映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ニーチェの馬

2013年01月31日 | 映画(な行)
“滅び”の物語



            * * * * * * * * *

冒頭でまず、ドイツの哲学者ニーチェの逸話が紹介されます。
ムチに打たれ疲弊した馬車馬を見たニーチェは
その馬に駆け寄り、首を抱いて泣きだした。
そして彼はそのまま精神が崩壊していった・・・と。
今作は、その馬のその後を描いたもの、と言われますが、
ニーチェ自身の想像という想定のような気がします。
今作のようなストーリーが一瞬のうちにニーチェの頭の中を駆け巡ったからこそ、
ニーチェは正気でいられなくなってしまったのではないかと・・・。


一人の疲れた表情の老人が荷馬車で帰路についています。
風が吹きすさんでいます。
ようやく粗末な家に帰り着きます。
その家で、老人と娘が二人暮らし。
老人は片手が不自由で動きません。
だから着替えなどは娘が手伝います。

井戸へ水を汲みに行き、
父親の着替えを手伝い、
洗濯をし、
じゃがいも一つだけの食事をし、
馬の世話をし、
就寝。

ほとんど会話もなく単調な毎日。
これが繰り返されます。
しかも常に乾いた強風が吹きすさぶ陰鬱な空。
さらにこれがモノクロームで、過剰と思われるほどのカメラの長回し。
今作を見るのにはちょっと忍耐が必要なのです。
ところが2日目、3日目と日が経っていくうちに、変化が見えてきます。
それも、どうも状況が良くはない方へと・・・。



もともと疲れ果てたような馬は、荷馬車を曳くこともしなくなり、
餌も水も口にしなくなってしまいます。
珍しく訪ねてきた男が「街が風で吹き飛ばされてなくなってしまった」というのですが、
老人は飲んだくれの戯言・・・と信用しません。
そして5日目の朝、重大な問題が・・・



疲れ果てた馬と同じように、疲れ果てた父娘です。
私は使役に耐えかね、動けなくなってしまう馬を
この貧しい父娘にたとえているのかと思ったのですが・・・。
そうではなく、どうもこれは「神は死んだ」といったニーチェの、
その“人の世”の終末、
“滅び”の物語なのです。
今作は6日目まで描かれていますが、
天地創造で神は6日間をかけていますよね。
神の創造物がひとつまた一つと失われていく。
そのことを暗示しているようです。
神が一番初めに作ったのは「光」でしたから・・・。


単調な映像ながら、色々な秘密が隠されているようで、
つい見入ってしまいます。
でもいつか、何か希望の芽が芽生えるのではと、
ほとんど祈るような気持ちで見ていくのですが・・・。

ニーチェの馬 [DVD]
タル・ベーラ,ヴィーグ・ミハーイ,クラスナホルカイ・ラースロー
紀伊國屋書店


「ニーチェの馬」
2011年/ハンガリー・フランス・スイス・ドイツ/154分
監督・脚本:タル・ベーラ
出演:ボーク・エリカ、デルジ・ヤーノシュ

地味さ★★★★★
暗示性★★★★★
満足度★★★★☆

ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日

2013年01月29日 | 映画(ら行)
1000の言葉より映像が物語る



            * * * * * * * * *

少年が一艘のボートでトラと漂流。
なんて、スリリングな設定でしょう。
ワクワクして見に行ったのですが、想像以上に深く胸の奥に響く作品でした。



少年パイは、インドのポンディシェリに住んでいました。
父親は動物園を経営しており、
パイはそこで様々な動物たちと触れ合いながら育ったのです。
パイが16歳の時に、父親がカナダへの移住を決意。
動物たちをも乗せた貨物船がインドを発ちましたが、
途中で大きな嵐に遭遇し、沈没してしまいます。
辛くもパイは救命ボートに乗り込みましたが、
そこで獰猛なベンガルトラと乗りあわせてしまった・・・!
少年とトラのスリリングな漂流が始まります。



少年ははじめのうち、ひたすら逃げ回ることだけを考えていましたが、
次第に、トラと生活する緊張感こそが自分を生かしていると気づきます。
奇妙な共存関係が生まれていくのです。



この物語は単なるサバイバルストーリーでもファンタジーでもありません。
純然とした命の物語。
例えば嵐に荒れ狂う海。
またある時はまるで鏡のように凪いだ海。
海面いっぱいに浮かぶクラゲの群れ、
巨大なクジラの跳躍。
人がどうあろうと、この営みは続いているのですね。
果てしなくつづく海原で、
まるで地球上にたった一人と一匹が取り残されたようにも思えます。
こんな中では、人の命などほんの一捻り。
ここに生きている奇跡。
だからこそ、なんだか神に生かされているような気がしてきます。
夜の海に果てしなく広がる星空。
宇宙の真理を見るかのようです。
パイの見た宇宙の深淵と命の尊厳・・・
見事に映像で表現されていたと思います。
圧倒されて、ただただひたすら見つめるのみ。



IMAXシアターの3Dで見た甲斐がありました。
1000の言葉よりも映像が物語る作品です。
(こんなブログ記事も虚しくなってしまいます!)
パイの思う“神”は、特定の宗教を指してはいませんね。
もともとヒンズー教もイスラム教もキリスト教も信じてしまう彼でしたから。
ここのところは、八百万の神を受け入れてしまう私達日本人にはとても受け入れやすいのです。
このストーリーは、これまでの西洋的キリスト教の発想では生まれなかったと思います。
ラストで、パイはもうひとつ似て非なる物語を語ります。
どちらが本当か?
それは問題ではなくて、パイにとってその物語はどちらも同じ物語なのではないでしょうか。
人であろうと、動物であろうと、同じ生命の物語なのです。
たった一匹の魚の命を奪うことにも涙したパイであればこそ。
どちらでも好きな方を信じればいい。
私にはどちらも同じ・・・・と、
20年後のパイは、ちょっぴりイタズラっぽい目で私達を見つめます。


これ以上くどくど言ってもムダと思えてしまいます。
私の表現力ではちっとも説明しきれません。
宗教や神がどうのこうのなんて、難しく考える必要はたぶんないのです。
どうぞ、ご覧になって“感じて”ください。
可能であれば、是非3Dで。

「ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日」
2012年/アメリカ/126分
監督:アン・リー
原作:ヤン・マーテル
出演:スラージ・ジャルマ、イルファン・カーン、タブー、レイフ・スポール、ジェラール・ドパルデュー

3D効果度★★★★★
神秘度★★★★☆
満足度★★★★★

「スターバト・マーテル」 篠田節子

2013年01月28日 | 本(その他)
青く透き通る水の中に揺らめく男女

スターバト・マーテル (光文社文庫)
篠田 節子
光文社


            * * * * * * * * *

乳癌を機に生と死を見つめるようになった彩子。
中学時代の同級生・光洋と30年ぶりに再会した彩子は、
心の奥底にしまっていた哀しくほろ苦い「過去」を思い出す…。
40代女性の"静かな哀しみ"を丁寧に描いた表題作のほか、
海外での友人の結婚式の騒動を描いた痛快コメディー作品「エメラルドアイランド」も収録。
芸術選奨文部科学大臣賞受賞作品が待望の文庫化。


            * * * * * * * * *


「スターバト・マーテル」に登場する彩子は、人との距離感が独特です。
「親しくつきあっているように見えても、彩子は他人に本心を見せない人」
「物事の悪い面ばかり見るようなところがあるから、一緒に暮らすのは辛いかも」

・・・などと人に言われます。
別に人を拒絶する気持ちはないのだけれど・・・、なぜかそうなってしまう。
その彩子が、中学の同級生光洋に、自分と同質のものを見出したのでしょう。
全く偶然にプールで出会って以来、
お互いの胸の奥深くで呼び合うものがある・・・。
単に不倫の物語と思いきや、
そこが篠田節子さんなので、それだけであるはずがない。
社会問題を絡ませながら、意外にもドラマチックな展開をみせていきます。


二作目「エメラルドアイランド」は、友人の結婚式のために南の島を訪れた泉子。
しかし、新郎新婦はケンカ別れ、
その上、とんでもない嵐が島を襲う。
コメディというには、かなり状況は悲惨ですが、
やがて登場人物たちの生きるエネルギーにホッとさせられる物語です。


このようにテイストの異なる2作なのですが、
共通しているものがありました。
それは、海外で働く日本の企業戦士。
海外といってもニューヨークやパリではありませんよ。
中東であったり、東南アジアであったり。
異なる文化の中で軋轢に耐え、
日本の本社からのノルマの重圧に耐え
・・・そうして我が身を擦り減らしていく男性が、それぞれ登場します。
そんなおりに、アルジェリアの人質事件が起こりました。
日本企業職員の現実は、篠田節子さんの小説以上に過酷のようです。
けれど、今低迷しているとはいえ
日本経済を支えているのは、そういう人たちなのですよね・・・。
エンタテイメントでありながら、いつもこのような世相を鋭くつく、
やはり篠田節子作品なのでした。

「スターバト・マーテル」篠田節子 光文社文庫
満足度★★★☆☆


東京家族

2013年01月27日 | 映画(た行)
老いを描写することで、新しい世代が際立つ



            * * * * * * * * *

山田洋次監督の監督生活50周年記念として、
名匠小津安二郎「東京物語」にオマージュを捧げた家族ドラマです。



瀬戸内海の小さな島に暮らす周吉(橋爪功)・とみこ(吉行和子)の老夫婦が、
子どもたちに会うために東京へやってきます。
長男、幸一(西村雅彦)は、医師。開業医です。
長女、滋子(中嶋朋子)は、美容室を営んでいる。
そして一番末の次男、晶次(妻夫木聡)は、定職はなく、
今は舞台の大道具などをして何とか食べています。
周吉から見ると、満足に独立できている長男・長女に比べて、
晶次の境遇がいかにも情けなく思われる。
晶次も、子供の頃からいつも兄ばかり褒められ、自分は相手にもしてもらえなかった・・・と、
かなりこの父と息子の間には断絶があるのです。

今作でも父母の上京にあたり「品川駅」で待ち合わせといったのに、
「東京駅」で待っていたりして、
「あの子は何をやっても役に立たない」と、姉にボロクソに言われたりします。
さてしかし、東京の子どもたちに温かく迎えられた父母ではありましたが、
日がたつに連れて怪しい雲行きになってきます。
皆それぞれの生活があり、忙しく、
父母を東京見物に連れて行く時間も取れないのです。
「いつまでいるのかしら・・・」と、次第に煙たく思い始める息子、娘・・・。


田舎でゆったりと暮らす父母と、
東京のせわしない生活に染まっている子どもたち。
いやいや、こういう空気がとても良くわかりますね。
こうなりますよね。
口数少なく気難しげな父親と子どもたちをうまく結ぶのが母親のとみこ。
特に晶次はお母さんっ子なんです。
彼は恋人の紀子(蒼井優)をお母さんに紹介します。



夫婦とは・・・、
家族とは・・・、
そして老いと死。
生きていく限り私達もいつかはきっと出会う事柄を、
じっくり見据えて描き出しています。
老夫婦が子どもたちの間をたらいまわしになる前半よりも、
後半の晶次・紀子ととみこの出会いのシーン辺りからが、ぐっと胸に迫ってきます。
老夫婦を中心にしたシーンから、若いこの二人が登場した時に、
なんて「若さ」ってステキなのだろう、と思わずにいられません。
自分がすでに老境に入りかけているせいかもしれませんが、
若さはそれだけでもう、宝であり、希望だと思えます。



「東京物語」は戦争の爪痕を背景に描かれているそうなのですが、
今作では東日本大震災が話題とされています。
・・・が、若干無理やり挿入しているような気もします。
まあ、晶次と紀子の出会いのエピソードというところは、ちょっと納得しましたが。


瀬戸内海の彼らの故郷の島がステキです。
私ならやはりこういうところに住みたいなあ・・・と思うのですが、
何故か皆都会を目指す。
「こんなのはまちがっている。
なんで日本はこんな風になってしまったのだ、
やり直せないのか」
・・・と、酔いつぶれてくだをまく周吉。
このセリフを活かすには、もっと深い掘り下げが必要だったようには思いますが、
周吉にとって子供らが家を出たきり帰ってきもせず、
生活に追いまくられてかまってももらえないのは、
この忌々しい一極集中の世の中のせいだ・・・
という、強い思いの発露だったのでしょう。
そこへ行くと、やんわりと現実を受け止めていたお母さん、
さすがでした・・・。


「東京家族」
2012年/日本/146分
監督:山田洋次
出演:橋爪功、吉行和子、西村雅彦、中嶋朋子、妻夫木聡、蒼井優
老いを見つめる度★★★★★
満足度★★★★☆

「木挽町月光夜話」 吉田篤弘 

2013年01月25日 | 本(その他)
こだわりの12キロ

木挽町月光夜咄
吉田 篤弘
筑摩書房


            * * * * * * * * *

「Webちくま」に連載された吉田篤弘さんのエッセイです。
エッセイとはいえ全体で一つのテーマを追っていて、
大きな一つの連載エッセイとなっています。


さて、その大きなテーマとは。
吉田篤弘氏の本籍は"銀座2丁目"となっているそうですが、
その地はもと"木挽町"と呼ばれたところで、
現在も歌舞伎座の代名詞のように呼ばれる場所です。
そこでかつて吉田氏の曽祖父が寿司屋を開いていたというのです。
おじいさん位の事なら親戚に聞けばまだわかる。
けれど曽祖父のこととなると、もう殆どその人を知っている人がいない。
だからこそというわけでしょうか、
吉田氏はその自身のルーツが気になってしまうわけです。
大好きな歌舞伎の町で寿司屋を営んでいたとは・・・。
何かつながったものを感じたのでしょう。


そしてまたもう一つのテーマはダイエット。
平均体重よりも12キロもオーバーしてしまっているという発見に、
ダイエットを思い立ち、
甘いものを食べるのを止め、せっせと歩き始めて・・・。
そうして気づいたのが、自宅から木挽町までの道のりがちょうど12キロ。
これも何かの符合であろうと思った氏は、
いつかこの12キロを歩いてみようと決意するのでした・・・。


と、大筋はこのようなのですが、各章はあまりそこにはこだわらず、
氏のこれまでのこととか、その時々思いついたこと、などなど・・・
大変興味深いエッセイ集となっています。


学生時代は、自分でもバンドを組む程の"ギター小僧"だった彼が、
ある時唐十郎の演劇を見て、突如転身したのだといいます。
バンドをきっぱりと辞め、本を読みだした。
1ヶ月引きこもって本を読み続け、
そのあとは学校に顔だけだして、すぐに古本屋巡りに出かけた。
なにをするにもとことんまでやる方なんですね。
けれどこの読書量や本のバラエティには全くかないません。
私のこれまでの人生で読んだ本全て並べてみても・・、
というか、すべて並べると恥ずかしくなってしまいます。
私のは読書のうちに入らないじゃないか。
こういう膨大な知識が氏の独特な味のある文章・小説につながっているのだなあ
・・・と、納得させられました。


しかし小説に、デザイン。
あまりの忙しさを当然のこととしてこなしてしまったため、
氏は突如原因不明のめまいにおそわれます。
私も2年ほど前にめまい発作に襲われたことがあり、
その辛さはよくわかります。
吉田氏の場合、結局原因はよくわからなかったようですが、
絶対に、過労ですね。
しっかり睡眠がとれていなかったようだ、とあります。
たぶん文章もデザインも大好きで、つい夢中になって体を酷使し過ぎていることも忘れていたのでは・・・。
どうかほどほどにして、これからも長く私達を楽しませていただきたい。


そうして、このエッセイ連載中にあの3月11日がやってきます。
地震の起こった時のこと。
それからしばらくのこと。
そうでした、あの時は日本中が重苦しく沈んでいました。
そんな空気をありありと思い出しました。


そして一番最後に、いよいよ自宅~木挽町を歩くことになります。
歩きながら、もの思うことをそのまま書いたエッセイ。
こういうのもいいですね。
吉田篤弘氏の色々な秘密を知ってしまった一冊でした。

「木挽町月光夜話」 吉田篤弘 筑摩書房

満足度★★★★☆

私が、生きる肌

2013年01月24日 | 映画(わ行)
愛なのか。憎しみなのか。



            * * * * * * * * *

ペドロ・アルモドバル監督作品ではありますが、
これまでとはちょっと様子が違います。
アルモドバル監督とくれば、まずは情念・・・というのが私の印象。
しかし今作はもちろん、人の情念なくしては語れませんが、
かなり猟奇的といいますか、恐ろしくもあり、官能的でもあります。



形成外科医であるロベル・レガルは、画期的な人工皮膚の研究をしていますが、
なぜか自宅に監禁した美女で、その人体実験を行なっているのです。
その人工皮膚というのも、遺伝子操作を利用した倫理規定に抵触する禁断の実験。
彼には自動車事故で皮膚が焼けただれた妻がいて、
元々は、今はなきその妻のために始めた研究であったのでしょう。
しかし、いったいこの女性は誰なのか? 
私たちは次第にその戦慄の真実を悟っていきます・・・。



アントニオ・バンデラス演じる医師は、常に冷静なのですが、
次第にマッド・サイエンティストの様相が見えてきます。
彼の胸のうちにあったのは、もともと復讐。
しかし、終盤ではほとんどそれがわからなくなってきますね。
愛なのか、憎しみなのか。

一方、悲劇の女性は、
誰も踏み込めない心のなかの自分を保つことを日々自分に言い聞かせ続けていた。
加害者は自分の立場を当然と思い、自分の罪をじきに忘れてしまうけれども、
虐げられた側は、決してそれを忘れない。
そういう真理はあると思います。

それにしても、ちょっとゴクリと生唾を飲んでしまうようなシーンあり。
強烈でした・・・。



レガル医師宅に飾られた多くの絵画が印象的です。
女性の裸体を描いたのもが多いのですが、
それは写実的なものではなく、近代的にデフォルメされたもの。
(不勉強で、誰の絵とも言えず、すみません・・・)
とても印象的です。
冒頭、監禁された女性のシーンでは、まるでダリの絵のようだと、私は感じましたが・・・。

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アントニオ・バンデラス,エレナ・アナヤ,マリサ・パレデス,ジャン・コルネット
松竹


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アントニオ・バンデラス,エレナ・アナヤ,マリサ・パレデス,ジャン・コルネット
松竹


「私が、生きる肌」
2011年/スペイン/120分
監督:ペドロ・アルモドバル
原作:ティエリー・ジェンケ
出演:アントニオ・バンデラス、エレナ・アナヤ、マリサ・パレデス、ジャン・コルネット、ロベルト・アラモ

官能度★★★★☆
衝撃度★★★★★
満足度★★★★☆

テッド

2013年01月23日 | 映画(た行)
中年オヤジと可愛らしさのギャップが可笑しい



            * * * * * * * * *

テディベアのぬいぐるみ、テッドにひかれて見てしまいました。
しかし想像以上にお下品なセリフ満載なので、
そういうのが好きではない方はやめたほうがいいかもしれません。
私はあまり好きではありませんが、
やはり、テッドの妙な可愛らしさに免じてヨシとしました。



いじめられっこ少年のジョンは、
クリスマスプレゼントにテディベアをもらい、テッドと名づけます。
そして、テッドと本当の友達になれるように神様にお祈りします。
すると翌朝、テッドに魂が宿り、二人は親友となります。
さて、それから27年後。
ジョン(マーク・ウォールバーグ)とテッド(声:セス・マクファーレン=監督)は30代ですが、
相変わらず親友(悪友?)のまま、同居しています。
テッドは“動いてしゃべるぬいぐるみ”としてTV出演をして人気者となったこともあり、
かなりの毒舌&セクハラおやじとなっているのでした・・・。
(今ではすっかり飽きられて、昔の栄光は何処・・・というくらい。)
しかし、その性格と、このモコモコフワフワのいかにも可愛らしいすがたのギャップが
どうにも可笑しいのですよね。
どんなに危ない発言でも、笑ってゆるしてしまいたくなる
・・・というわけです。



さて、ジョンには付き合って4年目になる彼女、ロニー(ミラ・クニス)が居ます。
もうそろそろ結婚を考えてもいいのでは・・・、と、そんな時期ですが、
ロニーにはジョンが自分よりテッドを優先しているように思われ、いい気がしません。
そんなことから、二人の亀裂が大きくなっていきます・・・。
とはいえ、この二人、というか3人は
ほとんど同居生活なんですよ。
この4年間あきれもせずに、ジョンとテッドの二人と付き合ってきたロニーは
もうそれだけで偉大と思えるのです。
こんなジョンと結婚できるのはこの人くらい、と、
私にははじめから結論が出ていたように思えますが・・・。

 

そんな訳で、ストーリーには特に意外性はありませんが、
ぬいぐるみが動き、表情を変え、しゃべるという驚きのCGに、
魅了され笑わせられる楽しい作品でした。
そしてまた、日本人としてはあまりピンとこないのですが、
今作には懐かしの映画への愛がぎゅっと詰まっています。
ジョンとテッドが子供の頃のヒーローたち。
スターウォーズやETはともかく、「フラッシュ・ゴードン」となるとちょっと馴染みが薄いですね。
アメリカの方々には、きっと懐かしのヒーローや、シーンを見つけるという
楽しみ方もあったのではないでしょうか。



マーク・ウォールバーグといえば、「極大射程」や「ザ・ファイター」など、
私には硬派のイメージがあったのですが、
こんな三枚目役もやるんですねえ・・・。
(最近はコメディ出演も多いとのこと)。
そうそう、テッドとの大げんかで殴り合いのシーンがまた、
迫力がありつつ可愛らしいという妙なシーンでした。
テッドになら殴られても痛くなさそうです。
それから、きちんと魂の宿っているテッドと、
そうではない、ただのぬいぐるみのテッドが、
確かに全然違うんですよ。
いやさすがでした。
そこも見どころです。

「テッド」
2012年/アメリカ/106分
監督:セス・マクファーレン
出演:マーク・ウォールバーグ、ミラ・クニス、セス・マクファーレン(声)、ジョエル・マクヘイル、ジョバンニ・リビシ
可愛らしさ★★★★☆
お下品度★★★★★
満足度★★★★☆

「球体の蛇」 道尾秀介

2013年01月21日 | 本(ミステリ)
人を愛すること、受け入れることのほんとうの意味

球体の蛇 (角川文庫)
道尾 秀介
角川書店(角川グループパブリッシング)


            * * * * * * * * *

17歳友彦は、隣の家に居候しています。
父母は離婚し母が離れていった。
父は単身赴任。
その父は、元々冷淡で友彦のことに無関心。
そのため、友彦がくつろげる家は、子供の頃から慣れ親しんだこの家なのです。
こちらの家はもともと4人家族だったのですが
数年前ある事故で母と長女が亡くなり、
今は父乙太郎と次女のナオの二人暮らし。
ということで3人が仲良く暮らしていたのです。
ところで、亡くなった姉サヨを、
友彦は自分が殺したと密かに思っています。
美しい人でしたが、どこかひんやりとした雰囲気の女性。
ある日友彦は、サヨに似た雰囲気を持つ女性を見かけ、
気になって仕方ありません。
そんな膨らむ思いを抑えかね、
とうとう彼女が過ごす家の床下に、夜な夜な潜り込むようになってしまうのです。


ただ自分の欲望のまま、後先考えない行動に走ってしまう17歳。
今作は過去の事件の真相を探る物語でもありますが、
友彦の心の成長を描く物語でもあります。
おとなになるとは・・・
人の心の痛みをきちんと想像できること。
そしてそれを癒そうと努力できること。
今作ではそのように読み取れます。
自分の気持をぶつけるだけではダメなんですね。


いくつか、真相と思われるべきものがくるくると反転していきます。
物語の終盤はそれから16年が経ており、
どの出来事も何か甘酸っぱさを覚える記憶の底に沈んでいるように思われるのですが・・・、
ここに来てもう一つの展開。
それが何故かやさしくもの悲しい・・・。


球体の蛇とは・・・
「星の王子さま」中の逸話に由来します。
UFOか帽子のように見える一枚の絵をさして、問う。
これはなにの絵か?
答えは大きな象を飲み込んだ蛇。
友彦は思う。
このようなナオのシールドは自分を守ってくれたけれども、
こんな大きな物を飲み込んでしまったナオは、どんなに辛かっただろうか・・・。
全てを見通すことができるようになった今だから、
人を愛すること、受け入れることの本当の意味がわかります。


ちょっと暗いストーリーですが、最期の一行に救われます。

「球体の蛇」 道尾秀介 角川書店
満足度★★★☆☆


96時間 リベンジ

2013年01月20日 | 映画(か行)
最強の父親、再び



            * * * * * * * * *

『96時間』の続編です。
元CIA秘密工作員のブライアン。
前作では娘を誘拐され、怒りに燃えた彼は、
犯罪組織人員を根こそぎに叩きのめし、娘を取り戻したのでした。

→「96時間」



今作では、別れた妻レノーアと娘のキムを伴い、
イスタンブールでバカンスを過ごそうとしたブライアンに、
またもや危機が訪れます。
前作でブライアンに息子を殺されたアルバニア系犯罪組織のボスが、
復讐のため一家を襲撃。
レノーアと共にブライアンは捕らえられ、
また、残されたキムにも危機が迫る・・・。



この手のドラマではふつうのコトになってしまっていますが、
行く手を塞ぐものは、皆殺し。
たった一人、二人を救い出すために、
正義の名のもとに、大勢の人が死んでいきます。
ドラマだから・・・ほとんどストレス解消のように平気でそんなシーンを見続けているわけですが、
実はこの虫けらのように死んでいく人々にも家族があって、恋人や友がいて・・・。
まあ、まともに考え始めたらこんなドラマは見られません。
そんなところを逆手に取って組み立てられたストーリーともいえますが、
けれどもちろん、そういう深刻な内容ではありません。
前作同様、家族を守ることに文字通り必死のブライアンが
ひたすらに敵をなぎ倒して突き進む、
そのスピード感に、他のことを考えるスキもない、
ひたすらに力技の作品となっています。



しかし、拉致され覆面をされて車に載せられても、
彼は冷静に状況を見極め、分析しています。
何秒直進してからどちらに曲がったか。
外の物音も決して聞き逃さない。
常に冷静な判断力と鋼鉄の意志。
守るべきものを持っているこの男を怒らすと実に怖いのです。
けれど、娘のボーイフレンドの家まで探り当てて押しかけるのはいかがなものかと・・・。
まあ、ここまでの不器用な親バカぶりが、
ほっとする所ではあります。



また、この親にして・・・と思うのは、
今回は娘キムも父親を助ける行動を起こすところ。
いいですね!こういうのは好きです。
さすがです。
前作で、娘の父親への信頼が取り戻されたからこそできる
二人の連携プレイですね。
トルコの町並みがまたエキゾチック感たっぷり。
屋根伝いの逃走・追走劇は、こんなふうなゴミゴミした街でなければダメですもんね。
気がつけば、またしても死体の山を築いてしまうこのストーリーを、
結局は楽しんでいる。
いいのですが、もう続編は作らないでほしい・・・。



「96時間 リベンジ」
2012年/フランス/92分
監督:オリビエ・メガトン
制作・脚本:リュック・ベッソン
出演:リーアム・ニーソン、マギー・グレイス、ファムケ・ヤンセン、リーランド・オーサー、ジョン・グライス

目が離せない度★★★★★
親バカ度★★★★★
満足度★★★☆☆

孤島の王

2013年01月19日 | 映画(か行)
酷寒の中で、心の火は熱く・・・



            * * * * * * * * *

ノルウェーのバストイ島。
かつて問題児たちの矯正施設で起こった脱走事件の実話を元にしています。
1915年。
ノルウェー孤島の矯正施設にエーリングという少年が送られてきます。
何かと反抗心を示す彼は、
間もなく脱走を図り、一旦は成功しますが
すぐに見つかり連れ戻されてしまいます。

そんな中で、反発しあいながらもエーリングと班長オーラヴに友情が育まれていく。
しかし、日頃の重労働や、
寮長から性的虐待を受けていた子の死、
また院長の保身へ向けた欺瞞などで抑圧された少年たちが、
ついに堰を切って反乱を起こす・・・・



ノルウェイの冬。北の荒々しい海。
ただでさえ寒々しいこの施設ですが、実際気温も一段と低い。
少年たちの部屋では普通に息が白く見えます。
寒さと緊迫感。
これがこの作品の全てかもしれません。
とにかく圧倒されました。



エーリングはかつて捕鯨船に乗っていたのです。
そこで見た一頭の巨大なクジラのことが忘れられない。
そのクジラは銛を3発受けてもまだ抵抗を示し、瀕死でありながら丸1日を生き続けた。
なんども挿入されるその不屈のクジラの映像は、
次第にエーリングの姿に重なってきます。
どんなに抑圧された状況であれ、
自分らしくあろうとする心の中の火を消してはいけない。
今作ではその火を守り通すエーリングの強さが、胸を打ち感動を呼びます。
何者にも屈しない、強い意志。
それをクジラに象徴させることで、
今作は一段と印象深く、鮮烈なものになっていると思います。
素晴らしい作品でした。

孤島の王 [DVD]
ステラン・スカルスガルド,クリストッフェル・ヨーネル,ベンヤミン・へールスター,トロン・ニルセン
角川書店


2010年/ノルウェー、フランス、スウェーデン、ポーランド/117分
監督:マリウス・ホルスト
出演:ステラン・スカルスガルド、クリストッフェル・ヨーネル、ベンヤミン・ヘールスター、トロン・ニルセン

寒さ★★★★★
満足度★★★★★


「楽園のカンヴァス」原田マハ 

2013年01月17日 | 本(その他)
著者の経歴を注ぎ込んだ力作

            * * * * * * * * *

原田マハさん作品は、私、今回が初めてです。
本作は2012年、様々な賞を受賞していますね。
デビュー作「カフーを待ちわびて」は、日本ラブストーリー大賞も受賞していますし・・・。
残念ながら映画の方も見ていないのですが、
新進気鋭、波に乗っているのは間違いない、と見ました。
さて今作もすぐに引き込まれてしまいます。


早川織絵は、大原美術館の監視員。
母と、どうにも気持ちの通わない高校生の娘と3人暮らし。
まあ、普通のオバサマと、思えたのですが・・・。
時は17年ほどさかのぼります。
彼女はヨーロッパで画家アンリ・ルソーの研究をしており、
ある収集家に招かれて、ルソー作と思われる絵画の真贋を判定して欲しいと依頼されます。
しかしその依頼を受けたのは彼女だけではなく、
もう一人、ニューヨーク近代美術館(MoMA)のティム・ブラウンとその判定を競うことになります。
ルソーの「夢」と非常によく似たその作品は「夢をみた」と題され、
その出自も謎に満ちていますが、
更にもう一つ、衝撃的な秘密が隠されていた・・・!


ルソーの生きた当時、「遠近法も明暗法も知らない日曜画家」とバカにされ、
ついに不遇のまま終わったというその画家のことが、本作には詳しく書かれています。
絵画にはそう詳しくない私ですが、
この本のカバーに問題の「夢」の絵が配されているので、助かります。
確かに見たことはありますよね。
ついでにネットでも調べてみました。
不思議に魅力のある絵です。
鬱蒼としたジャングルに潜む猛獣たち。
笛を吹く黒人。
長椅子に横たわる裸婦。
彼女の指の指し示す方にはなにがあるのだろう。
この夢の続きはどんなだろう・・・。
いつしか自分もその密林に引きこまれ、その奥に隠されたものを探してしまいそうな・・・。
彼を認めた数少ない人物の一人が、かのピカソ。
当時彼を嘲笑したという作家たちは、
自分がどのようにしても書けない物を、安々とルソーが書いてしまうことに
焦りを感じていたのかも知れません。


作中にピカソの思いを表した部分として、こんな文章があります。

傑作というものは、すべてが相当な醜さを持って生まれてくる。
この醜さは、新しいことを新しい方法で表現するために、
創造者が戦った証なのだ。
美を突き放した醜さ、それこそが新しい芸術に許された「新しい美」。


ベル・エポックのパリの雰囲気満載ですね。
このルソーの絵画にまつわる薀蓄とミステリで、
非常に充実した読書時間を持ちました。
ちょっぴりロマンスもあり。
素敵です。


さて、そうしたところで改めて著者の略歴を眺めてみると・・・
文学部日本文学科卒業の後、
美術史学科まで出ていますね!
伊藤忠商事、森ビル美術館設立準備室、そしてニューヨーク近代美術館にいたこともあり、
ついにはフリーのキュレーター・・・!!
なんと圧倒される経歴の持ち主なのでしょう。
その上さらにまた、小説家に転身したとは!!
つまりはこれまでの彼女の来歴そのまま活用した作品とも言うべきもので、
まさに本領発揮。
いやそれにしても、いくつもの才能に恵まれた人というのはいるものなのですねえ・・・。

楽園のカンヴァス
原田 マハ
新潮社


「楽園のカンヴァス」原田マハ 新潮社

満足度★★★★★

LOOPER ルーパー

2013年01月16日 | 映画(ら行)

予測不能のストーリー



            * * * * * * * * *

タイムマシンが絡む、近未来SF。
今作での現在は2044年となっています。
更にそこから30年後、
タイムマシンが開発されていますが、しかし、法律ではその使用は禁止されています。
まあ、無闇やたらと時間旅行をすると大変ややこしいことになりそうですものね。
ところが、ある犯罪組織は、邪魔者を消す手段としてタイムマシンを利用。
消したい人物をタイムマシンで30年前へ送り込み、
そこで待ち受けている「ルーパー」たちによって即、射殺され、死体を始末される。
証拠の残らない完全犯罪。
ジョー(ジョセフ・ゴードン=レビット)は現在、そのルーパーを仕事にしています。

ところがある日、彼の目の前に送られてきたのは、
30年後の自分自身(ブルース・ウィリス)だった!!
さあ、どうする!!というわけ。


自分で自分を殺す。
どう考えても気が進まないですよね。
しかしこれを見逃せば、組織から自分自身が抹殺されてしまう。
オールド・ジョーはいいます。「さっさと逃げて国外へいけ!」
オールド・ジョーが危険をも顧みずここへやってきたのは、
30年後に頭角を現すある人物を抹殺するためだったのですが・・・。



タイムトラベルとあわせて、超能力もテーマの一つとなっていますが、
何しろ全く先が読めません。
一体どのように展開していく物語なのか?
そういう意味では非常にスリリングです。
そして最期にヤング・ジョーが下す決断は、見事に虚を突きます。
これか・・・、
これが答えなのか。
なかなかやりますね・・・。



作中にあった、現在の自分が未来の自分にメーセージを伝える方法というのが、壮絶です。
逆はできない、というのがミソですね。
百戦錬磨のオールド・ジョーが、ヤング・ジョーをほんの子供扱いというのも面白い。
そういう意味ではブルース・ウィリスの起用はすごく納得できてしまう。
まさに怖いものなしって感じですもんね。
不思議な時のループ。
でも一人の大きな決断で、大きく未来が変わるということもある・・・。
やっぱりタイムトラベルものは大好きです。



「LOOPER ルーパー」
2012年/アメリカ/118分
監督:ライアン・ジョンソン
出演:ブルース・ウィリス、ジョセフ・ゴードン=レビット、エミリー・ブラント、ポール・ダノ、ノア・セガン
予測不能度★★★★★
意外性★★★★☆
満足度★★★★☆

メリダとおそろしの森

2013年01月15日 | 映画(ま行)
母と娘の葛藤



            * * * * * * * * *

ピクサーによるアニメですが、
女性が主人公となるのは今回が初めてだそうです。
というのも、これまですべて男性監督によるものでしたが、
今作は女性監督、ブレンダ・チャップマンが立っています。
ということで、今ではもう手垢がついている感の、父と息子の葛藤ではなく、
母と娘の葛藤がテーマ。
単に置き換えただけ? 
まあ、そうかも知れませんが、
息子は父と同じく“勇気と力”を求められますが、
娘は聡明さはもちろんのこと、さらに加えて、結婚により家と家を結びつけること、
そして子どもを産むことを強要されるんですね。
そこはどうしても避けられない。
赤毛でチリチリ天然パーマという個性的な王女メリダは、
真っ向からこの宿命に対決します。



スコットランドの古い王国ですね。
なんだか懐かしい感じがする。
メリダの母は、王女としてのあり方に厳しく、
いつもメリダに口うるさくお説教。
しきたりによって同盟の3国どれかの王子と結婚しなければならなくなりますが、
自由がほしいメリダはそんなのはまっぴらごめん。
そんな時、不思議な鬼火に導かれ、
森の奥深くに足を踏み入れると魔女の家がありました。
メリダは思わず「魔法で母と自分の運命を変えて欲しい」と魔女に頼みます。
しかし、その魔法によって恐ろしいことがおこってしまう。



今作のどの映画紹介を見てもここのところは秘密らしくて、書かれていませんね。
だからここでもネタばらしは避けますが、
全く予想と違うことが起きます!
だからなのか、なんだか始めにイメージしていた方向のストーリーとは違うような気がしてしまうのですが・・・。
でもその描写はすばらしいんですよ。
一見の価値はあります。





結局、身から出たさびなんですが、
メリダは勇気を持ってその運命をもまた変えていく。
素敵な王子様が助けに来たりはしません。
自立した人として、自ら解決しようという、まあ、普通のお話・・・。
う~ん、もう一捻り欲しかったような気もします。
女は庇護されるだけではない、
自らのために行動するし、結婚や出産だけが生きがいなんかじゃない。
・・・というのは今この時代、
もう当たり前になっていると思うので・・・、
今更の感もあるのでは・・・?。

メリダとおそろしの森 [DVD]
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ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社


メリダとおそろしの森 ブルーレイ(3枚組/デジタルコピー & e-move付き) [Blu-ray]
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ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社


2012年/アメリカ/94分
監督:マーク・アンドリュース、ブレンダ・チャップマン
出演(声):ケリー・マクドナルド、ビリー・コノリー、エマ・トンプソン、ケビン・マクキッド、クレイブ・ファーガソン
動物の描写★★★★★
女性の自立★★★★★
満足度★★★☆☆

「火山のふもとで」 松家仁之

2013年01月13日 | 本(その他)
一行一行を愛おしみながら、大切に読みたくなる。

火山のふもとで
松家 仁之
新潮社


            * * * * * * * * *

今作は、著者のデビュー作といいますが、
そうとは信じられないくらい完成された作品で、
読み始めてすぐに惹きつけられ、浸りました。


若き建築家である坂西は、尊敬する建築家村井俊輔の設計事務所に入所します。
この事務所は夏の間、浅間山の麓にある別荘地に事務所機能を移すのです。
今作は、そのひと夏の出来事を綴っています。
その時事務所では「国立現代図書館」の設計コンペへ向けて士気が高まっています。
事務所の人々がどれだけ村井を敬愛しているか、
建築設計という仕事がどれだけ好きかが伝わってきます。
おずおずとその中に入っていき、また恋もする坂西。
人と自分を見つめていくその視線は、
決して饒舌すぎず、また足りな過ぎもしない。
リアルな心の動きの描写に、はっとさせられることもしばし。


建築のことなど何もわからない私ですが、
その仕事の緻密さ、積み重ねていく大変さと共に、
その魅力も十分に伝わってきます。
1982年というのがこの舞台なので、まだパソコンは使っていません。
一日の始まりはまず鉛筆を削るところから始まる、とあります。
そのカリカリという削る音や、鉛筆の芯の匂いまでが伝わってくるような気がしました。
何か儀式のような静謐さがありますね。


この本については一文字一文字、一行一行がいとおしく感じられ、
"夢中で"読むというよりも、"大切に"読ませてもらいました。
私がこういう読み方をするのは、他には、梨木香歩さんくらい。
例えば、坂西がほのかに好意を寄せている麻里子の家に立ち寄った後の思い。
その時は何もできずただお茶を飲んで帰ってきたのですが・・・

「自分がったったいま、どれほどの無知と鈍感の海を漂っているのか見当もつかなかった。
なにか取り返しの付かないつかないまちがいをおかしてしまったのではないか。
考えはじめると、ますますわからなくなり、思わず喉から小さな声が出そうになった。」


無知と鈍感の海。
わかります! 私もどれだけこの海を漂ったことか・・・!


また、麻里子とは思いが通じ、お互いに肌を合わせている時に

「この感覚が、人の奥深く、生まれつきそなわった暗がりに属するものだからではないのか。
おびえる必要のないなつかしい暗がり。
ぼくたちは、その温かい暗がりの中へ、
たがいの息をたしかめ、息をそろえながら、どこまでも降りていった。」


なんて美しい描写なのでしょう。


言葉一つ一つが豊かで、みっしり充実している感じがします。
それはまさに本棚にびっしり整然と並べられた本の列のようでもあります。
いや、みずみずしい感覚を呼び起こすところは、
しっかり実ったトウモロコシのみっしり並んだ粒とでも言うべきか。


終盤、この場面から30年ほどが経過。
坂西がこの夏の家に戻ってくるシーンがあります。
つい数ページ前の話なのに、私の心はすっかり坂西に同調し、
むやみに懐かしく切ない思いにかられます。
一夏の話・・・のはずが、思いがけないこのタイムスリップ。
ぐんとまた作品が深まります。
現に人の思いというのは、いくつになっても安々と時の壁を飛び越えられるものですね。
その思いは鮮烈になることはあっても、決してまた手にすることはできない。
山の火山活動の長い変遷スパンからすると、人の一生はとても儚い・・・。
思えばそんなことも想起される表題なのでした。


幸せな読書時間をどうもありがとう。
・・・そうつぶやきたくなってしまいました。


「火山のふもとで」松家仁之 新潮社
満足度★★★★★★(!)


「愛人 ラマン」

2013年01月12日 | 映画(あ行)
名も無き男女がほんのひととき見た夢

            * * * * * * * * * 

マルグリット・デュラスの自伝的ベストセラー小説の映画化。


1929年、フランスの植民地である現在のベトナムが舞台です。
メコン川をゆったりと渡る船に乗り込む少女。
男物の帽子をかぶり、シンプルなワンピースを身につけた、
初々しく個性的な感じのする少女です。
その少女に声を掛けたのが、黒光りするリムジンから降り立った中国人の青年。
華僑の資産家の息子でした。
白人が圧倒的優位に立っていた当時。
当然中国人蔑視の風潮もありました。
けれどお金持ちで身なりも身のこなしも洗練されたこの男性に、
少女は興味を持ち誘われるままに彼の車に乗り込みます。


腫れ物にさわるようにおずおずと少女の手をにぎる男。
15歳の少女は半ば興味本位で男と関係を結んでいきます。


少女の初々しくも満開に香る色香に、圧倒されます。
15歳・・・ほとんど犯罪に近いですが、
彼女ははじめに17歳と、年を偽っていましたから・・・。
なんというか、あの肌のきめ細かさ、ハリ・・・
その時にしかないものですよねえ。
この年になるとそういうことがものすご~く目に付くし、身にしみます・・・。
だから彼は、ほとんど芸術品を愛でるように彼女を愛します。
なんてみずみずしく、そしてエロティック。
いつも二人が逢う部屋は、中国人街にある粗末な部屋。
外の人々の喧騒がすぐ近くに聞こえてきますが、
そんな中で二人の密やかな営みが繰り返されます。


けれど少女は、「お金のためにここへ来ている」と終始言い続けます。
でも男は本当に彼女を愛してしまい、
彼女の愛を得られないことに苦悩します。
やがて、二人に別れの時が来ますが・・・・。


この少女と男の名前は最後まで出てきません。
二人が逢う時間は、人種も貧富も掻き消えて、お互いを求め合う時間だった。
なにを約束したわけでもない。
これは、過ぎてしまえば夢のようなものなのかも。
不道徳極まりない話ですが、
それにしてもあまりにも美しく、そんなことはどうでも良くなってしまいます。
まさに、名作でした。

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ジャン=ジャック・アノー,マルグリット・デュラス,ジェラール・ブラッシュ
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ジェーン・マーチ,レオン・カーフェイ,フレデリック・マイニンガー,アルノー・ジョヴァニネッティ,メルヴィル・プポー
ジェネオン・ユニバーサル


1992年/フランス・イギリス/
監督:ジャン・ジャック・アノー
原作:マルグリット・デュラス
出演:ジェーン・マーチ、レオン・カーフェイ、フレデリック・マイニンガー、アルノー・ジョバニネッテ、メルヴィル・プポー

耽美度★★★★★
異国情緒★★★★☆
満足度★★★★★