平成30年度入試、埼玉県は前年度同様「学力検査問題」と「学校選択問題」の2種類の問題を実施した。8月25日に「平成30年度埼玉県公立高等学校入試 英語リスニングテスト分析」でリスニングテストのwpmについてまとめたが、今回は2つの問題の大問1リスニングテストの正答率を比較してみようと思う。
基礎データ
平成30年度埼玉県公立高等学校入学者選抜実施状況
→埼玉県公立高等学校入学者選抜学力検査結果について(資料1)
学力検査問題 英語 Ⅱ 各教科の正答率、問題の内容及び所見・解説(資料2)
学校選択問題 英語 Ⅱ 各教科の正答率、問題の内容及び所見・解説(資料3)
資料1は埼玉県ウェブサイトの総合トップから
→ 文化・教育
→ 学校教育
→入試・転編入学
→ 埼玉県公立高等学校入学者選抜情報
→埼玉県公立高等学校入学者選抜学力検査結果について
資料2、資料3は埼玉県教育センターウェブサイトの「入試情報」を参照のこと。
リスニングの音源は同一である。ただし、設問が一部異なっている。
平成29年度入試において、リスニング問題の配点、通過率は次のようになっていた。通過率(得点率)の比較。透過率とは得点の合計を、人数配点で割ったもの。問題6以外は択一式なので、通過率=正解率である。昨年のデータは抽出答案(377)から出されたものである。
「率あ」は学力検査問題(以下「標準問題」とする)、いわゆる普通の問題の通過率。
「率い」は学校選択問題(以下「選択問題」とする)の通過率。
平成29年度のデータ
問題 | 率あ | 率い |
問題1 | 73.2 | 95 |
問題2 | 72.1 | 98.4 |
問題3 | 77.2 | 96.3 |
問題4 | 51.5 | 94.2 |
問題5 | 48.8 | 94.2 |
問題6(1) | 79.6 | 95.8 |
問題6(2) | 74.5 | 97.3 |
問題6(3) | 39.5 | 84.6 |
問題7(1) | 80.4 | 97.6 |
問題7(2) | 45.9 | 79 |
問題7(3) | 62.3 | 95.5 |
すべての問題で「率い」の受検者の通過率がうわまっている。昨年両方の問題を比較してブログにまとめた。
通過率を見てみよう。
標準問題(受検者)では問題4、問題5、問題7の(2)が50%前後、問題7(2)は45.9%である。選択問題では問題7(2)が80%を下回っているが、それ以外は95%程度である。
選択問題は問題7の(2)以外、通過率が80%を超える。選択問題の受検者の、大問2~大問4の各小問の通過率は、10%台~90%台までばらつきがある。しかしリスニングに関しては、小問間の通過率に顕著な差異が見られない。簡単な言い方をすれば、どの問題もみんなできちゃっているのである。これでよしとするか。
今回の学力検査結果の分析によれば、選択問題実施校に出願した生徒たちは、標準問題の受検者とは、学力があきらかに差違がある集団と見なせる。リスニング問題の問題4と5の聞き取るべき英文を増やし、負荷を加える等で難化させることを考えるべきかもしれない。問題6も解答を単純に名詞で答えさせるだけではなく、文章による解答にする等、もとめる解答を、もう少し複雑にするべきかもしれない。来年度はともかく、形式の変更を含め、今年のデータを精査・検討が必要だろう。
平成30年度のデータ
問題 | 率あ | 率い |
問題1 | 50.1 | 82.9 |
問題2 | 92.4 | 98.3 |
問題3 | 85.4 | 95.5 |
問題4 | 34.2 | 82.1 |
問題5 | 27.7 | 80.4 |
問題6(1) | 88 | 66.9 |
問題6(2) | 88.9 | 36 |
問題6(3) | 45.9 | 35.5 |
問題7(1) | 72.5 | 95 |
問題7(2) | 48.2 | 85.7 |
問題7(3) | 46.2 | 79.6 |
昨年度よりも平均点は下がったが、やはり学校選択問題受検者の集団の方が、点数が高い。今年度は問題6の出題形式を変更し、昨年のような高得点が出ないように工夫をしている。
標準問題の問題6は157wpm、中学生のEmmaとクラスメートのSatoshiの会話を聞き、学力検査問題は『内容に関する三つの質問に日本語で解答する記述問題』である。
問題6
留学生のEmmaとクラスメートのSatoshiの会話を聞いて,次の(1)~(3)の質問に日本語で答えなさい。
(1)Emmaが日本に来た理由は何ですか。
(2)Emmaはどこで昼食を食べましたか。
(3)Mr. Fukudaは,どのようなことを宿題として出しましたか。
ここの部分が選択問題では以下のようになる。
問題6
留学生のEmmaとクラスメートのSatoshiの会話を聞いて,次の(1)~(3)の質問に英語で答えなさい。
(1)Why did Emma come to Japan?
(2)What time did Emma arrive at the museum?
(3)What did Mr. Fukuda tell Satoshi and Emma to do?
(1)と(3)は学力検査問題と質問内容は同じとみていい。(2)は別の質問内容である。
リスニングで聞き取る英文は以下のようになる。赤字部分が標準問題、選択問題の解答に関係する部分である。
Hi, Emma. We learned about Japanese history in social studies class today. Is Japanese history difficult for you? |
模範解答は以下の通り。
標準問題
(1)日本の歴史に興味があったから
(2)公園
(3)新聞を作ること
昨年この部分の解答は、すべて名詞で答える形式。正解は『(1)15日間、(2)動物園、(3)日本の伝統行事』で3点×3だった。平成30年度は、(1)は理由を表す語句をきちんと書かなくてはいけない。(3)も名詞的表現ではあるが、単純に名詞を書くよりは難しい。この部分難化したが、通過率は向上している。
選択問題
(1)She came to Japan because she was interested in Japanese history.
(2)She arrived there at nine o'clock.
(3)He told them to make a newspaper.
(1)は理由を表す従属節(because以下)を書くことになる。(2)はやや難問。会話の中に具体的に「9時」という言葉は出てこない。(3)は会話の最後のところまで集中していないとわからない。それぞれ赤字部分を聞き取れれば、解答のヒントになる。通過率は(2)(3)が低い。
負荷を増やしたため、リスニング問題6の3問の通過率は、標準問題>選択問題である。
配点に標準問題の問題6(1)(2)(3)の通過率をかけて、合計すると6.68/9になる。
配点に選択問題の問題6(1)(2)(3)の通過率をかけて、合計すると4.15/9になる。
リスニング全部の問題にそれぞれ通過率をかけて合計すると、標準問題は17.49/28、選択問題は20.75/28である。難しくしたものの、得点は後者の方が上である。
同じ方法で学力検査問題の問題にそれぞれの通過率をかけて合計すると、55.23/100、学校選択問題は59.36/100である。すべての答案の平均として公表された点数は前者が55.9、後者が58.9である。配点×通過率でサンプルの数値を計算していくと、この数字に近くなる。
リスニングの部分だけを分離して考えると、平成30年度入試の標準問題、選択問題についてはまあまあの差におさまっていると言えるかと思う。