念仏はロックだ!
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娯楽がない鎌倉時代、人々に刺激を与えたのは踊り念仏だった。
家族も財産もすべてを捨てて阿弥陀仏の導きに従う一遍は、
念仏を唱えて日本全国を行脚する。
一遍とともに僧達が床板を叩く足音のリズム、
次第に加速する念仏、上昇する心拍数を表すかのような鉦の音。
時衆が繰り広げる激しいパフォーマンスは、見る者の心を鷲掴みにする。
念仏はロックだ!
破天荒かつ繊細な捨聖、一遍の物語。
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白蔵盈太さんは、日本の歴史の常識を覆す、
ユニークな解釈で物語を展開する作家さん。
私は、赤穂浪士事件にかかわるものくらいしか拝読していなかったので、
このたび、本作を手に取りました。
まずは、いきなり現代の高校生ヒロがタイムスリップして、鎌倉時代に迷い込みます。
そんな彼が出会ったのが、一遍。
一遍と彼が引き連れる一行が繰り広げる「踊り念仏」に心を奪われ、
彼もこの地方行脚の旅に同行することになります。
現代から鎌倉時代にタイムスリップしたヒロが見た「踊り念仏」は、
ほとんどロックフェス。
鉦や太鼓が生み出すリズム。
それに合わせて床を踏みならす音。
リリックは「南無阿弥陀仏」ただそれのみ。
舞台の全員が、そしてその聴衆も、次第に無我となり踊り狂う。
ヒロが語るこの物語は、仰々しい時代劇調の言葉使いは出てこなくて、現代の口語。
一遍の語る言葉も、小難しい宗教用語は出てきません。
けれど結局、一遍という1人のたぐいまれな信念の人の生涯をたどり、
主な思想を理解できるように描かれています。
また、鎌倉時代の大まかな仏教の流れについても、わかりやすく描かれています。
著者によるこの時代の仏教は、NWOKB。
すなわち、ニュー・ウェーブ・オブ・カマクラ・ブッディズム。
それまでの仏教は朝廷や貴族たちのためのもの。
日頃よい行いをして功徳を積んで、お寺に寄進して、ようやく救済が得られる。
しかし、貴族たちの権威が失墜し、武士の世となり、
既存の仏教を破戒するエネルギーを持った新たなスタイルの仏教が
力を付けていったというわけ。
法然、親鸞、栄西、道元、日蓮・・・。
一遍は、このNWOKBでも最も後発組で、
すでに念仏のみで人は救済されるという思想はかなり広がっていたようなのですが、
家族も財産もすべてをかなぐり捨てて行脚の旅に出るという、
ひたすら実践に務めた一遍が繰り広げる踊り念仏は、
多くの人々の心をひきつけたのでした。
踊り念仏=ロックフェスというのはあくまでも著者の創造ではあるけれど、
聴衆を巻き込んで踊り狂うという事象は、
確かにロックフェスに似たようなものだったのかも知れません。
特に、その時代、一般庶民に娯楽など何もなかったわけですし。
本当の「踊り念仏」は、ともかくとして、
ヒロの描く踊り念仏のフェスを実際に見てみたいなあ・・・。
「一遍踊って死んでみな」白蔵盈太 文芸社文庫
満足度★★★.5
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