今日の「お気に入り」は、盛唐の詩人王維(699?-761)の「張少府に酬ゆ」という詩一篇。
原詩、読み下し文、現代語訳ともに、中野孝次さん(1925-2004)の著書「わたしの唐詩選」(文春文庫)からの引用です。
晩年惟好靜 晩年は惟(た)だ静を好み
萬事不關心 万事 心に関せず
自顧無長策 自ら顧みて長策なく
空知返舊林 空しく旧林に返るを知る
松風吹解帯 松風 解帯を吹き
山月照弾琴 山月 弾琴を照らす
君問窮通理 君は窮通の理を問う
漁歌入浦深 漁歌 浦に入って深し
(現代語訳)
もはや世事には関心なく、また人に訊ねられたところでこれという策があるわけではない。今はこの山中に住んで、
もうきちんとした宮仕えの服装でなく、気楽な恰好で松林をわたる風に吹かれ、琴を弾くうちに時の経つのを忘れて
山にもう月が上っているのを知る。書を読み琴を弾じ、詩を詠み酒を飲んでたのしむ。こういう暮しが今のわたしに
は気に入っている。君はわたしに経綸のすべてを問うがわたしには答えようがない。漁師の舟が戻ってきたらしく、
浦の奥で彼らのうたう歌がきこえる。