語らう想いに、
如月十二日、連翹―Childhood memory
琥珀ゆれる、香ひそやかに時うつる。
「このグラス、なつかしいな、」
ほら笑ってくれる、その瞳が懐かしい。
うつりゆく時間の香に微笑んだ。
「憶えてるんだ?兄さんも、」
「忘れられないだろ、」
低い声おだやかに豊かに響く。
この声ただ懐かしくて、記憶に笑いかけた。
「兄さんと話してるとなおさらね?そっくりでさ、」
笑いかけて、ほら瞳やわらかに穏やかに澄む。
あの齢をもう超えた、その歳月おだやかに微笑んだ。
「そんなに似てるか?」
「目じりの皺もね、」
笑いかけてグラス傾けて、兄もグラス口つける。
唇かすかに甘くほろ苦い、時ゆるやかな芳醇に兄が微笑んだ。
「春だな、」
「ん?」
ふりむいた縁側、庭の陽だまり黄色やわらかい。
幼い日かぼそかった枝、けれど今ゆたかに黄金あわく茂らせる。
ほがらかな花色ふるさと香らせて、ふるさと座る温もりに微笑んだ。
「咲くと春だなって言ってたよな、いつも、」
黄色やわらかな春の光、あの枝ひとつ面影うつる。
いつも咲くたび聴いていた、そのままに兄が微笑んだ。
「一枝とってくるよ、待ちかねてるだろうからさ、」
ぎっ、籐椅子かすかな軋みに兄が立つ。
ニットひろやかな背なか真直ぐで、庭下駄つっかける足に笑いかけた。
「毎年あげてくれてるんだ?」
律儀な兄らしいな?
笑いかけた先、切れ長の瞳おだやかに微笑んだ。
「思い出の花なんだって、よく言ってたろ?」
低い声ゆたかに深く笑う、その口もとこそ記憶が映る。
ほんとうによく似ているな?あらためての想い、仏壇を見た。
「律儀なのも遺伝だね、自慢に思ってるんでしょう?」
黒檀なめらかな陰影、写真ひとつ陽に笑う。
なつかしい遠い笑顔、けれど今、庭先そっくりに花を手折る。
「似てること、兄さんも自慢みたいだよ?」
笑いかけた先、写真の瞳そっと温かい。
ただ懐かしさグラス口つけて、やわらかな芳醇に兄が呼ぶ。
「おまえも庭に降りてみないか?気持ちいいぞ、」
「うん、」
うなずいてグラス掲げて、光ふくよかにガラス弾く。
ゆらめく光ふくよかな琥珀の香、叶えられない希望もたぐりよせて。
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2月12日誕生花レンギョウ連翹
如月十二日、連翹―Childhood memory
琥珀ゆれる、香ひそやかに時うつる。
「このグラス、なつかしいな、」
ほら笑ってくれる、その瞳が懐かしい。
うつりゆく時間の香に微笑んだ。
「憶えてるんだ?兄さんも、」
「忘れられないだろ、」
低い声おだやかに豊かに響く。
この声ただ懐かしくて、記憶に笑いかけた。
「兄さんと話してるとなおさらね?そっくりでさ、」
笑いかけて、ほら瞳やわらかに穏やかに澄む。
あの齢をもう超えた、その歳月おだやかに微笑んだ。
「そんなに似てるか?」
「目じりの皺もね、」
笑いかけてグラス傾けて、兄もグラス口つける。
唇かすかに甘くほろ苦い、時ゆるやかな芳醇に兄が微笑んだ。
「春だな、」
「ん?」
ふりむいた縁側、庭の陽だまり黄色やわらかい。
幼い日かぼそかった枝、けれど今ゆたかに黄金あわく茂らせる。
ほがらかな花色ふるさと香らせて、ふるさと座る温もりに微笑んだ。
「咲くと春だなって言ってたよな、いつも、」
黄色やわらかな春の光、あの枝ひとつ面影うつる。
いつも咲くたび聴いていた、そのままに兄が微笑んだ。
「一枝とってくるよ、待ちかねてるだろうからさ、」
ぎっ、籐椅子かすかな軋みに兄が立つ。
ニットひろやかな背なか真直ぐで、庭下駄つっかける足に笑いかけた。
「毎年あげてくれてるんだ?」
律儀な兄らしいな?
笑いかけた先、切れ長の瞳おだやかに微笑んだ。
「思い出の花なんだって、よく言ってたろ?」
低い声ゆたかに深く笑う、その口もとこそ記憶が映る。
ほんとうによく似ているな?あらためての想い、仏壇を見た。
「律儀なのも遺伝だね、自慢に思ってるんでしょう?」
黒檀なめらかな陰影、写真ひとつ陽に笑う。
なつかしい遠い笑顔、けれど今、庭先そっくりに花を手折る。
「似てること、兄さんも自慢みたいだよ?」
笑いかけた先、写真の瞳そっと温かい。
ただ懐かしさグラス口つけて、やわらかな芳醇に兄が呼ぶ。
「おまえも庭に降りてみないか?気持ちいいぞ、」
「うん、」
うなずいてグラス掲げて、光ふくよかにガラス弾く。
ゆらめく光ふくよかな琥珀の香、叶えられない希望もたぐりよせて。
連翹:レンギョウ、花言葉「期待、希望、集中力、楽しい語らい、遠い記憶、叶えられた希望・豊かな希望」
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