映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

スーサイド・ショップ

2016年01月31日 | 映画(さ行)
ビターな大人のアニメ



* * * * * * * * * *

フランスのベストセラー「ようこそ、自殺用品店へ」をアニメ化した作品。
ものすごくブラックです。



世の中全体が絶望に満ちた、都会。
自殺者が跡を絶ちません。
あまりにも自殺者が多いので
「公共の場で自殺」した者に、違反切符が切られてしまうくらい。
(そのツケは遺族が払わねばならないとか。)
そんな街の裏通りに、トゥヴァシュ家が営む「自殺用品店」があります。
首吊り用の縄や毒薬、ピストルなどを扱っている・・・。
この家族は父ミシマ、母ルクレス、姉マリリンと弟ヴァンサンの4人。
皆陰気で憂鬱な顔。

そしてある日、末っ子のアランが誕生。
ところが、この子は妙に明るくて元気がいい!! 
この家にはそぐわず、家族からも困った子と思われています。
そんな中でもアランはすくすくとポジティブに明るく成長。
彼は家族ばかりでなく世間の陰気さをなんとかしようと、
仲間たちとともに立ち上がります!!



はじめの方は実際遠慮無く自殺者のオンパレード。
彼らの売る「自殺用品」も決してインチキではなく、確実に成果を収めます。
ひゃー、ほんとにここまでやるんだ・・・と、見ている方が慌ててしまうくらいに。

特にミシマが「ハラキリ」のための日本刀を
お客にお勧めするシーンなどはかなりヤバイ。
日本では使えそうで決して使えないギャグだと思う・・・。
しかし、マリリンがウスモノをまとい、一人ダンスするシーンなどはちょっといいですね。
若干肉付きがよすぎるのですが、それがまた魅力になっている。
よく見れば確かに美人。
かなり個性的な。
テーマからしてももちろんですが、
決して子どもには見せられないアニメなんですね。



というわけで、ブラックさ満載ではありますが、結構面白かった。
しかし、皆が笑い、愛って美しい・・・というラストが
一番つまらなく感じてしまいました。
かなり毒されてしまったようです。



スーサイド・ショップ スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]
パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン
パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン


「スーサイド・ショップ」
2012年/フランス・ベルギー・カナダ/79分
監督:パトリス・ルコント
ブラックユーモア度★★★★★
満足度★★★.5



「黒く塗れ 髪結い伊三次捕物余話」 宇江佐真理

2016年01月30日 | 本(その他)
祝! 第一子ご誕生!

黒く塗れ―髪結い伊三次捕物余話 (文春文庫)
宇江佐 真理
文藝春秋


* * * * * * * * * *

お文は身重を隠し、年末年始はかきいれ刻とお座敷を続けていた。
所帯を持って裏店から一軒家へ移った伊三次だが、
懐に余裕のないせいか、ふと侘しさを感じ、回向院の富突きに賭けてみる。
お文の子は逆子とわかり心配事が増えた。
伊三次を巡るわけありの人々の幸せを願わずにいられない、
人気シリーズ第五弾。


* * * * * * * * * *

前巻で、お文の妊娠がわかったところですが、
お文はなかなかそれを伊三次に告げることができません。
しかし、いつまでも隠しておけることではありません。

「髪結いのご新造さん、ややができたんでござんすかい」
茶化すように問う伊三次に
「ばか」
と応えるお文。

ここのところは巻末の解説で竹添敦子さんも引用していますが、
ホント、引用したくなるくらいの微笑ましい名シーン。
子どもは逆子で難産でしたが、無事生まれます。
男の子で伊与太。
不破の旦那の命名です。
しかし生まれれば生まれたで、一日中その世話に追い回されるお文は疲れ気味。
『自分は本当は子どもをあまり好きではない』ことに気づいた、
などと言っていますが、
こういう感覚は、著者が女性で、しかも子育てを経験した人ならではという気がします。
わかります。


でも、伊三次は極力仕事を早く切り上げ、帰ってきてからはお文とバトンタッチ。
立派な育メンなのであります。
あ、本筋と関係ないことばかりですみません。
しかし、私としてはこちらが本筋と思っていたりします・・・。


さて、本巻

「畏れ入谷の」
泥酔し、ひどく荒れて暴れまわる武家の男が評判になります。
ある時とうとうお文が酒席でその男の相手をしなければならなくなった。
案の定、男は乱暴を働き始めるのですが・・・。
身重のお文さんに何かあったらどうするのさ!
とハラハラしてしまうのですが、そこがさすがお文さん。
やんわりと受け流しつつ、ここまで荒れてしまう男の悩みを聞き出してしまう。
それがまたなんとも理不尽な話、
大奥に下働きで働いていた彼の妻が、お上に見初められて、
彼とは離縁をしなければならなくなった、というのです。
切ないですね。


「夢おぼろ」では、
伊三次が富突き、つまり宝くじのようなものを買うシーンがあります。
子どもまでできていよいよ物入り。
そりゃー、一攫千金の夢も見ますよね。


「黒く塗れ」の題名はなんと、矢沢永吉さんのロックの題名が気に入ってつけたのだとか。
呪い、つまりは催眠術を用いた犯罪を題材とした異色作です。
でも以前、幻術のシーンが有ったくらいなので、そうは驚きません。
伊三次の感の良さで事件が解決するシャレた一作。


ラストの「慈雨」は以前出てきた巾着切りの直次郎が登場します。
足を洗うために自分の人差し指を切り落とした彼は、
それでも想い人・お佐和を忘れることができません。
そしてお佐和の方もまた・・・。
著者は再び直次郎を登場させようとは少しも思っていなかったのだそうですが、
女性読者から「直次郎を幸せにしてください」との手紙をもらい、
このストーリーができたのだとか。
確かに女性好みのロマンチックとも言える一作となっています。
ラストは私も思わずもらい泣き。


お文さんの出産に伊三次が立ち会ったり、
直次郎が花束を抱えてお佐和に会いに行ったり(花屋さんなので・・・)。
多分時代小説としては、あるべきでない情景なのだろうと思うのですが、
でもそういうところがすごく好きです!
宇江佐真理さんの心意気が伝わります。


「黒く塗れ 髪結い伊三次捕物余話」宇江佐真理 文春文庫
満足度★★★★★

シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア

2016年01月29日 | 映画(さ行)
現代のヴァンパイアの生活をドキュメンタリーで



* * * * * * * * * *

ヴァンパイアの共同生活? 
何やら奇妙な作品。
見始めて実際チープな感じなので、う~んと思ったのですが、
だんだん面白くてハマってしまいました。
ニュージーランド作品というのも珍しいですが、
さすがに様々な映画賞獲得というのも納得できるユニークさでした。



時は現代。
ウェリントンの街に彼らは住んでいます。
夕方6時に起床の目覚ましが鳴る。
きれい好きで口うるさいのがヴィアゴ。

昔は「串刺し候」などと呼ばれた恐ろしげなのがヴラド。

反抗期の問題児がディーコン。

そしてなんと8000歳というのがピーター。

ヴァンパイアは不老不死で姿が変わらないと言いますが、
さすがに8000歳ともなるといかにも怪物めいてきてちょっと怖い。
ピーターを紹介するヴィアゴがちょっとビビっていたりするのもおかしい。



さて本作は、彼らの暮らしを
TVクルーが潜入してドキュメンタリーを撮っているという体裁になっています。
はじめのうちは彼らののんきな生活の様子が紹介されていきますが、
ある時、彼らは一人の大学生ニックに噛み付いて仲間にしてしまいます。
ニックは新米のヴァンパイアなので好き勝手なことをする。
面白がって空を飛び回ったり、人にも平気で自分の正体を話してしまったり。
ある日、彼の生前(?)の親友、スチューを連れてきます。
ところが妙に生真面目で最新のテクノロジーにも詳しいスチューを、
何故か皆が気に入ってしまい、
「決して彼には噛みつかないこと」などと協定を結んだりする。
でもこのことが次第に騒動に・・・。



数々のヴァンパイアの伝説や映画作品を逆手に取った本作。
なんともバカバカしくも笑える痛快作品でした。
監督のタイカ・ワイティティ、ジェマイン・クレメントが出演もしています。
いろいろな国でユニークな作品創りをしている人達がいるもんですねー。

『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア』 [Blu-ray]
タイカ・ワイティティ,ジェマイン・クレメント,ジョナサン・ブロー,コリ・ゴンザレス=マクエル
松竹

「シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア」
2014年/ニュージーランド/85分
監督:タイカ・ワイティティ、ジェマイン・クレメント
出演:タイカ・ワイティティ、ジェマイン・クレメント、ジョナサン・ブロー、コリ・ゴンザレス=マクエル、スチュー・ラザフォード
ユニーク度★★★★★
ホラー度★★☆☆☆
満足度★★★☆☆

フランス組曲

2016年01月27日 | 映画(は行)
単に禁断の恋ではなく・・・



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1942年にアウシュビッツで亡くなった女性作家、
イレーヌ・ネミロフスキーによる未完の小説を映画化したものです。
著者は当時フランスの人気作家であったのですが、
本作主人公と同じく、ナチスのフランス侵攻で大きく運命が変わってしまいました。
本作は疎開生活をしている間に書き綴られたものだそうですが、
ナチスに協力したフランス憲兵により捕らえられてアウシュビッツに送られたのです。
この原稿を娘さんが保管してあったのですが、
60年後の2004年にようやく出版されたもの。
本作は、こういう作品背景抜きには、やはり語れない作品だと思います。



物語の舞台は、1940年ドイツ占領下のフランスの田舎町。
ちょうど著者の疎開した町をそのままイメージしたのかもしれません。
出征した夫の帰りを待つリュシル(ミシェル・ウィリアムズ)は、
厳格な夫の母(クリスティン・スコット・トーマス)とともに大きな屋敷で暮らしています。
そんな時、パリを占領したドイツ軍が、とうとうこの町にもやってきた。
この屋敷は、ドイツ軍中尉・ブルーノ(マティアス・スーナールツ)の居所として割り当てられます。

リュシルは憎い敵国の将校を受け入れることなどできないと思っていたのですが、
それでも、軍人のイメージとは遠く
礼儀正しく音楽を愛するブルーノに次第に惹かれていきます。
そしてブルーノもまた・・・。



禁断の恋? 
いいえ、あえてそのドイツ兵と親しくなるフランスの女性たちも多くいたわけです。
若い男性がみな戦争に行ってしまっている中で、ドイツの若い兵士がステキに見える。
彼らと仲良くなることで、様々な特典もある。
でもまあこの場合、リュシルは人妻でもありますし、
何よりもこの姑に知れたらただ事で済みそうにない・・・。



しかし、その姑が留守になる日、
ブルーノと逢瀬を約束したリュシルには自然と笑みがこぼれてしまう・・・。
この辺りで、ちょっといやな感じがしてしまうのです。
結局はただの浮気のストーリーなのか、なんて愚かな女・・・と。
でも、その直後、彼女のこの笑みを凍りつかせる事件が起きて、
彼女は目覚めるのです。
(はー、よかった・・・)


この先の彼女の行動は、多分にこうしたことの罪悪感の裏返しのようにも思えます。
やはり、愛を交わすことはできない・・・と。
ブルーノもまた、兵士には全く向かない男性なんですね。
だからちょっと軍の中でも浮いている感じ。
ドイツ兵だって同じ人間、個々の人間の集まり。
それぞれにはそれぞれの事情がある・・・。
著者自らを苦境においい入れたドイツ兵にこういう人物を配置できるというのが凄いと言うか、
プロの作家魂ですね。



敵方へ隣人を密告する住民たちや、
ドイツ兵と占領下の若い女たちのこと・・・
おそらく当時のことを人々はあまり語りたがらないのでしょうけれど、
占領下の生々しいフランスの姿も映しだされています。
平時には考えられないエゴ丸出しの姿が、
こんな時に見えてしまうというのもなかなかキツイですね・・・。

「フランス組曲」
2014年/イギリス・フランス・ベルギー/107分
監督:ソウル・ディブ
出演:ミシェル・ウィリアムズ、クリスティン・スコット・トーマス、マティアス・スーナールツ、サム・ライリー、ルース・ウィルソン

占領下のフランスの真実度★★★★☆
ロマンス度★★★☆☆
満足度★★★☆☆

「あの日の青空 海街Diary7」吉田秋生

2016年01月26日 | コミックス
新展開、それぞれの恋。

海街diary 7 あの日の青空 (flowers コミックス)
吉田 秋生
小学館


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映画「海街Diary」の評判も良かったようで、何よりでした。
原作のイメージそのままに、楽しませてもらいました。


さて、原作の方の最新刊です。
本巻では、これまでいつも脇役的存在の3女・千佳ちゃんにもスポットが当たります。
彼女の想い人、スポーツ店のアフロ店長こと浜田が、ネパールへ行ってしまうのです。
登山ではないので遭難の心配はありませんが、
そこで山の空気を吸い、登山仲間たちと会うことで、
日本に帰らなくなってしまうのではないかと、彼女は心配しているようなのです。
が、さらにその上・・・!! 
この千佳の秘密を偶然知ってしまうのが、すず。
さあ、どーする!?
・・・って、この結果がわかるのは次巻ですね。
ひゃ~、待ち遠しい。


さて、千佳ちゃんのこともさることながら、
長女・幸と次女・佳乃の恋にも変化が訪れます。

「もうわかってると思うけど、おれはあなたが好きです。」
まっすぐに幸への思いを告げる井上。

これまで胸の奥にしまいこんでいた苦しみを佳乃に打ち明け、
「ぼくの・・・そばにいてくれませんか」
そっと告げる坂下。

いいですねえ、どちらも海岸で。
鎌倉っていいなあ~。


ですが、本巻で私が一番ジーンと来たのは、すずと風太のシーン。
静岡の高校の女子サッカー特待生の声がかかったすずは、
せっかく馴染んだ今の家の暮らしから離れることに不安を感じているのです。
けれど、そんなすずを風太はそっと後押しする。

「おまえがどこで暮らしたって、お姉ちゃんたちがおまえのお姉ちゃんなのは変わんないって」
もう気づいているだろう、と。

本当は地元の高校に一緒に通いたいと、風太は思っているはずなのですが、
偉いぞ、風太!! 
こんなやつだからこそ、すずも彼を好きなんですよね。


ということで、この展開、まもなくの「最終回」が射程圏内のようなのです。
それはかなり残念な気がするのですが・・・。
とりあえずは次巻を待ちましょう。

「あの日の青空 海街Diary7」吉田秋生 小学館フラワーコミックス
満足度★★★★★

ジミー、さよならのキスもしてくれない

2016年01月25日 | 映画(さ行)
ハードルを下げた父親



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本作もリバー・フェニックス目的で拝見。


リバー・フェニックス演じるジミーは17歳の多感な少年。
シカゴ郊外の中・上流階級ゾーンに越してきます。
周りの新しい友人たちは皆お金持ちのお坊ちゃま・お嬢様。
けれど、彼の家庭は経済的にはちょっとキビシイ。
彼は大学へ行くため、父親からもらった資金を使ってしまい、
父に、それなら父と同じビジネススクールに行くか、就職するか
どちらかにしろと言われてしまいます。


アメリカ映画らしく、この父と息子は反目するばかりで全くうまく行っていない。
でもね、まあ、私自身「親」の立場でもあるので、
実際ジミーのこの生活態度には全く疑問を抱かざるをえない。
女にはすぐ手を出す。
友人や妹にまで借金をして返さない。
一応本命の彼女がいるのに、母親の友人マダムに簡単に誘惑されてしまう。
挙句に、ハワイへ行くなどと腑抜けたことをいう。
なんだか途中で見るのも嫌になってくるくらいおバカな奴なんですよ・・・。
ど~するのさ、アンタ!!
破綻は目に見えている。
ありふれた青春の挫折のストーリーにしてもなんとお粗末な・・・と思った矢先、
ふっと気持ちの和むラストに少し救われました。
それはやはりジミーと父親との関係に答えがあった。


父が母の友人を家に招くことを極度に嫌がっているというところで、
わたしはピンときたのです。
ただひたすら真面目で面白みも何もないように見えるこの父が・・・?
息子が父を超えたのではない。
父親のほうが勝手にハードルを下げただけ。
そうではあるのですが、そのことによって
ジミーのただ闇雲にある父への反感が解消するのですね。
どっちも同じ穴のムジナ・・・。
なんだかしょうもないラストなのですが、
それまでと打って変わって、互いにそばにいる父と息子の力の抜け具合が秀逸。
全く、本作はこのラストがなければとんでもない駄作で終わるところでした・・・。

ジミー ~さよならのキスもしてくれない~ [DVD]
ウィリアム・リチャード,ウィリアム・リチャード
カルチュア・パブリッシャーズ


「ジミー さよならのキスもしてくれない」
1987年/アメリカ/93分
監督・脚本:ウィリアム・リチャート
出演:リバー・フェニックス、メレディス・サレンジャー、ポール・コスロ、アン・マグナソン、マシュー・ペリー

リヴァー・フェニックスの魅力度★★★☆☆
満足度★★★☆☆

白鯨との闘い

2016年01月23日 | 映画(は行)
何かの偉大な意志によって・・・



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19世紀捕鯨船エセックス号での実話の映画化です。
小説「白鯨」のヒントになったものとのこと。
そのため本作は、作家ハーマン・メルビル(ベン・ウィショー)が
エセックス号の最後の生き残りトーマス・ニカーソン(ブレンダン・グリーソン)の元を訪ね、
当時の体験を聞こうとするシーンから始まります。

しかし彼は口が重く、なかなか語ろうとはしないのです。
それは、あまりにもつらい体験だったから・・・。


1819年。
当時、捕鯨が大変盛んに行われていたのですね。
というのも鯨の油を燃料とするため。
まだ石油などの有効性が認められる以前のことです。
昨今欧米人は捕鯨を目の敵にしますが、
かつては自分たちも鯨を絶滅に追い込みそうなほどに、鯨を獲っていたのですよね。
しかも本作でも分かるように、使うのは油だけ。
肉などはその場で海に捨てて、サメの餌にしていました。
いや、確か鯨のヒゲを当時の女性のスカートの骨に使っていた
という話も聞いたことがあるのですが・・・。
まあどちらにしても随分無駄が多い。
しかるに日本の古来の捕鯨は、鯨を何から何まですっかりあますところなく利用していた
というのも以前何かで見たことがあります。
いきものの大切さは、日本人のほうが心得ている、と私は思う次第。



話がそれました。
このエセックス号の一等航海士がオーウェン・チェイス(クリス・ヘムズワース)。
実は彼が船長になるはずだったのですが、
家柄の良いジョージ・ポラード(ベンジャミン・ウォーカー)が船長の座を横取りしてしまうのです。
無鉄砲で自信家、そして捕鯨については超ベテランのチェイスと、
経験は浅いが名家の出でプライドの高いポラード。
この二人が仲良くやっていけるわけがない。
・・・がしかし、だからといってこの2人のいがみ合いのために事件が起こるわけでもありません。
が、日常的に若干の緊張を孕んでいる、と。
冒頭で体験を語っていたトーマス・ニカーソンは、
新米の乗組員でまだ少年(トム・ホランド)です。

船は基地であるナンタケット島を出港し、大西洋ではじめの一頭を捕らえるのですが、
その後鯨はパッタリと姿を見せなくなります。
やむなく遠く太平洋へ乗り出した彼らは、ある日巨大な白い鯨と遭遇。
しかし、鯨はエセックス号を打ち壊し、沈めてしまう。
乗組員たちは僅かな水と食料を持つのみで、3艘のボートで大海原を漂うことに・・・。



本当に怖いのは鯨ではなく、
このいつ果てるとも知れない漂流生活なのでした。
それとも鯨は、彼らをこのような目に合わせようとして襲ったのか。
欲望のために鯨を絶滅寸前まで追い込もうとする人間の身勝手さを、
何か偉大なものが、戒めている・・・というようにも思えるのでした。
鯨はサメと違って、人間を食べるために襲ったりはしない。
だからこそ、その鯨が怒った時というのが、いかにも怖い感じがします。



鯨が暴れまくるスペクタクル作品かと思ったのですが、
意外とその後の漂流こそが人間の弱さや強さ両面を覗かせる
見応えのある作品となっていました。

「白鯨との闘い」
2015年/アメリカ/122分
監督:ロン・ハワード、
出演:クリス・ヘムズワース、ベンジャミン・ウォーカー、キリアン・マーフィ、ベン・ウィショー、トム・ホランド、ブレンダン・グリーソン

スケールの大きさ★★★★☆
自然への畏敬度★★★★☆
満足度★★★★☆


「さんだらぼっち 髪結い伊三次捕物余話」 宇江佐真理

2016年01月22日 | 本(その他)
「子ども」にまつわるあれこれ

さんだらぼっち―髪結い伊三次捕物余話 (文春文庫)
宇江佐 真理
文藝春秋


* * * * * * * * * *

芸者をやめたお文は、伊三次の長屋で念願の女房暮らしを始めるが、
どこか気持ちが心許ない。
そんな時、顔見知りの子供が犠牲になるむごい事件が起きて―。
掏摸の直次郎は足を洗い、伊三次には弟子が出来る。
そしてお文の中にも新しい命が。
江戸の季節とともに人の生活も遷り変わる、人気捕物帖シリーズ第四弾。

* * * * * * * * * *

本巻全体を流れるテーマはズバリ、子どもです。


まず冒頭「鬼の通る道」では、不破友之進の長男龍之介くん。12歳です。
勉強よりはどうやら、剣術の稽古の方が好きなようですが、
そろそろ親のあとを継ぐ準備もしなければなりません。
母・いなみが教育熱心で、不承不承、塾に通わされることに。
・・・などという設定がちょっぴり微笑ましいですね。
ところが、ある日突然塾へ行きたくないと言って、熱まで出す始末。
そんな時、伊三次が、ちょうど探っていた事件と、龍之介の不登校(?)の関連に気づくのです。


「さんだらぼっち」は、子どもへの虐待を取り上げています。
今時多い話題ではありますが、何時の世にもあったのでしょうね。
お文さんがある時、早苗というまだ幼い女の子と知り合いになります。
いかにもあどけなく可愛らしい。
ところが後日、早苗は悲惨な事件により亡くなってしまったことを知るのです。
そんな時、お文の隣の家でも幼い女の子が
母親に虐待されているのを見てカーッとなったお文さんは・・・!!
いや、気持ちはわかりますが、ちょっとやり過ぎました。
急にこの長屋に居づらくなったお文さんは、家を飛び出してしまいます。
あらら、はやくも伊三次と破局?
いやいや、それもほんのいっときでした。
お文に長屋暮らしは無理だと観念した伊三次は
ついに一戸を構えます。


最後の「時雨れてよ」では、九兵衛という少年が登場。
なかなか義侠心のある良い子です。
この少年が、いろいろとあった末に伊三次の髪結い業の弟子入りをすることになる。
そして、ついにお文さん、ご懐妊です!!
・・ということで、伊三次は何かと物入りで大変そうですね・・・。
頑張ってください・・・。


と、これでシリーズ4冊目なのですが、全体に物語が時を追って流れて行くので、
全然飽きずに楽しみに読めているのです。
本巻はせっかくのお文さんの懐妊で、おめでたいところなのですが、
ラスト、お文さんの心境はちょっと暗い。
でも、大丈夫。
次巻を乞うご期待!!


「さんだらぼっち 髪結い伊三次捕物余話」宇江佐真理 文春文庫
満足度★★★★☆

リトル・ニキータ

2016年01月21日 | 映画(ら行)
あなたの両親は敵国の潜入スパイだと告げられたら?



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リバー・フェニックスが見たくて見ました。
1988年作品。
ジェフ(リバー・フェニックス)は、カリフォルニア州で園芸店を営む両親と暮らす、ごく普通の高校生。
ある日、彼は空軍士官学校の入学願書を提出したのですが、
その両親の身元をチェックした担当官でありFBI捜査官でもあるロイ(シドニー・ポワチエ)が不審な点に気付きます。
なんと彼の両親はソ連からの潜伏スパイ(スリーパー)だったのです。
折しも、この頃、同じようにソ連から長期間スパイとして潜入していたと思われる人物が
次々に殺害されているのです。
この事件の犯人を捉えようとするKGB。
そしてFBIのロイ。
真実をロイに告げられたジェフは戸惑い、悩むのですが・・・。
さしあたってまず両親の命が危ない!!


リバー・フェニックス出演だから見られたというくらいで、
なんだか設定にあまり緊迫感が感じられず、
わかりにくいところもあって、イマイチでした。
そもそも二重スパイでどちらの側なのか自分でもよくわからなくなっていた殺人犯、
という設定がほんとうによくわからず、
何のために殺人を繰り返しているのかという説得力もなかった。
もっと、奥の方に何れかの国家的陰謀が隠されていたとかいうのならまだしも・・・。
ただ、さすがにリバー・フェニックス演じるところの少年像は
活き活きとしてかっこ良く、彼とロイのからみのところがオシャレで楽しめました。


“ニキータ”というのは本当はロシア人であるジェフの本当の名前だった、
ということなんですが、
この題名は本作のようなサスペンスとはちょっと結びつかないのも残念なところ。

リトル・ニキータ [DVD]
リヴァー・フェニックス,シドニー・ポワチエ,リチャード・ブラッドフォード
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント


「リトル・ニキータ」
1988年/アメリカ
監督:リチャード・ベンジャミン
出演:シドニー・ポワチエ、リバー・フェニックス、リチャード・ジェンキンス、キャロライン・カバ、リチャード・ブラッドフォード
サスペンス度★★☆☆☆
リバー・フェニックスの魅力度★★★★☆
満足度★★.5

人生の約束

2016年01月19日 | 映画(さ行)
立山連峰、曳山まつりの光景はピカイチ



* * * * * * * * * *

富山県射水市新港の曳山祭りを背景とした人間ドラマ。
中原祐馬(竹野内豊)は、新興IT企業のCEO。
会社拡大のことしか頭になく、ワンマンで冷酷、逆らうものは容赦なくクビ。
そんなある日、元共同経営者で親友でもあった航平から、
無言の電話が何度も入ります。
胸騒ぎを覚えた祐馬が航平の故郷、富山県新湊を訪ねてみると、
ちょうど航平の葬儀が行われていた・・・。
航平の親族は、会社から彼を追い出すような仕打ちをした祐馬を激しくなじるのですが、
航平の忘れ形見である少女・瞳は、あることを祐馬に頼みます。
「四十物(あいもの)町の曳山を取り戻して・・・」
航平は最後まで代々伝わる四十物町の曳山のことを気にしていたのです。
なくなった航平や、瞳、この町の人々の熱意にふれ、
次第にこのことに関わっていく航平。
しかしそんな時、会社の不正が明るみに出て、祐馬は会社も何もかも失うことになってしまう・・・。



何と言っても、この街から眺めた立山連峰の雄大な風景に目を奪われます。
そして、江戸時代から350年続いているという曳山まつり。
都会でささくれだった心を癒やす町の風景としてはもう満点です。



でも、共同経営者の親友を追い出すまでに強引で冷酷なやり方を貫いた人物が、
こんなに簡単に気持ちが切り替えられるものなのか。
この風景で割り引いても、安直さが感じられてしまいます。
実は本作には「航平」が登場しません。
シルエットで、祐馬と言い争うシーンがあるのみ。
だからなのかどうか、どうも航平と祐馬の「絆」がどんなものだったのか、ピンときません。
どれだけの付き合いで、どんな諍いがあって決裂しなければならなかったのか。
そもそも、祐馬は航平に娘がいたことも知らなかったようですし。
だからどうにも、祐馬がここまで曳山に関わろうとする根っこのところが曖昧なんですよね・・・。
もしかして、会社がダメになったことからの逃避のようにさえも見える。
いい話ではありましたが、イマイチのめり込めなかったという感じでした。



「瞳」役の高橋ひかるさんは新人で、美少女コンテストグランプリ受賞者だとか。
なるほど~、カワイイというよりキレイな感じでちょっと透明感があっていい感じでした。
ただし作中彼女は亡き父親のことを「あの人」と呼ぶ。
作中で語られる航平は、優しく人情味あふれる人物。
どうもその人物像と、娘が感じる父親像が一致しないというのも、本作の弱点です。



「人生の約束」
2016年/日本/120分
監督:石橋冠
出演:竹野内豊、江口洋介、松坂桃李、優香、小池栄子、西田敏行、ビートたけし、高橋ひかる
町の風景★★★★★
人生の再生度★★★☆☆
満足度★★★☆☆

「標的 上・下」パトリシア・コーンウェル 

2016年01月18日 | 本(ミステリ)
復活する、新たなる脅威

標的(上) (講談社文庫)
池田 真紀子
講談社


標的(下) (講談社文庫)
池田 真紀子
講談社


* * * * * * * * * *

休暇旅行を間近に控えたスカーペッタの周辺で、奇妙な事柄が続いていた。
不審なツイートが届いたうえに、何者かに身辺を探られている形跡もある。
そうした中、自宅近隣で射殺事件が発生。
やがてスカーペッタは、それがじつは綿密に仕掛けられた計画犯罪で、
真犯人からの"挑戦状"でもあることを察知した。(上)

それは、十三年の歳月を経た復讐劇の幕開けだった。
スカーペッタの自宅近隣で発生した射殺事件、関係者の殺害。
そして、関連性があるとは思われなかった別の事件が一つところに収まり、
恐るべき全体像が明らかになっていく。
スカーペッタを待ち受ける驚愕の真相。
それを知った時、暗殺者の凶弾が放たれた!(下)


* * * * * * * * * *


また1年が過ぎて、検屍官シリーズの新刊です。
いや、本当に一年経つのは早い!!


冒頭、スカーペッタは、珍しく幸福感をかみしめています。
6月の美しい朝、
その日は、ものすごく久しぶりに取れた休暇で、
夫婦でマイアミへ旅立つことになっていたのです。
ところが、もう想像がついてしまいますが、さっそく事件が起こる。
それも自宅のすぐ近くの射殺事件。


本作では、最新のテクノロジーを用いた武器や兵器が
殺人に用いられることが多いのですが、今回はスマートライフル。
つまりコンピュータによって極度に精度が高められた高機能のライフル。
それならド素人が撃ってもゴルゴ13なみの狙撃が可能?などと思ったのですが、
でも重い機材を抱えて打つ瞬間に若干標準がずれたりするので、
やはりそう簡単ではないということのようでしたが・・・。
この事件に先駆けて、スカーペッタのカードが不正使用されていたり、
脅迫状めいた不気味なメールが届いていたり、
嫌な前兆があったのです。
そしてまた引き続いて起こる殺人事件・・・。
やはり休暇はお流れです・・・。
お気の毒。
が、そんなことを言っている場合ではない。
この事件の犯人について、スカーペッタには嫌な予感がし始めるのです。
このICTを自在に使いこなす技、
ヘリコプターのような高所から撃ち下ろしたとしか思えないライフル銃の銃弾。
・・・が、しかし、その点の不安は当たりませんでしたが、
真犯人はなんと13年前の・・・!


う~ん、13年前に出てきたキャリー・グレゼン?
残念ながら、私は殆ど読み返すことはないので、記憶があやふやです。
でも問題児のルーシーと関係が深かった超危険人物ということで、
そういえばそんなこともあったかも・・・?
くらいのところまでは思い出しました。
しかし正直、私的には今さら13年前を持ちだしてほしくはなかったな、と。
よほどネタがなかったのかと思ってしまいます。
で、この復活した殺人者は、この度も上手く逃げおおせたので、
今後もまた登場することでしょう。
スカーペッタにはどこまでも安息の日は訪れそうにありません。
しかし本作のラストにはかなり驚愕の出来事が。
いや、そもそもスカーペッタがわざわざこんな危険な仕事までする必要はないのではないか?
と思わないでもないのですが、でも、やられますね。
執拗にスカーペッタを付け狙う敵が、こんなところで待ち受けているとは・・・。

「標的 上・下」パトリシア・コーンウェル 講談社文庫
満足度★★★☆☆

クリード チャンプを継ぐ男

2016年01月17日 | 映画(か行)
老スタローンもまた良し



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ロッキーは1作目からもう40年になるのだそうですが、
これはまたそのロッキーの流れをくむ新たな物語。



ロッキーのライバルであり朋友であったアポロ・クリードの息子、
アドニス・ジョンソン(マイケル・B・ジョーダン)の戦いが始まります。
アポロ・クリードの息子と言っても、いわば隠し子。
私生児として生まれ、母もすぐに亡くなったため、施設で育ちました。
彼は施設の生活の中で、ケンカに強くなければ生きていけない、
そういう闘争心を培ったわけです。
でもそんな少年時代、アポロの正妻に養子として引き取られます。
その後は母の愛を受け裕福に何不自由なく成長し、
会社へ就職、そして昇進も決まった。
いわば順風満帆の生活。
しかし、そんな中で彼が本当にやりたいこと、ボクシングへの情熱がくすぶっていた・・・と。
それはまた、彼が生まれる前にすでに亡くなっていた偉大な父・アポロ・クリードへの憧れでもあるのです。
彼はついに会社をやめ、フィラデルフィアのロッキー(シルベスター・スタローン)の元を訪れ、
彼にトレーナーになってほしいと頼むのです。



おお、出ました! ロッキー! 
ロッキーのシリーズはずっと見ているので、彼が急に老けたとは思いませんが、
さすがにもう、若々しくはありません。
始めは渋っていた彼も、アドニスの熱意に負けて指導を引き受けます。
しかし、そんな中ロッキーの体調が崩れて・・・。



本作は、もちろんこれまでのロッキーを見たことがない方が見てもいいと思うのですが、
若き日のロッキーを知っている人のほうが、より感慨も大きいのではないかと思います。
これは別に若き日のロッキーのノスタルジーではない。
多くの人は、この若く強かったロッキーとともに
年齢を重ねて生きてきたわけなんですよね。
だから、老ロッキーにすごく自分を重ね合わせてしまうのです。
体が重くなって動きが鈍くなり、肌の艶も失われ・・・。
でも、ただこれでおしまいにしてしまうのは惜しい。
まだ何かできるのではないか。
自分を必要とする人のために・・・。
そんな風に自分でも思っているのです。


なんだかジーンとしてしまうほどに、ロッキーがアドニスを見る目が終始優しいのですよ。
もちろん練習はキビシイ。
けれども、彼の、若き弟子を愛おしみ包み込むような目は、若い頃にはなかったものです。
私はシルベスター・スタローンの特別なファンなどではないのですが、
この期に及んで、この老スタローンもいいなあ~、と思ってしまいました。



ロッキーが練習メニューのメモを書いてアドニスに渡そうとするのですが、
アドニスはスマホのカメラでパチリ。
メモの紙を持って行こうとしません。
「おい、そのケータイをなくしたらどうするんだ。」
「クラウドにあるから大丈夫。」
クラウド・・・? 
わけが分からず、空の雲を見上げるロッキー。


たまりませんねえ。
ロッキーよ、お前もか。
今時のテクノロジーについていけない年寄りだ・・・。
だから私たちも余計親しみを感じてしまうわけです。


そんなわけで、このアドニスも
昔のようにただ「ど根性」を振りかざす泥臭いボクサーではない。
どこか現代風な若者像のようでもあり、
時代が変わったことを思い知らされるのです。
けれど、最後の最後に力を振り絞って戦う。
この姿は今も昔も私たちの心を熱くさせます。


あのロッキーのテーマは封印され、ほんの少しだけさわりのフレーズが使用されるのみ。
ザンネンではありますが、これはこれでいい。


パンチの音が「ズシン」と骨に応えるような音を出していました。
なかなかの迫力。
実は、また似たようなボクシングのサクセス・ストーリー?と思っていたのですが、
なかなかどうして、ただそれだけではない、素敵な作品でした。


「クリード チャンプを継ぐ男」
2015年/アメリカ/133分
監督:ライアン・クーグラー
出演:マイケル・B・ジョーダン、シルベスター・スタローン、テッサ・トンプソン、フィリシア・ラシャド、アンソニー・ベリュー

老いもまた良し度★★★★☆
シリーズの後継度★★★★☆
満足度★★★★☆

ジャンヌ・ダルク

2016年01月15日 | 映画(さ行)
見たいものだけを見ていたのではないか



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山岸凉子さんの「レベレーション 啓示」を読んで、興味を持ちました。
実は以前に見たことはあるはずなのですが、
実のところちっとも面白くなかったというくらいの印象しか残っていませんでした。
その理由がこのたびよくわかったのですが、
つまりこの映画も「レベレーション」同様、
ジャンヌの活躍するヒーローもの(ヒロインものというべきか?)ではないのです。
神の啓示に突き動かされて軍を率いる乙女。
しかし、本当に神の啓示なのか。
彼女は自分が見たいもの聞きたいものを勝手に見ていただけなのか。
確かに意思の強い女性ではありますが、
その実、実に危ういという揺れる二面性を描いているのでした。
だから、表面的な派手さはないのです。


英仏100年戦争下のフランス。
小さな農村で暮らす信仰心の熱い少女ジャンヌは、
しばしば何かの兆しのようなものを見ます。
それはまるで祝福されたような幸せな気分をもたらすのです。
ところがある日、イギリス兵が村になだれ込んできて、
隠れているジャンヌの目の前で、
姉カトリーヌが犯された上、殺されてしまうのです。
(いや、実は順が逆で、おぞましい限り・・・)



「レベレーション」では、嫁いだ姉がDVにあった挙句命を落とすことになっているのですが、
本作のほうがその後のジャンヌに及ぼす影響の源として説得力があります。
英国に対する憎しみ、そして性に関する嫌悪・・・。
やがて彼女はシャルル王太子に謁見し、軍を率いることになります。
実は戦い方も何もわかってはいない。
だからこそなのかもしれませんが、彼女は先頭を切り、やみくもに皆を奮い立たせる。
そしてついには奇跡的な勝利。


けれども、勝利したその戦場に横たわる累々の死体を見て、
彼女は呆然とするのです。
これが神の啓示の果てのことなのか・・・? 
彼女の中に登場する謎の人物は言う。

『お前は自分の見たいことだけを見ていたのではないか』

結局は王家の都合のいいように利用され捨てられてしまったジャンヌが、哀れです。
でも、戦いのうちに何人かの騎士が
「奇跡の少女」ではなく一人の普通の少女として
彼女の身を案じるようになるのがちょっと救いでした。


彼女が見る予兆のシーンは殆どホラー仕立てでもアリ、
なかなかよいです。
ということで、「レベレーション」の方ではこの先どのようなものを彼女が見ることになるのか、
余計楽しみになってきました。
いずれにしても、神の啓示を受け、それに突き動かされるように民衆を率い、
けれど挙句には奇跡の力を失い
民衆の目前で残酷な処刑を受ける・・・
つまりはキリストと二重写しの運命をたどるということなのでしょうか・・・

ジャンヌ・ダルク [DVD]
ミラ・ジョボヴィッチ,ダスティン・ホフマン,ジョン・マルコヴィッチ,フェイ・ダナウェイ,ヴァンサン・カッセル
KADOKAWA / 角川書店


「ジャンヌ・ダルク」
1999年/フランス/157分
監督:リック・ベッソン
出演:ミラ・ジョボビッチ、ジョン・マルコビッチ、フェイ・ダナウェイ、ダスティン・ホフマン、バンサン・カッセル
歴史発掘度★★★☆☆
暗黒度★★★★☆
満足度★★★☆☆

「レベレーション(啓示)1」山岸凉子

2016年01月14日 | コミックス
天啓とは・・・?

レベレーション(啓示)(1) (モーニング KC)
山岸 凉子
講談社


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山岸凉子さんの新しい物語が始まりました。
「レベレーション」は、英仏の100年戦争時にフランス軍を率いて戦ったという、
ジャンヌ・ダルクを描いた作品です。
バレエでも怪奇ものでもなく・・・というのは意外な気がしますが、
考えてみたらあの「日出処の天子」も、歴史上の人物を描いたものでしたね。
この表紙のように、強く刺すような目をした少女がどのように生きていくのか、
しっかり見届けたいと思います。


冒頭にまず、いきなりジャンヌの処刑シーン。
ずっと自分に「啓示」を与えてきた神によって、自分は必ず解放される、と
これまで信じてきたジャンヌだったのですが、
未だに"救いの手"はなく、刑場に引き立てられている。
では、まだ幼いといえるほどの、あの日見た"あれ"は何だったのか。
彼女の束の間の回想が、ストーリーとなって語られていきます。


1400年代のフランス。
ジャンヌは片田舎の貧しい農家の家に生まれました。
当時ほとんどの農民がそうであったのと同様、字を読むこともできません。
13歳のその日、彼女は突然に眩い光を浴び、ある声を聞く。
そんなことが何回かあったのです。
はじめのうちは、誰に言っても信じてもらえないと思い、黙っていたのですが、
空に天使の顔を見て、
「フランスへ行け。王を助けよ。」
という声を聞くようになってからは、自分の役割を確信していきます。
とは言え、女性が戦争へ行くなどとは誰も考え付きもしない、
そういう時代です。
周りの人は気が狂ったと思うか、ばかにするかのどちらか。
それでも神の「啓示」を受けたと信じる彼女は、
自分の意志を貫き通し、ついに故郷を後にし旅立つ、と本巻はそこまで。


中世。
「ルネサンス」期に多少の科学的思考が芽生える時代以前のこと。
杉浦日向子さんの描く江戸以上に、
神や悪魔、迷信に囚われていた時代。
だから「天啓」だと言われればそれは確かにあったのだろうし、
でも逆にそれは"異端"と呼ばれる危険なことでもあったのでしょう。


しかし、著者はここに一人、現代に近い思考をする人物を登場させます。
それは教会の司祭。
彼はジャンヌに警告します。

「神の声を聞いたという者に過去に何回か会ったけれども、
彼らは皆"逃げたい現実"を持っていた。
もしお前がそうではないというのなら、
それでも人はその"声"に心を囚われてはならない。
それをすれば、お前の身が滅びる・・・。」


神の「天啓」というのは、実は当人の精神の変調なのではないか・・・という、
現代的見地を彼が代弁しているわけですが、
物語はそれについての答えを出しません。
多分最後までそれはないのでしょう。
私たちは、彼女がどのようにそれと向き合うのかを見守るのみ。
今後の展開が楽しみです・・・、
と言うか、結末はわかっているのですが。


「レベレーション(啓示)1」山岸凉子 講談社モーニングKC
満足度★★★★☆

ブリッジ・オブ・スパイ

2016年01月13日 | 映画(は行)
さすがの底力を見せつける、監督・脚本・俳優たち



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1950~60年代、米ソ冷戦下に起こった実話を元にしています。
弁護士ジェームズ・ドノバン(トム・ハンクス)に、
ソ連のスパイとして逮捕されたルドルフ・アベル(マーク・ライランス)の弁護の依頼が来ます。
裁判をしようがしまいが、実は始めから答えが出ているも同然の裁判でした。
敵国のスパイなど死刑が当然、と。
ただ、形だけでもアメリカの民主主義を見せようと、裁判を行い、
誰も引き受けたがらない弁護士もつけよう、ということだったのですね。
だから弁護士として負けても誰も気にしない裁判ではあったのです。



他に引き受けるものもなくやむなく引き受けることとしたドノバンでしたが、
しかし彼は、仕事となればどんなことでも真摯に努めなければ気が済まない男だったのです。
彼は周囲の非難を浴びながら、全力でアベルの弁護に当たります。



ここに描かれるルドルフ・アベル像がまたいいのです。
いわゆる「スパイ」像には当てはまりません。
不敵な面構え? 
いかにも頭がキレそう? 
意志が強く不屈? 
母国愛に燃えている? 
いえいえ、どれも違います。
趣味の絵を続けながら、淡々と役割はこなしているのですが、
何か途方に暮れているかのように寂れている。
冒頭に自画像を描く彼のシーンが、まさに彼の心を表しているかのようです。
もうほとんど熱い情熱も何も燃え尽きているようでいながら、
でも、自分の役割、すべきことだけは胸の中にしっかりある。
ドノバンとアベルは、次第に双方に共感を得、親しみを感じるようになっていきます。


物語は、裁判でついには死刑ではなく、懲役30年を勝ち取るところまでが前半。
でも、いよいよスリリングな展開となるのは後半からです。



結審から5年後、ソ連上空を偵察していたアメリカ人パイロット、パワーズが
ソ連に捕らえられてしまいます。
両国はアベルとパワーズの交換を画策し、ドノバンを交渉役に指名しました。
そこで、ドノバンは家族にも本当の行き先を告げないままベルリンへ・・・。



ベルリンの壁の建設中のシーンなど、興味も付きないことながら、
実際ハラハラさせられます。
ついでにと言ってはなんですが、アメリカ人の学生が東ベルリンで拘束されてしまっていて、
ドノバンはぜひ彼も解放して欲しいと要求するのです。
しかし、アメリカ側からはソ連も東ドイツも同じだろう、などと思ってしまうのですが、
両国にはそれぞれの思惑があり、なかなか話はスムーズに行きません。
下手をすればドノバン自身の命も危ない。
ひりひりするやり取りを続けながら、
ラストに来る感動が、やはりさすがスピルバーグ。
脚本がジョエル・&・イーサン・コーエン、というので、また納得。
吐く息が白い、ベルリンの光景もいかにも寒々しく、
またそれが緊張感を増していました。
風邪を引いていつもハナをグズグズさせているドノバンがご愛嬌。
でも本当に、最後の最後までドキドキしますよ。
解放されたアベルをソ連側はどのように迎えるのか。



事実に基づくストーリーにはやっぱり力があります。

「ブリッジ・オブ・スパイ」
2015年/アメリカ/142分
監督:スティーブン・スピルバーグ
脚本:ジョエル・&・イーサン・コーエン
出演:トム・ハンクス、マーク・ライランス、スコット・シェパード、エイミー・ライアン、セバスチャン・コッホ

歴史発掘度★★★★★
人物造形度★★★★★
満足度★★★★★