映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

バッドボーイズ RIDE OR DIE

2025年03月22日 | 映画(は行)

若いときよりも「命がけ」が身にしみる

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お騒がせ刑事コンビ「バッドボーイズ」のシリーズ第4弾。

何しろ第一作は1995年とか。
えっ?! 30年も前なのですか。
ほんのちょっと前のような気がするけれど・・・。
でも、私、3作目は見たのだろうか・・・?と不安になりましたが・・・。
はい、大丈夫。
ちゃんと見ています。
内容忘れてたら見てないのと一緒かも、とは思いますが・・・。

マイアミ市警のベテラン刑事コンビ、マイク・ローリー(ウィル・スミス)と、
マーカス・バーネット(マーティン・ローレンス)。

2人が敬愛する、今は亡き上司ハワード警部に、
麻薬カルテルと関係があったという汚職疑惑が持ち上がります。
無実の罪を着せられたハワード警部の汚名をすすぐべく、
独自に捜査に乗り出すマイクとマーカス。
しかし、2人とも容疑者として、警察からも敵組織からも追われる身となってしまいます。
上司が残した「内部に黒幕がいる」というメッセージを胸に、
命がけの戦いに身を投じていく2人・・・。

麻薬カルテルと癒着する警察上層部の闇・・・。
ありがちな話ではありますが、
飛行機墜落の危機とか、ほとんど戦争のような打ち合いのシーンとか、
なかなか迫力がありました。

マイクもマーカスも、もうそれなりの年ですが、
アクションシーンの描写技術の向上の故なのか、ぜんぜん見劣りしないと思います。

本作には、獄中にいるマイクの息子(前作参照)も登場。
やっぱり若者は体力・気力共に充実してるなあ。
若い登場人物はやはり必要なんですね。

それから、本作中で、マーティンが心臓発作で倒れて、臨死体験をします。
無事命を取り留めますが、その後彼の言動が
どうもスピリチュアル方向に寄っているのがなんともおかしい。
こういうところにやっぱり年齢が出てしまうけれど、それも又良し。

どうでもいい話をダラダラ続けるだけのシリーズものもありますが、
本作については、この一話の存在価値がちゃんとある、楽しめる一作でした。

 

<WOWOW視聴にて>

「バッドボーイズ RIDE OR DIE」

2024年/アメリカ/115分

監督:アディル・エル・アルビ、ビラル・ファラー

出演:ウィル・スミス、マーティン・ローレンス、バネッサ・バジェンス、ジョー・パントリアーノ、
   アレクサンダー・ルドウィグ、ジェイコブ・スキピオ

アクション度★★★★☆

正義心度★★★★☆

満足度★★★★☆


52ヘルツのクジラたち

2025年03月21日 | 映画(か行)

聞き届けてくれる人はきっといる

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母親に支配され、ただ義父の介護にのみ生きて、
ほとんど自分をなくしていた貴瑚(杉咲花)。

ある出来事の後、1人で海辺の町の一軒家に越してきます。
そこで彼女は母から「ムシ」と呼ばれ虐待されている、
声を発することができない少年と出会います。

貴瑚は少年との交流を通し、
かつて自分の声なきSOSに気づいて救い出してくれた
アン(志尊淳)との日々を思い起こしていきます・・・。

 

アン(岡田安吾)はかつて、貴瑚の苦境に気づき、
義父の介護の公的な手続きや施設の世話、
そして支配的母親からの解放を図ってくれたのです。
貴瑚は当然のごとくアンにひかれ、ついには告白をするのですが、
アンは「いつも君の幸福を願っている」と言うだけで、受け入れてくれません。
どうもアンには貴瑚にも言えない秘密があるようなのです。

失意の貴瑚は、やがて別の青年を愛するようになるのですが・・・。
その先の出来事はさらにつらい・・・。
確かにこんなことがあれば、1人で見知らぬ町に住みたくなってしまうかも、ですね。

題名の「52ヘルツのクジラ」というのは、
他のクジラが聞き取れないほど高い周波数で鳴く
世界で一頭だけの孤独なクジラのこと。
このクジラのように、自分の声は誰にも届かないと思い、
孤独に陥る人が本作には登場するわけです。

以前の貴瑚、虐待される少年、そしてアンも・・・。

でも、貴瑚の声をしっかり聞こうとしてくれた人がいた。
今、少年の声を貴瑚が聞こうとしている。
では、アンの声は・・・?

もう少し、ほんのもう少し、アンが心を開いて声を発してくれさえすれば・・・。
無念さが滲みます。

 

本作のアンの役は、やはり志尊淳さん以外には考えられないくらい、はまり役でした。

<WOWOW視聴にて>

「52ヘルツのクジラたち」

2024年/日本/135分

監督:成島出

原作:町田そのこ

脚本:龍居由佳里

出演:杉咲花、志尊淳、宮沢氷魚、小野花梨、桑名桃李、金子大地、西野七瀬

虐待度★★★★★

孤独度★★★★☆

満足度★★★★☆


若き見知らぬ者たち

2025年03月19日 | 映画(わ行)

まっとうに生きたいと思っているのに

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風間彩人(磯村勇斗)は、亡くなった父の借金返済のため、
難病を患う母の介護をしながら、昼は工事現場で働き、
夜は両親の開いたカラオケバーで働く青年。

同居するその弟・壮平(福山翔大)は、父の背を追って始めた総合格闘技の選手となり、
彼も又、バイトと介護に励みながら、練習に明け暮れています。

毎日を生きることに必死で、介護や借金の問題はいつになったら終わるのかも分からない・・・。
八方塞がりのような状況の中で、
彩人には恋人である日向(岸井ゆきの)と小さな幸せをつかむことが、ほんの少しの希望となっています。

しかし、彩人の友人・大和(染谷将太)の結婚のお祝い会が開かれる夜、
思いも寄らぬ暴力で、ささやかな日常が脆くも崩れ去ります・・・。

 

彩人と壮平の母は、脳を患っていて、言動が幼児のようになってしまっているのです。
ふらふらと外に出てスーパーでは勝手にものを持ってきてしまったり、
よその畑を荒らしてしまったり・・・。
家では大量に炒り卵のようなものを作ったり、
水道が出しっぱなしで洪水のようになってしまったり。
本来ひとときも目を離すべきではないけれど、つききりでは生活が成り立ちません。

それでもこの兄弟は半ばあきらめてはいるのですが、辛抱強く母に寄り添います。
彩人の彼女・日向は看護師として病院に勤務していますが、
この兄弟と母のことを気にかけて優しく寄り添う。

そう、みな人並み以上に気持ちはまっとうで、少しでも今の生活を良くしたいとは思っている。
けれど、時間の許す限り働いて、母の世話をして、頑張っても、生活の苦しさはかわらない・・・。

なんという息苦しさ・・・。
彼らはこんなことは人に訴えてもどうにもならないと思っているし、
また、知られたくないとも思っているようです。

そして、彩人の運命はあまりにも理不尽・・・。

 

作中、登場人物が拳銃で頭を撃ち抜かれて倒れ伏すというシーンが何度か出てきます。
それは、実際の出来事としてではなくて、「イメージ」。

生きているという実感も喜びもなく、ただしかたなく生きている
という状態は「生」ではないのだとでも言うように・・・。

でも、本当にそうなのか。
彩人は、本当はどうするべきだったのか。

そう問われても、私には答えは見つからないのですが・・・。

 

<Amazon prime videoにて>

「若き見知らぬ者たち」

2024年/日本・フランス・韓国・香港/119分

監督・脚本:内山拓也

出演:磯村勇斗、岸井ゆきの、福山翔大、染谷将太、霧島れいか、滝藤賢一、豊原功補

理不尽度★★★★★

生活困窮度★★★★☆

満足度★★★☆☆


「劇場版トリリオンゲーム」再び

2025年03月18日 | 映画(た行)

余談的に

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私、この度、2回目の「劇場版トリリオンゲーム」を見てきました。

通常私は、同じものを劇場で2回以上見るということはあまりないのですが、
今回は、「副音声」付き上映をするというので・・・。
オーディオコメンタリーというヤツです。

あらかじめスマホに「HELLO! MOVIE」のアプリを入れておくと、
上映と同じタイミングで、目黒蓮くんと佐野勇斗くんの
撮影時の裏話などの副音声をイヤホンで聞くことができます。
私、映画館でこれは初体験。

 

この撮影時に服にアイスクリームをこぼしたとか、
この時はすごく寒くて背中にカイロをいくつも貼っていたとか・・・、
楽しいエピソードが沢山。

そして共演の俳優さんのすごいところや、スタッフさんへのねぎらいなど、
貴重な話も満載。
何より耳元で聞こえる目黒くんの声・・・至福の時ですな。
先日初めて見たときよりもさらに短く感じた2時間でした。

 

初めて見る方は副音声に気をとられると、ストーリーを把握し損ねることになりそうですので、
やはり2回目以降の視聴にした方が良いと思います。

 

こうした手で興行成績を上げようとするのはいかにもがめついやり口とも思うけれど・・・
目黒くんならきっとこう言うでしょうね。

「映画は自分だけでなく多くの人がかかわってできるもなので、
そうした人たちの努力に報いたいから、1人でも多くの人に見てもらいたい」
・・・と。

まあ、私としては2度おいしいのは歓迎です。

 

私の本音としては目黒くんにはもっと心にしみるストーリーの作品に出てもらいたい。
今後期待しています。


「残月記」小田雅久仁

2025年03月17日 | 本(SF・ファンタジー)

ユニークで壮大な世界観を堪能

 

 

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「月昂」と呼ばれる感染症が広がり、人々を不安に陥れている近未来の日本。
一党独裁政権が支配する社会で、感染者の青年・冬芽は
独裁者の歪んだ願望により、命を賭した闘いを強いられる。
生き延びるため、愛を教えてくれた女のため、冬芽は挑み続ける――表題作。

「月」をモチーフに、著者の底知れぬ想像力と卓越した筆力が構築した、
かつて見たことのない物語世界。
本屋大賞ノミネート、吉川英治文学新人賞&日本SF大賞W受賞という
史上初の快挙を成し遂げた真の傑作。 

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SFのジャンルは久しぶりかも知れません。
本屋大賞ノミネート、吉川英治文学新人賞&日本SF大賞W受賞
というところに興味を引かれて手に取りました。

 

本巻には3篇が収められています。
すべて「月」をモチーフにしています。

 

一作目「そして月がふりかえる」は、私、実のところあまり好きな感じではなくて、
若干この本を買ったことを後悔しかけたのですが・・・。

 

二作目「月景石」。
お~、なるほど(何が?)。
これは悪くないかも・・・という感じ。

 

そして、本巻の大半のボリュームを持つ三作目「残月記」を読むに至って、
このあまりにも独創的で壮大な世界観に打ちのめされました。

 

舞台は近未来の日本。
そこでは下條拓という男が、圧倒的独裁制のトップに君臨しています。
そして又そこでは「月昴」と呼ばれる謎の感染症が広がっている。
その感染者である青年・冬芽は、感染者の隔離施設に収容されます。
そして、独裁者下條のための極秘格闘競技場の闘士にならないかと声をかけられる・・・。

 

「月昴」というのは、感染すれば、狼男とまでは行かないけれど、
満月には強大な力を発するようになり、
逆に新月の時期はすっかり体が弱って、
感染者の4%がこの時期に命を失ってしまうという不可思議な病。
感染症であるので、理不尽ながらも人々からは忌み嫌われ、蔑まれて、
隔離施設でぞんざいに扱われながら、
いつしか新月の時期に儚く命を落とすことになってしまうのです。

 

命がけで戦うための奴隷・・・。
ほとんどグラディエーターのような話になっていきますが、
もちろんストーリーはそれだけでは終わらない。

冬芽がこの世でふと意識を失ったようなときに、彼は別世界で目覚めるのです。
どうやらそこは月の世界らしい。
果たしてこの世界は、夢なのか、次元を越えたあちらにあるどこかなのか。
砂漠を泳ぐ月の鯨のイメージがなんとも幻想的で美しい。

そして最後に冬芽がたどり着く場所は・・・。
なんと「愛」ですよ、愛。
は~。
ただただ感嘆。

どうやったらこんな物語を思いつくのやら。
堪能しました。

 

「残月記」小田雅久仁 双葉文庫

満足度★★★★★