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「白野真澄はしょうがない」奥田亜希子

2024年02月02日 | 本(その他)

5人それぞれの白野真澄

 

 

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小学四年生の「白野真澄」は、強い変化や刺激が苦手だ。
横断歩道も黒い部分は暗い気持ちになる気がして、白いところだけを渡って歩いている。
なるべく静かに過ごしたいのだが、
翔が転校してきてからその生活は変化していく……(表題作)。
頼れる助産師、駆け出しイラストレーター、
夫に合わせてきた主婦、二人の異性の間で揺れる女子大生。
五人の「白野真澄」たちが抱えるそれぞれの生きづらさを、
曇りのない視線で見つめた短編集。

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私には初めての作家さんですが、奥田亜希子さんの短編集。
5篇が収められています。
ところが、どの話も主人公の名前が「白野真澄」。
でも連作短編ではなくて、すべて別人。
ある時は30歳過ぎの助産師。
またある時は駆け出しイラストレーター男子。
50代の婦人であったり、小学4年の少年であったりもします。


性別も年齢も関係なくなぜ皆同じ名前なのか。
その答えはラストの表題作「白野真澄はしょうがない」にあるかもしれません。

 

小学4年男子の白野真澄くんは、どうも人と違っていて、
いろいろな色の具材が混ざり合っているモノが食べられない。
辛かったり苦かったり、酸っぱすぎるモノもダメ。
だから給食はほとんどがダメ。
大きな音、初めてのこと、突発的な出来事・・・
神経が過敏なのでそういうこともダメなのです。
それだからクラスの男子の友人はできなくて、
しかしなぜか女子には庇われている・・・。
そんなところへ転校してきた黒岩くんが積極的に白野くんに近づいてきます。

黒岩くんは言うのです。
「白野真澄だからしょうがない」と。
それは決して白野くんがしょうがないダメなヤツという意味ではなくて、
「白野真澄」とはこう言う人物なのだから、
あれこれ文句を言ったり叱咤激励したりするのは意味がない、
ということ。
すなわち、こんな白野くんを丸ごとそのまんま受け入れれば良いんだ。
だって白野真澄なんだから・・・と。
このことばで、白野くんは劣等感から解放されるんですね。

名前は自分自身を表わすもの。
でも同じ名前を持っていたとしても人格は別々。
自分が自分の「白野真澄」をつくるのだ、ということ。

ステキな一冊です。
私、創元文芸文庫、気に入っています。

「白野真澄はしょうがない」奥田亜希子 創元文芸文庫

満足度★★★★☆

 



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