今日の「お気に入り」は、盛唐の詩人王維(699?-761)の「夜静かにして群動息(や)み」で始まる詩
を一篇。原詩、読み下し文、現代語訳ともに、中野孝次さん(1925-2004)の著書「わたしの唐詩選」(文春文庫)からの引用です。
春夜竹亭贈 春夜 竹亭にて
錢少府歸藍田 銭少府の藍田(らんでん)に帰るに贈る 王維
夜靜群動息 夜静かにして群動息(や)み
時聞隔林犬 時に林を隔てて犬声を聞く
却憶山中時 却って憶う 山中の時
人家澗西遠 人家 澗西(かんせい)に遠かりしを
羨君明發去 羨む 君が明発に去り
采蕨輕軒冕 蕨(わらび)を采(と)って軒冕(けんべん)を軽んずるを
(現代語訳)
夜になってさまざまないきものたちの動きが息(や)み、静かになった。今はときおり林の向うで犬の鳴くのが聞えるだけだ。
こう静かな夜にはかえって終南山にいたときを思いだす。あそこでは人家は澗(たに)の西の方遠く、山々はすべて静まりかえ
っていた。そのことを思うと、あなたが明日の朝発って南山に行き、役人勤めであくせくするのをやめて蕨をとって生きるよ
うな暮しをなさるのが羨しい。