慈雨の森から、
水無月十七日、白百合―immaculate
まばゆい一滴、ふりつもる。
「きれいだ、」
梢きらめいて響く、輝く雨。
あわく渋い甘い風ふれる、額ゆらせて覚まされる。
まだ鹿も熊も目覚めたばかりだろう、雨を避けたどこかで。
「よっ…と、」
かけ声そっと踏みだす岩、湿度ゆるく登山靴を嚙む。
頬ひそやかに滑らす雨の音、かすかな響き登山ジャケット靡く。
花ゆらす雨音やわらかな森の朝、馴染んだ木立くぐって梅が香った。
「おー…」
こぼれた吐息、深く甘い。
馥郁あまやかに肺を満ちる、ひろがる青葉なだらかに香たつ。
踏みこんだ靴底やわらかな土くるんで、実りの畑そっと微笑んだ。
「当たり年、かな?」
ひとりごと笑って梢ふれる。
めくる青葉ふわり朱色あわい、完熟やさしい色。
指やわらかに触れて摘んで、涼やかな甘さ香った。
「良い実だね、今年もありがとな?」
笑いかけた梢、青々しげれる葉蔭に朱を燈す。
この実り幾年月だろう?ながめる樹皮に星霜が積もる。
『ご先祖様が植えたんだよ、ずぅっと昔、昔だ、』
幼い日、祖父がつむいだ昔語り。
こんなふう青い梢に朱色を摘んだ、あの日のまま馥郁ゆれる。
香る時間たどらす星霜、雫きらめく山畑はるかに雪嶺けぶる。
この雨も高峰は雪、まったく違う世界があの稜線にある。
「おーいっ、元気かぁ?」
呼びかけた声、銀嶺はるか解けてゆく。
今この山畑にひとり、あの稜線でもひとり小屋を開くだろう。
きっと今ごろ雪かきするのだろうな?あの横顔ただ懐かしくなる。
『収穫が終わったら来れるんだろ?待ってるな、』
からり笑って登山ジャケットの背中、慣れた四駆で邑を出た。
ずっと一緒に育った笑顔、それでも君は遠くはるかな嶺へ今を生きる。
「ふふっ、梅酒と梅干をアテにしてるんだろ?」
ほら笑ってしまう、送り出した言葉ついなぞる。
あのままに自分は荷を負って君を負う、君も自分も楽しいから。
『うんっ、待ってるなーっ』
あの白銀まばゆい天空の場所、きっと君は汗だく雪を掻く。
あの空きっと高らかに今、銀世界を無邪気が笑う。
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6月17日誕生花シラユリ白百合
水無月十七日、白百合―immaculate
まばゆい一滴、ふりつもる。
「きれいだ、」
梢きらめいて響く、輝く雨。
あわく渋い甘い風ふれる、額ゆらせて覚まされる。
まだ鹿も熊も目覚めたばかりだろう、雨を避けたどこかで。
「よっ…と、」
かけ声そっと踏みだす岩、湿度ゆるく登山靴を嚙む。
頬ひそやかに滑らす雨の音、かすかな響き登山ジャケット靡く。
花ゆらす雨音やわらかな森の朝、馴染んだ木立くぐって梅が香った。
「おー…」
こぼれた吐息、深く甘い。
馥郁あまやかに肺を満ちる、ひろがる青葉なだらかに香たつ。
踏みこんだ靴底やわらかな土くるんで、実りの畑そっと微笑んだ。
「当たり年、かな?」
ひとりごと笑って梢ふれる。
めくる青葉ふわり朱色あわい、完熟やさしい色。
指やわらかに触れて摘んで、涼やかな甘さ香った。
「良い実だね、今年もありがとな?」
笑いかけた梢、青々しげれる葉蔭に朱を燈す。
この実り幾年月だろう?ながめる樹皮に星霜が積もる。
『ご先祖様が植えたんだよ、ずぅっと昔、昔だ、』
幼い日、祖父がつむいだ昔語り。
こんなふう青い梢に朱色を摘んだ、あの日のまま馥郁ゆれる。
香る時間たどらす星霜、雫きらめく山畑はるかに雪嶺けぶる。
この雨も高峰は雪、まったく違う世界があの稜線にある。
「おーいっ、元気かぁ?」
呼びかけた声、銀嶺はるか解けてゆく。
今この山畑にひとり、あの稜線でもひとり小屋を開くだろう。
きっと今ごろ雪かきするのだろうな?あの横顔ただ懐かしくなる。
『収穫が終わったら来れるんだろ?待ってるな、』
からり笑って登山ジャケットの背中、慣れた四駆で邑を出た。
ずっと一緒に育った笑顔、それでも君は遠くはるかな嶺へ今を生きる。
「ふふっ、梅酒と梅干をアテにしてるんだろ?」
ほら笑ってしまう、送り出した言葉ついなぞる。
あのままに自分は荷を負って君を負う、君も自分も楽しいから。
『うんっ、待ってるなーっ』
あの白銀まばゆい天空の場所、きっと君は汗だく雪を掻く。
あの空きっと高らかに今、銀世界を無邪気が笑う。
白百合:シラユリ、花言葉「清浄、飾らぬ美、荘厳、純潔・無垢・無邪気、威厳、芳香、高貴な品性」
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