今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。
「『ホモ・モーベンス』という言葉がある。『動く人』というほどのことだそうである。その土地で生れその土地で育ち
その土地で死ぬのは過去の人で、自動車で新幹線でジェット機で出没自在な人が現代の人であり未来の人なのだそうである。
いかにも我々は動いてやまない。海外を旅するといたる所で日本人に会って、まことに人は動く存在かと思われる。
けれどもいくら動いてもあれは短きは四、五日ながくもひと月を越えない。あっというまに行ってあっというまに
帰ってくる。
人には帰巣本能があることは前に言った。いくらかけ回っても帰るべき家があって、そこへ帰ってはじめて枕を高くして
寝られるのである。
人はどれだけの土地がいるかとトルストイは問いかけた。落語では起きて半畳寝て一畳という。食う寝るところ住むところ
という。
食う寝るところ住むところさえあれば人はそんなに動かない存在なのではないか。」
(山本夏彦著「世はいかさま」 新潮社刊 所収)
「『ホモ・モーベンス』という言葉がある。『動く人』というほどのことだそうである。その土地で生れその土地で育ち
その土地で死ぬのは過去の人で、自動車で新幹線でジェット機で出没自在な人が現代の人であり未来の人なのだそうである。
いかにも我々は動いてやまない。海外を旅するといたる所で日本人に会って、まことに人は動く存在かと思われる。
けれどもいくら動いてもあれは短きは四、五日ながくもひと月を越えない。あっというまに行ってあっというまに
帰ってくる。
人には帰巣本能があることは前に言った。いくらかけ回っても帰るべき家があって、そこへ帰ってはじめて枕を高くして
寝られるのである。
人はどれだけの土地がいるかとトルストイは問いかけた。落語では起きて半畳寝て一畳という。食う寝るところ住むところ
という。
食う寝るところ住むところさえあれば人はそんなに動かない存在なのではないか。」
(山本夏彦著「世はいかさま」 新潮社刊 所収)
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