今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。
「昔は名だたる文人墨客が死ぬと、そのゆかりの土地に石碑を建てることがあった。いまそれが流行っている。観光の一助にするつもりだろうがみっともない。死ねばたいていの文人は忘れられること芸人と同じである。ガイド嬢が声をからしても知らないのだから関心の持ちようがない。生きているからはやりっ子で、死ねば客は離散すること蚤に似ている。見物また読者ノミ説なら以前私は唱えたことがある。まことにこの世は生きている人の世の中である。
〔Ⅶ『文化はやはり江戸にある』平5・9・16〕」
(山本夏彦著「ひとことで言う‐山本夏彦箴言集」新潮社刊 所収)