みずみずしく、若くてしなやかな感情
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思っていることが、なんで言えないんだろう。
おしゃべりな周也と寡黙な律が、ちょっとした行き違いから、気まずいまま下校していると
――小学校国語教科書に掲載された「帰り道」をはじめ、
口に出せなかった思いをめぐる「遠いまたたき」、
転校先で新たな一歩を踏み出す「あしたのことば」、
文庫化に際して新たに加えられた書き下ろし「%」など、
言葉をテーマにした9つの物語。
子どもからおとなまで、すべての人の心に染みる珠玉の短編集。
人気イラストレーターとの豪華コラボも実現し、
しらこ、赤、長田結花、早川世詩男、100%ORANGE、植田たてり、
酒井以、中垣ゆたか、阿部海太、今日マチ子のイラストを収録。
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森絵都さんの短編集です。
多くが小・中学生が主人公。
学校の友人関係をテーマとしているものが多いのですが、
中の「帰り道」は、小学校の教科書に掲載されたものだそうです。
思ったことがポンポン口から飛び出してしまう周也と、
なかなか思いを口に出すことができない律。
いつもは仲が良いのですが、その日ちょっとしたできごとがあって、
気まずい雰囲気になってしまっています。
仲直りしたくて、律の帰り時間に合わせて一緒に帰ろうとした周也。
けれど、やはり気持ちは行き違っているようで、黙りこくったまま歩き続きます。
でもそんな時、不意の出来事があって・・・。
始めは律の視点で、次には周也の視点で、同じ場面が繰り返して描かれています。
気持ちのわだかまりが、ある出来事でするするとほどけていく・・・。
ほんのささやかな出来事ではありますが、
些細なことで気持ちがモヤモヤして、
そしてそれとは全く別の出来事でなぜかモヤモヤが消え去っていく・・・。
そんな出来事も、私たちの日常の中では、特にめずらしいことでもないのかも知れません。
でも、小学生というみずみずしい心の土壌でそれが起きるというのは、
意味があることのように思えます。
自分とは別の存在があって、それは自分自身と同じように互いに尊重すべきもの・・・
そういう意識の芽生えがステキだなあ・・・。
もう一つ、「風と雨」という作品では、
2人のみならず3人の視点から描かれています。
風香と同じクラスにいる瑠雨(るう)という子は、言葉を話しません。
家では少しですが話をしているそうで、障害ではなさそう。
だから風香も瑠雨とは親しいわけではなかったけれど、
ある時、瑠雨が音楽に興味を持っているらしいことに気がつきます。
それでついある日、おじいちゃんの“ヨウキョク”を聞きに来ないかと誘ってしまうのですが・・・。
“ヨウキョク”というのが何なのかがミソ。
風香と瑠雨、そしてそのおじいちゃんの視点で描かれる物語。
これも面白い。
総じて、私、すっかりおばちゃんではありますが
気持ちだけは若いつもりでおりました。
しかし本作を読んで、イヤイヤイヤ、
小中学生くらいの本当にみずみずしくて若くてしなやかな気持ち・・・、
これはさすがに忘れ去ってしまっていたかも・・・と、今さらながらに認識しました。
つまりは著者がそういう所をもしっかり描写できているということなのでしょう。
教科書掲載も納得。
「あしたのことば」森絵都 新潮文庫
満足度★★★★★
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