ことばの白地図の冒険
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ロシア文学の研究者であり翻訳者である著者が、
自身の留学体験や文芸翻訳の実例をふまえながら、
他言語に身をゆだねる魅力や迷いや醍醐味について語り届ける。
「異文化」の概念を解きほぐしながら、
読書体験という魔法を翻訳することの奥深さを、
読者と一緒に“クエスト方式”で考える。
読書の溢れんばかりの喜びに満ちた一冊。
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本作の著者はロシア文学の研究者であり翻訳者でありますが、
近頃その関連の著作などでも脚光をあびています。
私、先頃直接この方のお話を聞く機会がありまして、
何か少し浮世離れしつつ素晴らしい才能に恵まれた方・・・という印象で、
すっかりファンになってしまい、その著作を色々読んでみたくなりました。
それで今Wikipediaを見てみたら、なんと弟さんはあの逢坂冬馬さん!!
なんとなんと・・・。
そうか、それで共著に「文学キョーダイ!!」というのがあるわけなんですね。
さてさて、著者のことについてはこの先もご紹介することがあるかもしれませんので、
とりあえず本作の話。
創元社から出ている「あいだで考える」シリーズのうちの一冊であります。
翻訳者になるためにはどうすればいいのか。
それをRPGで「ことばの白地図」を冒険することに例えながら、
自身のロシア語、ロシア文学を学んだ経験に照らして語っていきます。
ゲームをするような感覚で、ちょっとワクワク。
中でも、「文化」について触れているところ。
今、教育委員会が言っているような「異文化」と「自国の文化」の境界を
明確に線引きし、特定の国籍の人々が属するものとするのは、
あまりにも強引であるばかりか、端的に言って不正確である。
・・・と、きっぱりと批判しているあたりがなんとも痛快で気に入りました。
そもそも文化って何?という話ですが、
説明すると長くなるので、ぜひ本巻で確認していただきたい。
そして、最後に実際に「翻訳」の話があるのですが、
著者は翻訳にかかる前に原本を10回くらいは読むそうです。
それは原文を読む原語を母語とする読者の読書体験を大切にするため。
原文の読者がどの部分でどのように感じるのか、
それをそのまま翻訳文で再現したいということなのでしょう。
当たり前と思うかも知れませんが、中には非常に「原文に忠実」な翻訳というものもあります。
すなわち、翻訳を読むとその向こうに原文の言い回しや構文が透けて見えるような訳し方。
・・・実は私、若い頃にこういう翻訳に辟易して
すっかり海外物の本を読むのがイヤになってしまったのです。
さすがに近頃はそこまでガチガチの翻訳は見なくなりましたが。
それなので、著者のこう言う考え方には大いに賛成。
ロシア文学などと聞くととても手が出ない感じでしたが、
この際、著者翻訳による本をぜひ読んでみたくなりました!!
<図書館蔵書にて>
「ことばの白地図を歩く 翻訳と魔法のあいだ」奈倉有里 創元社
満足度★★★★☆