今、あざやかな光彩に

弥生四日、紅鬱金香―glister
あざやかな色、光、あなたがくれた。
「おめでとう、合格だね?」
笑顔の瞳ほころんで、私を映してくれる。
いつも通り澄んできれいで、嬉しくて笑った。
「ありがとう、望くんが勉強いつも見てくれたお蔭だよ。本当にありがとう、」
「ううん…僕じゃなくて、美代さんが頑張りきったからだよ?」
やわらかなテノール微笑んで、掲示板また仰いでくれる。
その隣の横顔あいかわらず穏やかで、けれど輪郭どこかシャープになった。
―男の人なんだな…やさしくて笑顔かわいいけど、
つい見てしまう、だって気づいたから。
しょっちゅう隣にいた少年、ずっと仲良しだったひと、いつも笑顔ずっと見てきた。
それなのに輪郭いつのまにかシャープで、穏やかなくせ凛と惹きつける。
それに気づいて今、何日くらいだろう?
「混んできたね…行く?」
訊かれて瞬いた真中、黒目がちの瞳が笑ってくれる。
ちょっと恥ずかしそう?あいかわらず可愛い隣に肯いた。
「うん、場所ゆずらないとね?」
「ん、」
肯いてくれる笑顔、くせっ毛やわらかに陽が光る。
前髪ゆれる瞳いつもどおり羞んで優しい、そんな隣と歩くキャンパス弾む。
「望くんは研究室、決まったんでしょ?私も同じ講義とれたらいいのに、」
「そうだね…一年生は般教が中心だけど、お願いしたら研究室のお手伝いは出来ると思うよ?」
「やった!お願いしたいな、望くんの友だちも会いたいし。手塚君だよね?」
「僕もね、賢弥は紹介したいって思ってたんだ、」
ふたり歩く道、頭上の梢に紅色あわい。
もうすぐ花が咲くだろう、早春の空ゆく足音ことん、とん、止まった。
「望くん?」
どうしたの?
見つめた真中、色彩ふわり咲いた。
「あの、お祝い…合格おめでとう、」
ブーケひとつ、やわらかなテノールに花こぼれる。
真綿色やさしいクリスマスローズ、匂いやかな純白フリージア、薄紅ぼかしのスイートピー甘く香る。
黄金の花房かわいいミモザは葉のミントグリーン清々しい、青紫やわらかなパンジー、それから赤に白に薄紅あざやかなチューリップたち。
「すてき…ありがとう、」
声こぼれて抱きとめた花、赤に黄金に純白ほころぶ。
受けとめた色彩あまやかな香、幸せの真ん中で君が微笑んだ。
「好きな花だと思って選んだんだ、あと…お店のひとが花言葉で、ね、」
花束けぶる香、テノールやわらかに笑ってくれる。
すこし羞んだ眼ざし嬉しくて、抱きしめる幸せに尋ねた。
「チューリップ大好きよ?ね、花言葉でってどんな?」
どんな意味を込めてくれたの?
この門出の今に送られた花、その意味を君に声で聴きたい。
知りたくて見つめるキャンパス君の瞳ほころぶ、今、抱きしめる花束のむこう。

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3月4日誕生花チューリップ鬱金香

弥生四日、紅鬱金香―glister
あざやかな色、光、あなたがくれた。
「おめでとう、合格だね?」
笑顔の瞳ほころんで、私を映してくれる。
いつも通り澄んできれいで、嬉しくて笑った。
「ありがとう、望くんが勉強いつも見てくれたお蔭だよ。本当にありがとう、」
「ううん…僕じゃなくて、美代さんが頑張りきったからだよ?」
やわらかなテノール微笑んで、掲示板また仰いでくれる。
その隣の横顔あいかわらず穏やかで、けれど輪郭どこかシャープになった。
―男の人なんだな…やさしくて笑顔かわいいけど、
つい見てしまう、だって気づいたから。
しょっちゅう隣にいた少年、ずっと仲良しだったひと、いつも笑顔ずっと見てきた。
それなのに輪郭いつのまにかシャープで、穏やかなくせ凛と惹きつける。
それに気づいて今、何日くらいだろう?
「混んできたね…行く?」
訊かれて瞬いた真中、黒目がちの瞳が笑ってくれる。
ちょっと恥ずかしそう?あいかわらず可愛い隣に肯いた。
「うん、場所ゆずらないとね?」
「ん、」
肯いてくれる笑顔、くせっ毛やわらかに陽が光る。
前髪ゆれる瞳いつもどおり羞んで優しい、そんな隣と歩くキャンパス弾む。
「望くんは研究室、決まったんでしょ?私も同じ講義とれたらいいのに、」
「そうだね…一年生は般教が中心だけど、お願いしたら研究室のお手伝いは出来ると思うよ?」
「やった!お願いしたいな、望くんの友だちも会いたいし。手塚君だよね?」
「僕もね、賢弥は紹介したいって思ってたんだ、」
ふたり歩く道、頭上の梢に紅色あわい。
もうすぐ花が咲くだろう、早春の空ゆく足音ことん、とん、止まった。
「望くん?」
どうしたの?
見つめた真中、色彩ふわり咲いた。
「あの、お祝い…合格おめでとう、」
ブーケひとつ、やわらかなテノールに花こぼれる。
真綿色やさしいクリスマスローズ、匂いやかな純白フリージア、薄紅ぼかしのスイートピー甘く香る。
黄金の花房かわいいミモザは葉のミントグリーン清々しい、青紫やわらかなパンジー、それから赤に白に薄紅あざやかなチューリップたち。
「すてき…ありがとう、」
声こぼれて抱きとめた花、赤に黄金に純白ほころぶ。
受けとめた色彩あまやかな香、幸せの真ん中で君が微笑んだ。
「好きな花だと思って選んだんだ、あと…お店のひとが花言葉で、ね、」
花束けぶる香、テノールやわらかに笑ってくれる。
すこし羞んだ眼ざし嬉しくて、抱きしめる幸せに尋ねた。
「チューリップ大好きよ?ね、花言葉でってどんな?」
どんな意味を込めてくれたの?
この門出の今に送られた花、その意味を君に声で聴きたい。
知りたくて見つめるキャンパス君の瞳ほころぶ、今、抱きしめる花束のむこう。

紅鬱金香:赤いチューリップ、花言葉「美しい瞳、希望・前進、私を信じて・正直、真実の愛、真面目な愛、永遠の愛情、恋の宣言、思いやり、名誉、博愛、崇高」

著作権法より無断利用転載ほか禁じます

紡いで、今

弥生朔日、白木蓮―chastely
窓の花、あれは樹上の蓮。
「これが教授の蔵書です、」
かたん、
開かれた扉くゆる空気、ほの甘い渋い香。
家の書斎と同じ匂いで、確かに居た空間へ息ついた。
「こんなに…祖父のですか?」
零れた声そっと古書が香る。
積まれた書籍たち年代さまざま、けれど保存状態どれも美しい。
小山ひとつ佇むデスク、研究室の後継が笑った。
「こんなにです、どれも大事にしてあるでしょう?先生のお人柄ですよね、」
銀色まじりの髪かきあげて、祖父の愛弟子が微笑む。
どこまでも眼ざし穏やかで、すなおな礼に頭下げた。
「ありがとうございます…葬儀でも素晴らしい弔辞を、ありがとうございました、」
この学者は弔辞を「語って」くれた。
原稿など持たず、肚底から語ってくれたひとは微笑んだ。
「私のほうこそです、君がいてくれて本当に感謝しています、」
いてくれて。
その言葉ひとつ鼓動に響く、だって祖父はもういない。
「…ありがとうございます、」
頭下げて喉せりあげる、目元うっすら熱い。
滲みだす視界うつる床、この木目あのタイル、6ヵ月前はウィングチップが歩いていた。
『前期が終わったね、専攻は少し見えてきたかな?』
夏休みも一緒にここにいた、あの時間が慕わしい。
いつもネクタイ締めていた、ウィングチップ磨いた足元、銀髪やわらかな眼ざし。
『合格おめでとう、これからは教師と生徒にもなるのだね、』
春、たった一年前の笑顔が今はもう遠い。
もう戻ることがない瞬間、かすかな甘い渋い深い空気、祖父であり師であった瞳と声。
「…ぅ」
瞳こぼれて滲んでゆく、祖父が歩いた床きらめいて落ちる。
ずっと続くと思っていた、願っていた、その時間もう戻らない。
「泣いていいんです、今、君は…本を開くのはそれからでいい、」
涙の頭上、バリトンやわらかに温かい。
この声が今日から師になるのなら、芳跡たどれるのなら。

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3月1日誕生花ハクモクレン白木蓮

弥生朔日、白木蓮―chastely
窓の花、あれは樹上の蓮。
「これが教授の蔵書です、」
かたん、
開かれた扉くゆる空気、ほの甘い渋い香。
家の書斎と同じ匂いで、確かに居た空間へ息ついた。
「こんなに…祖父のですか?」
零れた声そっと古書が香る。
積まれた書籍たち年代さまざま、けれど保存状態どれも美しい。
小山ひとつ佇むデスク、研究室の後継が笑った。
「こんなにです、どれも大事にしてあるでしょう?先生のお人柄ですよね、」
銀色まじりの髪かきあげて、祖父の愛弟子が微笑む。
どこまでも眼ざし穏やかで、すなおな礼に頭下げた。
「ありがとうございます…葬儀でも素晴らしい弔辞を、ありがとうございました、」
この学者は弔辞を「語って」くれた。
原稿など持たず、肚底から語ってくれたひとは微笑んだ。
「私のほうこそです、君がいてくれて本当に感謝しています、」
いてくれて。
その言葉ひとつ鼓動に響く、だって祖父はもういない。
「…ありがとうございます、」
頭下げて喉せりあげる、目元うっすら熱い。
滲みだす視界うつる床、この木目あのタイル、6ヵ月前はウィングチップが歩いていた。
『前期が終わったね、専攻は少し見えてきたかな?』
夏休みも一緒にここにいた、あの時間が慕わしい。
いつもネクタイ締めていた、ウィングチップ磨いた足元、銀髪やわらかな眼ざし。
『合格おめでとう、これからは教師と生徒にもなるのだね、』
春、たった一年前の笑顔が今はもう遠い。
もう戻ることがない瞬間、かすかな甘い渋い深い空気、祖父であり師であった瞳と声。
「…ぅ」
瞳こぼれて滲んでゆく、祖父が歩いた床きらめいて落ちる。
ずっと続くと思っていた、願っていた、その時間もう戻らない。
「泣いていいんです、今、君は…本を開くのはそれからでいい、」
涙の頭上、バリトンやわらかに温かい。
この声が今日から師になるのなら、芳跡たどれるのなら。
白木蓮:ハクモクレン、花言葉「高潔な心、自然への愛、恩恵、威厳、崇敬、忍耐、持続性」


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