終わるとも、廻りて
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長月五日、秋明菊―recollect
忘れるはずもない、そして。
「おかあさーん、こっちー!」
弾んだ声が呼んでくれる、明るく澄んだ声。
まだ幼さ残して、けれど似ていて、面影ごと微笑んだ。
「はーい、ちょっと待ってー」
応えながら角を曲がって、緑の梢あざやかになる。
まだ残暑ざわめく風の先、ほら?あなたの記憶。
『…ここが僕の母校で…仕事場です、』
穏やかで落ちついて、深いけど羞む声。
石造り、レンガ造り、並んだ講堂ゆきかう学生と学者。
今もゆく足音たちの向こう、緑一隅あの小径を見た。
「おかーさーん!」
呼んでくれる声、幼さ残したまま面影ひびく。
陽ざし辿って緑くぐって、小径に踏みこんで鼓動ふるえる。
緑またたく石畳そっと進んで、木洩陽の狭間ベンチに花ゆれた。
「あった…」
白い花ゆれる木のベンチ、記憶より古びて、でも風かすかに甘い。
あの日あなたが微笑んだ、あの空気。
『また一緒に来てくれるかな…だから、僕と』
ここで羞んでいた笑顔、切長い黒目がちの瞳、あなたの声。
あの日まだ私も若かった、もう遠くて、そのくせ鮮やかに疼く。
「…来れたのね、また…」
想い零れて鼓動が響く、懐かしくて痛くなる。
懐かしくて、懐かしいだけ痛んで、逢いたい。
「お母さん?」
ほら、呼ばれた。
まだ幼さ残した声、けれど似ている瞳に笑いかけた。
「うん、懐かしいなって想って、」
笑って応えて、見つめる瞳が自分を映す。
顔立ちは自分に似て、けれど瞳の面影が問いかけた。
「お父さんのこと、思いだす?」
「うん、すごく、」
微笑んで肯いて、鼓動ふかく灯が燈る。
あなたの記憶ゆくキャンパス、今ここに息子のシャツひるがえる。
「僕もね、お父さんとこのベンチよく来たんだよ。将来の話とかもしてね、」
ほら面影が笑ってくれる、もう泣いていない。
もう過去だけに座りこまないで、今、ここから未来を見てくれる。
ほら?
「だから入学できて、喜んでくれてると思うんだ、」
「うん、きっと大喜びよ、」
肯いて微笑んで、懐かしいまま息子も笑う。
あなたが夢懸けて駆けぬけた場所、そうして今、ここから歩きだす。
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9月5日誕生花シュウメイギク秋明菊
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長月五日、秋明菊―recollect
忘れるはずもない、そして。
「おかあさーん、こっちー!」
弾んだ声が呼んでくれる、明るく澄んだ声。
まだ幼さ残して、けれど似ていて、面影ごと微笑んだ。
「はーい、ちょっと待ってー」
応えながら角を曲がって、緑の梢あざやかになる。
まだ残暑ざわめく風の先、ほら?あなたの記憶。
『…ここが僕の母校で…仕事場です、』
穏やかで落ちついて、深いけど羞む声。
石造り、レンガ造り、並んだ講堂ゆきかう学生と学者。
今もゆく足音たちの向こう、緑一隅あの小径を見た。
「おかーさーん!」
呼んでくれる声、幼さ残したまま面影ひびく。
陽ざし辿って緑くぐって、小径に踏みこんで鼓動ふるえる。
緑またたく石畳そっと進んで、木洩陽の狭間ベンチに花ゆれた。
「あった…」
白い花ゆれる木のベンチ、記憶より古びて、でも風かすかに甘い。
あの日あなたが微笑んだ、あの空気。
『また一緒に来てくれるかな…だから、僕と』
ここで羞んでいた笑顔、切長い黒目がちの瞳、あなたの声。
あの日まだ私も若かった、もう遠くて、そのくせ鮮やかに疼く。
「…来れたのね、また…」
想い零れて鼓動が響く、懐かしくて痛くなる。
懐かしくて、懐かしいだけ痛んで、逢いたい。
「お母さん?」
ほら、呼ばれた。
まだ幼さ残した声、けれど似ている瞳に笑いかけた。
「うん、懐かしいなって想って、」
笑って応えて、見つめる瞳が自分を映す。
顔立ちは自分に似て、けれど瞳の面影が問いかけた。
「お父さんのこと、思いだす?」
「うん、すごく、」
微笑んで肯いて、鼓動ふかく灯が燈る。
あなたの記憶ゆくキャンパス、今ここに息子のシャツひるがえる。
「僕もね、お父さんとこのベンチよく来たんだよ。将来の話とかもしてね、」
ほら面影が笑ってくれる、もう泣いていない。
もう過去だけに座りこまないで、今、ここから未来を見てくれる。
ほら?
「だから入学できて、喜んでくれてると思うんだ、」
「うん、きっと大喜びよ、」
肯いて微笑んで、懐かしいまま息子も笑う。
あなたが夢懸けて駆けぬけた場所、そうして今、ここから歩きだす。
秋明菊:シュウメイギク、花言葉「忍耐、耐え忍ぶ恋、薄れゆく愛、褪せていく愛、多感な時、淡い思い」
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