映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

バジーノイズ

2024年11月30日 | 映画(は行)

孤独の扉をこじ開けて

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マンションの住み込みの管理人をしている海野清澄(川西拓実)。
自分の頭の中に流れる音楽をPCで形にし、部屋で1人で奏でていました。
人付き合いは苦手で、自分の音楽を人に聴かせようとも思っていません。

ところが、清澄の上階に住む女性・潮(桜田ひより)が、
漏れ聞こえるその音楽を気に入ってしまったのでした。
清澄の拒否もものともせず、清澄の心の扉をこじ開けてやって来た潮。
潮は清澄の演奏動画を何気なくSNSに投稿。
清澄の世界が大きく変わりはじめます。

PCで作り上げる音楽をDTM(デスクトップミュージック)というのですね。
本作で清澄が作り出す音楽、確かに良い感じです。
知らず、体が揺れてくるような。

清澄も以前はとあるバンドに属してはいたのですが、あるできごとがあって、
それ以来ますます自分の世界に閉じこもってしまっていたのでした。

そんな彼の扉をこじ開けたのが潮。
そして、さらなる音楽の仲間もできはじめます。
でも潮自身は音楽を作ることはできない。
潮の前だけでなく、他の人々の前でも笑顔になる清澄を見て、
潮はもう清澄に自分は必要ないと思ってしまうわけで・・・。

あんなに強引に近づいてきたくせに、いざとなると尻込みしてしまう、
乙女チックな潮さんが愛おしい・・・。

軽いノリで見られる音楽青春ストーリー。
川西拓実さんは、JO1のメンバー。
・・・勉強になります。

<Amazon prime videoにて>

「バジーノイズ」

2024年/日本/119分

監督:風間太樹

原作:むつき潤

出演:川西拓実、桜田ひより、井之脇海、柳俊太郎、円井わん、奥野瑛太、佐津川愛美

音楽愛度★★★★☆

満足度★★★☆☆


蝶の眠り

2024年11月29日 | 映画(た行)

最後の愛の行方

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フランスの女流作家マルグリッド・デュラス晩年の恋を描いた、
ジャンヌ・モロー主演の映画「デュラス 愛の最終章」をモチーフにしています。

50代の人気作家松村涼子(中山美穂)は、
自身が遺伝性のアルツハイマーに冒されていることを知ります。
魂の死を迎える前に、小説以外の何かをやり遂げようと、
大学で講師として働き始めることに。
学校近くの居酒屋でバイトをしている韓国人留学生の青年、チャネと出会い、
なりゆきで犬の散歩を頼み、
そしてまた、執筆活動を手伝ってもらうことにします。

そんな中で、次第に惹かれ合っていく2人。
そして、涼子の症状も徐々に進行していきます・・・。

50代といっても、中山美穂さんですものねえ・・・。
恋愛もぜんぜんムリじゃない。
というか、恋しない方がおかしいくらい。

離婚歴のある涼子は、アルツハイマーの診断を受け、
自らの遠くない将来を淡々と受け止めているのです。
まだ、己としての意識がしっかりとあるうちにできることをしよう・・・。
そして、新たな仕事を始めたのと同時に、
予期せぬこととして恋をすることになるのですね。

年下の、異国の青年。
自分の将来を考えれば、今、この刹那の恋でかまわないと彼女は思うでしょう。
でも、青年にとっては・・・?

美しい物語。
大人の恋ですな。

原点がフランスの物語。
そして、日韓合作、ということで、どこか軽く乾いた雰囲気。

これが純国産であれば、もっと情念がこもってドロドロした感じになりそうです。
そうじゃなくてよかった・・・。

<Amazon prime videoにて>

「蝶の眠り」

2017年/日本・韓国/112分

監督・原案・脚本:チョン・ジェウン

出演:中山美穂、キム・ジェウク、石橋杏奈、勝村政信、永瀬正敏

大人の恋愛度★★★★☆

満足度★★★☆☆


「夏のカレー 現代の短編小説ベストコレクション2024」

2024年11月27日 | 本(その他)

それぞれの作家らしい力作揃い

 

 

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浮気を繰り返す男の前世とは?
未来の夢を見る少年とその一家、
インストールされたAI探偵の存在意義は、
貝殻から自分そっくりの人間が生まれたら?
トー横カップルの哀しい道行き、
村の忖度博物館をどうする?
8年前のガラケーに届いたメッセージ
――2023年に発表された短篇から、日本文藝家協会の選考委員が独自にセレクト。
今読まなければもったいない、人気作家たちによるベスト短編集最新版です。

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人気作家による短編集。

著者は・・・・(敬称略)

江國香織、三浦しをん、乙一、澤西祐典、山田詠美、小川哲、
中島京子、荻原浩、原田ひ香り、宮島未奈、武石勝義

それぞれの著者らしさの滲む力作揃いです。

 

三浦しをん「夢見る家族」

特に変わったところもない普通の家族のようでいて・・・
夜音次(よねじ)は、自分の家族は少しヘンだと思うようになる。
母がいつも自分と兄・千夜太の見た夢の内容を聞くのです。
夜音次はよく恐い夢を見るのですが、面倒なので兄にその内容を伝え、
兄から母に兄の見た夢としてその内容を伝える。
母はその夢を予知夢として重要視しており、
兄を夢見の力があると思い込む。
でも、本当にその力があるのは弟の方で・・・

 

萩原浩「ああ美しき忖度の村」

ある村は20年前に「忖度」村という名前になったのですが、
今や「忖度」という言葉に悪いイメージがつくようになってしまった。
そこで、「忖度村イメージ向上委員会」が結成されたが、
村の有力者の意向に従おうという空気感に満ちていて、
会議は一向に進まない・・・。
「忖度」にまつわる皮肉な物語。

まあ確かに、元々「忖度」というのはそう悪い意味ではなかったはずではありますね・・・。

 

宮島未奈「ガラケーレクイエム」

解約したつもりで忘れていたガラケーに、
もと同級生から2年前のメッセージが届いていた・・・。
「渡したいものがあります」と。
さて、今さら2年も前のメールにどう反応すべきなのか・・・? 
特別親しい間柄でもなかったのだけれど・・・。
不思議に過去が立ち上ってきますね。

 

「夏のカレー」現代の短編小説ベストコレクション2024 日本文藝家協会・編 文藝春秋

満足度★★★.5


海の沈黙

2024年11月25日 | 映画(あ行)

本当の美とは

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倉本聰氏が長年にわたり構想したという物語の映画化です。

 

世界的に著名な画家、田村修三(石坂浩二)の展覧会で、
作品の一つが贋作と判明します。
関係者の誰もが本物と信じて疑いすら抱いていなかったものを、
作者である本人がこれは自分が描いたものではない、と表明したのです。

また、北海道小樽では全身に入墨を施した女性の死体が発見されます。

 

この二つの出来事に関係する人物、それが津山竜次(本木雅弘)。

彼は若い頃、新進気鋭の天才画家と称されながら、
ある事件をきっかけに人々の前から姿を消しました。

かつて津山の恋人で、現在は田村の妻である安奈(小泉今日子)は、小樽へ向かい、
2度と会うことはないと思っていた津山と再会を果たします。

画壇を追われるようにして、姿を消していた津山。
彼は画壇に向けた思いをたたきつけるように、これまで絵を描き続けていたのです

すなわち彼が描き続けていたのは、「名画」とされているものの贋作。
それが、贋作とバレないどころが本物を凌駕する「美」を放っている・・・。

絵画における「本物」とはいったい何なのか。
描いた人物なのか、それとも、作品それ自体なのか。
贋作という判定を受けた途端にその絵が放っていた「美」は損なわれてしまうのか・・・? 
そうであれば絵の価値とは一体・・・?

私たちがいかに「権威」とか「金銭的価値」を基準に物事の判断をしているのか、
考えさせられます。

しかしまた、津山はここに至ってようやく、
自分自身の「美」を追求しはじめる。

というのが、テーマの一つ。
そしてもう一つ、サブストーリー的にあるのが大人の愛ですな。

安奈は田村の妻ではありますが、とうに愛情は薄れ現在別居中。
ただ田村が安奈を「妻」の座に縛り付けておきたいが為だけに、
離婚もできないでいるのです。
そんな中、安奈は過去の男、津山が忘れられない・・・。
けれど長く案じていた津山の居所が知れたとしても、
その胸にまっすぐに飛び込んでいけるほどの若さはない。

分別がありすぎる大人というのも、やっかいなものです。

一方、津山の方も彼女への思いを胸底に秘めたまま・・・。
けれど、世捨て人のようなこれまでの彼の人生、
女体への入墨を施すことなども仕事のひとつで、
何やらなまめかしい事情(情事?)もないわけではない。
ふむ。
やはり大人の愛ですな。

倉本聰人気でしょうか、映画館はご年配の方でいっぱいでした。

 

<シネマフロンティアにて>

「海の沈黙」

2024年/日本/112分

監督:若松節朗

原作・脚本:倉本聰

出演:本木雅弘、小泉今日子、清水美砂、仲村トオル、菅野惠、石坂浩二、中井貴一

 

美を考える度★★★★☆

大人の愛度★★★★☆

満足度★★★.5


ゴールドボーイ

2024年11月23日 | 映画(か行)

人間のどこか大切な部分が欠落

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沖縄が舞台でありながら、薄ら寒い殺人ドラマ・・・。
原作はズー・ジンチェン「悪童たち」。

 

財閥の婿養子となった東昇(岡田将生)。
ある時、義理の両親(妻の両親)を断崖から突き落として殺害します。
本作はそれが冒頭シーン。
いきなりの岡田将生さんの悪人役にちょっと焦ります。

さてところが、偶然その現場を3人の少年少女がカメラでとらえてしまいます。
それぞれ複雑な家庭環境にある少年たち。
中でも頭脳明晰な安室朝陽(羽村仁成)が、
東を脅迫して大金を手に入れようと提案します。

少年たちは皆中学生。
中でも朝陽は成績優秀。
素行もよくて周囲の評判もよい。
ところが実は、人間性のどこか大切な部分が欠落しているようなのです。
少し前に、クラスメイトの自殺があったということなのですが・・・。

もうひとりは朝陽の幼馴染みの友人・上間浩。
そして浩の父の後妻の連れ子・上間夏月。
浩はいかにも悪ぶっている少年。
しかし、朝陽と比べると、ほんの不良でしかありません。
義理の妹である夏月とわけあって家出中。

この2人はつまり、朝陽のたくらみの捨て駒なのですが、
当人たちは友情だと信じて疑わない。

・・・とまあ、恐ろしい物語なのですよ。
昇も、あまりにも短絡的な殺人鬼ではありますが、それより一枚上手なのが朝陽。

こういうのはおそらく年齢とは関係ないのだけれど、
何しろ中学生の少年がそんなことを・・・という意外性におののかされてしまうのです。
だから、昇も相手を見くびって油断してしまう・・・。

ヤダヤダ・・・。
後味悪し。

 

<Amazon prime videoにて>

「ゴールドボーイ」

2023年/日本/129分

監督:金子修介

原作:ズー・ジンチェン「悪童たち」

脚本:港岳彦

出演:岡田将生、黒木華、羽村仁成、星乃あんな、前出燿志、北村一輝、江口洋介、松井玲奈

 

ワル度★★★★★

満足度★★★☆☆


ルックバック

2024年11月22日 | 映画(ら行)

京本が本当に目指していた未来

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話題となったアニメですが、劇場では見逃してしまっていました。
この度早くもAmazon prime videoで見られるようになったのには感謝。

小学校の学校新聞に4コマ漫画を連載し、
クラスメイトらから賞賛される4年生の藤野。

先生から同学年、不登校の京本の描いた4コマ漫画を
新聞に載せたいと告げられます。

それまで、自分の絵に自信満々だった藤野は、
京本の画力に打ちのめされ、本気で絵を描くことを学びはじめます。

やがて、正反対の2人の少女は、漫画へのひたむきな思いでつながっていき、
ついに、合作での漫画雑誌デビューを果たします。
けれど、めざす道は異なっていって・・・。

 

道が異なっていくことの先に待ち受けていた運命が、
あまりにもショッキングで、言葉を失います。

はじめちょっと上から目線だった藤野。
ひたすら藤野を敬愛し、彼女についていくことを目指していた引きこもりの京本。
でも京本は、もっと先の未来を見据えて
自分の道を選んでいたということですよね。
彼女にとっては渾身の勇気を振り絞る行為だったはず。

でも、自分がそういう未来を信じれば、
そんなこともできる、ということなのかもしれません。
それなのに・・・。

京本がいたからここまでやって来ることができた・・・。
そう思う藤野が書き換えたかった過去。
本当に、そうだったらよかったですね・・・。

切ない。


<Amazon prime videoにて>

「ルックバック」

2024年/日本/58分

監督・脚本:押山清高

原作:藤本タツキ

出演(声):河合優実、吉田美月喜、斉藤陽一郎

青春度★★★★☆

コンビネーション度★★★★★

満足度★★★★★


「文学キョーダイ!!」奈倉有里 逢坂冬馬

2024年11月20日 | 本(その他)

どういう家庭に育てば、こんな風になれるのか・・・

 

 

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ロシア文学者・奈倉有里と、小説家・逢坂冬馬。

文学界の今をときめく二人は、じつはきょうだいだった!
姉が10代で単身ロシア留学に向かった時、弟は何を思ったか。
その後交差することのなかった二人の人生が、
2021年に不思議な邂逅を果たしたのはなぜか。
予期せぬ戦争、厳しい社会の中で、我々はどう生きるか?

縦横無尽に広がる、知性と理性、やさしさに満ちた対話が一冊の本になりました。

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私、敬愛する奈倉有里さんと、大ヒット作「同志少女よ敵を撃て」の著者・逢坂冬馬さんが
姉弟であると知った時には驚きました。
そして、一体どう育てればこんな立派な子どもたちができあがるのか、
と、つい思ってしまいました。

本巻、そんな下世話な疑問にも答えの出る本となっています。

 

お二人のお父様は、日本史の先生なのですね。
ただ教える人というよりも、現役の研究者。
そして、子どもたちには「好きなことを好きなようにやりなさい」という主義。
出世しなさいみたいなことはまったく言わない。

よく、周りの人からお父さんは「となりのトトロ」の
さつき・メイ姉妹のお父さんに雰囲気がよく似ていると言われたそうで。
なるほど、そういわれると、すごく想像しやすいですね、その感じ。
で、ジブリついでで、このお二人は「耳をすませば」の天沢聖司と月島雫であるという。
つまり、好きなことのために外国へ留学してしまった天沢聖司が奈倉有里さん。
文を書くことが好きで作家になった月島雫が逢坂冬馬さん。
男女逆転しているところがまた、この姉弟っぽい。
お二人の子どもの頃や、その家族、お祖父さまの話など、大変興味深く拝読しました。
・・・まあ、なんにしてもやはり、そこらの家庭とは違うな、とは思います。

 

そして、お二人は特別親しく連絡を取り合うということもなく、
互いの近況は人づてに聞く程度であったにもかかわらず、
2021年、有里さんは初の単著「夕暮れに夜明けの歌を 文学を探しにロシアに行く」を上梓し、
その一ヶ月ほど後に逢坂冬馬さんのデビュー作「同志少女よ、敵を撃て」が出版されたとのこと。

しかも「夕暮れに」は紫式部賞受賞。
「同志少女」はアガサ・クリスティー賞および本屋大賞受賞。
なんというタイミング! 
スバラシイですね。

 

そして、最終章ではうんと話は深まって「戦争」についてが語られて行きます。
ロシア文学を研究する有里さんにとっては、戦争は避けては通れないし、
逢坂さんの「同志少女」も、そのものズバリ、戦争の話ですものね。

この日本もまた、ある種の国民の思想統制的な流れが現在進行形である
・・・というあたりも一読に値するのではないでしょうか。

 

対談中、有里さんが弟を逢坂さん、逢坂さんは姉を「有里先生」と呼んでいるのが、
いかにも互いを尊重していることがうかがわれて、ステキでした。

 

<図書館蔵書にて>

「文学キョーダイ!!」奈倉有里 逢坂冬馬 文藝春秋

満足度★★★★★


グラディエーターⅡ 英雄を呼ぶ声

2024年11月18日 | 映画(か行)

年月を経たからこその

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大ヒット作「グラディエーター」の、24年ぶりとなる続編。
私、つい最近「グラディエーター」は見直していて、予習はバッチリでした。

冒頭、舞台は北アフリカ。
将軍アカシウス(ペドロ・パスカル)率いるローマ帝国軍の侵攻により
敗れ、愛する妻を殺され、奴隷の身となったルシアス(ポール・メスカル)。
すべてを失った今、アカシウスへの復習を心に誓っています。

そんな時彼は、奴隷商人アクリヌス(デンゼル・ワシントン)と出会う。
アクリヌスは、ルシアスの中で燃えさかる怒りに目を付け、
彼を有望株の剣闘士(グラディエーター)として、ローマへ移送します。
そしてルシアスは、コロセウムでの戦いに挑んでいく。

さて、ルシアスは作中の半ばほどまでルシアスとは名乗らず、
別の名を名乗っています。

ネタばらしとなってしまいますが、これは本作の解説サイトなどでも言ってしまっているので、
ここでも、お許しを・・・。

つまりルシアスというのは、先々代の皇帝の娘にして、先代の皇帝の姉である
ルッシラの息子なのです。
今の皇帝は狂気の独裁者である双子の兄弟。
ルッシラは、この2人に必ずや命を狙われることになるであろう息子を逃し、
以後、行方も分らなくなっていたのでした。

ところが、なんとなんと、このルシアスは、
前作のヒーローであるマキシマスの息子であるというのです。
うそ~、と思いますが、前作でマキシマスとルッシラが
以前ただならぬ関係だったらしいとは誰もが感じるような作りになっていましたし、
一度だけ獄中にあるマキシマスと少年ルシアスの対面シーンは
妙に意味ありげで印象的な場面となっていました・・・。
実は親子であると、そうした含みがあったことを24年後の今知るなんて・・・。
恐るべし。

というように、本作、単に二番煎じではなくて、
年月の流れを経たことにこそ意義があるのです。
ルシアスは、他のいかにも筋骨隆々の戦士たちに比べるとやや小柄ではあるけれど、
あのマキシマスの血を引いているとなればその剣闘センスに納得なのです。
実の母との対面とか・・・エモい、エモすぎます。

そして、前作でもそうだったけれど、「独裁政治」の恐ろしさは、さらにスケールアップ。
トップがどれだけ横暴でバカであっても、
周囲の重鎮は我が身のかわいさで異論を挟むことをしない。
すべてが皇帝の意のまま・・・。

本作はこうした独裁政治の恐ろしさも強く訴えていると思います。
現在、大国のトップがいつこんな風に豹変するとも限らない恐怖・・・。
(いえ、豹変ではなくて、すでにそうなのでは? R国だけでなくA国も)

 

そして戦闘シーンの迫力も、スケールアップしています。
殺人ヒヒとか、巨大なサイとか・・・。
コワイコワイ。
あげくに、コロセウム内に水をたたえての、海戦シーン。
周囲には巨大なサメがうようよって、きゃー、しんどい。

結果、マキシマムがいてこその本作。
もちろん本作だけでも十分に楽しめるのですが、
前作と引き続き見たほうが、感慨もひとしおです。
ぜひ、「グラディエーター」を見てからこちらをご覧ください。

 

<シネマフロンティアにて>

「グラディエーターⅡ 英雄を呼ぶ声」

2024年/アメリカ/148分

監督:リドリー・スコット

出演:ポール・メスカル、ペドロ・パスカル、ジョセフ・クイン、
   フレッド・ヘッキンジャー、コニー・ニールセン、デンゼル・ワシントン

迫力度★★★★★

残酷度★★★★☆

満足度★★★★★

 


眠りの地

2024年11月16日 | 映画(な行)

大企業のやり口を暴け

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実話をもとにしています。

葬儀社を営むジェレマイア・オキーフ(トミー・リー・ジョーンズ)。
近年、資金繰りに困っていて、会社の一部を大企業に売却しようと考え、
大手企業と契約を結ぼうとしたのですが、相手方からの書類が戻って来ません。
どうやら、相手方ローウェン・グループの悪意あるたくらみようなのです。

オキーフは代々つづく家業をこの巨大企業ら守るため、
訴訟を起こすことを決意します。
そこで、近年負けなしというカリスマ弁護士、ウィリー・E・ゲイリーを雇います。
正反対の性格の2人ですが、
大企業の腐敗や人種的不公平を共に暴いていくうちに、絆が芽生えはじめます。

ウィリーはこれまで契約関係の弁護経験がなかったのですが、
この度初めて取り組むことに。
本当に大丈夫なのか?と思いますが、本人はとにかくハッタリめいた強気な主張で
これまで勝ち抜いてきたので自信満々。
多大な賠償金を相手方に要求します。

さて、見ていて気づくのは、この裁判では契約のあり方について、
針の穴に糸を通すような小難しい法解釈を用いたりしない。
どうやって陪審員の関心と共感を呼び、味方に付けるかというのが主題。

この裁判所の地域は黒人が多い地域で、陪審員もほぼ黒人。
そんな中で、弁護士が黒人で、オキーフ自身も差別意識がないというのは有利な条件。
でも、もっと決定的な決め手は相手方にありました。
巨大企業の悪質なやり方をウィリーらは暴いていく・・・。

ということで、陪審員たちの気持ちは一気に反ローウェン・グループへと傾いていく・・・と。

訴訟の本題とは異なるところで、こうしたことが決定していって良いのかな?
と疑問に思わなくもないのですが、
それにしても大企業の悪質なやり口を目の当たりにしたら、
やっぱり小さな企業を勝たせるのが正義とも思えてきます。

陪審員制度って、どうなのか。
難しいところではあります・・・。

<Amazon prime videoにて>

「眠りの地」

2023年/アメリカ/127分

監督:マギー・ベッツ

原作:ジョナサン・ハー

脚本:ダグ・ライト、マギー・ベッツ

出演:トミー・リー・ジョーンズ、ジェイミー・フォックス、
   ジャニー・スモレット、ママドゥ・アティエ、パメラ・リード、アラン・ラック

大企業の真実度★★★★☆

陪審員重要度★★★★★

満足度★★★.5


やすらぎの森

2024年11月15日 | 映画(や行)

世捨て人たちの住むところ

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カナダ、ケベック州。
人里離れた深い森の中にある湖のほとり。
そこで3人の男性老人がそれぞれの小屋で犬と共に暮らしています。
3人はそれぞれの理由で社会に背を向け、世捨て人となったのです。

毎日湖で泳ぎ、絵を描いたりギターをつま弾いて歌ったり、気ままな暮らし。
しかしその、絵を描いていた男が、ある日穏やかに永遠の眠りについてしまったのです。
そんな時から物語は始まります。

1人の老婦人がここへやって来ます。
彼女は少女時代の不当な措置により、精神科療養所に60年以上も入れられ、
外界と隔絶した生活を強いられてきたのでした。

世捨て人たちに受け入れられた彼女は名を捨て、マリーと名乗り、
第二の人生を踏み出し、日に日に活力を取り戻していきます。

しかしそんな時、森の日常を揺るがす緊急事態が・・・。

この地域一帯は、その昔大規模な森林火災があって、
多くの人々が犠牲になった地でもあります。
絵を描いていた老人は、おそらくその時に家族を亡くして、
孤独の淵に沈みながら、焼け焦げた森の絵を描き続けていたのでしょう。

マリーはおそらく霊感が強い人で、子どもの頃そのようなことを口にしたために、
父親に気味悪く思われて精神病院に入れられたということのようなのです。
だから彼女は絵描きの描き残した絵に、強く反応するのです。

それにしても、60年・・・。
人間らしい扱いも受けられず、外の世界を見たこともない・・・。
あまりのことに言葉を失います。

そして世捨て人とはいっても老人同士は気心も知れて、
やはり人と人との絆を求めてはいるわけで。

けれど、なんのために生きるのか、生きているのか。
そうしたことが最後まで生きようとするか、もういいと思うのかの
分かれ目ではあるのですね。

とにかく、この森の奥の老人たちの世界はまずはうまく回っているのです。
ところが、これが外界の現実社会から見ると見方は変わってくる。

森の奥に勝手に住み着いている得体の知れない老人たち。
おまけに、違法薬物の原料である植物を栽培している(これは本当)。
そして、マリーは勝手に精神病者の施設を抜け出したわけで・・・。

どうやらここが安住の地というわけにはいかないらしい・・・。

幸福なのかそうでないのか、よく分らない物語。
それはつまり、見る人それぞれの考え方ということになるのでしょう。

<Amazon prime videoにて>

「やすらぎの森」

2019年/カナダ/126分

監督・脚本:ルイーズ・アルシャンボー

原作:ジョスリーヌ・ソシエ

出演:アンドレ・ラシャペル、ジルベール・シコット、レミー・ジラール、ケネス・ウエルシュ、エブ・ランドリー

世捨て人度★★★★☆

満足度★★★.5


「文化の脱走兵」奈倉有里

2024年11月13日 | 本(エッセイ)

戦う勇気ではなく逃げる勇気

 

 

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本を片手に、戦う勇気ではなく逃げる勇気を。
言葉を愛する仲間たちに贈る、待望のエッセイ集。

「国でいちばんの脱走兵」になった100年前のロシアの詩人、
ゲーム内チャットで心通わせる戦火のなかの人々、
悪い人間たちを化かす狸のような祖父母たち──
あたたかい記憶と非暴力への希求を、文学がつないでゆく。

紫式部文学賞を受賞したロングセラー『夕暮れに夜明けの歌を』の著者による、
最新エッセイ集。

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奈倉有里さんのエッセイ集です。

著者はおそらく、今時なぜロシア文学なのか?と
人から問われることが多いのだろうと思います。

それは彼女自身が日々考えていることだろうと思うのですが、
人から問われたとしても、そう簡単に説明できることではないのだろうとお察しします。

本巻は、そのような著者の思いが凝縮された一冊だと思います。

著者がロシア留学中とその後の研究生活の中で
知り合った多くのロシアの人たちにも、思いを馳せています。
著者の知り合いと言えば多くは文筆にかかわる人たち。
そうした人々であればこそ、今の政権やこの度の戦争については反発がないはずはない。

けれどもそれを声高に言うことはまさに命にかかわることなのですね。
だから、心ならずもロシアから出て活動せざるを得ない人もいるということ・・・。

著者はロシアにとどまっている人、去った人を問わず、
なんとかそういう人たちの力になりたいと切に思っているわけですが、
それは同時に私たちの課題でもあります。

本を片手に、戦う勇気ではなく逃げる勇気を。
まさに、そのことです。
貴重な一冊。

それにしても、この戦争はいつまでつづくのでしょう・・・。

 

また、別件ではありますが、著者は新潟県柏崎の
とある古民家を購入して住むことにした、とあります。
新潟には彼女の祖父母の家があって、子どもの頃に夏休みをそこで過ごしたので、
大変馴染みのある場所ではあるのですね。

でももう一つ大きなポイントは、そこに原子力発電所があること。
彼女を知る人なら、原発については反対であろうことは想像できるのですが、
ではなぜわざわざそこに住もうとするのか。

「柏崎原発を人類の当事者として考えたい」と、彼女は言うのです。

返す言葉もありません。
自分にはさして影響のない場所から「原発なんていらない」というのは簡単ですが、
その場所に住む人々こそが、いろいろな意見を発する意味があるわけで。

奈倉有里さんはおとなしそうに見えて、実に、思い切った行動をする方なのです。
今後も注目して応援していきたいと思います。

「文化の脱走兵」奈倉有里 講談社

満足度★★★★☆


本心

2024年11月11日 | 映画(は行)

バーチャル母は、ホンモノなのか?

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工場で働く、石川朔也(池松壮亮)。
独身、母(田中裕子)と同居。
その日、母から「大切な話をしたい」と言われるのですが、帰りが遅くなってしまいます。

帰り道、豪雨で氾濫しそうな川べりにたたずむ母を目撃。
そして不意に母の姿が消えてしまいます。
母を助けようと川に飛び込んだ朔也は、昏睡状態となり、
それから一年後に目覚めます。
そして、母が“自由死”を選択して死亡したことを知ります。

たった一年の間に、変貌している世界。
朔也の勤務先の工場はロボット化のため閉鎖。
やむなく朔也は、“リアル・アバター”の仕事に就きます。
それは、カメラを搭載したゴーグルを装着し、
遠く離れた依頼人の指示通りに働く、というもの。
でもそれは、いつもまともな依頼者とは限らないのです・・・。

そしてまたそんな頃、朔也は仮想空間に任意の人間を作るという
VF(バーチャル・フィギュア)の存在を知り、母を作ってもらうことにします。
生前の母のあらゆるデータを制作者に提供することによって、
ゴーグルを装着すればまるで生きた本人そのものがその場にいるように見えて、
話をすることもできるのです。

 

その母のデータ提供に協力してくれたのが、母の親友だったという三好(三吉彩花)。
三好は住むところがないというので、朔也は同居を提案。
バーチャル母を含めて3人の暮らしが始まります・・・。

近未来が舞台ではありますが、もうそれは未来ではなく
現在であってもおかしくないくらいですね。

まずは自由死とは・・・。
自分の意志で命を絶つことが「権利」として認められる、というようなことかな? 
そうすると、遺族に給付金があって、税金でも優遇されるとか。
今の老齢化社会の対策ですかね? 
希望すれば安楽死も。
そんなことがあってよいのかという批判はもちろんあるでしょうけれど、
私はちょっと魅力を感じたりもします・・・。

 

しかし、問題はそこではなくて、デジタルが人の生活にどこまで食い込んで、
人間性を剥奪していくのか、あるいはそうではないのか、ということ。

朔也は、あの日母が何を自分に言おうとしていたのか、
そしてなぜ自由死を選んだのかということを聞きたくて、母のVFを作ったのでした。

これまでのデータの蓄積で作られた「母」。
それは本当に母そのものの思考をするのか?
しかし、母そのものとはいったい何なのか? 
VFの母は、自分が思っていた母とは違うようでもあるのだけれど・・・。

 

母の本心とは・・・? 
というテーマではあるのですが、本作は、
三好の本心、そして朔也自身の本心も曖昧になってくるという罠がありますね。

ぐるぐる、色々と考えてしまう作品なのでした。

地味に、豪華キャストが出演してます。
三吉彩花さんが、三好彩花役って・・・?

リアルアバターの仕事は、真っ先にブラックバイトの餌食になりそうですよね・・・。

<シネマフロンティアにて>

「本心」

監督・脚本:石井裕也

原作:平野啓一郎

出演:池松壮亮、三吉彩花、水上恒司、仲野太賀、田中泯、綾野剛、妻夫木聡、田中裕子

末恐ろしさ★★★★☆

満足度★★★★☆

 


変な家

2024年11月09日 | 映画(は行)

単に児童虐待の話ではなく・・・

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オカルト専門の動画クリエイター、雨宮(間宮祥太朗)。
マネージャーから、購入予定の一軒家の間取りに不可解な点があると相談を受けます。
雨宮は、オカルトネタ提供者であるミステリー愛好家の設計士、
栗原(佐藤二朗)に意見を聞きます。

見取り図から浮かび上がる奇妙な違和感。
そしてそこから導き出される恐ろしい仮説・・・。
そして、その家のすぐ近くで、死体遺棄事件が発生。
雨宮はさっそくこれら一連の出来事を動画投稿しますが、
やがてその家に心当たりがあるという女性・柚希(川栄李奈)から連絡が来ます。

奇妙な家の見取り図。

それは私も気づいたのですが、
窓もなくトイレ付きで二重のドアを通らなければ入れない子ども部屋・・・。
それはどう考えても“監禁”のための部屋としか思えません。

しかし、一階に意味不明の空白の場所があるというのは、
実際、意味が分らなかったのですが、
作中では想像たくましい栗原が驚きの仮説を展開していきます。

単にとある一家の児童虐待の話かと思いきや、
とある一族の恐ろしい因習・・・というオカルト話に進んでいくのでした。

柚希役の川栄李奈さんが、イメージの違う怪しげで不気味な雰囲気を醸し出しつつ登場。
どうなることかと思いましたが、
そこそこ雨宮と心通い合う間柄になっていくので一安心。

なんとなく予想していたストーリーとは違うものの、面白く見ました。

 

なんとなく人が良さそうな栗原が実は・・・?などと言う展開も予想したのだけれど、
そうはならなかった・・・。

 

<Amazon prime videoにて>

「変な家」

2024年/日本/110分

監督:石川淳一

原作:雨穴

脚本:丑尾健太郎

出演:間宮祥太朗、佐藤二朗、川栄李奈、長田成哉、瀧本美織、斉藤由貴、高嶋政伸、石坂浩二

スリル度★★★☆☆

不気味度★★★★☆

満足度★★★.5


グラディエーター

2024年11月08日 | 映画(か行)

コロシアムで繰り広げる死闘

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アカデミー賞作品賞など5部門受賞に輝いた、2000年の大作。

私はその時に見ていたのですが、この度その続編が公開になるということで、
復習のため、本作を見た次第。
・・・というか、あれからすでに24年も経っているというのが信じがたいですが・・・。

古代ローマ皇帝アウレリウス(リチャード・ハリス)は、
信頼を寄せる将軍マキシマス(ラッセル・クロウ)に
次期皇帝の座を譲ろうと考えていました。
それを知った皇帝の息子・コモドゥス(ホアキン・フェニックス)は、
父を殺して王座を奪い、マキシマスを反逆者として死刑を宣告します。

マキシマスは辛くも逃れて故郷へ向かいますが、
妻と幼い息子はコモドゥスの手下に殺されていました。

絶望の中、奴隷に身を落としたマキシマス。
やがて、剣闘士(グラディエイター)として名を上げ、
闘技場で死闘を繰り返しながら、コモドゥスへの復讐の機会を狙います。

 

マキシマスは故郷の麦畑で、麦の穂先を手のひらに感じながら歩くのが好きだったのでしょう。
そのシーンが、24年前に見たときからずっと心に残っていました。

妻と息子のいる故郷。
麦畑がつづく豊かな地。
マキシマスは本来そのような平穏な暮らしが好きなのでした。
しかし、たぐいまれなる戦闘能力と多くの兵を率いる指揮官としての能力にも長けていて、
多くの者からの信頼も得ている。
アウレリウスが実の息子よりも彼を次期皇帝にしようとしたのにも肯けます。

しかるに、コモドゥスというのがどうしようもなく野心家であり、嫉妬深く、残虐・・・。
とにかく、ものすごーく嫌なヤツ。
それをガッツリ演じるホアキン・フェニックスはさすがであります。

 

コロシアムでの戦闘シーンの迫力。
繰り広げられる死闘。

とにかく圧倒されてしまう作品でした。

さてさて、たいていこういう場合の続編は、期待外れになることが多いのですが、
どうなりますやら。
少なくとも24年も経ってから続編を作る意義はあってほしいものです。

 

<Amazon prime videoにて>

「グラディエーター」

2000年/アメリカ/155分

監督:リドリー・スコット

出演:ラッセル・クロウ、ホアキン・フェニックス、コニー・ニールセン、
   オリバー・リード、ジャイモン・フンスー、リチャード・ハリス

強さ★★★★★

迫力度★★★★☆

満足度★★★★☆


「大鞠家殺人事件」芦辺拓

2024年11月06日 | 本(ミステリ)

正調お屋敷一家一族連続殺人本格探偵小説

 

 

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大阪の商人文化の中心地として栄華を極めた船場――
戦下の昭和18年、婦人化粧品販売で富を築いた
大鞠家の長男に嫁ぐことになった陸軍軍人の娘、中久世美禰子。
だが夫は軍医として出征することになり、
一癖も二癖もある大鞠家の人々のなかに彼女は単身残される。
戦局が悪化の一途をたどる中、大鞠家ではある晩“流血の大惨事”が発生する。
危機的状況の中、誰が、なぜ、どうやってこのような奇怪な殺人を?
正統派本格推理の歴史に新たな頁を加える傑作長編ミステリ!

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芦辺拓さん作品、私は久しぶりかもです。

著者は本作をこう説明しています。
「正調お屋敷一家一族連続殺人本格探偵小説」
そう、いかにもなそういうミステリをたまに読みたくなってしまう、
もと本格ミステリファンなのでありました。

 

本作の舞台は昭和18年、大阪の船場という商人文化の中心地にある大店に
中久世美禰子が嫁いで来るあたりから。

でも冒頭に、不可思議な1人の青年の消失事件が語られています。
実はこのことが後々の事件の大きなもととなっているのですが・・・。

 

一家の主の不可解な縊死事件。

そして長女の流血事件。

主の妻の奇怪な溺死事件。

そして、自称名探偵の哀れな殺人事件・・・。

そうなんですよ、本作に、「名探偵」が登場するのですが、
まったく頼りにならないあげくに、殺されてしまうという。

 

しかも昭和20年の大阪大空襲で、屋敷も何もかもすっかり焼けてしまい、
証拠もあとかたなく失われてしまうのです。

しかし本当の「名探偵」役は最後の最後に登場します。
残された関係者の語るピースをきっちりとハメ合わせていく、名探偵が。

 

本格ミステリをたっぷりと楽しませてもらいました。

 

「大鞠家殺人事件」芦辺拓 東京創元社

満足度★★★★☆