映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

リベンジ・トラップ 美しすぎる罠

2024年12月14日 | 映画(ら行)

罠か、やはり・・・

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看護師のミランダ(ロザムンド・パイク)は、
自宅を訪ねてきた見知らぬ男にレイプされ、心身共に深い傷を負います。

その後ミランダは、刑務所に収監されたレイプ犯・ウィリアムに何度も手紙を送りつけるのですが、
すべて開封されないまま戻って来てしまいます。
そこでついに、ミランダは刑務所に行きウィリアムと面会。
さすがにウィリアムも警戒しているのですが、
ミランダは幾度も面会を繰り返し、次第に互いの距離を縮めていきます。
やがて、ついにウィリアムが出所して・・・。

本作、見ている私たちは、ミランダの真意がよくわかりません。
憎んでいるはずのレイプ犯に、なぜわざわざ接近して親しくなろうとするのか。

しかし、そもそも本作の題名自体がネタバレで、
すでに答えは出ているじゃありませんか。

すなわち、リベンジ。
復讐のために、ミランダはじわじわと罠を張っているのです。

そうでした、ロザムンド・パイクと来れば、こわ~い女なのですよ。

ミランダはオペ専門の看護師を目指していたのです。
そもそも、人の触れたボールペンを触ることさえイヤなのに、
看護師というのはいかにも不向きに思えます。
けれど、そんなことをも凌駕して、人を切り裂くことに快感を覚えるという、ミランダ。

変な期待をして浮かれているウィリアムにはお気の毒というほかありません。
いやまあ、身から出たサビではありますが。



ちょっと悪趣味で、後味のよくない作品なのでした・・・。

 

<Amazon prime videoにて>

「リベンジ・トラップ 美し過ぎる罠」

2015年/アメリカ/94分

監督:フォアド・ミカティ

出演:ロザムンド・パイク、シャイロー・フェルナンデス、ニック・ノルティ

復讐度★★★★☆

満足度★★☆☆☆


ルックバック

2024年11月22日 | 映画(ら行)

京本が本当に目指していた未来

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話題となったアニメですが、劇場では見逃してしまっていました。
この度早くもAmazon prime videoで見られるようになったのには感謝。

小学校の学校新聞に4コマ漫画を連載し、
クラスメイトらから賞賛される4年生の藤野。

先生から同学年、不登校の京本の描いた4コマ漫画を
新聞に載せたいと告げられます。

それまで、自分の絵に自信満々だった藤野は、
京本の画力に打ちのめされ、本気で絵を描くことを学びはじめます。

やがて、正反対の2人の少女は、漫画へのひたむきな思いでつながっていき、
ついに、合作での漫画雑誌デビューを果たします。
けれど、めざす道は異なっていって・・・。

 

道が異なっていくことの先に待ち受けていた運命が、
あまりにもショッキングで、言葉を失います。

はじめちょっと上から目線だった藤野。
ひたすら藤野を敬愛し、彼女についていくことを目指していた引きこもりの京本。
でも京本は、もっと先の未来を見据えて
自分の道を選んでいたということですよね。
彼女にとっては渾身の勇気を振り絞る行為だったはず。

でも、自分がそういう未来を信じれば、
そんなこともできる、ということなのかもしれません。
それなのに・・・。

京本がいたからここまでやって来ることができた・・・。
そう思う藤野が書き換えたかった過去。
本当に、そうだったらよかったですね・・・。

切ない。


<Amazon prime videoにて>

「ルックバック」

2024年/日本/58分

監督・脚本:押山清高

原作:藤本タツキ

出演(声):河合優実、吉田美月喜、斉藤陽一郎

青春度★★★★☆

コンビネーション度★★★★★

満足度★★★★★


ラン・ハイド・ファイト

2024年09月14日 | 映画(ら行)

闘う女子高生

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17歳、女子高生のゾーイは、幼い頃から軍人の父にサバイバル術を学び、
また時には父と狩りを楽しんでいました。
しかし、母の死をきっかけに、父娘の関係に深い溝ができてしまいます。

ある日、彼女の高校にテロリストが乱入。
カフェにいた生徒たちが次々と銃弾に倒れて行く中、
運よくトイレにいたゾーイは、なんとか校舎の外に脱出します。
しかし、校舎の中にいる友人たちを救うため、テロリストと闘うことを決意し、
再び校舎へ戻っていきます。

一方、父はニュースで娘の高校に銃撃犯が侵入したことを知り、高校へ向かいます。

米国の学校への銃撃犯の侵入は、もはや社会問題でもあります。
本作はそれが警察ではなく(もちろん警察も駆けつけますが)、
生徒が、しかも女子生徒が銃撃犯に立ち向かい、
多くの教師や生徒らを助け出すというところがミソ。

やはり、近年の女性は強いなあ・・・。

銃撃犯らは複数名のチームなのですが、ゾーイは1人、また1人と倒して行って
犯人のリーダーを追い詰めます。

彼らは、この犯罪を少しでも世間に誇ろうとして、SNSで生配信。
これもまた、現代ならでは・・・。
銃撃犯に脅されて、スマホのカメラを彼らに向けて撮影を続けるのが、
ほのかにゾーイに好意を持っているらしき男の子で、
トイレに行ったきり戻ってこなかった彼女を案じ続けている
・・・というなりゆきもまた興味深いところです。

そしてまた、高校に駆けつけた父が、思わぬ方法で娘を援護することになるというのもミソ。
気持ちがすれ違っているようだけれど、いざとなると互いを信じ合う父と娘。
ゾーイの亡き母がときおりゾーイの目前に現れて、ゾーイを励ますというのもいいな。

何しろ、強い女の子の話は好きなので、たのしめました!!

<Amazon prime videoにて>

「ラン・ハイド・ファイト」

2020年/アメリカ/110分

監督・脚本:カイル・ランキン

出演:イザベル・メイ、ラダ・ミッチェル、トーマス・ジェーン、イーライ・ブラウン

スリル度★★★★☆

タフな女の子度★★★★★

満足度★★★★☆


ラストマイル

2024年08月27日 | 映画(ら行)

流通業界をゆるがす

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テレビドラマ「アンナチュラル」、「MIU404」の監督・脚本家が再タッグ。
両シリーズと同じ世界線で起きた連続爆破事件を描きます。
・・・ということで、どちらのドラマも大好きだった私は、
ワクワクして本作を待ち望んでいました。

世界規模の流通業界最大のイベント、ブラックフライデー前夜。
ショッピングサイトの関東センターから配送されたダンボール箱が爆発する事件が発生。
それは一度ではなく、2度3度とつづき始めます。
関東センター長に着任したばかりの舟渡エレナ(満島ひかり)は、
チームマネージャーの梨本孔(岡田将生)と共に、事態の収拾に当たります。

ショッピングサイトの巨大なセンターの様子。
実は某テレビ番組でその様子を見たことがあるのでさほど驚きませんでしたが、
いつも気軽に「ポチッ」と注文しているものが
こういう所から来ていると思うとなんだか感慨深いですね。

そしてまた、それぞれの持ち場で毎日奮闘している方がいる、そのありがたさも感じます。
特に最後の持ち場である配送の人々の苦労が忍ばれ、
そうしたところにスポットを当てたのも良かった。
配送会社のさらに下請けという立場の人は、
荷物一つの配達について150円の報酬を得るという・・・、
荷受人の不在で空振りに終われば、全くのただ働きということになります。
そうした現実の上に成り立つ私たちの便利な生活。
そういうことも知っていなければなりませんね。
まあつまり、本作の事の起こりはそういう所にあったということなのです・・・。

本作のテーマはそういうことなのですが、
実のところ、意識は次々に登場する豪華キャストたちに持って行かれてしまいます。

満島ひかりさんに岡田将生さん。
新任センター長と彼女に振り回されるチームマネージャーということで、
この2人の掛け合いが実に楽しい。

もちろん、「アンナチュラル」の懐かしき出演者たち、
そして、私が最近TVerで見直していた「MIU404」の出演者たちもナイス!!

まあしかし、期待があまりにも大きすぎたので、
実際はほんの少しだった登場シーンにちょっぴりガッカリ。

いっそ、「MIU」の新作として本作を出してくれた方が良かったなどと思ったりして。
それほどに、星野源×綾野剛が、今見てもスバラシイのですもの・・・。
あ、2人が乗っていたのが「メロンパン号」でなかったのも残念・・・。

つまり、テレビドラマが好きだった人ほど、
本作については不完全燃焼感を持ってしまうのではないかな・・・?
まあでも、面白かったですけど・・・。

 

それはともかく、「アンナチュラル」、「MIU404」と同じく、
主題歌が米津玄師さんというのはスバラシイ。

私、冒頭とラストに出てきた数式のようなものの意味がちょっと分らなかったのですが、
あれはセンターのベルトコンベアの速度と耐久重量のことだそうで。

「絶対に荷物は止めない」と豪語したエレナの言葉なども考え合わせると、意味深いですね。
その心意気があっぱれというのでなく、
人間性を無視した利益重視の社会のあり方について・・・。

 

<TOHOシネマズ札幌にて>

「ラストマイル」

2024年/日本/128分

監督:塚原あゆ子

脚本:野木亜紀子

出演:満島ひかり、岡田将生、ディーン・フジオカ、酒向芳、火野正平、

   石原さとみ、井浦新、窪田正孝、綾野剛、星野源

テレビドラマとのコラボ度★★☆☆☆
社会問題度★★★★☆
満足度★★★.5


ラウンダーズ

2024年08月16日 | 映画(ら行)

手放しでは楽しめない・・・

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ちょっと古い作品ですが、最近はアマゾンプライムのオススメに出てくるものを、
ほとんど気の向くままに見ておりますので・・・。

マット・デイモン、さすがに若いですよ!

 

ロースクールの学生マイク(マット・デイモン)は、ポーカーの天才で、
学費もカードの賭けで稼いでいました。
ところがある日、もぐりの賭場でロシアンマフィアのテディKGBに
差しの勝負を挑んで敗北。
それまで貯めていた全財産を奪い取られてしまいます。

そのことがあって、マイクはすっかりポーカーからは足を洗い、
安いバイトで食いつなぐ生活を送っています。
共に住む彼女も賭け事には拒否感を持っていて、
マイクがまた賭け事に手を出さないかと警戒しています。

さて、そんなところへ、旧友のイカサマ師、ワーム(エドワード・ノートン)が出所してきます。
彼に引きずられるように、またポーカーに手を出してしまうマイク。
それがバレて、恋人は愛想を尽かして出て行ってしまいます。
さらには、マイクはワームの借金の保証人にされていて、
期限までに大金を返済しなくては命も危ない状況に陥って・・・。

 

 

ポーカーは人の心理を読む崇高なゲーム・・・、
とはいえ大谷選手がらみの騒ぎがあってからはギャンブル依存症は
いずれ身を滅ぼすということも社会の共通認識を得ているとき。
物語と分っていても、あまり心穏やかではありません。

マイクが一度全財産を失って、しばらくポーカーから離れることができたのが奇跡のようです。
でも結局やめられなかったという話。

題名の「ラウンダー」は、勝負師の意味。
ちょっとカッコ良すぎですね。
男のロマン、とか?
まあ、あおっているわけでもないのですが、
今時はやはり手放しで楽しんで見ることはできない感じ・・・。

 

 

「ラウンダーズ」

1998年/アメリカ/121分

監督:ジョン・ダール

出演:マット・デーモン、エドワード・ノートン、ジョン・タトゥーロ、
   ファムケ・ヤンセン、グレッチェン・モル、ジョン・マルコビッチ

イチかバチか度★★★★☆

満足度★★★☆☆


リミテッド

2024年08月14日 | 映画(ら行)

身を滅ぼすもの

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時は近未来というところでしょうか。
高度な文明社会は何らかの要因で破滅した後、という感じです。

砂漠を旅する2人の男が巨大な金塊が埋まっているのを発見します。
大部分が地下に埋まっているため、人力では掘り出すことも運び出すことも不可能。
そこで、ひとりが発掘に必要な道具を調達しに行き、
その間、もうひとり(ザック・エフロン)がその金塊を見張ることになりました。

しかし残された方には、衛星電話とわずかな水とほんの少しの食料があるだけ。
しかも仲間は2~3日くらいでは戻れそうにもありません。
仲間の帰りを待つ男は、灼熱の大地で、飢えと乾きに耐え、
襲い来る野犬と対峙するなど孤独な戦いが始まります。

そしてそんなところに1人の女が通りかかります・・・。

 

こんな砂漠のど真ん中で、金塊がどんな役に立つというのか・・・。
それを必死に守ろうとする姿は考えてみれば滑稽でもあります。
が、確かに文明崩壊後でも金には価値がある。
無事に街までたどり着けさえすれば。

問題なのは、そういう人の欲望なのであります。

砂漠で生をつなぐのは非常に苦痛。
けれど後に、彼はそうした苦痛以上の苦難を体験しさらなる悲劇へ突き進みます。

でも、そもそもその金塊は1人占めするには多すぎるほどの巨大なもの・・・。
まあ千人もの大群がやってくるなら別ですが、
一人や二人、分割する人数が増えてもかまわないのでは・・・? 
むしろ協力関係を結ぶべきでしょう。

しかしそんなことは考えつきもしないような、
その欲望こそが身を滅ぼすのです。

 

本作、原題は「Gold」。
そのものズバリ、この原題のままで良かったのでは?

ほとんどが荒涼とした砂漠の風景。
私はアメリカのどこかかと思って見ていましたが、オーストラリア作品でしたね。
なるほど。

先日見た「ムーンロック・フォー・マンデー」でも、砂漠をさまよっていたな・・・。

 

<Amazon prime videoにて>

「リミテッド」

2022年/オーストラリア/96分

監督:アンソニー・ヘイズ

出演:ザック・エフロン、スージー・ポーター、アンドレアス・ソビク、アンソニー・ヘイズ

灼熱地獄度★★★★☆

欲望度★★★★★

満足度★★.5


リゾートバイト

2024年05月22日 | 映画(ら行)

青春ドラマ? ホラー? コメディ?

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大学生の内田桜(伊原六花)は、幼馴染みの真中聡(藤原大祐)と華村希美(秋田汐梨)と共に、
ある島の旅館で、リゾートバイトをすることになりました。

あるとき桜はその旅館の女将が、深夜密かに食事を運んでいるのを目撃し、
言い知れぬ不安を覚えます。

数日後、旅館スタッフの岩崎から、旅館の中の秘密の扉に入ってみるという肝試しに誘われます。
それは桜が見た、あの女将が入っていった扉。
深夜、桜と聡が組んで肝試しに挑戦。
聡は果敢にも自分がまず行ってみると扉を開け、階段を上っていきましたが・・・。
その後、不気味な出来事が・・・。

本作は、ネット上の都市伝説を映画化したものだそうです。
私は何も知らず、普通の青春ドラマかと思って見始めましたが、
なんとホラーだったのであります。

がしかし、さらに見て行くとホラーというよりもむしろコメディであると確信しました!
それほどにおとぼけたシーンもあるので、まあさほど恐くはありません。
(だから助かった・・・)

ところが一番最後に、やっぱりホラーじゃん!!と言うオチがあるので、油断なりません。

結局、楽しみつつ、揺さぶられました。

 

<Amazon prime videoにて>

「リゾートバイト」

2023年/日本/86分

監督:永江二朗

出演:伊原六花、藤原大祐、秋田汐梨、梶原善、松浦祐也

 

ホラー度★★★☆☆

コメディ度★★★★☆

満足度★★★☆☆


ロスト・フライト

2024年05月17日 | 映画(ら行)

闘う機長

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悪天候の落雷によってコントロールを失った航空機、
ブレイザー119便が、フィリピンのホロ島に不時着します。

機長のトランス、乗客ら17名は辛くも一命をとりとめましたが、
しかしこの島は凶暴な反政府ゲリラが支配する無法地帯。
おまけに乗客の中には、移送中の殺人犯ガスパールもいます。

ゲリラ組織は乗客たちを捕らえ人質にして
身代金をかすめ取ろうとして、乗客らを拉致します。

島内の偵察に出ていたトランス機長とガスパールは手を組み、
ゲリラ勢力と闘い、乗客を取り戻そうとしますが・・・。

単に航空機の墜落寸前のパニックものというだけでなく、
ゲリラ組織との戦いと、この島からの脱出サバイバルでもある
というなんともスリリングなストーリーで、ついのめり込んで見てしまいました。
こんな機長がいたらホントに心強いわあ・・・。

乗客の1人が移送中の殺人犯、でもその殺人犯の力を借りることになる
という筋立てがまたナイスでしたね。
彼には軍人経験があって、意外にも粗暴で残虐な男ではなかった、と。
最後に自己犠牲を払ったりもせず、ちょっと粋な終わり方だったのも気に入りました。

ところでこの飛行機、シンガポール発東京行きだったのに、
日本人が誰も乗っていなかった。
韓国人はかろうじていたのですが。
残念。

 

<Amazon prime videoにて>

「ロスト・フライト」

2022年/アメリカ/107分

監督:ジャン=フランソワ・リシエ

出演:ジェラルド・バトラー、マイク・コルター、ヨーソン・アン、ダニエラ・ビネダ

 

スリル度★★★★☆

満足度★★★.5


理想郷

2024年05月15日 | 映画(ら行)

さびれた村と移住者の軋轢

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「理想郷」という題名とは裏腹に、なんとも緊迫感に満ちたサスペンスとなっています。
スペインで実際に起きた事件を元に映画化したもの。

フランス人夫婦アントワーヌとオルガ。
スローライフを求めて、スペインの山岳地帯にある小さな村に移住してきます。

さびれたその村は、若い人は皆都会に出ていて、
残された者たちが貧困問題を抱えながら細々と暮らしています。
アントワーヌ夫妻の隣人の兄弟も同様の暮らし向き。
新参者の夫婦を嫌い、嫌がらせをエスカレートさせていきます。

そしてまた、村にとっては金銭的な利益となる風力発電のプロジェクトを巡り、
夫婦と村人の意見が対立。
隣人兄弟との軋轢はますます増大していき・・・。

片や自然豊かな地で有機野菜を作り、第二の人生を送ろうとするインテリ夫婦。
そしてもう片や、イヤでもこの地に生を受けて生きていくほかなかった
独身の兄弟とその母親。
この家族にとっては、趣味のように野菜を作ろうとする
お気楽なこの夫婦に我慢がならなかったでしょう。
もう少し家が離れていればまだ良かったのだけれど、
隣同士というのがいかにもマズい。
互いの様子がイヤでも目に入ってしまいます。

そこへ持って、風力発電のプロジェクト。
プロジェクトを受け入れれば、補助金が入る。
そのことだけが「希望」の地元の人々。

対して、せっかくの景観が風力発電のプロペラで台無しになることを恐れる新参者の夫婦。
しかしこの夫婦も、古民家をリフォームしたり有機野菜を売り物にしたりという
新たな都会人向けの需要で、村を活性化できると考えてはいるのです。

どこまで行っても折り合いがつかない。
夫婦がプロジェクトを反対しているために話が進展しないので、
村人、特に隣人兄弟の憎しみは増大していきます。

舞台が日本でも十分通用する話。
世界中似たような状況があふれているのだなあ・・・。

さてさて、物語の後半は、この夫婦の妻が主体となっていきます。
地元フランスで暮らす娘がやって来て、こんな所はもう引揚げるべきだと主張。
ただ父の言いなりになってこんな所までついてきただけだったのでは?
と母を問い詰めます。
この母子の壮絶な激論がまた強烈な見所となっていました。

けれど彼女は夫のいいなりになってこの地に来たわけではない。
彼女自身の主体性を見せるところがまた、本作を骨太のものにしています。

なかなかの力作でした。

<WOWOW視聴にて>

「理想郷」

2022年/スペイン・フランス/138分

監督:ロドリゴ・ソゴロイェン

脚本:ロドリゴ・ソゴロイェン、イサベル・ペーニャ

出演:ドゥニ・メノーシェ、マリナ・フォイス、ルイス・サエラ、ディエゴ・アニード、マリー・コロン

 

ヒリヒリ度★★★★★

満足度★★★★☆


リボルバー・リリー

2024年05月11日 | 映画(ら行)

元スパイのアクションが冴える

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綾瀬はるかさん主演ということで、
私はコメディ寄りの作品なのかと勝手に思っていたのですが、
そうではありませんでした!!

大正末期、1924年。

16歳からスパイ任務に従事し、東アジアを中心に3年間で57人の殺害に関与したという経歴を持つ、
元敏腕スパイ・小曾根百合(綾瀬はるか)。
今は東京の花街の銘酒屋で女将をしています。

ある時、消えた陸軍資金の鍵を握る少年、慎太(羽村仁成)と出会い、
彼を守ることとなって、陸軍の精鋭部隊と敵対することに・・・。

東アジアで暗躍する百合も見たかったですが、ここは引退後の話。
なぜ引退したのか、というところも追々分ってきます。

慎太少年はある日突然陸軍に襲われ、一家郎党皆殺しにされたところを辛くも逃げ出したのです。
父親から莫大な陸軍基金の隠し場所を書いたメモを託されて・・・。

陸軍が敵とは、あまりにもハードではありますが、
かつての敏腕スパイの腕をなめてはいけない。
綾瀬はるかさん、カッコイイ!! 
終盤、あえて仕立てたばかりの真っ白いドレスを身につけて戦いに挑むのは、
いくら何でもやり過ぎだろうとは思いましたが・・・。
案の定、最後は血だらけ・・・ま、その効果を狙ったわけね。
百合をアシストするのは長谷川博己さん、シシド・カフカさん、古川琴音さんと頼もしい。

一方陸軍側にSixTONESのジェシーが登場したのには驚きました
(全く予習していなかったので)。
そういえば慎太少年役の羽村仁成くんもジャニーズJr.なんですね。

ストーリーそのものより、登場人物の配役に興味が湧いた作品。

<WOWOW視聴にて>

「リボルバー・リリー」

監督:行定勲

原作:長浦京

出演:綾瀬はるか、長谷川博己、羽村仁成、シシド・カフカ、古川琴音、ジェシー、佐藤二朗、豊川悦司

時代感★★★★☆

アクション★★★☆☆

満足度★★★☆☆


落下の解剖学

2024年04月23日 | 映画(ら行)

事故? 自殺? それとも・・・?

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人里離れた雪山の山荘。

視覚障害を持つ11歳の少年が、血を流して倒れていた父親を発見。
息子の叫び声を聞いて駆けつけた母親が救助を要請しますが、
父はすでに息絶えていました・・・。

父親は当初転落死と思われたのですが、不審な点も多く、
前日に夫婦げんかをしていたことから、
妻であるベストセラー作家のサンドラに夫殺しの疑いがかけられます。
息子に対しては必死に無実を主張するサンドラ。
しかし裁判が進むと、夫婦の間に隠されていた秘密や嘘が露わになっていきます。
無慈悲です。

果たしてこれは事故なのか、自殺なのか、それとも・・・?

事故(事件?)の前、妻に来客があり仕事上のインタビューを受けるはずだったのですが、
夫が大音響で音楽をかけるものだから、録音不能で、
インタビュアーはあきらめて帰ってしまうという一幕があります。

そもそもそんな時に、夫がいかにもうるさい音楽を流したり、
妻がそれを咎められないというところで、
若干いびつな夫婦関係が見えるような気もするのですが・・・。

まあそれでも表面的には普通の夫婦と見えていた2人。
けれどいろいろな問題点が見えてきます。

息子が目に障害を持つに至った事故があり、夫がその責任を感じている。
世間的に妻の方が成功者で、夫は挫折しているように見える。
しかし夫はプライドが高く、人里離れたこの山荘に越してきたのも
そうした心理が関係しているらしい。
そしてまた夫は精神の病を持ってもいる・・・。

 

終盤でサンドラは言います。

「裁判に勝っても、何も残らない・・・」

この裁判中、彼女は自分でも思い出したくないような夫婦間のどうにもならない気持ちの食い違いというか、
むしろ憎しみあっているほどのひび割れを思い知らされることになるのです。
しかも息子を含めた衆目の前で。
サンドラにとっても酷ですが、息子にとってそれはもっと残酷かもしれません。
夫婦は極力息子の前では争わないようにしていたのですね。

母を信じたいけれども素直に信じることもできない少年の戸惑いもまた切ない。
・・・けれどこの少年のある記憶が、重大な鍵となります。

本作、裁判での決着はつくのですが、それが真実とは限らない
・・・ということなのだと思います。

本当のことは本人にしか分りません!

<シアターキノにて>

「落下の解剖学」

2023年/フランス/152分

監督:ジャスティーヌ・トリエ

脚本:ジャスティーヌ・トリエ、アルチュール・アラリ

出演:サンドラ・ヒュー、スワン・アルロー、ミロ・マシャド・グラヌール、アンロワーヌ・レナルツ

真実は藪の中度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


ロスト・キング 500年越しの運命

2024年04月10日 | 映画(ら行)

ド素人の主婦が

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フィリッパ・ラングレー(サリー・ホプキンス)は、
職場で上司から理不尽な評価を受け、落ち込んでしまいます。
夫とは離婚。
2人の息子と暮らしているので、仕事を辞めるわけにもいきません。

そんなある日、息子の付き添いでシェークスピア劇「リチャード三世」を鑑賞。
リチャード三世は、障害のある体のためか心も醜く歪み、
甥2人を殺害して王位に就いた・・・
などと悪評の高い1400年代のイギリス王です。

この時フィリッパはリチャード三世に自身を投影。
彼も実は自分と同じように、不当な扱いを受けているのではないかと思うのです。
そのことがきっかけでフィリッパは、リチャード三世の歴史研究にのめり込んでいきます。

1485年に死亡したリチャード三世の遺骨は近くの川に投げ込まれたと長く考えられていましたが、
フィリッパは彼の汚名をそそぐべく、遺骨探しを開始。
多くの人は馬鹿馬鹿しいといいますが、中には注目してくれる人もいます。
専門の学者の助言や古文書などから、有望な場所を割り出しては見たものの、
実際の発掘には大金が必要・・・。

この時、フィリッパにはリチャード三世の幻影が見えています。
彼女自身、これは「幻影」だと自覚はしている。
でも彼女の見る、力無くうなだれたリチャード三世の姿を
私たちも見ることで親近感が湧いて、
必ず彼の遺骨を見つけてほしいという願望が湧いてきます。
ほとんど憑かれたようになっているフィリッパだけを映し出せば、
こちらも若干引いてしまうかも知れない。
うまい演出だと思います。

終盤、いよいよ遺骨発見?というときには、
これまでうなだれていたリチャード三世が颯爽と白馬にまたがって登場。
ステキです!!

結局フィリッパはこの研究のために仕事も辞めてしまうのです。
別れた夫とは子供たちとのこともあるので、頻繁に逢っています。
なのでその元夫にも子供たちにもあきれられてしまう・・・。
でも家族の絆はそんな彼らをもまた一つにしていく・・・
というところも心憎いですね。

何より、これが実話に基づいているというのがスゴイ。
研究者でも何でもないド素人の主婦が成し遂げたこと。
・・・でも結局その手柄が、大学やら学者やらに奪われてしまったという
オチもまたいかにも現実。

 

実に興味深い物語でした。

 

<Amazon prime videoにて>

「ロスト・キング 500年越しの運命」

2022年/イギリス/108分

監督:スティーブン・フリアーズ

原作:フィリッパ・ラングレー、マイケル・ジョーンズ

脚本:スティーブ・クーガン、ジェフ・ポープ

出演:サリー・ホーキンス、スティーブ・クーガン、ハリー・ロイド、マーク・アディ

 

歴史発掘度★★★★★

執着度★★★★★

満足度★★★★★


隣人X 疑惑の彼女

2024年03月30日 | 映画(ら行)

わからないから、恐れ、遠ざける

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故郷の惑星の紛争により、宇宙から難民として地球にやって来た
「X」と呼ばれる生命体が世界中にあふれ始めています。

日本は、アメリカに追従し、彼らの受け入れを決めます。
Xは人間にそっくりな姿で、人々の日常に紛れ始めます。
しかし人々は、Xについてはよくわからないまま。
Xを見つけ出そうと躍起になり、社会に動揺や不安が広がります。

さてそんな中、週刊誌記者・笹憲太郎は、
X疑惑のある柏木良子(上野樹里)の追跡を開始。
自身の身の上を隠しながら良子に接近し、徐々に距離を縮めていきます。
そして次第に良子に対して本当の恋心を抱くように・・・。

彼女への思いと、罪悪感、そして記者としての役割・・・。
思いがぐちゃぐちゃになり混乱する憲太郎・・・。

 

宇宙からきた生命体X、とSF仕立てではありますが、
かなりオーソドックスなラブストーリーでもありました。
おずおずと接近し交際を始める良子と憲太郎の2人。
良い感じです。

そしてもうひとり、X疑惑を受ける人物として、
台湾からの留学生・リンが登場します。
彼女は彼女でまた、ミュージシャン志望の青年(野村周平)と恋をすることになります。
彼女の場合は「X」としてではなく、
異国の少女として周囲から差別を受けたり蔑まれたりするのです。
つまりそれは「X」が地球人から差別を受けたり
いわれない誹謗中傷を受けたりすることと同心円なんですね。

何も相手が宇宙人だからというのでなくとも、
この世界には自分と「違う」ということだけで、
差別を受けたりすることはほとんど当たり前というくらいにたくさんある。

多分、私たちはよく知らない相手が「恐い」のでしょう。
だからつい、まず拒否感があって、相手を遠ざけようとして、
差別したり非難したりする。

そうではなく、まずは互いを知るところから始めるべきなのに。
個人単位ならまだ容易なことも、団体単位だと難しくなっちゃいますね・・・。

 

<Amazon prime videoにて>

「隣人X 疑惑の彼女」

2023年/日本/120分

監督・脚本:熊澤尚人

原作:パリュスあや子

出演:上野樹里、林遣都、ファン・ペイチャ、野村周平、酒向芳

 

疑惑度★★★★☆

満足度★★★★☆


レディ・マクベス

2024年03月12日 | 映画(ら行)

乙女から魔女へ

* * * * * * * * * * * *

ロシアの作家、ニコライ・レスコフの小説
「ムツェンスク郡のマクベス夫人」を映画化したものです。

19世紀後半のイギリス。
17歳キャサリンは裕福な商家に嫁ぎますが、
夫は彼女に興味を示さず、体の関係を持ちません。
舅からは外出を禁じられ、人里離れた屋敷で退屈な日々を過ごします。

そんなある時、夫が長期間不在となり、キャサリンは使用人セバスチャンに誘惑されて、
不倫関係になってしまいます。
そして彼女は次第に欲望が抑えられなくなり・・・。

当初、映し出されるキャサリンは、若く初々しい少女でした。
ところがこの結婚はどうも、この家の対面を保つためだけのものだったようです。
なぜか夫は彼女に服を脱ぐように言って、裸体を眺めたりするのに、
指一本触れようともしません。
そしてまた、ただ厳格な舅も、嫁へ向けたいたわりも好意すらも示しません。

一応裕福な家なので、家事などはすべて使用人が行い、
キャサリンは外出まで禁止されていて何もすることがない。
そんな彼女が、舅も夫も留守という期間に、
つい出来心が起こってしまうのは仕方のないことかも・・・。
でも、そんな同情も吹き飛ばすように、物語は進行していきます。

当主である舅の死。
そして不意に夫が帰ってきた夜、ベッドにはセバスチャンがいます。
とっさに、セバスチャンは身を隠すものの、
夫はとうに妻の不倫のうわさを耳にしていて・・・。

事件が起きます。

が、その後にまた、驚愕のできごとが・・・。

夫がキャサリンを愛そうとしなかった理由が伺われて、
ちょっと驚かされましたが・・・。

キャサリンはこの家を支配したいという自らの欲望を
次第次第に増長させていきます。

邪魔者は排除するしかない・・・。

あの初々しかった少女が、ほとんど魔女に変貌していくのです。
恐い、恐い・・・。

 

さて、この屋敷の使用人たちは、主の留守中のキャサリンの様子をすべてわかっているのですが、
キャサリンを咎めたりはしません。
主のいない間は、この家を取り仕切るのはキャサリン。
家の主人のすることに意義を申し立てるなどという発想がそもそもないようです。

そしてまた、この家の当主が誰になろうとも、
そのまま自分の仕事が続けられるのならそれで良いと、使用人たちは考えている。

そうした分断されたこの家の内部構造もなかなか興味深いのでした。

 

<Amazon prime videoにて>

「レディ・マクベス」

2016年/イギリス/89分

監督:ウィリアム・オルドロイド

出演:フローレンス・ピュー、コズモ・ジャービス、ポール・ヒルトン、
   ナオミ・アッキー、クリストファー・フェアバンク

欲望追求度★★★★★

満足度★★★★☆


658㎞、陽子の旅

2024年02月21日 | 映画(ら行)

夢を失った陽子のロードムービー

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42歳独身の陽子(菊地凛子)。
人生をあきらめほとんど引きこもり状態で日々を過ごしています。

そんな時に、かつて夢への挑戦を反対されて20年以上疎遠になっていた父の訃報を受けます。
いとこの茂(竹原ピストル)とその家族とともに、車で東京から故郷青森まで出発します。
しかし途中、サービスエリアで行き違いがあり、陽子は置き去りにされてしまいます。

スマホは故障中。
所持金は2000円程度。
人と話すのもやっとな陽子ですが、やむなくヒッチハイクで青森を目指すことに。
道中、様々な人と出会い、様々な出来事があって、陽子は変わっていきます。

東京から青森までの距離が658㎞ということですね。
いとこの車に乗っていれば何の苦労もいらなかったのですが、
はぐれてしまって連絡の取りようがない。
疎遠だとはいえ父親の葬儀に行かないわけにもいかない。

陽子は勇気を振り絞って、サービスエリアにいる人々に
途中まででもいいので、乗せてくれるように頼みます。
始めのうちは声を出すのもやっと。
トイレで、ことばの練習をするくらいです。

何人にもことわられながらやっと乗せてくれたのは一人の女性。
彼女はなぜこんなところでヒッチハイクをしているのか、問いたい様子でしたが、
なにしろ陽子はほとんどだんまりで、会話になりません。
結局、青森にはまだほど遠い場所で、車を降りることに。

さて、陽子は亡き父の幻影とともに旅をします。
それも20年以上前の若き日の父(オダギリジョー)。
物言わぬその父は、勝手に夢を見て飛び出していった陽子を
責めているようでもあり、慰めているようでもある。
その父への反発で、故郷に帰ることもなかった陽子。
その頃の父、つまり自分が今見ている幻影の父は、
ちょうど今の自分と同じくらいの年齢だったはず・・・。
父の思いを今さらながらに感じてしまいます。
せめて、火葬されてしまう前に逢いたい・・・と、彼女は思うようになるのです。

いろいろな人に助けられ乗り継ぎ・・・、
なかには酷い人もいて、ボロボロになりながらも、
陽子は進んでいきます。

結局、彼女を前へ進めたのは、良くも悪くも人々との出会い。
一人ではできないことも、人の助けを借りればなんとかなる。
そして助けを受け入れることが、自分を強くする・・・。

終盤、陽子は問われもしないのに自分の事情を運転者に打ち明けるようになっています。
感動します。

亡きお父さんがこんな陽子のことを見守ってくれたのかも知れませんね。

 

「658㎞、陽子の旅」

2022年/日本/113分

監督:熊切和嘉

原案:室井孝介

出演:菊地凛子、竹原ピストル、黒沢あすか、浜野謙太、仁村紗和、オダギリジョー

 

コミュ障度★★★★☆

成長度★★★★☆

満足度★★★.5