“滅び”の物語
* * * * * * * * *
冒頭でまず、ドイツの哲学者ニーチェの逸話が紹介されます。
ムチに打たれ疲弊した馬車馬を見たニーチェは
その馬に駆け寄り、首を抱いて泣きだした。
そして彼はそのまま精神が崩壊していった・・・と。
今作は、その馬のその後を描いたもの、と言われますが、
ニーチェ自身の想像という想定のような気がします。
今作のようなストーリーが一瞬のうちにニーチェの頭の中を駆け巡ったからこそ、
ニーチェは正気でいられなくなってしまったのではないかと・・・。
一人の疲れた表情の老人が荷馬車で帰路についています。
風が吹きすさんでいます。
ようやく粗末な家に帰り着きます。
その家で、老人と娘が二人暮らし。
老人は片手が不自由で動きません。
だから着替えなどは娘が手伝います。
井戸へ水を汲みに行き、
父親の着替えを手伝い、
洗濯をし、
じゃがいも一つだけの食事をし、
馬の世話をし、
就寝。
ほとんど会話もなく単調な毎日。
これが繰り返されます。
しかも常に乾いた強風が吹きすさぶ陰鬱な空。
さらにこれがモノクロームで、過剰と思われるほどのカメラの長回し。
今作を見るのにはちょっと忍耐が必要なのです。
ところが2日目、3日目と日が経っていくうちに、変化が見えてきます。
それも、どうも状況が良くはない方へと・・・。
もともと疲れ果てたような馬は、荷馬車を曳くこともしなくなり、
餌も水も口にしなくなってしまいます。
珍しく訪ねてきた男が「街が風で吹き飛ばされてなくなってしまった」というのですが、
老人は飲んだくれの戯言・・・と信用しません。
そして5日目の朝、重大な問題が・・・
疲れ果てた馬と同じように、疲れ果てた父娘です。
私は使役に耐えかね、動けなくなってしまう馬を
この貧しい父娘にたとえているのかと思ったのですが・・・。
そうではなく、どうもこれは「神は死んだ」といったニーチェの、
その“人の世”の終末、
“滅び”の物語なのです。
今作は6日目まで描かれていますが、
天地創造で神は6日間をかけていますよね。
神の創造物がひとつまた一つと失われていく。
そのことを暗示しているようです。
神が一番初めに作ったのは「光」でしたから・・・。
単調な映像ながら、色々な秘密が隠されているようで、
つい見入ってしまいます。
でもいつか、何か希望の芽が芽生えるのではと、
ほとんど祈るような気持ちで見ていくのですが・・・。
「ニーチェの馬」
2011年/ハンガリー・フランス・スイス・ドイツ/154分
監督・脚本:タル・ベーラ
出演:ボーク・エリカ、デルジ・ヤーノシュ
地味さ★★★★★
暗示性★★★★★
満足度★★★★☆
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冒頭でまず、ドイツの哲学者ニーチェの逸話が紹介されます。
ムチに打たれ疲弊した馬車馬を見たニーチェは
その馬に駆け寄り、首を抱いて泣きだした。
そして彼はそのまま精神が崩壊していった・・・と。
今作は、その馬のその後を描いたもの、と言われますが、
ニーチェ自身の想像という想定のような気がします。
今作のようなストーリーが一瞬のうちにニーチェの頭の中を駆け巡ったからこそ、
ニーチェは正気でいられなくなってしまったのではないかと・・・。
一人の疲れた表情の老人が荷馬車で帰路についています。
風が吹きすさんでいます。
ようやく粗末な家に帰り着きます。
その家で、老人と娘が二人暮らし。
老人は片手が不自由で動きません。
だから着替えなどは娘が手伝います。
井戸へ水を汲みに行き、
父親の着替えを手伝い、
洗濯をし、
じゃがいも一つだけの食事をし、
馬の世話をし、
就寝。
ほとんど会話もなく単調な毎日。
これが繰り返されます。
しかも常に乾いた強風が吹きすさぶ陰鬱な空。
さらにこれがモノクロームで、過剰と思われるほどのカメラの長回し。
今作を見るのにはちょっと忍耐が必要なのです。
ところが2日目、3日目と日が経っていくうちに、変化が見えてきます。
それも、どうも状況が良くはない方へと・・・。
もともと疲れ果てたような馬は、荷馬車を曳くこともしなくなり、
餌も水も口にしなくなってしまいます。
珍しく訪ねてきた男が「街が風で吹き飛ばされてなくなってしまった」というのですが、
老人は飲んだくれの戯言・・・と信用しません。
そして5日目の朝、重大な問題が・・・
疲れ果てた馬と同じように、疲れ果てた父娘です。
私は使役に耐えかね、動けなくなってしまう馬を
この貧しい父娘にたとえているのかと思ったのですが・・・。
そうではなく、どうもこれは「神は死んだ」といったニーチェの、
その“人の世”の終末、
“滅び”の物語なのです。
今作は6日目まで描かれていますが、
天地創造で神は6日間をかけていますよね。
神の創造物がひとつまた一つと失われていく。
そのことを暗示しているようです。
神が一番初めに作ったのは「光」でしたから・・・。
単調な映像ながら、色々な秘密が隠されているようで、
つい見入ってしまいます。
でもいつか、何か希望の芽が芽生えるのではと、
ほとんど祈るような気持ちで見ていくのですが・・・。
ニーチェの馬 [DVD] | |
タル・ベーラ,ヴィーグ・ミハーイ,クラスナホルカイ・ラースロー | |
紀伊國屋書店 |
「ニーチェの馬」
2011年/ハンガリー・フランス・スイス・ドイツ/154分
監督・脚本:タル・ベーラ
出演:ボーク・エリカ、デルジ・ヤーノシュ
地味さ★★★★★
暗示性★★★★★
満足度★★★★☆