映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー

2019年01月31日 | 映画(ら行)

ライ麦畑愛

* * * * * * * * * *

本作を見るために、予習として「キャッチャー・イン・ザ・ライ」を読んでおいたのですが、
それが大正解!! 
やはり、「キャッチャー・イン・ザ・ライ」の主人公ホールデンを知っているかいないかで
本作への思い入れが全然違うことになると思います。

そもそも2019年1月1日は、J・D・サリンジャー生誕100周年だったのですね! 
本作はその、J・D・サリンジャーの半生を描く作品です。



1939年、作家を志しコロンビア大学創作学科に編入した20歳、サリンジャー(ニコラス・ホルト)。
教授・ウィット・バーネット(ケビン・スペイシー)のアドバイスで短編小説を書き始めます。
小説の出版社への売り込みも断られ続けますが、
ようやく掲載が決まったところで第二次大戦勃発。
掲載は見送られてしまいます。
そして招集により戦地に赴いたサリンジャー。
ノルマンディー上陸のあのDデイの激烈な戦闘、酷寒の森、
そしてユダヤ人収容所の惨状等を目撃し、心に大きな傷を負うのです。
しかしそんな戦地でも彼は、「短編」に登場したホールデンの物語を長編に仕立てるべく、
小説を書き続けていました。
そしてようやく終戦。
故郷へ戻ったサリンジャーはいよいよ長編を書き上げようとするのですが・・・。

なるほど、ホールデンはサリンジャーの分身なのだなあ・・・という思いを強くしました。
「キャッチャー・イン・ザ・ライ」の出版は1951年。
戦地で書き続けていたというのに、ずいぶん後だなあ・・・と思うわけですが、
実は大変な事情があったということがわかります。
そしてまた、この大ヒットで著名になると同時に、
サリンジャーにとってはまた苦難が始まることになる。
彼ほどナイーブな人でなければ何も問題はなかったのでしょうけれど。
いやナイーブだからこそ、こうしたストーリーが描けるというわけですよね。

その後隠遁生活、出版拒否という特異な人生を歩むことになる・・・。
こうしてみると彼の人生そのものが、まるで彼の作品であるような・・・。

カモの池のシーンとかメリーゴーランドのシーンとか、
「キャッチャー・イン・ザ・ライ」にあるシーンをあえて入れてくれているのが嬉しい。

ちなみに私は村上春樹さん訳の「キャッチャー・イン・ザ・ライ」の題名を愛していますので、
あえて「ライ麦畑でつかまえて」とはしていませんのでご了承くださいませ。


そしてまた、ちなみに、私はつい先ごろ「戦場のコックたち」の本で
Dデイの戦闘、酷寒の森の塹壕のシーン、ユダヤ人収容所の開放時のシーンを
読んだばかりでした。
時々ありますよね、こうした自己シンクロニシティ。

<シアターキノにて>
「ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー」
監督:ダニー・ストロング
出演:ニコラス・ホルト、ケビン・スペイシー、ゾーイ・ドゥイッチ、サラ・ポールソン、ビクター・ガーバー

ライ麦愛度★★★★★
満足度★★★★★


「キャッチャー・イン・ザ・ライ」J・D・サリンジャー

2019年01月30日 | 本(その他)

崖から落ちそうな子供をキャッチする

キャッチャー・イン・ザ・ライ
村上 春樹
白水社

* * * * * * * * * *

J.D.サリンジャーの不朽の青春文学『ライ麦畑でつかまえて』が、
村上春樹の新しい訳を得て、『キャッチャー・イン・ザ・ライ』として生まれ変わりました。
ホールデン・コールフィールドが永遠に16歳でありつづけるのと同じように、
この小説はあなたの中に、いつまでも留まることでしょう。
雪が降るように、風がそよぐように、川が流れるように、
ホールデン・コールフィールドは魂のひとつのありかとなって、
時代を超え、世代を超え、この世界に存在しているのです。
さあ、ホールデンの声に(もう一度)耳を澄ませてください。

* * * * * * * * * *

今や古典とも言うべき名作。
近く「ライ麦畑の反逆児」という映画を見ようと思い、
それにしても「ライ麦畑でつかまえて」を読んだことがないのは、
まずいのではないかと、手にとった次第。
本好きと言いながらこれを読んだことがないというのはいかにもお恥ずかしいのですが、
学生時代くらいに読もうとしたことはあったのです。
しかし、当時の翻訳がひどかった・・・。
なんというか、「こんなの日本語じゃない!!」と私は思いましたね。
単に英単語を英語に置き換えただけという感じの、
実に日本語としてこなれていないものだったのです。
それで、数ページ読んだだけで挫折。
他にもそんな感じで挫折したものが何冊かあって、
それが、私が翻訳モノを敬遠することになった由来なのです。
私にはそんな状態が、本当にしばらく続いてしまいました。
だからミステリも好きではありますが、
クイーンもクリスティも読んでいないという事になってしまったわけ・・・。
しかしこの頃は、翻訳事情も随分良くなって、
私も翻訳モノ、結構楽しんで読ませてもらっています。
でも本作についてはトラウマがありますので、最も安心できそうな村上春樹版を手に取りました。
もし東江一紀版があれば読んでみたかったですけれど・・・。

前置きばかり長くなってしまいました。
さて本作、16歳のホールデン・コールフィールドが成績不良で学校を退学になり、
家に帰るにも帰れず、クリスマスのニューヨークをさまよい歩く数日間を描いています。
総じてホールデンは、気難しくて、投げやりで、怒りっぽくて、
周りの何もかもが気に入らないようです。
読み始めてしばらく、私は今更この歳で、
この少年に感情移入はちょっと難しいなあ・・・と思いました。
ところがです、大事なところは最後の最後の方にあるのです。


ホールデンはこっそり夜中に自宅へ戻り、敬愛する妹・フィービーと会います。
フィービーはまだ小学生なのですが、ホールデンが自慢する通り利発な子で、
兄に対して、何でまた退学になってしまったのかと問い詰めます。
ホールデンはしどろもどろながら、学校がどんなに嫌なところかをくどくどというのですが、
彼女は言う。
「けっきょく、世の中のすべてが気に入らないのよ」
そうじゃないというホールデンに、なおもフィービーは言う。
「気に入っているものをひとつでもあげてみなさいよ」
しかしそう言われると、ホールディンは何も考えられくなってしまう。
でもなぜか、ある一人のことが思い浮かぶのです。
それは以前の学校の亡くなってしまった友人のこと。
いえ、友人というほどに親しくもなかったのだけれど、
つまりホールデンのすべての混乱の根源はどうやらこの人物の死にある、
ということが読めてくるのです。


ここまで、友人や教師、通りすがりの人々との不愉快な出来事が多く書き綴られてきたわけですが、
事の本質はこの近辺の数行にしかない。
まるでレアメタルの鉱脈を探り当てた感じ。
そこで私は、村上春樹氏の「風の歌を聴け」を思い出してしまいました。
あの作品も実は自殺した女の子のことが根底にあるのだけれど、
文章上ではほんの数行説明があるだけなのですよね。
構造がよく似ている。
なるほど、村上春樹氏の「ライ麦畑」愛を垣間見る感じがします。
だからこそ、翻訳を手がけたわけだったようですね。


さて、更にホールデンとフィービーのやり取りの中で、
「将来何になりたいかみたいなこと」を言ってみてと言われたホールデン。

「ライ麦畑で子どもたちが走り回っていたとして、
間違ってその先の見えなくなっている崖っぷちから落ちそうになる子を、
さっとキャッチする、ライ麦畑のキャッチャー、そういうものになりたいんだ・・・」

と思わず答えるホールデン。
これこそが、本作の題名の由来であり、
崖っぷちから落ちてしまった、あの友人が念頭にあることもわかります。
ここまで、いかにも気まぐれで不安定なティーンエイジャーと思えていたホールデンの、
本当の姿が見えてくるのです。
それは普遍的に人があるべき姿でもあります。
それだから、これまで日本で「ライ麦畑でつかまえて」として親しまれてきた題名を
あえて「キャッチャー・イン・ザ・ライ」とした村上春樹氏の意図もすごく納得できます。
本来、そういう意味ですよね。

本当にいまさらですが、名作でした。
生きているうちに読むことができて良かった~。


図書館蔵書にて
「キャッチャー・イン・ザ・ライ」J・D・サリンジャー 村上春樹訳 白水社
満足度★★★★★


ナチス第三の男

2019年01月28日 | 映画(な行)

ある暗殺計画がもたらすもの

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実話を基にしています。
第二次大戦下ナチスドイツで、ヒトラー、ヒムラーに続く第三の男と称されたラインハルト・ハイドリヒ。
150万人を超えるユダヤ人虐殺の首謀者でもあります。
本作前半では、このハイドリヒ(ジェイソン・クラーク)が海軍を不名誉除隊となり(女遊びが原因)、
しかし妻・リナ(ロザムンド・パイク)の後押しで、ナチス党に入会しメキメキ頭角を現していきます。

そして後半では、チェコの亡命政府から密命を受けた二人の若者
ヤン(ジャック・オコンネル)とヨゼフ(ジャック・レイナー)の暗殺チームの動きが語られます。
二人はプラハへ潜入し、地元の協力者たちと合流。
ハイドリヒの日課などを綿密に調べ上げ、暗殺計画を練っていきます。
そしていよいよ、ハイドリヒ暗殺計画決行の朝・・・!

ハイドリヒは妻に押されてナチスで力をつけていきますが、
終盤ではもう妻でも制御できない、冷酷な怪物になってしまっています。
ここの彼の心境の変化というか、
もしかすると実は内心罪悪感にかられていたとか、
全然そうではないただのサディストだとか・・・
そういう踏み込んだ描写がなかったのがちょっと物足りない。



実は私「ハイドリヒを撃て」という作品を以前見ていまして、
そちらではずっとハイドリヒ暗殺計画の詳細を語っています。
それで、ものすごく衝撃を受けたのです。
かろうじて暗殺は成功したものの、その後の暗殺チームの運命と、
そしてまた報復で大量虐殺された民間人のこと等々・・・。



それを知っていたので、この度はさほどの衝撃を感じなかったのかもしれないのですが、
どうもハイドリヒ側と暗殺チーム側、双方を語ろうとしたことで、
逆にどっちも中途半端になってしまっているような気がします。
じっくり暗殺チームを追った「ハイドリヒを撃て」の方に私は軍配をあげたいです。

→「ハイドリヒを撃て」

<ディノスシネマズにて>
「ナチス第三の男」
2017年/フランス・イギリス・ベルギー/120分
監督:セドリック・ヒメネス
原作:ローラン・ビネ
出演:ジェイソン・クラーク、ロザムンド・パイク、ジャック・オコンネル、ジャック・レイナー、ミア・ワシコウスカ
歴史発掘度★★★★★
満足度★★★☆☆


カラスの親指

2019年01月27日 | 映画(か行)

敵を騙して、視聴者も騙される

* * * * * * * * * *

道尾秀介さんの原作を読んだことはあるのですが、
ほとんど忘れていたので、しっかり騙されて、楽しむことができました。
私がカラス好きだから見た作品ではありません。
カラスは出てきません。
詐欺のクロウトのクロをカラスになぞらえているのです。

負けっぱなしの人生を送ってきた二人の詐欺師、タケ(阿部寛)とテツ(村上ショージ)。
そんなところへ美人姉妹、やひろ(石原さとみ)と、まひろ(能年玲奈)、
そしてやひろの彼氏カンタロウ(小柳友)が転がり込んできます。
まるで家族のような共同生活を始めた5人。
しかし、彼らには共通した「彼らの生活を脅かす人物」がいることが判明。
そもそも彼らがこんな境遇に陥った原因となる人物でもあります。
5人は人生の逆転をかけた大勝負に出ることに・・・。

本作、160分と、結構長いのです。
というのも、一応話にケリが付いてこれで終わり~、と思ったら、
そこからまた更に驚きの真相が語られるのです。
その分が長い、という次第。
私は始めの展開はおよそ想像がついていたのですが、
最後のところはすっかり忘れてもいて、驚かされました。
コンゲームとアナグラムが楽しめるイキな作品です。
皆様、心置きなく騙されて、最後の感動をお楽しみください。

2012年作品で、NHK朝ドラマ「あまちゃん」は2013年なので、
能年玲奈さん(のんさん)ブレイク前ということになります。
なるほど、初々しい。

・・・で、実は私、姉のやひろが石原さとみさんだとはしばらく気付きませんでした。
女性は髪型と化粧で雰囲気がぜんぜん変わるからコワイわ~・・・。

カラスの親指 by rule of CROW's thumb 通常版【DVD】
阿部 寛,村上ショージ,石原さとみ,能年玲奈,小柳 友
キングレコード



<WOWOW視聴にて>
「カラスの親指」
監督・脚本:伊藤匡史
原作:道尾秀介
出演:阿部寛、村上ショージ、石原さとみ、能年玲奈、小柳友、鶴見辰吾

騙し度★★★★★
満足度★★★.5


「にっぽんのカラス」松原始

2019年01月26日 | 本(解説)

また、カラスの本

にっぽんのカラス
松原始,宮本桂
カンゼン

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ベストセラー「カラスの教科書」の著者・松原始氏の最新刊!
カラスたちの魅力に美しくユーモラスな写真とテキストで迫ります。
生態を動物行動学者・松原始が解説し、多彩な表情や仕草を野鳥写真家・宮本桂が撮る。

カラスたちの魅力を生態のわかる雑学要素も盛り込みつつ紹介していく本格ビジュアルガイド。

* * * * * * * * * *


「カラスの教科書」でおなじみ、松原始さんの本です。
これまでの本ではカラスは可愛いイラストで、それも良かったのですが、
本作は「スーパービジュアル版」として、宮本桂さんによる写真満載。
そういえば、野鳥の本で美しい鳥たちを目にすることは多くても、
カラスの写真って、あんまり見たことがなかったですよね。
普段かなり近寄っても逃げないくせに、
カメラを向けるとさあっと逃げていってしまうという体験も私はしています。
なにしろ真っ黒なので、写真に撮るのもそれなりに難しいそうですよ。
それなので、こんなふうにじっくりと羽の様子、体の様子を見ることができるのは嬉しい限り。
それと、意外に可愛い表情をしていることもあるんですね!


そしてもう一つ嬉しいのは、先日ご紹介した札幌のカラス応援団長、
中村眞樹子さんの文も載っていること。
彼女によれば札幌のカラスはフレンドリーだと言うのです。
そうなのか・・・。
札幌のカラスしか知らない私には、これが当たり前だと思っていましたが・・・。
それにしても確かに最近の札幌市では、カラスの駆除は極力行わないようにしていて、
「カラスの子育て中なので頭上注意」というような看板を見かけることが多くなりました。
中村さんの活動の成果だと思いますし、
今にもっと札幌のカラスがフレンドリーになっていくかもしれませんね。


古くから世界中でカラスの生態研究をしている方はいらっしゃるようで、
本巻ではそんな論文を簡単に紹介してくれたりもしています。
カラスに興味ない方ならそれなりに、カラスを好きな方ならもっと、
カラスを身近に感じられる本だと思います。

図書館蔵書にて

「にっぽんのカラス」松原始 カンゼン
満足度★★★.5


マイル22

2019年01月25日 | 映画(ま行)

主役は実は・・・?

 

* * * * * * * * * *


ピーター・バーグ監督×マーク・ウォールバーグということで、バリバリのアクション作。
と言ってもあまり得意分野ではないのですけれど・・・。



何者かに国家レベルの危険物質が盗まれ、
その行方を知るリー・ノアー(イコ・ウワイス)が重要参考人として政府の保護下に置かれます。
そのノアーを抹殺するため、武装勢力が送り込まれましたが、
辛くもその場ではノアーを死なせずに済みました。
そして、ジェームズ・シルバ(マーク・ウォールバーグ)率いるCIAの気密特殊部隊が、
ノアーを国外脱出させるため、
インドネシアのアメリカ大使館から空港までの22マイルを護送するミッションに付きましたが・・・。

凄まじい銃撃・爆破シーンの連続、さすがの迫力でした。
そしてまたこれは綺麗事ではなく、容赦なく仲間の隊員の命も失われていきます。
司令室では隊員個々のバイタルもチェックしていて、
ある者が負傷し脈拍が0となった時、すぐに死亡とみなされ、負傷者救出の手間を省く。
確かに合理的ではありますが、非情です。

一般人が暮らす街なかでこんな銃撃戦、よしてよ~、とはいいたくなりますが・・・。
しかも本作、驚きのラスト! 
アメリカ作品でこんなラストは珍しいですね。
続編を作る気なのでしょうか・・・?

シルバは実戦ではものすごく頼りになるヤツなのですが、
オフィスなどではとんでもないセクハラ&パワハラオヤジです。
まあつまり、現場で少しでも気を抜くと命にかかわるという信念が、
平時でも働くのでしょうね。
少しの怠慢も許せないという感じ。



そんな中で本作、「子供を持つ女性」のこともテーマの一つとなっていまして・・・
シルバと同じチームのアリス・カー(ローレン・コーハン)は
子持ち女性(ただし子供は別れた夫と共に暮らしている)。
その彼女が、敵に銃口を突きつけられた局面で
「私には子供がいるの・・・。」
と口にして救いを求めるシーンがあるのです。
また一方ではシルバに
「自分で望んだ仕事だろう」
と言われるシーンも。
私はあの局面で彼女が口にした言葉はやはり違うと感じでしまう。
だって、家族がいるのは男性だって同じだろうし、
子供がいるから死ねないなんていうのは士道不覚悟・・・。
私の考えが冷たすぎるのか。
いやそれとも、理由なんか何だっていいからあの局面では少しでも助かろうとするのが正しいのか・・・。
いろいろ考えてしまうところです。

片手をベッドに手錠でつながれながら、刺客と戦うノアーが、
本作では一番かっこよかったな。
実は彼が主役の作品だったということね・・・。

<ディノスシネマズにて>
「マイル22」
2018年/アメリカ/95分
監督:ピーター・バーグ
出演:マーク・ウォールバーグ、ローレン・コーハン、イコ・ウワイス、ロンダ・ラウジー、ジョン・マルコビッチ

アクション度★★★★★
逆転度★★★★★
満足度★★★.5

 


プーと大人になった僕

2019年01月24日 | 映画(は行)

「何もしない」をしよう!

* * * * * * * * * *


少年クリストファー・ロビンは、寄宿学校に入るため、
慣れ親しんだクマのプーやロバのイーヨー、トラのティガーたちと別れを告げます。

ふるさとの地からは遠ざかったまま時が過ぎ、クリストファー・ロビン(ユアン・マクレガー)は
妻と娘とロンドンで暮らしています。
旅行カバン会社のウィンズロウ社に勤め、多忙のあまり、家族と過ごす約束も守れない有様。
そんなところへ、忘れていたプーが現れるのです!!

私も、幼い頃にいつも一緒だった犬のぬいぐるみを思い出しました。
子供が人形などを擬人化するのは、成長段階の過程で当たり前にあること。
けれどいつの間にか私達はそうした事を忘れてしまうものですね・・・。
子供の特典「何もしない」をすること。
いつも時間に追いやられた生活をしている人は
たまにこういうことを思い出したほうがよろしい。

本作で印象的なのは赤い風船。
プーはおねだりしてクリストファー・ロビンに赤い風船を買ってもらいます。
「風船なんか、何に使うわけでもないじゃないか。」
とクリストファーは言うのですが、プーは
「でも持っていると幸せになるんだ。」
といいます。
本当に。
世の中には何の役にも立たないけれど、
そこに「ある」だけで幸せになるものがたくさんありますね。



お金がない・・・と嘆く前に、私にはこんなものがたくさんある!と
子供のように一つ一つ数え上げてみたら、なんだか幸せな気持ちになれそうです。

プーと大人になった僕 MovieNEX [ブルーレイ+DVD+デジタルコピー+MovieNEXワールド] [Blu-ray]
ユアン・マクレガー,ヘイリー・アトウェル,ブロンテ・カーマイケル,マーク・ゲイティス,ジム・カミングス
ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社

<J-COMオンデマンドにて>
「プーと大人になった僕」
2018年/アメリカ/104分
監督:マーク・フォースター
出演:ユアン・マクレガー、ヘイリー・アトウェル、ブロンテ・カーマイケル、マーク・ゲイティス
童心に返る度★★★★☆
満足度★★★☆☆


「レベレーション4」山岸凉子 

2019年01月22日 | コミックス

神がかりが薄れてゆく・・・

レベレーション(啓示)(4) (モーニング KC)
山岸 凉子
講談社

* * * * * * * * * *


フランスの王位継承をめぐるイギリスとの百年戦争のただなか。
「フランスへ行け。王を助けよ」との啓示をうけたジャネットことジャンヌ・ダルクは
イギリス軍に包囲されたオルレアンの解放。
王太子の戴冠を果たすため、ランスを目指すことを進言する。

* * * * * * * * * *

さて、レベレーション、待望の新刊ではありますが・・・。
ジャンヌはついにオルレアンを開放。
そして、次にランスを目指すことになりますが・・・。


なんだか、次第に登場人物も増えるし、それぞれの思惑が何が何やら分かりづらくなってきます。
おまけに、ジャンヌは当初の何をやっても良い方に転がるという勢いは失せて、
次第に陰りを見せ始める。
こういう流れ、なんだか大河ドラマ「西郷どん」と同じだわー、と思ってしまいました。
まだ無名のうちの主人公のことはさしたる記録がないので、
著者の想像の翼を大きく膨らますことができます。
しかし、その人物が有名になってくると記録も多い。
そうすると物語は史実を追うことが精一杯になってきて、
いかにも登場人物の動きが窮屈になってきてしまうのですね。
「西郷どん」が終盤どんどんつまらなくなってきたのはそんなわけだったと思うし、
本作もどうも同じ匂いがする・・・。


人々にあれだけ熱狂的に祭り上げながら、最後は反逆者扱いで悲惨な末路・・・
というのも同じですもんねえ・・・。


ジャンヌは確かに「ランス」を目指せという神の声を聞いた。
でもその後、神の声が聞こえなくなってしまうのです。
だから本当はそこまでにしておけばよかったのかも・・・。
でも彼女は次にパリを目指すことにしてしまった・・・。
しかし、男どもがどうにもこうにものらりくらりと、戦いたくない様子・・・。
一人血気にはやるのはジャンヌのみって、
通常の「戦争」に対しての男女の位置が逆転しているように思える。
不思議です。
もしかするとこの時代、死傷者を増やさないために
あえてのらりくらりとするのが通常の「戦争」だったのでは? 
その常識を打ち破り、怒涛の攻めをするジャンヌが勝ったのはある意味当然で。
ま、そのようなことを考えるとちょっと面白くはありますが・・・。


神がかりが次第にとけて、ただのヒトになっていくジャンヌを
この先見なければならないのかと思うと辛いです・・・。

「レベレーション4」山岸凉子 講談社モーニングKC
満足度★★.5

 


夜明け

2019年01月21日 | 映画(や行)

耐えがたい思いの中にいた二人

* * * * * * * * * *

是枝裕和、西川美和が立ち上げた制作者集団「分福」に所属し、
是枝・西川作品で監督助手を務めた広瀬奈々子監督のデビュー作。
おまけに柳楽優弥さん主演ということで、まあこれは外せません。

川岸で倒れていた青年を助け、自宅に連れ帰った哲郎(小林薫)。
青年(柳楽優弥)は自らをシンイチと名乗りましたが、
自分の身の上やこの町に来た理由などを語ろうとしません。
哲郎もあえて詮索しようとせず、行くあてのなさそうな青年をこの家に置くことにします。
そして哲郎は自らの経営する木工所でシンイチに技術を教え、
シンイチは周囲にも受け入れられていきます。
ところでシンイチはある秘密を抱えており、シンイチというのも、実は本名ではありません。
また一方、哲郎もつらい過去を持っていたのです。
二人は互いの過去を埋め合うように、
まるで家族のような生活にやすらぎを得ようとするのですが・・・。

柳楽優弥さんのひたすら寡黙で何を考えているのかわからない感じ、
久々に「誰も知らない」のときのあの少年のイメージと繋がります。
けど私はもっとふてぶてしい感じの彼のほうが好きですけどね・・・。



互いの傷をなめ合うようなエセ親子の関係がハッピーエンドとなるはずがありません。
ただ、そこで癒やされた部分は確かにあるのだろうな。
こんな偽の親子関係をつなごうとあがくのが哲郎の方で、
無理だと思うのがシンイチの方。
これがやはり年齢の差なのだろうと思います。
青年はそして、自ら歩み始めることであらたな「夜明け」を迎えるわけですよね。

 

う~ん、全体を通して悪くはないのだけれど、何かパンチ不足のような気がします。
今の柳楽優弥さんが活かされていません・・・。
あ、しいて言えばつい笑ってしまうような場面もあればよかったのかも。
終始暗いもんなあ・・・。

<シネマフロンティアにて>
「夜明け」
2019年/日本/113分
監督・脚本:広瀬奈々子
出演:柳楽優弥、YOUNG DAIS、小林薫、鈴木常吉、堀内敬子


ちはやふる 結び

2019年01月20日 | 映画(た行)

青春だなあ・・・

* * * * * * * * * *

ちはやふる 上の句、下の句の続編。



瑞沢高校競技かるた部、千早(広瀬すず)たちは3年となっています。
そろそろ進路について考えなくてはなりません。
この春、廃部の危機にあったかるた部は、なんとか二人の新人を得て継続。
全国大会へ向けての活動がまた始まります。
一方、藤岡高校の新(新田真剣佑)は、
かるたの団体戦に興味をもち、かるた部を新設しようと思います。

打ち込むものがあって、友情があって、恋があって、将来への不安があって・・・、
う~ん、青春ですなあ・・・。

かるた部に入った新人二人は、
ちょっとばかり腕に自信のあるタカビーの男子と、
全く初心者で太一(野村周平)に憧れただけの女子。
前途多難を思わせるのですが、しっかり彼らが成長していくところが良かった。

そして本作の大きな見どころは太一なんですね。
彼は成績優秀で、将来医学部を目指している。
本当はもうかるたどころではないのだけれど、
とりあえず全国大会までは・・・という思いで続けています。
つまり彼はかるたが好きというよりも、
千早を見守り力になりたいという気持ちのほうが大きい。
だけれども彼は千早の心が自分よりも太一の方にあると思ってもいるのです。
そんな思いを決定的にする出来事があって、ついに彼はかるた部をやめてしまうのですが・・・。
一人悩める太一くん、かっこいいゾ!!

そんなわけで今回はメガネくんこと新の見せ場があまりなくて残念ではありますが、
でもしっかりと楽しめました。
かるたの事以外何も考えられないと言っていた千早が、
どんな将来像を目指そうとするのか、そこも見どころです。
・・・で、結局どっちが好きなのか? 
なんというかつまり、どっちも友達として好きなので・・・
まだその点ではコドモってことですね!

ちはやふる ―結び― 通常版 Blu-ray&DVDセット
広瀬すず,野村周平,新田真剣佑,上白石萌音,矢本悠馬
東宝

<WOWOW視聴にて>
「ちはやふる 結び」
2018年/日本/128分
監督:小泉徳宏
原作:末次由紀
脚本:小泉徳宏
出演:広瀬すず、野村周平、新田真剣佑、上白石萌音、矢本悠馬

青春度★★★★★
満足度★★★★☆


「眩 (くらら)」朝井まかて

2019年01月19日 | 本(その他)

おひとりさまの心意気

眩 (くらら) (新潮文庫)
朝井 まかて
新潮社

* * * * * * * * * *


あたしは絵師だ。
筆さえ握れば、どこでだって生きていける―。
北斎の娘・お栄は、偉大な父の背中を追い、絵の道を志す。
好きでもない夫との別れ、病に倒れた父の看病、厄介な甥の尻拭い、
そして兄弟子・善次郎へのままならぬ恋情。
日々に翻弄され、己の才に歯がゆさを覚えながらも、彼女は自分だけの光と影を見出していく。
「江戸のレンブラント」こと葛飾応為、絵に命を燃やした熱き生涯。

* * * * * * * * * *

葛飾北斎の娘、お栄については「百日紅(さるすべり)」のアニメで見ました。
それで、こちらは読まなくてもいいかなあ・・・などと思っていたのですが、
文庫本にはやはり手が伸びてしまいました。
「百日紅」は一時期のお栄さんが描かれていますが、
こちらは北斎とともに生きるお栄のほぼ一生が描かれます。


お栄さん、一度は結婚もしたのですが、すぐに別れて戻ってきてしまいました。
というのも、彼女は嫁いでも絵を描くことに一生懸命で、
家事など全くする気がなかったのです。
そんなことに文句をつける夫なんか知るもんか!とばかりに、
さっさと飛び出してきてしまった。
そうして幾人かのお弟子さんたちと共に、
北斎の絵を手伝ったり、自分の絵を描いたり・・・。


というわけで、「百日紅」でも描かれていた、
この時代では珍しい、自分の才覚で生きる独身女性の生き様の物語になります。
今、彼女が注目されるのも、こうした生き方に共感する人が多いからなのでしょう。
北斎は当時でも有名な絵師なのですが、
いつも借金を抱え、ギリギリの生活をしていたようなのです。
というのも、彼の孫、お栄にとっては甥の時太郎というのが
とんでもない悪ガキで、手に負えず、奉公に出してもそこを飛び出してしまって、
悪い仲間と付き合い始めた・・・。
博打などでお金をスッては「北斎」の名を出して借金をする。
その借金取りがいつも北斎のところに押しかけて有り金を持っていってしまう・・・と
そのようなことだったらしいです。
まあそれにしても、とにかく絵を描く環境だけがあれば良くて、
贅沢をしたいなどと全く思わない北斎父娘なのですが。

ずっと独身とは言っても、お栄にも想い人がいないというわけではありません。
会えばつい減らず口を叩いてしまうけれど、
いつもお栄を励まそうとしてくれる善次郎に実は心が動いている・・・。
だけれども彼にはちゃんとした相手がいたりして・・・・。
後には何年も顔を合わせなかったりする人ではありますが、
その人が亡くなったと聞いたときのお栄。
そして、父として、師匠として敬愛する北斎を見送ったお栄・・・。
独り身でこういうときの思いはいかばかりかと、
こちらまで切なくポッカリと胸に穴が空いたような心地がしてしまいました。
・・・だけれども、それでもやはり彼女は筆を執り、絵を描く。
おひとりさまの心意気!!

「眩 (くらら)」朝井まかて 新潮文庫
満足度★★★★☆


家(うち)へ帰ろう

2019年01月18日 | 映画(あ行)

帰るべき場所

* * * * * * * * * *

アルゼンチン。
ホロコーストを生き抜いたユダヤ人、88歳のアブラハムを
娘たちが高齢者用の施設に入れようとしています。
アブラハムは自分が仕立てたある一着のスーツをみて、故国ポーランドへの旅を思い立ちます。
娘たちにも内緒で、大きなスーツケースと一着のスーツを持ち、
痛めた足を引きずりながら、一人で空港へ。
彼は過去に受けた苦しみのために「ポーランド」も「ドイツ」も口に出すのも嫌で、
ましてやドイツには一歩たりとも足を踏み入れたくない。
そんな老人のアルゼンチン~スペイン(マドリード)
~フランス(パリ)~ポーランド(ワルシャワ)
そして故郷の地へのロードムービーです。

いかにも頑固で偏屈な爺さんなんですよ、アブラハム。
そんな彼が歩くだけでも大変そうで、見ていてもハラハラしてしまうのですが、
各地でいろいろと彼に手を差し伸べる人物が現れるのです。
彼自身は人の手なんか借りたくない、というスタンスですが、
どこにでもちょっとだけおせっかいな人もいるもので。
それも決して押し付けがましくなく、いい感じなのです。
70年前、飛び出したきり戻ったことがなかったポーランドに果たして誰が待っているのか。
ラストの感動はお約束します!

本作中ではユダヤ人収容所の悲惨な様子は描写されません。
両親と愛する妹の死のことがアブラハムから語られるだけ。
でもそれだけ十分です。
懐かしいはずの生まれ育った故郷へも一度も帰らなかったという
アブラハムの心の傷は十分に汲み取れるのです。



けれど叔母を頼ってアルゼンチンに渡り、彼はそこで仕事をし結婚して家族ができ、
今は多くの孫たちに囲まれるようになった。
人間って案外強いですよね。
人の生きる力を馬鹿にしてはいけない。
けれど、そろそろ自分の先行きが見えてきたアブラハムは、
長く忌み嫌ってきた故郷の地に帰ろうと思う。
帰りのチケットなしで彼は旅立ちます。
何があっても故郷というのは特別なのだと思います。
70年過ごした地よりもなお、そこが帰るべき家(うち)と思える場所。


私も、こんな雪などない温かいところに移住したいなあ・・・と思うことはあっても、
決して本気にはなれない。
若いうちならともかく、歳を重ねるとそうなります。

素晴らしい感動作。
オススメです!

<シアターキノにて>
「家(うち)に帰ろう」
2017年/スペイン・アルゼンチン/93分
監督:パブロ・ソラリス
出演:ミゲル・アンヘル・ソラ、アンヘラ・モリーナ、オルガ・ボラズ、ユリア・ベアホルト、マルティン・ピロヤンスキー
お助け度★★★★★
満足度★★★★★


シュガー&スパイス 風味絶佳

2019年01月16日 | 映画(さ行)

男に必要なのは、優しさとタフさ。

* * * * * * * * * *

東京、福生市。
高校を出て“とりあえず”ガソリンスタンドで働いている志郎(柳楽優弥)。
新しいバイトとして入ってきた女子大生・乃里子(沢尻エリカ)と出会い、
やがて親しくなっていきます。
乃里子は、元カレ矢野のことを忘れられないでいたのですが、
志郎の優しさに安らぎを覚えるようになっていきます。
志郎は「あなたが19歳になったら一緒に暮らそう」という乃里子の言葉を信じていましたが・・・。

志郎は別に勉強ができないわけでも、学費を出してもらえないほどの貧乏でもありません。
ただ、なんとなく流れに沿って大学へ行く必要性を感じていなかった。
真摯に自分のことを考えるヤツなのですね。
それはおそらく彼の祖母(夏木マリ)の影響でもありましょう。
若い頃、目の青い人と恋をして、そして別れたという過去を今も引きずり、
実は密かに彼がいつか帰ってくるのではないかと思いつつ年令を重ねてしまったという祖母。
彼女の思考は日本人離れしていて自由で奔放です。
今もバーを営んで若い恋人を持ちながら生活している。
そんな彼女は、両親の反対を押して、
進学せず“ガス・ステーション”で働いている志郎に味方してくれているのです。


まだ18歳の志郎にとって、ちょっとだけ年上の乃里子が初恋。
だがしかし・・・。
まあ、初恋はたいてい失恋に終わるものです・・・。
はじめ二人を応援していた祖母も、恋破れた志郎には、こんなふうにいいます。

「試着して服が合わなかったら、買わないでしょう。
あんたは、返品されたんだよ・・・。」

あんまりないいようではありますが、でもこんなことも。

「男に必要なのは、優しさとタフさ。
あんたは優しいだけで、まだタフさがない。」

確かにね・・・。
本当の大人の恋はままごととは違う、と。

2006年作品で、あの「誰も知らない」の柳楽優弥くんの硬質な少年っぽさがまだ残る、柳楽優弥さん。
これもまた一つの通過点で、
よくぞこの時を作品として残してくれました!!といいたくなる、貴重な作品であります。
確かに、このときの柳楽優弥さんは「優しい」イメージ。
そして、今の柳楽優弥さんは、見事にタフさをも身につけているように思えるのですね。
そんなことが感じられる、まさに今見る価値大の作品。


志郎の悪友の一人が濱田岳さん。
ガソリンスタンドの所長が大泉洋さん、
というところもナイス!

シュガー&スパイス 風味絶佳 [DVD]
柳楽優弥,沢尻エリカ,大泉洋,チェン・ボーリン,木村了
フジテレビ




<WOWOW視聴にて>
「シュガー&スパイス 風味絶佳」
2006年/日本/125分
監督:中江功
原作:山田詠美
出演:柳楽優弥、沢尻エリカ、夏木マリ、大泉洋、濱田岳

初恋の切なさ度★★★★☆
初々しさ★★★★★
満足度★★★★☆

 


「ストリート・キッズ」ドン・ウィンズロウ

2019年01月15日 | 本(ミステリ)

青春探偵物語

ストリート・キッズ (創元推理文庫)
Don Winslow,東江 一紀
東京創元社

* * * * * * * * * *

1976年5月。
8月の民主党全国大会で副大統領候補に推されるはずの上院議員が、
行方不明のわが娘を捜し出してほしいと言ってきた。
期限は大会まで。
ニールにとっての、長く切ない夏が始まった…。
プロの探偵に稼業のイロハをたたき込まれた元ストリート・キッドが、
ナイーブな心を減らず口の陰に隠して、胸のすく活躍を展開する。
個性きらめく新鮮な探偵物語、ここに開幕。

* * * * * * * * * *

やはりまだドン・ウィンズロウ&東江一紀を読みたくて、この本を手に取りました。
これはなんと、ドン・ウィンズロウのデビュー作。
あの「犬の力」の麻薬カルテルの話からすると、
コミカルで、あれ程の殺伐さもないので楽しく読めました。
ただし、ドキドキハラハラさせられるのは同じです。

「ストリート・キッズ」は言うまでもなく帰る家のない子供たちのことですが、
本作の主人公ニール・ケアリーは、ねぐらになる家がないわけではなく、
心休まる家庭がなかったのです。
父親はおらず、母親は麻薬中毒で何日も戻らないこともあります。
食べ物もお金もない状況で、ニールはスリなどをして稼ぐしかなかった。
そんな少年を拾ったのが探偵のジョー・グレアム。
ニールを放って置けないと思った彼は、
ニールにしっかりとした生活習慣とプロの探偵としての技術を叩き込みます。
この辺のことも詳しく描かれていて、なかなか面白いのです。
そして成長し、大学院で英文学を学びつつ探偵業をしているニールのもとに飛び込んできた依頼。
上院議員のあばずれ娘が行方不明のため、
彼女を探し出して、連れ帰ってほしいというのです。
どうやらロンドンにいるらしいということくらいしかわからない。
ニールは不本意ながらロンドンへ・・・。

そこで出会うのも、気のいいやつやら危ないやつやら、
いろいろそれぞれでなんとも楽しい。
いえ、一番楽しいのはニールとグレアムの会話なんですけどね。
お互いに減らず口の応酬。
しかしそれは互いを親しく思い信頼しあっているからこそ、というのはすぐに分かります。


ケンカもメカにもからきし弱いニールですが、
その頭脳と勇気で難関を切り抜けていく。
誠に胸のすく冒険物語。
このシリーズは他にも4冊出ていまして、ボチボチと読んでいこうかと思います。


「ストリート・キッズ」ドン・ウィンズロウ 東江一紀訳 創元推理文庫
★★★★☆


喜望峰の風に乗せて

2019年01月14日 | 映画(か行)

海の男の感動ドラマではありません。念のため。

* * * * * * * * * *


「実話に基づく海洋冒険ドラマ」と何かの紹介文にあったのですが、ウソウソ。
これを「冒険ドラマ」といってしまうのは違うと思うのです。
少なくとも海の男の感動ドラマでは、ない。

1968年イギリス。
ヨットによる単独無寄港世界一周を競う、ゴールデン・グローブレースが開催されることになりました。
華々しい経歴を持つセーラーたちが参加する中、
航海計器の会社を経営するビジネスマン、
ドナルド・クロウハースト(コリン・ファース)が、名乗りを上げます。
彼は自身の設計したヨットで航海に乗り出しますが・・・。



クロウハーストは、会社の経営状況が悪く、賞金を稼ぎたい思いがあったのです。
成功すれば会社の宣伝にもなります。
ところが彼はこれまで趣味で近海を航海したことはあっても
外洋に乗り出した経験はなかったのです。
船を作る資金はスポンサーを見つけてどうにか工面できました。
しかし、もしこのレースをやり遂げられず途中棄権などした場合には
彼の会社もその他の資産もすべて投げ出すという契約・・・。



レースは一斉に出発するのではなく、参加者各々のタイミングで出発し、
世界一周して戻ってくるまでの期間の長さで成績を決めるのです。
資金もそこそこ、準備期間もほとんどない状態で、クロウハーストの出発は遅れに遅れるのですが、
スポンサーからせっつかれて、やめるわけにも行きません。
ついに出発の日。
しかしそこには旅立ちの高揚感は全く見られないのです。
結局船は欠陥だらけのポンコツ。
不安ばかりがクロウハーストの胸を占める・・・。



海洋冒険ドラマかと思っていた私は、すっかり予想を裏切られた展開になってしまいましたが、
この暗澹たる心の迷路をゆくドラマにはそれなりに引き寄せられました。
1968年という時代性がミソの話でもありますね。
今ならGPSで、船の位置など自分より先に当局の人が知ることすらできる・・・。

つまりは人間の強さではなく、弱さを描くドラマでした。
実話を基にしているというところが妙に納得させられます。


<ディノスシネマズにて>
「喜望峰の風に乗せて」
2017年/イギリス/101分
監督:ジェームズ・マーシュー
出演:コリン・ファース、レイチェル・ワイズ、デビッド・シューリス、ケン・ストット
迷走度★★★★☆
満足度★★★☆☆