映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

彼女のいない部屋

2024年05月10日 | 映画(か行)

彼女がいないのではなくて・・・?

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本作、本国フランスでの劇場公開前に明かされたストーリーは
「家出をした女性の物語のようだ」という一文のみだそうで・・・。
マチュー・アマルリック監督・脚本のちょっと謎めいた作品です。

主人公は一家の主婦らしき女性クラリス。
夫とピアノが好きな娘、やんちゃ盛りの息子の4人家族。

冒頭で、早朝なぜかクラリスがそっと家を出ていくシーン。
どうやら家出らしいのですが。

その後、夫・娘・息子が残されて暮らす様子が描かれていきます。

しかし時系列は必ずしも一直線ではなく、クラリスを軸にしながらも
一見すると1シーン1シーンがバラバラのピースとなってつなぎ合わされている感じ。

その全体像が次第に露わになり、私たちはある真実にたどり着くのです。

うーむ、ネタばらしを避けようとすると、
何も言えないというやっかいな作品であります。

あえて言うとすれば、これはクラリスの心の物語ということでしょうか。

せつないなあ・・・。

<Amazon prime videoにて>

「彼女のいない部屋」

2021年/フランス/97分

監督・脚本:マチュー・アマルリック

出演:ビッキー・クリープス、アリエ・ワルトアルテ、アンヌ=ソフィポーエン=シャテ、サシャ・アルディリ

 

ジグソーパズル風度★★★★☆

満足度★★★★☆


あしやのきゅうしょく

2024年05月08日 | 映画(あ行)

作る側の視点で

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給食がテーマの物語といえば、やはり「おいしい給食」なのですが、
本作は食べる側の楽しみよりも、作る側、栄養士さんや調理員さんの視点から描かれています。

 

舞台は兵庫県芦屋市の小学校。
芦屋市では自校式給食が運営されていて栄養士によるオリジナルメニューの展開など、
学校給食への取り組みが注目されているのです。

物語は、芦屋の小学校に新人栄養士、野々村菜々が赴任するところから。
彼女は、退任するベテラン栄養士から給食のイロハを引き継ぎます。

 

栄養士は単に給食の献立を立てるだけでなく、
予算のこと、子どものアレルギーのこと、子どもの親の宗教による食物の禁忌など、
考慮しなければならないことが多々。
そのような事を子供たちの様子を交えながら丁寧に描いていました。

大きな調理釜での調理は、へたをすると「エサ」のように見えてしまうものですが、
本作を見る限りは、それを見てもおいしそうなのです。
もちろん学校の規模にもよりましょうが、ここの学校では、
オムライスの卵焼きをフライパンで一枚ずつ焼いていまして、その手間が大変そう。
一つ一つ形を作らねばならないスコッチエッグなどというモノもありまして、
こういうのは栄養士さんのやる気だけではダメで、
調理員さんの思いも共になければ、できあがらないと思います。

こうして作られたモノはきっとおいしくて、食べるのも楽しそうだなあ・・・。

 

私もかつては学校職員(教員ではないよ)で、数十年間給食を食べ続けていたので、
学校の給食事情のことはよく分ります。
札幌市も割と学校給食のコンセプトは芦屋市に近いと思います。

今時の給食事情を知るにも、良い作品です。

 

<Amazon prime videoにて>

「あしやのきゅうしょく」

2022年/日本/86分

監督:白羽弥仁

出演:松田るか、石田卓也、仁科貴、宮地真緒、赤井英和、秋野暢子

 

今時の給食事情度★★★★☆

満足度★★★★☆


プリシラ

2024年05月07日 | 映画(は行)

エルヴィスに見初められて

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エルヴィス・プレスリーの元妻プリシラが1985年に発表した
回想録「私のエルヴィス」を基にした作品。

アメリカ陸軍基地のある西ドイツの地で暮らす14歳の少女プリシラ。
父親が軍人なのです。
当時すでにスパースターであるエルヴィスも徴兵制度により
この基地で兵役に就いており、彼が開くパーティーで2人は出会います。
そして間もなく恋に落ちる。

やがて2人は、プリシラの両親の反対を押し切り、
エルヴィスの実家の豪邸で一緒に暮らし始めます。
華やかで魅惑的な世界。
プリシラはエルヴィスのそばですごし、彼の色に染まって行きます・・・。

本作中エルヴィスのパフォーマンスシーンはほとんどなくて、
弱くて傷付きやすく、また時には癇癪を起こしたりもする、
プリシラから見た生のエルヴィス像が描かれます。

異国の地で出会った2人。
少し前にエルヴィスは母を亡くしていて、若干マザコンらしき所も垣間見えます。
そんな彼が、まだほとんど子どものあどけなさをみせるプリシラに何を思うのか。
そばにいて口出しもせず微笑んですべてを受け入れてくれるような、
そんな存在として「母性」的なものを見出していたのかも。
すり寄って来る女性ならいくらでもいた。
けれど、体の関係なしに安らげる存在としてプリシラを求めたのかな?と。

でもですよ、これはプリシラの物語。
少女が突然スーパースターに言い寄られて、夢中にならないわけがありません。
それはもう、仕方のないこと・・・。

私は紫の上を連想しました。
光源氏に見初められ、幼いうちに引き取られ育てられた、紫の上に境遇がよく似ている。

まるでエルヴィスのものにでもなったかのよう。
彼の好みに髪を染め、メイクをして、彼の好みの服を身につける。
家にはエルヴィスの家族がいて、もちろん使用人もいるので他には特にすることがない。
しかしエルヴィスは仕事に忙しく、ツアーで長期間不在だったりもする。
おまけに、やっと帰ってきたかと思っても、彼は体の関係を持とうとしない・・・。そ
の時すでに14歳ではないプリシラにとって、自分の存在は何なのか?と思ってしまいますよね。

そしてエルヴィスの華々しい女性関係をプリシラは週刊誌や新聞で知ることになります。
プリシラはどこか外へ働きに行こうとしてもエルヴィスが止めていたようです。

そんな長い同居期間の後正式に結婚したのはプリシラ22歳の時。

1人の男のために自分をなくし、囲い込まれた女の物語・・・。
あまりにも一方的で、これが本当に愛なのかな?と思います。

そうは言っても結局女はしたたかなのかも知れません。
7年の結婚生活の後、離婚。
その後彼女は女優として歩み出したりもします。
自分を取り戻すのに遅すぎなくて良かった!!

まだあどけなさの残る少女(なんともかわいらしい!!)から、
自分の道を見つけて歩み出す大人の女性までを演じたケイリー・スピーニーが素晴らしい。

 

<シアターキノにて>

「プリシラ」

2023年/アメリカ・イタリア/113分

監督・脚本:ソフィア・コッポラ

原作:プリシラ・プレスリー、サンドラ・ハーモン

出演:ケイリー・スピーニー、ジェイコブ・エロルディ、ダグマーラ・ドミンスク、アリ・コーエン

略奪度★★★★☆

満足度★★★☆☆


「時ひらく」 

2024年05月06日 | 本(その他)

三越!!

 

 

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350年の時を刻む老舗デパート『三越』
楽しいときも、悲しいときも
いつでも、むかえてくれる場所

物語の名手たちが奏でる6つのデパートアンソロジー
文庫オリジナル!

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デパートの、しかも「三越」をテーマとするアンソロジー。

デパートがテーマというのはこれまでもあったような気がしますが、
「三越」に絞るというのが心憎い。

この文庫本の表紙がなるほど見たことのある包装紙の模様というのも洒落ています。
ちなみに我が町札幌にもちゃんと三越はあって、ライオン像もいます♡

 

さて、数あるデパートの中で、なぜ「三越」なのかと言えば、
なんといっても350年の歴史を刻む老舗ということ。
まあ江戸時代の越後屋はともかくとして、
日本初の百貨店として営業を始めたのが1904年(明治37年)、
日本橋に本店新館が竣工したのが1914年(大正3年)とのことで、
何しろ私たち日本人の生活と密着した歴史を感じられる場所なのですね。

それなので、本巻に収められている短編には、
この「時間」を意識したものもあるのです。

 

伊坂幸太郎「Have a nice day!」は、
「三越のライオン像に、誰にも見られずにまたがった者は願いが叶う」
といううわさを信じた少女が、受験をパスしたくて、実行します。
その時、彼女の頭の中に、不可思議な二つの映像が流れる・・・。

その映像の答えがわかるのはなんとその10年後。
それはライオン像が、来たるべき未来に取るべき行動を暗に示しているのだった
・・・と言うSFめいたストーリー。
伊坂幸太郎さんのストーリーなので舞台は仙台の三越ですが、
その屋上に神社があるのもミソなんですね。
ステキな作品でした!

 

恩田陸さん「アニバーサリー」は、三越ゆかりの「モノ」たちが集まって会話を交わします。
地下道の絵巻に描かれている犬、
吹き抜けの所にある巨大天女像、
ライオン像に、パイプオルガンなどなど・・・。
人の世の移り変わりと共にある三越は歴史の生き証人でもあるというわけですね。
巻末の東野圭吾さん「重命る(かさなる)」は、おなじみ湯川教授のシリーズです。
おトク感たっぷり!!

 

執筆者は他に、辻村深月、阿川佐和子、柚木麻子

 

このアンソロジー企画はなかなかイケていました!

「時ひらく」 文春文庫

満足度★★★★☆.5


アラビアンナイト 三千年の願い

2024年05月04日 | 映画(あ行)

呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃん

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古今東西の物語や神話を研究する学者アリシア(ティルダ・スウィントン)。
講演先のイスタンブールで、美しいガラスの小瓶を購入します。
ホテルの部屋に持ち帰り、ビンを洗おうとブラシでこすると
中から巨大な魔人<ジン>(イドリス・エルバ)が飛び出しますが、
すぐにサイズ変更して通常の人間状の大きさに。
<ジン>は、ビンから出してくれたお礼に「三つの願い」をかなえるといいます。
物語の専門家アリシアは、願い事を描いた物語に
ハッピーエンドがないことを知っていて、素直に願い事をしようと思いません。
<ジン>は彼女の考えを変えさせようと、3000年に及ぶ自らの物語を語り出します。

「アラビアンナイト」を基にしたストーリーなのかと思えば、
基にしているのはツボから魔人が現れて願いを叶えるというところのみ。

アリシアが生きているのは現在で、
そして<ジン>が語る遠い過去の物語を聞くという筋立てです。
かつて<ジン>が封じ込められている小瓶を手にし、
<ジン>を呼び出した女たちと<ジン>とのストーリー。

シックな色調の画面と不可思議な映像が美しい。
なんとも粋なファンタジー。

それにしても現代は、医療やら科学技術の進歩も著しく、
これは中世以前の人々から見れば「魔法」ですね。

しかしこのような魔法の力を手に入れたものの、
人類は相変わらず戦争やテロを繰り返し、
平和とか幸福を手に入れられずにいるのです・・・。

<Amazon prime videoにて>

「アラビアンナイト 三千年の願い」

監督:ジョージ・ミラー

原作:A・S・バイアット

出演:イドリス・エルバ、ティルダ・スウィントン、アーミト・タラム、ニコラス・ムアワッド

ファンタジック度★★★★☆

満足度★★★☆☆

 


グリーンランド 地球最後の2日間

2024年05月03日 | 映画(か行)

誰もが自分だけが助かりたい

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ある時、突如地球近辺に現れた彗星の破片が隕石となり、地球に降り注ぎ始めます。
さらなる巨大隕石による世界崩壊まで、残り48時間。

政府に選ばれたごく一部の人々の避難が開始されます。
建築技師の能力を見込まれたジョン・ギャリティ(ジェラルド・バトラー)は、
妻のアリソン、息子ネイサンとともに避難所を目指す輸送機のある空港へ向けて出発します。
ところが、ネイサンの持病により受け入れを拒否され、
おまけに空港の大混乱の中、家族離ればなれになってしまいます。

人々がパニックに陥り、無法地帯と化した町。
果たして彼ら家族は無事避難シェルターまでたどり着くことができるのか?

かつて恐竜の絶滅を招いたとされる隕石よりも、
さらに大きな隕石という設定になっています。
その前触れであるさほど大きくはない隕石落下の衝撃波だけでも、
大きな都市が壊滅するという・・・。

ギャリティ家の3人は、政府からの避難通知をテレビ画面で受信しますが、
その時、調度ホームパーティを開いていて、近所の人々が大勢集まっている。
そんな中彼らだけが避難対象となったことで、大騒ぎになってしまいます。
そりゃ、できればそっと密かに出発したかったですよね・・・。

こんな感じで本来秘密のはずの避難情報が多くの人の知るところとなり、
軍の空港へ向かう道は大渋滞だし、入り口でも大混乱。
資格を得ていない人もなんとか避難させてもらおうと必死なのです。

ということで、本作は地球に隕石が降り注ぐということよりも
それによる人々のパニックを描く作品なのでした。
こうしたときに人間性が露骨に表れるものですよねえ。

でもどうにも始めから、この選ばれた家族が、自分たちが助かるためにだけ必死になればなるほど、
なんだか見ている方は冷めてしまうという・・・
どうにも割り切れないものが残りました。

 

避難所は世界中に何カ所かあるのですが、
この地区の人はグリーンランドの地下にある巨大シェルターに避難することになります。
人選は極秘裏に政府によって行われたようで、
医師とか技術者とか、新しい社会を築くのに必要な人材とその家族・・・。

このような選別もちょっと疑問が湧きます。
ここでネイサンが病ではじかれてしまったように、
病がある者や、おそらく障がい者は始めから除かれているでしょう。
必要な人とそうでない人など区別があって良いものなのか。

そして結局この家族は、規定外のネイサンを引き連れて
強引にグリーンランドまでたどり着いてしまうわけで・・・。
自分たちが助かるためには、他の人を排除したりもします。
(あちらから襲ってきたのではありますが)

自分だけが・・・というこの意識。
自己犠牲を美しいものととらえる日本人にはちょっと受け入れがたいと思う・・・。

そんなわけで「なんだかなあ・・・」と思ってしまう作品。

 

<Amazon prime videoにて>

「グリーンランド 地球最後の二日間」

2020年/アメリカ/119分

監督:リック・ローマン・ウォー

出演:ジェラルド・バトラー、モリーナ・ガッカリン、デビッド・デンマン、
   ホープ・デイビス、スコット・グレン

危機感度★★★★☆

満足度★★☆☆☆


ゆとりですがなにか インターナショナル

2024年05月01日 | 映画(や行)

トホホな男たち

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2016年日本テレビ系列で放送された連続ドラマ「ゆとりですがなにか」の映画化です。
私、TVドラマは楽しんで見ていまして、
この映画作品も見たいと思っていましたが、見そびれていた次第。

「野心も競争意識も協調性もない」と揶揄されてきたゆとり世代。
今はおよそ30代半ば。

夫婦仲も家業の酒屋もうまくいかない坂間(岡田将生)。

いまだに女性経験ゼロの小学校教師、山路(松坂桃李)。

中国での事業に失敗して帰国したフリーター、まりぶ(柳楽優弥)。

実のところストーリーも忘れかけていましたが、見ているうちに思い出しました。
つまりこの3人、相変わらずなのです。
この3人のその後、現在のストーリー。

働き方改革のこと、テレワークのこと、多様性のこと、グローバル化のこと・・・。
まさに「今」のあれこれの問題を絡めながら描かれるトホホな男たちの物語は、
笑いながらも見入ってしまいます。
この3人の名優のこんなトホホ姿を見られるのも本作ならでは。

坂間と結婚した茜さん(安藤サクラ)もまた同世代ですが、
とにかく痛快な彼女も大好きです!

ノンアルコールの日本酒なんて・・・あったらぜひ飲んでみたい。

題名に「インターナショナル」と銘打っているのもダテではなくて、
今や韓国や中国との関係無しには語れない日本のことも言っています。
そして多様性。
そもそも彼らの生き方自体が多様性として認められる・・・。
やっと時代が彼らに追いついてきたのかも。
けれどその彼らも、今時のZ世代にはタジタジになってしまうという・・・。

 

「ゆとりですがなにか インターナショナル」

2023年/日本/116分

監督:水田伸生

脚本:宮藤官九郎

出演:岡田将生、松坂桃李、柳楽優弥、安藤サクラ、仲野太賀、吉岡里帆

 

世相を表わす度★★★★★

満足度★★★★☆