宇宙の深淵で、老人は何を思っていたのか
* * * * * * * *
これは先に電子書籍iPad版で販売され、話題になった作品。
私はハードを持っていませんので、このたび図書で読みました。
舞台は100年ほど先の日本。
そこでは凄まじい世界が繰り広げられています。
まず、「歌うクジラ」とは。
不老不死をもたらす遺伝子をさしています。
グレゴリオ聖歌の中の一つの旋律を繰り返しうたう
1400歳以上と思われるクジラが発見され、
その研究の中から不老不死の遺伝子が特定された。
大変すばらしいことのように思えますが、
しかし、この不老不死遺伝子の特典を享受できるのはほんの一握りの人々。
世界はこの一握りの人々を頂点とし、凄まじい階級社会が構築されていく。
少年アキラは、その最底辺、
性犯罪者の隔離施設のある新出島で生まれ育ちました。
彼は亡き父親の意志に従い、
ある秘密情報をヨシマツという最上層の権力者に届けるために旅に出ます。
この格差社会では、それぞれの階級はそれぞれの地域に隔絶されています。
裕福な状況を知らなければ不満も出ないだろうということなんですね。
だからアキラはこの島を今まで出たことも無かった。
しかし、なんというおぞましい世界でしょう。
上層の人たちと比べて下層階級の人たちの命のなんと軽いこと。
相当にえぐいシーンや、読みづらい部分
(あえて、正しい助詞を使わずに話す人々が登場するためです)があり、
実のところ読み始めて少ししてから後悔しました。
けれども次第にその圧倒的な筆力で描かれるこの世界から
目を離すことができなくなってくるのです。
幾度も命の危険にさらされながら、ようやくたどり着いたその最上層とは、
決してこの世の楽園ではなく・・・。
この世界は、現代日本が抱えるひずみがよりデフォルメされた形で投影されているのですね。
不老不死=幸せとは言えない。
それは少し考えれば解ることではありますが、
生きる意味を見失い精神は荒廃し・・・。
既に最上層が世界を動かす機能すら保てていない。
そんな中で少年アキラの存在が、
実にすがすがしく生命力に満ちて感じらます。
地球を見渡す宇宙の深淵に浮かび、老人は何を思っていたのか。
自らが作り出した失敗作の世界を破壊することを
実は願っていたのかも。
その姿は、深海でグレゴリア聖歌を繰り返し歌いつづけたクジラにも似て・・・。
命の秘密は秘密のままにしておきたいですね・・・。
「歌うクジラ 上・下」
満足度★★★★☆
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これは先に電子書籍iPad版で販売され、話題になった作品。
私はハードを持っていませんので、このたび図書で読みました。
舞台は100年ほど先の日本。
そこでは凄まじい世界が繰り広げられています。
まず、「歌うクジラ」とは。
不老不死をもたらす遺伝子をさしています。
グレゴリオ聖歌の中の一つの旋律を繰り返しうたう
1400歳以上と思われるクジラが発見され、
その研究の中から不老不死の遺伝子が特定された。
大変すばらしいことのように思えますが、
しかし、この不老不死遺伝子の特典を享受できるのはほんの一握りの人々。
世界はこの一握りの人々を頂点とし、凄まじい階級社会が構築されていく。
少年アキラは、その最底辺、
性犯罪者の隔離施設のある新出島で生まれ育ちました。
彼は亡き父親の意志に従い、
ある秘密情報をヨシマツという最上層の権力者に届けるために旅に出ます。
この格差社会では、それぞれの階級はそれぞれの地域に隔絶されています。
裕福な状況を知らなければ不満も出ないだろうということなんですね。
だからアキラはこの島を今まで出たことも無かった。
しかし、なんというおぞましい世界でしょう。
上層の人たちと比べて下層階級の人たちの命のなんと軽いこと。
相当にえぐいシーンや、読みづらい部分
(あえて、正しい助詞を使わずに話す人々が登場するためです)があり、
実のところ読み始めて少ししてから後悔しました。
けれども次第にその圧倒的な筆力で描かれるこの世界から
目を離すことができなくなってくるのです。
幾度も命の危険にさらされながら、ようやくたどり着いたその最上層とは、
決してこの世の楽園ではなく・・・。
この世界は、現代日本が抱えるひずみがよりデフォルメされた形で投影されているのですね。
不老不死=幸せとは言えない。
それは少し考えれば解ることではありますが、
生きる意味を見失い精神は荒廃し・・・。
既に最上層が世界を動かす機能すら保てていない。
そんな中で少年アキラの存在が、
実にすがすがしく生命力に満ちて感じらます。
地球を見渡す宇宙の深淵に浮かび、老人は何を思っていたのか。
自らが作り出した失敗作の世界を破壊することを
実は願っていたのかも。
その姿は、深海でグレゴリア聖歌を繰り返し歌いつづけたクジラにも似て・・・。
命の秘密は秘密のままにしておきたいですね・・・。
歌うクジラ 上 | |
村上 龍 | |
講談社 |
歌うクジラ 下 | |
村上 龍 | |
講談社 |
「歌うクジラ 上・下」
満足度★★★★☆