映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「精霊探偵」 梶尾真治

2008年02月28日 | 本(ミステリ)

「精霊探偵」 梶尾真治 新潮文庫

帯にスピリチュアル・ミステリー、とあります。
私はそもそも、その手の話しはあまり好きではないのですが、カジシンのストーリー自体は好きなので、読んでみました。

語り手の新海は、大きな事故のあと、不思議なものが見えるようになってしまった。それがなんと、人の背後霊!!
実は、その事故で最愛の妻を亡くしてしまい、彼は失意で、生きる気力もなくしてしまっていた。
そんな時、ある行方不明の女性を探す仕事を請けるのです。
でも、その調査をするうちに、次第に生きる気力を取り戻していく、そういうお話。

さてある日、一人の浮浪者にとんでもない凶悪な人相の2つもの霊が取り付いているのを見る。
清めの塩を振ってみると、その2つの霊は消え去ってしまった。
実はもう一体霊は残っていて、これが本来の彼の守護霊。
なんとこの後、このホームレスはどんどんツキが出て、元から得意だった演歌の実力も発揮。
瞬く間に、活気のある生活を取り戻していく・・・。
このあたりのくだりがすごく面白くて、本を読んでいた私はもう少しでバスを乗り過ごすところでした。

それからもう一人、ステキな登場人物がいまして、
それは小夢ちゃんという小学生の女の子。
はじめは母親から虐待を受けている子という設定で登場しますが、
実はその母親の方になんと黒猫の霊がついており、これも新海が取り除いて解決。
ところがその黒猫が今度は小夢についている。
しかし、なぜか霊とウマが合うとでもいうのでしょうか、
小夢はますます利発さと積極性を発揮しはじめるのです。
そして自ら探偵助手を名乗り、これがまた実に有能なので、恐れ入る。

ふう、実はここまでは前フリのストーリーで、本当のストーリーはここからなのです。人の背後霊を食い、成り代わってその人を操ろうとする、邪悪なモノたちとの戦いのストーリー。
このあたりで、そうかこれはやっぱりSFなんだな~、とようやく思うのですが、
そうですね、私は前フリのストーリーの方が面白かったかも・・・。

さて、ところがなんとラストに驚きのどんでん返しが潜んでいました!!
よく新本格ミステリのラストにあるような、あれです。

ミステリとしてはきわめて斬新。
スピリチュアルとしてもよし。
切ないラブストーリーとも見える。
そして、人類を侵略するエイリアン(?)と戦うSFでもあるという、
面白さ満載の本なのでした。

満足度★★★★


ロッキー・ザ・ファイナル

2008年02月26日 | 映画(ら行)
(DVD)
ロッキーの6作目です。
第1作目からは30年を経ているという。
実のところ、この6作目ができると聞いた時には、 あーあ、よせばいいのに、と思いました。
人気にあぐらをかいて、同じような話をだらだらと・・・、というパターンはあまり歓迎できないとおもったので。
それで、この作品については劇場に見に行っていなかったのですが、でも、隠しきれない好奇心、というのもあって、このたび見てみました。
そうすると、これは意外と悪くない。

前半ほとんど、現役引退後老境に入ったロッキーの生活がつづられるのです。
最愛の妻、エイドリアンが無くなっていて、彼は”エイドリアンズ”というレストランのオーナーとなっている。
息子ロバートは独立し寄り付かない。
わびしい一人住まい。
ボクシングの過去の英雄として街の人々は敬意をはらってくれる。
経済的にも不自由なく平和な日々だけれども、何か、心の奥底で燃えるものがあって、時々爆発しそうなのをこらえている感じ・・・。
まさに、老境に入ったスタローン自身の思いなのかもも知れません。
そして今多くの団塊の世代の思いなのかも。
だから、もしかすると若い人は、退屈に思うかもしれません。
私はなんだか妙にロッキーに共感してしまいました。

さて、そんな中、ロッキーは一念発起して、ボクサーのライセンスを再取得。
そこでいきなり、世界チャンピオンとのエキシビション戦をすることになります。
練習を始めれば、なり始めるいつものあのロッキーのテーマ曲!

でも、ここでは勝敗はどうでもいい。
自分が決めた道を、まっしぐらに努力し、戦い抜く。
そういうことに意義があるのだと、それがわかるように映画が作られています。

息子、ロバートが父に明かしたことは、「いつも、周りから父親のことを言われ比べられるので、重荷だった」と。
私は、たいていの父親は、こんなことを言われたらへこむと思うのです。
すまないと謝ってしまうかも。
でも、ロッキーは違いました。
「そんなことをいうのはお前が全力を出し切っていないからだ。
できないことを父親のせいにして、逃げているのだ。
お前ならできる。」と。
ああ、これがいつも前向きなロッキーの言葉なんだなあ、と納得。

30年、同じ役柄を演じられるというのも、なんだか幸せなことなのではないかなあ、と思いました。
年を取るのも悪くは無いか・・・。

2006年/アメリカ/103分
監督:シルベスター・スタローン
出演:シルベスター・スタローン、バート・ヤング、ジェラルディン・ヒューズ

ジョー・ブラックをよろしく

2008年02月25日 | 映画(さ行)

(DVD)
半分おとぎ話のようなストーリーなので、これはブラピを楽しむための作品と見たほうがいいと思います。
まさしく、ブラピの魅力満載。
1998年の作品なんで10年前ですか。
うん、今のブラピも悪くは無いけど、10歳若いブラピはまた格別ですよ。
いかにも米国青年風の底抜けに明るいところ、
また、ちょっと気弱そうなところ、
そして、開き直ったふてぶてしい感じ、
こういうのをすべて合わせ持ちくるくると変わる、
ストーリーにもマッチして、ブラピの見本市みたいになっております。

ブラピはなんと死神の役なんですけどね・・・。
死神にしてはハンサムすぎ。
いえ、これはたまたまそのハンサムな青年に死神が乗り移ったという設定です。
彼は、大富豪のパリッシュをお迎え(!)に来たのですが、
ちょっと気まぐれを起こして、人間界を見学して行こうとする。
そういうことは初体験なので、何もかも珍しい。
彼が気に入ったのはピーナツバターだったりするのがご愛嬌です。

さて、彼は、そ知らぬ顔でパリッシュについて歩くのですが、
おどろいたのはその娘スーザンとの対面。
実はその日の朝、まだ死神が乗り移っていない時の彼とスーザンはカフェで出会い、意気統合していたのです。
朝の様子とはぜんぜん違う彼の様子に戸惑うスーザン。

けれどまた、二人の気持ちはだんだん近づいていって・・・というラブストーリー。

この、彼の会社のお家騒動も絡んで、結構長い作品なのですが、それほど長く感じませんでした。

アンソニー・ホプキンス演じる大富豪パリッシュはなかなかの大人物で、
死神が迎えに来てもさして動揺しない。
それまでの人生に十分満足できている風ですね。
妻には先立たれていますが、
長女とその夫、そしてスーザン。
暖かくていい家族です。
65歳の誕生日、屋敷で盛大な誕生パーティー。
お祭りのようににぎやかに花火がいくつも打ち上げられる中、
彼は死神と共に旅立っていく・・・。
こんな最後はちょっとうらやましいですけどねえ・・・。

1998年/アメリカ/180分
監督:マーティン・ブレスト
出演:ブラッド・ピット、アンソニー・ホプキンス、クレア・ラフォーニ、マーシャ・ゲイ・ハーディン


茄子 スーツケースの渡り鳥

2008年02月24日 | 映画(な行)

(DVD)
「茄子 アンダルシアの夏」の続編です。

当時見た「アンダルシア」の感想がこれ
  ↓
1時間に満たないアニメ作品で、入場料1000円。
私はひそかに「あんだる茄子」と呼ぶことにした。
日本作のアニメでなぜ突然スペインはアンダルシアなのか?
と言うのが今も謎。
だけれども、見事にそのアンダルシアの夏、自転車レースのほんの一日の情景、人々の心を切り取った作品だと思う。
彼とお兄さんと彼女の複雑な心境。
レースのスピード感が意外とすごい!
あの、じりじり照りつける凄い青い空のあの感じ。 
あの、ワインと茄子の漬物、食べてみたいねえ…。


そちらが「あんだる茄子」なら、さしずめこちらは「渡り茄子」。
日本のアニメでなぜ突然スペインなんだ、というのは、
つまり、サイクリングロードレースがテーマで、
前作は世界3大自転車レースの一つ、スペインの「ヴェルタ・ア・エスパーニャ」が舞台だったからであります。
ちなみに、3大レースのもう二つは、「ツール・ド・フランス」と「ジロ・デ・イタリア」。
ふう、ぜんぜん認識不足なのがバレバレですね。


さて、こちらは日本が舞台。
宇都宮で行われる「ジャパンカップサイクリングロードレース」。
正直私はサイクリングロードレースのことなど何も知りません。
単にジブリアニメつながりとしての導入です。
でも、これはチームプレイで、さまざまな駆け引きがなされるのが興味深く、
また、非情に過酷なのもよく分かりました。
ここでは、このあまりにも過酷なレースで生活をしているレーサーたちの夢や失意、そして友情をテーマとしております。

同郷の先輩として尊敬をしていた国民的英雄レーサー、マルコが自殺をとげ、
自らのレーサー人生にも疑問を感じ、引退をしようとするチョッチ。
そして、まだまだがんばろうとするぺぺ。
この二人の所属するチーム・パオパオビールのレース展開やいかに!
前作スペインの乾燥した空気、照りつける太陽に真っ青な空。
それと対比するように、こちらは湿気の多い日本。
なんとレースも雨の中で始まります。
そして、こちらでも登場する、なすの漬物。
良くはわからなかったけれど、こちらは糠漬けかなあ・・・。
それとも、単に浅漬け?
食べてみたいといえばやはり、未体験のスペインの茄子かな?

これはやはり、対で両方見るべきですね。
ぺぺが、スリップで転倒し、ウエアが擦り切れてしまって、お尻丸出しで疾走。
この声が大泉洋なんで、
キャラが重なり、結構楽しめます。

2007年/日本/54分 OVA
監督:高坂希太郎
声の出演:大泉洋、山寺宏一、坂本真綾


チーム・バチスタの栄光

2008年02月23日 | 映画(た行)

海堂尊による「チーム・バチスタの栄光」の映画化作品。
「このミステリがすごい」大賞受賞作でもあります。
先日読んだばかり。
ミステリの筋立てはそのままですが、
大きく違うのは、探偵役となる診療内科医田口が、この映画では女性となっていること。
それと、厚生労働省の役人、白鳥は、本の方がもっとキョウレツな変人。
まあ、たしかに、映画としてはさえない中年男2人の探偵よりは、
この配役で、男女という組み合わせの方が、ビジュアル的にもずっといい。
なるほどねー、と思います。

あらすじのご紹介は、文庫「チーム・バチスタの栄光」でどうぞ。
田口は不定愁訴外来(別名グチ外来)の医師として勤務しており、外科手術には縁がない。
そこで、観客代表として手術の説明を受けてくれるので、大変わかりやすい。
本だけでは、バチスタ手術も、イメージが掴みにくいのですが、さすが映像の威力、この映画を見て、よ~くわかりました。
外科手術というと執刀医ばかりが脚光を浴びますが、
このようにいろいろな役割の人がチームワークで行うものなんだなあと、認識を改めました。

映画ならではのこんなシーン。
ある一人の患者にスポットを当て、その人柄などを見せて、親しみを感じさせます。
ところが、その人物の手術が失敗で術中死。
単なる名も知らない患者よりもきわだたせるその「死」。
本には無かった部分です。
それから、挿入されるソフトボールの試合シーン。
ほとんど病院内の映像なので、ちょっと気晴らしをさせてくれる、これも工夫されたシーン。
本も十分に面白いのですが、それをいかに映画として作り変えていくのか。
そんなことを考えつつ、見るのもまた一興でありましょう。
犯人がわかっていても、十分楽しめました。

2008年/日本/118分
監督:中村義洋
出演:竹内結子、阿部寛、吉川晃司、池内博之

「チーム・バチスタの栄光」公式サイイト


「少女には向かない職業」桜庭一樹

2008年02月21日 | 本(ミステリ)

「少女には向かない職業」桜庭一樹 創元推理文庫

今、話題の新進気鋭、桜庭一樹。
「赤朽葉家の伝説」では日本推理作家協会賞、
「私の男」では直木賞受賞。
「赤朽葉家の伝説」は、「このミス」国内2位もとっていますよね。
それで、書店の店頭でも、最近ずいぶんこの人の名前をよく見かけるなあ、と思っていました。
でも、名前から察して、男性と思い込んでいたら、
先日新聞にインタビュー記事があって、なんと女性でした! 
それで、急に、読んでみようかという気になったのです。
まずはお試しとして文庫のこんなところから・・・。

冒頭がこうです。
「中学2年生の一年間で、あたし、大西葵13歳は、人をふたり殺した。
・・・・・・あたしが思ったのは、
殺人者というのはつくづく、少女には向かない職業だということだ。」

う~ん、ここでちょっといやな予感がしたんです。
ライトノベル作家ですよね。
多分私の偏見だと思いますが、
意味無く退廃的、虚無的で、陰惨
・・・て、いやな前例がありまして。
これもその類なのかなあ・・・と。
好き好きですが、私には向きません。
しかし、良い方に予想が外れまして、結構気に入りました。
まあ、実際ちょっと悲惨な話ではありますが、
いまどきの少女の、友人間の微妙な距離感、とか、
繊細かつ大胆、やさしく、そして残酷、そんな矛盾した不安定さが、
きちんと描かれていると思いました。
中学生の少女の殺人。
・・・といってしまうとあまりにも猟奇的に聞こえますが、
これも一つはほぼ偶発的なものであり、もう一つも、不安定さゆえの暴走。
予想したほど、変に残酷でもありません。
この人が書いた長編なら、やはり読んでみようかな、と、そういう気になっております。

満足度★★★★

 


「漢方小説」 中島たい子

2008年02月19日 | 本(その他)

「漢方小説」 中島たい子 集英社文庫

この本は、完全に表紙のイラストにつられて買いました。
南伸坊さんのイラスト。
題名もちょっと「おや?」と思う題名ですね。
でも、読んで成功です。
第28回すばる文学賞受賞作とのこと。
・・・あまりこれまでの私には親しみのない賞ではありますが。

さて、この本の主人公川波みのりは31歳、脚本家、独身。
大体ここまでである種の筋書きは見えますけれど。
まあ、まだあきらめるには早いですが、女性にとっては、結婚を夢見るところから、そろそろ見切りをつけて、一人で生きる覚悟をつける時期なのではないでしょうか。
みのりは昔の彼が結婚すると聞いて、ひどく動揺してしまった。
その後、胃がひっくり返ったようになって救急車まで呼ぶことに。
しかし病院に着いてまもなく、おさまってしまう。
とはいえ、慢性的な食欲不振。
固形物がのどを通らないというのに、
行った病院4件、どこもけんもほろろに異常なしという。
やはり心療内科に行くべきなのか
・・・そう思いつつ5件目にたどり着いたのが、漢方医のところ。
予想に反して、ちょっといい男だけれど若くて頼りなさそうな医者にがっかりはしたのだけれど、
なんとこの先生が、他ではわかってくれなかった「お腹がドキドキする」、
その震源地をぴたりと当てた。
納得できた彼女は処方された漢方薬を続ける内に、次第に快方へ向かっていく、
とそういう話なのです。

漢方薬のPR?
いえいえ、まあ、表向きのストーリーはそれなのですが、
彼女の友人や家族との付き合いを通して、
行き先の見えない彼女自身のあり方に自信を取り戻していく、
その過程と、漢方薬効果が微妙に絡み合い、いい方向になっていくんですね。
彼女は、くちさがない友人に
「心がアサッテの方むいてるからそんな病気になったりするんだ」
といわれショックを受けます。
ショックを受けるのは、もしかしてちょっぴり自覚はあったのを図星を指されたから?
本当に見据えなければならないことから目をそらしていたのかもしれません。
けれど、それってしんどくて勇気がいるんだよね・・・。

私はめったに病気もしない図太いヒトなので、
こういう”虚弱体質”っぽいヒトを理解しずらいところがあったと思うのですが、
この本で、なんだか親しみを感じてしまいました。
こういうのは「何の病気」というのではなくて、
体の各部分のバランスが崩れているので生じるという東洋医療の考え方に、
なんだか納得させられます。
心のバランスと体のバランスは密接な関係にあるようだ。
肩こりのひどい時とか、漢方を服用してみましょうか・・・。

満足度★★★★


ドリームズ・カム・トゥルー

2008年02月18日 | 映画(た行)
(DVD)
これがまた、そりゃ確かにそうなんだけど~、と不満の残る題名のつけ方。
あの「ドリカム」とはぜんぜん関係ありません。
なんで、DVD作品の題名のつけ方はこんなにひどいのでしょう・・・。
もう少し、凝ってほしい、と思うところです。
中には内容とまるでイメージが違う、詐欺まがいのものもあるので、これはまだましな方ですが。
原題はAkeelah and the Bee。 
アキーラは主人公の少女の名前。
アメリカで毎年行われているスペリングコンテストを、Spelling Beeというのですね。
これは黒人の少女アキーラがそのスペリングコンテストに挑む物語です。
それで思い出すのが同様のコンテストを扱った「綴り字のシーズン」という作品。
これも、原題は「Bee Season」でした。

スペリングコンテストというのは、そう簡単なもんじゃない。
学校予選を経て、地区予選、州予選を勝ち抜き、
そしてようやく全国大会に出場できる。
必然的に最終戦などは非情に高レベルなものになって、大人でも聞いたことが無いような学術的用語のスペルまで求められるのです。
そこで、必要なのは、丸暗記よりは、その言葉の語源になってくるのですね。
ラテン語から来たものか、フランス語から来たものか・・・、
どういう元の言葉が結合してできた言葉なのか、
そういうことの知識が必要。
なので、これも専門的な準備というか学習が必要。
・・・なかなか大変です。
そこで、勝ち抜くにはやはり家族や周りの人たちの理解や協力、
本人の強い意志、そういうことが大事になってくる。
だからこそ、数々のドラマが生まれるわけです。

さて、ここでは少女アキーラはあまり裕福でない家の子で成績優秀。
教師にスペリングコンテスト出場を勧められるけれども、
目立ったりすることがいやな彼女はやりたがらない。
母親は忙しいばかりで、まったくそんなことに関心が無い。
そんな中で、大学教授ララビー博士のコーチを受けることにもなり、次第にやる気が出てきます。

一生懸命にがんばって、周りの人たちの励ましがあって、
ちょっとした挫折があり、そしてまたがんばって決戦を迎える。
とてもオーソドックなサクセスストーリーですが、
だからこそ安心して見られる、感動と癒しのストーリーです。

同じコンテストに出場する男の子がなかなかチャーミング。
思いやりがあってユーモアもあり、なんていいやつなんだ!
君ならコンテストに優勝なんかしなくても立派に人気者で生きていける!
それから、最後に優勝を争う、ちょっといやな性格の男の子。
彼は厳しい父ちゃんにみっしり仕込まれていて、
「絶対に負けられないのだ!」といつも叱咤されている。
かわいそうになったアキーラはわざと負けようとするのですが、
感づいた彼は、「そんな勝ち方をしてもうれしくない」という。
ここでもひそかな友情が芽生えまして、いい見せ場になっています。

余談ですが、アキーラの中学校の校長が
「学校の成績を上げないと教科書代まで削られる・・・」とつぶやいていました。
アメリカの学校評価制度のきびしい現実を垣間見た気がします・・・。
しかし、日本も同じような道をたどろうとしているようで・・・。

2006年/アメリカ/113分
監督:ダグ・アッチソン
出演:キキ・パーマー、ローレンス・フィッシュバーン、アンジェラ・バセット

歓喜の歌

2008年02月17日 | 映画(か行)

立川志の輔作、新作落語の映画化です。
コメディ仕立ての群像劇。

みたま町文化会館、大晦日の夜になんとダブルブッキング。
「みたま町コーラスガールズ」と「みたまレディースコーラス」の予約を重ねて入れてしまった。
そこの主任、飯塚が、なんとも適当で無責任。
どうせ、暇つぶしのママさんコーラスだろうと、お茶を濁すばかり。
しかし、コーラス側もそう簡単には譲りません。
「ダブルブッキングなんて、”三分クッキング”とはわけが違う!」なんていきまくあたりは、さすが、笑ってしまう。
コーラスガールズ側は、まだ、結成間もないグループですが、みんなパートなど仕事をしながら忙しい合間をぬって練習してきました。
レディース側は、もう少し本格的な歴史あるグループ。

双方の間にはさまり、おろおろするだけの飯塚。

実は飯塚は更なる問題を抱えていまして、それが借金。
200万の返済を迫られ、妻からは離婚を宣言され・・・
もう夜逃げしかないと思っている・・・。

そんな時、ふと、われに返ったのは「ギョーザ。」のおかげ。
これは、中華料理店のおかみさんから、ラーメンとタンメンの注文を間違えて配達してしまったことのお詫びとしてそっとさしだされたもの。
そうだ俺たちにはこの「ギョーザ」が足りなかったんだ、とつぶやく飯塚。
突然目覚める!

最後まであきらめないで、心をこめて・・・。
この、ギョーザこそがこの映画のテーマです。
やらないで後悔するよりは、やって後悔する方がいい。
何かの決断が必要なときに、思い出したい言葉です。

さて、この決着やいかに、ということですね。
グループのメンバー、家族、会館の職員、みんなが一つになってがんばって、奇跡が起こる。
登場人物も多彩で、思いがけないところで、思いがけない人が出てくるので、楽しい。
やっぱりこういうわかりやすい展開は、ほっとします。
そもそも私、年末の第9は大好きなのです。
ラストの歓喜の歌にも感動。
やっぱり、映画ってこうでなければね!

2007年/日本/112分
監督:松岡錠司
出演:小林薫、安田成美、由紀さおり、伊藤淳史

「歓喜の歌」公式サイト


「グイン・サーガ119/ランドックの刻印」 栗本 薫

2008年02月16日 | グイン・サーガ

「グイン・サーガ119/ランドックの刻印」 栗本 薫  ハヤカワ文庫

さて、今回は2ヶ月ぶりでした。
あれ?と思ったのですが・・・。
うん、帯とか背表紙の解説が中身と合っていないような気が・・・。
私の、気のせい?

この本では、グインが気の進まなかったケイロニアの人たちとの対面が、とうとう実現してしまった!
でも、案ずるより生むが安し、というやつですね。
ケイロニアの人々は、グインに絶対的な信頼を持っており、グインの記憶が無いなんてことにはびくともしない。
実に実直な人々であります。
こういう国だから、グインは王として居られたんですよね。
ところがです。
もしかすると、古代機械がグインの記憶喪失の打開になるかもしれない、ということで、
パロのヤヌスの塔に封印されていた古代機械に近づくグイン、ヴァレリウス、ヨナ。
古代機械の周囲には銀色の卵のような障壁がとりまき、近づくこともできなかったにもかかわらず、グインがそこに触れると吸い込まれるように、中へ入ることができた。
古代機械・・・。このストーリーが単にヒロイックファンタジーでなく、SFでもあることを思い出させる部分ですよね。
3000年の昔からパロにあるというこの謎の機械。
果てしない宇宙のかなた”ランドック”の文明のもの。
グインはこの機械にスキャンされ、修復されて、肩のキズも、喪失した記憶さえも元に戻ってしまった!!  
こんな手があるんだったら、怖いものなしだね。
しかし、そこには何かの作為が働いたようでもあり、なんとノスフェラスに現れ、このパロにたどり着くまでのことを、今度はすっかり忘れている。
え~。ちょっとまってよ。それって、あの長ったらしいタイスの出来事をみんな忘れてしまったということ???
そうなりますね。
そんな、むなしい・・・! そ、それに、ということは、スーティーのことも覚えてない?
ご正解。
そんなあ。無責任だよー。スーティーをどうする気なのさ。
確かに。グインがついていればぜんぜん安心と思っていたのに、それはないよね。
いったいどうなる、スーティーとフロリー。!?

さてと、ところで心配なのは作者栗本氏のおかげんですね。
現在闘病中とのことです。
とにかく、早く元気になっていただきたいです。
頼むから、グインを未完にしないで・・・。
こらこら、そういう言い方はないでしょう・・・。
でも、全国のファンはそう思っていますよ、きっと。
かげながら、お祈りさせていただきます。
乞う、早期全快。・・・いえ、当面は半年とか一年に一冊でもいいので・・・。
なんだか、今号のグインは元気なかったです・・・。ああ、119巻、非常事態・・・。

満足度★★★


「灰色の北壁」 真保裕一

2008年02月14日 | 本(ミステリ)

「灰色の北壁」 真保裕一 講談社文庫

山岳ミステリーですね。
この間、「エーゲ海の頂に立つ」を読んだのですが、
その中で著者は、実際にはまったく登山の経験が無いにもかかわらず、
「ホワイトアウト」などで、いかにも登山家のように思われてしまうのが心苦しかった、というようなことを言っています。
それで、クレタ島の最高峰への登山を試みるのですが、
この「灰色の北壁」はその後に著したものであるとのこと。

山男、登山家というといかにも「人に優しく、自分に厳しい、強く頼もしく、純粋。」そんなイメージですよね。
まあ、ところが山岳ミステリとなるとほとんどが、この穢れない山に対峙して、人間のどろどろした部分が余計にあぶりだされる、
と、そういう結果になることが多いように思います。

この本は3話からなっていますが、たとえば1話目。「黒部の羆(ひぐま)」では、
二人の学生パートナーの登山の様子が描かれています。
一人は人望も厚く、前途洋洋、近くヒマラヤ遠征のメンバーにも決まっている。
もう一人は、少し前の登山でちょっとした判断ミスがあり、
登山家としての明るい未来は断ち切られた。
しかし力量は自分の方が絶対上と思っている。
相手がねたましくて仕方が無い。
そのような無言の圧力で、挑発するかのような動きをする。
そんな時、先を行っていた憎いほど好調と見えた相手が滑り落ちてくる。
実は先行の彼は彼で、先の登山の時には実はフェアでないやり方で勝利していた。その後ろめたさと、無言の敵愾心にせかされ、無理をしていた・・・という具合。
厚い友情で結ばれるはずの二人が、このようにどろどろの感情にまみれている。

これが下界なら単にけんか別れすればいい。
でも、互いの命を支えあわなければならない状況で、
この感情のもつれは生命に影響するわけです。
だからスリリング。

たとえば2人のクライミング中に一人が滑落。
一人は支えるのが精一杯で引き上げることもできない。
黙っていれば凍死か、2人もろとも谷底・・・。

または、吹雪の雪山で、一人は負傷で動くことができない。
食料も燃料もつきかけている。
まだ動ける一人が救助を求めに出るべきか。
それは残した一人を見殺しと同じなのではないか・・・。

これらのように究極の選択に迫られる状況で、
もろに人間性が出てしまうわけです。
そしてそこがドラマになるわけですね。
これまでも多くの名作が生み出されました。

表題作、「灰色の北壁」では、
ある登山家がある山の北壁ルートで単独初登頂を果たすのですが、
実は偽装なのではないかと疑惑をかけられます。
しかし、真相は、また別の登山家をかばうため、
やむなく疑いを向けられる行動をとることになってしまったという、
これはなかなか感動のストーリーです。
うん、やっぱりこういう話のほうが気持ちがいい。
山男はこうでなくては!

満足度 ★★★★

「エーゲ海の頂に立つ」もどうぞ


レンブラントの夜警

2008年02月12日 | 映画(ら行)

17世紀オランダ。
名声を得た画家、レンプラントが転落するきっかけとなった「夜警」の謎に挑む、とあります。
富と名声をほしいままにしていた、レンブラント。
あるとき、アムステルダムの市警団の肖像画を依頼されるのですが、
金と欲望にまみれたその実態を見て、彼の絵にそれが現れてくる・・・。

しかし、これはそれだけがテーマなのではなく、彼の「愛」のあり方を描いたものでもあります。
レンブラントを支えた画商の姪、というのが彼の妻サスキア。
妻は彼のマネジメントも担当し、うまくいっていたのですが、これが本当の愛なのかと、彼は疑っていた。
しかし、妻は一児を残し病死。
そこで始めて実はとても深く妻を愛していたことに気づく。
そのむなしさから、次には家政婦と愛欲にふけり、自堕落な日々。
このあたりと彼の画家生命の転落が重なり、
すべてをなくしたときに、まだ残っていたつつましい愛に気づく・・・、
と、こういうことなのです。
が、うーん、結局テーマがこのように分散してしまい、焦点ボケ。
何が一番言いたかったのかよく分からず、退屈な出来になってしまった、と思います。
病、貧困、支配するものとされるもの・・・
当たり前にそこにある、当時の世界観は、うまく表されていました。


でも、さすが美術要素が絡んだ作品なので、映像は凝っていますね。
この映画は、映画というよりは、演劇的だと思いました。
よく出てくるシーンが広いアトリエの真ん中に置かれた天蓋付きの大きなベッド。
ベッド周りのカーテンが、舞台の幕のような雰囲気になっています。
それから、屋上のシーンも何度も登場。
…第○幕、という雰囲気。
客席から舞台を眺めるようなカメラワークです。

舞台奥に光源がある、いわば逆光のシーンも多かったですね。
また、映像の一つ一つが絵画的。
セピア調のおさえた色彩、光と影、まさにレンブラントの絵を相当意識した作りになっています。

2007年/カナダ・フランス・ドイツ・ポーランド・オランダ・イギリス/139分
監督:ピーター・グリーナウェイ
出演:エバ・バーシッスル、ジョディ・メイ、エミリー・ホームズ

「レンブラントの夜警」公式サイト


「バベル島」若竹七海

2008年02月11日 | 本(ミステリ)

「バベル島」若竹七海 光文社文庫

若竹七海氏の短編集ですが、この本は怖いです!。
これまで個人短編集に収録されていない作品の中から、
特にホラー的要素の強いものを集めた文庫オリジナル、
ということですので、怖いのもあたりまえ。
この文庫の解説者千街晶之氏によれば、
「怪奇現象や不条理な出来事の怖さを扱ったもの」と、「妄想や狂気といった人間心理の怖さを扱ったもの」がある。

たとえば、巻頭の「のぞき梅」という作品では、
ある人物の恨みにより、梅を食べると必ず死ぬ、
という怖ろしい宿命を背負った一族についての話がありまして・・・。
これなど一つ一つは、アレルギーだとかたまたま何かの病気でとか、
理屈はつくのかもしれませんが、それが立て続けにあったりすると、
人はそこに何かの意味を感じてしまうのです。
これが前者の「不条理なできごと」ですね。

それから後者の「妄想や狂気」では、表題の「バベル島」。
60年前、イギリスの片田舎、ジェイムズ伯爵が幼少の頃
旧約聖書「バベルの塔」を描いたブリューゲルの絵に取り付かれ、
長じた後、一つの島を購入し、そこに絵とまったく同じ塔を作り始めた。
それは60年を経てようやく今完成するところ。
しかし、誰もがその異様なたたずまいになぜか背筋がぞっとするような、いやな感じを受けてしまう。
それはジェイムス伯の生涯をかけた妄執の果てのものだからなのか・・・。
実は、伯爵の真の目的はバベルの塔を作り上げることではなく・・・・。

凡人には理解できない、妄想や狂気。
確かにこれも怖いのです。
表紙の杉田比呂美氏の優しいイラストにだまされるかもしれませんが、怖いストーリーばかりですよ。
ご注意ください。

この手の話ばかり集めた一冊というのは、なかなかナイスな企画であると思いました。

満足度★★★★★


「舞田ひとみ11歳、ダンスときどき探偵」 歌野晶午

2008年02月10日 | 本(ミステリ)

「舞田ひとみ11歳、ダンスときどき探偵」 歌野晶午 光文社カッパノベルス

この本の「著者のことば」として、
「こんなに楽しく書けたのはいつ以来でしょう。キャラクターがかわるがわる憑依して、勝手に話しをつむいでくれました。」
とあります。本当に、楽しい「ゆるミス」です。
表題の「舞田ひとみ」ちゃんが、コナン君みたいに名推理で事件を解決するわけではありません。
本当の探偵役、というか本職の刑事、舞田歳三(としみ)の兄の娘、すなわち、姪っ子がこの、ひとみちゃん。
ひとみちゃんは大学教授のお父さん理一(まさかず)と二人暮らしですが、
この家に、ちょくちょく、独り者の叔父さん、歳三がやってきてはTVゲームの相手をしたりします。
そして捜査中の事件の話しもちょっぴり。

ひとみちゃん(自称ひーちゃん)は明るく聡明、ちょっと生意気な女の子で、
時には叔父さんもやり込められる。
でも、かわいくて仕方ないのですね。
この子が時々語る言葉が事件のヒントとなる、そういう連作短編集です。

友人の家に忍び込む少年の謎。
拉致誘拐事件の謎。
パーティー毒殺事件の謎・・・などなど。
雰囲気はのどかながらしっかりした本格ミステリ。
そして全体に仕掛けられた大きな謎。
ひとみちゃんのお母さんって、いったい・・・???

普段ミステリをあまり読んだことが無いという方に、特にお勧めできます。
さほど血みどろというか残虐なシーンはありませんし
(でも、死体はやっぱり出てくる・・・)、
ひとみちゃんの明るい雰囲気に救われつつ、どんどん読めます。
ミステリの導入編としては最適。

満足度 ★★★★


シルク

2008年02月09日 | 映画(さ行)

この映画は、欧米から見たエキゾチックで神秘的な東洋への憧れ、
その募る思いを映画化した、と理解してよいのではないでしょうか。
だから、そこに描かれている日本は、本当の日本ではないのです。

舞台は19世紀。フランス。
裕福な家の青年エルヴェは一目ぼれした女性エレーヌと結婚。
そこは製糸工場で成り立っている街で、おりしも疫病で、蚕が壊滅状態。
エルヴェは日本で蚕の卵を入手する特命を受け、一人はるかな旅に出ます。
ヨーロッパからみると、日本は気の遠くなる東の果て。
命がけの旅であるわけです。

まだ鎖国下の日本。
陸路でロシアを経由し、船で密かに山形は酒田に上陸。
そこからまた山奥へとたどり、やっとついた小さな村。
・・・このあたりの風景がとても日本の東北とは思えない風景なので、まず違和感なんですが・・・。
ご禁制の密貿易ですから、よそに知れても大変なことになる。
その村の実力者の若く美しい妻に、エルヴェは魅入られてしまうのです。
言葉を交わすでもない。
しぐさ、まなざしに魂を吸い取られるような・・・。
神秘的な魔性の女・・・?

違和感ですよねえ。
江戸時代の山形といえば、たそがれ清兵衛。
あの映画の登場人物たちの朴訥としたあったかさ。
日本人ならそういうイメージを抱くところです。
宮沢りえ演じた彼女のような、おきゃんで世話好きであったかい、そんな女性がいる方がイメージとしては自然。
得体の知れないバテレンに、色目を使う女などいるわけもなし。
まあ、しかし、それでは映画になりませんからねえ・・・。

すっかり魂を奪われてしまったエルヴェは、よせばいいのに蚕の卵にかこつけて日本に通うこと2度3度・・・。
しかし三度目は幕末。
政情不安の日本で、もう彼女に会うこともかなわない。
彼は彼女からたった一度もらった恋文を大切にするのですが、実はその手紙は・・・。

最後に驚きの結末が用意されていまして、
ずっと日陰のような存在の妻エレーヌの大きな愛に、驚かされることになります。
おいおい、卑しくもキーラ・ナイトレイなんですから。
どう見ても、彼女の方がよろしいでしょう。

日本人としては、欧米人の日本観と実際の日本、
そのギャップを楽しむというのが、この映画の見方であります。
映像はこのように大変美しいです。

2007年/カナダ、フランス、イタリア、イギリス、日本/112分
監督:フランソワ・ジラール
出演:マイケル・ピット、キーラ・ナイトレイ、役所広司、芦名 星、中谷美紀

「シルク 公式サイト」