明日は我が身。
自動車生産数がついに世界一になったトヨタ自動車はGMの破産申請を深刻な表情で受け止めている、というようなニュースが流れるたびに、ではどうしてトヨタは生き残れていてGMは破産申請をしなければならないような状況に陥ったのか。
興味は尽きない。
ただ産業愛国心著しく、
「JAPAN as NUMBER ONE!」
と叫んでいる人は極めておめでたいと言わなければならないだろう。
トヨタ自動車はあれだけ巨大な企業でありながら閉鎖性が強く、企業の内部情報の漏洩歯止めに関しては他社を寄せ付けない凄みがあるのだという。
その凄みある情報統制のため、実は昨年の今ごろからトヨタはグループ企業、下請け孫請けを含め以下のような通達を出していたのだという。
「自動車が売れなくなってくる時期が間近に迫っており、設備投資や額の大きな新規購入は徹底して控えるように」
というものだ。
この「売れなくなる時期」をどのように推測したのか、経済にあまり明るくない私は良くわからないが、この考え方は的中し、今世界は(とりわけ名古屋は)未曾有の不況に陥っている。
トヨタも予想通り巨額の赤字を出している。
PHP研究所刊「GMの言い分」は、GeneralMotorsが破産申請し、国営化される数カ月前までを追っかけた「旬な」ノンフィクションだ。
正直、GMが品質面や開発力において「トヨタはもはや脅威ではない」というレベルまで到達していたらしい事実にはビックリした。
世界を制覇した「カンバン方式」を生み出したトヨタは、20世紀から21世紀にかけて日本の、いや世界の製造業の基本を作り出した創造主でもある。
1980年代以降、日本車の品質は他国のそれを凌駕しており、「故障しない自動車」として脅威の目で見られていた。
その鼻高々な高品質の日本車を横目に見ながら、アメリカン車は絶滅の危機に瀕していく。
しかし、実際は日本のメーカーではなかなか取り組めない、様々な技術を開発し、トヨタに学んだクオリティコントロールで世界市場へ再度羽ばたこうとしていた。
まさに、その離陸を開始したその時に、リーマンショックの直撃をくらってあえない最期を迎えた、というのが今回の真相のようだ。
本書ではGMとトヨタとの比較が随所に描かれており、日本人読者としても興味深い内容に仕上がっている。
なかでも開発技術面やアメリカ国内でのマーケティング力でトヨタを蹴散らかす寸前であったことが、筆者がアメリカ人であることを考慮に入れても面白く描かれており、ビジネス書としてスリリングだ。
とりわけトヨタの病的ともいえるぐらいに日本の以外に開発部門を出さないという今のやり方と、世界中に開発拠点を持ち、それぞれの地域性に合わせた開発能力を持つGMのやり方が、どう戦っていくのか考えさせるところが面白い。
そして、それは間違いなくこれからのチャンピオンを決定させる大きな要素であるという印象を与えてくれたのだった。
自動車業界のみならず、各国の製造業への考え方や技術者、労働者、セールス、経営者の考え方を知ることのできるのが本書の最も面白い部分なのであった。
~「GMの言い分」ウィリアム・J・ホルスタイン 著、 グリーン裕美訳 PHP研究所~
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