が津軽家に嫁ぐ。
藩主の信枚と睦まじい日々を送るも、
その三年後に家康の養女・満天姫が正室として当主のもとへ。
辰姫は上野国大舘へ移るが、のちの藩主となる長男を産む―
ふたりの姫による戦国時代の名残のような戦さを描く表題作ほか、
乱世の終焉を描く短編も収録。

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葉室麟さんの「津軽双花」。
帯のキャッチコピーには「女たちの関ヶ原」とあります。
独立した4篇が収められているこの本の冒頭が「津軽双花」。

関ヶ原の戦から13年後。
石田三成の娘である辰姫が津軽藩当主の正室となっていたところへ、
家康の養女・満天姫が嫁いでくる。
家の格からいって満天姫が正室となり、辰姫が側室とならざるを得ない。
この三成vs家康の構図を持って、「関ヶ原」になぞっているわけです。
でももちろんこの二人が実際に武器を持って対峙したりはしないのですが、
互いの立場を尊重しつつ、津軽藩の繁栄のためにいかに尽くすか、
そうした女の戦いを繰り広げます。

・・・でも私にはなんだかピンとこない。
どうも立派すぎると感じてしまいます。
葉室麟さんの小説中の武士は凜として美しい。
そのことは揺るぎません。
武士としての矜持というのは、つまり「壮絶なやせ我慢」なのではないかと思ったりします。
でも女は・・・。
ここでは武家の女ですが、もちろん女にも意地も誇りもあります。
そして少しのやせ我慢もするけれども、
それは決して「壮絶なやせ我慢」ではないような気がする。
男性は社会の中の自分の位置が生きるすべて。
だからこそ「壮絶なやせ我慢」もする。
切腹なんかその最たるもの。
でも女性はそうではないのではないか・・・と、いうのが私の思いです。
だからここに出てくる女性たちにはどうも共感を得られない。

 

他には巻末の「鷹、翔ける」は、
明智光秀が信長を討つに至った理由が中心にストーリーが進みます。
まさに今、タイムリーに興味深いところです。
でも主役は光秀自身ではなくて、彼に仕える斎藤内蔵助。
彼の主筋は美濃の土岐家であることが大きな関わりを持ちます。



いずれも関ヶ原前後の歴史物語。
様々な登場人物も著名な人物ばかりなので興味深くはありますが、
表題作以外はちょっとした短編なので、食い足りない感じです。

「津軽双花」葉室麟 講談社文庫
満足度★★.5

 


THE GUILTY ギルティ

2020年03月18日 | 映画(か行)

音だけのスリル

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緊急通報司令室のオペレーターとして勤務するアスガー(ヤコブ・セーダーグレン)。
その夜、今誘拐されているという女性からの通報を受けます。
状況判断の材料は相手の声とその周囲のかすかな音のみ。
彼女をなんとか救いたいと思うアスガーは、
オペレーターとしての職務を超え、又勤務時間を過ぎても
この事件の収束に力を尽くしますが・・・。

舞台はすべてこの緊急司令室。
相手方の映像はありません。
しかし、声だけから判断する相手の状況がとてもリアルに緊張感を持って伝わってきます。
そしてアスガーの焦燥も。



アスガーは自分のできる限りを尽くして、
なんとか彼女の立場を有利に向けようと助言したりするのですが、
なんとも皮肉なことに、彼が介入したことによって
事態はますます悪化の方向へ動いてしまうのです。
この手の作品としては全く意外!! 
そう、そしてこの日の事件の真相も、
彼とそして私たちが思い描いていたものとは全くちがうのです。
実に驚かされます。



・・・と言うのも、次第に見えてくるのですが、
このアスガー、本来は警官なのですが、過去のある事件によって、一線を退き、
この部署に就いていたのです。
そして、その裁判が翌日にひかえていました。
実のところ彼に正義があったわけではなさそうなのですが、
それを彼は偽証し罪を逃れるつもりだったのです。
そういう後ろめたさが、
自分が事態を悪化させていると、なおも彼を責め立てる。

司令室の中で電話を待つだけのシーンが延々と続くだけなのに、
なんて油断のならないスリルに満ちていることか・・・面白かったです!!


本作を見た後、ワゴン車の貨物庫に押し込められた女性の恐怖の表情とか、
部屋にひとりぼっちで怯える少女の像が不思議にイメージとして頭の中に残っています。
そんな映像は少しも出てこなかったのに!

 

 

<WOWOW視聴にて>
「THE GUILTY ギルティ」
2018年/デンマーク/88分
監督:グスタフ・モーラー
出演:ヤコブ・セーダーグレン、イエシカ・ディナウエ、ヨハン・オルセン、オマール・シャガウィー
緊迫度★★★★☆
意外性★★★★★
満足度★★★★.5

 


ダーティ・グランパ

2020年03月17日 | 映画(た行)

父子3代のあれこれ・・・

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一週間後に結婚を控えた弁護士ジェイソン(ザック・エフロン)は、
祖母の訃報を受け、葬儀に出席します。
そして、妻を亡くし傷心の祖父ディック(ロバート・デニーロ)に
強引にフロリダへの旅行に誘われるのです。
ところが祖父は朝から酒を飲み、ゴルフ場でナンパをするなどやりたい放題。
ジェイソンはうんざりしながらも、祖父のドタバタに巻き込まれていき・・・。

お気楽な祖父と堅物の孫とのバディムービー。
しかしつまり、この物語の根本は、ディックとその息子(ジェイソンの父)との関係性にある。
ディックは軍人(しかも、特殊工作員!)だったため、あまり家におらず、
自分の息子とともに過ごすことが少なかった。
だからここの父子関係が希薄なのです。
息子はそんな父を反面教師として、実に堅実に弁護士の道を歩んだ。
そしてそのまた息子ジェイソンは、
子どもの頃祖父に楽しく遊んでもらったことは覚えているけれど、
父親の方針からはみ出すことなく、後を継いで弁護士となった。
結婚も、相手を愛しているから、というよりは
家を継ぐのに都合が良いから、と言う理由で決めたようでもあります。

ディックは、子どもの頃あんなに自由で、カメラマンになりたいとも言っていたジェイソンが、
面白くもない仕事を選び、なおも面白くもない結婚をすることに、
幾分自分の責任をも感じたのかもしれません。
自分がうまく息子に道を示すことができなかったから、と。

・・・と、このように物語のバックボーンを語ればなかなか深い物語なのですが、
実のところの本作は、極めてケーハクかつお下品。
ロバート・デニーロやザック・エフロンがそこまでやるか、という感じ。
まあ、ここは好みによるでしょうけれど、私は好きではありません・・・。

 

 

<Amazonプライムビデオにて>
「ダーティ・グランパ」
2016年/アメリカ/102分
監督:ダン・メイザー
出演:ロバート・デニーロ、ザック・エフロン、ジュリアン・ハフ、オーブリー・プラザ

お下品度★★★★★
満足度★★.5


「科学する心」池澤夏樹

2020年03月16日 | 本(エッセイ)

文系でも科学は面白い

 

 

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大学で物理学科に籍を置いたこともある著者は、
これまでも折に触れ、自らの作品に科学的題材を織り込んできた。
いわば「科学する心」とでも呼ぶべきものを持ち続けた作家が、
最先端の人工知能から、進化論、永遠と無限、失われつつある日常の科学などを、
「文学的まなざし」を保ちつつ考察する科学エッセイ。

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物理の点数は最悪ではありながら、なぜか「科学」には心躍る私。
未知のものへの好奇心とか探究心はあるつもりなので、
科学する心は常に持ちたいと思っています。
本巻は敬愛する池澤夏樹さんの科学に関するエッセイなので、わくわくしながら読みました。
どの章立ても、興味深いものばかりです。

 

「原子力、あるいは事象の一回性」の中では、
あの震災時の福島原発の事故時の対応についてこんな風に言っています。

圧倒的に強い相手とのテニスのようなものだ。
飛来するサーブを返せない。
こちらのサーブはことごとく強打となって返ってくる。
右へ左へひたすら翻弄される。

予想しなかった事態に、思いつく限りのあらゆる手を尽くしても全く歯が立たない、
そういう感じですね。


「体験の物理、日常の科学」では、「以前は科学は実感で納得できた」と言います。
例えば電熱器のニクロム線。
電気が通れば赤くなって熱をもつ。
なんとも単純明快。
私が子どもの頃家にあった足踏みミシンなども、
ペダルを踏んだ動きをベルトで伝えると言う仕組みが子供心にも納得できたものでした。
しかるに今は、電子レンジの仕組みもよくわからないし、
スマホの中身がどうなっているのかなんて、全く想像もつかない。
ほとんどがブラックボックスの中。
そんな中で、料理が身体感覚を用いる科学の第一歩だと著者は言います。
そうか、料理も科学なんだ!


「考える」と「思う」の違いでは、AIのことに触れています。
特に「ブレードランナー」や「ターミネーター」、「2001年宇宙の旅」の映画を
例にひいて話が進むのがとても興味深い。
著者はAIは「考える」ことはできるが「思う」ことができない、と言います。
ただし、「今のところ」ということで。

 

「パタゴニア紀行」では、私も以前テレビ番組となった
池澤夏樹さんのパタゴニア旅行記を見たことを思い出しました。
日本のちょうど裏側にあるパタゴニア。
行ってみたくもありますが、いかにも遠そうだなあ・・・。

 

最終章「光の世界の動物たち」では、地球上の生物の壮大な進化の歴史が語られます。
地球が今の形をなしたのがおよそ46億年前。
著者はわかりやすく地球年齢の数字を換算し、今、46歳だと言うことにする。
8歳あたりで生命が誕生。
しかし多細胞生物が生まれるのはようやく40歳。
そして40歳半くらいのところで、いきなり多様な生物が登場。
それというのも、生物が「眼」を持つようになったからだというのです。
なるほど~。
壮大すぎてなんだかクラクラしてきます。

 

後日、ぜひ著者にはこの度のウイルス渦について「科学」してもらいたいです。

 

図書館蔵書にて
「科学する心」池澤夏樹 集英社インターナショナル
満足度★★★★.5

 


イントゥ・ザ・スカイ 気球で未来を変えたふたり

2020年03月15日 | 映画(あ行)

人類未踏の高みへ

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本作、劇場で見ようと思っていたら、Amazonのオリジナル作品で、
Amazonプライムビデオで見ることができたのでした!!

実話を元にしています。
1862年、ビクトリア朝ロンドン。
当時、天候の予測は不可能と思われていたのですが、
気象学者ジェームズ(エディ・レッドメイン)は、
気球で上空の状況を観測できれば、天気の予想は可能であると論じます。
しかし周囲の人々は荒唐無稽だと揶揄し、実験の資金を集めることもできません。
しかしついに、気球操縦士アメリア(フェリシティ・ジョーンズ)に頼み込み、
彼女の気球飛行に同行することに。
前人未踏の高度7000メートル超えに挑みます。

当時の気球はサーカスのショーみたいなものだったようです。
冒頭で、アメリアは派手な衣装、パフォーマンス気分たっぷりで登場します。
一方ジェームズはまさに学者肌の堅物。
気球のかごで二人きりで過ごすのに、全く気が合いそうにない。



今、気球と言えばまず熱気球なのですが、このときの二人が乗ったのはガス気球。
おもりを落として上昇し、下降するときはガスを抜くわけです。
まずは眼下に広がるロンドンの町。
なんて素晴らしい!! 
そして嵐の雲を突き抜ければ、真っ白な雲海が眼下に広がり、丸い虹が輝いている。
気流に乗った蝶の群れが現れて、しばしファンタジックな気分に心躍ります。
これまでの気球の記録高度7000メートルを超え、
ジェームズのたっての希望で気球はさらに上昇を続けます。
しかし、次第に酸素が薄くなり、気温もぐんぐん低下。
酸素ボンベもなく、ろくな防寒衣すらない。
そんなときガスを抜く弁が凍りついて作動しない!!

いやはや、とんでもない高所にいると言うだけでもスリルたっぷりなのですが、
おまけに酷寒の世界。
そんなところでのアメリアの命がけの勇気ある行動。
全く、身が縮む思いです。
こんな時、女は強いなあ・・・。



ほとんど気球上で二人だけのシーンが多いのですが、
気が合わなかったり、仲良くなったり、死にそうになったり・・・
変化に富んで全然退屈しません。
この二人は「博士と彼女のセオリー」でもコンビを組んでいましたね。
すごくいいです。
理想を追う男は、体力的には劣るけれども精神は輝いている。
そんな男を支えようとする女はより強靱な精神が必要だし、
本作ではさらに体力もある!!
面白い!!


<Amazonプライムビデオにて>
「イントゥ・ザ・スカイ 気球で未来を変えたふたり」
2019年/イギリス・アメリカ/100分
監督:トム・ハーパー
出演:フェリシティ・ジョーンズ、エディ・レッドメイン、フィービー・フォックス、ヒメーシュ・パテル

スリルたっぷり度★★★★★
満足度★★★★.5