映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

アンダー・ユア・ベッド

2024年12月21日 | 映画(あ行)

異常なストーカーではあるけれど

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家でも学校でも、誰からも必要とされず、
存在自体を無視されていた男・三井直人(高良健吾)。
学生時代には、誰からも名前すら覚えてもらえません。
しかし、たった1人、「三井くん」と名前を呼んでくれた女性・佐々木千尋(西川可奈子)のことを
忘れることができません。

11年後、三井は千尋との再会を夢見ていましたが、ついに彼女を見かけます。
しかし彼女にはかつての快活さはなく、
暗く沈んで、まるで別人のようになっていました。
そこで、三井の千尋への純粋な思いは暴走をはじめます。

三井は千尋の家のすぐそばで熱帯魚店を開き、
その階上の居所から、千尋の家を監視しはじめたのです。
千尋は結婚して、夫と赤子との3人暮らし。

三井は、千尋を盗撮、盗聴しはじめ、
やがてついには家に侵入してベッドの下に潜み、
夫婦の営みまでを監視しはじめたのです・・・。

三井はもう間違いなくストーカーと化しているのですが、
その異常性にかすかに共感できる気がしてくるのも、本作の不思議なところ。

三井が千尋の家を監視して分ったのは、彼女が夫から酷い暴力を受けているということ。
ひどく憤りを感じる三井ですが、そもそも自分がやっているのも違法行為だし、
暴力を止めに入りたくても、自分の腕力にまったく自信がない。
ベッドの下で、ひたすら耐えているだけの情けないやつなのです・・・。

三井の願いは、ただ千尋のそばにいたい、近くで彼女の存在を感じていたい、
ということのみ。

そもそも学生時代に会っていたはずの千尋は、
三井のことをまったく覚えていなかったのです。
そんな相手に過剰に思い入れて、でも何も言い出せず何もできず・・・。
異常で情けない男の物語。

 

なかなかに心揺さぶられます。


<Amazon prime videoにて>

「アンダー・ユア・ベッド」

2019年/日本/98分

監督・脚本:安里麻里

原作:大石圭

出演:高良健吾、西川可奈子、安部賢一、三河悠冴

ストーカー度★★★★☆

透明人間度★★★★☆

満足度★★★.5


罪と悪

2024年12月20日 | 映画(た行)

本当の悪意は見えないところにある

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とある地方都市。
13歳、正樹が何者かに殺され、橋の下に捨てられるという事件が発生。
正樹の同級生である春、晃、朔の3人は、
正樹が時々遊びに行っていた先の老人「おんさん」が犯人に違いないと考えます。
そして家に押しかけ、もみ合いの末、おんさんを殺してしまうのです。
春は、死体と共に家を焼き、自分1人でやったことにすると告げて、
晃と作を逃がします。

 

22年後。
刑事になった晃(大東駿介)が父の死をきっかけに町に戻ってきます。
朔(石田卓也)は実家の農家を継ぎ、その双子の弟・直哉は引きこもりとなっています。
春(高良健吾)は22年前の事件により少年院送りとなり、
戻って来てから建設会社を起こし、地元のチンピラもどきの若い衆の面倒を見ています。

そんなところで、22年前と同様、橋の下に捨てられた少年の遺体が発見されます・・・。

22年前に彼らが考えた事件の真相は、実は間違っていた・・・。
ことは地元のヤクザもからんで複雑な様相を呈してきます。


春が1人で罪を背負ったから、
1人は念願の刑事になれたし、もうひとりは平和に農業を営んでいられる・・・。
ずっと秘密を守り通し自責の念に駆られながら生きてきた晃と朔。
この度初めて2人は春に感謝を伝え、友情が復活するかに思えたのですが・・・。

友情の物語かと思いきや、意外な展開で驚かされました。
本当の悪意は見えないところにある・・・。

<Amazon prime videoにて>

「罪と悪」

2024年/日本/115分

監督・脚本:齊藤勇起

出演:高良健吾、大東駿介、石田卓也、村上淳、椎名桔平、佐藤浩市

友情度★★★★☆

どんでん返し度★★★★☆

満足度★★★.5


「エレジーは流れない」三浦しをん

2024年12月18日 | 本(その他)

湯の町の人情はやはり温か

 

 

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山と海に囲まれた餅湯町。
餅湯温泉を抱え、団体旅行客で賑わっていたかつての面影はとうにない。
高校生の怜は、今日も学校の屋上で同級生4人と仲良く弁当を食べていた。
淡々と過ぎていく日常の中で迫る進路の選択。

母親が二人いるという家庭の中で、将来を見詰める怜は果たして……。

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山と海に囲まれた温泉町、餅湯町を舞台とした青春ストーリーです。

主人公は高校生、怜。
温泉街の土産物店を営む母と共に暮らし、
脳みそが筋肉かと思えるようなおバカな友人らと仲良くしているごく平凡な男子・・・。

かと思いつつ読んでいくと、なんと彼には母親が2人いるという。
毎月決まった一週間だけ、彼はもうひとりの母親(?)のもとへ行って、
そこを我が家として過ごすというのが、彼の幼い頃からの日常。

そのことは周囲の皆が知っているのだけれど、
それがどういう意味なのかは、当の本人は何も知らない・・・。
幼い頃からあまりに当然のこととして続けられてきたので、
今さら聞くことができないのです。

そんなある日、怜は、彼を訪ねて来たらしきある男性と出会う。
一目見て怜はわかってしまった。
自分とあまりにもよく似ているコイツは自分の父親だ、と。

 

決してドロドロした愛憎劇ではありません。

この温泉街の人々、怜の友人たち。
彼らは、言うべきことは言うけれど、言わなくてもいいことは言わない。
2人のお母さんのサバサバした思い。
友人たちのそっと見守り、支えようとする心意気。

何もかもステキです。

 

平行して語られるのが、この街の博物館にある土器の盗難騒ぎのこと。
レプリカか、偽装か? 
紙一重のモノを作成してしまう器用な友人の心境も又面白い。

 

とても楽しんで読めました。

 

「エレジーは流れない」三浦しをん 双葉文庫

満足度★★★★☆


不思議の国のシドニ

2024年12月16日 | 映画(は行)

日本は不思議の国?

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「雨月物語」などで知られる溝口健二監督へのオマージュを込めた作品。

 

フランスの作家シドニ(イザベル・ユペール)のデビュー小説「影」が
日本で再販されることになり、出版社に招かれて訪日します。

大阪の空港で、寡黙な編集者、溝口健三(伊原剛志)に出迎えられ、
数日間通訳と案内をしてもらうことに。

シドニは家族を亡くし天涯孤独。
喪失の闇から救出してくれた夫のおかげで「影」を執筆できた、と語ります。
しかしその夫もまた、事故で亡くなったところだったのです。
そんなわけで、この訪日もあまり気が進むものではなかったのですが・・・。

溝口に案内されながら京都、奈良、直島・・・と各地を巡るうちに、
シドニの前に亡き夫、アントワーヌ(アウグスト・ディール)の幽霊が現れるようになります。

 

 

夫を亡くして、失意の底から立ち直れずにいたシドニ。

日本に来てから、夫の幽霊が現れ、話すらもできるようになります。
地元フランスではそんなことはなかったのに・・・。
溝口は言う。
日本では、幽霊の姿を見ることができる人が多い、と。

う~む、そのあたりからちょっと首をひねりたくなってきましたが・・・。

なんというか本作は、欧米の人が日本のエキゾチックな情緒とか神秘性とかに
魅力を感じる方が見るべき作品なのでしょうね。
当の日本人からすると、なんだかなあ・・・という感じ。
あの極端な欧米から見た日本のイメージ、フジヤマとかゲーシャとか、
そういう描き方はされていないものの、やはり日本人が見るとピンとこない。
ホテルの人たちの応対とか、描かれる現代の日本文化は
概ね不自然なところはなかったのですが・・・。

そもそも桜の季節の京都なんて、観光客でごった返していて、
のんびり歩いてなどいられないのでは・・・?

女性が持つハンドバッグまで、預かって持とうとする溝口も相当変なヤツ・・・。
日本人がみんなそうだと思われちゃうじゃないの。

<シアターキノにて>

「不思議の国のシドニ」

2023年/フランス・ドイツ・スイス・日本/96分

監督:エリーズ・ジラール

出演:イザベル・ユペール、アウグスト・ディール、伊原剛志

 

現代の日本描写度★★★★☆

満足度★★★☆☆


リベンジ・トラップ 美しすぎる罠

2024年12月14日 | 映画(ら行)

罠か、やはり・・・

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看護師のミランダ(ロザムンド・パイク)は、
自宅を訪ねてきた見知らぬ男にレイプされ、心身共に深い傷を負います。

その後ミランダは、刑務所に収監されたレイプ犯・ウィリアムに何度も手紙を送りつけるのですが、
すべて開封されないまま戻って来てしまいます。
そこでついに、ミランダは刑務所に行きウィリアムと面会。
さすがにウィリアムも警戒しているのですが、
ミランダは幾度も面会を繰り返し、次第に互いの距離を縮めていきます。
やがて、ついにウィリアムが出所して・・・。

本作、見ている私たちは、ミランダの真意がよくわかりません。
憎んでいるはずのレイプ犯に、なぜわざわざ接近して親しくなろうとするのか。

しかし、そもそも本作の題名自体がネタバレで、
すでに答えは出ているじゃありませんか。

すなわち、リベンジ。
復讐のために、ミランダはじわじわと罠を張っているのです。

そうでした、ロザムンド・パイクと来れば、こわ~い女なのですよ。

ミランダはオペ専門の看護師を目指していたのです。
そもそも、人の触れたボールペンを触ることさえイヤなのに、
看護師というのはいかにも不向きに思えます。
けれど、そんなことをも凌駕して、人を切り裂くことに快感を覚えるという、ミランダ。

変な期待をして浮かれているウィリアムにはお気の毒というほかありません。
いやまあ、身から出たサビではありますが。



ちょっと悪趣味で、後味のよくない作品なのでした・・・。

 

<Amazon prime videoにて>

「リベンジ・トラップ 美し過ぎる罠」

2015年/アメリカ/94分

監督:フォアド・ミカティ

出演:ロザムンド・パイク、シャイロー・フェルナンデス、ニック・ノルティ

復讐度★★★★☆

満足度★★☆☆☆