気がつけば、自分も荒野の風の中にいる
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ネバダ州の企業城下町に暮らしていた60代のファーン(フランシス・マクドーマンド)。
夫に先立たれた上に、リーマンショックによる企業倒産の影響で、
長年住み慣れた家を失ってしまいます。
キャンピングカーにすべてを積み込んだ彼女は、
季節労働の現場を渡り歩きながら、車上生活を送ります。
行く先々で出会うノマドたちと交流を繰り返しながら・・・。
本作はドキュメンタリーとフィクションの融合とでも言いますか、
作中ファーンが出会い話を聞くノマドたちは、実在の車上生活者たち。
つまり実際のノマドの生活の中にマクドーマンドが自ら身を投じて交流し、
この作品ができたわけです。
ノマドとは、「遊牧民」の意味ですが、
現代のノマドたちは車をテントの変わりとして、
アメリカの広大な大地を移動して生活をする・・・。
作中、ファーンが「ホームレスじゃない。ハウスレスよ。」
というシーンがあります。
確かに、住む場所がないホームレスじゃない。
固定した「家」がないだけで、「住む」ところはある訳です。
そして、仕事もします。
年末には繁忙期のAmazon で、秋の収穫期にはビート農場で・・・。
彼女はそこで食べていくのにやっとのくらいの収入を得て、転々と移動していきます。
私には次第にファーンが「自然」の一部のような気がしてきました。
雨や雪、砂ホコリに晒されながら、
ただただ風に流されて移動する枯れ草のような・・・。
この感じは、あの広大で殺伐とした荒野ならでは。
北海道も広いとは言え、あれほどの殺伐とした手つかずの大地はなかなか見られませんよね。
緑に潤う大地では、どうしても定住したくなりますから、
やはりあの荒涼感が、“さすらう”ことを自然に促しているように思います。
必要以上のものは持たず、その日を生きられたことに安堵して眠りに就く。
時には見知った人との再会を喜び、次の出会いを楽しみに別れていく。
本当の人の生き方とはこういうものだったんじゃないかな・・・と、次第に思えてきます。
ファーンが以前住んでいた家の裏は、遠くの山なみまで続く広大な砂漠が広がっていました。
彼女は長くそこに暮らしてその光景を眺めていたから、
そんな風景の中に自分がいることが自然に思えたのかもしれません。
そして、亡くなったご主人は、お墓の中になんかいない。
千の風になって、この荒野を吹き渡っている・・・。
その中に自分をずっと置いていたい。
そしていつか自分もその風になりたい・・・。
イヤ、ちょっと出典が違いすぎる・・・?
でも私はそんなことを思いました。
特別にストーリーとして起伏がある訳ではない。
けれど、見終える頃には何故か自分もこの荒野に身を置いているような・・・、
不思議にこの世界観に浸ってしまっていたのでした。
<ユナイテッドシネマ札幌にて>
「ノマドランド」
2020年/アメリカ/108分
監督:クロエ・ジャオ
原作:ジェシカ・ブルーダー「ノマド、漂流する高齢労働者たち」
出演:フランシス・マクドーマンド、デビッド・ストラザーン、リンダ・メイ、スワンキー、ボブ・ウェルズ
世界認識度★★★★☆
満足度★★★★★