萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

文月十六日、蓮―save

2021-07-16 23:57:01 | 創作短篇:日花物語
あなたに手向ける、
7月16日誕生花


文月十六日、蓮―save

象鼻杯、または天杯?

「おっ、降りだすかな、」

低い声からり、朗らかに明るい眼。
その眼差し沿わせて仰ぐ空、軒端はたはた響きだす。

「ん、降ってきたね、」

肯いた縁側、胡坐の膝もと光はじく。
ほら風、額そっと涼んで優しい。

「涼しくなるな、」

隣からり笑って、朗らかに雨透る。
はたはた光る雫に楓が青い、青時雨えがく輪郭に隣を見あげた。

「ね、今年もすぐ止むかな?」
「止むだろうけど、ちょっとやるか?」

応えて振りむいてくれる頬、なめらかな日焼に青雨けぶる。
その眼差し去年と同じに涼やかで、のどやかな時に微笑んだ。

「やるって、まだ明るいのに?」

まだ午後3時、世の中はおやつの時間だろう?
けれど健やかな笑顔からり言った。

「まだ明るいからいいんだろ、盆休みだ、」
「盆休みって、このあたりは8月お盆なのに?」

即答つい返しながら笑ってしまう、「らしく」て。
あいかわらずな隣は切長い瞳ふわり笑った。

「8月の盆もいいけどさ、今なら池の花見ができるだろ?雨でいい感じだ、」

微笑んだ瞳ほら、先を見る。
視線たどらせて花ゆらす、梢けぶる雨が瀬をはじく。
きらめく雫やわらかな風、翡翠色ゆらめく蓮池の色が光る。

「ん…きれいだね、今年も、」

声すなおに零れて薄紅あわい。
翡翠さやさや波うつ色、薄紅あわく匂う。

「今年もきれいだろ、変わらずにさ?」

あいづち微笑んでくれる声、明朗ひそやかに悼む。
変わらない明るい切長の瞳、その静かな瑕そっと酒を酌む。


蓮:ハス、花言葉「清らかな心、神聖、沈着、離れゆく愛、雄弁、休養、救ってください」

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