私はずーっと大手旅行代理店の近畿日本ツーリストの本社は大阪にあると思っていた。
しかし、それは誤りであった。
近畿日本ツーリスト(以下近ツーと略)の本社は東京、つまり東京の会社だった。
さらにまた、私はずーっと近ツーは日本交通公社ことJTBや日本旅行と同じ元々国策的な旅行代理店だと思っていたが、これも誤りであった。
近ツーは終戦直後にたった5人で創業したモーレツ旅行会社日本ツーリストが始まりの1つなのであった。
ちなみに日本旅行もJR西日本の連結子会社なのに本社は東京なのであった。
大阪はなにをやってんねん、と思ったのはいうまでもない。
城山三郎著「臨3311に乗れ」は久々に怒涛のごとく物語に引き込まれるビジネス小説だった。
ただ城山三郎の作品なので書かれたのはもう何十年も前になるのだが、その新鮮さは21世紀の現代で読んでもまったく色褪せることのない素晴らしい内容なのであった。
まず、登場人物の行動力が凄い。
近ツーの前身日本ツーリストを起こした馬場さんという社長は戦前朝鮮銀行に勤めるエリートなのであった。
それが敗戦して帰国の後たまたま得た仕事があまりにつまらないため退社。
「元手がかからない」
という理由だけで日本ツーリストを立ち上げ日本交通公社を筆頭とすり大手旅行代理店を向こうに張って闘いを挑んだ。
その手法が物凄い。
どのくらい凄いかは読んでのお楽しみだが、今の世の中であれば絶対間違いなく「ブラック企業」である。
それも「超」のつくブラック企業なのだ。
「就職したいんです」
とボロ事務所にやってきた京大生にヤクザのごとく「この世界は学歴なんか関係ねえよ」と言って、そのまま即添乗員を命じて修学旅行列車に添乗させる。
そのまま就職。
時代が時代だけに誰も「ブラック企業だ」なんて弱音を吐かなかった時代なのだろう。
もう一人、すごい人。
それは近畿日本鉄道社長の佐伯勇。
この人は伊勢湾台風で甚大な被害を受けた近鉄名古屋線を復旧工事と同時に線路幅を狭軌から大阪線と同じ標準軌に変更工事させて名阪直通特急を走らせるようにしたことで知られる関西では阪急の小林一三と比較してもいいくらいの敏腕社長なのだ。
この二人の勇が出会った時、物語はさらに大きく展開していく。
その流れがワクワク、ドキドキでたまらない。
「臨3311に乗れ」は閉塞感一杯の日本のビジネスマンに大きな力を与えてくれる一冊であることは間違いない。
なお、私は近ツーを利用したことはない。
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