萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

弥生朔日、白木蓮― chastely

2022-03-01 23:57:13 | 創作短篇:日花物語
紡いで、今
3月1日誕生花ハクモクレン白木蓮


弥生朔日、白木蓮―chastely

窓の花、あれは樹上の蓮。

「これが教授の蔵書です、」

かたん、
開かれた扉くゆる空気、ほの甘い渋い香。
家の書斎と同じ匂いで、確かに居た空間へ息ついた。

「こんなに…祖父のですか?」

零れた声そっと古書が香る。
積まれた書籍たち年代さまざま、けれど保存状態どれも美しい。
小山ひとつ佇むデスク、研究室の後継が笑った。

「こんなにです、どれも大事にしてあるでしょう?先生のお人柄ですよね、」

銀色まじりの髪かきあげて、祖父の愛弟子が微笑む。
どこまでも眼ざし穏やかで、すなおな礼に頭下げた。

「ありがとうございます…葬儀でも素晴らしい弔辞を、ありがとうございました、」

この学者は弔辞を「語って」くれた。
原稿など持たず、肚底から語ってくれたひとは微笑んだ。

「私のほうこそです、君がいてくれて本当に感謝しています、」

いてくれて。
その言葉ひとつ鼓動に響く、だって祖父はもういない。

「…ありがとうございます、」

頭下げて喉せりあげる、目元うっすら熱い。
滲みだす視界うつる床、この木目あのタイル、6ヵ月前はウィングチップが歩いていた。

『前期が終わったね、専攻は少し見えてきたかな?』

夏休みも一緒にここにいた、あの時間が慕わしい。
いつもネクタイ締めていた、ウィングチップ磨いた足元、銀髪やわらかな眼ざし。

『合格おめでとう、これからは教師と生徒にもなるのだね、』

春、たった一年前の笑顔が今はもう遠い。
もう戻ることがない瞬間、かすかな甘い渋い深い空気、祖父であり師であった瞳と声。

「…ぅ」

瞳こぼれて滲んでゆく、祖父が歩いた床きらめいて落ちる。
ずっと続くと思っていた、願っていた、その時間もう戻らない。

「泣いていいんです、今、君は…本を開くのはそれからでいい、」

涙の頭上、バリトンやわらかに温かい。
この声が今日から師になるのなら、芳跡たどれるのなら。
白木蓮:ハクモクレン、花言葉「高潔な心、自然への愛、恩恵、威厳、崇敬、忍耐、持続性」


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弥生の色、早春桜

2022-03-01 07:48:00 | 写真:花木点景
芽吹く色、弥生ほころぶ薫る春
花木点景:桜2020.3.1


早咲きの桜ほころび始める丹沢足柄、とはいえ山の北面は白いです。
今シーズンは久しぶりの厳冬×雪山シーズンの様相、ここ4年以内の冬しか知らない方には未知の冬山だと思います。
この年末年始どこの山域も降雪着雪、日暮れもカナリ早いので登山の方はお気をつけて。
【撮影地:神奈川県2020.3.1】

早く越境して山歩けるよーになりますよーに。
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