萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

secret talk69 安穏act.6 ―dead of night

2018-02-13 08:47:12 | dead of night 陽はまた昇る
力を抜いて、
英二23歳side story追伸@第6話 木洩日


secret talk69 安穏act.6 ―dead of night

いつものように新宿、いつもどおり途中下車。
でもいつもと違うのは「さよなら」が無い事。

「湯原、」

呼びかけて改札口、君がふりかえる。
喧騒にぎわう行き交う人、でも瞳は君だけ交わす。
長い睫みひらいて見あげて、黒目がちの瞳が映す。

ほら?この自分だけ映して、

「なに…宮田?」

黒目がちの瞳が呼んでくれる、この自分を。
だから欲ばりたくなる。

―名前、呼んでくれたらいいのにな?

名前を呼んで?そうしたらもっと近づける。
そんな願い唇ふるえて、でも違う言葉に微笑んだ。

「昼、なに食べたい?」

たぶんまた同じだろうな?
そんな「また」鼓動あわい真中、君の唇ぼそり言った。

「ラーメン、」
「またかよ湯原?」

笑って、ほら鼓動あわい熱。
やわらかな温かな感覚しみてゆく、これは何だろう?

「宮田が連れて行く店、旨いから…」

ほら呼んでくれた、名字だけれど。
名前じゃない、それでも唇ついほころぶ。

「大体もう行きつくしたぞ、」
「そう?」

あいづちの横顔、頬なめらかに陽ざし照る。
夏の光きらめく肌きれいで、離せなくなる。

―きれいだ、…男なのに俺、どうして、

男が男に「きれいだ」と想う、そんなこと知らない。
でも想ってしまう自分がいる、想い見つめるまま笑いかける。

「そうって湯原、数えてみろよ?俺と一緒にラーメン行くの何度めだよ、」

何度め?そんなこと知っている。
君も知っていたらいい、けれど静かな声ぼそり訊いた。

「…なんどめになる?」

やっぱり知らないんだ?

「そっけないなあ、」

がっかりするな?
でも仕方ない納得に黒目がちの瞳が見あげた。

「そんなつもりないから」

それ、どういう「ないから」だろう?

※校正中
secret talk68 安穏act.5← →secret talk70

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secret talk68 安穏act.5 ―dead of night

2018-02-10 21:33:18 | dead of night 陽はまた昇る
門を出た先は、
英二23歳side story追伸@第6話 木洩日


secret talk68 安穏act.5 ―dead of night

スーツで門を出る、今は週一回の習慣。
その隣が君であることは、自分の幸運。

「お?今日も宮田、湯原と一緒かよ、」

ほら、同期の声が笑いかけてくる。
なにげない貌の「一緒なんだ」がうれしくて、英二は素直に笑った。

「そうだよ関根?今日は俺、湯原の家で世話になるんだ、」

事実ただ笑いかけて鼓動、ふくらむ熱やわらかい。
なんだろう?初めての感覚に健やかな日焼ほころんだ。

「へえ、愉しそうじゃねえか。騒いで迷惑かけんなよ?」
「騒がないって、」

笑い返しながら瞳の端、隣の頬やわらかに染まる。
また赤くなる横顔もっと見たい、想い笑いかけた。

「な?俺そんな騒がないって湯原は知ってるだろ?」

友達と騒ぐことも愉しい、でも穏やかな静謐が慕わしい。
だから隣にいたい相手は瞬きひとつ、長い睫ゆるく見あげた。

「ん、…でもうるさい時もあるな」

あ、これ冗談かな?

―分かりにくいけど、湯原の精一杯かも?

いつも不愛想、真面目くさった貌。
ようするに無表情だった君、それがこんなこと言ってくれる。

※校正中
secret talk67 安穏act.4← →secret talk69

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secret talk67 安穏act.4 ―dead of night

2018-02-07 23:42:21 | dead of night 陽はまた昇る
その朝に、
英二23歳side story追伸@第6話 木洩日


secret talk67 安穏act.4 ―dead of night

どうなるのだろう?
それから、あの貌。

“宮田君、実家ではない所が書いてあるけど?”

あれは普通の質問、でも、あの一瞬の眼。
あの担当官は何を見たのだろう?

―前と同じ外泊届だ、ただ、違うのは湯原の家ってことだから、

あの眼が見たもの、その意味。
それが何を呼ぶのか、起こすのか、その可能性どうしたら沈黙させられる?

「…嫌だけど使うか、」

声つぶやいた窓が青い。
もう明けてしまった今日、狭い寮室に久しぶりのスーツ羽織る。
衿元ネクタイ確かめて扉を開けて、かたん、閉じたドアノブに味噌が香った。

―朝飯にいるよな、あの男も、

思案と歩きだす脚、一週間ぶりのスーツなじむ。
毎週末ごと着なれた感覚、こんなことも学生時代とは違う。
でもそれはスーツを着る機会というよりも「スーツ」そのものだ?

―こんなスーツ見たら、あのひと何て言うんだろな?

思いだした「あのひと」に笑いたくなる。
もう暫く会っていない、けれど貌も言葉も解るような気がする。
解る、それだけ似ている自覚がある、だから「暫く」会いたくない。

―同類だから嫌なんだよな、俺?

でも知っている、わりと「同類」は役立つ。
そんな現実ひそやかに自嘲が笑う。

※校正中
secret talk66 安穏act.3← →secret talk68

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secret talk66 安穏act.3 ―dead of night

2018-02-06 00:00:01 | dead of night 陽はまた昇る
端緒、黎明、
英二23歳side story追伸@第6話 木洩日


secret talk66 安穏act.3 ―dead of night

月が昇る、夜がゆく。
明日がもう今日になる。

「どうなるかな…」

ひとりごとベッドの上、開けっぱなした月に融ける。
カーテン揺らす夜の風、紺青色ひるがえす雲に銀色かがやく。
あの月が動くたび朝は近づいて、そして来る時間に英二は微笑んだ。

「…遠足の子どもみたいだ、俺、」

もう今日になる、そうして来る朝に待ちわびる。
ただ楽しみで、そうして燻る鼓動に眠られない。

―どんな家なんだろ、湯原の部屋とか、

誰かの家に行く、それだけのことに想像めぐる。
どんな場所があの横顔を育てたのだろう?それに、

―湯原の「母さん」か、

母親。

どんな母親なのだろう、あの横顔を生んだのは。
どんな貌でどんな声で育てられたのだろう?

―俺の母さんとは全く違うんだろうな、たぶん、

違う、きっと。
その「違う」はたぶん君に限ったことじゃない。
自分の家とは全て違う、そんな予感にあの声が映る。

“ 殉職したんだ ”

君の声が叫ぶ、静かに。
涙が声になるのなら、たぶんあんな声だ。

―湯原の父さん…か、どんな人だったんだろ、

殉職、その現実はきっと苦しい。
苦しいから多分あんな声になる、あんな貌で、あんな眼で。
自分は知らない苦しみがある、でも、自分と比べてどちらが幸せなのだろう?

「…泣けるかな俺は、」

想い声になる。
あの涙に考えてしまう、自分は泣くだろうか?
もし自分の親が死んだなら、自分の心は正しく泣くのだろうか?

―お祖父さんの時は泣いたな俺、でも、

でも、父に母に泣くだろうか?
こんな疑問自体もう「正しく」ない、そういう自分の家だ。
そういう自分が君の家に行く、そうして知れるなら幸せだろうか?

「湯原の家…か、」

声なぞって瞳を閉じて、今日の時間なぞりだす。
明日のため外泊申請書を書いた、それだけで鼓動いつもと違った。
それを提出する鼓動も違って、それから、

『宮田君、実家ではない所が書いてあるけど?』

そうだ、あの担当者の貌。

―なんであんな貌したんだ?

一瞬のこと、けれど確かな違和感。
なぜ外泊先を見た瞬間、あんな眼になった?

『わかりました、担当教官と話してもらえますか?』

回答する貌「いつもどおり」唇うごかした、でも眼が違った。
瞳孔が大きく見えた。

―感情が揺れて瞳孔が大きくなるんだよな、

心理学のテキストに書いてあったこと。
その知識が今こんなところで反芻する、それだけの違和感があった。
外泊先が常と違う、それだけ、それだけで何故あんな貌しなくてはいけない?

―湯原の名前を見てあの貌になったんだ、もしかしたら?

もしかしたら?

仮定ひとつ見つめて瞳がひらく。
ベッド寝ころんだ視界に月が高い、開けたままのカーテン、月。

※校正中
secret talk64 安穏act.2← →secret talk67

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secret talk65 安穏act.2 ―dead of night

2018-02-01 21:35:15 | dead of night 陽はまた昇る
鍵たぐる鎖を、
英二23歳side story追伸@第6話 木洩日


secret talk65 安穏act.2 ―dead of night

週末、君の場所にゆく。

「これでよし、っと…」

書類一通、ペン置いて確かめる。
記入欄どこも間違いない、携え関門の前に立った。

「失礼します、外泊届をお願いします、」
「はい?」

担当窓口ふりむいて、いつもどおり受け取ってくれる。
その視線さっと一読、すぐに英二を見た。

「宮田君、実家ではない所が書いてあるけど?」

やっぱり訊かれるんだ?
想定通りの質問へきれいに笑いかけた。

「同期の家です、苦手科目の勉強会をします。教場の首席に教わりたくて、」

理由なら考えてある、同期なら身元不安もない。
たぶん許される、そんな想定に担当者の唇うごいた。

「…、」

なにか言った、なんだろう?

―同期か、って言ったのか?

唇かすかな動き読む、その視線も。

―変な貌だな、なんだ?

警察官の制服姿、いつもいる顔、けれど貌が違う。
どこか違和感わだかまる?確かめたくて微笑んだ。

「実家以外の外泊は難しいですか?消灯時間を気にせず教われると考えたのですが、」

重ねる言葉に変化を読む、この男は今なにを考える?
確かめたい違和感の底、警察官は瞬き一つこちら見た。

「わかりました、担当教官と話してもらえますか?」

回答する貌「いつもどおり」唇うごかす。
何も変わらない、それでも眼が何か違う。

―なにか問題があるのか、なんだろう?

廊下また歩きながら思考めぐる。
この違和感なんだろう、あの貌なにを意味する?

―瞳孔が大きく見えたな、

瞳孔は瞳の中心にある孔、瞳孔括約筋と瞳孔散大筋の働きで大きさが変化する。
眼に入る光の量、視界のピント合わせ、時に応じて散瞳と縮瞳をくりかえす。
そして、それは感情の起伏でも起きる。

―感情の揺れがあったってことか、でも何で?

外泊先が常と違う、それだけ。
それだけで何故あんな貌しなくてはいけない?

―湯原の家に俺が泊まる、それだけのことに何でだ?

規則違反ならそう言えばいい、それだけのこと。
でもあの貌は違う「それだけ」じゃなかった。

なぜだ?

―まったく無関係ならあんな貌しない、警察学校の警官が関係しそうなことは何だ?

書類一通、警察学校の見習い警察官、それだけが今の事実。
それが「警察学校に勤める警察官」の瞳孔を開かせた、起こした感情は何だろう?
どうして感情を起こされなくてはいけない?その原因はなんだ、何を見過ごしているだろう?

―書いてあるのは俺と湯原の名前、だけど?

たずさえた書類一通、歩きながら見つめてみる。
外泊希望日、外泊先、それから必要事項ただ記された紙。

―普通の外泊届だ、違いがあるとしたら?

規定の書類、規定の記入事項、それだけ。
いつもどおりの書面で、いつもと「違う」は一ヵ所だけだ。

「宮田、なにやってる?」

呼ばれて肩どすん、大きな掌に止められる。
ふりむいた至近距離、担当教官の眼じろり自分を見た。

「外泊届か、」

見せろ、そんな視線が書類とりあげる。
一読して低い声が訊いた。

「湯原の家に行くのか、理由は?」

訊いてくれる眼は鋭い。
けれど拒絶とは違う視線に英二は微笑んだ。

「徹夜勉強に行きます、消灯時間を気にせず教わりたくて、」
「ふん?」

うなずいて書類ながめて、胸ポケット印鑑ひとつ出す。
かつん、キャップ開かれて検印ひとつ教官は言った。

「電気は消して寝ろ、」

黒い眼じろり、一瞥の肩ひろやかに踵かえす。
規則正しい靴音の制服姿ゆく、その青い背につい笑った。

「へえ?」

意外と優しいらしい、自分の担当教官は?
意外な貌つい可笑しくなる、そうしてまた思考もどす。

意外な貌、なぜ窓口は「違う貌」になった?

※校正中
secret talk64 安穏act.1← →secret talk66

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secret talk64 安穏act.1 ―dead of night

2018-01-31 15:39:15 | dead of night 陽はまた昇る
その場所を求めて、
英二23歳side story追伸@第6話 木洩日


secret talk64 安穏act.1 ―dead of night

知りたいと想ってしまった、君のこと。

「あのさ湯原、」

名前を呼んで隣ふりかえる。
警察学校の空まだ青い、夏くすぶる放課後の色。
こんな空もっと早く君と見ていたら、違う自分だったろうか?

「今度の外泊日、実家に帰る?」

問いかけて黒目がちの瞳が見あげてくれる。
この顔もっと見たい、そんな本音に小柄な顔ちょっと傾いだ。

「ん、そのつもりだけど」
「そっか、」

あいづち何気なく、でも鼓動が響きだす。
期待して、そのまま隣が訊いた。

「ん…宮田は?」

ほら訊いてくれた。
待ちわびた一言に英二はため息吐いた。

「俺ん家、全員それぞれ旅行でさ。留守なんだと」

父は出張、母はサークルの旅行、姉は社員旅行。
見事に全員重なった、でも、いつもどおりだ自分の家は。

―どうせ居てもいないと同じだもんな、俺の家は、

誰も重ならない、誰もが独り。
そんな家だともう諦めている、その中心も解っている。
だからこそ求めたい時間の真中、黒目がちの瞳ちょっと笑ってくれた。

「…留守番ダメなんだ宮田?」
「なんだよ湯原、他人事だと思って、」

笑い返して、ほら君の瞳やっぱり笑う。
だからもっと見たい。

―笑うと、ほんとかわいいよな…男なのになんでだろ、俺、

見惚れてしまう、もっと見たい。
ただ望むまま唇うごかした。

「誰も残るやつ、今回は居ないみたいでさ?どうしようかと思ってて。俺、寂しがりだから、一人って駄目なんだよね?」

困り顔してみる、望みたいから。
誰もいないなら勉強に集中できる、復習の良い機会かもしれない。
けれど君の顔もっと見てみたい、それにきっともう、夜は寂しすぎる。

―湯原の気配があたりまえになってきてるな、俺、

せまい寮室でひとり、勉強していても気配を感じられる。
同じ部屋に居なくても隣室、気配だけでも近くにある安らぎ。
けれど卒業すれば気配すらも感じられなくなる、そんな未来が近いから今、離れたくない。

だから君、言ってよ?

「…うち来る?」

聴こえた、君の声?

「え、」

確かめたくて訊き返す、すこし意外だから。
だって君が申し出てくれた、その幸福がそっぽむいた。

「…なんでもない」

君が視線を逸らす、呟く声は抑揚がない。
それでも優しいと知っているまま構わず訊いた。

「俺、湯原ん家に泊まって良いわけ?」
「そう言っただろ、」

ぼそり、ぶっきらぼう。
でも嬉しい、けれど、どうしよう少し途方に暮れる。

だって君の部屋で君の隣、「なにもしない」でいられるだろうか?

―男同士で「なに」するって話だけど、って俺ホント手遅れ?

男同士で「なに」かしたら、どうなるのだろう?
しかも警察学校の同期で、いわゆる「問題」だ?

けれど、湯原が過ごした場所を見たい。
この隣を育んだ家、そして生んだ人は?

―湯原の「母さん」か、

居心地がいい、そう初めて感じた相手を生んだ女性。
この隣をこの空気を育んだ存在、どんな貌だろうか?

―後ろめたいとか思うのかな、俺でも、

この隣が好きだ、その想い分だけ気持ちが湧くだろうか?
だから挨拶もしてみたい、理由が解るかもしれないから。

なぜこんなに惹かれるのか?

―きれいに見えるんだ、湯原だけが…なんでだろ、

想い歩いてゆく足もと、植込みの木洩陽あわく蒼い。
翳す蔭やわらかな青色が隣を照らす、君の頬なぞる輪郭ふかい。
あわい蒼い翳ゆれる陽かたむいて、そんな夕暮に黒目がちの瞳が見あげた。

「山で…ねんざしたあと、」

翳す青い影ゆれる、見あげる黒目きわだつ。
ただ瞳きれいで、見つめるまま静かな声ぼそり言った。

「ねんざで帰れなかった外泊日…宮田、残ってくれたから、」

言いかけて視線、そっと逸らされる。
もう前を向いてしまった瞳、けれど首すじ薄紅しずかに昇る。

―かわいいな、照れてる?

家に来たらいい、それだけのこと。
それだけのことに赤くなる、そんな横顔に離せない。
こんなふう離せないと何度これから想うのだろう?

その先に何がある?

―男同士で先なんて無いよな、だったら、

離せない、でも離れるしかないだろう。
それならばこそ傍にいられる今がほしい、願いごと英二は笑った。

「じゃ、甘えさせてもらおうかな、」

君を知りたい、君の場所も生まれも全部。
ただ願いごと笑いかけて隣、薄紅の首すじふりむいた。

「ん…わかった、」

こっちを向いた瞳、この自分だけ映して、微笑んで。

※校正中
secret talk63 時計act.14← →secret talk65

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secret talk63 時計act.14 ―dead of night

2018-01-24 00:01:10 | dead of night 陽はまた昇る
始まりの瞬きを、
英二side story追伸@第5話 道刻


secret talk63 時計act.14 ―dead of night

天神峠までロープウェイ、そこから岩と木道と天空へ。

そんなふう幼い背中が登る、ちいさなヘルメット被った華奢な少年。
ああそうだ?あれは幼い君なんだ、その隣すぐ崖側たどる君の父親。

ああ、意外と背が高いんだ?

「…ん」

吐息ゆるやかに意識が浮上する、視界あわく披きだす。
やわらかな薄闇まだ青い、蒼い闇ゆっくり天井になる。

ああそうか、夢を見ていたんだ?

―谷川岳だ、あの道はきっと、

谷川岳のこと君と話していた、そのまま夢に君の記憶。
まるで覗き見したみたいだ?なんだか幸せで英二は寝返りひとつ、止まった。

「え?」

薄青い闇シーツの波、君が眠る?

「…、」

詰まる呼吸にオレンジが香る、ほら至近距離に寝息やさしい。
しずかな健やかな寝息やわらかに甘い、オレンジ香る寝顔に鼓動がとまる。

―湯原が寝てる、俺の隣で?

眠れる長い睫しずかに息づく、すこし厚い唇やわらかに微睡む。
おだやかな静かな寝顔きれいで、ただきれいで止めたい。

見ていたい、ずっとこのまま。
だからほら?右掌まだ君の指。

―湯原の指、俺…あのまま眠ったんだ、

君の指つかんで、狭いベッドふたり座って、ふたり谷川岳の写真を見た。
そうして話し続けて君の指そのまま、そのまま夜は過ぎて離さない朝だ。

“離れたくない”

それだけ願った狭い寮室の夜、そのまま薄青い朝にいる。

「…、」

オレンジ香る甘いシーツの波間、右掌そっと握りしめる。
くるみこんだ指かすかに動く、この温もり離したくない。

『あの…ベッドに座るなんていいのか?』

遠慮がち訊いてくれた、そういうところ好きだ。
そうして話してくれるたび君を知る。

『あのときまで忘れていたんだ、いちばん…たいせつなことなのに』

いちばん大切なこと、それは?
その記憶に写真ひとつ見つめた夜、そうして明ける朝に現実が迫る。

―点呼の前には起こさないと、でも、

でも離れたくない、放したくない。
指ひとつ握りしめて眠るシーツ、狭いベッド、ちいさな寮室。
そんな空間ずっと終わらなければ良いと願ってしまう、けれど君は目覚める。

※校正中
secret talk62 時計act.13← →secret talk64

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secret talk62 時計act.13 ―dead of night

2018-01-18 22:25:04 | dead of night 陽はまた昇る
零時から君に、
英二side story追伸@第5話 道刻


secret talk62 時計act.13 ―dead of night

つかんだ指、君がふるえる。

「…ぁ」

ためいき、それとも驚き?

そんな声は君だろうか、俺だろうか?
ただ伝えたい想い手を伸ばして掴んだ、それだけ。
それだけのこと、でも想像できなかった瞬間に英二は唇ひらいた。

「解らないからって湯原が謝ることないだろ、小さいころに登った山なら忘れるくらいよくあるよ?」

唇がうごく、声が喉あふれてくれる。
こんなふう自分は饒舌だ、それだけ狡知だったはずなのに君の指にふるえる。

―湯原の指をつかんでる、俺の手が、

右の掌くるんだ指は大きくない、男としては小さい指。
それだけ小柄な白シャツ姿はデスクライト立ち竦んで、その黒目がちの瞳が自分を映す。

「宮田…ありがとう、でも」

君の唇うごく、黒目がちの瞳かすかに揺れる。
すこし厚い唇はふるえそうで、それでも穏やかな声が言った。

「でもぼ、おれは…忘れすぎているから」

穏やかな声が静かに告げる、その言葉に知りたい。
どうして話してくれるのだろう?引きよせたくて微笑んだ。

「ぜんぶ忘れてるわけじゃないだろ湯原、お父さんの背中で下山したこと、山岳訓練のとき話してくれたし?」

父とこうして山を降りたんだ。

そんなふう君が話してくれたから、あの山岳訓練で選んでしまった。
この背に君の体温はやさしくて、耳もと声は穏やかで、あの瞬間ほしくて君といる。
この狭い寮室ちいさな空間に近づいて、ふたり深夜のはざまに黒目がちの瞳ゆっくり瞬いた。

「あのときまで忘れていたんだ、いちばん…たいせつなことなのに」

長い睫にデスクライト揺れる、瞳ゆっくり自分を映す。
揺れそうな眼ざし見つめ返して、右掌に指そっと握りしめた。

「湯原、おいで?」

右手に君の指くるんだまま立ちあがる。
デスクライト見あげてくれる瞳に微笑んで、デスクの写真とった。

「ゆっくり見よう?一緒に、」

ちいさな指と写真、そのままベッドに腰おろす。
右手つながれた指かすかに震えて、黒髪やわらかな頭かしげた。

「あの…ベッドに座るなんていいのか?」

遠慮してくれる、こういうところ本当に育ちがいい。
いつもながら奥ゆかしい隣人に笑いかけた。

「いつも俺こそ湯原のベッドに座るだろ、あれ本当は嫌だった?」
「ちがう、」

即答すぐ首振ってくれる。
こんなに本当は素直だ、そんな素顔ただ見ていたくて笑った。

「じゃあ俺のベッドにも遠慮するなよ、それとも俺のベッドに座るの気持ち悪い?」

ずきり、鼓動が疼く。
自分で言ったこと、けれど図星みたいで痛い。

“気持ち悪い”

そう君が想うかもしれない、自分の本音を知ったなら。
今どんな感情を欲望を君に想うのか?そんな全ての隣、ぱさり、細い腰が座った。

―座ってくれた、俺の隣に湯原が、

コットンパンツ細い腰、ふれそうに近い。
シャツの波紋ゆるやかなベッドの上、長い睫が見あげた。

「あのさ…いつまでゆ」

言いかけて、でも唇が止まる。
続ける言葉が続かない、ただ吐息そっとオレンジ甘い。
何を言おうとしたのか?すぐわかって、けれど微笑んだ。

「この写真、谷川岳を見あげる角度だろ?西側の天神峠のほうから撮ってると思う、」

写真に惹きこんで言葉を逸らす。
だって君が言いかけたこと逸らしたい、今はこのままで。

「ロープウェイで天神峠まで登れるから、湯原が小さいころに登ったコースじゃないかな?」

語りかけながら右掌そっと握りしめる。
くるみこんだ指かすかに動く、この温もり離したくない。

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secret talk61 時計act.12 ―dead of night

2018-01-16 23:18:15 | dead of night 陽はまた昇る
十二の時を集めて、
英二side story追伸@第5話 道刻


secret talk61 時計act.12 ―dead of night

父とこうして山を降りたんだ。

そんなふう君が話してくれたから、あの山岳訓練で選んでしまった。
この背に君の体温はやさしくて、耳もと声は穏やかで、あの瞬間をまた望んでいる。
だから今も狭い寮室ちいさな空間、ふたりきりの夜ただ嬉しくて英二は笑いかけた。

「湯原は登山の経験あるんだよな、お父さんと登ってたんだろ?谷川岳も行ったとか?」

君の時間すこし分けてほしい。
そんな願いデスクライト照らす部屋、小柄な横顔そっと俯いた。

「登った…とおもう、」

おだやかな声、でも何か頼りないトーン。
何かあるのだろうか?訊いてみたくて、けれど君の唇が止まった。

かちっ、かちっ…かちっ、

左手首、時の音が刻みだす。
デジタルのクライマーウォッチは音などない、でも聴こえる。
こんなこと昔なら感じはしなかった、それが今その横顔に時が響いて辿らせる。

―どうしてだろ俺、湯原のこと考えてる時だけは、

君のこと想う、その時間に山時計は響く。
この腕時計を選んだのは、君を背負った時間に始まったせいだろうか?

「宮田、おれ…登ったと思うけどわからない、」

横顔の唇そっと声になる。
オレンジと似た香やわらかい声、けれど不思議な言葉に尋ねた。

「解らない、って湯原?」

どういうことだろう?
聴いてみたい、でも訊いていいのか迷う。
もし君が傷つくなら無理なんてしてほしくない、それだけで。

―って俺どうしたんだろ、傷つけたくないなんて?

ただ傷つけたくない、この自分がそんなこと願っている。
こんな自分は知らなかった、そんな初体験に小柄な肩かすかにふるえた。

「わからなくて、おれ…宮田ごめん」

白いシャツかすかに震える、袖口のぞく指先も。
どうしたのだろう?解らないまま鼓動ひっぱたかれた。

「謝らなくていいよ、そんなこと湯原、」

君は謝らないでいい。
ただ伝えたい想い手を伸ばして、白シャツの指先つかんだ。

※校正中
secret talk60 時計act.11← →secret talk62

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secret talk60 時計act.11 ―dead of night

2018-01-15 22:35:06 | dead of night 陽はまた昇る
見つめたい瞬間に、
英二side story追伸@第5話 道刻


secret talk60 時計act.11 ―dead of night

なぜ、君だってわかるか?

そんな質問ほんとうに答えたら、君はどう思うだろう?
知りたい、けれどそんな勇気もないまま英二は半身ひらいた。

「部屋に入れよ湯原、廊下だと声が響くだろ?」

笑いかけた扉口、夜の廊下に白シャツあわい。
もう指定ジャージから着替えた夜の姿、そんな隣人に微笑んだ。

「とりあえず湯原、中で話そう?」

点呼も済んだ静謐の底、消灯された廊下に黒髪が光る。
蒼い非常灯に小柄な肩すこしためらって、それでもコットンパンツの足そっと踏みだしてくれた。

「…おじゃまします、」

くぐもる声そっと鼓動を敲く。
そんな胸もと黒髪クセっ毛かすめて、オレンジの香くすぐられた。

―湯原の匂いだ、

さわやかな甘い、オレンジとよく似た香。
この香に君だとわかる、なんて言える瞬間は来るだろうか?

「宮田、いま…勉強してたんじゃないのか?」

ほら君が呼ぶ、名字だけれど。
いつか名前で呼んでくれる瞬間は来るだろうか、それはどれくらい嬉しいだろう?

「うん、今はしてなかった、」

微笑んで答えながら迷いだす、今、どこに座ろう?

―できるならベッドに並んで座りたいけど、さ?

昨夜、自分のベッドに君が座ってくれた。
あの隣どれだけ座りたかったろう、ただ近づきたくて。

「そう…」
「うん、だから話し相手になってけよ?」

君のあいづちに笑いかけて、すこし伏せられた睫の翳に惹かれる。
すこし俯いた小柄な顎ふれたい、もしベッドに並んで座れば近づける?

でも、もし自分がベッドに座れば君はたぶん?

「…宮田のじゃまにならないなら、」
「じゃまなら話し相手とか言わないだろ、」

くぐもる声が遠慮がち、その壁を払いたくて笑いかける。
こういう君だから自分がベッドに座ればデスクの椅子に座る、この扉すぐ開ける場所に?

―扉の傍なんて座らせられないよな、遠慮すぐ帰るだろ?

扉に近ければ君は、きっと扉すぐ開けてしまう。
遠慮しすぎる君だから、気遣いすぎる君だから、すこしの時間で戻ってしまう。
そんな予想くつがえしたくて、ことん、デスクの椅子をひいた。

「今夜は湯原、ゆっくりしていってくれるんだろ?試験も終わったとこだもんな、」

笑いかけながら椅子ひいて扉の前、据えて座りこむ。
もう自分が動かなければ扉は開けない、寮室そんな狭い空間に黒髪そっと肯った。

「ん…でも宮田は勉強あるなら、」
「今夜はいいよ、ほら?」

笑いかけてベッド指さして、願いごと鼓動が軋む。
どうしても座ってほしい、そうして時間を与えて?

―俺が必死になってる、こんなに?

君との時間が欲しい、どうしても。
いつか離れる時間だと知っている、だから今、どうしても。

「遠慮されると俺、哀しいけど?」

ほら?こんなこと自分が言ってしまう。
こんな自分は今まで知らない、そんな初体験に黒目がちの瞳そっと動いた。

「宮田、それ…」

とん、

コットンパンツの素足そっとスニーカー踏みだす。
一歩ゆっくりデスクの前、長い睫ゆっくり瞬いた。

「この写真…?」

小柄な横顔そっとデスク覗きこむ。
静かに光るクリアファイルに英二は笑いかけた。

「谷川岳って山だよ、さっき資料室でコピーしたんだ、」
「谷川岳…、」

復誦してくれる声そっと穏やかに響く。
知っているのかもしれない?期待と笑いかけた。

「冬は難易度かなり高い山なんだけどさ、湯原も知ってた?」

君は山の経験者、だから知っている?

『父とこうして山を降りたんだ』

山岳訓練の下山の道、君は話してくれた。
この自分の背に君は温かで、耳もと声は穏やかだった。

※校正中
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