
今日の「お気に入り」は、山本夏彦さんのコラム集(1915-2002)から。
「インテリ男はなぜセクシーじゃないかと塩野七生女史にその新著『男たちへ』(文藝春秋)のなかで言われて、いま男たちは恐慌をきたしている。インテリばかりかそもそも日本の男ぜんぶに魅力がないと、その日本の男の一員である私はかねがね思っている。
以前はこんなじゃなかった。芥川龍之介は夏目漱石の葬式の日に受付に立って、弔問客の一人に神采奕々(えきえき)としてあたりを払う人物がいるので、だれだろうと聞いたら鷗外森林太郎だと教えられたという。
漱石が死んだのは大正五年、鷗外が死んだのは大正十一年だから、このあたりから男らしい男は払底したとみていい。広瀬武夫は漱石と前後して慶応に生れた。広瀬がいかに魅力ある日本男児であったかは島田謹二の『ロシヤにおける広瀬武夫』(朝日新聞社)に詳しい。
〔Ⅴ『インテリ男はセクシーじゃない』平元・3・30〕」
(山本夏彦著「ひとことで言う‐山本夏彦箴言集」新潮社刊 所収)
