映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

エンドロールのつづき

2024年06月01日 | 映画(あ行)

情熱が道を開く

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パン・ナリン監督自身の実話を基にしています。

インドの田舎町ニクラス、9歳のサマイ。
学校に通いながら、父のチャイ店を手伝っています。
父は厳格で、映画などは低俗なものと考えていますが、
信仰するカーリー女神の映画だけは特別として、家族で映画を見に行きます。

初めて経験する映画の世界にすっかり心を奪われてしまったサマイ。
それが忘れられず、後に映画館に忍び込みますが、
バレて追い出されてしまいます。
それを見た映写技師のファザルがサマイに声をかけます。
料理上手なサマイの母の作ったお弁当と引き換えに、
映写室から映画を見せてくれるというのです。

サマイは映写窓から様々な映画を見て圧倒され、自分も映画を作りたいと思うのです。

映写室から多くの映画を見て、映画に魅せられる・・・。
「ニュー・シネマ・パラダイス」を思い出しますが、
インドのこの作品、これはこれで実に面白い。

サマイは、映画は「光」が物語を紡ぐのだと思います。
映画館を離れても、色ガラスの破片や、色のついた空き瓶を通して
風景や人々を眺め、映画を思う。

サマイは頭が良くて、そして近所の子供たちのリーダー格でもあるのです。
仲間たちをも、映画の魅力にひきずり込んでしまいます。

驚くべきは、廃品の中から使えそうなものを寄りだして、
映写機のようなモノを創り上げてしまう。
はじめ彼は、フィルムに光を当ててそのままフィルムを動かしてみたのですが、
それだと全く「動く」映像にならないのです。

そのわけを教えてくれたのはファザルで、
フィルムのコマとコマの間に暗闇がなければならない。
私たちは気づかずに、映画の半分は暗闇を見ているのだ・・・と。
この話、私が知ったのは、なんの本を読んだ時だったっけ・・・? 
まあともかく、サマイはそこも工夫して、
なんとか映像が動くマシン(手回しですが)を作り上げます。
スバラシイ!!

 

サマイの学校の先生は言うのです。

「インドの身分の違いには二つある。英語が話せる者と、話せないもの」

「なにかになりたいのなら、この地を出なければならない」

・・・そうは言っても、チャイの売り上げで日銭を稼ぐ貧乏な自分の家。
そんなことはとてもムリと、サマイは思う・・・。

映画が好きで好きで・・・映画を作ってみたくて・・・。
でもどうして良いか分らない。
そんな少年の憧れ、挫折、何もかもがみずみずしく、そして力強いのでした。

いい作品だなあ・・・。

それと、サマイのお母さんが作るお弁当がと~ってもおいしそうでした!!

<Amazon prime videoにて>

「エンドロールのつづき」

2021年/インド・フランス/112分

監督・脚本:パン・ナリン

出演:バビン・ラバリ、リチャーミーナ、ディペン・ラバル、バベーシュ・シュリマリ

憧れ度★★★★☆

創意工夫度★★★★☆

満足度★★★★★


それいけ!ゲートボールさくら組

2024年05月31日 | 映画(さ行)

ほっこり

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76歳、織田桃次郎は、カレー店を営み、息子家族とともに暮らしています。

ある日、かつて高校ラグビーでマネージャーを務めていたサクラが経営する
デイサービス・桜ハウスが倒産の危機に瀕していることを知ります。

桃次郎は元ラグビー部の仲間を集め、サクラを助けようと相談を始めます。
銀行から立て直しの融資を得るためには、まずは加入者を増やす必要があります。
そのため試行錯誤の末、ゲートボール大会に出場して優勝し、
施設の知名度を上げようということに。

彼らは「チームさくら組」を結成し、高校時代に培ったチームワークで奮闘します。
しかし、彼らの前に悪徳ゼネコン企業の陰謀が立ちはだかる!!

良い感じにちょっと枯れた面々の、ほっこりする人情コメディです。

かつての鬼マネージャー(?)サクラは実はちょっと認知症で、
この度のゲートボール大会も若き日のラグビーの試合と混同しているようなのですが・・・。

でも周囲のみんなもそんなことを指摘したりはしない。
普通に皆の日常と溶け込んでいるのがなんともステキでした。

森次晃嗣さんの登場シーンでは、さりげなく少しアレンジした
「ウルトラセブン」のテーマ曲が流れたりして・・・。

そしてまた、故三遊亭円楽さんがゲートボール決勝戦の解説者役で出演されていて、
なんだか感慨深い。

<WOWOW視聴にて>

「それいけ!ゲートボールさくら組」

2023年/日本/107分

監督・脚本:野田孝則

出演:藤竜也、石倉三郎、大門正明、森次晃嗣

 

老人コメディ度★★★★☆

満足度★★★★☆


せかいのおきく

2024年05月29日 | 映画(さ行)

江戸のSDGs

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江戸時代末期。

武家育ちのおきく(黒木華)は、寺子屋で子供たちに読み書きを教えながら、
父(佐藤浩市)と2人で貧乏長屋に暮らしています。

ある雨の日、厠のひさしの下で雨宿りをすると、
紙くず拾いの中次(寛一郎)と、下肥買いの矢亮(池松壮亮)に出会います。
それから3人は少しずつ心を通わせるように。

ところがその後、お菊はある事件に巻き込まれ、
父を亡くし、自身は喉を切られて声を失ってしまいます・・・。

 

ほとんどがモノクロ、ごくわずか画面に色が差す部分もあります。

下肥買いという矢亮の商売。
作中では「汚わい屋」と呼ばれていましたが、
つまり人家の厠の糞尿をくみ取って買い上げ、
運搬し、農家へ肥料として売るのです。

糞尿を汲んでお金を払うと言うのにちょっと驚きました。
でも、このシステムのおかげで江戸の町はとても清潔だったと言いますね。
パリの町などは路地が糞尿にまみれていたといいますから・・・。
紙くず拾いの中次も、結局下肥買いのほうが儲かるので、
矢亮と組んで仕事をするようになります。

ともあれ、何もムダにしない江戸のSDGsをしっかり堪能させていただきました。

・・・と言うわけで、本作その糞尿のシーンが実に多い!! 
だから、これは白黒で良かった~と思う次第。
カラーはリアルすぎてちょっと恐い。
そして映像に匂いがなくて良かったなあ・・・。

おきくは、感情豊かで思い切りの良い性格。
ほとんど強情と言ってもいいくらい。
一応武家の娘ですが、すでに本人にはそんな自覚もなく、
汚わい屋の中次になんの差別も持たずに心惹かれていきます。
ところが、声を失ってしまったおきく。
おきくの思いを伝えるにはジェスチャーしかありません。
中次は読み書きができないのです・・・。
しかし2人にはそんなことはなんの障害にもなっていないというのも、いっそ心地よいですね。

佐藤浩市さんと寛一郎さんの親子共演も見所です。

 

<WOWOW視聴にて>

「せかいのおきく」

2023年/日本/89分

監督・脚本:阪本順治

出演:黒木華、寛一郎、池松壮亮、真木蔵人、佐藤浩市、石橋蓮司

 

SDGs度★★★★☆

ばっちい度★★★★★

満足度★★★★☆


湖の女たち

2024年05月28日 | 映画(ま行)

世界は美しいのだろうか

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滋賀県、琵琶湖にほど近い介護施設で、100歳の老人が何者かに殺害されます。

捜査に当たった西湖署の若手刑事・濱中(福士蒼汰)とベテラン刑事伊佐(浅野忠信)は、
施設関係者の中から容疑者・松本(財前直見)に狙いを付けて、
執拗に取り調べを行います。

そんな中、濱中は捜査で出会った介護士・豊田佳代(松本まりか)に対して、
ゆがんだ支配欲を抱くように・・・。

また一方、事件を追う週刊誌記者・池田(福地桃子)は、
署が隠蔽してきた薬害事件を追い始めます。

本作、旧満州での731部隊のこと、薬害エイズ事件、人工呼吸器事件、障害者施設殺傷事件など
過去実際にあった事件のこと、そしてほとんど警察の故意と思える冤罪のことを絡めつつ
描かれていますが、なんといってもショッキングなのは濱中と佳代の関係。

 

それはまず冒頭で指し示されるのですが、夜明け前の早朝、
濱中は湖に釣りに出かけ、
佳代は勤務の合間に湖畔へ出て車の中で自慰を始めるのです。
それを濱中が見てしまう。

次に会うのは、施設の殺人事件の関係者への聞き取りの時。
濱中は豊田をあの時の女だとすぐに気づき、
その後、密かに彼女を呼び出してはやたら高圧的な態度に出るのです。

警察官としては普通に正義感も持つ濱中。
どうも松本は犯人とは思えないのですが、
先輩の伊佐は、ただ誰でも良いから犯人を上げたいと思っており(つまりそれが警察の総意)、
それに躊躇する濱中を罵倒する有様・・・。
濱中のどうにもならない上下関係のストレスの矛先は、佳代に向けられます。

不毛でアブノーマルな2人の行為。
しかし佳代はそれで燃えている・・・。

いやあ・・・息をのんでしまいます。
こんなダークな福士蒼汰さんを見たことがないし、
松本まりかさんは「向こうの果て」というドラマですごいとは思っていましたが、
こんな役までもこなしてしまうなんて・・・!

そしてまた、この本筋の殺人事件とは少し離れた場にいるように思われた
週刊誌記者の所から真相が浮かび上がってくるのも、見事でした。

作中で「世界は美しいのだろうか」という問いが何度か投げかけられます。

どこもかしこもイヤな事件だらけ。
美しいものなんかどこにもないと思いたくなるけれど・・・
でも不思議と視聴後感はそんなに悪くない。
したたかに生きようとする湖の女たちは、
琵琶湖の夜明けに馴染んで十分に美しいかも・・・。

 

<TOHOシネマズ札幌にて>

「湖の女たち」

2024年/日本/141分

監督・脚本:大森立嗣

原作:吉田修一

出演:福士蒼汰、松本まりか、福地桃子、浅野忠信、財前直見

 

アブノーマル度★★★★☆

満足度★★★★☆


「アンソロジー 舞台!」創元文芸文庫

2024年05月27日 | 本(その他)

舞台と言っても色々あるけれど

 

 

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役を生きる俳優の輝き、世界観を作り出す装置、息を潜めた観客たち
──すべてが合わさって生まれる「舞台」。
華やかで遠く感じるその空間は、
自分という役を生き、誰かの人生に思いを馳せる私たちにとって、
意外に身近な場所なのかもしれません。
ミュージカル、2.5次元、バレエ、ストレート・プレイ……
さまざまな舞台を題材に描かれた五編を収録する文庫オリジナル・アンソロジー。

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私のお気に入り、創元文芸文庫のアンソロジー。
テーマは「舞台」です。

演劇、ミュージカル、バレエ・・・舞台といっても色々あります。
そんな中で、私も知らなかったのが2.5次元というもの。

アニメやゲームなど、極力その世界観、キャラクター感を
損なわずに際立たせる、ストーリーと音楽、そして映像を加えて、
いわゆる「オタク」の感動を盛り上げようとする舞台・・・ですかね。
そういうのは私も見たことがなかったけれど、
本作では2作がこの2.5次元モノに触れていまして、
なるほど、そういう時代であるわけです。

 

冒頭、近藤史恵さんの「ここにいるぼくら」も、まさにその2.5次元を題材にしています。

34歳、役者の琴平は、劇団の定期公演の他はアルバイトをしながら
他の舞台のオーディションを受けるなどして暮らしていますが、
このたび、「大江戸ノワール」というゲームの舞台化
すなわち2.5次元の出演依頼を受けます。

通常の舞台とは色々勝手が違う、この世界のことを知るにはもってこいの作品。
興味深かったです!!

 

最後の乾ルカさん「モコさんというひと」も、2.5次元モノ。
こちらは舞台の内容はさほど重要ではなく、
モコさんと言う人物の謎をミステリ仕立てで描きます。

広瀬真美が、2.5次元ミュージカルのチケットを譲ってもらったモコさん。
それから多少連絡を取り合うようになったのですが、
最近彼女のSNS投稿の内容が不審なモノになっている・・・。
真美はもう以前のようにモコさんとは親しく付き合えないと感じ始めますが・・・。

 

本巻に収録されているのは・・・
(敬称略)

近藤史恵、笹原千波、白尾悠、雛倉さりえ、乾ルカ

 

「アンソロジー 舞台!」創元文芸文庫

満足度★★★.5