萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

第59話 初嵐 side K2 act.1

2013-01-17 23:46:16 | side K2
「新」今、ここを発って



第59話 初嵐 side K2 act.1

梢を光が揺らし、風が髪を遊ばさす。
ふわり、頬なでる馥郁は深く甘い懐かしい香。
夏に繁れる山桜の葉は薄い緑きらめいて、愛しい記憶ごと香を降らしてくれる。
豊かな木洩陽に明るむ森の底、白い星の花に光一は笑った。

「雅樹さん、今年も桔梗が咲いたね?山桜も実が生ってる、」

記憶の俤に笑いかけ、緑ゆれる巨樹にふれる。
なめらかと固さとが入り混じる木肌は、紫ふくんだ灰色に艶めく。
陽に透ける緑の葉隠れを、小さな果実が黒く濡玻玉に光って実りを示す。
大切な人が愛した桜の巨樹、その許から振り向くとブナの翡翠色が天蓋を覆う。
そこから離れた陽だまりに、常緑の山茶花が護る磐座を見て記憶へと微笑んだ。

「ね、雅樹さん。あそこでドリアードと俺、アーモンドチョコ食べたんだよ?冬はあの岩が一番だからさ、」

いま森の花に傅かれる岩、そこに15年前にあった光景を雅樹が隣に居るよう話してしまう。
この森に雅樹は生まれ、この森を愛して通い、森の主である樹霊に出逢い恋して山ヤになった。
その場所に佇む今、慕わしい肌に香った馥郁が大気に充ちて、香に連れられた心が二十年を超えていく。

「光一、この花は奥多摩ではね、ここでしか僕も見た事が無いんだ、」

綺麗な深い声が笑いかけ、白い指を花に添える。
華奢な翠のびやかな茎に白い花がゆれる、その五弁の星型に自分は尋ねた。

「コレって桔梗だよね?庭とかで咲いてるって思うけど、」
「よく見て、光一?花に葉脈みたいな筋があるけど、これが赤いのが珍しいんだ、」

盃のような花冠の底、紅色のラインが奔っている。
薄紅ぼかしの花は艶やかで、その優しい風情に大好きな人へ笑いかけた。

「きれいだね、雅樹さんが照れてる時のうなじみたい、」
「そうかな?なんか恥ずかしいね、」

笑った白皙の貌は羞んで紅潮を昇らせる。
その容子が花と似て綺麗で、眩しくて慕わしい想いごと抱きついた。

「雅樹さんって、ホントきれいだね?世界一の別嬪だよ、」

あなたは世界一に綺麗。
誰よりも清らかで強くて、いちばん大好きな綺麗な存在。
この憧れと恋慕に見あげた切長い目は、照れたよう困ったよう笑ってくれた。

「僕、男なのに別嬪なの?」
「うんっ、男だって美人は別嬪だよね?雅樹さんは俺の別嬪パートナーだよ、」

俺のパートナー、そう呼ばせてよ?
そう呼んで独り占めしたくて笑いかけた傍ら、長身は片膝ついてくれる。
そして目線を合わせ瞳を見つめて、羞んだ綺麗な笑顔が尋ねてくれた。

「僕のこと、光一のパートナーにしてくれるんだ?」
「うんっ、俺のパートナーになってよ?春にも言ったよね、雪の降った日にここで言ったよ?」

ドリアードより俺を選んでよ?俺だけを見てよ、
いちばんを俺って言って約束を護ってよ?俺とパートナー組んで一緒に山登ってよ、大好きだったら、
いちばん好きなら俺だけのパートナーになってよ、山の神さまより俺を好きって言って?山で死なないでよ、俺のトコ帰ってきて、ずっと

3ヶ月前の雪ふる春、ドリアードの話をしてくれた雅樹にそう願った。
あのとき雅樹は4歳にもならない自分と約束してくれた、あの約束を今も覚えていると言ってほしい。
どうか覚えていてよ?そう願い見つめた切長い目は幸せに笑ってくれた。

「うん、言ってくれたね。あのとき僕、嬉しかったよ。ちゃんと光一も覚えていてくれたんだね?」
「覚えているに決まってるねっ、雅樹さん、俺がいちばん好きだから俺のとこ帰ってきてくれるんでしょ?パートナーもやるよね?」

覚えていてくれたことが嬉しくて、嬉しい想いごと雅樹に抱きついた。
ふたり同じ記憶を覚えていられる、この共有が幸せで頬よせた光一に綺麗な深い声が微笑んだ。

「うん、いちばん好きだよ。ちゃんと奥多摩に帰ってきて、ずっと光一と一緒に山へ登るよ?明日はどこに登りに行く?」
「水のあるトコがイイね、三頭山とかさ、川苔でもイイよ?」

光一が4歳になったら一緒に山に登る。
その約束どおり5月の誕生日から、奥多摩に帰ってくるたび一緒に登ってくれた。
そうして雅樹との山行が始まった4歳の夏は、大好きな場所を大好きな人と登る喜びに明るかった。

「雅樹さん、あの夏も幸せだったよ?…雅樹さんと一緒に登れて俺、本当に幸せだった、」

いま隣に居てくれる、たとえ見えなくても傍に居る。
そう信じるまま微笑んで指を伸ばし、紅ふくむ白い花を手折った。
青い桔梗、あわい黄色のホトトギス草、野花菖蒲に紅撫子、薄紫の野菊に大山蓮華。
白から青に黄色に赤、夏の花々をひとつずつ俤の記憶ごと手折り摘んで、腕に抱いてゆく。
この場所で花を摘むとき16年前は、大好きな人が隣にいて花と微笑んだ。あの幸福な記憶が花の色と香に優しい。

「ここで花を摘むのは俺だけだね…今って独りだけど、一緒にいてくれてるよね?」

ここは秘密の花園、雅樹と自分だけの居場所。

他にこの場所を知る者は唯一人、山桜の樹霊ドリアードしかいない。
けれど樹霊の化身も今はここに帰ることなく、独り運命と闘いに行ってしまう。
その同じ場所へと明日の午後には自分も立つ、それから後は奥多摩に帰る日も解からない。
もう帰りの涯が解からない出立、この現実に微笑んで見上げた山桜に光一は問いかけた。

「雅樹さん、ここに残りたい?それとも俺と一緒に来てくれる?森も山も遠いトコだけどね、俺と一緒に行ってくれる?」

笑いかけた梢ゆらいで、薄緑の木洩陽きらめき降る。
まぶしい温かな光と花の馥郁そっと頬撫でて、その優しさに微笑んで光一は踵返した。
ゆっくり踏み分けていく森の道、大きな樹木の谺にせせらぎは響いて水の気配がやさしい。
この水を汲んで共に飲んだ日が愛しくて、歩く足元の草花ひとつずつに記憶の言葉がうつろい揺れる。

「雅樹さんの記憶が生きているね、この森には。ね、雅樹さん?」

微笑んで呼びかけ見上げる、その額に木洩陽は降りそそぐ。
もう8月を迎える孟夏のとき、けれど森の空気は静謐に涼やかで水音も清かに鎮まる。
この森閑も清涼も全てが好きだ、この大好きな森に呼吸しながら緑の空気を歩いていく。
暫くは森をゆっくり歩くことが出来ないだろう、そんな明日からの時間に笑って登山靴はアスファルトを踏んだ。

「さて、現実にちょっと寄っていこっかね?」

笑って通りを横切り、奥多摩交番の入口を潜っていく。
広やかな背中を向ける黒いTシャツ姿の長身は、向かいの後藤と愉しげに笑っている。
ふたりの声に「北壁」という単語を聴きながら長身の隣に立つと、光一は笑いかけた。

「お待たせ、ほら行くよ?また後でね、後藤のおじさん、」
「ああ、今夜は無礼講で飲もうなあ。行ってらっしゃい、」

後藤の深い眼差しが、温かく微笑んでくれる。
後藤なら今抱える花束の意味が解かるだろう、その理解に笑いかけ踵返した。
すぐ後ろから深い森の香が近づいて、隣に来ると綺麗な低い声が微笑んだ。

「光一、いつの間にかいなくなって驚いたよ?」
「俺に驚かされんの、愉しいだろ?」

からり笑いかえして一緒に歩く道、アスファルトに陽光が熱い。
けれど山風がカットソーを透かせて心地いい、頬も涼しさが撫でてくれる。
まぶしい陽光に目を細めながら花を抱き、慣れた道を辿って山門を潜った。

「…寺か、」

綺麗な低い声がつぶやく、そのトーンに理解が香らす。
どこに行くのか英二なら気づいてくれる、この信頼に行く先は告げない。
それに呼応するよう隣に並んで、明滅きらめく石畳を一緒に歩いてくれる。

―英二、雅樹さんの墓を見て何を想うんだろね?

いま隣を行く男は、雅樹の墓所に何を見つめるだろう?

今から24時間前に自分たちは、アイガーの麓で快楽に繋がれていた。
白いシーツに抱きあい素肌を交わし、互いの体に感覚と熱を求めて溺れこんだ。
北壁登頂を終えた夜に初めての時を過ごし、真昼の夢にまた夜を繰り返して互いを確かめた。
そんな夜と昼と夜を過ごした時間たちは、こうして隣を歩く今は幻のよう感じてしまう。

―雅樹さん、英二とのコトって本当に現実なのかね?…なんか雅樹さんの時と違い過ぎて途惑う、よ…

雅樹と過ごした一夜は、現実だった。

たった一夜限りの恋人の夜だった、それでも永遠の時間となって今も抱く。
あの夜に十年後を約束して、けれど叶えられなくて、それでも永遠だと今も言える。
この今も雅樹との夜は心あざやかで、あの夜の感覚も香も声も全ての記憶が愛しく温かい。
唯一夜、けれど夜明けの風まで幾度も交わした恋愛の瞬間は生きる涯まで充たしてくれる。

―雅樹さんとの時間は現実だって今もわかるのに、英二の夜はなんだか幻みたいだね?

英二とは二夜をアイガーの窓辺で抱きあい、この身に感覚を穿たれた。
あんなに幾度も愛してくれた、それなのに非現実と想えてしまうのは何故だろう?
誰よりも自分に心身とも近い男は最高の友、その友情が変らぬ空気に恋愛は不似合と想えてしまう。
この親友と呼べる男と自分が?そんな不思議へ微笑んで手桶2つ水を汲み、また歩いて雪空色の墓碑に辿り着いた。

「英二、ちょっと待っててね、」

花を1つの手桶に入れながら笑いかけた先、英二が微笑んでくれる。
穏やかで優しい笑顔にすこし鼓動が叩かれる、けれど笑った光一に綺麗な低い声が言ってくれた。

「お墓を磨いたりするんだろ?手伝うよ、湯原の家でいつもやってるし、」

周太にするのと同じように光一にも接しようとしてくれる、それが素直に嬉しい。
両親の命日も英二は共に墓参して、一緒に墓碑を磨いてくれた。あのとき嬉しかった。
けれど雅樹の墓は特別、この想いは譲れなくて光一は首を振った。

「ありがとね、でも俺ひとりでやらせてよ?」

謝辞して笑いかけた光一を、切長い目が見つめてくれる。
穏やかな眼差しはかすかな切なさに微笑んで、静かに頷いてくれた。

「うん、俺のこと気にしないで、ゆっくりで良いよ?待ってるから、」

そう言って綺麗な笑顔を見せて、参道の並木に英二はもたれた。
ゆれる木洩陽にダークブラウンの髪きらめかせ、ただ優しい笑顔をくれる。
その長身端正な立ち姿に、亡き人の俤と違いを見とめながら墓碑へと向かい合った。

「雅樹さん、吉村のジイさん、バアさん、それからご先祖さん達。ちょっとお邪魔するね?」

白灰色の碑に頭を下げて笑いかけ、ポケットから真っ新のタオルを出す。
手桶の水で絞り正面上から拭っていく、その白い布地がグレーに染まっていく。
この1週間前に磨いたばかりで汚れは少なくて、すぐ石は陽光を白く照りかえす。
これで雅樹の墓参は三度目になる、そして英二にとっては今が初めての雅樹との邂逅になる。

―雅樹さん、英二を連れてきたよ?きっと一緒にいつも会ってるだろうけど…体の名残りと会うのは、初めてだね?

心ひとり言で熱が生まれて、瞳深くから涙こぼれる。
この墓石の下には雅樹の遺骨がある、その現実をずっと認めたくなかった。
いつか自分の元に生きて帰ってきてくれると、雅樹の「必ず帰る」約束をそう信じていたかった。

けれどもう、今は雅樹の言葉の意味が解る。あの言葉は山ヤの医者として「覚悟」の約束だった。

―俺に必ず帰るって言ってくれたのは、雅樹さん…心だけになっても帰ってきてくれる、そういう覚悟だね?山も医者も危険だから、

雅樹は山岳医療の医師を目指していた。
それは緊急時にも全てに対応できる救助の医療でもある。
だからきっと、もしも災害が発生すれば派遣医師団に雅樹は参加しただろう。
最高のクライマーとして嘱望されていた雅樹なら、災害現場での医療活動は適任すぎる。

―誰にも救けられないような時でも、雅樹さんは逃げないで救けちゃうね?クリスマスのお産の時みたいにさ、

心で語りかける想い出に、いちばん幸せなクリスマスイヴが微笑をくれる。
あのとき自分は7歳で雅樹は22歳の医学部4回生だった、そしてあの日の奥多摩は要人警護と豪雪に機能が止まった。
山岳救助隊も身動きが取れず、消防レスキューも他の現場に向かって、山奥の一軒家で妊婦は取り残されてしまった。
それを若い警察官から聴いた雅樹は迷わず自分が行くと笑って、不安げなく無事に母子を護りきった。
あの時に見た雅樹の笑顔も、産褥の血に塗れた長い指も額の汗も、全てが今もあざやかに愛しい。

―あの日すぐに行きますって言えたのは、いつも覚悟していたからだね?…そういう雅樹さんが俺、本当に大好きだよ、逢いたいよ?

大好き、

だいすき大好き、本当に逢いたい、あなたに逢いたい。
逢いたくて、だから本当は約束の山を見上げる氷河の中に自分は眠ろうとした。
けれど想うほどに自死は出来ないと気付かされて、それでも今だってすぐ逢いに行きたい。

―今も一緒にいるよね、でも逢いたいよ…だから死にたかったんだよ?アイガーで、雅樹さんが夢を登った場所で追いかけたかった、

ホテルの部屋を抜け出した、あの黎明に自分は本気だった。
本気で雅樹の元へ逝きたくて、だから見つからず死ねる方法を一瞬で考えた。
それでもピアノの旋律に呼ばれた記憶から、雅樹の笑顔を裏切れなくて死ねなかった。

―今だって逢いたい、雅樹さんを追いかけたいよ…でも雅樹さんが俺を護ってくれるって約束、信じてるから生きるよ?
 生まれた時からずっと俺を護ってくれてるね、俺の名前に雅樹さんの夢をくれたこと、もう忘れないから…死のうとしたの赦してよ、

告白に、涙が頬を伝って墓石に降りかかる。
逢いたいけれど逢えない、後を追うことも赦されない。
こんなにも逢いたいのに、逢いに行けば裏切りになってしまう。
そんな現実が哀しくて温かくて、それでも告げたい本音を磨く墓石に籠めた。

―だけど信じてよ?雅樹さんの傍にいられるんなら俺、全部と引き換えたって良い。だから死んでも逢いに行きたい、
 だから約束してよ?俺が雅樹さんと約束した山、全部を登ったらさ…俺のこと迎えに来てくれるよね?それ信じて生きるから、ね…

自分の世界は「山」が全て、そこに雅樹との約束と記憶があるから山に生きてきた。
この世界を共に生きられる相手がいるなんて想っていなかった、けれど今ここに英二がいる。

―雅樹さん、俺って寂しがりの甘ったれでさ?英二と一緒に山登るの、すごい幸せなんだよね。独りじゃないって良いなって、
 だから雅樹さんトコ行くまで一緒にいたい、だけど俺が本当に帰りたいのは雅樹さんのトコだけだよ…きっと迎えに来てよね、

いつか未来に迎えに来て?

いつか約束を終えたら傍に居させて、そして二度と離れないでほしい。
それまでは他の人と登るけれど、でも本当はあなたと登りたいと言ってしまう。
今はまだ叶えてはいけない夢、それでも信じて笑いかけながら密やかに涙を拭い、パートナーへ振向いた。

「英二、暑いなか悪いね?これ活けたら終わるから、」

木蔭の長身に笑いかけ、手桶に入れた花を抱え上げる。
色あざやかな花は16年前と変わらない、嬉しくて微笑んだ横から綺麗な低い声が訊いてくれた。

「きれいな花だな、これ、どこから持って来たんだ?」
「秘密の花園だよ、」

即答に笑って秘密を告げる、あの場所だけは英二にも言えないから。
何処よりも大切な場所を隠して笑って、墓碑に向かいあい夏の花を活けていく。
雪空色の碑に色彩ゆれて森の香が充ちるなか、オレンジジュースの缶ひとつ墓前に供えた。
雅樹は柑橘を好んで下山後はオレンジジュースをよく飲んだ、そんな時の笑顔を想い笑いかけた。

「雅樹さん、英二を連れてきたよ?北壁ではありがとね、」

片膝をついて合掌し、瞑った視界に大好きな笑顔が現れる。
もう16年逢っていない笑顔、けれど目の前にいるよう俤はあざやぐ。

―奥多摩を明日、発つよ?それでも一緒にいてくれるよね、ずっと俺を護って傍にいてよ…ずっと俺の中で生きて、

自分が生まれてから雅樹が亡くなる前日まで、幾度も交わした想いと約束は今も生きる。
そう信じているから明日も自分は、雅樹の記憶が眠る場所からも離れて発って行く。
そんな想いと笑って瞳を披いて立ち上がり、振向くと英二が微笑んでくれた。

「ごめん、光一。俺の所為で異動させて奥多摩から、雅樹さんから光一を引き離してごめんな、」

告げられた言葉に、白皙の貌を見つめてしまう。
また英二は雅樹のことを気付いてくれる、こんな温かさが英二の本質なのだろう。
こういう優しさだけで英二はいつか生きられたらいい、願いながら光一は笑った。

「謝る必要なんかないケドね?そう思うんなら、雅樹さんに手合わせてよ、」
「ああ、」

切長い目を素直に笑ませ頷くと、長身は墓前に片膝ついた。
静かに碑を見上げる後姿、ダークブラウンの髪に夏の陽きらめかす。
黒いTシャツの背中は広やかで、端正な姿勢で佇んだまま動かない。

―英二も雅樹さんに、色んなこと話してくれるんだね?ありがとね、

英二に感謝したい。

いつも雅樹を尊重してくれる、その気持ちが嬉しい。
いつも本当は嬉して、雅樹のことを受け留めてくれると安堵する。
そういう英二の懐だから甘えたくて、眠りの時間を共にしていたかった。

―ありがとね、英二?この10ヶ月ずっと嬉しかった、おまえがいてくれて幸せだった、

感謝と微笑んで見つめる視界、ふたりのアンザイレンパートナーに木洩陽きらめく。
もう今は夏、16年前の夏はいちばん幸福な時間だった、あの時と同じ季節が今年も廻る。
この夏に故郷を離れて発つ、そこで自分は何を見つめる?
そして何を想うだろう?







(to be continued)

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